気候変動とアメリカ連邦憲法
著者 ファーバー, ダニエル・A, 阿部 満, 辻 雄一郎
雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal
巻 97
ページ 139‑157
発行年 2014‑08‑31
その他のタイトル Climate Change and American Constitutional Law
URL http://hdl.handle.net/10723/1982
気候変動とアメリカ連邦憲法
ダニエル・ A ・ファーバー
(1)阿部 満・辻 雄一郎(共訳)
本稿の主題は,気候変動の引き起こした米国政府に対する挑戦である。現在 まで,制度として機能していた連邦政府の一部門が政策の変動で崩壊した。現 在まで,米国政府でもっとも機能していない機関は連邦議会なのは明らかであ る。統治機構のうち,議会以外の他のすべての機関が,それをよいことと認め るか認めないかわかれるところではあるが,政策を決定し,通常の業務を執行 できていることが連邦議会への大きな挑戦になっているように思われる。
この議会の崩壊は,次の理由から主な問題である。国家の政策決定が連邦議 会から大統領,行政機関の執行そして司法の監督と執行にうつったからである。
米国連邦憲法第一篇によれば,連邦の立法権限は連邦議会に付与されている。
しかし,連邦議会が本権限を行使して,緊喫の社会的問題をあつかうことがで きない場合,どうなるのであろうか。
議会の不作為によって生じた穴を政府の他の部門がどのように埋めるように 努力してきたか,を気候変動は例証している。この例を用いて,本稿では裁判 所,大統領,そして州政府が気候変動をあつかうためにどのように創造的に行 動してきたか,を議論する。これらの他の政府機関が連邦議会の支援なくして 行動せざるをえなくなった場合に生じうる憲法上の問題も分析するだろう。
第一部は,主題を直接あつかう連邦議会の重要な立法の助けのないまま,気 候変動を実際にどのように連邦政府があつかってきたのかを議論する。第二部 では,気候変動を州政府がどのように扱いはじめたか,を示す。この二つの事 例では,連邦議会が効果的に機能しなかったために,他の政府機関は自らの法
的権限の限界を探求せざるをえなくなった。第三部では,米国憲法制度にとっ て気候変動の話題が広く意味するところを検討する。連邦議会がなくても,米 国は前進することはできるのだけれども,ひとつには憲法上の問題ゆえに,議 会の達成するはずのことを実行できるかというとそのすべてを実現できないの である。
この点において,米国連邦議会が主な二つの政党の間の衝突ゆえにこの先ど れだけ長く麻痺し続けるのか不明瞭である。これは短期的な問題かもしれない。
もしそうであるならば,連邦議会が気候変動をあつかう立法を制定し,あるい は,上院が気候変動条約に批准した場合,本稿で議論される問題は幾分重要性 が失われる。しかしながら,連邦議会が麻痺から回復する兆候はない。もし米 国の政治が高度に二極化したまま,どの政党も支配的な立場を確立することが できなければ,連邦議会は長期間,不活発化しつづけるだろう。もしそうであ れば,本稿で議論される問題の重要性は一層増すであろう。
I.連邦法 欠いた連邦政府の気候変動政策
気候変動について行動を起こせない米国について一般的な思い違いがある が,連邦政府は実際には本争点を活発にあつかってきている。しかし,公式の 立法や条約という伝統的な経路を通じていないために,米国の気候変動政策は 回避されている,と認識されているかもしれない。
本節では,EPA(Environmental Protection Agency)が炭素放出をどのように規 制しはじめ,通常の条約の仕組みを通さずにどのように大統領が気候変動の協 定に入ることができるのか,を示す。
A. 温暖化効果ガスの連邦規制
気候変動は,全世界が直面する主要な問題である。そして多くの民主主義国
家では,この点について国内法を整備し,京都議定書のような国際条約に向け て動くことを我々は期待しているだろう。米国連邦政府は温室効果ガスの規制 を始めたけれども,それは直接的な経路を通じてではなかった。その理由は,
規制政策を策定する通常の経路が議会の閉塞によって阻まれたからである。代 わりに,気候対策を支持する者は,まず裁判所にむかわざるをえず,次に,一 般的な汚染に関する法律を用いる執行機関の規制に頼らざるを得なくなった,
