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情動喚起刺激が目撃者に及ぼす再生・再認抑制効果

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情動喚起刺激が目撃者に及ぼす再生・再認抑制効果

著者 越智 啓太

雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学

巻 45

ページ 201‑207

発行年 2005

出版者 東京家政大学

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009178/

(2)

情動喚起刺激が目撃者に及ぼす再生・再認抑制効果

  越智 啓太

(平成16年9月30日受理)

     The Inhibition Effect of Arousal Stimuli

on Eyewitness Preformance of Recall and Recognltlon

    OCHI, Keita

(Received on September 30,2004)

キーワード:目撃証言,情動的ストレス,犯罪捜査,トラウマ記憶

Key words:eyewitness testimony, emotional stress, criminal investigation, traumatic memory

1.問題

 事故や事件の目撃は,目撃者にしばしば大きな情動喚 起をもたらす.そのため,目撃者や被害者の証言の信頼 性を査定していくたあには,情動喚起が彼らの知覚や記 憶にどのような影響を与えるのかについて明らかにする 事が不可欠である(越智,1997).この問題に関しては,

現在まで多くの研究が行われ,さまざまな仮説が提唱さ れてきた.現在までに提案されてきた仮説は,次の3っ

に整理することが出来る.

 まず第1のものは,情動喚起が記憶を促進するという 説である.この説の実証的な根拠となっているのは,

Brown&Kulik(1977)のフラッシュバルブメモリーの 研究である.この研究では,ケネディ大統領の暗殺を知っ た瞬間などの衝撃的な情動喚起体験をした時の記憶は,

事件後,10年以上たっても鮮明な印象で想起されると いうことが示されている.フラッシュバルブメモリー現 象はその後,いくつかの研究によって支持されている

(Conway,1995).また,実験室実験においては,

Heure&Reisberg(1990)やBurke, Heuer,&Reisberg

(1992)が,スライドを用いた実験で,外科手術のような 情動喚起刺激の記憶が情動を喚起しない統制刺激の記憶

より優れていることを示している.

 第2の説は,情動喚起は記憶を抑制するという説であ る.この説を実証的に検討したのが,Loftus&Burns

(1982)の研究である.この実験では,被験者に,銀行強

文学部心理教育学科犯罪心理研究室

盗が銃を撃ち,その弾が子供に当たるという衝撃的なフィ ルムを見せたところ,子どもが撃たれる部分がカットさ れている統制条件に比べて,フィルムに現れる項目の再 認記憶の成績が低下したことが示されている.この研究 と同様な結果も,いくっかの実験で見いだされている

(Loftus, Loftus,&Messo,1987).

 第3の説は,Christianson&Loftus(1987,1991)に よる注意集中仮説である.これは,情動喚起は,記憶を 促進したり阻害したりするという効果を生じさせるので はなく,刺激の中心部分に注意を集中するというもので ある.その結果,刺激の中心部分に関しては,記憶を促 進し,周辺部分に関しては記憶を抑制するという効果が 示される.彼らは,自転車に乗った女性が交通事故に遭 う,というスライドを用いた実験で,女性についての記 憶は実験群で促進されるが,周辺部分に写っている車に っいての記憶は実験群で抑制されるという現象を示し,

この効果を実証的に示した.

 これらの3つの説は,相互に相容れない対立するもの であるが,現在のところ,これらのどの仮説が正しいの かにっいては,明確な答えが得られているとはいえない

(Christianson,1992;越智,1997;越智・相良,2005).

そこで,本研究では,まず第1に,これらのどの仮説が 妥当であるのかについて,実験的に検討してみたい.

 また,第2に,このような情動喚起下の記憶における,

再認と再生の特性にっいて検討してみたい.従来,情動 喚起が,記憶にどのような影響を及ぼすかに関する研究

の多くは,記憶の指標として再認記憶を用いるか

(Christianson & Loftus,1991;I」oftus & Burns,

(3)

越智 啓太

1982),それとも再生記憶を用いるか(Brown&Kulik,

1977:Neisser&Harsh,1992)にっいては,あまり注 意が払われてこなかった.これは,日常場面の記憶にお いては,再生であろうが,再認であろうが生じる効果は 変わらないはずだという暗黙の前提があったからである.

