最近の定期船運賃論について
その他のタイトル Recent Theories on the Ocean Liner Freight Rates
著者 東海林 滋
雑誌名 關西大學商學論集
巻 15
号 5‑6
ページ 502‑537
発行年 1971‑02‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021167
〔研究ノート〕
最近の定期船運賃論について
東 海 林 滋
I し ま し が き
およそ,理論は現実の反映であり,同時に,というよりもより適切には,
実践的要求の所産であるといってよかろう。われわれの対象とする国際海運 市場についても,このことは例外ではない。近年,この分野に生じた大きい 変化は,何よりも船舶の大型化・専用化を中心とする技術革新,およびそれ に伴なう貨物輸送形態の変化として注目される。ライナーのコンテナ化も,
その代表的な一例である。このような技術上・制度上の変化が,市場の競争 形態をどのように変化させ,したがって運賃成立の仕方をどのように変化さ せたか。いいかえれば,新しい時代の海上運賃は,これまでとは違った説明 がなされねばならないが,それはどういう風な仕方で進められているであろ
うか。
この点について,不定期船の分野に対しては,とりわけ輸送形態の変化
(自由市場の狭陰化)に注目して,ある程度の新しい理論構成が行なわれて
(1)
いる。ここで取り上げるのは,革新がおくれて出発した定期船の分野,すな わちコンテナリゼーションにともなう定期船運賃の理論についてである。た だし,それはいまだ固まっておらず,本文はそれの固まるまでの準備作業的 なものにすぎない。
ところで,はじめにものべたように,理論が,単に現実の反映もしくはそ れの客観的な法則性の追求であるというのではなく,むしろより適切には,
実践的な課題に応えんとするものであるとするならば,その意味で,国際海 (1) 拙稿「国際海運市場の分断性と運賃」日本海運経済学会『海運経済研究』第1
号,昭42;同「最近不定期船市場の運賃形成」『海事産業研究所報』第23号,昭43.7。
運において,今日国際政治の舞台において問題となり,したがって各国,と
(2)
りわけいまや世界一の海運国となったわが国にとって,緊急の課題となって いる問題は,この定期船の問題であるといえよう。それは,具体的には,ア メリカの輸出入運賃較差問題と UNCTADにおける南北海運問題の討議と いう形で政府間で取り上げられている。このうち前者はやや下火になった観 があるが,後者は,なお依然として先進海運国共通の課題であり,近く (2 月に)東京で開催される欧州 (12カ国)海運閣僚会議においても,おそらく
(3)
これが最重要なテーマとなることが予想されるのである。私自身もそうであ
(4)
るが,ここで取り上げて紹介し,論評しようとする3つの論著が,いずれも このような国際政治的な実践課題を頭におきながら,定期船運賃ないしは同 盟運賃を分析していることは,国際海運の性質上きわめて当然のこととはい いながら,やはり現代の時代を考えさせられるのである。
とはいえ,もとより,端的明快な実践上の解答をここで見出そうというの ではない。ここでは,あくまでも,文献解題的にこの方面における理論的分 析の動向をさぐろうというにすぎない。ただ,本文の最後で,外国のものに (2) わが国は, 1970年6月末で保有量2,700万総トン,同じく3,300万総トンのリベ リアについで第2位であるが, リベリアは同国籍船の真の船主国ではない。いわゆ る便宜置籍国である。その意味で真の最大の船主国はやはりアメリカ(稼動1,200 万総トン)であろうともいわれている。
(3) 便宜置籍船, UNCTADおよび対米航路問題,この3つの概要については,
拙著『海運論』昭46,第2章「現代海運と国際政治」を参照されたい。 12カ国海運 閣僚会議のいきさつ(その成立とこれまでの活動)もそこにのべられている。
(4) つぎの3つであって,以下〔n,〔2〕,〔3〕として引用する。
〔1〕 Sturmey,S. G., "Economics and International Liner Services", Jou加alof Transport Economics and Policy, May 1967.
〔2〕Abrahamsson,B. J., "A Model of Liner Price Setting", ibid., Sept. 1968; 下条哲司訳「定期船運賃決定の1つのモデル」『海事産業研究所報』第45号,昭 45. 3。
〔3〕 Bennathan,E. and Walters, A. A., T.如 Economicsof Ocean Freight Rates New York, 1969.
