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Academic year: 2021

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

幼児の数概念について

著者 小川 庄太郎, 杉村 健

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 6

ページ 29‑34

発行年 1970‑02‑27

URL http://hdl.handle.net/10105/6194

(2)

幼児の数概念について

小川庄太郎杉村 健

(数学教室) (心理学教室)

 幼児の数概念に関しては、Pi age t〔1952)以来、多くの心理学的研究が行なわれてきた。日 本においても、1962年にその翻訳書が出版され、理論的にも実践的にもこの面の研究が盛んであ

る。数概念については、集合数という概念と順序数という概念が基本的なものであり、両者が何本 頃に綜合されるかということが、発達心理学的にみた問題点であろう。そして、多くの研究が1この 点の解明に向けられているといえよう。

 ところで数学的にみたとき、集合数と順序数における本質的なものは、数の加法性、その中でも

(1)交換法則と(2糖合法則である。

    a+b=b+a      (1)

    (a+b)十・一a+(b+。)   (2)

 周知の上うに、Pe anoの公理体係によれば、上の式1)と(2)はより基本的であると考えられる(3)

の式から導かれる。

    (a+b)十1=a+(b+1)     (3)

 そこで、(3)のようなより基本的な結合法則と(ユjのような交換法則とが、幼児においてどのように 理解されているのか、あるいはどのように発達していくのかが問題になるであろう。

 他方、幼児に特有な現象である『数え直し』は、FLav eLL(1963,P3I4)によれば、r新しい 要素を既成の構造に組み込んで、しかも、もとの秩序が保持されるかどうか」にかかわっているとい

う自もしそうだとすれば、先に述べた交換法則や結合法則と数え直しとの間には有意な関係が期待 されるであろう。筆者の知る限りでは、このような数の性格の間に相互関係を直接取扱。た研究は ないようである。

 本研究の目的は、(a)交換法則、結合法則、および数え直し(実際には数え直さないこと)の把 握が幼児においていかに発達するか、(b)数学的な公理体係における基本的なものが心理学的にも 基本的ないし原初的であるが、それ故、上述の3つの数操作の間に相互関係があるかどうかを検討 することである。

方       法

 被験者  被験者は奈良教育大学附属幼稚園の幼児99名である。その内訳と平均年令(月)は 妻1に示したとおりである。表からわかる上うに、桃組、赤組、黄組の順にその平均年令は4才1

ケ月、5才Oケ月、および6才1ケ月であつたので、それそれ4才児、5才児、および6才児とよ

ぶことにする。

 問 題  交換法則と結合法則をそれぞれ具体化したような問題と、数え直しに関する問題が用 意された。

      一29一

(3)

表1被験者の内訳

年令(月) 49

60 73

11

19

19

女  一

11

ユ9 20

22

38

39

 俸)交換問題  赤いオハソキの集合と白いオパジキの集合(同数ずつ)を、約1㏄nの間隔をお いて呈示し、2つの集合が同数のオパジキからなることを確認させる。次に、被験者の注意をひき ながら、赤いオパジキのいくつかを白いオパジキの方に移動し、同数の白いオパジキを赤の方に移 動する。このように同数ずつのオパジキを交換したあとで、2つの集合のオパジキの数が同じか違

うかをたずねる。

 オパジキの数が6つずつの場合と16ずつの場合が作られた。前者では交換するオパジキを1,3,

および5個とし、後者では2,8,および14個とした。したがって、 6つの下位問題ができ る。どの被験者も6個の問題がさきに与えられたが、交換するオパジキを1→3→5個の

順にしたときと、その逆の順にしたときのそれぞれに、被験者の半分ずつが割り当てられた。同様 に16個の問題においても、2→8→14のときとその逆の場合について、半数ずつの被験者が割り当 てられた。被害者がオパジキを数えられないとき(特に16個のとき)には、実験者が数えてやった。

オパジキの配列には特別な規則性をもたせなかつた。交換がすんでからの問い方としては、2つの 集合のまわりを指でなぞるようにしながら、「これとこれは同じ数ですか、それともちがう数です か」というような表現が用いられた。

 ㊤)結合問題  16個ずつからなる赤いオパジキの集合と白いオパジキの集合を、約10cmはな しておく。桃色のオパジキ1個(5個あるいは1O個)を、赤〔あるいは白)のオパジキの集合に入 れる。被験者の注意をひきながら、実験者が手をまわして全部のオパジキをとり囲むようにし、全 部でこれだけのオパジキがあるということを磯忍させる。次に、桃色のオパジキを赤(白)から白

(赤)の方へ移動する。そして、オパジキの数は全部で前と同じか、それとも変。たかどうかを質 問する。

 移動されるオパジキの数が1,5,および10個と変えられたので、3つの下位問題ができる。その実 施順は1→5→1Oとその逆の2通りが作られ、それぞれに被験者の半分ずつが割り当てられた。こ の問題ばa)の問題と同様に、オパジキの数を数えることが問題ではない。質問にさいしては、 「金 庫で」ということが特に強調された。

