最近の畜産環境対策試験の概要について
畜産試験場 飼料環境 Ⅰ.はじめに 近年の地球温暖化現象や環境保全などを背景に、わが国においては「環境と調和した 循環型社会の構築」が大命題とされているところである。 農業分野においては、これを受け、いわゆる「環境三法」が制定され、堆肥による土 づくりと化学肥料や化学農薬の低減を一体的に行う持続性の高い農業生産方式、消費者 との連携による有機農産物等の産地づくり、家畜排せつ物の適正管理と有機性資源の循 環利用の促進が求められているところである。 このようなことから本県においては、「香川県新世紀基本構想」、「香川県農業・農村 基本計画」の中で、「環境と調和した循環型農業の確立」を重点項目として掲げ、「家畜 排せつ物等未利用資源の循環利用に関する基本方針」や「香川県循環型農業推進マスタ ープラン」を策定し、施策展開しているところである。 特に畜産分野においては、平成16年11月「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用 の促進に関する法律」が完全施行され、畜産環境問題の解決が求められているところで あり、試験研究機関については、より一層の技術開発、情報提供が望まれているところ である。 畜産試験場では、これまでに場内での実証展示のほか、畜産研究談話会、研究報告、 かがわ畜試情報をはじめ、普及組織などを通じ、環境対策関連技術として「シュウマン 線による脱臭技術」、「光触媒による悪臭防止技術」、「送風方式による堆肥化技術」等の 情報発信を行なってきたが、今回は、最近畜産試験場で取組んでいる畜産系コンポスト 化処理時の臭気低減、ケナフや土壌菌群を利用した水質浄化あるいは脱臭、さらには堆 肥化シートによる良質堆肥生産技術等の環境対策試験について、その概要をお知らせす る。 Ⅱ.環境対策試験の概要 1 畜産系コンポスト化処理時の臭気低減に関す研究 1)目的 臭気問題は、今後の畜産経営の存続を左右する重要な問題であるが、根本的な解決 が得られていない。特に、場所をあまり取らず自動運転の家畜ふん尿処理施設として 普及した縦型発酵施設(オートコンポ)では、運転時に高濃度の臭気が発生することが 知られており、その脱臭方法としておが屑脱臭法が一般的に取り入れられている。こ の脱臭法は、おが屑の定期的交換がなければ脱臭効果は激減することが分かっている ものの、農家段階では交換に経費と労力がかかるため定期的に実施できていないのが 実情である。このため、効率的かつ経済的な脱臭方法を検討した。 なお、この研究は県内試験研究機関共同研究として、畜産試験場、環境保健研究セ ンターが共同で実施した。 2)方法及び結果の概要 オートコンポから排出される臭気が主に高濃度のアンモニアと硫黄系物質の2成 分系の臭気であることから、脱臭方策としてまずアンモニアを除去し、次いで、硫黄 系物質を除去する2段処理法を検討し、一次処理としてスクラバー方式(水洗浄方式) による脱臭、次いで二次処理として生物脱臭を選択し試験した。(1)一次処理 スクラバー方式による脱臭方法(畜産試験場) 室内実験用に散水量・ガス風量・ガス濃度を調整できる実験プラント(写真 1) を製作し、脱臭槽内に入れる充填資材毎に脱臭試験等を実施した。 本機のガス生成部は、ガス風量を 50~200ℓ/min、ガス濃度を 1,000~3,000ppm に可変できる方式とし、脱臭槽部は、散水量を水道圧に対してそれぞれ 0.25、 0.5、1.0、2.0ℓ/min の一定量で散水できるノズルの交換式とした。 充填資材については、廃プラスチック、TPリング、五色石、木材チップ、剪 定材チップ、竹チップ、バーミキュライトの7種類とし、散水量、ガス風量、ガ ス濃度等の条件を変更して排ガス濃度(アンモニアガス)を北川式ガス採取器で 測定した。 結果の概要 ① 脱臭槽に充填材を充填せずに散水のみで稼動させ、散水量 0.5ℓ/min 以上の散 水で 90%以上の脱臭率が認められた。(表 1) ② 7種類の充填材毎の脱臭試験を実施し木材チップ、剪定材チップ、竹チップ、 バーミキュライトの有機系充填材全て 100%の脱臭率が認められた。(表 2) 表 1.