表情プライミングが他者認知に及ぼす効果
著者 北村 英哉
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 34
ページ 171‑176
発行年 1994
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00008896/
表情プライミングが他者認知に及ぼす効果
北 村 英 哉
(平成5年9月30日受理)
Effects of Priming with Facial Expression on Person Perception Hideya KITAMuRA
(Received September 30,1993)
はじめに
人と人とのコミュニケーションや対人関係は,ことば のやりとりだけで,方向づけられるものではない.身ぶ りや姿勢,物理的距離の取り方など,非言語的コミュニ ケーション(NVC)が大きな役割を果たしているが,
中でも相手の感情等の推測に果たす表情の役割は大きい.
表情認知は,近年大きく研究が進み1>2),構成要素の特 定,顔や表情の認識プロセスの探究などがなされている が,他者の表情に接することが,認知者にどのような心 理的影響を及ぼすかはあまり検討されていない.表情を 特定,理解するプロセスが解明されても,表情を認識し た後,認知者にどのような心的過程が引き続いて生じる のかはさらに解明の必要のある課題である.例えば,微 笑みかけられれば,こちらもにっこりするし,相手がむっ
としていれば,こちらも気分が暗くなるかも知れない.
このように,ある表情に接することは,認知者側の気 分,感情に何らかの影響を与える可能性が考えられる.
しかし,それがいかなるプロセスで生じているかは,全 く明かではない.それには,いくっかの可能性が考えら れ,どのようにプロセスが進むかは,多様な仮説が構成 できよう.
第1に,対人関係の場の中で,人には,表情や動作の 同期性があるので,ある表情に接すると自分にもそれに 対応する表情が自動的に生じ(同調的模倣),それが,
表情フィードバックの過程3)により,認知者側に表情に 対応する同様の感情を生じるものと考えられる.
第2に,相手の表情を認識するプロセスの中で,これ は笑いの表情,これは怒りの表情などと,意味的な符号 心理教育学科 社会心理研究室
化がなされることによって,そのカテゴリーのアクセシ ビリティが高まり,関連情報の無意識的な活性化をもた らし,その結果,同様の感情が生じやすくなるというプ ロセスも想定できる.これは,現在活発に研究が行われ ている感情と認知の関係の究明4)5)に役立っものに思わ
れる.
第3に,より単純に,笑顔などの好意を示されること によって,相手への好意が生じ,快感情が生じる.それ に対して,例えば,怒りの表情に接すると,認知者側に も攻撃されることに対する怒りや不快感情が生じるなど
である.
第3のプロセスは当然考えられようが,これは,自分 に対して,好意や攻撃が示されることに対する反応であ り,もっと広く,自分と無関係な形で示された表情に対 する反応があるとしたら,そこまで射程に含めた説明が 行えない.例えば,テレビで笑顔のアップが呈示された とき,認知者がやはりポジティブな気分になるとしたら,
直接の相互作用によるプロセスを考えるよりも,何かし ら自動的な認識のプロセスを想定することの方が正しい ように思われる.そこで,本研究では,特に第3の対人 関係的なプロセスを除外して,それ以上の,表情を認知 することの一般的な効果を追究する.
そこで焦点をあてる第1と第2のプロセスは,より純 粋な身体一生理的な感情生起プロセスと,より認知的な 感情生起プロセスに対応する.近年,2っの感情生起プ ロセスがあり,それが並立するという主張も見られる6).
第2の説明は,高次の認知的分析を必ずしも経ないと いう点で,認知的解釈によって感情が生じるという仮説 とパラレルなものではないが,Bower )が提案するよ うな,感情のネットワークモデルに基づいて,感情のノー
北村 英哉
ドの活性化が高まることによる説明を行ったものである.
仮に身体一生理的な感情生起プロセスが,途中で,脳内 の感情中枢から,記憶内に貯蔵される感情に関わる意味 的な情報と連絡が行われるとしても,第1と第2のプロ セスは異なるプロセスを表し得る.それは,大まかに言っ て,身体一生理的プロセスを主体にしたものと,より概 念主導的に意味的なカテゴリーの活性化を主体とするプ
ロセスの違いである.
表情認知のプロセスが,主としてどちらのプロセスと 関わるものかは興味の持たれる問題である.外顕的な手 がかりから両プロセスを区別することは難しく,感情の 効果にしても,いずれのプロセスも最終的に同様の感情 が生じるならば,弁別しがたい.全く一方のプロセスか らしか生じない効果を取り出すのは困難であるが,比較 的それぞれのプロセスに敏感な課題を設定することは可 能であろう.