なお,私の考えは,昭和45年度日本海運経済学会年次報告会 (9月29日,東京)
における報告「コンテナ化と定期船市場の競争」をもとにしている。
合わせて,私自身の考えをのべたいと思うので,いささかひとり相撲(ない しは自己顕示癖?)の感があるが,ここで少し,海運市場のとらえ方と運賃 分析の手法について,思いつくところをのべると,つぎのようである。
すなわち,私は,前記の論文(「分断性」)において,南北間航路の「分断 性」を,下記のような図式で理解しようとした。
航 路 積 取 貨 物 数 量 使 用 船 種 南 → 北 一次産品 多 不定期船・専用船 北 → 南 工 業 製 品 少 定期船
しかし,これは,いささか事実に合わないようである。低開発国の輸出品 は,鉱石や石油のようなバルク・カーゴーのみでなく,比較的少量の特産品 や軽工業品が含まれている。そして '‑‑れらは,そのための不定期船の配船 とはならず定期船の復航貨物として積み取られることになる。ライナーの運 賃こそ低開発国にとっての問題であり,したがってまた海運同盟の慣行が論 議の焦点にあげられる理由ほ,このためである。いいかえると,ライナーに
(5)
よるトランプ・カーゴーの積み合わせの問題を考えることが,南の抗議する 運賃問題を解明するボイントだということになりそうである。
考えさせられるもう 1つの点は,運賃理論の性格というか,アプローチの
(6)
仕方についてである。かつて,山田浩之氏が評されたように,私は,かねて から一般理論を応用して,運賃その他およそ海運経済を分析する,いわゆる Applied Economicsとしての海運論を志向してきた。それは,ともすれば,
生半可な理解にもとづいて,一般理論をせっかちに応用しようとする欠陥を 含んでいる。そして,実際の業務にたずさわっている人びとからは,なかな か受け入れられにくいアプローチの仕方である。現に, BennathanとWalter も,その著書〔 3〕の序文のはじめにつぎのように書いている。
(5) アメリカの輸出入航路運賃較差の問題においても,この点はもっとも重要な議 論の分かれ目であって,このことは私も割合よく分かっていた。低開発国について は,交易条件低下論の批判に力を入れすぎたせいもあるが,やはり関係航路の事情 について,具体的な知識の不足を感ぜざるを得ない。
(6) 山田浩之「海運論の新方向」日本交通学会『1963年研究年報』所収。
「この本は,われわれが1966年に,海運経済についてのある国際的セミナ ーのために書いた論文をもとにしている。これに対して,たしかに興味を示 してくれた人もあったが,しかし別の人ぴとほかえって,いら立ちを覚えた ようであった。その場合のいら立ちの原因は,話が退屈だというよりは,む しろ,われわれが価格理論をここで応用したことに,根本的に不合意だとい
(7)
うことからきているように,われわれには思われた。」
この問題ほ,海運のみでなく,(身近かなところでは,たとえば交通論のよ うな)特殊経済部門における,理論的接近のあり方をめぐる共通した問題で あって,その場合,研究者の立場は大きく分けて2つになる。 1つは,あく まで現実そのものから特自の理論を構成しようとする,いわば広い意味での 制度学派的接近法であり,もう 1つがわれわれの立場である。もちろん,制 度学派的接近法においても,それが特殊理論といいうるためには,一般理論 についての前提がなければならず,そのことは,たとえわれわれの場合,一 般理論の応用だといっても,当然現実の特殊相についての考慮が加味されね ばならないのと同様である。したがつて,両者の相違はあくまで頂上に到達 するまでの文字どおり接近法の相違にすぎないのであるが,それでも,やは
りそれなりの相違とじて実感されるものがあるのである。
そして,私の見るところでは,最近の論稿では,私どもの流儀によるもの が比較的多いということである。かつてThomasThorburnは,制度学派で はないが,それに近いアプローチを主張した。すなわち,彼によれば,従来 からの海上運賃の研究ほ,これを2つのグループに大別することができる。
1つは,船舶の構造と運賃の関係を重視するものであり,いま1つは,貨物 ならびに航路の特性を重視するものである。いうならば,前者は船腹の供給 の側を重視し,後者ほ需要の側を重視したものともいうことができよう。た とえぼ,小島昌太郎博士の有名な係船点の理論のごときは,時間の要素を考 慮した点ですぐれているが,それでも,「一般理論のいわばかけらのようなも のを,海上運送における価格形成に応用したものにすぎない。」 従来の研究 のうち一つとして,「運賃率と,時間,距離,船舶および港湾の構造,さらに
(7) [3] p. v.