米国連邦最高裁は,2007 年のMassachusetts v. EPA(2)で気候変動について初 めて判断した。本件を理解するためにはいくつかの背景が必要となる(3)。連邦 の大気汚染法である大気浄化法は,自動車から発生し,人間の健康や福祉を脅 かす可能性のある自動車から発生する「大気汚染物質」も規制するよう政府に 求めていた。地球温暖化ガスは本法の意味する「汚染物質」には該当しないの だから,本法に従って温室効果ガスを制限する権限を保有しないと連邦政府は 主張した。マサチューセッツ州や他の原告は,連邦政府に自動車の排気ガスを 規制するように求めた。
思うに,州は,自動車から排出される温室効果ガスの規制を大気清浄法の構 造の中に適合させるのが容易であるため,自動車排気ガスを最初の標的として 選んだのだろう。
連邦最高裁は,まず原告は本件を提起する原告適格を有すると判断しなけれ ばならなかった。米国では,原告適格は,被告の行為によって生じうる(さか のぼりうる)行為によって,個別具体的な損害が原告に発生し,裁判所に救済 可能であることが必要とする。気候変動の原因と効果は地球規模であり,これ が厄介な争点となったのは驚くべきことではない。なぜなら地球温暖化の影響 は,純粋には個人の影響とは対極にあるかもしれないからである。それでもや はり,連邦最高裁は原告に本件を提起する原告適格を認めた。
原告適格の第一の要件である原告に対する損害を議論するにあたり,連邦最 高裁は,「気候変動と関連する害悪は深刻であり,よく認識されている(4)」と
述べた。気候変動の危険を公式に認めることは特筆すべきであった。ブッシュ 政権は,気候変動規制に対して消極的な姿勢をとり続けてきたからである。
原告適格の第二の要件である因果関係について,EPAは,「人の生みだした温 室効果ガスと地球の温暖化との間の因果関係の存在を争っていなかった(5)。」 米国の自動車の排気ガス規制はそれ自体で地球の温暖化に大きな影響を決して 及ぼしていないとEPAは主張した。しかし,小さな一歩によって,その歩み が進むことが通常であり,政府が当該措置を今こそ執らなければ,それを争う 原告適格が被告に認められる,と判断した(6)。
連邦最高裁は,全体としての温室効果ガスと比べると,自動車からの温室効 果ガスの量が微々たるものであるけれども,司法の救済は重要な意味をもつと し,「自動車の排気ガスを規制することはそれ自体,地球の温暖化を逆行させ ないことはおそらくそのとおりかもしれない一方で,EPAがその進行の速度 を下げ,減少する義務を負っているかどうか,について我々が裁判管轄を有し ないとは決して言えない(7)」と結論づけた。
連邦裁判所の原告適格についての判断は,連邦政府の気候変動訴訟の扉を開 くという直接的な意味だけではなく,気候変動の争点について注目した,とい う点で重要な意味をもつ。連邦最高裁の原告適格の判断を要約すれば,スティー ブンズ裁判官は,マサチューセッツ州に原告適格を認める理由として,「海面 の上昇がすでにマサチューセッツ州に損害を与え,そして将来も損害を与える だろう」,「災害的な害悪のリスクが直近ではないけれども現実に存在」し,そ のリスクが「もし主張する救済を申立人が受けられた場合,一定程度減少する だろう」からである,と述べた(8)。
原告適格の点で,裁判所は次のように結論づけた。
要約すれば,申立人の争いのない宣誓供述書によれば,地球温暖化と関連 する海面上昇は,すでに害悪を発生させており,これからも少なくともマサ チューセッツ州に害悪を発生させつづけるだろう。災害的な害悪のリスク
は,直近ではないが現に存在しており,実際に起こり得る。申立人が求める 救済を受けられた場合,一定程度,そのリスクは減少するだろう。したがっ て,我々は,規則制定の申立てを否定したEPAの決定を争う原告適格を申 立人に認めることができる,と判断した(9)。
原告適格の争点を判断したのち,要約すると,連邦最高裁によれば,EPA は大気浄化法の適用を誤っている,そして,本法の求める基準を満たす地球温 暖化ガスが規制のきっかけとなるかどうかを判断する義務をEPAは負う。す なわち,これらの排気ガスが人間の健康や福祉に影響を及ぼすかどうかである。
この連邦最高裁の判断に応じてEPAは,最終的に,温暖効果ガスが人間の健 康や安全を脅かすと公式に判断した(10)。もちろん,ブッシュ大統領がその職を 退いたあとにEPAは判断したのだけれども。それまでホワイトハウスはEPA の事実認定を妨害してきた。したがって,州政府と民間団体が訴訟を提起した からこそ,連邦政府は自ら炭素放出を規制するための道筋をつけたのである。
EPAは,現在,この事実認定にもとづいて,温室効果ガスを減少させる規 制を展開してきた(11)。自動車の規制は比較的,正面からあつかった。しかし,
