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ラット重症虚血肢モデルにおける血流慢性化過程と血管新生因子の発現

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米子医誌 JYonago Med Ass 55

33-43

2004

ラット重症虚血肢モデルにおける

血流慢性化過程と血管新生因子の発現

鳥取大学器官制御外科学講座器官再生外科学分野(主任 雁 儀 成 二 教 授 )

佐 伯 宗 弘 , 金 岡 保 , 庭 儀 成 二

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Munehiro SAIKI

Yasushi KANAOKA and Shigetsugu OHGI

Division 01 Organ Regeneration Surgery, Delうartment01 Surgery, Fuculty 01 Medicine, Tottori Univers的J,Yonago,

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ABSTRACT

This study was designed to clarify the process of progression into a chronic state and ex -pression of the endogenous growth factors used rat hind1imb ischemia model.A mi1d ische -mia mode1 and a severe ischemia mode1 were prepared in rats by 1igating the common femor討 arterygroup (CF A) and both the CF A and the common iliac artery group (CIA) , respectively. We examined b100d f1ow, clinica1 ischemia index, growth factor expression and capillary dencity. Hind1imb necrosis occurred in 100% of CIA. The va1ues of b100d f10w in the adductor muscle were significant1y 10wer from day 1 to 28 in the CIA than in the CF A and sham. Whi1e those in the CF A became norma1ized after day 21. The va1ues of vascu -1ar endothe1ia1 growth factor (VEGF) in CIA were significant1y higher than those in CF A and sham at day 1 and 3. The va1ues of fib1ob1ast growth factor-2 (FGF-2) in CIA were significant1y higher than those in sham at day 3 and 7. The VEGF increased in the severe ischemia coincidental1y with a decrease in b100d flow, whi1e the FGF-2 increased in both severe and mi1d ischemia coincidental1y with an increase in b100d f10w and became norma1 -ized as the b100d f10w became stab1e. (Accepted on November 17, 2003)

Key words : VEGF, FGF-2, severe hind1imb ischemia

はじめに 近年,糖尿病の増加や高齢化社会への移行とと もに閉塞性動脈硬化症 (arterioscleroticob1ite -rans : ASO)が増加している1.2) ASOは冠動脈硬 化症,脳動脈硬化症とともに全身性動脈硬化症に おける三大疾患であり,心筋梗塞や下肢の運動機 能障害などにより生命予後も不良となることが判

(2)

34 佐伯宗弘・金問 保・臨儀成二 明している:3.4)

ASO

に対する臨床的な治療とし て抗凝固療法や血行再建術が行われその有効性は 確立されているが,進行した重症虚血肢では標準 的 治 療 法 に よ り 救 肢 で き な い 場 合 も 少 な く な い3.4) こうした慢性動脈閉塞による重症虚血肢 に対して,近年,骨髄幹細胞5.6)や遺信子治療7-10) により血管新生田子を誘導する血管新生療法が注 目されている.しかし,有効性が確認されたとす る血管新生療法の動物実験は大部分が急性虚血肢 モデルを使用しており,また,壊死を伴わない軽 症虚血であった5.1ト13) 急性虚血において,壊死 のない軽症虚血と足陛壊死を伴う重症虚血におけ る内因性の卑管新生因子の発現の棺違は充分解明 されていない.また,慢性虚血では臨床的にも急 性虚血とは異なる血管新生療法が必要と考えられ るが,慢性虚血に関する病態解明はいまだ不十分 と思われる. 本研究では,ラット急性虚血肢モデルとして, 壊死のない軽症虚血と足陛壊死を伴う重症虚血を 作成し,これら虚血重症度の異なるモデルを使用 し,急性虚凪の慢性化過程における血流変化と内 閤性の血管新生因子の発現を解析した. 対象および方法 実験モデル 本実験は鳥取大学医学部動物実験委員会の承認 を得た. 実験動物として体重250-300g, 8週齢のWistar系 雄性ラット(日本SLC,静岡)75匹を使用した. 実験期間中は室温230 C,12時間サイクルの明暗 (照明時間6:00-18:00)環境下で飼育し,市販飼 料 (CleaCE-2,日本グレア)と飲料水を自由に 摂取させた. 全身麻酔として, 50 mg/kg体重のベントパル ピタールナトリム (Nembutal,Abbott Laborato -ries, North Chicago, IL)を腹腔内に投与した. 従来多用されている下肢虚血モデル5,114),すな わち右鼠径部に横切聞を加え,右総大腿動脈とそ の分枝を露出,剥離し