ほ貨物の特性等の諸要因との関係を,同時に明示するという理論的要求をみ たすものはない。」 自分の研究こそほ, この all‑roundelucidation"の要求
(8)
をより満足させるものである,というのが彼の主張であった。
たしかに,彼のいうような,まさしく海運のユニークさが見出される諸条 件を積み上げてこそ,単に fragmentof general theory"の応用でない運賃 理論が得られるのだといえるかもしれない。しかし, iまたしてそうであろう か。彼の重視する供給側の諸条件と価格すなわち運賃との関係は,むしろ,
生産論的テーマであって,そこに出てくるものは,結局は費用分析的命題に とどまるのではなかろうか。費用ほ即供給ではなく,ましてや価格ではない。
距離・港湾・貨物に合わせて,いかなる船を建造し使用するかという課題に 対しては,まさにこのような接近がしかるべきであろうが,しかし,市場に おける運賃の形成を分析するにおいては,それは,あくまで供給関数の構成 要因として考慮されるべきである。 Thorburnが船令による運送原価の相違 について示した計数は,のちに Sturmeyが不定期船運賃論を展開する際に
(9)
たくみにこれを利用した。 Thorburnのような接近法は,その後も,北欧系
(10)
の学者によって受けつがれているようであり,われわれもけっしてその意義 を評価しないわけではないが,しかし,運賃理論の本流は,一般理論(のか けら)の応用という形で,今日すすんできているように思われる。そして,
われわれがここで対象とする定期船運賃の理論に関していえば,それが新し い寡占価格の理論とりわけ参入阻止価格論の応用として展開されつつあるこ
とを,以下の本文によって示したいのである。
(8) Thorburn, T., Supply and Demand of Water Transport, Stockholm, 1960. pp. 1‑8。彼がいかなる体係で運賃形成のメカニズムをとらえようとしたか, その 内容については,下条哲司「海運企業の行動と原価」『海事産業研究所報』第26号, 昭43. 8を参照。
(9) Sturmey, S. G., "On the Pricing of Tramp Ship Freight Service", 1965, p. 6;邦訳「不定期船運賃論」『海事経済』昭41. 3。
(10) たとえば, Foss, B., "A Cost Model for Coastal Shipping: A Norwegian Example", Journal of Transport ̲Economics and Policy, May 1969; Kydkand, F., Simulation of Liner Operation, Institute for Shipping Research, 1969.
II Sturmeyの 定 期 船 運 賃 論
sturmeyのこの論文は, 2つの主題からなっている。 1つは,定期航路に おいてカルテルすなわち海運同盟が存在する必要性は何か,ということであ り,もう 1つは,同盟の統制下にきめられる定期船の運賃は, iまたしてミク ロの経済理論がいうように,利潤極大の原理によって説明できるであろうか,
この2点である。つまり,「経済学と国際定期船業」というその表題のとおり,
この論文は,海運同盟の成立とライナー・レートの形成に関して,一般経済 学的分析の適用性を吟味するという形ですすめられた,著者の自問自答的な 省察の記録であるといってよい。いうまでもなく,われわれの関心は,この うちの第2の問題にある。しかし, Sturmeyほ,この第2の問題についての 議論においても,第1の問題で設定した彼自身の概念を利用しているので,
また,同盟ないしは定期船市湯の特性を,この視角から再考することも意義 なしとしないので,ついでのことに,第1の問題についての彼の議論から見 ていくことにしよう。
1. なぜ同盟は存在するか (Whyhave conference?)