しかし,近年,情動喚起の影響にっいては,再生記憶と 再認記憶が交互作用する可能性があることが指摘されて いる(越智,1997).例えば,相良・越智(2000)は,情 動喚起が,再認テスト成績は抑制するが,再生テストで 言及される情報量を増加させる場合があることを指摘し ている.現在のところ,情動喚起刺激の記憶について,

再生と再認をともに指標とした研究は,あまり存在して いない.そこで,今回の実験では,同じ刺激に対して,

再生と再認の両方の指標で測定し,その関係について分 析してみることにしたい.

2.方法

役割を担っている.各実験群の特性にっいてまとあたも

のをTable.1にあげる.

     Table.1 実験条件の構成

実験群

注視統制群 通常統制群

情動喚起性 中心部への注視

りhソ ああ しり なあ しし なな

被験者:大学生女子45名(大学2〜3年生)

手続き:被験者は,まず実験群と,統制群にランダムに わけられた.統制群は,さらに注視統制群と通常統制群 にわけられた.実験群は,25人,通常統制群は,11人,

注視統制群は,9人であった.

 実験は,刺激を教室前面のスクリーンにプロジェクター で提示し,観察させるかたちで行った.刺激は,主人公 の女性が,スーパーマーケットで買い物し,家に帰って 料理するプロセスを描いた5枚組の写真である.提示は 1枚5秒,刺激間間隔なしで提示された.このうち,4枚 目がクリティカル刺激となっている.この写真は,女性 が,キッチンで包丁を使っているところであるが,実験 群の被験者には,女性が指を切って出血している画像が 提示された.これが情動喚起刺激となる.通常統制群の 被験者は,その画像から血が除かれている画像が提示さ れた.注視統制群には,実験群の血の色をCG(コンピュー タグラフィクス)を使用して緑色に変更した刺激が提示 された.注視統制群が用いられたのは,実験群と統制群 に記憶成績の違いが見られた場合,それが,出血刺激に よる情動喚起の影響なのか,それとも,出血のような異 質なものが刺激上に存在するたあ,その部分に単に目を 引きっけられたためなのかが分離できないためである.

そのため,被験者の目を実験群と同様の部分に引きっけ るものの,情動喚起性を持っていない刺激を統制群とし て用いることが必要となる.注視統制群はこの統制群の

注)よって、実験群と注視統制群、通常統制群の成績に差がある場合には、情動の効果である  といえる。また、実験群、注視統制群と通常統制群に差がある場合には、注視の効果であ  るといえる。

 提示直後(約2分後)にまず,刺激についての評定が 行われた.評定は,提示刺激が実験者の想定したような 情動喚起効果を持っているのかにっいてを確認するため に行われた.これは,実験刺激にっいて,刺激を見ての 動揺度と刺激の中心部分にどの程度目を引きっけられた かにっいてにっいてであり,それぞれ7段階で評定させ た.この評定に引き続いて,再生テストが行われた.被 験者には,4枚目の提示刺激について記憶していること を出来るだけ多く,どんなに細かいものでもよいから書 くように教示した.再生課題には約10分を要した.再 生テスト終了後に,引き続いて再認テストを行った.こ れは,刺激の様々な部分にっいての四肢択一式の問題15 問である.このうち,10問が,クリティカル刺激であ る4枚目の提示刺激についての問題であった,さらにこ のうち5問は,画面の中央部分についての問題であり,

5問は周辺部分にっいての問題であった.その質問が中 心部分に属しているものか周辺部分に属しているものか については,画像刺激の中心部分(包丁に付着した血)