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綿糸で結染抜去したも のを軽症虚血 (CommonFemoral Artery : CFA) 群とした.さらに腰部正中切開をおき,開腹下に 右総腸骨動脈を露出,剥離し

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絹糸で結主主切離 を加えたものを重症最血 (CommonIliac Artery : CIA)群とし, CIA群と同様の処置で血管剥離の み行った対照 (sham)群の3群で比較検討した. 虚血肢の肉眼的変化 ラット虚血肢モデルを作成後に,各群それぞれ は日目, 28日臣に屠殺予定とした5匹ずつ計10匹 を用いて,肢の病変の進展をは日間にわたり毎日 観察した.肢の肉眼的所見を「正常

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, 「足祉壊死」に分類し評価した.浮腫は参考所見 とした. 虚血肢血流の計測 下肢の皮膚血流および大腿内転筋の血流量双方 の評価を行った.モデル作成後, 1, 3, 7, 14, 21および28日目に各群5匹ずつ測定した.皮膚血 流の測定にはlaserDopp1er perfusion imager (LDPI, Lisca Inc., Linkoping, Sweden) 14)を,大 腿内転筋の血流量の測定には1aserDoppler flow -metry (LDF, ALF21D, ADVANCE, Tokyo,

]apan ) 15, 16)をそれぞれ使用した. 再び前述の方法で、全身麻酔を行った後,ラット をホットプレート上で仰臥位にし,体温を37"C に保温した状態で鼠径部以下の下肢皮庸血流を計 測した.今回の実験では, LDPIによる血流は非 虚血肢(左下肢)の平均値をIとして相対的に評 価した.これに引き続いて虚血肢鼠佳部に切開を 加え,大腿の中央部付近で血管を避けながら,内 転筋の血流量を血流測定用プローベを直接筋肉に 接触させ計測した.LDFによる内転筋の血流量 は, 10回の測定値の平均値をもって評価した. 虚血肢内転筋中のvascularendothelial growth factor (VEGF)および、fibroblastgrowth factor -2 (FGF-2)蛋白濃度の測定 モデル作成後1, 3, 7, 14および28日後に各群 それぞれ5控ずつ使用した.下肢血流量計測後に 屠殺し,虚血肢の内転筋を採取し重量を計測し た . 採 取 し た 筋 肉 にO.OlMリ ン 酸 緩 衝 食 塩 水 (PBS)を2.5m1力日え,氷中でホモジナイザーを 用い1分間ホモジネートした.これらを10,000x g, 5分間遠心分離後に上清を採取し測定まで-80 OCで保存した.上清中のVEGFおよびFGF-2蛋 白濃度はenzyme-linkedimmunoassay (ELISA) キッド (R&DSystems, Minneapolis, M N )を用 いて計測した.測定法は使用手順に従った.内転 筋中のVEGFおよびFGF-2蛋白濃度は,計測値を 採取時の重量で割った値 (pg/ g muscle)で評

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図1:虚血鼓の肉眼的変化 a:重症鹿血 (CIA)群 b:軽症虚血 (CFA)群

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モデル作成後28日自に,下肢血流量計測後に各 群5匹ずつ屠殺し虚血肢内駈筋を採取した.採取 後速やかにoptinumcutting temperature com-pound (OCT Comcom-pound : Miles, Elkhart, IN)

を用い,液体窒素内で封入した.切片中の徴ノj、血 管を評価するためにミクロトームを用いて5μm の厚さに薄切した切片をアルカリ性フォスファ ターゼ染色法にて染色したl7) 薄切した切片を4

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のアセトンに 5分開設潰し,田定を行った後 蒸留水で洗浄した.その後,ナフト-)レAS-BIリ ン酸・ナトリウム塩5mg,蒸留水25ml,

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下肢血流の継時的変化 a:大腿内転筋の血流量 b:虚血肢皮膚血流 統計処理 開 『 骨 四sJzam 間 品 四 回 CFA 四噂凶・ CIA Meanニ士

