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心筋虚血領域に与えるインフルレンの影響      ー熱画像法による解析―

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Academic year: 2021

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     博士(医学)石川岳彦      学位論文題名

心筋虚血領域に与えるインフルレンの影響      ー熱画像法による解析―

学位論文内容の要旨

    I.研究目的

  近年、麻酔を含めた術中管理法の進歩により、手術の適応が拡大して いる。全身麻酔には主に吸入麻酔薬が用いられているが、種々の吸入麻 酔薬の中でもイソフルレンは心臓冠動脈に対して強い拡張作用を有し、

虚血性心疾患を合併する患者の麻酔に有用であるとする報告がある。し かし、この拡張作用が狭窄を有する冠動脈に盗流現象を招き、心筋虚血 を増悪させる可能性が示唆されている。

  本研究で応用された熱画像法(サーモグラフイ)は、非接触的に人体 表面の血流を評価する方法として、臨床応用されている。このサーモグ ラフィを心筋血流測定に利用して、イソフルレンが心筋虚血領域に与え る影響の非侵襲的かつ連続的な検討が可能と考えられた。そこで、心筋 熱画像(サーモグラム)情報を各種循環諸量およびイソフルレン濃度な どとあわせてコンピュー夕処理し、心筋虚血領域に対するイソフルレン の影響を解析する装置を考案した。本研究の目的は、(1)心筋虚血評価法 としてのサーモグラフイの有用性、(2)イソフルレン麻酔が心筋虚血部位 に及ぼす影響の定量的評価の2点である。

    I|.対象と方法

  7ー14kgのイヌ25頭を使用した。サイアミラール静脈内投与による麻酔導 入の後、気管内挿管を行い人工呼吸器にて調節呼吸とした。麻酔は酸素 50%、窒素50ワDで維持し、イソフルレン投与中にも同濃度の空気を使用し

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た。 イソフルレ ンの濃度は呼気ガス分析装置にて連続測定した。右大腿 動脈 より動脈血 圧を観血的に連続測定し、輸液は右大腿静脈から乳酸加 リン ゲル液を輸 注した。開胸後上行大動脈起始部に電磁JflL流計を装着 し、 心拍出量を 持続的に測定した。左冠動脈前下降枝あるいは対角枝を 心外 膜および心 筋組織より剥離し、結紮による急性心筋梗塞モデルを作 成し た。体温は 食道内プローブを用いて持続測定し、実験中は体温変化 を生 じないよう 留意した。サーモグラフイ撮影部(サーモカメラ)は露 出されたイヌの心臓から約30cmの高さに設置した。

  サーモグラムの撮影は毎秒30枚行い、連続する128枚のサーモグラムを 平均した。温度分解能は0.01℃とした。冠動脈結紮にともなう急性心筋虚 血領 域はサーモ グラム上、低温領域として明瞭に観察することができた ので、この温度低下領域をThermographically Determined Myocardial Is‑

chemic Area(以下TDMIA)とし、この面積の変化から心筋虚血領域の変化 を求 めた。サー モグラフイ装越からの画像信号は、心筋pH測定器、循環 艦視 装越および 気管内チューブに接続された麻酔薬濃度測定器のアナロ グ測 定俐[と共 に、コンピュータに実時間で入カされ、コンピュータの デイ 、スプレイ に連続的にu1カされるようにハードウェアおよびソフト ウ ェ ア を 構 築 し た 。 実 験 は イ ヌ を 以 下 の3群 に 分 け て 行 っ た 。 実験1

  長時nHにわたる冠勁脈の結紮がサーモグラムに及ぼす変化に関しての 報告がないため、一定のイソフルレン濃度で8時間維持し、血行動態、呼 気 終末 イ ソ フル レ ン 濃度 、 食道 温お よびTDMIAの経 時的変化 を観察し た。 実験終了後 、心臓を 摘出して 病理組織 学的標本を作成し、TDMIA領 域と組織変性の範ロHを比較した。