例えば,第2の仮定に基づけば,ある表情に接するこ とが,そのカテゴリーのアクセシビリティを高めるわけ であるから,直接そのカテゴリーを用い得るような課題 を設定すれば,そのカテゴリーのプライミングから,強 い効果が取り出せる可能性がある.もちろん,どのよう なカテゴリーを用いやすくなるかは,第1の身体一生理 的なプロセスによって,ある感情が生じても,人がその 感情状態にあることの影響として,ポジティブなあるい は,ネガティブなカテゴリーを用いやすくなるという効 果が想定できる.
逆に活性化されると考えられるカテゴリーを直接用い るのではなく,他者に対する好意度の評定のような場面 では,感情状態が情報として用いやすいので,第1のプ ロセスから生じるような感情状態の影響を被りやすいで あろう.そして,カテゴリーの活性化拡散からは,やや 間接的な効果が期待できるにすぎない.
このように,両プロセスの効果は混じり合うことにな るが,より典型的に検出しやすい課題を用意することで,
効果の強弱を観察することができるかも知れない.
いずれにしても,このような表情認知から引き続き生 じる対人評価へのプライミング効果ないしは,感情への 効果を探究する端緒である本研究では,他者の表情に接 することが,他者の評価などの他者認知へ実際いかなる 影響を及ぼすかをまず検討課題とし,いくっかの従属測 度を用意して,その効果の程を探索してみることを第1 の目的としたい.
その上で,仮説として想定し得る,第1,第2のプロ セスに比較的敏感な課題をそれぞれ設けることで,その プロセス解明の一歩を踏み出すことを第2の目的とする.
そこで,本稿では,第1の仮説を,同調一フィードバッ ク仮説と呼び,第2の仮説を,ネットワーク仮説と呼ん でおくこととする.
また,第3の仮説とは異なる場面で,認知一感情の相 互作用を検討することが目的であるので,他者評価にお いては,被験者が目にした表情の当該人物以外の人物に っいての評価を行うという設定で実験を行うこととする.
方 法
被験者 東京家政大学文学部心理教育学科2年生28名 ただし,評定において理解がなされていなかった1名 を除き,27名のデータを分析した.
日時 1993年9月22日
場所 東京家政大学狭山校舎第1情報処理教室 刺激材料 被験者が接する表情には,笑顔とむっとした 不快の表情の大きく2種の表情を設けることとし,ビデ オによって,顔のアップの映像を作成した.被験者に呈 示する際には,あいまいな2っの表情と混ぜて,各6シー ンの表情を呈示することにした.本実験とは別の18人の 女子大学生から予備評定を取り,快一不快の7段階評定
(1快一7不快)において,笑顔の6シーンのそれぞれ の平均は,1.39−3.00,不快顔の6シーンの平均は,5.39−
6.00であった.これにそれぞれ,3シーン目,5シーン 目にあいまいな表情のシーンを加えて,8シーンからな る笑顔刺激と不快顔刺激を用意した.それぞれの前に,
「その1」などのシーン番号を示す掲示を挿入し,それ らを各6秒,表情のシーンを各8秒呈示することにした.
表情の評定 表情を呈示する際,カバーストーリーとし て,これから呈示する顔が,何かのはっきりとした表情 を表しているかどうかを回答してもらうという設定で,
パソコン・ディスプレイの画面に,その質問と,回答を 求める表示を出し,「はい」なら1,「いいえ」なら2,
「どちらともいえない」なら3のキーを押すことで回答
させた.
好意度の評定 感情状態を情報として用いる場合,あい まいな対象に対する評価に反映されやすいことを考え,
評価的にあいまいな刺激人物Aさんの記述を呈示し,
その人物に対する好意度を,「どれくらい好きになれそ うな感じがしますか」「どれくらい魅力的だと思います
か」「一緒にいてどれくらいよい気分だと感じられます か」「どれくらい好ましい人だと思いますか」の4っの 質問をダミーの2項目と混ぜて,9点尺度で尋ねた.刺 激人物は,遊び好きな女子大生を表すような記述文8文 と,まじめな女子大生を表すような記述文8文と,以上 とは無関連の4文を混合した20文からなる記述で,B5 用紙1枚に印刷されたものである.