発電所のような固定源の規制を制定するには,法律上の幾つかのやっかいな問 題と関連した。幾つかは,もうひとつの気候変動に関する一連の事件として,
連邦最高裁の前に登場した。しかしながら,特筆すべきは,気候変動の現実に 反対する保守的な主張があるにもかかわらず,気候変動が人間の健康と福祉に 影響をおよぼすというEPAの事実認定を審理する機会をもたなかったことで ある。
もう一点,この最近の訴訟において特筆すべき争点がある。連邦最高裁が審 理しないという選択をしたことである。綱領を管理可能にしておくために,
EPAは,制定法上,適用範囲内となるだろう莫大な数の小規模発生源を適用 除外とした。本法の文言はこれらの小規模発生源を含んでいるため,この適用 除外は重要な法的争点を惹起した。
この適用除外(tailoring rule設定ルール)は,関係事業やテキサス州によって 争われた。彼らは,主要な発生源を適用範囲とすることに反対しており,小規 模発生源の適用除外が消滅すれば,大規模発生源も同様に間接的に適用免除に なるだろう,と信じている。適用除外がなければ規制枠組み全体が崩壊し,大 規模発生源も無規制の状態にしてしまう,と彼らは信じている。ワシントン D.C.連邦裁判所は,本規制は,彼らに対する規制の負担を増加させるよりも 減少させているのだから原告適格を認められないと判断した(12)。したがって,
環境訴訟を擁護する人々と同様に,関係事業にも原告適格が認められるか,が 問題となりえる。連邦最高裁は本件の他の部分について審理することを認めた が,原告適格については判断していない。
B. 公式の条 欠如し い 場合の国際協力
大統領はEPAの規制権限を利用することに加え,他国政府との協定を結ん だ。たとえば,五大湖に対する気候変動の影響や他の問題に取り組むために,
米国とカナダは,最近,カナダ・米国五大湖水質協定(Great Lake Water Quality
Agreement)を修正する協定に入った(13)。この種の問題に大統領が自ら取り組
むという程度によっては,憲法上,やっかいな問題を提起しうる。二百年以上 経っても,外国国家との協定が米国の国内法として有効といえるためには上院 の承認(批准)が必要となるかどうか,は不明瞭である。
連邦憲法第二編は,条約は上院の助言と承認によって締結できると述べてい る(14)。それでもやはり上院の批准を欠いた行政協定は現在では,「米国におい て国際的な法形成の主要な道具(15)」である。実際に,一九八〇年から二〇〇〇 年の間だけで,全種で三千以上の条約の形式をとらない協定(16)が存在し,その うちの十から二十パーセントが議会の承認が存在しない,外国政府と大統領と の間の単なる合意であった(17)。ありふれた問題をあつかっただけの大統領によ る協定もあれば,アメリカ軍の撤退に適用されるイラクとの協定のような重要
なものも存在していた(18)。
大統領は,たとえば,外国政府を外交上の国家として承認する場合のように,
憲法上,排他的権限を行使できる分野では,拘束的効果を有する協定を締結す ることができる。しかし,この狭い分野をこえて,条約の締結を要求する事柄 と行政協定で足りる事柄との間の区別については意見の一致がない(19)。一般的 に,連邦と州の主権への影響,そして国際的組織や国際裁判所に与えられた権 限の程度といった協定の範囲や対象の重要性が大きな要素である(20)。米国国務 省は,単なる行政協定を利用できる場合の八つの要件を列挙している。これに は,過去の類似の協定での米国の慣習,時間的配慮,国内への影響,州法への 影響,執行にあたっての議会の関与などが含まれる(21)。しかし,これらの要素 は必ずしも同一方向上に示されるものではないため,個々の協定がどのように 分類されるべきなのか,について不確かである。
大統領が,気候変動について拘束力のある片務的な行政協定を締結できる程 度については明らかではない。実際問題として,京都議定書に類する多大なる 努力があっても,その効果を発生させるためには,連邦議会が執行する法律を 制定しなければならないのは明らかである(22)。したがって,実際問題として,
議会の支持なくして大統領の行為だけで達成したいと望めるものには限界があ る。他方,片務的な取り組みも控え目であればあるほど有効となり,有益とな るのも当然であろう(23)。
EPAは,大気浄化法の枠内で動かなければならず,本法は都市の大気汚染 の問題を主にあつかっている。気候変動を直接あつかう議会法を制定する方が 優れているだろう。上院の承認を得て気候変動に関する公式の条約を交渉する 方がよいだろう。あるいは,議会の両院の多数派の支持を得て締結される協定
