博 士 ( 歯 学 ) 小 阿 瀬 香 織
学 位 論 文 題 名
研削面の違いがレジンセメントと 接着システムの歯質接着性に及ぼす影響
.学位論文内容の要旨
[ 緒 言 ] 審 美 修 復 の 普 及 に 伴 い 使 用 頻 度 が 増 加 し て い る レ ジ ン セ メ ン ト に は 、 近 年 注 目 さ れ て い る レ ジ ン 修 復 用1ス テ ッ プ 型 接 着 シ ス テ ム と 同 様 な コ ン セ プ ト を 持 つ 製 品 が あ る 。 こ の1ス テ ッ プ 型 接 着 シ ス テ ム に お い て は 、 レ ギ ュ ラ ー ダ イ ヤ モ ン ド ポ イ ン ト 研 削 面 に 残 存 す る 厚 い ス ミ ヤ ー 層 が 接 着 強 さ を 低 下 さ せ る こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 各 種 レ ジ ン セ メ ン ト と 接 着 シ ス テ ム の 、2種 の ダ イ ヤ モ ン ド ポ イ ン ト 形 成 被 着 面 ( エ ナ メ ル 質 お よ び 象 牙 質 ) へ の 接 着 強 さ を 測 定 し 、 接 着 に よ り 有 効 な 臨 床技 法を 検討 し た。
[ 材料 と方 法] 本 研究 で用 いた レジ ンセ メン トは 、SuperーBond C&B (Sun Medical: SB)、 Panavia Fluoro Cement (Kuraray: PF)、RelyX Unicem (3M ESPE: Uni)、LINKMAX (GC:
LM)、Fuji LUTE (GC: FL)の5製 品 で あ り 、 接 着 シ ス テ ム は 、Single Bond (3M/ESPE:
SiB)、Clearfil MEGA BondくKuraray: MB)、PromptLーPOP (3M/ESPE: PL)、XENO CF (Sankin: Xeno)、Reactomer Bond (Shofu: RA)、 試 作 ボ ン デ ィ ン グ シ ス テ ムSI一IB551 (Shofu: SIIB)の6製 品 で あ る 。 ヒ ト 抜 去 大 臼 歯 を 、 レ ギ ュ ラ ー(R)あ る い は ス ー パ ー フ ァ イ ン ダ イ ヤ モ ン ド ポ イ ン ト(SF)に て 注 水 下 で 高 速 切 削 し 、2種 類 の 象 牙 質 被 着 面 お よ び エ ナ メ ル 質 被 着 面 を 得 た 。 各 種 接 着 シ ス テ ム を メ ー カ ー の 指 示 通 り に 接 着 処 理 し 、 コ ン ポ ジ ッ ト レ ジ ン(Clearfil AP−X,Kuraray)を 築 盛 し た 。 レ ジ ン セ メ ン ト に お い て は 、 コ ン ポ ジ ッ ト レ ジ ン で 作 製 し た 直 径10mm、 高 さ6mmの 円 柱 を 各 種 レ ジ ン セ メ ン ト に て 接 着 き せ た 。 こ れ ら 試 料 を24時 間37℃ 水 中 保 存 後 、 微 小 引 張 り 接 着 試 験 用 試 片 を 調 整 し 、 接 着 強 さ を 測 定 し た 。 接 着 試 験 後 、 破 断 面 の 破 壊 形 態 を 調 べ る た め、 走査 型電 子 顕微 鏡に て破 断面 の観 察を 行っ た。
[ 結 果 ] エ ナ メ ル 質 接 着 強 さ は 、 レ ジ ン セ メ ン ト で はR研 削 面 で 、SBが29. lMPaと 最 大 値 を 示 し 、LM (24.7MPa)、FL(19.1 MPa)、PF (14.6MPa)、Uni (8.5MPa)の 順 で あ つ た 。SF研 削 面 で は 、SBが33. OMPaと 最 大 値 を 示 し 、PF (23.6MPa)、LM (23.5MPa)、 FL (19.4MPa)、Uni (13.9MPa)の 順 で あ っ た 。 接 着 シ ス テ ム で は 、R研 削 面 で 、SiBが 31. 8MPaと 最 大 値 を 示 し 、MB (29.8MPa)、PL (22.2M]Pa)、Xeno(18.6MPa)、SIIB (14.O ―816−
MPa)
、RA (8.5MPa)
の順 であ った 。SF研削 面で は、SiBが28. 5MPa
と最 大値 を示し 、MB (26.lMPa)
、PL (24.lMPa)、Xeno (24.OMPa)、SIIB (15.7MPa)、RA(10.0MPa)の順 であ った 。象 牙質 接着 強さ は、レ ジン セメ ント では 、R研削面 で、SBが27. lMPaと最 大値 を示 し、LM
