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気候変動や人間活動が水文・水環境に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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1.はじめに

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第 5 次評価 報告書(AR5)の第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠) が 2013 年 9 月に公表された.今後,第 2 作業部会報告書(影 響・適応・脆弱性),第 3 作業部会報告書(緩和策)が順 次発表され,2014 年 10 月に統合評価書が公表される予定 となっている.第 4 次評価報告書(AR4)までは,SRES (Special Report on Emissions Scenarios)という温室効果ガ ス排出シナリオが用いられていたのに対して,AR5 では 新たに作成された代表的濃度経路(RCP:Representative Concentration Pathways)シナリオが作成され,これに基づ いて結果が取りまとめられている点が大きな特徴の一つで ある.このシナリオでは,2100 年以降も放射強制力の上 昇が続く「高位参照シナリオ」(RCP8.5),2100 年までにピー クを迎えその後減少する「低位安定化シナリオ」(RCP2.6), これらの間に位置して 2100 年以降に安定化する「高位安 定化シナリオ」(RCP6.0)と「中位安定化シナリオ」(RCP4.5) の 4 つが採用されている(気象庁 2013).  AR5 の内容については,人間活動が温暖化の主な要因 であることを強調する点などは AR4 と同じであるが,海 洋深層で水温が上昇している可能性が高い,二酸化炭素の 累積排出量と世界平均地上気温の上昇量は,ほぼ比例関係 にあるという新見解も報告されている.さらに,ジオエン ジニアリングと呼ばれる,気候変動に対抗するために意図 的に気候システムを変えることを目指した方法についても 言及されており,事態がいかに深刻であるかが伺える.  本報告では,こうした確実に進行しつつある地球温暖化 の影響が極めて大きいと予想される豪雪地帯を流下する石 川県手取川流域を対象として,水文資料,気象データの長 期トレンド解析,最新の気候モデルと水文モデルを利用し た温暖化影響評価を行った研究事例,および,温暖化に伴 う海面上昇,洪水などの影響に対して極めて脆弱なベトナ ム・メコンデルタにおける研究事例について紹介する.

2.温暖化による豪雪地帯の水資源変動

  -石川県手取川流域を事例として-

 手取川は,豪雪地帯で知られる白山(標高 2,702m)に その源を発し,山間部を経て白山市鶴来大国町付近より穀 倉地帯である加賀平野を西流し,白山市湊町付近にて日本 海に注ぐ,幹川流路延長 72km,流域面積 809km2の国内 有数の急流河川である(第 1 図).  まず,河川計画に用いられることの多い,100 年確率降 水量の経年変化を調べた.金沢地方気象台で観測された 1886 ∼ 2013 年(128 年間)の年最大日降水量を抽出し,30 年間を 1 年ずつずらして 99 の小期間に分割してから,小期 間毎に確率分布をあてはめ,100 年確率降水量の経年変化 を算出した(第 2 図).なお,確率分布モデルには,一般化 極値分布(GEV:Generalized Extreme Value distribution)を 採用している.第 2 図を見ると,1940 年前後の 100 年確 率降水量は約 200mm であるのに対して,1990 年前後の 100 年確率降水量は約 270mm となっている.これは,た とえば,河川整備計画を作成した時に 100 年確率であった 豪雨を安全に流下させる河川整備が完了したとしても,整 備が完了した時点では現在の 100 年確率降水量はさらに強

気候変動や人間活動が水文・水環境に及ぼす影響

-手取川流域およびメコンデルタを対象として-

藤原洋一

1)

・佐藤嘉展

2)

・星川圭介

3)

・藤井秀人

4) 1)石川県立大学生物資源環境学部(〒 921−8836 石川県野々市市末松 1−308) 2)愛媛大学農学部(〒 790−8566 愛媛県松山市樽味 3−5−7) 3)富山県立大学工学部(〒 939−0398 富山県射水市黒河 5180) 4)山形大学農学部(〒 997−8555 山形県鶴岡市若葉町 1−23)