実験2

  冠動 脈結紮による心筋虚血を心筋酸素受給バランスの障害として検討 する 目的で、心 筋pHを測定 した。イ ソフルレン濃度の変化させ、TDMIA が拡 大あるいは 縮小した 場合の、TDMIA中心部と辺縁部のpH変化の差の

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相関を検討した。

実験3

   イソフルレン濃度を変化させ、これに伴うTDMIA の拡大および縮小を 血行動態とともに観察した。イヌにおけるイソフルレンの最小肺胞濃度 MAC は1 .2 ワ。とし、呼気終末イソフルレン濃度1MAC にて循環動態および TDMIA の対 照値を得た。次に、イソフルレン濃度をO .SMAC から2.5MAC ま で5 段 階に 変化 させ 、血 行動 態、 食道 温、 TDMIA を測 定し 、さ らに 2MAC のイ ソフ ルレ ン濃度 にて フウ ニレ フリンを静注した時のTDMIA を 観 察 し た 。 ま た 、 平 均 動 脈 圧 と TDMIA の 相 関 を 検 討 し た 。      川.結果

実験1

   実験中、循環動態およびTDMIA に有意な変化は認められなかった。光 学顕微鏡による組織病理学的所見では、TDMIA と一致する心外膜直下に 心筋細胞の核の不均一化および細胞質の萎縮が心筋の5 層から10 層以上 に認められた。

実験2

   虚血領域中心部のpH は、冠動脈結紮後有意に減少し、6 時間後の実験 終了 まで ほぼ一定であった。一方、TDMIA 周辺部の心筋pH とTDMIA の大 きさの間には、有意な負の相関を認めた。

実験3

   イ ソフ ルレン濃度の変化により、TDMIA は速やかに変化した。TDMIA はイソフルレン濃度の上昇に伴い有意に拡大したが、フ工二レフリン投 与により対照値まで縮小した。心拍数はイソフルレン1.5 %の点を除いて 濃度 依存 性に減少した。フェニレフリン投与では心拍数に有意差はな かっ た。 平均動脈圧はイソフルレンの濃度依存性に有意に低下した。

フウニレフリン投与により、イソフルレン1MAC の平均動脈圧まで上昇し

た。心拍出量は0.5MAC の点を除いて濃度依存性に減少した。フェニレフ

リン投与前後で有意な差はなかった。TDMIA の大きさと平均動脈圧変化

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の間には正の相関を認めた。

    IV.考察

  実 験1にお い て 、心 筋 細胞 の 萎 縮は ほ ぼTDMIAの範 囲 と 一致 してお り 、TDMIAは虚血 によって 障害され た心筋細 胞の領域を反映すると考え られた。また、心筋のpHは心筋における酸素供給と消費量のノヾランスの 指 標と して用い られるが 、実験2の 結果から 、TDMIAの変化は 心筋虚血 の 改善およ び増悪の重要な指標として把握されることが裏付けられた。

TDMIAの拡大 あるいは 縮小とは 側副血行 路を介し たTDMIA内部への 血流 量 の反映と 考えられる。心筋虚血領域を保護するには側副血行路を介し た 虚血領域 への血流 の増加が 必要であ る。実験3の結果ではイソフルレ ン 濃度の上 昇に伴っ てTDMIAが拡大 し、急性 心筋虚血が増悪しているこ と を示唆し た。イソフルレンは強カな血管平滑筋弛緩作用、とくに冠動 脈 に対する 強カな拡張作用を持っことが知られ、虚血性心疾患を合併す る 患者のイ ソフルレ ン麻酔に 対する是 非が議論されている。実験3にお い て、フ工 二レフリ ンの投与 によりTDMIAが 縮小したとから、側副血行 路 を介した 血流を増加させるためには、イソフルレンの冠動脈拡張作用 を 期待 するより もむしろ 動脈血圧 の維持が 重要である と結論付 けられ た。