この問題についてほ,これまで, Sturmey自身も含めて,定期船の費用構
(11)
造からして同盟の必要性を説くのが,大方のやり方であった。すなわち,・定 期船が一度ある航路に就航すると,ほとんどすべての費用は間接費となり,
貨物1トンを余計に運送するに要する費用すなわち限界費用ほ,その貨物の 積卸し費用だけとなる。それは,大体において総運送原価の20%程度である。
つまり,船主としてほ,運賃が「フル・・コスト」をカバーするレートの20%
まで下がったとしても,なおこの貨物を積み取ることが,余積を残して走る よりもましだということになる。こうして,もし市場が放任されるならば,
運賃は極度に切り下げられついには何人もライナーを経営することができな (11) Sturmey, S. G., British Shipping and World Competition, 1962, p. 323;
地田知平監訳『英国海運と国際競争』 408ページ。ついでながら,同じような説明 を,私もしてきた。拙著『海運経済論』昭37, 147‑8ページあるいは『海運論』昭 46, 231‑3ページを参照。
いような状態に陥るであろう。この危険を救う自衛的制度が同盟であり,同 盟はそのために必要である,というのである。
この説明は,同様な費用構造をもっている他の産業からの類推によって,
いかにも,もっともらしい説明のように思われる。しかし,よく考えると,
そうではない一ーと, Sturmeyvまいう。そもそも,荷役費の割合は,貨物積 載率のいかんによって相違するもので,かりに満船のときに20%であっても,
貨物が少なければ次第にその割合は低下して,ついに空船の場合はゼロにな るだろう。したがって,ある運賃表について,運賃の構成を説明する場合に ほ,限界費用は荷役費にひとしいといってもよいが,運賃形成を説明する場 合には,つまり,貨物を1トン余計に運ぶのに必要な最低の運賃率を考える 場合には,限界費用が荷役費にひとしいという考え方は,適当ではない。
それも,郵便定期船とか,海峡横断船とか,あるいは鉄道連絡船のような ものならば,この考え方でよいかもしれない。ところが,一般のカーゴー・
ライナーは,そんなにきちんとした運航の仕方をしない。貨物の積荷がすめ ば出て行くし,もっと貨物が出てくるのを待っていることもある。このよう な隔通性のある実際を前提とするとき,上述のような限界費用即荷役費とい
う考え方ほ,当たらない。余分の1トンを積むための追加費用は,荷役費の みでなく,そのために要する碇泊の費用を考えねばならない。もちろん,燃 料や船用品の積み込みのために碇泊している時間内でならば,これは計算に 入らない。かつて,燃料が石炭であった時代には,燃料積み込みのための碇 泊が長く,したがってこの間にできるだけ多くの貨物を得ようとして,運賃 切り下げの欲求がきびしかったにちがいない。海運同盟出現のそもそもの目 的の1つは,この欲求を抑えることにあった。しかし今日では,碇泊の延び るのは,大抵荷役のためである。こうして,可変費と不変費をどこで分ける か,その分け方を変えねばならない。一切の碇泊中の費用は,限界費用の対 象項目と考えられる。航海中の費用は,限界費用とは無縁である。碇泊中の 費用と航海中の費用との割合は,大抵のカーゴー・ライナーでは60:40くら いになろう。短距離では,この割合は80:20あるいはもっと, 90:10にもな
(12)
るかもしれない。
したがって,従来いわれたように,もしも同盟存在の理由が定期船の費用 構造にもとづくというならば,その必要性は航海距離の長短によって相違を 生ずることになる。短距離では限界費用の割合が大きいから, レートの切り 下げは大した問題とならないはずである。長距離航路では逆であって,ここ では同盟の必要性が大きいということになる。
たしかに,海運同盟は長距離航路からはじまったが,しかしそれは必らず しもこうした同盟成立の費用構造論を立証することにはならない。実際,短 距離では自由な航路ばかりかというとそうでもない。その場合の自由性は,
こういうことで説明されないものもある。
さらに,つぎの点もこの仮説の難点である。つまり,この論法では,荷物 量の少ない港は〔限界費用が高くつくから〕同盟の必要性が少ないことにな る。ところが実際は,荷物の少ない港へ大きい船を回して,限界収入より大 きい限界費用を生じている。それは航権維持のためであるが,もしレートが 切り下げられれば,これはいっそう引き合わないことになるから,同盟の規 制は実はゆるくなるどころか,いっそうきびしいものになっている。
以上のようにして,費用構造にもとづく説明が当てはまらないとすれば,
それに代わるべき説明はどういうことになるだろうか。 ここで Sturmeyは, 2つの仮説をもち出してくる。その第1ほ,賃率表の構成からくるという見 方である。すなわち,ライナーの運賃ほ,それぞれの貨物の荷役費および運 送のコストとほ余り関係がない。理論的にはそれは船腹占拠の時間費用と載 貨能力(loadability)とによるものと考えられようが,実際には,運賃負担力 と対荷主の駆け引きおよび偶然性,これがレート決定の要素になっているの である。つまり, レートがコストとの関係において明確に規定されるのでは なく,まった<恣意的に決定されていることが,ねらい打ちにレートカット される余地を与えているのである。
そこで,各レートを,直接費との差額の大小によって,高いとか低いとか
(12) ただし,もし余分の貨物をとるために碇泊を延ばして,そのおくれを取り戻す べく速力を上げた場合は,限界費用はその場合の荷役費と(1)碇泊延長の費用または (2)速カアップの追加費用のうちの大きい方との合計である。 [1] p. 192.