他者の感情及び意図の推測
B子さんと先輩Tさんについての仮想ストーリーを B5用紙1枚に印刷したものを読ませて, TさんからB 子さんへのプレゼントが壊れていたのが,意図的か偶然 かを2者択一で被験者に判断させた.さらに,表情と関 連するカテゴリーを使用するかどうかという対応がはっ
きりした測度として,B子さんの感情の推測を行わせた.
すなわち,B子さんは結果として,なんとなくいやな感 じがしたか,残念だが嬉しい気持ちがしたかで,これも 2者択一で判断をさせた.さらに,登場人物のB子さ ん,Tさんに対する好意度もそれぞれ,「どのくらい好 意を持ちますか」という単一の9点尺度で尋ねた(以下,
それぞれをB_好意,T_好意とする).
主観的感情 実験の最後に,主観的感情を自己報告させ た.表情のプライミングが,主観的感情に変化を起こす のかどうかをチェックするためである.測度は,楽しい一 腹立たしい,快い一不快,うきうきする一むっとする,
表1
気分のよい一気分の悪い,落ち着いた一いらいらするの 5つの7点尺度で,現在の気分にあてはまる程度を判断
させた.
手続き 集団を同数の2群に分け,1群ずっ集団で実施 した.まず,表情認知の研究の予備評定というカバース トーリーの下,回答方法を被験者に説明し,一人一人の 机の上(被験者の斜め前方)にあるモニターにビデオ映 像で,笑顔中心のシーン(以下,快群とする)もしくは,
不快表情中心のシーン(以下,不快群とする)のいずれ かを呈示した.同時に回答のためのコンピュータ・プロ グラムを立ち上げ,モニターを見ながら,8っのシーン の表情が,それぞれ何かの表情をはっきり表しているか どうか,キー入力で回答させた.パソコンのディスプレ イは,一人一人の被験者の正面前方に位置している.そ の後,別の対人認知の課題という設定で,B5用紙5枚 っづりの冊子を配布し,Aさんの記述を読ませ,好意 度の評定,引き続き,B子さんとTさんの話を読ませ て,意図,感情の推測,好意度評定を行わせ,さらに主 観的感情状態を尋ねて,冊子を回収した.最後に,実験 の真の目的を告げ,実験を終了した.
結 果
評定の仕方などを理解していなかった1人を除いた結 果,快群14名,不快群13名となった。
各尺度間の相関係数
き
い ましいTKOUI B KOUI しい ・1一 うきうきよい 魅力
良い気分 好ましい
TKOUI
BKOUI 楽しい快 うきうき よい いらいら.742**
.813**
.941**
.198
−.012
.521**
.242
.356+
.234
.411*
.650**
.718**
.355+
一.028
.522**
.524**
.455*
.507**
.493**
.845**
.247
−.100
.240
.047
.201
.083
.217
+ p〈.10 * p〈.05 ** p〈.01
.239
−.128
.469*
.127
.344+
.177
.356+
各尺度間の相関は,表1のようになった.Aさんに 対する好意度測定用の4測度間に有意な相関が見られた ので,4つの尺度得点をそのまま足し上げて,これを A_好意とした.A_好意に対して,快群と不快群に平 均値の差が見られるか片側t検定を行ったところ,快群
一.082
.075
.033
.171
.070
.152
.048
.050
.152
.005
−.076
.744**
.722** .637**
.621** ●756** .669**
.575** .586** .609** .772**
の方がより好意的という方向で,有意な差が見られた
(快群,m=23。93,不快群, m=19.39;t=1.89, p=.035).
各尺度毎の平均値は,表2に示した.
北村 英哉
表2 群毎のAさんの評価の平均
考 察
n 好き 魅力 良い気分 好ましい
快群 不快群
率*
14 6.500 6.571 (1。653) (1.342)
13 4.615 5.615 (1.850) (2.181)
*零 十
5●571 6.286
(1.158) (1.590)
3.923 5.000
(1.553) (1.683)
カッコ内はSD +p<.10,**p〈.01で群間に差がある
次に,快群,不快群×意図の推測で,クロス表を作成 し,カイ2乗検定を行ったところ,有意な関連は見られ なかった(表3).また,快群,不快群×感情の推測に っいてもカイ2乗検定を行ったところ,有意な関連は見 出せなかった(表4).
