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賃金格差についての一覚書 -規模間賃金格差の基本要因について-

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岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  55

賃金格差についての-覚書

規模間賃金格差の基本要因について一一・一

A note on the Wage Differentials.

岡  部  市  之  助 Itinosuke Okabb は  じ  め  に 終戦直後のはげしい経済的混乱と欠乏インフレの状態を克服して,日本経済は28年頃までに一 応の回復を終え,いまや一段の発展と拡張の時期を迎えている。 戦後インフレ期の貸金は生活給を中心とし,ともかく「喰える賃金」というスローガンのもと に,戦前に顕在化しつつあった賃金格差を殆んど解消せしめ,労働者は誰もが生きるためのかつが つの賃金を支払われていたのである。然し24年のドッヂ・プラン,続く朝鮮事変を契機として, 日本資本主義が一応の体制を再建し,生産活動が軌道に乗り始める頃から,賃金体系は生活給から 漸次能力給への方向をとると共に,再び格差現象は顕著となってきた。そしてこの傾向はその後益 々進行し最近時に至るまで継続している。 これら賃金格差一般の中で最も注目を浴びているのが,企業規模闇賃金格差の現象であろう。従 ってこの現象をめぐる労作は極めて多い。然しこれら労作の多くは,どちらかといえば規模間賃金 格差現象の要因を,社会的,制度的或は歴史的な側面に求めようとしているように見える。勿論こ れらの要因は極めて重要であり,それを無視するわけにいかない。然し賃金が本E来ヨ「労働力の価 格」であるという点に注意すれば,格差生成の基本的要因はやはり経済的側面に求めるのが至当と 思われる。従ってこの小論では,われわれは規模闇賃金格差の問題に主として経済的側面から接近 を試みよう。 唯然し,このことはわれわれが社会的制度的側面を無碍乃至軽視するということではないo 上述 のごとく,それら諸要因は格差構造を考察するに際して見落すことのできない重要性をもってい る。かくてわれわれは格差生成の経済的側面に焦点を合せて,その社会的制度的諸要因には必要の 限度において触れることにしたい。 ( Ⅰ ) さて問題を規模闇賃金格差に限るとしても,それを形成する要因は極めて複雑である。従ってわ れわれは賃金格差という言葉で呼ばれる概念が,どのような内容を一般に合むかを,先づC. Kerr の分質をかりて示しておこう.1)彼によると賃金格差は次の5つの賓型に分けられるO (1) 個人間格差 interpersonal differentials (2) 企業間裕美inter丘rm differentials

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差 差 差 格 格 格 闇 開 聞

t

,

E i d p J p ■ q 3     4     5 (     (     ′ l \ interarea differentials interoccupational differentials interindustry diだerentials 勿論このような分額は便宜的なものであり,決してそれぞれが全く独立に存在するわけではな い。例えば地域格差にしても(地域間平均賃金格差と考えるかぎり)それは各地域での雇用労働者 の規模別,性別,年令別,職種別,産業別などの構成の相違が複雑にからみ合って生じていること は確かである。叉規模聞賃金格差にしても,同様,他の諸々の格差構造の合成結果として考えられ ねばならぬ面が多い。例えば規模閏における労働者構成が性別,労職別,年令別,学歴別などで異 っていることが格差を強く規定している面が見落されてはならない。第1表は規模間の単純な平均 賃金格差と,労働者構成を仮りに同一と想定した場合のそれとの比較である。このように労働者構 成を同一にしてみると,規模闇格差は縮少するが,然し格差の存在そのものは消滅しない。そして この点で規模闇格差現象にはかかる要因のみで説明し尽されない,より基本的な何物かが存在する ことを予想せしめるのである。 〔第1表〕  規模間平均賃金格差と労働者構成固定の場合の格差(定期給与1,000人以上-100) 100-999人 固定ウエイト による格差 82.5 平均賃金格差 75.0 81.3       68.5 84.9        77,4 85.5       72.3 10-99人 雷雲 差 平均賃金格差 65.3        58.3 67.7        56.1 68.4       60.0 70.1       56.9 〔資料〕労働省「職種別等賃金実態調査・個人別賃金調査結果報告」 「賃金構造基本調査結果報告」 〔註〕 計算方法は,産業計は男女・年令別構成を,製造業は労職構成(職員は学歴構成)とも規模 間固定したフイツシャ-算式による. 〔出所〕 「中小企業の統計的分析」 (「中小企業研究Ⅱ」 p. 366より) ( H ) さて労働力もまた資本主義経済下においては,他の商品一般と同様売買の衛象となる。したがっ てその価格たる賃金率は短期においては労働力の需給関係によって決定される Ricardoは商品 の長期的均衡価格と,短期均衡価格とを区別し,前者を商品の自然価格,後者を市場価格と称し た。そしてこれに滑応的に賃金についても自感賃金と市場貸金とを区別している。彼の自然賃金は 人口(労働力)と生活水準のバランスという点に焦点が向けられ,賃金は究極的には労働者の生存 費乃至再生産費に落着かざるを得ないとされた。これに対して短期的市場賃金は,その水準が主と して短期の労働力需給関係によって決まると考えられている.2)兎まれわれわれは本稿で専ら額期的 な貸金の問題,なかんずくその決定要因について考えてみたい。 さて問題をこのように限定すると,次に間わるべきことは,労働力という商品の需要や供給が,