(j7.7MPa)
、Uni(13.3MPa)、FL (10.5MPa)、PF (9.4MPa)の順であっ た。SF
研 削面 では 、LMが29. 4MPaと最 大値 を示 し、PF (23.4MPa)
、SB(19.8 MPa)、FL
(17.0 MPa)
、Uni (13.8MPa)の 順で あっ た。 接着 シス テム では、R研削面で、MBが52. lMPa
と最大値を示し、SiB (41.1MPa)、Xeno (25.2MPa)、PL (21.lMPa)、SIIB(18.5MPa)
、RA (18.4MPa)の 順で あった 。SF研削 面で は、NfB
が54. 3MPaと最大値を示し、Xeno (44.2MPa)
、SiB (35.9MPa)
、PL (33.4MPa)、RA (30.4MPa)
、SIIB (24.7MPa)の 順であった。[考察]
1
. エ ナ メ ル 質 に お け る レ ジ ン セ メ ン ト と 接 着 シ ス テ ム の 接 着 性 能各 レ ジ ンセ メン トのエ ナメ ル質 への 接着 強さ にっ いて は、
Uni
に おい てR研削面 より も
SF
研 削 面の 方 が 高 い 接 着 強 さ を 示 した が、Uniは 、歯 面処 理材 が付 属して おら ず、 セメ ント 泥と エナ メル質 面との直接の反応で接着するものと考えられる。こ
の セ メ ン ト 泥の
pH
は 練 和 後 約1
分 で 約1.3
と 比 較 的 低 い が 、 接 着 強 さが 低いこ とか ら、 エナ メル 質表 面の 脱灰や 、セメント泥の浸透が十分ではないことが考えられ
た 。次 に各 接着 シス テム のエナ メル質への接着強さについては、いずれのシステム
に おい ても 、両 研削 面間 に有意 差は認められなかった。これは、Sil3はりン酸にて
エッチングを行うため、スミヤー層の種類にかかわらず、.その強い脱灰能により溶
解 し、 強固 なレ ジン タグ を形成 したためと思われた。また、最も低い接着強さを示
し た
RA
に お いて は 、pH
が213
−2.5
と 比 較 的 高 く 、 そ の た め ス ミ ヤ ー層 が多く 残存 し、 レジ ンモ ノマ ーの 浸透を 妨げたため、研削面の違いの影響を受けなかったと
思われた。
1
. 象 牙 質 に お け る レ ジ ン セ メ ン ト と 接 着 シ ス テ ム の 接 着 性 能レ ジ ン セ メ ン ト の 象 牙 質 へ の 接 着 強 さ は 、
PF
、LM
に お い てSF
研 削 面 の 方 が 、R
研 削面よりも有意に高い接着強さを示した。処理面を見てみると、R研削面の方が、SF
研 削 面よ りも スミヤ ー層 が残 存し てい たこ とか ら、SF
研 削面 の方 が機 能性モ ノマ ーが 象牙 質面 ヘ浸 透し たため だと考えられた。接着システムの象牙質への接着強
さ で は 、R研 削面 に比 較し て、
SF
研 削面 で、Xeno
の みに 有意 差が 認め られ たが 、1ス テ ッ プ型 シス テムで ある
PL
、SIIB
、RAにお いて も接 着強 さが 向上 する 傾向が 認め ら れ た 。
Xeno
のR
研 削 面 で は 、 ス ミヤ ー層 の残 存や スミ ヤー プラ グも 認めら れた が、
SF
研 削面 では 、R研 削面 より もス ミヤ ー層 が溶 解され 、管周象牙質もより脱灰 され てい た。 この こと から、 厚い スミ ヤー 層の 存在 が1ス テップ型接着システム
の レジ ンモ ノマ ーの 象牙 質面へ の浸透を妨げ、接着強さを低下させたことが示唆さ
れた。 ―817−
[まとめ]レギュラーダイヤモンドポイントとスーパーファインダイヤモンドポイン トを用いて形成した、象牙質研削面およぴエナメル質研削面に対する各種レジンセメ ントと接着システムの微小引張り接着強さを比較検討し、その破断面の破壊形態を
SEM
にて観察し、さらに各システムのスミヤー層除去能カを調べるため、メーカー の指示通りに処理を行った研削面をアセトン洗浄したものをSEMで観察し、以下の 結論を得た。1
.エナメル質接着強さは、レジンセメントのUniにおいてのみ、レギュラー研削面 と ス ー パ ー フ ァ イ ン 研 削 面 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た 。
2.