  サーモグラフイの利点には、(1)測定が実時間かつ連続的であること、

(2)画像として2次元的な計測が可能であること、(3)非破壊的かつ非侵襲 的であり、複数回の実験を反復可能なこと、(4)温度低下部位の面積を計 算 すること により、薬物の効果を定量的に評価できること、などが挙げ ら れる。本 研究に使用したサーモグラフイ装置には外部インターフェイ ス が備えら れており、これを利用してコンピュータによる心筋虚血領域 の 連続評価 が可能であった。血行動態および吸入麻酔薬濃度の連続測定 と を統合し た本装置の利用により、具体的な情報の解析が実現した。以 上 から、コ ンピュータと組み合わせた心筋サーモグラフイ法による解析 法 は 、 心 筋 虚 血 研 究 法 の ひ と っ と し て 有 用 で あ る と 考 え られ た 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨

     学位論文題名

心筋虚血領域に与えるイソフルレンの影響      一熱画像法による解析一

1.研究目的

  1.イソフルレン麻酔が心筋虚血部位に与える影響の定量的評価、2,心筋虚血 評 価法 としての 熱画像 法(サー モグラ フイ)の 有用性、 の2点をイヌ におい て検討した。

2.対象と方法

  7‑14kgの イヌ25頭 を使用し た。サ イアミラ ール静脈内投与による麻酔導入 の 後、 気管内挿 管を行 い調節呼 吸とし た。麻酔 は酸素50%、窒素50%で維 持 し 、イソフ ルレン 投与中に も同濃度 の空気 を使用した。イソフルレンの濃度 は 呼気ガス 分析装 置にて連 続測定し た。右 大腿鋤脈より動脈血圧を観血的に 連 続測定し た。開 胸後上行 大動脈起 始部に 電磁血流計を装着し、心拍出量を 測 定した。 左冠動 脈前下降 枝あるい は対角 枝を結紮し、急性心筋梗塞モデル を 作成した 。サー モグラフ イ撮影部 (サー モカメラ)は鑄出されたイヌの心 臓から約30cmの高さに設置した。

  サ ーモグラ ムの撮 影は毎秒30枚行い、連続する128枚のサーモグラムを平均 し た。温度 分解能 は0.01℃とし た。冠 動脈結紮 にともなう急性心筋虚血領域 は サーモグ ラム上 、低温領 域として 明瞭に 観察することができたので、この 温度低下領域をThermographically Determined Myocardial Ischemic Area(以下

修 従 秀       性慶 物舘 田 劒古 安 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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TDMIA)と し、 この 面積 の変 化 を虚 血領 域の 変化とした。サーモグラフイ装 避 から の画 像信 号を、心筋pH測定装越 、循環艦祝装位および麻酔薬濃度測定 装 冊か らの 値と 共にコンピュータに実 時間で入カし、コンピュータに迎続的 に 表 示 す る よ う に シ ス テ ムを 構築 した 。実 験は イヌ を 以下 の3群に 分け て 行った。尖験1)一定のイソフルレン濃度で81kjz|iIIJ維持し、血行動態、呼気終 末イソフルレン濃皮、食逆温および、・TDMIAの経時的変化を観察した。実験終 了 後、 心臓 を摘 出し て病 理組 織学 的標 本を 作成し、TDMIA領域と組織変性の 範 囲を 比較 した 。実 験2)冠 動 脈結 紮に よる 心筋虚血を心筋の酸素受給バラ ン スの 障害 とし て検討する目的で、心 筋pHを測定した。イソフルレン濃度を 変 化さ せ、TDMIA中 心部 と辺 縁 部のpH変 化の 差の 相関 を検 討し た。 実験3) イ ソフ ルレ ン濃 度を 変化 させ 、こ れに 伴うTDMIAの拡大および縮小を血行動 態とともに観察した。イヌにおけるイソフルレンの最小肺胞濃度MACは1.2°/。