いうだけではなく,もっと厳密に定義して議論しなければならない。すなわ
(13)
ち,つぎのようである。
aレート:この手の貨物を満載すれぼ(事実満載の可能性があるとして),
正常またはそれ以上の利潤をもたらすレート。
§レート:この手の貨物を満載すれば,コストは償われるが,「正常」利潤 とまでは及ばないレート。
rレート:水準としてはaまたは§であるが,量的にどうしても満船には ならない貨物のレート。
6レート:荷物の量に拘わらず,要するに直接費は償うけれども総費用を 償うことはできないレート。
ぅレート:臨時の参入者にとっては,結構総費用を償いうるレート。この 場合,彼は必ずしも既存の船主とほちがった船または組織を用いる,と いうことではない。
Sレート:船主としては,運ばぬ方がましだという〔直接費を償うに足り ぬ〕レート。
;レート:トランプとかバルク・キャリヤーにとっては,費用の増よりも 収入の増の方が大きいというレート。
そこで,ある同盟がA港からT Z港までの航路を支配しており,仕向地 間においてはレートに差がないものとしよう。この場合, AからTまででは aレートに該当しても, Uまでになれば,航走時間が長いとか, Uの港費が 高いとかで, Pレートになることがありうる。同様にして,その他の港につ いてほ,同じレート〔貨物〕が8となり,さらにeにもなりかねないのであ って,もちろん,貨物の量が少なければ, rなのである。
もし船主が, aまたほgレートの貨物を沢山積めば,他の貨物についてほ,
(14)
本船を満船にするためにレートを引き下げてもよいと考えるだろう。逆にあ
(13) Sturmeyのこのようなレートの規定の仕方は,前掲(注9)の不定期船運賃論' でもよく似た仕方でなされている。事業継続運賃 (continuationrate),転業運賃 (transfer rate)および係船運賃 (lay‑uprate)というのがそれである。
(14) この考え方は,つぎにのべる Abrahamssonのモデルに通ずるものといえよう。
る船主が, rとかeをレートの貨物を沢山積んだ場合は,何とかしてレート のよい貨物をとろうとして,その貨物のレートの切り下げに動くだろう。§
ないししまrの貨物でも, aよりは悪いがしかしないよりはましである。こう して,運賃切り下げ戦争のおこるのは, aかPレートの貨物についてである。
いいかえると,直接費を上回るマージンが大きい貨物を積んでいて,マージ ンの小さい貨物をなお積むだけの余裕がある場合には,つねに運賃戦争の危 険がある。
このようにして,(1)どの船主も,正確な原価計算が行なわれていないため に,どのレートが〔a〜eのうちの〕どれに相当するかを知らない場合,(2) 同じレートがある港についてはaであり,別の港については6だというよう な場合,および(3)同盟が賃率表を公表していない場合,このような場合にほ 運賃戦争ほ結果の予測が不可能で,途方もなく長引くことになろう。過度の 運賃競争は,限界費用が低いからではなくて,一体どこまで運賃が下がれば 底になるか分からないために,生ずるのである。
およそ同盟の競争には2つのケースがある。ある船会社(ライン)が永久 メンバーになろうとする場合とか,同盟内のあるラインが、ンェアをふやそう とする場合に生ずる競争は,上述の費用構造でも,この賃率構造でも,どち らでも説明がつく。しかし,もう 1つの,不定期船がライナーの貨物をとり に入り込んできた場合の競争については,費用構造による説明は役に立たな い。なぜなら,もし運賃がコストと一定の関係にあるものならば,彼らすな わち不定期船ほ,みずから係船する方が,あえて運賃の切りくずしに出るよ
(15)
りも損失が少なくてすむからである。
要するに,いくらかのレートがコストをこえるからこそ,侵入者にその機 会が与えられるのである。 aレートは,必ずしも少量だとはえない。袋入り の小麦のように,荷扱いの容易な貨物がたくさんあれば,たとえレートは低
(15) Sturmeyはここで, ライナーの側について, ライナーは係船することによっ てなお相当の経費を要し,かつ航権の喪失損害を考えると,その限界費用は高いと のべている ([1]p. 195)。つまり,この場合の「限界費用」というのは,いわゆる 係船点ではなく,むしろ係船の費用およびそれに伴なう損失が考えられているよう である。
くても,採算はよいのである。ライナーがトランプと争うのほ,この種の貨 物である。