を中心として各質問対象の項目との直線距離を指標とし た.刺激を7(縦)cm×9(横)cmで表示したとき,その 中心部分である手の出血部分から,半径2cm以内に存 在するものに関する質問を「中心」項目,その外側に存 在するものに関する質問を「周辺」項目とした.のこり 5問は,クリティカル刺激以外のスライドに関する質問 であり,詳細な部分についての質問ではなく,ストーリー 全体に関するものについての質問であった,この項目に っいては,越智・相良(2002)の研究にならって「プロッ ト」項目とした,また,再認テストフェイズに入ったら,

再生した内容にっいて,訂正や追加を加えないように教 示した,

3.結果

操作チェック,提示した刺激が,実験者の想定したよ

(4)

うな刺激特性を持っかどうか検討した.まず,情動喚起 性である.当初の実験者の想定では,情動喚起群が注視 統制群,通常統制群に比べてより情動喚起性を持ってい るはずであった.これを確認するために,刺激を見終わっ た時点の,被験者の評定のうち,「刺激を見てどの程度 動揺したか」の評定にっいて分析を行った.動揺の評定 値にっいて分散分析を行ったところ5%水準で有意[F

(2,42)冒4.65,p<.05]となった.この結果をLSD法で多

重比較したところ,実験群と通常統制群,および実験群 と注視統制群の差が有意(p<.05)となった.通常統制群 と注視統制群の間には有意な差はなかった.この結果は,

情動喚起性という観点で見た場合,通常統制群,注視統 制群と実験群では実験者の想定したような差が存在する

ことを意味している.

 次に,画面の中央部分への目の引きっけられかたにっ いてである.実験者の想定では,通常統制群に比べて,

注視統制群,実験群は中心部に目が引きつけられやすく,

これら2っの群には差がないはずである.各条件で被験 者が画像の中心部分にどの程度目を引きっけられたかの 評定値を分析した.これに関しては,実験群には「画面 の中央に血がでてきましたが,そこにあなたはどの程度,

目が引きっけられましたか」,通常統制群には「画面の 中央に包丁がでてきましたが,そこにあなたはどの程度,

目が引きっけられましたか」,注視統制群には「画面の 中央に緑の液体がでてきましたが,そこにあなたはどの 程度,目が引きっけられましたか」という質問がそれぞ れ,なされていたので,その評定値にっいて分散分析を 行った.その結果,条件の主効果が,5%水準で有意と

なった[F(2,42)−4.87,p<.05].この結果をLSD法で多

重比較したところ,実験群と通常統制群,注視統制群と

通常統制群の差が,それぞれ,有意となった(p<.05).

実験群と注視統制群では差がなかった.これは,注視統 制群と実験群では,刺激の中心部に目が引きっけられる 程度は,ほぼ同じであるが,通常統制群と実験群の間に は違いがあることを示している.これは,実験者の当初

の想定通りである.

4

       ウる      コ

蝋皿罫朧陀田釘時

0

圏実験

■注視統制 ロ通常統制

  中心        周辺 Figure 1条件ごとの正再認項目数

[F(1,42)=77.8,p<.01]がそれぞれ有意となった(ただし,

中心周辺の主効果に関しては,中心項目と周辺項目がそ もそも異なった質問が実施されているため,特別な意味 は持たない).条件と中心周辺の交互作用[F(2,42)=

1.573,ns]は,有意ではなかった.次に,条件間の違い について,LSD法で多重比較を行ったところ,中心と 周辺をあわせた再認成績では,実験群と通常統制群,実 験群と注視統制群の間にそれぞれ有意な差が見られ

(p<.05),実験群がほかの2っの群に比べて有意に再認成

績が低かった.また,中心部分のみの値では,通常統制 群と実験群の間に,周辺部分のみでは,注視統制群と実

験群の間に有意な差が見られた(ps〈.05).いずれも実験 群の成績が低かった.

プロット項目の再認成績

 次に,プロット項目の5問にっいて分析した.各群の

正再認項目は,実験群が,2.48(標準偏差1.15),通常統 制群が,3.18(標準偏差1.32),注視統制群が,2.67(標準

偏差O.86)であった.この差を分散分析したところ,有 意な差は存在しなかった[F(2,42)=1.416,n.s.].つまり,

プロット項目の再認に関しては,情動喚起の効果は存在 しなかった.この結果にっいては,同様の実験をした越

智・相良(2002)と同様である.