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#: P<O.Ol v.s cOlltrol (d) リス塩盟主緩衝液 (pH8.5) 25 m1, およびジアゾ ニウム塩ファースト赤TR填30m gを混和した皮 応液中に10分間浸潰した後に蒸留水で洗浄した. Derafie1d hematoxy1inにて対比染色し,蒸留水 で洗浄後に封入し光学顕微鏡で観察した.200倍 の10視野で血管数を計測し, 1 mm2あたりの血 管数をもって評価した. 平均髄は平均±標準偏差とした.統計処理は, StatViewのScheffe法を用いてANOVAで行った. 有意水準は全て, ρ<0.05を有意とした. 結 果 虚血肢の肉眼的変化 CIA群では1日目には100%に変色が発生し, 2

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図3・術後28日目の LDI画像 a : sham群 b:軽症虚血 (CFA)群 C 重症虚血 (CIA)群 37

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38 佐伯宗弘・金揖 保・醇、儀成ニ 表1:大腿内転筋のVEGF発現量 lB目 3日自 7自目 14日E 28B目 CIA群 CFA群 sham群 phυ:lLly m -十 ー が れ 目 1 3 Z 小 史 仙 日 6 2 1 T + 一 士 、 , FdaA 斗 44A 吐 〆 dnue 以 内 〆 U F九 jー υ ) 、 ρ η L O O N - z d n J μ z i i ネ 寸叶│││﹂ ﹁ l l J 側 ー ヘ υ ハ 吋 J V Q ノ ω 内 ノ “ ゥ i ハ u d 州 h 1 υ ρ h u t -υ ・ 1 A 4 4 n D ' i A q r h 十 一 十 一 十 一 nxu" 、 υρhu -、 υnud'ti t -ム ハ ' h H u n v ハ ν ハ H U t -υ n ノ μ q , Q t B E A T E B B -u η 寸 U i -- 寸 1 1 J け は -3 A 斗 A t t z d o D 7 t i l l 円、、わ 初 9 訓 + ⋮ + 一 + 一 ︼ 3 7 t 1 1 山 以 内 υ q d 14ιP れ Uphu 仲 初 日 113.32土58.75 109.23:t36.92 118.93土35.71 189.22土81.21 126.22:t31.12 116.35土24.2 pg / g tissu巴 * ・P<O.OI # : P<O. 001 表2:大腿内転筋のFGF-2発現量 n i t -A n u J Q o z u n h u n x u ' l i 輔 、 υ Q U A H U A 吐 ι υ t J Q U 間一土十一十一 ' 1 A 一 ハ udnkuphv 一 n / ι μ “ 月 t ' ハ 叫 , υ 一 2 ' . i A n x U a 刈 斗 Y4 一 ハ u J T B A ハ H U 一 η ワ ノ ω n 守4υ の 巴 一 nJωn つ , r , L 臼 1i 一 群 群 群 ⋮ A 1 m I Y B B B A 晶 F h " . F r C 庁 仁 し ぬ 3日自 口M M 門 口 a A 斗A l 7日目 3567.32:t603.2

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3197.58:t469.35二1#2216.22:t581.12 1# 1 1414.61土342.96~ 1244.42土434.4~~ 1621.35土420.2 28日目 2669.01:t796.01 1947.46:t943.92 1855.99士781.61 pg / g tissue *: P<0.05 #:P<O.005 日目より足祉壊死が発生して5日目には100%が足 祉壊死となった(図l-a).一方CFA群では1日目 には50%に変色が発生したが, 4日目には全て回 復し壊死は発生しなかった(図l-b).sham群で は虚血所見は発生しなかった.6日目以降は病変 の進展はみられなかった. 大腿部の血流 1)大腿内転筋の血流量 血流量はsham群に比べると, CFA群で約40 %, CIA群では約10%まで有意に低下した(図2 -a).3群間で比較するとCIA群は, 1日目以降28臼 目まで常にsham群及び、CFA群二に比べ有意に血流 低下を認めた.28日後においてはCIA群の血流量 はsham群の60%の回復にとどまった.一方CFA 群は, 1臼目以降14日目まで討lam群に比べ有意に 血流低下を認めていたが21日目には有意差は消失 した. 2)下肢皮膚血流 皮膚血流はsham群lこ比べると, CFA群で約50 %, CIA群では約35%まで有意に低下した(図2