さて.費用構造によらずして,同盟の存在を理由づけるいま1つの要因ほ,
船腹過剰(over‑capacity)である。かりに,賃率表の構成がまったく合理的に できているとしても,問題はなお存する。すなわち,かつて無線通信がなく,
費用のかかるライナーにとって積荷が限られていたとき,同盟は船腹過剰に 対する唯一の答えであった。今日でほ,貨物の少ない港には寄らないように できるはずである。たしかに,もし船主が航権の喪失を恐れなかったならば,
またもし,他の航路でも同盟があるというのでないならば,彼らはそうする であろう。こうして結局,多くの貨物はrレートで運ばれている。船が多す ぎるのであり,寄港地の数と寄港の回数とが多すぎるのである。
このようにして,同盟の存在は,賃率構成の恣意性と船腹過剰のためとい う2つの理由によるものと考えられる。しかし,これでは説明にならなI,.o
なぜなら,実はこの2つは,ともに同盟存在の結果にほかならないからであ る。まさに,同盟は,それが必要なような条条をみずから作り出した,とい えそうである。しからば,端的にいって,定期船事業には一切自衛的組織ほ 必要でないのかというと,それは必ずしもそうとはいえないのである。
かようにして Sturmey Iま,みずから問い,みずから答え,そしてその答 えをみずから否定した。いいかえると,彼は,同盟成立の必然性について,
いわば費用構造仮説ともいうべき正統派の論拠に対して疑問を呈しつつ,し かも,それに代わるべき命題の提示には,結局失敗しているように思われる のである。それでは,この点について,われわれとしてほ,どのように考え るべきであろうか。
正直にいって,私の考えは,およそライナーについての諸問題は,これを,
ことごとくコンテナ化の事実と結びつけないでは,解明されないということ
(16)
で,今日統括されている。したがって,この場合も,そうしたことから逆に (16) Sturmeyのこの論文は,前注に記したように1967年のものであるが,実際は,
はじめ1963年に書かれ, 1964年にストックホルムの商科大学で発表して大いに訂正 し
, 1965年に完成されたものである([1]p. 190, f. n. 1)。したがって,この論文で コンテナ化が考慮されていないのも,無理はない。
押し出した論法ではあるが,つぎのように考えられるのではないか。
すなわち,たしかに, Sturmeyの示した定期船の「限界費用」論は興味深
(17)
ぃ。また,同盟によるライナーの rate‑structureほ,コストに対して定かな 関係を有しているとはいいがたい。しかし彼のいうような,対象港域の広い ために生ずるレートの恣意性は,今後,コンテナ化が普及すれば,多分に解 消されてくるのではないか。なぜなら,コンテナ船ほ,原則として, point‑ to‑pointのビストン輸送が建て前であり,寄港数は激減しよう。と同時に,
コンテナ荷役の機械化によって,碇泊所要時間は短縮され,しかも,これま でよりはるかに punctualな departureが可能となるであろう。いうならば,
コソテナ化によって,ライナーは,あたかも彼が対照の例にひいたトレーソ
・フェリーのようになるのである。そこでは,限界費用ほ,再び「余分の貨 物1卜、ノを積むに要する費用」となるであろう。総費用に占める可変費の割 合は,ますます,いや断絶的飛躍的に小さくなり,逆に,固定費の割合は圧 倒的に大きくなる。操業度ないし積載率の採算上の重要性は増大し,ために,
集貨競争は激化しよう。反面,ここにみてきたようにして,同盟結成の必要 性ほますます強くなる,ということになるのではなかろうか。
このようにして,私ほ, Sturmeyが在来船について示した疑問に,正面か ら答えるというのではないが,当面,目前に進行しつつあるコンテナ化の事 実を脳裏に画きつつ,あえて正統派らしく費用構造仮説をとりつづけようと するのである。もちろん,コンテナ化によって,同盟ほ,貨物別限界費用の 均等性という事実に,よりきびしく直面せざるを得なくなるであろう。いわ ゆる FAK (Freight All Kinds:品目無差別運賃)レートヘの道が,今後の 賃率体系にとって最大の問題として浮ぴ上がってくるであろう。しかし,こ のような貨物別差別運賃の問題についてほ,本稿ではこれを取り上げないこ とにして,つぎの本題に入ろう。