とし、呼気終末イソフルレン 濃度1MACにて循環動態および、:TDMIAの対照値 を 得た 。次 に、 イソフルレン濃度をO.5MACから2.5MACまで変化させ、血行 動 態 、 食 道 温 、TDMIAを 測 定し 、さ らに2MACのイ ソフ ルレ ン濃 度に てフ ェ ニ レ フ リ ン を 静 注 し た 時 のTDMIAを 観 察 し た 。 ま た 、 平均 動脈 圧とTDMIA の相関を検討した。

3.結果

  実験1) 実験 中、 循環 動態 お よびTDMIAに 変化 は認 めら れ なか った 。光学 顕 微鏡 によ る組 織病 理学 的所 見で は、TDMIAと一致する心外膜直下に心筋細 胞 の核 の不 均一 化、 およ ぴ細 胞質 の萎 縮が 心筋の5層から10層以上に認めら れ た。 実験2) 虚血 領域 中心 部 のpHは、 冠動 脈結 紮後 に減 少し 、6時 間後の 実 験 終 了 ま で ほ ぼ 一 定 で あ っ た 。 一 方 、TDMIA周 辺 部 の心 筋pHとTDMIAの 大 きさ の間 には 、負 の相 関を 認め た。 実験3)イソフルレン濃度の変化によ り 、TDMIAは 速 や か に 変 化 し た 。TDMIAは イ ソ フ ル レ ン濃 度の 上昇 に伴 い 拡 大し たが 、フ ェニレフリン投与によ り対照値まで縮小した。心拍数はイソ フルレン1.5MACの時点を除いて濃度依存性に減少した。 フェニレフリン投与 で は心 拍数 に有 意差はなかった。平均 動脈圧はイソフルレンの濃度依存性に 低 下し た。 フウ ニレ フリ ン投 与に より 、イ ソフ ルレ ン1MACの平 均動 脈圧ま

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で上昇 した。心 拍出量 は0.5MACの点を 除いて 濃度依存性に減少した。フェニ レフ リン投与 前後で差 はなか った。TDMIAの大 きさと平 均動脈 圧変化の 間に は正の相関を認めた。

4.考察

  実 験1に お い て、 心 筋 細 胞の 萎 縮 はほ ぼTDMIAの範 囲 と 一致 し て おり 、 TDMIAは虚血に よって 障害され た心筋細 胞の領 域を反映 すると 考えられ た。

また 、 実 験2の 心 筋pHの 結 果から 、TDMIAの変化は 心筋虚 血の改善 および増 悪の 重要な指 標である ことが 裏付けら れた。TDMIAの拡 大ある いは縮小 とは 側副 血行路を 介したTDMIA内部 への血流 量の反 映と考え られる 。心筋虚 血領 域を保 護するに は、側 副血行路 を介した 虚血領 域への血流の増加が必要であ る 。 実 験3に お い て、 イ ソ フ ルレ ン 濃 度の 上 昇 に伴 っ て 拡大 し たTDMIAが フェニ レフリン の投与 により縮 小したと から、 側副血行路を介した血流を増 加させ るために は、イ ソフルレ ンの冠動 脈拡張 作用を期待するよりも動脈血 圧の維持が重要であると結諭付けられた。

  サーモグラフイの利点には、(1)測定が実時間かつ連続的であること、(2)画 像とし て2次 元的な計 測が可 能である こと、 (3) 非破壊的かつ非侵襲的であ り、複 数回の実 験を反 復可能なこと、(4)温度低下部位の面積を計算すること により 、薬物の 効果を 定量的に 評価でき ること 、などが挙げられる。本研究 に使 用 し た サー モ グ ラフ イ 装置に は外部 インター フェイス が備え られてお り、 こ れ を 利用 し て コン ピ ュータ による 心筋虚血 領域の連 続評価 が可能で あった 。以上か ら、コ ンピュー タと組み 合わせ た心筋サーモグラフイによる 解 析 法 は 、 心 筋 虚 血 研 究 法 の ひ と っ と し て 有 用 で あ る と 考 え ら れ た 。

参照

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