中心・周辺項目の再認成績

 条件ごとの再認成績をFigure.1に示した.各群の再 認成績にっいて,条件(実験,通常統制,注視統制)×

中心周辺の2元配置混合要因の分散分析を行ったところ,

条件の主効果[F(2,42)=7.68,p<.01],中心周辺の主効

再生成績の比較

 続いて,再生量についての分析を行った.まず,記述

された内容を,命題ごとにカウントし,その内容を,中

心部分にっいて言及されたものと周辺部分について言及

されたものにわけた.この中心,周辺の区別は,再認テ

(5)

越智 啓太

ストの作成時の基準と同じものを用いた.っまり,画像 刺激の中心部分(包丁の中心)より一定の空間距離にあ るものを中心,その外側にあるものを周辺とした.一定 部分の判断基準にっいては,再認テストと同様に,中心 部分にある出血した手の部分から,半径2cm以内のもの に関する質問を,「中心」,その周辺に存在するものに関 する質問を「周辺」とした.このようにして得られた条 件ごとの再生項目数をFigure.2に示す.

5

4     3     2

蝋皿醤喫冥杓霞粗

1

0

国中心 ロ周辺

 実験     通常統制    注視統制

Figure 2条件ごとの再生項目数

 次に,このようにして得られた,再生項目数について,

再認と同様に,条件(実験,通常統制,注視統制)×中 心周辺の2元配置混合要因の分散分析を行った.その結 果,条件の主効果[F(2,42)=8.12,p〈.1]が10%水準で,

傾向差が認められた.中心周辺の主効果[F(1,42);2.034,

ns]は,有意ではなかった.条件と中心周辺の交互作用

[F(2,42)=14.635,p<.01]は,有意であった.この交互作 用にっいて,LSD法によって,多重比較した.その結果,

実験群の中心項目にっいては,注視統制群の中心項目を 除くすべての項目で,実験群の周辺項目は,実験群の中 心項目と通常統制群の周辺部分,通常統制群の中心項目 は,同じ群の周辺項目,実験群の中心項目との間で,通 常統制群の周辺項目は,ほかのすべての項目との間で,

注視統制群の中心項目は,通常統制群の周辺項目との間 で,注視統制群の周辺項目は,通常統制群の周辺項目と,

実験群の中心項目との間で,それぞれ有意な差が見られ

た(ps〈.05).この結果を要約すると,注視統制群と,実

験群は,ほぼ同じパタンであるが,通常統制群のパタン が大きく異なり,中心部分がより再生されずにその代わ りに周辺部分がより多く再生されることがわかった.

4.考察

再認記憶に関する考察

 まず,再認テスト結果から,検討してみよう.3っの 対立する仮説のうち,本研究の結果はどの説を支持して いるのであろうか.まず,分散分析の結果,条件と中心 周辺の要因の交互作用が有意にならなかったことから,

注意集中説のような,情動喚起が,刺激の中心部分と周 辺部分に異なった影響を与えるという仮説は支持されな いことがわかる.次に,条件ごとの主効果については,

実験群の再認成績が,2つの統制群よりも劣っていたこ とより,情動喚起の記憶促進説は支持されず,記憶抑制 説が支持されることが示される.この差は,注視統制群 と実験群に差が見られたことより,単に,刺激の中心部 分に視線が集中した効果によって説明できるものではな く,あくまで,情動喚起の効果であるということがいえ

る.

情動喚起による抑制効果のメカニズム

 では,今回の実験結果のような再認記憶の抑制効果は,

どのようなメカニズムによって生じたのであろうか.考 えられるのは,次のような4つの説である.