(17) それはあたかも,かの「限界費用価格形成原理」 (marginalcost pricing)の交
通— tことえば,鉄道運賃ー一への適用について,取りかわされた,限界費用の概
念規定をめぐる数々の議論を想起せしめる。
2. 同盟賃率は,利潤極大か (Canconference maximize profit?) 同盟の定めるレートは, tまたして経済学のいうように,メ`ノハー・ライン の利潤をグルーブとして極大ならしめるであろうか。いいかえれば,同盟の 運賃ほ,経済理論による利潤極大化の原理によって, うまく説明できるであ ろうか。もし,できないとするならば,それに代わるような新しい理論的説 明はどうすればよいだろうか。これが, Sturmeyの第2の問題であり,われ われが,もって考察の対象とするのも,まさにこの問題が中心であることは,
すでにのべたとおりである。
Sturmey はいう:ー~同盟は,運賃をきめ船腹量を規制するが,けっして,
経済学のいうような意味で,グループとしてのメンバーの利潤を極大にする ものではない。なぜなら,もし,利潤を極大にするというならば,各ライ`ノ ほ,その限界費用に応じて産出量したがって同盟内のシェアをきめるべきで あるが,事実はそうではない。いかにコストの低いラインでも,交渉によっ
(18).
てのみツェアの拡大が可能となるのである。
同一国のライソのみで構成され,したがってコスト差の原因は能率差のみ という場合でも,利潤の極大はありえない。まして,能率差以外に多くのコ スト差要因が存在する場合,すなわち,現実の同盟がそうであるように,メ ンバーが複数の国にわたる場合にほ,同盟が各メンバーの利潤を極大にする ように活動するということは,一到底考えられない。代わりに考えられる唯一 の合理的な解釈は,同盟がそれ自体 1 個の独占体として行動し,各ラ•インは (18) Sturmeyはここで,議論を補強するために, つぎのことをあげている。 すな わち同一国内のラインで構成する同盟においては,シェアは各ラインの相対コスト できめられ,したがって利潤極大を指向するものと考えられるかもしれない。しか し,利益に差がありながら,しかもシェアが安定しているのは,必らずしもシェア がコストにもとづくからではなく,むしろこの場合のシェアは, histricalないしい わゆる「フェアな」シェアリングによるのである。また,シェアをきめる場合のコ ストは,平均費用であって限界費用ではない,と。 [1]p. 196.
しかし,このあとの方の理由についてほ,限界費用の概念を上述のように荷役費 のみと考えるならば,むしろそれは各社均等ということになろう。平均費用の格差 こそ競争力の指標であって,それを考慮してシェアが(もちろん,競争の経験を通 じて,交渉によって)きめられることは,むしろ当然ではなかろうか。
この極大化された利潤からそのシェアに応じて利益を得る場合である。各自 が利潤極大を追求する場合よりも,全体として行動した場合の方が利潤が大
(19)
きいであろうことほ,明らかである。
しかし一ーということになるのかどうか,実は問題であるが一ーともかく,
例外なしにいえることは(と .Sturmeyはいう),およそ同盟が短期の利潤極 大を追求することはない,という点である。しからば,同盟ほ,利潤以外の なにかを極大にするのか,それとも,同盟は, tょにも極大にしようとはして いないのか,前者の線に沿って考えれば,なおそこにいくつかの道が開ける。
この場合,もっとも受けそうな議論は,同盟は現在のメソバーの地位を永 久に保持しようとする。いいかえると,長期の利潤極大を追求すると,いう のである。つまり,同盟ほ,その価格政策において,起こりうべき参入の可 能性を考慮しているのであり,これを長期利潤の極大化政策だというのもよ し,また,どうせ長期の収入曲線なんてものは主観的なもので理屈にすぎな いというのなら,あっさりと,別に何も極大にするとかではなく,ただ「安 全策を講じている」 (playsafe)にすぎない,といってもよい。どういういい 方をするにせよ,同盟の価格政策は,参入阻止効果 (deterrenteffect)を念 頭においてのみ理解されるものといわねばならない。
このようにして, Sturmeyは,同盟賃率の核心を参入阻止価格の理論によ って解明しようとする。そして,そのために,さらにくわしくつぎのような 点を論議する。