散水量毎アンモニアガス脱臭率及び濃度 散水量 0.25 0.5 1.0 2.0 ガス風量 50 100 200 50 100 200 50 100 200 50 100 200 ガ ス 濃 度 1000ppm 94 (60) 92 (85) 82 (180) 96 (40) 95 (50) 94 (60) 97 (35) 97 (98) 95 (50) 97 (35) 97 (35) 98 (40) 2000ppm 95 (100) 94 (120) 82 (380) 97 (60) 95 (100) 93 (140) 98 (40) 98 (50) 80 (96) 98 (35) 40 (98) 98 (50) 3000ppm 94 (180) 94 (200) 84 (480) 97 (100) 94 (170) 90 (300) 98 (50) 97 (80) 96 (125) 99 (40) 98 (60) 97 (80) 表 2.充填材毎のアンモニア除去率及び濃度 写真 1 1次処理施設 除去率%( )内数値 ppm ガス風量(ℓ/min) 50 100 200 廃プラスチック 97(80) 93(200) 84(480) TPリング 100(10) 98(40) 95(160) 五色石 100(6) 100(7) 98(60) 木材チップ 100(0) 100(0) 100(0) 剪定材チップ 100(0) 100(0) 100(0) 竹チップ 100(0) 100(0) 100(0) バーミキュライ ト 100(0) 100(0) 100(0) (ガス濃度 3,000ppm、散水量を 0.25ℓ/min の場合)
(2)二次処理 生物脱臭方式(環境保健研究センター) 室内実験用の脱臭性能試験装置及び担体性能試験装置を試作した。脱臭微生物 起源は、活性汚泥、土壌、堆肥、腐葉土の4種類とし、微生物固定化担体は、比 較的容易に入手可能な軽石、鉢底の石(軽石及び竹炭の混合物)、ゼオライト、 ピュアサンド(水槽の底石)、バ-ミキュライト、竹チップ、カキ殻、ピ-トモ ス、おが屑の9種類を選択した。 結果の概要 ① アンモニアに対する脱臭性能は土壌、堆肥、活性汚泥起源の微生物が同等に 高い性能を示したが、腐葉土起源のものはやや性能が劣っていた。以降の試験 には、移植しやすい液状である活性汚泥を用いることとした。 ② 各担体のアンモニアガス吸着試験の結果、9担体のうちゼオライトが優れて おり、カキ殻・おが屑・ピュアサンドはほとんどアンモニアガスを吸着しなか った。担体を水洗浄することでアンモニアガスの除去割合は大きくなった。 ③ 活性汚泥を植種した各担体における脱臭試験では、竹チップ以外で効果が高 かった。担体に対する植種のし易さ、通気抵抗、価格等の問題から固定化担体 としてはカキ殻、軽石、鉢底の石が有望である。 0 50 100 150 200 250 1 4 7 15 18 22 30 36 38 42 45 46 49 52 56 58 60 62 65 経過日数(日) アン モ ニ ア濃 度 ( p p m ) 0 50 100 150 200 空間 速度 ( 1 / h ) 出口濃度 入口濃度 空間速度 図 1 カキ殻でのアンモニア脱臭
2 土壌菌群を利用した悪臭防止技術に関する研究 1)目的 堆肥化処理等に伴い発生する悪臭に対し、従来から様々な対処法が考えられて来た ところである。それぞれの方法の効果はある程度認められるとはいうものの、抜本的、 即効的な解決策が見当たらず、その対策に苦慮しているところである。 このような中で一部の畜産農家においては、悪臭低減対策として土壌菌(微生物) 等を利用した家畜ふん尿処理を実施し、この方法によって悪臭に対する一応の効果が あり、堆肥化施設及び畜舎から悪臭が少なくなったとの情報がある。 悪臭は感覚的な部分も大きく、また環境要因等によって測定数値に大きな差が出る ため、野外試験では効果判定がし難い面がある。このため、小型堆肥化実験装置(か ぐや姫)を利用して土壌菌による堆肥化試験を行った。 2)方法 小型堆肥化実験装置を利用して土壌菌を含む堆肥(以下土壌菌という)による堆肥 処理を試験した。 (1)試験材料と方法 試験区:牛ふん又は鶏ふんに水分調整剤として土壌菌を混合し堆肥化 対照区:牛ふん又は鶏ふんに水分調整剤としておが屑を混合し堆肥化 (2)試験期間 平成17年6月~8月 (3)調査項目 発酵温度、臭気濃度(アンモニア、硫化水素、硫化メチル等) 3)結果の概要 (1)牛ふん使用試験 ・アンモニア濃度の推移は、試験区では全期間を通じてごくわずかしか発生しな かった。対照区は 3 日目をピークに上昇し、以後低下し、7 日目には臭気が測定 できなかった。 ・硫化メチル・硫化水素は対照区のほうが試験区より高い値を示した。 (2)鶏ふん使用試験 ・アンモニア濃度は対照区が試験区より高濃度で推移した。 ・トリメチルアミン、メチルメルカプタン、硫化メチルは対照区が高い値をしま した。 ・二硫化メチルは試験区が高い値を示した。 0 2 4 6 8 10 12 ppm 2日目 3日目 経過日数 牛ふん堆肥のアンモニア濃度 試験区 対照区 0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 ppm 2日目 3日目 経過日数 硫化水素濃度 試験区 対照区 図 1 牛ふん堆肥のアンモニア濃度の推移 図 2 牛ふん堆肥の硫化水素濃度の推移
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 ppm 2日目 3日目 経過日数 鶏ふん堆肥のアンモニア濃度 試験区 対照区 0 2 4 6 8 10 12 14 16 ppm 2日目 3日目 経過日数 鶏ふん堆肥のトリメチルアミン濃度 試験区 対照区 図 3 鶏ふん堆肥のアンモニア濃度の推移 図 4 鶏ふん堆肥のトリメチルアミン濃度の推移 写真 1 小型堆肥化実験装置で堆肥化試験
3 ケナフ栽培を利用した畜産処理水の浄化 1)目的 畜産経営から排出される尿・汚水は浄化槽で処理されているが、環境保全の観点 からより一層の水質の浄化が求められている。その処理水の利用は、畜舎洗浄水や 圃場への散水等として再利用しているが、家畜の多頭化等により、処理水が多く、 安定的な利用が困難となっている。さらに、畜舎等の洗浄水利用では、窒素やリン 等の無機成分の蓄積や衛生等の問題が懸念されている。そこで、ケナフを利用し、 安価に畜産処理水の浄化を図るとともに、飼料作物としての利用可能性を調査した。 2)方 法 (1)供試処理水 家畜の尿及び畜舎洗浄水等の混合水を活性汚泥で処理した水 (2)供試植物 ケナフ (3)栽培方法 試験区:素焼きの鉢にケナフを植栽 対照区:植栽なし 各区を 100L 用のポリ容器に入れ、畜産処理水を鉢の 1/2 程度浸し、 処理水の減少を追跡した。 (4)調査項目 供試植物の生育調査、処理水の水質及び水量の経過的な変化等 3)結果の概要 (1) 栽培期間中(7/7~10/28)に試験区は対照区に比べて3.5倍、1株当たり31Lの 処理水を吸収した。(図1) (2) 栽培期間中の処理水のpHは6~7のやや酸性で、試験区、対照区ともにpH 8~9のアルカリで推移した。 ECは、処理水<試験区<対照区の順で高かった。 処理水の全窒素は、栽培期間が経過するに従って減少し、1株当たりの吸収量 は、N2,805mg、P142mgであった。 (3) ケナフの水耕栽培と土耕栽培の比較では、成育及び一般成分で大きな違いがなか ったが、硝酸態窒素濃度は 5.5 倍の差があった。また、開花前のケナフを黒毛和種 に給与したところ、茎や枝に比べ葉の採食性がよかった。 水耕栽培 土耕栽培 水分 78.2 77.9 粗蛋白質 10.2 9.1 粗脂肪 3.5 3.8 可溶無窒素物 57.9 60.7 粗繊維 22.9 19.6 粗灰分 5.6 6.8 硝酸態窒素濃度 476ppm 86ppm 1 番草 開花期 乾物中表示 延べ水分吸収量 0 50 100 150 200 250 300 7/7 8/4 9/1 9/29 10/27 栽培期間 吸 収量( L) 対照区 試験区 図 1 期間中延べ水分吸収量 表 1 ケナフの一般成分(%)