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岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  57 いかなるファクターによって決定されるかというと,叉現実に規模間賃金格差が存在するとすれ ば,このような格差が需給のいかなる条件にもとづいて生起するかということであろう.亡然しその ような分析に入る前に,われわれはまず親模間格差を生ぜしめる基本的機構について概観しておく のが便利であろう。 (HI) やや抽象的になるが,格差生成の機構を把えるために,ここで簡単なモデル的考察を加えよう。 われわれは労働力の価格としての賃金水準が,基本的には労働力の需要と供給との関係によって決 まると考える。いま生産物市場にも,労働市場にも完全競争が支配しており,更に企業が利潤極大 原則にしたがって行動するものと想定すれば,完全競争市場での商品一般の価格決定の場合と同 様,賃金もまた,労働力に滑する需要歯数と供給函数との交点によって与えられるであろう。 では労働力の需要を決定するものは何であり,供給を決定するものは何であろうか Keynesは 「一般理翰」の中で古典派の雇用理論を要約し,二つの命題に圧縮している.3)すなわち (1) 賃金は労働の限界生産物に等しい。 (2) 一定の労働量が雇周されている場合,賃金の効層はその雇周量の限界不効用に等しい。 そして彼はこのうち前者は承認するが,後者を批判することによって,彼自身の労働供給画数を 提起すると同時に,非自発的失業の概念を設定したのであるが,われわれは彼自身の理論に深入り することを避けて,必要の限度に考察を止吟よう。 党ず彼のいわゆる第一公準は,新古典学派以来従来の伝統的理論が限界生産力説として教えてき たものに他ならない.いま資本と労働との結合によって-種類の生産物が生産される場合,資本の 状態が所与ならば,生産物数量は労働投入の函数となる。生産物数量,産出物単位当り価格,雇用 量,賃金率,利潤をそれぞれx, p, n, h>, R とおくと,党づ生産歯数として *-/(サ)が成り立 つ,従って企業の利潤Rは R-p x-wn-p-f(n)-W・n で示されるから, Rが極値をもつ必要条件は dRldn-Q-p-f(n) -W これからR極大の条件は一般に p-f(ri)-w として示される。即ち,労働の限界価値生産力が賃金率と等しくなる点まで,労働力の投入が行わ れるであろうことをこの式は物語っている.4)ここで収益漸減の法則を想定すれば,短期においては 投入労働量の限界生産力は投入増加につれて低下するから,企業の労働二カ需要曲線は右下方へ傾斜 したものとなるであろう Keynesが古典派のものとして示し,彼自身も認めた第一公準の意味す るものは,上述の意味における労働需要函数である。 次に彼は第二公準を拒否し,彼独自の労働供給歯数を提示する。その内容はそれ程明瞭だとほ言 い得ないが,5)一般にはLeontieffによる解釈が採周されている.6)それは縦軸に賃金率,横軸に雇用

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量を測ったグラフで第1図のごとく示される。 第1図のSFS′がKeynesの労働供給歯数であるが,この函数は図のごとく, OSの現行賃金率 でF点までは水平に措かれ,その点を超えてはじめて,通常の供給曲線のごとく右上りの傾斜をも っている Keynesの場合「現行貨幣賃金」のもとでも十分働く意思をもちながら,なお雇用機 会の不足にもとづいて失業している労働者が,非自発的失業involuntary unemploymentと考 〔第1図〕 えられているから,この点から推察すれば, SF量の供 給は,現行賃金でのwould-be-wage・ earners と考え てよいであろう。即ち, SFは「賃金労働者たらんとす るもの」の全量と考えられる。かくていま労働に対する 需要が,かりにSFで与えられれば,その場合には Keynesの意味での非自発的失業は消滅し,いわゆる完 全雇周が成立する筈である。そしてこの点をこえてな お,追加労働力を雇用するためには,賃金率は引上げら れねばならない。それがFS′の区間で示される関係で ある。 勿論現実の雇用が完全雇用と一致するという保障は何 等存しない。 Robinson夫人が言うように,7)近代労働者に許される選択が,自からの労苦と賃金の 効周とを比較して,どの程度彼自身の労働力を供給するかという地位にあるのではなく, 「飢える かそれとも働くか」の選択のみしか許されていないとすれば,現代の資本主義的労働市場におい て,取引カという点で決定的優位にあるのは雇用主側である.8)かくて現実の雇用量は労働の需給両 曲線の交点によって与えられるとはいっても,その際決定的な役割を演ずるのは,むしろ需要側で ある。供給函数はこの決定機構においては,むしろネガチブな意味しか持ち得ないともいいえよ う。以上の関係を図示すれば第2図のごとくである。 図に示すごとく,現実の雇周がもしONoによって 与えられるならば, NFの部分は非自発的失業を意味 する。然し古典派が考えるように労働供給が賃金に関 して極めて弾力的であるならば, NF量の失業は貸金 をOSの水準以下に引下げ,雇用増大をもたらすであ ろう。従ってNFを厳密な意味で非自発的失業と規定 することは出来ない。だからそれが可能であるために は,賃金の下方硬直性が存在していなければならない という点に注意しなければならない。 (この点につい ては後に触れる)