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群間で比較すると内転筋の血流 と同様にCIA群は, 1日目以降28日目まで常に sham群及び、CFA群に比べ有意な血流低下を認め た.一方CFA群は, 1 EI目以降21日目までsham 群に比べ有意な鹿流低下を認めていたが28日目に は有意差は消失した. 大腿内転筋の血管新生因子蛋自発現量 1)VEGF 大腿内転筋のVEGF蛋白濃度は, CIA群では術 後1日目に最高値となった(表1).3群で比較する とCIA群は, 1, 3日自ではCFA群および、sham群 に比べ有意に高値であったが, HI f=I以降では3群 間の有意差は消失した.一方CFA群はいずれの 時期においてもsham群との聞に者意差は認めな かった. 2)FGF-2 大腿内転筋のFGF-2蛋白濃度は, CIA群, CFA 群ともに術後7日目において最高値となった(表 2).3群で比較すると, 1日目では3群聞に有意差は ないが, 3日告にはCIA群はsham群より高値とな り,さらに7臼自にはCFA群, sham群より高値で あった.しかし 14日目以降では3群間で有意差は 消失した. 大腿内転筋血管密度 術後28日目における虚血肢大!提内転筋の血管密

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日目の虚血肢内転筋血管密度

度は, sham群およびCFA群はCIA群に対して有 意に高値であった(図4,図5-a,b, C).一方CFA 群とsham群の間lこは有意差はみられなかった. 考 察 血管新生療法は急性動脈閉塞,慢性動脈閉塞の 両方に応用できることから,現在使用されている 動物実験モデルは大部分が急性動脈閉塞による虚 血肢モデルであり,通常,壊死を伴わない軽症虚 血である5.11-13) しかし臨床的に血管新生療法が 応用されているのは慢性動脈閉塞の壊死を伴う重 症虚血肢である6-9)ことから,本研究では,臨床的 な病態に近い慢性化重症虚血肢モデルを作成し て,血行障害と血管新生因子との関係を検討し た. 慢性動脈閉塞を動物実験で作成する場合には, Ameroid constrictorsを使用して狭窄を漸増して いく方法18,19)が知られているが,小動物での使用 は不可能であり,また,壊死を伴う重症虚血肢を 作成することもできない.従って,本研究でも急 性動脈閉塞により重症虚血肢を作成する方法を選 択した.動物は,マウスを使用した場合は,大腿 動脈を結撃すると下肢が壊死脱落してしまい長期 の観察ができないことから20),本実験ではラット を使用した.結果として,頻用されている大腿動

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脈の結主主のみの軽症虚血肢モデルでは壊死は発生 しなかったが,大腿動脈と腸骨動脈を結集するこ とにより足祉壊死を伴う重症虚血肢モデルを作成 することが可能で、あった.また,通常モデルと異 なり今回作成した重症モデルでは,

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日後におい ても有意な血流低下を伴う虚血状態を維持可能で あった.これらのモデルは方法論的に急、性動脈閉 塞ではあるが,急性虚虫による車流変化が安定し た状態では慢性閉塞と共通する病態が存在すると 考えられる.従って,今回作成したモデルを使用 して急性虚血の慢性化過程における血流変化と内 因性の血管新生因子との関連を検討した. 慢性動脈閉塞の虚血重症度は, Fontaineによる 臨床的分類が普及しており,無症状をl度,間駄 性破行を2度,安静時痔痛を 3度,壊死あるいは 虚血性潰蕩を4度としている.一方,急性動脈閉 塞の重症度分類はBalasの分類21)があるが,虚血 の範囲により分類されるので応用し難い.ここで は急性虚血から慢性虚血への移行の評価であり, 急性虚血所見により,正常(無所見),変色,足 ~l上壊死と肉眼的に評価した.軽症虚血群では, 常,あるいは変色から正常への回復であり,壊死 が発生せずに軽症虚車となった.一方重症虚血群 では,変色から足 ~l上壊死となり重症虚車となっ た . 従 っ て , 軽 症 虚 血 はFontaine2度,

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40 佐 伯 宗 弘 - 金 岡 保 ・ 薩 儀 成 二 a b c 図5:術後28日目の虚血肢内転筋(アルカリ性フォスファターゼ染色) a : sham群 b:軽症虚血 (CFA)群 C 重症虚血 (CIA)群

(9)

ラット重症虚鼠肢における血流慢性化過程と血管新生因子 41 重症虚血はFontaine4度に相当すると考えられ る. 中枢側結索後,大腿内転筋の血流量,並びに虚 血肢の皮膚血流は一旦低下し,以後漸増して21日 目で安定し,軽症虚血肢モデルでは血流低下が消 失したが重症虚血肢モデルでは血流低下が残存し た.こうした結果から,急性虚血は21日目以降で 安定化した血流状態になることが判明し,これ以 障が慢性虚血と近似した病態と考えられた. 血管新生因子のうち, VEGFは低酸素状態によ り誘導されることが判明している22,23) 今回,大 腿内転筋の血流変化に関連して, VEGF蛋自発現 は重症虚血では血流変化に呼応して著増したが軽 症虚血では増加はなかった, VEGF蛋自発現量か らも,作成した重症虚血肢モデルは充分な虚血が

