博 士 ( 歯 学 ) 土 岐 志 麻
学位論文題名
Early establishment of lesion‑lnSenSitiVematurebarreletteS COrreSpondingtoupperlipVibriSSaeindeVelopingmiCe ( マウ ス三叉神経核にお ける上唇部バレレッ トの発達)
学位論文内容の要旨
ヒ 卜以外 の哺 乳類 の顔 面に は洞 毛と 呼ば れる特殊な感覚毛が存在する。マウス の 上 顎 部 に はA列 か らE列 ま で 整 然 と 並 ぶ 非 常 に 長 い 洞 毛 が存 在 し 、 三 叉 神 経 の支 配を受 けて いる 。口 腔・ 顔面 領域 から の体性感覚を中枢に伝える知覚伝導路 に 沿っ て 洞 毛1本1本 に 対応 した マッ プ構 造が 形成 され 、三 叉神 経核 ではバ レレ ット 、視床VPM核で はバ レロ イド 、大脳 皮質 感覚 野で はバ レル と呼 ばれ ている。
こ れら は ミ ト コ ン ド リ ア酵 素の ひと つで ある チ卜 ク口 一ム オキ シダ ―ゼに よる 酵素 組織化 学に より 可視 化す るこ とが でき る。
こ れらの マッ プ構 造は 生後 まも なく 出現 するが、形成後しばらくの間は末梢神 経 活動 に 依 存 し て 維 持 され る。 この 期間 を臨 界期(critical period)とい い、
この 時期に 洞毛 の除 去、 毛根 焼灼 、眼 窩下 神経切断などによって求心路を遮断す ると 、―度 形成 され た構 造は 消失 する 。こ の時期以降は末梢からの求心路を遮断 して も、構 造は 消失 する こと なく 末梢 神経 活動に依存しない永続的な構造として 完成 する。 マウ ス顔 面に は上 顎部 に5列 に配 列す る洞 毛以 外に も洞 毛が 存在し、
上 唇部 に は 短 い 洞 毛 が 約110本 密集 し て 存 在 す る 。 ロ 唇部 領域 の知 覚は生 後間 もな いマウ スの 栄養 の摂 取に 重要 な吸 啜反 射にかかわっており、特に上唇部への 刺激 が反射 の誘 因と なる こと が知 られ てい る。
目 的
新 生 児期 の上 唇部 への 知覚 刺激が 口腔 機能 の発 達に どの よう に関 連し てい る か につ いて、 マウ スの 上唇 部の洞毛に対応して存在する三又神経核バレレットの 形 成と 臨界期 を検 索す るこ とにより明らかにした。また、上顎部洞毛に対応して 存 在す るバレ レッ トの 臨界 期との比較を行い、バレレット形成に関する部位的特 異 性に ついて 検討 した 。
方法
C57BLの マウ ス(P1〜P10:生 日をP1)72匹を用いた。ザンボーニ液によ る 潅流 固定 を行い、抜脳後、クリオスタッ卜で30ルmの凍結切片を作製、バ レレッ卜の検出はチトクロームオキシダーゼ酵素組織化学により行った。臨界期 終了時期の判定を行う際には、各発達過程のマウスの右眼窩下神経を切断し、切 断端を電気メスで焼灼した。その5日後に潅流固定し、抜脳後同様の組織化学に より、障害側のバレレッ卜の有無を判定した。その際、反対側をコン卜ロールと して使用した。
結果
1.上顎部バレレットと上唇部バレレッ卜の位置関係
生後6日のマウスの三又神経核i nterpolaris核では上顎部バレレッ卜の背 側内側部に上唇部バレレッ卜が存在し、240ルmの範囲で吻側に行くほど上唇 部バレレットの領域が明瞭であった。また、下唇部洞毛に対応するバレレットが その背側に存在した。
2.バレレッ卜の発現の時期の違い
上 顎部 バレ レットの5列の区画は生後24時間の間にはっきりと現われてく るが、上唇部バレレットは生後2日から4日にかけてその領域の区画がはっき りしてくる。上唇部バレレッ卜の形成は上顎部バレレットに比ベ2〜3日遅れる ことが判明した。
3.臨界期終了時期 1)上顎部バレレット