要旨:IPCC の第 5 次評価報告書の第 1 作業部会報告書が公表された.これまでの SRES(Special Report on

Emission Scenarios)シナリオに代わって,RCP(Representative Concentration Pathways)という代表的濃度経 路シナリオに沿って結果が取りまとめられている.温暖化の主要な要因は人間活動であることを強調する点 はこれまでと変わりないが,二酸化炭素の累積排出量と平均気温の上昇量はほぼ比例関係にあるという新見 解,ジオエンジニアリングと呼ばれる気候変動に対抗する方法についても述べられている.ここでは,こう した気候変動の影響が大きいと考えられている日本の豪雪地帯における水資源変動予測に関する研究事例, また,海面上昇,洪水などの影響に対して脆弱なベトナム・メコンデルタにおける研究事例について紹介した. キーワード:気候変動,水資源,水文,積雪・融雪,洪水,メコンデルタ 2014 年 2 月 28 日受理 連絡責任者:藤原洋一([email protected]

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烈になっており,また,当時 100 年確率であった豪雨はよ り頻繁に発生することを意味しており,手取川流域の治水 安全度は確実に低下していることになる.なお,1991 年 以降,データが不連続になっているのは,この年に金沢地 方気象台が山地に近い地点から海抜が低い低地に移転した ためである.  また,第 3 図に,手取川中島地点における 1980 ∼ 2009 年までの月平均河川流量の変化を示した.流量データは, 一般的に気象データに較べて観測期間が短いことから,流 量データの長期トレンドを調べることは意外と難しいが, 手取川においては十分な期間のデータを得ることができ た.第 3 図を見ると,過去 30 年間の間でもすでに 1 月と 2 月の河川流量に増加傾向が見られ,4 月から 6 月にかけ ての流量に減少傾向が見られることが分かる.これは,冬 季に積雪として蓄えられていたのが降雨となって流下しや すくなり,さらに,積雪量の減少から春先の融雪水量が減 少傾向であることを意味している.  さらに,将来における流域の水資源量を予測するために, 水平解像度 20km 相当の全球大気モデル MRI-AGCM3.2S (A1B シナリオ)の 21 世紀末気候実験(2075 ∼ 2099 年) と現在気候実験(1979 ∼ 2003 年)を利用して,両者を比 較した.その結果,降水量には顕著な変化は見られないが, 気温が約 3℃上昇すると 12 月から 3 月にかけての平均気 温が氷点下を上回る期間が増加するため,冬季の降雨量が 増加し,それに伴って降雪量が減少する結果となっていた. さらに,蒸発散量については,気温の上昇に伴い増加する ことが示唆された.  次いで,MRI-AGCM3.2S(A1B シナリオ)の出力値をイ ンプットとして,分布型流出モデル(Hydro-BEAM)によ るシミュレーションを行った.その結果,中島地点の河川 流量は,12 ∼ 3 月にかけて増加する一方,4 ∼ 6 月は減少 し,年間の流量変化幅が現在よりかなり小さくなるという 結果が得られた.さらに,現在の水利権水量と将来予測流 量を比較したところ,春先の代かき期において河川流量が 第 1 図 手取川流域の概要. 第 2 図 金沢における 100 年確率降水量の変化. 第 3 図 手取川中島地点における月平均流量の推移

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水利権水量を下回る可能性が示唆された(Sato et al., 2013).  もちろん,こうした将来予測には大きな不確実性が含ま れており,解析に利用した分布型流出モデルに関していえ ば,観測の困難な山岳地帯における積雪融雪のシミュレー ションは十分に検証できていないことから,標高の高い山 岳地帯における積雪量のデータも蓄積しながらモデルの精 度の向上に努めている(藤原ら 2014).また,いくらモデ ルの精度が向上したとしても将来を完全に予測することは 不可能であるから,予測が満足できるまで高精度になるの を待つのではなく,こうしたシミュレーションでどの様な 問題が起こりうるのかをある程度想定しておいて,今後ど の様に対応していくのかを関係者間で検討を開始すべき時 に来ているといえよう.