(国際貿易協定で利用される手続)の方がすくなくともよいだろう。しかし,こ れらの経路は現在,封鎖されている。したがって,法的拘束力を欠くか,ある いは議会の関与なく執行可能な行政協定を含めた同意への道に頼らなければな
らない。
II.地球規模の政策問題 州 のように取 組 い
気候変動は地球規模の問題であり,国内法や国際交渉を通じて,もっとも大 きな地理的規模で政策が決定されるように期待されるかもしれない。おそらく 驚くべきことに(24),気候変動の分野において連邦政府と比べると米国の州政府 は積極的であった(25)。二〇〇六年までに,すべての州は,再生可能エネルギー を促進するか,あるいは気候変動をあつかう類の措置をとった(26)。たとえば,
カリフォルニア州のキャップ・アンド・トレード・プログラムは,温室効果ガ スを減少させる州規模の上限を設定し(27),およそ六百の産業施設を適用範囲と した(28)。しかし,キャンプアンドトレードはカリフォルニアに特有のものでは ない。北東部地域温室効果ガス削減イニシアティブ(RGGI)(29)は,複数州にま たがる発電施設の排出のために取引制度を創設し,二〇一九年までに十パーセ ントの削減達成を目標としている(30)。
本稿は,カリフォルニア州の立法に焦点を絞っていく。二〇〇六年にアーノ ルド・シュワルツネッガー知事は,州の気候政策の最もピークとなる法律に署 名した。二〇〇六年カリフォルニア州地球温暖化解決法,あるいはAB32 とし ても知られている(31)。AB32 は,温室効果ガスの排出に拘束力のある目標を設 定し,カリフォルニア州に二〇二〇年までに一九九〇年の水準に減少させるこ と,二〇五〇年までにさらに削減を加速させることを求めている(32)。本法は世 界で注目され,イギリスの首相も言及し,その署名は「世界すべてにとって歴 史的な日(33)」にもなると述べた。イギリス首相とカリフォルニア州知事は,市 場を基準とした制度について最も効率の良い方法を共有し,新しい技術を調査 し,協力する行政協定を締結した。同様の協定は,現在カリフォルニア州とオー ストラリアやカナダの州や管区との間にも存在している(34)。
この節では,この州法と関連する憲法上の問題の三つの点に注目する。最初 の争点は,州の努力を調整するためのRGGIのような協定と関連する。これは,
議会の承認と一定の条件のもとで認められる。第二の点は,米国内での商品や サービスの自由な流通を保護しているドーマント・コマース(休眠州際通商)
条項と関連する。第三の点は,国際法の目的では単一の主権は連邦政府である ため,州政府の国際的な役割の限界と関連する。
A. 州際協定 協定条項
温室効果ガスの取引制度のようなRGGIのような州間の同意は,他の政府と の間の協定に加入する場合,州の権限を制約する締結条項(compact clause)と 関連する。したがって,最初の問題は,RGGIのような行政協定について締結 条項に照らして議会の同意が必要とされるかどうか,という問いかけと関連す る。本条項は,他州や外国の管轄にある州との間の協力をどの程度禁止してい るのか。たとえば,RGGIのような,排出権取引の共同設計や実施については どうか。
締結条項の文言は広範である。「州は,連邦議会の同意なしに,トン税を課し,
平時に軍隊または軍艦を保持し,他州もしくは 外国と協定もしくは契約を締 結し,または,現に侵略を受けもしくは一刻の猶予も許さないほど危険が切迫 しているときを除き,戦争行為をしてはならない」と述べている(35)。しかしな がら,連邦最高裁は,本条項を狭く解釈してきた。最高裁は,本項は州のすべ ての協定を禁止するものではなく,「州の政治的権力を増大させるおそれのあ る連合の形成で,これによって合衆国政府の優位性を侵害ないし妨害するもの へと導くもの(36)」だけを禁止すると解釈している。
この根拠にのっとって,連邦最高裁は,個々の州が租税政策を展開するため に形成され,構成員となった各州が個別に採択するという複数の州にまたがっ た租税委員会を認めた(37)。構成員となる州内の裁判所であれば,どの裁判所の
償還令状を用いても監査本委員会を実施することができる。これには,複数の 国家にまたがる企業(多国籍企業)の会計検査(監査)も含まれる。