生後1日で神経切断した例では、その5日後でのコントロール側のバレレッ トの区画に異常は認められなかったが、傷害側のバレレットは消失していた。生 後3日で切断した例では傷害側のバレレットの領域にノヾックグランドよりやや 高いチ卜クロームオキシダーゼ活性が認められたが、区画は確認できなかった。
生後7日で神経切断した例では傷害側においてもコントロール側と同様にはっ きりとした区画が維持されていた。
2)上唇部バレレット
生後1日で神経切断し、その5日後に染色した例では、傷害側の上唇部バレ レットは消失していた。しかし、眼窩下神経支配ではない下唇部バレレットの区 画と染色濃度は明瞭であった。生後3日で神経切断した例ではバックグランド より高い染色性が見られ洞毛1本1本に対応したはっきりとした区画が確認で きた。生後7日で神経切断した例では傷害側はコントロール側と同様にはっき りとした区画が維持されていた。
3)臨界期終了時期の比較
上顎部バレレットはP5までの神経切断例ではすべてのマウスで術側のノヾレ
レッ卜が確認できなかった。しかしその後、徐々に区画の維持されたバレレット の出現率が高くなり、P9ではすべてのマウスでバレレッ卜の区画が維持された。
上唇部洞毛に対応したバレレットでは、P3で神経切断したマウスですでに区画 が維持されたマウスが出現し、生後6日に切断した例ではすべてのマウスで術 側のバレレットの区画が維持された。以上のことから、上唇部バレレットの臨界 期 は 上 顎 部 バ レ レ ッ ト に 比 ベ3日 早 く 終 了 す る こ と が 判 明 し た 。
考察
上唇部バレレッ卜の形成開始は上顎部バレレットに比ベ2〜3日遅れ、臨界期 終了時期は3日早かった。これは上顎部の非常に長い洞毛は、羊水の流れなど により胎生期から刺激を受けるためバレレットの形成が早くから始まり、これに 対して上唇部の洞毛は短く、そのような刺激を受けることが少ないため形成が遅 れると考えられる。その後、上唇部は吸啜反射の際、常に強い刺激を受け続ける ために、出生後急速に発達成熟すると考えられる。また、これまでにNMDA型 グルタミン酸受容体s2サブュニツ卜のノックアウ卜マウスでは吸畷反射が見 られないこと、三又神経核の上顎部バレレットが形成されていないことが判明し ており、s2サブユニットが新生児の生存・成長に重要な分子であることが明 らかにされている。上唇部バレレットは出生直後に急激に成熟することから新生 児期に重要な働きをレていると考えられ、その過程においてもE2を含むNMDA 型グルタミン酸受容体を介したシグナル伝達が関与している可能性が高い。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Early establishment of lesion‑lnSenSitiVematurebarreletteS COrreSpondingtoupperlipVibrlSSaeindeVelopingmiCe ( マ ウ ス 三 叉 神 経 核 に お け る 上 唇 部 バ レ レ ッ ト の 発 達 )
マウスの顔面には探索行動時に重要な洞毛が存在し、三叉神経の支配を受け てぃる。口腔・顔面領域からの体性感覚を中枢に伝える知覚伝導路に沿って洞 毛1本1本に対応したマップ構造が形成され、三叉神経核ではバレレット、視 床VPM核ではバレロイド、大脳皮質感覚野ではバレルと呼ばれてぃる。これら はミトコンドリア酵素のひとつであるチ卜ク口ームオキシダ―ゼに対する酵素 組織化学により可視化することができる。