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、できる. 一 方FGF-2は,低酸素状態とは独立して局所 の炎症反応に関連して誘導されるといわれてい る24-26) 下肢の虚血に伴い炎症皮応がおこること は知られているが27,28) 本実験においても, 症虚血群の方が虚血による局所の炎症が強いた め,軽症虚血群に比べ発現が早く,また蛋自発現 量が多かったと思われる.また,大腿内転筋の血 流変化からみると, FGF-2蛋白発現量は重症虚 血では血流増加と一致して7日目に最大となり, ま た , 軽 症 虚 血 で も 7日 目 に 最 大 と な っ た . FGF-2は脈管形成が行われている局所において 発現量が増大していると報告されていることか ら20,27)本実験の結果でも, FGF-2蛋自発現量 の増加が組織の血流増加過程に一致していること より,血管新生を含む側副路機能の促進に関与す る可能性が考えられた. 急性虚血が安定化すれば慢性虚血に近似した病 態になると仮説した 軽症虚血,重症虚血の血流 変化並びに血管新生因子の発現から,急性虚血は 21日以降では安定化した状態、であった.特に重症 虚血肢モデ、ルで、は,血流低下が存在するにもかか わらずVEGFやFGF-2の増加がないことが特徴的 であった.すなわち,捜性化した重症虚血とは, 迎流低下が存在するにもかかわらず内因性の血管 新生因子が活性化されない病態と考えられる.ま た,この時期の血管密度は重症虚血では軽症虚血 に比べ低下していた.今回の測定法では既存血管 と新生血管を区別できないことから,血流低下の ある重症虚血での血管密度の低下は予測された結 果であった. 以上のような検討から,従来多用されている軽 症虚鳳肢モデ、ルでは,既存の側副路で血流低下が 正常fとされることから血管新生療法の効果判定は 困難と考えられる.一方重症虚血肢モデ、ルでは, 急性虚血の安定化過程である21日以内では内田性 の血管新生因子の影響が存在すると考えられ,や はり血管新生療法の効果に影響すると考えられ る.しかし, 21日以上経過した重症虚血肢モデル は慢性鹿血に近似した病態であり,外悶性に投与 する血管新生療法の効果判定に有用と考えられ る. 結 圭五 回口 1,ラットの虚血肢モデルとして,大腿動脈の結 設では軽症虚血となり,腸骨動脈と大腿動脈 の結訟では足陛壊死を伴う重症虚血となった. 2,大腿内転筋の血流量は,軽症虚血では21B日 に正常化したが重症虚血は正常化しなかった. 3,大腿内転筋のVEGF蛋白発現量は,軽症虚血 では増加しなかったが,重症虚血では血流低 下と一致して1日目に最高となり7日目より正 常化した.一方, FGF-2蛋白発現量は,血流 増加に一致して軽症虚血,重症虚血ともに7日 目に最高となり, 14日目には正常化した.

4

,慢性化した重症虚血とは,血流低下が存在す るにもかかわらず内国性の血管新生因子が活 性化されない病態と考えられた. 稿を終えるにあたり,懇切なる御指導と御校聞を賜 りました鳥取大学医学部器官制御外科学講鹿器官再生 外科学分野臆儀成二教授,また御助言,御校閲賜りま した鳥取大学歴学部基盤病態医学講鹿器官病理学分野 井藤久雄教授,間大学院匿学系研究科機能再生医科学 専攻遺伝子再生医療学講座久留一郎教授に深甚なる謝 意を捧げます.また,本研究遂行にあたり御協力頂き ました器官再生外科学教室員各位に厚く御礼申し上げ ます. なお本論文の要旨は第31四日本血管外科学会総会 (2003年7月)ならびに第44回臼本脈管学会総会 (2003 年11月)において発表した 文 献 1) Johnson, G, (1987)The second generation vascular surgeon. J Vasc Surg 5 (2), 211

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-42 佐 伯 宗 弘 ・ 金 岡 保 - 躍 儀 成 二

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