連邦最高裁は同様の基準をNortheast Bancorp, Inc. v. Bd. Of Governors of the Federal Res. Sys.で(38)適用した。各州は,同じ州法を成立させることに同 意した。州公務員は,他州の銀行が当該地方銀行を買収する行為を承認する時 期について非公式であるが同意した。連邦最高裁は次の点が重要であると考え た。第一に,いかなる共同の規制機関も設立されておらず,第二に,他の州法 とかかわりなく,それぞれの州法が制定されると規定され,第三に,州は,法 的に拘束されないということである。連邦最高裁は,議会の同意を必要とする 締結条項に当該同意は該当しない(39)。本法は,「他州を犠牲にしたり,連邦の 構造に影響を与えたりしてニューイングランドの各州の政治的権限を強化して いない(40)。」締結条項は,他州の間の同意と他国との同意とを区別しておらず,
Northeast Bancorp判決の理由づけはこの二つの事例の両方に適用されるだろう。
取引制度を設計するにあたって,各州はこれらの指針に慎重に従った。
RGGI,北東の州の取引制度は,州政府の二年にわたる交渉の所産である。州 知事は,非公式の合意を締結し,個々の州が採択する模範となるルールを最終 的に形成させた。その後,州は個別に模範ルールを基礎に規制を制定した。各 州は,政府機関として拘束力のある協定を結ばずに,複数の州にまたがる組織 に規制権限を委譲することもしなかった。これらのすべては,複数の州にまた がる租税委員会や銀行買収についての同意を支持する連邦最高裁の判断に沿う ものである。
B. 気候の規制 休眠州際通商条項
二つ目の争点は,休眠州際通商条項と関連し,特筆すべきカリフォルニア州 の規制によって例証されうる。カリフォルニア州は,低炭素燃料基準とよばれ る規制をもっており,燃料のライフサイクル全体からみて二酸化炭素を放出す
る燃料を規制している。燃焼時だけではなく,燃料が生産されたり,市場に運 搬されたりする場合に発生する二酸化炭素も含まれる。問題は,これらの活動 の多くがカリフォルニア州の外部で行われていることである。たとえば,カリ フォルニア州で販売されるバイオ燃料の多くが,米国中西部で栽培されるトウ モロコシから生産される。バイオ燃料を生産することで生じる二酸化炭素は,
ひとつには地理に左右される。たとえば,運搬で発生する排出量は距離によっ て異なるため,カリフォルニア州の市場への距離が遠いほど,排出も増加する ことになる。
中西部の生産者は,州際通商の妨害を州に対して禁止している休眠州際通商 条項にのっとって,二つの主張を示した。第一に,カリフォルニア州の制度は,
市場への距離に左右される以上,他州の発生源を差別していると主張した。第 二に,カリフォルニア州の外部で排出されているのだから,実際には,カリフォ ルニア州は他州の二酸化炭素の発生を規制しようとしているので管轄外であ る,と主張した。州の規制が差別的である,あるいは管轄外の規制であると裁 判所が結論づけた場合,当該規制は違憲と確実に宣言されるだろう。これらの 主張に対して,カリフォルニア州は,客観的で中立的な科学的手法として「ラ イフサイクル分析」を州内で販売される燃料に適用すべきであると主張した。
カリフォルニア州は,たとえ排出が州外で発生した場合であっても,すべての 生産者を同等の手法であつかっており,カリフォルニア州で販売される製品と 関連する排出について正統であるという。
連邦控訴第九裁判所は,最近,Rocky Mountain Farmers Union v. Corey判決(41)
で,カリフォルニア州の基準を支持した。ライフサイクル分析の利用は気候変 動規制にとって必要である,という主張を受け入れ,本基準が差別的であると いう主張を退けた。
大気からみれば,エタノール工場の電力源と関連する排出と,ある工場の熱 エネルギーの源という点で重要性はそれほど変わらない。我々が,もしエタノー
ルの発生経路の実際の違いを無視すれば,本件で問題となる規制が本当の意味 の害悪の脅威に対応しているか,あるいは,エタノールの発生経路は,州の外 での事情に対応しているに過ぎないのか,どちらなのかを理解できない。同じ ような立場に位置づけられる諸燃料を燃料基準が同等にあつかっているかどう かの決定にとって,炭素の激しさ(二酸化炭素濃度)に影響を与えるすべての要 素は,不可欠である(42)。
裁判所は,規制が管轄外規制に至っているという主張を退けた。カリフォル ニア州の燃料基準は,「カリフォルニア州で生産,販売,利用されるエタノー ルのすべてについて何も述べておらず,エタノールがカリフォルニア州で販売 される前に,カリフォルニア州以外の管轄で互恵的な基準が採用されることを 求めていない。他州に比べてカリフォルニア州でのエタノール価格が低くなる ように確保する努力をしておらず,完全に州の外で締結され,カリフォルニア 州の基準に適合しない取引に対してなんら民事あるいは刑事責任を課していな い(43)。」環境上,持続可能になるように他州の生産者を動機づけているけれど も,強制はしておらず,したがって管轄外にも該当しない(44)。