表3 群毎の意図の推測
偶然 意図的 合計(%)
快群 6(42.9) 8(57.1) 14(100.0)
不快群 7(53.8) 6(46.2) 13(100.O)
表4 群毎の感情の推測
いやな感じ 嬉しい 合計(%)
快群 13(92.9) 1( 7.1) 14(100.O)
不快群 10(76.9) 3(23.1) 13(100.O)
さらに,B_好意, T_好意について,快群,不快群 で,平均値に差がみられるか,t検定を行ったが,有意 差は見られなかった.
最後に,感情の自己報告では,尺度間に相関が見られ たので,5尺度の合計値をとり(値が大きいほど快),
快群,不快群で,平均値に差がみられるか,t検定を行っ たところ,差が見られなかった(快群,m=21.00,不
快群,m=20.23;t〈1).
結果として,あいまいな性質を持つ刺激人物に対する 好意度の評定にのみ,表情に接したことの効果が見出せ た.これは,身体一生理的なルートから生起する感情を 判断の際の情報として用いて,好意度の評価がなされた 可能性が考えられるが,意味的なカテゴリーがプライム された場合でも,当該感情に関連する事象へ活性化が拡 散する中で,逆に感情が生起するプロセスも想定でき,
同様の効果が出ないとは決めっけられない.しかしなが ら,それならばより明瞭に効果が見出せるであろう,カ テゴリーを用いた判断である感情推測課題で,表情の効 果が見られなかったのは,やや不自然である.もっとも,
本実験の欠点として,課題順序をカウンターバランスし ていないので,表情プライミングの効果が弱く,最初の 課題でのみ効果を表し,引き続く,B子さんのストーリー に関わる課題では,効果が表れなかったとの解釈も成り 立っ.しかしながら,社会的認知の分野でのアクセシビ
リティ研究では,カテゴリーのアクセシビリティを高め たことの効果は,24時間程度持続すると報告されており 8),もし,明確なカテゴリー化によって,喜びのカテゴ
リーや不快のカテゴリーが活性化しているならば,その カテゴリーが使用されなかったのはあまり自然とは言え
ない.
また,評定時の感情を情報として用いたのではないか と思われるのは,表1でも見られるように,被験者の主 観的感情報告の程度とAさんの好意評定に概ね相関が 見られ,感情がポジティブであるほど,評定も好意的と なっているという関係が見られることによる.A_好意 と感情報告5尺度の合計との積率相関係数は,r=.529,
p〈.01と,このような相関係数としてはかなり高い値の ものであった.好意的評定を行ったこと自体が最後の感 情報告と関係を持っことも考えられるが,Tさんの評定 や,B子さんの評定とは関連していないことから,最初 の課題特有の感情と評定の密接な関連を示唆するもので
ある.
TさんとB子さんの話は,意図,感情の推測が主た る課題であるので,Tさんなどの性格は必ずしもあいま いなものではなく,実際好意評定には偏りが見られた.
特に性質があいまいであるAさんの評価において,考 慮できる付加的情報として,被験者自身のその時の感情 状態を用いたのではないかというのは理に叶った説明と
言えよう.少なくとも,感情報告と評定との相関は,表 情呈示の他者評定に対する効果を媒介するのに感情が何 らかの役割を果たしているのではないかということを示 唆するものである.これらは,やや弱い推論であるが,
表情の呈示は,カテゴリーの活性化を呼ぶよりは,より 感情的な影響を与えるものである可能性が窺われる.
しかしながら,それもかなり無意識的で弱い気分であ ることは,最後の主観的感情報告で,有意差が検出でき なかったところから推察できる.実際,弱い気分の場合,
課題を複数行う中で,効果が弱まることもあり,後のB 子さんの好意度評定などに影響が見られなかったのも,
刺激人物の性質がよりあいまいでなかったこととともに,
気分の効果が弱まって来ていたことによる点も含まれる かも知れない.カテゴリー・アクセシビリティの効果よ りは,気分の効果は弱く,持続的でないため,途中で効 果が見られなくなるのは不自然ではない.
本研究は,表情に接することが,後の他者認知に影響 を及ぼすのか,まず様々な課題で検討してみる第1段階 の研究であるが,少なくとも,他者の好意という対人態 度には,影響するものであることが判明した,それが,
いかなるプロセスに基づくものであるか,いかにすれば より明瞭に検討できるであろうか.