象牙質接着強さは、レジンセメントではセルフエッチング型のPFおよびLM、接着システムでは1ステップ型システムのXenoにおいて、スーパーファイン
研削面の方が有意に高い値を示した。
3
.エナメル質においては、歯面処理材のスミヤー層の除去能と接着強さが必ずしも対応していない材料があった。
4.
象牙質に対して低い接着強さを示した材料では、アセトン洗浄した象牙質表面にスミヤー層の残存が多く認められたが、高い接着強さを示した材料ではほと
んどスミヤー層が除去されている傾向が認められた。
5.
接着試験後の破壊形態は、一部の材料を除いて、レギュラー研削面とスーパーフ ァイ ン研削 面で の明 瞭な違いは認められず、混合破壊が多数を占めた。
以上より、特に1ステップ型接着システムでは、象牙質接着に対して有利な研削面 を形成するためのバー選択が必要であると考えられた。また、レジンセメントでは、
ステップ数というよりはむしろ材料によってその挙動が異なるため、材料自体の特性 を よ く 理 解 し た 上 で の バ ー 選 択 が 不 可 欠 で あ る と 考 え ら れ た 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
研削面の違いがレジンセメントと 接着システムの歯質接着性に及ぼす影響
審 査 は 主査 、 副査 全 員 が一 堂 に会 し て口 頭でなさ れた。は じめに、本 論文の要 旨 の 説 明 を 求 め 、 申 請 者か ら 以 下の よ うな 内 容 にっ い ての 論 述 がな さ れた 。
【 緒 言 】審 美 修復 の 普 及に 伴 い使 用 頻度 が増加し ているレ ジンセメン トには、
近 年 注 目を さ れて い る レジ ン 修復 用1ス テ ップ 型 接着 シ ス テム と 同様 なコンセ プ ト を 持つ 製 品が あ る 。こ の1ス テッ プ 型 接着 シ ステ ム に おい て は、 レギュラ ー ダ イ ヤモ ン ド研 削 面 に残 存 する 厚 いス ミヤー層 が接着強 さを低下さ せること が 指 摘 されて いる。本 研究では 、各種レ ジンセメ ントと接 着システム の、2種の ダ イ ヤ モン ド ポイ ン ト 形成 被 着面 ( エナ メル質お よび象牙 質)への接 着強さを 測 定し、接 着に、よ り有効な臨 床技法を 検討した 。
【 材料と方法1本研究で用いたレジンセメントは、Super−Bond C&B (Sun Medical:
SB)、Panavia Fluoro CementくKuraray: PF)、RelyX Unicem (3M ESPE: Uni)、 LINKMAXくGC: LM)、Fuji LUTE (GC: FL)の5製品であり、接着システムは、Single Bond (3M/ESPE: SiB)、Clearfil MEGA Bond (Kuraray:MB)、PromptL―POP (3M/ESPE: PL)、XENO CF (Sankin: Xeno)、Reactomer Bond (Shofu: RA)、試作 ボ ン デ ィン グ シス テ ムSI‑IB551 (Shofu: SIIB)の6製 品で あ る。 ヒ ト抜去 大臼 歯 を 、 レ ギ ュ ラ ー(R)あ る い は ス ー パ ー フ ァ イ ン ダ イヤ モ ン ドポ イ ン ト(SF) に て注水下 で高速切 削し、2種類 の象牙質被着面およびエナメル質被着面を得た。