3. ベトナム・メコンデルタにおける土地利用変化

が水環境に及ぼす影響

 南アジアや東南アジアの人口が稠密なメガデルタでは海 面上昇と河川の洪水によって,最大のリスクに直面するこ とが懸念されている.とくに,ベトナムの米生産を支える 一大稲作地帯であるメコンデルタも温暖化の影響を最も大 きく受けると考えられている.カンボジアとの国境付近の メコンデルタの洪水常襲地帯においては,1970 年くらい までは浮稲 1 作が中心であったが,その後の大規模な排水 改良事業などによって乾季 2 期作へと変化した.さらに, 雨期中盤からの洪水の氾濫水が灌漑農地に流入しないよう に水田を完全に囲む輪中堤防(以下,「フルダイク」と呼ぶ) が建設され,3 期作へと急速に変化しつつある(藤井ら 2013,藤原ら 2013).通常であれば水田には洪水が流れ込 み,洪水を一時的に貯留する氾濫原の機能を有していたの に対して,フルダイク化が進行することによって,行き場 を失った氾濫水が下流や周辺の洪水を悪化させている可能 性がある.  フルダイク水田(3 期作)および 2 期作水田の面積を算定 するために,MODIS/Terra のプロダクトである MOD13Q1 の NDVI(空間解像度:250m,時間解像度:16 日)を利 用した.作付けパターンは,3 期作の 1 作目:12 ∼ 3 月, 2 作目:4 月∼ 7 月,3 作目:8 ∼ 11 月となっており,2 期作の場合は 3 期作目が洪水氾濫になるため作付けは行わ れない.よって,NDVI の季節変化に着目して,NDVI 値 のピークが 3 つあるエリアはフルダイク水田,ピークが 2 つの場合は 2 期作水田として分類することができる.  第 5 図に 2 期作,3 期作水田の分類結果を示す.なお, 図中で黒色が堤防によって囲まれたフルダイクエリアを表 している.その結果,カンボジアとの国境に近いアンジャ ン省およびドンタップ省において急速にフルダイク化が進 行していることが分かった.さらに,水田が氾濫原として の機能を果たしている 5 つの省(アンジャン省,カントー 省,ドンタップ省,キエンジャン省)において,氾濫量を 2 期作面積(m2)× 2m の氾濫水深として推定したところ, フルダイクがあまりなかった 2000 年と比較して 2012 年で は 106 億 m3減少していた.これは,洪水緩和機能が 106 億 m3失われたことを意味しており,この量はメコン河の 洪水期流量の約 5%に相当する.  なお,現在,河川水位を上昇させる要因として,ここで 第 4 図  デルタ内における水路と堤防.左:従来の高 さの堤防,右:フルダイク. 第 5 図  メコンデルタの土地利用図.黒色:フルダイク エリア. (a)2000 年 (b)2011 年

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注目しているフルダイク化の進展による洪水緩和機能の減 少以外に,海面上昇,地盤沈下にも着目しており,河川の 水位上昇に対してこれら 3 つの要因がそれぞれどの程度寄 与しているのかを詳細に検討しているところである.この ように,ベトナム・メコンデルタでは,気候変動だけでな く,人為的な影響によっても水文環境に変化が及ぶ場合が あり,問題はかなり複雑である.

4.おわりに

 最近公表された IPCC の第 5 次評価報告書(AR5)の第 1 作業部会報告書の特徴,温暖化の影響が大きいと考えら れている日本の豪雪地帯における水資源変動予測研究,ベ トナム・メコンデルタにおける研究事例について紹介した. 本論で述べたように,AR5 からは SRES シナリオに代わり RCP と呼ばれる濃度経路シナリオとなっている.この RCP に準拠したデータについては,全球スケールについては第 5 期結合モデル相互比較計画(CMIP5)に提出されたシミュ レーション結果を利用することが可能であるが,日本領域 にダウンスケーリングされたデータの入手は現時点では難 しい.しかし,日本領域にダウンスケーリングされ,よく 利用されてきた気象庁の温暖化予測情報は現時点では SRES に沿ったものであるが,今後は,RCP シナリオによ るデータが配布され研究に活用されていくと思われる.  なお,気候モデルが発展し,影響評価に用いるモデルの 精度が向上してきたとはいえ,これらのシミュレーション 結果を直接利用して将来の河川計画を行うことは難しい. また,予測精度が完璧になるまで待つことでは,時すでに 遅しとなってしまうであろう.そこで,気候の極端現象と 適応に関する特別報告書(SREX)(IPCC 2012)で「後悔 しない対策」と呼ばれる,現在の気候と将来の気候変動シ ナリオ下で便益をもたらす対策は予想される変化に対する 取り組みの有効な出発点と考え,現在気候でも有効な対応 策の適用性を検証しつつ少しずつ実行に移していくことが 適応の幅を広げるものと考えられる.  また,ベトナム・メコンデルタでは,本論中では述べな かったが,乾季の塩水遡上も顕在化しつつある.さらに, 人為的な堤防の影響,海面上昇,地盤沈下などによる河川 水位の上昇は農地の排水不良を引き起こし,栽培体系の見 直しも迫られることになろう.このような事態に対する有 効な対応策を検討するには,分野の垣根を越えた学際的な 研究が重要になってくると考える.

