H形スチールまくらぎの 10 年経過トレース
西日本旅客鉄道株式会社 正会員 ○川端 慎治 西日本旅客鉄道株式会社 正会員 篠原 鉄也 西日本旅客鉄道株式会社 正会員 井上 雄一郎
1.はじめに
まくらぎ材料として、強度と耐久性に優れ、リサイクル面でも実用的である鉄まくらぎは、コストと地球環境の両面に おいて非常に優位な材料と考えられる。そこで、鉄まくらぎの低廉化を目的として、汎用土木材料であるH形鋼を使用し たH形スチールまくらぎが開発された1)。
このH形スチールまくらぎについて、耐腐食性、絶縁性および軌道保守の観点から、1999年より小浜線(京都府~福井 県、単線、2003年3月電化、線区最高速度85km/h、年間通トン120万トン)に敷設し、追跡調査を行っている。敷設後 約10年が経過したことから、その状況について以下に述べる。
2.敷設箇所の概要
締結装置の形式としては、くさび形(図-1)とパンドロール形(図-2)の2種類があり、継目用まくらぎではH形鋼2 本を溶接して大判化を図っている(図-3)。各形式の諸元を表-1に、敷設本数および年度を表-2に示す。なお、パンドロ ール形については、継目およびその前後各2本に対して投入し、継目落ち対策効果について検証している。
図-1:H形スチールまくらぎ(くさび形) 図-2:H形スチールまくらぎ(パンドロール形)
キーワード: 鉄まくらぎ、H形鋼、H形スチールまくらぎ、パンドロール
連 絡 先: 〒920-0005 金沢市高柳町9-1-1 JR西日本 金沢支社 施設課 TEL: 076-253-5230 表-1:形式別H形スチールまくらぎの諸元
形式 くさび形 パンドロール形
締結装置 くさび パンドロール 構成部品 くさび、受け金具、
絶縁用品
クリップ、インシュレーター、
軌道パッド 絶縁状態 まくらぎ・レール間に絶縁
材と軌道パッドを挿入
締結装置・レール間にイン シュレーターを挿入
表-2:敷設本数と年度(小浜線)
区間 本数 敷設年度
くさび形 勢浜~加斗 338本 1999年 パンドロール形 全線(点在) 3,882本 2002年 図-3:H形スチールまくらぎ(パンドロール形継目用)
3.敷設後の状態 (1)材料の状態
締結装置について、くさび形では、側線では問題がなかったものの、本線において多数の緩みが確認された。しかし、
パンドロール形については緩み等一切なく非常に良好である。
まくらぎについて、これまでのところ表面や底面、側面に目立った腐食や材料劣化は確認されず非常に良好であるが、
以下の2点からまくらぎ交換を実施している。
a) くさび形締結装置の緩み補修に苦慮していたことから、くさび形連続敷設区間の3本に1本をパンドロール形に交換。
b) 1箇所の継目用H形スチールまくらぎレール直下部に欠損が確認されたため、継目用木まくらぎに交換。
土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
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写真-1:継目用H形スチールまくらぎの損傷 なお、後者については、ふん泥により継目用H形スチールまくらぎ内
部が常時湿潤状態となり腐食し易く、また、H形鋼のウェブが偏荷する 構造であることから疲労により欠損したと考えられる(写真-1)。 (2)軌道の状態
a) 継目落ち箇所の保守状況
MTT 等の突き固め数量や周期で並まくらぎ区間と差異はなかった。
また、カントや段差の大きい継目箇所では、振動が大きいためバラスト 流動が発生し苦慮している。
高低σ(10m)
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
'00/4 '01/4 '02/4 '03/4 '04/4 '05/4 '06/4 '07/4 '08/4 '09/4
σ[-]
直線(H形) 直線(並) R=400(H形) R=400(並)
通りσ(10m)
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
'00/4 '01/4 '02/4 '03/4 '04/4 '05/4 '06/4 '07/4 '08/4 '09/4 σ[-]
直線(H形) 直線(並) R=400(H形) R=400(並)
図-4:高低狂いと通り狂いの標準偏差の推移 b) 軌道状態の推移
敷設後の高低と通り狂いの100m区間標準偏差(σ)の推移について、
H形スチールまくらぎと並まくらぎそれぞれ直線と曲線(R=400)別に図 -4に示す。高低狂いの観点では、初期沈下の抑制効果は確認されるが、現 在の軌道状態としてはほぼ同じ状態で推移していることから、並まくらぎ と同等以上の機能を有しているといえる。また、通り狂いや軌間保持の観 点では、敷設時より標準偏差の変動が少なく、長期においてその優位性が 確認できる。
4.ランニングコストの分析
小浜線に現地敷設されたH形スチールまくらぎの腐食量調査より、一般 区間における50年後のまくらぎ腐食量は1.3㎜程度と推定される(図-5)。 これを基に、まくらぎ交換経費について並まくらぎと比較すると、コスト 面においても非常に優位な軌道材料であることがわかる(図-6)。
図-5:内陸部・沿岸部・トンネル内各箇所における腐食量予測
5.まとめ
H形スチールまくらぎの現地敷設より10年が経過した。材料状 態としては、傾向的な異常劣化は確認されなかったが、ふん泥箇所 への継目用H形スチールまくらぎの敷設において課題が確認され た。軌道保守の観点では、軌間や通り保持の面で優位であり、また、
パンドロール形を用いることで締結装置補修の負担が大幅に軽減 された。以上より、H形スチールまくらぎは、敷設箇所の道床条件 等を整理することで、並まくらぎを主体とする下級線区においては、
コストと保守の両面に優れた軌道材料となり得ると考える。今後も 引き続き、耐腐食性や絶縁性、軌道保守の観点から調査を行い、H 形スチールまくらぎの適切な敷設条件について整理していきたい。
累計経費比較(並まくらぎ-H形スチール)
0 5 10 15 20 25 30 35 40
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
経過年
累計経費(百万円/km)
H形スチール 並(木)
図-6:まくらぎ交換経費の比較
初期投資
<参考文献>
1)福井・高尾・江後;H形スチールまくらぎの開発, 1999年9月, 日本鉄道施設協会誌 土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
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