しかしながら,この争点が最終的に連邦最高裁に到達するだろう可能性は残 されている。連邦控訴第九巡回裁判所の反対意見を執筆した裁判官は,本件規 制は差別的であり,州が同じ結果をバイオ燃料生産者の位置を区別することな く達成することが可能であったと述べている。むしろ州は,それぞれの生産者 の関連する二酸化炭素を個別に評価すべきだったのにしなかったという。連邦 最高裁の裁判官の数名はこの立場に同調するかもしれない。
たとえ地理的に異なる発生源を区別したり,州の外での案件に州が関与した りすることが要請される場合であっても,気候変動は生産から運搬までの間の 条件を,州が考慮してもかまわないという珍しく強い事件を提示している。州 の外で製品が生産されることで労働者や水質汚染に対する危険と類する他の害 悪が発生する場合,最終的に製品の販売される場所には何ら影響を及ぼさない。
しかしながら,州内で販売される製品の生産や運搬によって二酸化炭素一トン が排出され,その製品のライフサイクル上,排出がどの場所で起きようとも,
州に対する影響は変わらない。さらに,温暖化ガスの排出は現実であり,書面 に示すことも容易な事象である。これらの事実は,ライフサイクル分析の利用 の根拠を提供し,他の文脈では疑わしいと思われてしまう規制の形態に合理性 をうみだすかもしれない。
製品の消費と実際に関連しない要素に対置する生産と利用のうちどの側面 が,製品間の現実の違いと関連するのかは当然,明らかではない。製品の生産 方法についての妥当,不当の基準の境界を定めるにあたって,裁判所は差別禁 止の原則の目的を心にとどめなければならない。差別はいくつかの理由でやっ かいな問題である。他の州の政府との間の摩擦が増加する可能性があり,規制 に反対する州内の生産者の抵抗は減少するという可能性がある。そして,州の 現実の利益が,経済的な保護主義なのかもしれない点を提示する。しかしなが ら,生産過程における二酸化炭素の排出を基準とした製品の規制が,これらの 問題を惹起する可能性は薄い。その理由は,問題となる製品の生産場所がどこ であろうとも,製品内の二酸化炭素量をあつかう普遍的な方法論をこの措置が 用いているからである。
C. 外国政府 州の協働
カリフォルニア州のAB32 の実施は,外国政府と州政府の協働という争点に ついて有益な例を提供している。最近,カリフォルニア州は,ケベックの規制 権限機関と排出取引で連携する協定にはいった。いいかえれば,カリフォルニ ア州の排出許可枠は,ケベック州の誰にでも販売されることができるし,ケベッ クの要件を満足するように利用することができる。またその逆もしかりである。
この背景で外交問題優先の法理が問題となってくる。これは,カリフォルニア 州と外国政府との間の「条約」なのか。もし条約である場合,州は条約締結を
禁じられているのだから,明らかに違憲である。あるいはもっと一般的な意味 で,外交問題についての連邦政府の排他的な統制権を侵害していないのか。こ の分野の法理は不明瞭である。州が大統領の交渉の努力に矛盾しない限りにお いて,少なくとも気候変動に関する州と外国政府との間の協定は,建設的な前 進として評価されるべきであり,その協定は裁判所も支持すべきである。
III.三つの教訓
米国内で気候変動に関するこれらの出来事は,子どもや孫のすべてに影響を 及ぼすであろう大きな物語の一部である。米国連邦憲法制度の大きな問題にも 光をあてている。
A. 米国政府のダイナミクス
米国の気候変動政策の展開が例証している点は,連邦議会が政策形成者とし ての行動能力を失っている場合,統治の他の部門が積極的にはたらいて,それ を補うだろうということである。あまりに連邦議会の機能が不十分である場合,
伝統的な役割を越えて,他の部門が拡大することを期待できるし,裁判所は制 度が機能しつづけるように承認するという圧力を受けることになるだろう。
長期的に見れば,これは健全な状況でないことは明らかである。憲法機構は,
連邦政府の三つの部門が機能することを求めている。連邦議会以外の執政部門,
裁判所,州を含めた統治制度はその任務の幾つかを遂行できる。しかし,連邦 議会が不活発な状態が長ければ長いほど,いっそう他の政府部門に連邦議会の 権限の重心が移動してしまうだろう。そして,憲法構造がいっそう歪曲するだ ろう。これは米国内の伝統的な統治過程に対して未だ解決されていない効果を もたらすだろう。
B. 新しい政策問題 憲法
アメリカ連邦憲法の教員は,特定分野の法理が「とりわけ曇っていて後ろめ たい」と学生に対して感じる場合がある。これは気候変動の憲法上の次元では とくにあてはまるだろう。原告適格の要件は,悪名高き問題のひとつであり,