表 2 期間中の水質の変化(mg/l) 7/7 7/28 9/1 10/1 処理水 6.4 6.6 6.6 7.3 試験区 6.4 9.8 9.2 8.0 pH 対照区 6.4 9.8 10.0 9.6 処理水 123 87 112 78 試験区 123 148 106 101 EC 対照区 123 158 143 136 処理水 96 57 75 試験区 96 98 46 25 全N 対照区 96 120 85 72 処理水 9.1 6.4 7.8 試験区 9.1 0.6 1.9 3.3 全P 対照区 9.1 0.6 0.8 0.4 写真 2 ケナフの花 写真 1 ケナフ試験風景
4 堆肥化シートによる良質堆肥生産技術の確立 1)目 的 「堆肥化シート」は、低コストで容易に取り入れることができ、普及が期待され る堆肥化資材である。そこで「堆肥化シート」を使って良質堆肥を生産する技術を 確立するため、堆肥化時に素材の異なる4市販「堆肥化シート」を使って、その性 能、特徴を調査した。 2)方 法 汚水排出のため傾斜をつけた地面に、防水シートを敷き、その上に家畜ふんを堆積、 堆肥化シートで被覆し堆肥化した。 (1)試験材料 ①家畜ふん:牛ふん主体の家畜ふん(水分70%程度) ②被覆素材:下敷き防水シート 不透湿性シート(ブルーシート) 上掛け堆肥化シート 材質別4種類(表1) 表1 上掛け堆肥化シートの概要 材 質 通気性 耐用年数 価格(円/㎡) 備考 1 ポリエチレン(B) 無 2~3 63 ブルーシート 2 ポリプロピレン(S) 有 3 340~370 TY 社 3 ポリエチレン(T) 有 7 240 TK 社 4 ポリオレフィン(C) 有 2~3 142~145 Y社 (2)試験期間:平成16年9月~12月(3ヶ月) (3)試験条件:①各試験区毎に家畜ふんを直径3m、高さ1.5mに堆積した。 ②供試期間中、切返しをしない。 ③暗渠排水及び通気配管は設置しない。 (4)調査項目:発酵温度、水分含量 3)結果の概要 (1) 表面付近の発酵温度は被覆後30日以降ポリオレフィン(C)が、45日以降ポリ エチレン(T)が高い傾向を示した。 中心部の発酵温度は常に通気性のあるシートが高く、特に被覆後30日間はポリ プロピレン(S)とポリエチレン(T)の発酵温度が他に比べ高く推移した。
図1 表面温度の推移 0 10 20 30 40 50 60 70 09/10 15:00'00 09/30 15:00'00 10/20 15:00'00 11/09 15:00'00 11/29 15:00'00 温度 ℃ ポリエチレン(ブルーシート) 通気性ポリプロピレン(S) 通気性ポリエチレン(T) 通気性ポリオレフィン(C) 図2 堆積中心温度の推移 0 10 20 30 40 50 60 70 09/10 15:00'00 09/30 15:00'00 10/20 15:00'00 11/09 15:00'00 11/29 15:00'00 温度 ℃ ポリプロピレン(ブルーシート) 通気性ポリプロピレン(S) 通気性ポリエチレン(T) 通気性ポリオレフィン(C) (S) (C) (T) (ブルーシート) (C) (T) (S) (ブルーシート) (2) 表面付近の水分含量は期間を通してほとんど低下しなかったが、中心部の水分含 量は徐々に低下した。 ポリエチレン(T)には雨水の侵入が見られ、9月30日、10月10日、10月 20日頃の豪雨で水分量の増加と発酵温度の低下が顕著に認められた。 (3) 通気性能はポリプロピレン(S)とポリエチレン(T)が高く、防水性はブルーシー ト、ポリプロピレン(S)、ポリオレフィン(C)が高かった。透湿性は特に差が認 められなかった。 図3 堆積表面の水分変化 50 55 60 65 70 75 80 9・10 9・29 10・18 11・8 11・29 水分含量 % ポリプロピレン(ブルーシート) 通気性ポリプロピレン(S) 通気性ポリエチレン(T) 通気性ポリオレフィン(C) 図4 中心部の水分変化 50 55 60 65 70 75 80 9・10 9・29 10・18 11・8 11・29 水分含量 % ポリプロピレン(ブルーシート) 通気性ポリプロピレン(S) 通気性ポリエチレン(T) 通気性ポリオレフィン(C) (ブルーシート) (S) (C) (T) (T) (C) (S) (ブルーシート)