 (o)数え直し問題  赤いオパジキ3個を呈示してその数をいわせる。次に、約5cnはなして2 個呈示し、全部でいくっになるか問う。被験者が答えたあとで、追加したオハ汐キをもとのオパジ キのところに近づけて2列に並べる。このようにして次々に2個ずつ追加し、答えをいわせながら もとのオパジキの列に加えていく口

 この問題では、オパジキが追加されたときに、もとからあってすでにその数が確認されているオ パジキを、もう一度数え直すかどうかが調べられる。このような数え直しが生じたら、その後追加

(4)

する操作をもう2回行なってから実験を中止した。つづいて、最初に呈示する数を5個にして、上 と同様な仕方で行な。た。最後に4個のオパジキを出し、それを数えさせたあとで紙でおおい、同 時に2個を追加して紙の下にあるものと合わせて全部でいくつになるかをいわせる。この場合は数 が正しくいえなくなったところで実験をやめた。問題はいつも3→5→4の順で実施された。

 手続き  実験は個別的に行なわれた。実験者と被験者が机をはさんで向かい合いにずわり、名 前や年令をたずねたあとで、オパジキ遊ぴをするから先生のいうことをよくきいてやるようにと教 示する。被験者の半分は問題(a)一→(C)→(b)の順で、残りの半分は(b)→(C)→(a)の順で 与えられた。さらに、問題(a)と(b)については、それぞれの下位問題の呈示順が調整された。被 験者の大部分は実験に対して協力的であったが、ほとんど反応しない者も2,3あった。実験は1人 にっき約10分を要したが、黄紙の者はそれより短かく、桃組の者はそれより長かった。

結       果

 結果の処理  交換間頴と結合問題については、それぞれの下位問題に対してr同じ」あるいは

「変らない」と答えたものを正答とした。したが。て、交換問題の得点はOから6点まで、結合問 題ではOから3点まで分布する。数え直し問題については、もとの数がいくつになったら数えなお すようになるかを調べたかったのであるが、それがうまくいかなか。たので、最初にオパジキが追 加されときに数え直したかどうか、あるいは正しい数がいえたかどうかによ。て判定した。この問 題での正答は、数え直さなかつたもの、あるいは正しい数がいえたものであり、その得点はOから

3点に分布する。

 被験者は次のようにして、成功者と不成功者に分類された。交換問題については正答が5以上の 者、結合問題と数え直し問題では正答が2以上の者を、それぞれの問題における成功者とみなし、

それ以外はすべて不成功者とした口以下の統計的分析はこの上うな分類にもとづいて行なわれる口 なお、結合問題でI個のオパジキを移動する場合がもつとも基本的であると考えられたが、この下 位問題の成績と他のものの成績の間には大きなちがいがなかったので、特にこの下位問題をとりあ げて分析しなかつた。

 年令と成績の関係  表2は、3つの問題についての成功者の割合(%)と実数を示したものであ る。この表によると、交換問題と数え直し問題の成績は年令の上昇につれてよくなるが、結合間題 については一定の傾向がみられない。合計のところでみると、交換問題と数え直し問題にくらべて、

結合問題が著しく困難であることがわかる。

表2 成功者の割合と実数

年  令 4才 5 才 6 才

合計

人  数

22 38

39

99

交換問題 364(8) 44.7(17) 87.2(跳) 59.6(59)

結合問題 18.2(4) 5.3〔2) 28.2(11) 17.2(17)

数え直し問題 91(2)1 39.5(15) 89.7(35) 5鮎(52)

年令差に関する統計的有意性を検定するために、〆テストが行なわれた。その結果は、交換問題       一31一

(5)

では〆(2)一20,739,PくO1、結合問題では〆(2)一7,143,P<.05、数え直1し問題では 〆(2)=80,997P<.O1でいずれも有意な年令差がみられた。そこで2つの年令ごとに〆テス

トを行なったところ、交換問題では4才と5才が〆(1)宝4,O工9,P<.055才と6才力ぴ(1)昔 12,339,P<.O1でともに高年令において成功者が有意に多くなっている。結合問題では4才か ら5本へと減少するが有意でなく(〆宝2,5跳)、5才と6才では〆(1)=7,219,P<.O1で 後者が有意に高か。た。数え直し問題では4才と5才力ψ(1)=6,334,P<.05,5才と6才が

.〆(1)=21,361,P<.O1であつて、各年令ごとに成功者の割合が有意に増加している。

 以上の分析から、交換問題と数え直し問題の成績は、年令の上昇につれて有意に上くなることが 明らかなった。しかし、結合間題については一定の傾向がなく、特に5才児の成績が悪いことにつ いては今後検討してみなくてはならない。いずれにしてもこの問題は全体的にみてもっとも難かし