外交問題の連邦政府の優先の限界を真実に理解しているものはおらず,州規制 についての管轄外の限界の定義も不十分である。州際通商上の差別禁止という 明瞭なルールはあると思われるかもしれない。しかし,この明瞭さは若干誤解 を招く。州法が差別的であるかどうかを区別すること困難であることが普通で ある。
法律家や裁判官は,なじみのある問題をあつかう場合,これらのルールが所 定の事実的文脈にどのように適用されるか,という感覚を働かせる。たとえば,
企業に対する州税はどれが許容されるべきかどうか,という場合である。しか し,気候変動のようにまったくべつのものが登場すると,裁判所や法律家は,
これらの経験を活かせない。米国のようなコモンロー制度では,とくに新しい 事実類型をあつかう場合,先例となる事件と区別される可能性があるため,裁 判所がどのように判断するかをあらかじめ知るのは困難である。
C. 権限部門の再考
権限の伝統的な区分に対して,地方の境界を考慮しないという地球規模の問 題が挑戦している。国際公法は,公法から区別される特別領域とみなされてお り,外交官や国際的な弁護士という特化された共同体での主要な関心事である。
「ふつうの」弁護士は,国の内部の問題についてだけ憂慮するだけである。国 際的な争点は政府の領域に存在し,地域,州,町の領域には存在しない。
しかし,現代世界において多くの問題は一定の意味で地球規模であり,そし て地方規模の問題である。気候変動は,地球規模の行動を必要とする地球規模
の問題であり,また気候変動の影響と持続可能なエネルギーへの移行は,様々 な場所で様々な方法で起きるだろう。疫病やテロリズムのような地球規模の脅 威は地球規模の問題であり,地方の側面の両方の問題である。したがって,世 界をめぐる政府の下位部門である州や県が,これらの国際的な問題における利 益に取り組んでいることは驚くべきことではない。しかし,すでに本稿で検討 した通り,統治における下位の部門によるこれらの行動は,既存の憲法の法理 からみて評価することが難しいかもしれない。
米国だけが効果的な国家政策の形成の問題に挑戦している唯一の国ではない けれども,これらの問題のいくつかは米国制度に特有であるかもしれない。急 速に変動し,ますます地球規模となる社会において,寿命のきた問題もあるの かもしれない。政府権限について関連する争点をあつかうための鍵は,既存の ルールを新しい状況にさらに柔軟に適用させることであり,これらのルールの 背景にある核となる原理を心にとどめおくことである。
Massachusetts v. EPAの連邦最高裁判決と,カリフォルニア州の燃料基準に ついて連邦控訴第九裁判所の判決は,変動する世界の現実のため米国の裁判所 が,伝統的な憲法概念をすすんで再調整しようとする積極的な兆候である。し かしながら,この再調整がどれだけ進むのか,あるいは裁判所が,現在の挑戦 を無視してなじみのある考え方を機械的に用いるだけに後退するのか,そして それがいつになるかは明らかではない。
注
( 1 ) Sho Sato Professor of Law, University of California, Berkeley.
( 2 ) 549 U.S. 497 (2007).
( 3 ) The facts in this paragraph are drawn from 549 U.S. at 505 514.
( 4 ) Id. at 521.
( 5 ) Id. at 523.
( 6 ) Id. at 524.
( 7 ) Id. at 525.
( 8 ) 549 U.S. at 525.
( 9 ) Id.
(10) See Environmental Protection Agency, Endangerment and Cause or Contribute Findings for Greenhouse Gases under Section 202(a) of the Clean Air Act (Oct. 26, 2010) http://www.epa.gov/climatechange/endangerment.html.
(11) The regulations are described on the EPA website. Environmental Protection Agency, Climate Change-Regulator y Initiatives, http://www.epa.gov/
climatechange/initiatives/index.html.