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岡  部  市  之  助■   〔研究紀要 第13巻〕  59 (IV) 以上では供給側に関して労働の同質性(従って完全代替性),完全移動性及び市場の完全知識な ど,いわゆる完全競争の想定が置かれると共に,他面需要の側では需要歯数の決定に参加する企業 はいわば代表的企業であり,然もそれら企業間では完全競争が行われると想定されていた。然し現 実の経済社会や労働市場では決して企業間の完全競争も成立しないし,労働市場に現われる個々の 労働力は同質的ではない。かくて現実の経済では,質を異にする労働市場が存在し,それら各市場 間の流動は決して容易ではない。このことはわが国のようにおくれて資本主義に出発し,急速な発 展を示したような経済ではよりよくあてはまるのではなかろうか。われわれの当面の問題である賃 金格差もまた,労働市場のこのような現実的個別性に根ざしているとも考えられるのである.9) 兎まれ,従来から言われるように,労働に関しては少くとも他の一般商品と異って,決して移動 性が完全でなく,労働者の人格と分ち難く結合している。 (この点労働の質と密接な関係にある労 働者自身の本具の能力や教育訓練などの複雑な要素が含まれる)という点でも極めて特殊な性格を 備えている。かくてもしわれわれがこの点に留意すれば,現実の経済社会では,それぞれ質を異に する複数の労働市場があり,そこではそれぞれの市場がある程度,他とは独立な需給歯数をもっも のと考えねばならぬであろう。図解的には第3図のごとくである10) 弘 単純化のために全企業を労働生産性の大小に応じ てA, B, Cなどと格付けしよう。もちろん全労働 雇用費 者が一流のAクラスの企業に雇用されたいと望むで あろう。然し所与の技術状態のもとでは, Aクラス 企業群の労働需要は全労働者の希望を充す雇用機会 を提供し得ない。他面労働力についてもなんらかの 指標に基づき,それをA, B, Cなどと格付け出来 るとしよう。かくてA, B, C等々の市場間におけ る競争や流動がなんらかの事情で制約をうけている 反面,それぞれの市場ではほぼ完全競争が行われて いると想定すれば,第3図のごとく賃金にはwa, wbi Wc等の階層が生ずるであろう。 賃金格差生成の最も基本的な機構はおよそかくの如きものと考えられる。いまA, B, Cをそれ ぞれ大,中,小企業などと考えるならば,第3図はわが国のいわゆる企業規模別賃金格差現象の基 本的説明としても役立つであろう。 以上の簡単なモデル的考察を出発点としてわが国の規模別貸金格差の問題に一歩近付こう。その ためわれわれが先づやらねばならぬことは,各クラスの企業の需要曲線の格差がいかなる事情にも とづいて生ずるかということである。 (Ⅴ) 現実の経済で,もし規模別の労働需要曲線に格差が見られるとすれば,それは上述せるところか