く、本実験で用いた年令の範囲では顕著な年令差がないと結論してよいであろら。したがって、も

○と高年令の児童を用いた実験が必要であろう。

 年令と成績の関係をみるもう1つの方法として、各問題における成功者と不成功者の年.令が比 較された。表3は、成功者と不成功老の人数とその平均年令(月)を示したものである。各問題につ いて、成功者と不成功者の年令差をみると、交換問題から順に9ケ月、4ケ月、および13ケ月であ

り、結合問題では年令差が小さいのに対して、交換問鼠特に数え直し問題においては年令差がき わめて大きい。このような年令差は、成績がどの程度年令に依存しているかを反映するものである。

したがって、表3の結果は表2における年令差を異なる面から実証したものといえよう。

表3 成功者と不成功者の平均年令(月)

交換問題 結合間題 数え直し問題

人数

59 17 52

成功者 年令 66 66

69

人数

40 82 47

不成功者 1年令1

57

62  .

56

 問題間の相互関係  本実験の主要な目的であった、3つの問題間の相互関係を調べるために、

2つずつ組み合わされた問題の成績(成功・不成功)について、全被験者をこみにした場合の2x 2の分割表が作られた。その結果が表4に示されている。2つの問題間の相互関係をみるため1ゴ テストを行なったところ、交換問題と数え直し問題の間の連関のみカが(1)=7,286,P<.O1で 有意になり、他の2つは有意でなかつた(交換問是重と結合問題の〆=2,427、結合問題と数え直し

問題の社1,236)。したがって、交換問題と数え直し問題は表面的にぼ異なる操作からなってい いるが、幼児にとっては類似たものとして把握されていること、あるいは類似の心理学的ないし教 学的な操作を含むことが示唆される。なお、結合間魑と1他の2つの問題との間に連関がないのは、

結合問題の成功老があまりにも少なすぎること1、二よるのかもしれない。この問題は年令との関係に おいても他の2つσ)問題とは異なっており、適切な問題ではなかったとも考えられる。

(6)

表4 3つの問題間の相互関係

 交 換

O  x

鷺一

    交 換    ○  x

㌍麗

    結 合    ○  X

寄O11・・l

しX  6  4ユ1

(註) ○は成功者、Xは不成功者を示す。

考      察

 本実験で得られた主な結果は次のとおりであった。(a)交換問題と数え直し問題の成績は4才か ら5才へ、そして5才から6本へと有意によくなるが、結合間題の成績は年令と一定の関係を示さ ない。(b)全体的にみると、結合問題が他の2つにくらぺて著しく困難である。(c)交換問題と数 え直し問題の間には有意な連関があるが、他の問題間には連関がない。

 交換問題と数え直し問題における有意な連関は、数のもっとも基本的な性格である基数としての 加法性(具体的には交換方則)と、序数としての系列との関連があることを示すものであり、これ は本実験で予想した結果であつた。すなわち、年令とともに両者が相関しながら発達し、6才頃に なつてp i ag e tのいう第3段階に到達する。この年令はP i ag e tやその他の結果とほぼ一致す

るものである。

 他方、結合問題と他の2つの問魑との間に有意な連関がなかったことは、Peanoの公理体系か らの予想が実証できなかつたことを示す。しかしながら、結果のところでも述べた上うに、結合間 題のみが他の2つの問題と異なる結果であったこと、全体として非常に困難であったことなどから みて、この問題が妥当なものであったかどうか疑問である。本実験で用いた結合間題は継時比較法 によるものであ。て、移動前の状態を同時に比較することができないので、かなり困難であると考 えられる。それ散、同時比較法による結合間趨を用いて再検討すべきであろう。

要       約

 幼稚園児99名(4〜6才)に、交換法則と結合法則を具体化したような問題と、数え直しの有無 を調べる問題が与えられた。その結果、交換問題と数え直し問題の成績は年令とともによくなり、

そして両者の間に有意な連関が認められた。これは本実験の予想に一致するものである。しかしな がら、結合間題の結果は他の2つの問題とは異質的であり、結合法則がより基本的であるというこ

とが実証されなかった。この点については、方法論灼な問題点が示唆された。

(付 記)  本実験にあたり奈良教育大学附属幼稚園のご協力をえ、資料の蒐集にさいしては専 攻科の西岡照子さん、心理学専攻生の藤田正君の援助をうけた。厚く感謝する。

一33一

(7)

引 用 文 献.

Fユaveユエ,F・J・H・1963丁he d−eveユ。rmentaユpsybhoユ。gy of J ean Piaget.Van N⊃s七アa工]d一,New York.

Pi㎎et,J・1952丁he dbiユd一Ten l s o⊃]ユ。ep tion of n口□rber・R⊃utユe萌e&Kegan]≡auユ]工D,Lonユ。n.

下一ピアジェ・Aシェミンスカ (遠山・銀林・滝沢 訳) 1962 数の発達心理学 国土社

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