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患者の不快感のためにネーザルハイフロ―の使用を中断した 1 症例

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Academic year: 2021

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Medical Gases, 22 (1):

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一般演題

患者の不快感のために

ネーザルハイフロ―の使用を中断した 1 症例

平田 淳司,寺島 玲子,岡田 玲奈,小鹿 恭太郎,大内 貴志,小板橋 俊哉

東京歯科大学市川総合病院 麻酔科

Key words: ネーザルハイフロー,顎矯正手術,経鼻エアウェイ

44-46

要 旨  患者は,高度肥満に加えて,下顎骨の移動量が大きかっ たため顎矯正手術術後の気道狭窄予防のためネーザルハイ フロー (NHF) の使用を計画した。  集中治療室入室後に NHF を装着したが,患者が不快感を 強く訴えたため使用を中断した。  経鼻エアウェイを挿入し NHF を使用したことで,経鼻エ アウェイ先端から放出される空気の流速が増加したことと, 正常肺を有する本患者に NHF を使用したことで,患者は不 快感を感じた可能性があると考えた。 緒 言  鼻腔高流量酸素療法(以下ネーザルハイフロー)は,最 大 60L/ 分までの加温・加湿した高流量・高濃度の酸素を経 鼻で供給する方法である1-3)。高流量の酸素を流すことで患 者の換気量や呼吸回数の影響を受けずに吸入酸素濃度 (FIO2) を一定に保ち,鼻咽頭の解剖学的死腔に溜まった呼気ガス を洗い出し,死腔換気量を減少させることで呼吸仕事量を 低減することができるとされている4)  顎変形症とは,上下顎の骨格や歯槽骨に変形をもつ病態 であり,具体的には,上顎前突症,上顎後退症,下顎前突 症や下顎後退症などがある。顎変形症の治療の一つとして 外科的矯正治療があり,上顎に対して Le-Fort I 型骨切り術, 下顎に対して下顎枝矢状分割術が多く施行される。Le-Fort I 型骨切り術は,上顎骨を下鼻道の高さで水平に骨切りし, 上顎の骨片を完全に遊離させて移動する方法である。下顎 枝矢状分割術は,下顎枝を矢状方向に内外の骨片に分割す る方法で,筋突起および関節突起を含む下顎枝骨片と下顎 体骨片に分離することで,下顎体骨片は上下,前後など任 意の移動が可能になる5)。よって,Le-Fort I 型骨切り術や下 顎枝矢状分割術は,顔貌および 合状態を理想的な位置に 移動することのできる治療法であるが,一方で術後に上気 道の形態変化と狭小化を指摘する報告があり6, 7),術後の重 篤な気道トラブルも報告されている8)。そのため,術直後に おける気道管理には細心の注意が必要である。  今回,高度肥満を呈する Le-Fort I 型骨切り術および下顎 枝矢状分割術を施行した患者に対して,術後の上気道狭窄 による低酸素血症予防の目的でネーザルハイフローの施行 を試みたが,患者の不快感のために施行を中止せざるを得 なかった症例を経験したので報告する。 症 例

 22 歳の男性。身長 178㎝,体重 110㎏,Body Mass Index (BMI) 34.7㎏ /m²。既往に高血圧症があり食事療法と運動療法を施 行していたが,術前検査データにおいて特記事項はなかっ た。上顎後退症,下顎前突症の診断のもと,全身麻酔下で 顎矯正手術を予定した。上顎は Le-Fort I 型骨切り術により 上顎骨を前上方へ移動し,下顎は下顎枝矢状分割術により 下顎を後方へ 9mm 移動させる術式であった(図1)。  本症例では,BMI が 34.7㎏ /m² という高度肥満に加えて, 下顎骨を 9mm 後方移動することで(図 2),術後に上気道狭 窄が引き起こされることを懸念した。そのため,抜管後に ネーザルハイフローの施行を計画した。

(2)

Vol.22 No.1, 2020

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経 過  麻酔導入はプロポフォール,レミフェンタニル,ロクロ ニウムで行い,マスク換気は容易であった。十分な筋弛緩 を得た後に,マッキントッシュ型喉頭鏡で喉頭展開を試み たが声門を視認することはできなかった(Cormack Grade Ⅳ)。そこで McGRATH®MAC(コヴィディエンジャパン株 式会社 , 東京)を用いたところ,声門を容易に視認できたた め経鼻気管挿管を行った。麻酔維持は空気,酸素,デスフ ルラン,レミフェンタニル,フェンタニルで行った。手術 時間は 5 時間 1 分,麻酔時間は 7 時間 7 分,出血量 150ml, 尿量 465ml,術中輸液量は 3050ml で特記事項なく終了した。 麻酔覚醒は良好で気管チューブ抜管直後に両側の鼻腔に内 径 7.0mm の経鼻エアウェイを挿入した。手術室で経過観察 を行ったが,上気道狭窄の所見を認めなかったため,術後 管理のために集中治療室へ入室した。   集 中 治 療 室 入 室 後 に FIO2 0.4, 流 速 30L / 分 の 設 定 で 予定通りにネーザルハイフロー(プレシジョンフロー®, Vapotherm 社)を開始したが,数分後に患者は不快感を強く 訴えたため使用を中止した。その後は,酸素マスク下に 5L / 分の投与を行い,上気道狭窄や低酸素血症などの合併症を 認めることなく手術翌日に一般病床へ転棟し,術後 9 日に 軽快退院した。 考 察  今回われわれは,高度肥満を呈する患者の顎矯正手術術 後の上気道狭窄の可能性を懸念した。神山らは,重度の睡 眠時無呼吸症候群を呈する高度肥満患者の口蓋 桃摘出術 術後にネーザルハイフローを用いて良好に管理できた9)