 第1の説は,情動喚起によって有効視野が減少したと いうものである,その結果,特に周辺部分にっいての認 知が妨害され,結果的に再認される項目が減少してしまっ たというのである.この説は,大上,箱田,大沼,守川

(2001)などが,提唱しているものである.彼らは,ビ デオ視聴中に,画面に重ねて提示された数字を知覚でき るか否かというパラダイムで実験を行い,情動性が高い 刺激の視聴中には周辺部分に提示される刺激の検出成績 が低下することで,この現象を示している.しかし,も し,この説によって抑制が起こるならば,少なくとも中 心項目よりは周辺項目で再認成績が低下するはずである が,実際には中心。周辺の要因と情動喚起要因は交互作 用していない.それゆえ,この説で本研究の結果を説明 するのは困難であると思われる.

 第2の説は,実は生じたのは,記憶抑制現象ではなく,

注意集中現象だというものである.注意が集中したのが,

出血の部分など極めて限られた場所であったため,出血

そのもの(出血の量や形状)にっいてに関しては注意が

集中したが,本実験で中心項目とされているカップなど

の「中心項目」には,それほどの注意が投入されず,結

(6)

果的に,本実験の項目のすべてが「周辺項目」となって しまったというものである.本実験を行った感想にっい て,実験後に収集しているが,その記述を見ると,実験

群では,「出血に目を奪われてほゐ・のところが見えなかっ

た」という記述が多く見られた.これは,この第2説の メカニズムが生じていたことを裏付けている可能性があ る.中心,周辺の効果を確かめる実験では,何らかの形 で,中心部分と周辺部分を定義する必要が生じ,今回の 実験でも,そのような定義を行っているが,これはあく まで,実験者側が決めたものに過ぎないため,実験者の 想定部分以上に注意が集中した場合,その効果を検出す

ることはできなくなってしまう.

 第3の説は,情動喚起が生じると,その刺激自体でな く,その状況がなぜ生じたのかなどの処理に資源が投入 され,環境刺激の符号化が抑制されてしまったというも のである.具体的には,出血刺激を観察した場合,被験 者は「いったいなぜ,出血が生じたのか」にっいて,コ ンテクストなどから推論しようとする.そのため,刺激 自体からの情報収集に,認知資源が振り向けられず,結 果的に符号化される情報が少なくなるというのがこの説 である.越智(1999)は,ウェポンフォーカス効果を論

じる中で,実際の事件場面で,犯人が目の前にいる場合,

自分が死んだり怪我をしたらどうなるか,などの問題や,

どうやって逃げたらよいのか,などの問題にっいて考え ることによって,環境の符号化が結果的に阻害される場 合があるのではないかと述べているが,これもこの説と 類似しているものである,

 第4の説は,情動喚起が生じると,自己客体視が生じ,

それゆえ,環境刺激の符号化が抑制される.客体的自覚 理論は,社会心理学の分野で発展した理論であるが,我々 の注意は,外界である環境と内的な感情等のモニタリン グに振り分けられると考える.何らかのきっかけによっ て(他人が自分のことを見ていることを意識する,自分 の声の録音を聴く,鏡を見るなど),注意が内的なモニ タリングに向くというのである.情動喚起は,ときに内 的な刺激への注意の増加を引き起こすと考えられている

(Duva1&Wicklund,1972).もし,このようなメカニ ズムが生じれば,外的な刺激である実験刺激の再認成績 が低下してしまうというのも充分考えられる.

 これらの説を比較してみると,第2から第4の説のど れが正しいのかにっいては本実験の結果からは明確に結 論づけることは出来ない.今後はこれらの説のどれが妥

当であるかにっいて検討する実験を行うことが必要であ

ろう.

再生記憶に関する考察

 次に,再生テストの結果について検討する,刺激につ いて言及された項目数に関しては,通常統制群の成績に 比べて,実験群の成績が低い傾向が見られた(ただし,

p<.1).これは,一見,再認記憶と同様に,情動喚起が 再生記憶にっいても抑制効果を持っことを示しているか のように思われる.ところが注視統制群の成績は,実験 群の成績とほぼ同様であることから,これは情動喚起の 効果というよりは,刺激の中に目を引きっけるものが存 在した効果である可能性が大きい.