第1に,課題順序の問題がある.今回は実験状況の制 限から一定の順序で行ったが,異なる順序でも行う必要 がある.よりしっかりした効果の如何を問うためには,
表情呈示に引き続いて,カテゴリー使用が見込まれる課 題を直後に行うことが必要である.これによって,カテ ゴリーのプライミングがなされているのかどうか,より 明瞭に検討できる.さらに,カテゴリーのプライミング を明確に捉える検討としては,今回の実験でテーマにし たような他者認知への効果を扱うのではなく,カテゴリー と密接に結びつく,「笑顔」「喜び」などの語を用いた語 彙決定課題などで,反応時間を測定し,プライミング効 果の有無を調べるということが考えられよう.
第2に,ある感情状態にあることの効果と概念のプラ イミング効果を分離するデザインで実験を行ってみるこ とである.例えば,軽蔑と怒りなど,両方ともネガティ ブな感情の喚起であるが,異なるカテゴリーをプライミ ングする可能性のあるような表情の組み合わせを用いる.
単に感情状態を通した効果しかもたらさないならば,両 者は同様の効果を生み,カテゴリーのプライミングがな されているならば,カテゴリーを使用するような課題に
おいて,いずれの表情に接したかが,反応の違いをもた らすことであろう.ただし,この場合,表情の違いがよ り微妙になってしまうので,正確にカテゴリーをプライ ムすることがなされるか難しい点があり,やはり,今回 のように違いが明瞭なもので,まず効果を確認した上で,
次の課題として,検討を進めて行くという手順が妥当で あろうと思われた.
第3に,同調一フィードバック仮説のように,表情フィー ドバックのプロセスを通らなくても,カテゴリーのプラ イミング効果が,ネットワーク仮説のように表れるか検 討するために,ある表情を被験者に呈示しながら,被験 者にはわざと異なる表情をさせて,それでも効果が表れ
るかどうか検討するこζができよう.
第4に,気分の効果ではなく,単にカテゴリーのプラ イミング効果が意味的に生じているかどうか検討するた めに,評定時に表情と関連する感情以外の感情を被験者 に音楽などを通して喚起し,それでも効果が生じるかど うか検討することができる.もし,感情の効果が重要で あった場合もさらに,音楽などを聞かせるのを,仮想刺 激人物の記述の呈示時か評定時か,体系的に変えること で,感情の効果の働き方を調べることができる.すなわ ち,ネットワークモデルで説明できるような,情報の符 号化時の選択的注意の効果が働いていて,ポジティブ感 情時にはポジティブな情報に注意が向いて,過大評価さ れる結果,刺激人物が好意的に評価されるのであれば,
表情を見た後であっても,符号化時に別の感情に変化さ せられてしまうと,表情の効果は消失し,むしろ符号化 時の感情が評定に対して影響を与えるであろう.それに 対して,感情の情報的機能9)を重視する説明では,評定 時の感情が重要な意味を持つわけであるから,評定時に 異なる感情に誘導された場合,やはりその評定時の感情 によって,評定が左右される結果が期待される.もしも,
いずれの場合も表情と対応するカテゴリーの効果が残る ならば,かなり強力なカテゴリーのプライミング効果が 基盤となっていることが判明しよう.しかしながら,今 回の実験の結果から推測すると,それほど明瞭なカテゴ リーのプライミング効果は見られなかったので,別の感 情に誘導された場合,むしろその感情が影響を及ぼすこ
との方がよりありそうなことのように考えられる.
このように,様々な実験の改善が今後可能であり,単 発の実験で,安易に決定を下すことはできない.繰り返 し,多面的に検討を重ねて行くことが,プロセスの実体
北村英哉
を捉えて行くには必要な作業と思われる.
いずれにしても,他者の表情に接することは,その後 多段階の処理を経て,他者の評定などに影響を及ぼすと 考えられる.部分的には,表情フィードバックが刺激人 物の評定に影響を与えることや1°),感情が他者の評定に 影響を及ぼすこと11)などが,これまでの成果として確認 されており,感情喚起と共にカテゴリーを呈示すること が,感情価に沿った行動例などのアクセシビリティを高 めることも示されている12).しかしながら,感情がどの ように認知と相互作用しているのか,あるいは,認知的 プロセスの中で感情過程がどのように位置づけられるの かにっいては,まだまだ議論があり,検討の真っ只中で ある.これらのプロセスを明かにし,感情と認知の関係 を捉えて行くためにも,表情認知の題材を検討して行く ことは,有用な手がかりを与えるものであると思われる.
謝辞
本研究は,東京家政大学特別研究費を受けて行われた.
また,Aさんの記述文は,平成4年度社会心理学演習 受講者の一部の協力を得て作成された.記して謝意を表
したい.
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