謝  辞

 本研究は,気候変動リスク情報創生プログラム,科学研 究費補助金「メコンデルタ高洪水稲作地域における気候変 動に向けたダイクシステムの再構築」による補助を受けた. また,図の一部は,石川県奥能登農林総合事務所土地改良 部整備課・能登史和氏に提供していただいた.

引用文献

藤原洋一・星川圭介・ファム ズン ビエット(2013)ベト ナム・メコンデルタにおけるフルダイク化とその影響に 関する調査研究.農業農村工学会誌 81(9):737−738. 藤原洋一・菊池拓也・小倉 晃・高瀬恵次(2014)小型温 度データロガーを利用した水文観測の試み−湛水位およ び積雪深の観測−.応用水文 26(印刷中). 藤井秀人・藤原洋一・星川圭介(2013)メコンデルタ洪水 常襲稲作地域におけるフルダイク化の進展とその影響. 農業農村工学会論文集 285:67−74.

IPCC (2012) Managing the Risks of Extreme Events and Disasters to Advance Climate Change Adaptation. A Special Report of Working Groups I and II of the Intergovernmental Panel on Climate Change, Cambridge University Press, Cambridge, UK, and New York, NY, USA.

気象庁(2013)IPCC 第 5 次評価報告書 第 1 作業部会報 告書 政策決定者向け要約(暫定訳),43−44.

Sato, Y., Honma, M., Suzuki, Y., Tanaka, K., and Nakakita, E. (2013) Assessment of climate change impact on river discharge in cold and mountainous region in Japan, Cold and Mountain, Region Hydrological Systems Under Climate Change: Towards Improved Projections Proceedings of H02, IAHS-IAPSO-IASPEI Assembly (IAHS Publ. 360: 125−130).

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Effects of Climate Change and Human Activity on Hydrology and Water Environments:

A case study in Tedori River and Mekong Delta

Yoichi Fujihara1), Yoshinobu Sato2), Kieisuke Hoshikawa3) and Hideto Fujii4) 1)Faculty of Bioresources and Environmental Sciences, Ishikawa Prefectural University

(308, Suematsu 1, Nonoichi, Ishikawa 921−8836)

2)Faculty of Agriculture, Ehime University(3−5−7, Tarumi, Matsuyama, Ehime 790−8566)

3)Faculty of Engineering, Toyama Prefectural University(5180, Kurokawa, Imizu, Toyama 939−0398) 4)Faculty of Agriculture, Yamagata University(1−23, Wakaba-machi, Tsuruoka, Yamagata 997−8555)

Summary: The contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change (AR5) is discussed in this study. Representative Concentration Pathways (RCP) scenarios are used rather than Special Report on Emission Scenarios (SRES) in the AR5. In this report, it is stated that human influence likely has been the dominant factor in observed global warming since the mid-20th century. Although this evidence is the same as that previously reported, new opinions are also offered. For example, cumulative CO2 emissions are expected to largely determine global

mean surface warming by the late 21st century, and geoengineering methods that aim to deliberately alter the climate system may counter climate change. In this study, we introduce a water resource change projection study in a heavy-snow region where the climate change impacts are significant, and an impact evaluation study in the Mekong Delta, which is highly susceptible to rising sea levels and flooding.

Key words: Climate Change, Water resources, Hydrology, Snow, Flood, Mekong Delta

Journal of Crop Research 59 : 49 − 53(2014) Correspondence : Yoichi Fujihara([email protected]

参照

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