これらのマップ構造は生後まもなく出現するが、形成後しばらくの間は末梢 神経活動に依存して維持される。この期間を臨界期(criticalperiod)とぃ い、この時期に洞毛の除去、毛根焼灼、眼窩下神経切断などによって求心路を 遮断すると、一度形成された構造は消失する。この時期以降は末梢からの求心 路を遮断しても、構造は消失することなく末梢神経活動に依存しなぃ永続的な 構造として完成する。マウス顔面には上顎部に5列に配列する洞毛以外にも洞 毛が存在し、上唇部には短い洞毛が約110本密集して存在する。生後間もなぃ マウスでは、□唇部領域の知覚は、栄養の摂取に重要な吸啜反射にかかわって おり 、特に 上唇 部へ の刺 激が反射の誘因となることが知られてし、る。
本研究は、新生児期の上唇部への知覚刺激が口腔機能の発達にどのように関 連してぃるかについて、マウスの上唇部の洞毛に対応して存在する三叉神経核 バレレットの形成と臨界期を検索することにより明らかにしたものである。ま た、上顎部洞毛に対応して存在するバレレッ卜の臨界期との比較を行い、バレ レ ッ ト 形 成 に 関 す る 部 位 的 特 異 性 に つ い て の 検 討 が な さ れ た 。
久 忠
光 彦
春
重
雅
口 池
田 辺
小 赤
吉 渡
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
方法及び結果の概略
C57BLのマ ウス を用 い、 灌流 固定 後抜 脳し30メmの凍 結切 片を 作製 した 。バ レ レ ット の検 出は チ卜 クロームオキシダーゼ酵素組織化学により行った。臨界期終 了 時 期 の 判 定 を 行 う 際 に は 、 各発 達過 程(Pl〜Pl0)の マウ スの 右眼 窩下 神経 を 切 断し 、切 断端 を焼 灼し た。 その5日後 に灌 流固 定し、抜脳後同様の組織化学に よ り、 障害 側の バレ レッ卜の有無を判定した。その際、反対側をコン卜ロ―ルと して使用した。上顎部のノヾレレソ卜の5列の区画は生後24時間の間にはっきりと 現 われ るの に対 し、 上唇部のバレレッ卜は生後2日から4日にかけてその領域の区 画 がは っき りし てき た。このことから上唇部バレレッ卜の形成の開始は、上顎部 ノくレレッ卜に比ベ2〜3日遅れることが判明した。また、臨界期終了時期を比較し た 場合 では 、上 顎部 バレレットではすべてのマウスで臨界期の終了が確認された のは生後9日であったが、上唇部ノくレレッ卜では、生後6日ですべてのマウスの臨 界 期の 終了 が確 認で きた。以上のことから、上唇部バレレットの臨界期は上顎部 バレレッ卜に比ベ3日早く終了することが判明した。
研究の位置付けとその評価
本結果について学位申請者は、上顎部の非常に長い洞毛は、羊水の流れなどに より胎生期から刺激を受けるためバレレッ卜の形成が早くから始まり、これに対 して上唇部の洞毛は短く、そのような刺激を受けることが少なぃため形成の開始 が遅れること、その後、上唇部は吸畷運動の際、常に強い刺激を受け続けるため に、 出生後 急速 に発 達成 熟す るこ とを 考察 で述 べて ぃる 。これまでにNMDA型グ ルタ ミン酸 受容 体c2サブ ユニ ット のノ ック アウ 卜マ ウス では吸啜反射が見られ なぃこと、三又神経核の上顎部バレレッ卜が形成されてぃなしヽことが判明してぃ る。本研究により、上唇部バレレットは出生直後に急激に成熟し、新生児期に重 要な 働きを して ぃる こと が示 唆さ れた こと から 、今 後NMDA型グルタミン酸受容 体との関連についてもさらに研究の発展が期待される。
学位申請者は、主査及び副査と個別に会し、本論文に対する審査が口頭試問に より行われた。各審査担当者は学位申請者に対し、研究の内容並びに関連領域に ついて詳しく質問を行った。いずれの事項についても適切、かつ明快な回答が得 られた。本研究は、新生児期の口腔・顔面領域の知覚伝達系の発達に関して、臨 界期とぃう視点から部位的特異性並びに口腔機能との関連性を明らかにしたもの であり、歯科学の分野はもとより関連領域にも寄与するところ大と考えられる。
以上のことから本学位申請者は博士(歯学)の学位授与に値するものと詔められ た。