各 種 接 着 シ ス テ ム を メ ーカ ー の 指示 通 りに 接 着 処理 し 、コ ン ポ ジッ ト レジ ン (Clearfil APーX,Kuraray)を築盛し た。レジ ンセメン トにおい ては、コ ンポ ジ ッ ト レジ ン で作 製 し た直 径10mm、高 さ6mmの円 柱 を各 種 レ ジン セ メントに て 接 着 さ せた 。 これ ら 試 料を24時 間37℃ 水中保 存後、微 小引張り 接着試験用 試片 を 調整し、 接着強き を測定した 。接着試 験後、破 断面の破 壊形態を調べるため、
走 査 型 電子 顕 微鏡 に て 破断 面 の観 察 を行 った。ま た、それ ぞれの材料 によるス ミ ヤ ー 層除 去 能カ を 調 べる た め、 未 硬化 接着剤あ るいはセ メントで処 理した被 着 面 を 走査 型 電子 顕 微 鏡で 観 察す る とと もに、各 種レジン セメントの ヌープ硬
彦夫 昇 英文 野理 畑 佐亘 大 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
さを測定し、接着強さに及ばす影響を検討した。
【結果および考察】
1
.エナメル質接着強さは、レジンセメントのUniにおいてのみ、レギュラー 研 削 面 と ス ー パ ー フ ァ イ ン 研 削 面 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た 。
2.
象牙質接着強さは、レジンセメントではセルフエッチング型のPFおよびLM
、接着システムでは1ステップ型システムのXenoにおいて、スーパーファイン研削面の方が有意に高い値を示した。
3.
エナメル質においては、歯面処理材のスミヤー層の除去能と接着強さが必ずしも対応していない材料があった。
4.
象牙質に対して低い接着強さを示した材料では、アセトン洗浄した象牙質表面にスミヤー層の残存が多く認められたが、高い接着強さを示した
材 料 で は ほ と ん どス ミヤー 層が 除去 され ている 傾向 が認 められ た。
5.
接着試験後の破壊形態は、一部の材料を除いて、レギュラー研削面とスーパーファイン研削面での明瞭な違いは認められず、混合破壊が多数を
占めた。
6.
レジンセメントのヌープ硬さと接着強さの関係において、象牙質レギュラー研削面では負の相関関係がみられたものの、その他の研削面では相
関は認められなかった。
以上より、特に1ステップ型接着システムでは、象牙質接着に対して有利な 研削面を形成するためのバー選択が必要であると考えられた。また、レジンセ メントでは、ステップ数というよりはむしろ材料によってその挙動が異なるた め材料自体の特性をよく理解した上でのバー選択が不可欠であると考えられた。
以上の論文内容にっいて各審査員が行った主な質問は以下の通りである。
1
) 今 回 使 用 し た ダ イ ヤ モ ン ド ポ イ ン ト の ダ イ ヤ モ ン ド 粒 子 の 粒 径2
)測定可能率と接着性能の安定性の関係にっいて3
) レ ジ ン セ メ ン ト の ヌ ー プ 硬 さ に お け る フ ア ラ ー の 影 響 に つ い て4
)接着強さに及ばすフアラーの影響にっいて5
) 異 な っ た 研 削 器 具 を 用 い た 場 合 の ス ミ ヤ ー 層 の 厚 み に つ い て6
)レジンタグの接着強さに対する寄与率について7
) エ ナ メ ル 質 と 象 牙 質 に 対 す る 接 着 強 さ の 違 い に つ い て8
)接着界面の長期耐久性について9
)接着界面の劣化にっいて10)
今後の研究課題についてこれらの質問に対し、申請者から明快な回答ならびに説明が得られ、きらに今 後の研究にっいても明確な方向性をもっていると判定した。よって審査担当者 は、歯科医学の発展に貢献する研究であり、博士(歯学)学位を授与される資 格を十分に有するものと認めた。