(1) 参入阻止価格の概念 (a) 参入コストがゼロの場合
参入阻止価格政策とは,潜在的な参入者の存在,したがってその運航コス トを考慮して価格づけを行なうことである。もし,潜在的参入者のコストが,
同盟メンバーの誰よりも高い場合には,運賃はそれの総需要に対する効果
(19) このような推論の図解については,拙著『海運論』 243‑4ページを参照。私は,
Scitovskyにしたがって, 各自が相手の反応を考慮しながら利潤極大を追求する結 果として,あたかも,全体が1個の独占体とみられるごとき価格形成の成立するこ
とを説いたのである。
(需要の弾力性)を考慮して,利潤極大の点できめさえすればよいかにみえ る。しかし,それでは阻止価格ではない。この点より低いどこかで,これ以 上になれば高コストの船が侵入してくるかもしれないという点があろう。そ れが参入阻止価格である。もっとも,現実には,同盟はほとんど西欧船主を 含んでおり,よりコストの高い船主を阻止するということは,実際には考え がたいことである。
そこで,問題は,コストが同じ程度があるいはより低い船主の参入を阻止 するということになる。コストの高いメンバーは,当然,同盟の平均利潤よ りも低い利潤で甘んじるのであって,しかもこのメンバーが長く止まるとい うことほ,このメソバーにとってそれだけの利潤が保障されていることにな る。このような場合には,参入の可能性がある。いいかえると.この場合の レートは,参入阻止的でないかもしれない。もし,低コストの船主にしてな お参入が阻止されているとすれば,その場合,高コストの船主は何故ここに 止まるのであろうか。短期にはともかく,長期的にみるならば,他に転ずる ことの利益ほけっして小さくないはずだからである。答えは,彼らが非合理 的なのかそれとも入るときの利益率が出るときの利益率よりも相当高いから か,あるいほ.そもそも参入コストがゼロというモデルが実際的でないから か。この最後のケースが,もっともありそうなことのようである。
(b) 参入に費用を要する場合
同盟ほ,参入を阻止せんとしそのためにファイトする。明らかに,参入コ ストは.ゼロでない。この場合,問題になるコストは,参入者の運航費プラ ス参入費用である。もっとも,•これらのコストは,つねに数量的には不確か であるにちがいない。潜在的参入者は, iまたしてどれほどの参入費用を負担 するつもりなのか,またそれを償却する期間として,しまたしてどのくらいの
(20)
長さを考えているのだろうか。これは知りようのないところだからである。
(20) 参入阻止競争のすえ加盟が成立し,独占的地位が安定すると,当然,レートは 旧を上回って設定されるのがつねである。 (後出の賃率表と参入についての議論に も,それが出ている。) BennathanとWaltersほ,つぎのような図を示した ([2] p. 37, Fig. 3)。改めて説明を要しないくらい,そのいわんとするところは明らかで あろう。
しかし,ともかく参入費用を伴なうということになれば,(利澗極大化によ る説明は,いっそう難しくなるけれども)参入阻止価格による説明はしやす くなる。ただ,なお残る難点は,現に参入が起こるという点である。西欧船 主が新しく参入してくる場合,それは,彼が他よりもより能率的で,参入費 用を埋め合わすことができるからだと考えられる。おそらく,そうにちがい ない。ただし,既存の船主は,そういわれることを肯んじまい〔なぜなら,
自分たちの非能率を認めることになるから〕。
(2) 参入の予想と収入曲線
参入阻止価格の考え方,あるいは,長期利澗極大化の論理は,参入を予想 することによって,長期収入曲線が弾力的なものであると考えるのであるが,
ここで生ずる難点は, iまたして,その長期収入曲線がしかく連続的なもので あるかどうか,という点である。
レートを引き上げるたびに,少しずつ船腹量がふえるというのは事実では ない。そうではなく,ある点で,どっと,たとえば10%ほど新入の船腹量が ふえて, したがって,既存のメンバーに対する需要が減る,というのが事実 であろう。観念的には,参入を呼び込むだけの運賃の上昇幅をそのまま運賃 上昇の単位とすることによって,長期収入曲線に連続性を与えることができ るかもしれないが,それはあくまで恣意の産物にすぎず,価格と産出量の決
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