(12) Coalition for Responsible Regulation, Inc. v. E.P.A., 684 F.3d 102 (D.C. Cir. 2012).
(13) Amena H. Salyid, U.S., Canada Sign Water Quality Agreement with Provisions on Climate, Invasive Species, BNA Daily Environment Report (Sept. 10, 2012 ). The U.S.
and the EU are also seeking to coordinate regulations. See Cheryl Bolen, U.S., EU Seek Public Comment on How to Coordinate Regulations, Int. Env. Rep. (Sept. 20, 2012).
(14) U.S. Const., art. II, §2, cl. 2.
(15) See Oona A. Hathaway, Treaties’ End: The Past, Present, and Future of International Lawmaking in the United States, 117 Yale L.J. 1236, 1250(2008). 150.
(16) Oona A. Hathaway, Presidential Power over International International Law: Re- storing the Balance, 119 Yale L.J. 140, 150 (2009).
(17) Id. at 155.
(18) Id. at 143 n.4.
(19) Id. at 1594.
(20) Id. at 1592 93.
(21) Hathaway, supra note 15, at 1250
(22) Since the Article is premised on congressional deadlock, it will not discuss the possible use of an executive-congressional agreement as an alternative to an interna- tional climate treaty. Current practice, however, would seem to make this an avail- able option, to the unhappiness of some commentators. See id.
(23) As we saw in the previous section, executive agreements can preempt state law.
For this reason, executive agreements on climate change might preempt state laws in carbon friendly states.
(24) For discussion of the possible causes of this vigorous state-level response to cli- mate change, see J.R. DeShazo & Jody Freeman, Timing and Form of Federal Regula- tion: The Case of Climate Change, 155 U. Pa. L. Rev. 1499, 1516 38 (2007); Kirsten En- gel, State and Local Climate Change Initiatives: What Is Motivating State and Local
Governments to Address a Global Problem and What Does This Say About Federalism and Environmental Law?¸ 38 Urb. Law. 1015 (2006).
(25) A survey of state efforts can be found in Pace Law Sch. Ctr for Envtl. Legal Stud- ies, The State Response to Climate Change: 50-State Survey, in Global Climate Change and U.S. Law 371 (Michael H. Gerrard ed., 2007 ) [hereinafter Pace Center]. State ef- forts are also described in Barry Rabe, Race to the Top: The Expanding Role of U.S.
State Renewable Portfolio Standards, 7 Sustainable Dev. L. & Polʼy 10(2007); David Hodas, State Initiatives, in Global Climate Change and U.S. Law 343(Michael H. Ger- rard ed., 2007).
(26) Hodas, supra note 25, at 343.
(27) See generally Cal. Air Res. Bd., ARB Emissions Trading Program Overview, avail- able at http://www.arb.ca.gov/newsrel/2010/capandtrade.pdf.
(28) Over view of ARB Emissions Trading Program, available at http://www.arb.
ca.gov/newsrel/2011/cap_trade_overview.pdf.
(29) Regional Greenhouse Gas Initiative, an initiative of the Northeast and Mid-Atlan- tic States of the U.S., http://www.rggi.org/.
(30) See http://www.rggi.org/design.
(31) A.B. 32., 2006 Cal. Stat. ch. 488 (codified as Cal. Health & Safety Code §§ 38500 99
(West 2010)).
(32) Erwin Chemerinsky et al., California, Climate Change, and the Constitution, 37 Env.
L. Rep. 10053, 10053 (2007).
(33) Id. at 10654.
(34) Id. at 10659.
(35) Article I, sec. 10, cl. 3.
(36) Virginia v. Tennessee, 148 U.S. 503, 519(1893).
(37) United States Steel Corp. v. Multistate Tax Commʼn, 434 U.S. 452 (1978).
(38) 472 U.S. 159 (1985).
(39) Id. at 175.
(40) Id. at 176.
(41) 730 F.3d 1070 (9th Cir. 2013).
(42) Id. at --- .
(43) Id. at ---.
(44) In making this distinction, the court relied on Pharm. Research & Mfrs. of Am. v.
Walsh, 538 U.S. 644, 669 (2003).
追記 本稿は,2013 年 12 月 14 日明治学院大学法律科学研究所で行われた,法律 科学研究所共同研究「環境政策と法」公開講演会におけるファーバー先生の講演 原稿を通訳された辻氏の日本語訳に,阿部が確認・形式の調整等を行ったもので あることを付記する。