 この効果は,再生された項目を中心項目と周辺項目に わけて分析するとより明確になる.Figure.2に見られ るように,実験群,注視統制群の2っの群と通常統制群 では,再生パタンが大きく異なった.っまり,前二者で は,中心部分が周辺部分よりもより多く再生されている のに対して,通常統制群ではその反対に周辺部分がより 多く再生されていたのである.この差が,実験群・注視 統制群と通常統制群の間で生じ,実験群と注視統制群の 間にはないことから,差を作り出しているのは,情動の 効果ではなく,中心部分に目を奪われたかどうか,とい

うことであることがわかる.

 このような結果が生じた原因としては,2っの説が考 えられる.第1の説は,実験群,注視統制群では,中心 部分に目が奪われたたあに,その部分に注意が集中し,

その部分の情報がより多く符号化されたから,再生項目 も中心部分のものが多くなったのに対して,通常統制群 では,周辺の部分まで,見ることが出来,その結果,周 囲の部分まで符号化できたというものである.第2の説 は,これらの違いは符号化された情報の違いでなく,再 生する場合の,文章構成の特徴によるというものである.

つまり,中心部分に何か変わったものがある場合,その 刺激のトピックは中心部分であり,それゆえ,再生はそ のトピックを中心になされる.これに対して,このよう なものがなかった場合,記述は,周囲のさまざまな状況

に対しても行われる.

 もし,第1の説をとるとすると再認テストにおいても,

通常統制群では周辺部分の成績がほかの群に比べて高く,

中心部分の成績は低いということになるはずであるが,

このような「注意集中説」的な結果は,再認テストでは,

(7)

越智 啓太

見られなかった.そのため,第2の説がより妥当性が高 いと思われる.っまり,再生のデータは,記憶そのもの というよりは,ある画像を見た場合,それをどのように 記述するかという,語りのテキスト構造に関するデータ を示しているようだ.今回の実験では,刺激の周辺部分 に多くの物体が存在し,それにっいて再生することがで きたために,実験群や注視統制群に比べて,通常統制群 の再生項目数が多くなったのだが,もし,まわりに語る べき物体がそれほど多くない場合,結果は逆になる可能 性がある.つまり,実験群,注視統制群のほうが再生量

が多くなる可能性がある.

まとめ

 本研究の結果は,情動喚起は,再生と再認にともに抑 制効果を持っことが示された.しかし,再認記憶にっい ての抑制効果は,情動喚起によって生じるが,再生記憶 についての抑制効果については,刺激の中心に目が奪わ れ,記述がその部分に集中してしまうという効果によっ て生じている可能性が高かった.

文 献

1)Brown, R.&Kulik, J.1977 Flashbulb memo−

  ries. Cognition,5,73−99.

2)Burke, A., Heuer, F.,&Reisberg, D.1992   Remembering emotional events. Memory and

  Cognition,20,277−290.

3)Christianson,S,−A。1992 Emotional stress and   eyewltness memory:acritical review. Psycho−

  logical Bulletin,112,284−309.

4)Christianson, S.−A.&Loftus, E. F.1987

  Memory for traumatic events. Applied Cogni−

  tive Psychology,1,225−239.

5)Christianson, S.−A&Loftus, E. F.1991 Reme−

 mbering emotional events:The fate of detailed  information. Cognition and Emotion,55,81−

  108.

6)Conway,M 1995 Flashbulb Memories. NJ:

 Laurence Erlbaum

7)Duva1, S.&Wicklund, R。 A.1972 A theory of  objective self−awareness. Academic Press.

8)Heuer, F.&Reisberg, D.1990 Vivid memories   of emotional events.:the accuracy of remem−

  bered minutiae. Memory and Cognition,18,

  496−506.

9)Loftus, E. F.,&Burns, T.1982 Mental shock

  can produce retrograde amnesia. Memory and

  Cognition,10,318−323.

10)Loftus, E. F., Loftus, G, R。&Messo, J.1987   Some fact about Weapon effect . Law and

  Human Behavior,13,397−408.

11)越智啓太 1997 目撃者によるストレスフルイベン   トの記憶 一仮説の統合をめざして一 犯罪心理学   研究,35,49−65.