報告している。神山らの症例9)では Apnea Hypopnea Index が

71.2 回 / 時と重度の睡眠時無呼吸症候群を合併していたが,

図 1 本症例における予定術式 図 2 術前後の側貌セファログラム

図 3 ウェストン公式

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Medical Gases, 22 (1):

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本症例では,睡眠時無呼吸症候群は認めていない。しかし, 口蓋 桃摘出術術後は気道の開通性が改善することが考え られるが,本症例では,下顎骨を後方移動することで気道 の開通性が悪化することが考えられたことに加えて,小林 らが,睡眠時無呼吸症候群を合併していなくても,下顎骨 後方移動量の大きな症例や肥満がある症例では,術後に睡 眠時血中酸素飽和度の重度低下を認めた10)と報告している ため,ネーザルハイフローの使用を計画・実施した。  しかしながら,本症例ではネーザルハイフローの使用開 始数分後に不快感を訴えたため使用の中止に至った。われ われはその原因を考察し,①両側鼻腔に経鼻エアウェイを 挿入した状態でネーザルハイフローを使用したこと,②本 患者の呼吸機能は正常であり,ネーザルハイフローの使用 が適応ではなかったこと,の 2 つの因子があると考えた。  ①を考えるにあたり,流量,管径と流速の関係式である ウェストン公式(図 3)から,流速は流量と管径(本症例で は鼻腔の径)の商で表せる。このことから,流量が一定の 場合,鼻腔の径が小さくなることで流速が増加する。した がって,鼻腔粘膜の出血や腫脹による鼻腔閉塞の予防目的 で両側に内径 7mm の経鼻エアウェイを挿入した状態でネー ザルハイフローを使用したことにより,経鼻エアウェイ先 端から放出される空気の流速が増加し,鼻咽頭部に与える 刺激が強くなり,患者に不快感を与えた可能性がある(図 4)。  ②に関して考えると,本来,ネーザルハイフローは加温・ 加湿した高流量の酸素を経鼻で供給することで鼻咽頭の死 腔をウォッシュアウトして死腔の全体量を減らすことで呼 吸仕事量を減少させ,肺胞換気量を増やす効果があると考 えられている。また,閉口状態で軽度の呼気終末陽圧(PEEP) 効果が認められると報告されており,これらの利点から, ネーザルハイフローは高圧 PEEP を必要としない I 型呼吸不 全や軽症の II 型呼吸不全の症例が適応とされている4,11 ) そのため,正常肺を有する本患者にネーザルハイフローを 使用したことで,患者は不快感を感じた可能性がある。  ①,②のことから,正常肺を有する患者や術後に経鼻エ アウェイの使用下でのネーザルハイフローの施行は,適用 ではなかったことが考えられる。 結 語  今回,上気道狭窄に伴う合併症予防のためにネーザルハ イフローの使用を試みたが,患者の不快感のために使用を 中止せざるを得なかった症例を経験した。 文 献

1) El-khatib MF: High-flow nasal cannula oxygen therapy during

hypoxemic respiratory failure. Respir Care, 57: 1696-1698, 2012.

2) Sztrymf B, Messika J, Bertrand F, et al: Beneficial effects of humidified high flow nasal oxygen in critical care patients: a prospective pilot study. Intensive Care Med, 37: 1780-1786, 2011.

3)Parker RL, McGuinness SP, Eccleston ML: A preliminary randomized controlled trial to assess effectiveness of nasal high-flow oxygen in intensive care patients. Respir Care, 56: 265-270, 2011.

4) Kevin Dysart, Thonas L. Miller, Marla R. Wolfson, et al:

Research in high flow therapy: Mechanisms of action. Respir Med, 103: 1400-1405, 2009. 5) 西尾順太郎:顎変形症 第 3 版 口腔外科学.白砂兼光,他 編,東京,医歯薬出版,2011, pp60-64. 6) 片倉伸郎,海野雅浩,嶋田昌彦,他:顎変形症の外科的 矯正手術術後にみられる上部気道の形態的変化.日本臨 床麻酔学会誌,7(3): 52-58, 1987. 7) 杉岡伸悟,小谷順一郎, 百田義弘,他:骨格性下顎前突 症の外科的矯正手術後における上気道の急性変化につい て.日本歯科麻酔学会誌, 24(1): 55-61, 1996. 8) 小林正治:顎矯正手術の周術期管理.日本口腔外科学会 誌,62(11): 554-560, 2016. 9) 神山智幾,金井理一郎,澤田龍治,他:経鼻高流量酸素 療法を施行した,重度閉塞性眠時無呼吸症候群合併患者 に対する口蓋 桃摘出術の術後管理.ICU と CCU, 38(7): 491-493, 2014.

10) Tadaharu Kobayashi, Akinori Funayama, Daichi Hasebe, et al: Changes in overnight arterial oxygen saturation after mandibular setback. British Journal of OralMaxillofacial Surgery, 51(4): 312-318, 2013. 11) 富井啓介:ネーザルハイフロー療法の適応と限界.日 本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌,25(1): 53-57, 2015. (第 22 回日本医療ガス学会学術大会・総会 2018 年 11 月 24 日 口演)

図 1 本症例における予定術式 図 2 術前後の側貌セファログラム

参照

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