12)越智啓太 2000 ウェポンフォーカス効果 応用心   理学研究,26,37−49.

13)越智啓太・相良陽一郎 2001エモーショナルスト   レスが目撃者の記憶に及ぼす効果 犯罪心理学研究,

  39, 17−28.

14)越智啓太・相良陽一郎2002 目撃者の記憶におけ   る情動的ストレスー遅延交互作用の検討 犯罪心理   学研究,40,13−20.

15)越智啓太・相良陽一郎2005情動喚起下の目撃者の   記憶における詳細情報の忘却抑制犯罪心理学研究,

  43(印刷中)

16)大上渉・箱田裕司・大沼夏子・守川伸一2000不快   な情動が目撃者の有効視野に及ぼす影響 心理学研   究,72,361−368.

17)相良陽一郎・越智啓太 2000 エモーショナルスト   レスが目撃証言に及ぼす効果(10) 日本心理学会   第64回大会(京都大学)発表論文集

アペンデクス 実験で用いた再認テスト

1.主人公の人が最初に手に取っていたのは何ですか

  (Plot)

  ①冷凍食品 ②チョコレート ③チーズ ④お菓子 2.主人公がラップをしていた容器の中に入っていたの

  は何ですか(Plot)

  ①キュウリ ②豆腐③キムチ ④ほうれんそう 3.主人公が料理していたのは何ですか(Plot)

  ①肉 ②魚 ③野菜 ④果物

4.流しの中においてあったのは何ですか(C)

  ①皿 ②ティーカップ ③茶碗 ④なべ

(8)

5.それは,っぎのどのようなものでしたか(C)

  ①ブルーの無地②白い無地③チェックの模様   ④花柄

6.流しの横にかけてあったタオルはどのようなタオル

  ですか(Peri)

  ①みずいろ ②ピンク ③白 ④チェックの柄 7.主人公の人が持っていた包丁の柄(え)は(C)

  ①木製 ②黒色 ③白色 ④赤色

8.主人公の人のエプロンの柄(がら)は何ですか(Peri)

  ①花 ②蝶 ③草 ④波

9.流しのところには何の置物がありましたか(C)

  ①かえる ②ねずみ ③うさぎ ④ねこ

10.流しの奥にあった白鳥の置物の首のところのリボン

  の色は何色ですか(Peri)

  ①青 ②赤 ③黄 ④緑

11.主人公の人がきていたセーターは(Plot)

  ①青 ②赤 ③黄 ④緑

12.流しのわきの水切りのかごに入っていたのは(Peri)

  ①ティーカップ②コップ③なべ④皿

13.流しの場面で包丁の刃はどちらを向いていましたか

  (C)

  ①下,②上,③手前,④奥

14.台所の壁はどうなっていましたか(Peri)

  ①白い無地のタイル,②水色の無地のタイル,

  ③水色の海と船の模様 ④暗い紺色のタイル 15.主人公は最後に何をさわっていましたか(Plot)

  ①ガスコンロ,②炊飯器,③食器乾燥機④なべ

Abstract

 Memory fbr stimuli that were regarded to arouse emotions was empirically examined in the present study. There have been proposed three opposing hypotheses:the memory inhibition hy−

pothesis, the memory enhancement hypothesis, and the attention fbcusing hypothesis. The aim of the study was to examine which hypothesis would be valid. Participants fbr the experiment

looked at five color slides depicting one woman,s everyday life. One of the slides presented to

the experimental group was a critical stimulus which depicted a scene that the woman had in−

jured her丘nger by a kitchen knife and shed a lot of blood, but the corresponding slide fbr the

control group was the same except an image of the blood, which had been removed, or replaced

with green colored liquid. Participant s memory fbr the slides was tested in recall and recogni−

tion. The results showed that both of the recall and the recognition memory were more inhibited

in the experimental group. In addition, it was suggested that the inhibition of recall had been

caused by the attention fbcusing effect, and that the inhibition of recognition memory had been

caused by the arousing effect.

参照

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