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ら知られるように,規模間で労働生産性に格差があるからであろう。ではなぜ規模間に労働生産性 格差が生ずるであろうのか。このことを考えるためにわれわれはダグラス型生産歯数を利用して, 限界生産力説の需要側の機構を考えてみようOいま産出量をx,労働及び資本の投入量をそれぞれ A,Rとすると,周知のごとくダグラス函数は x - blfiRKk +J3=iyi) の形で示される。したがって ax/ aL- bkLた-1RJ であるから,労働の限界生産性ax/aLは資本量Rの大なるほど大となることが知られる12)かく 〔第2表(i)〕  規模別労働生産性,資本装備率,賃金率 (製造業単位1,000円/人) 規      模 計 1-9   人 10.-29 30-49 50-99 100-199 200-299 300-499 500-999 1,000-1,999 2,000-4,999 5,000-9,999 10,000-労  働  生  産  性 附加価値 ( 売 上 高 516 c O O O O O M ^ t D O N o O ^ O S o o o o ^ ( M o i c o O 5 o o o q t > . < o o j r H < M C O ^ ^ L O C O t ^ O > 0 0 0 0 0 1 1 資本装備率 1,560 r H -d < O C < 1 0 Q S O C O a O < O C < i e O C O ^ 0 -^ O i x t < r -I O O C ^ O O t > . 〇 > ' ^ l O o s r H c o i o r s -o c o c o o o c o t o 一 l l 一 l l l l l _ r -H t -4 t -I t -1 C < 1 C ^ < M C < I < N l < M 2 r H T H < M C O ^ P m C O L O C D O V O i 0 0 t -H O . ォ 」 > a > o > o o a > i > . o o r H o o c o t > -O i o j < o o o o o o o o l o i n 賃  金  率 -*#"*?oiAt>-es!t>-LoooiT-it*サa> O>HCO^IAS。OOCO i-1tHrHtHrHtHt-HCQC^おO。。cJ Coc<1CO 〔資料〕 「中小企業総合基本調査」再集計データ,昭32年,ここに資本は有形固定資産である。 〔出所〕 経済企画庁経済研究所「資本構造と企業間格差」附表E-l p. 142より。 〔第2表(ii)〕  規模別機械取得状況 (昭和32年) 金 属 工 作 機 械 発 電 機 ●電 動 機 ●電 動 発 電 機 規 則 模 一実 数 i 嘉 晶 は 引 禁 新 聾 実 数 ー嘉 副 芸 吉 葉 械 霊 フ 計 42台 串 n % iA 96 69台 2S S6 ラ l∼3 人 4- 29 234 9 100 4.2 91 3.9 20◆ 80 2●6 イ 30- 99 11 55 45 5●7 14 100 9●9 ス 盤 濫 2999と 苧 100 100 12‥3喜ノ 4082 町 蔓喜 11.ll.91.7 研 計 28 等6; 64 年.1 148 92 串●ql 1∼3 人 4 - 100 8.7 1 - 100 14.3 磨 盤 4- 29 11 27 73 4.2 80 2P 、▲3 30′} 99 10 50 50 6.5 50 50 6.8 100↑一299 3 67 33 4●2 5 80 20 9,1 300- 999 - - - - 4 75 25 3●1 ‥岬 00人以上 127 96 2.8 〔資料〕 通産省「中小企業総合基本調査報告」 〔出所〕 「中小企業の統計的分析」 (「中小企業研究甘」 p.203) 〔註〕 機械更新率は,保有台数に対する昭和32年の取得台数の割合。

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岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  61 付加価値生産性 賃 金 率 ( 万 円 / 人 ) ァ   s l 1 売り上げ高生産性(万円/人) て労働生産性,ひいて労働需要曲線の水準格差を 生み出す基本要因は,各クラスの企業間における 資本装備の格差であると考えられよう。然し現実 には更にこれに加えて資本の質も当然問題とされ ねばならないが,一般には大企業ほど資本の量質 共に中小企業より高位にあると考えられるから, 労働生産性格差の傾斜は基本的には大規模企栄に おける資本的優位に基づくと思われるO 〔註〕 (第2表及び第4図参照) 現実のデータから労働の限界生産性を求める ことは極めて困難であるから,以下ではいわ ゆる1人当り附加価値生産性(売上高)で代 用する。然し以下に示すどとくこのこともそ れ程無理ではない。上のダグラス函数から

憲一- bkL*-iR3 --些型-k i

上 が得られるが,ここにx/Lは労働の平均生産性であるから限界生産性∂x/∂Lはそれに一定の 係数を乗じたものに他らず,限界生産性と平均生産性とはkが正なる限りパラレルな変動をする からである。 勿論この場合大切なのは,企業の全体としての資本量であるよりは,むしろ労働者1人当り資本 量,すなわち労働の資本装備率でなければならない。なぜならば,資本及び労働の質を同一とする 限り,資本と労働の組合せ(資本装備率)が同一ならば,一般には収益不変の法則が支配するであ ろうから,労働生産性は規模闇で不変と考えられるからである。 要するに規模別労働需要歯数格差,従って規模閏の労働生産性格差に対する重要な規定寓の一つ 紘,規模閏における労働の資本装備率に頗薯な差が存在するということであり,大企業ほど資本集 約的生産をやっているからだと考えられる。ではこのよ うな事態を生ぜしめる要因は何であろう か。一言にして言えば,それは規模間の資本支配力に著しい差が存在するからである。われわれは 次にこの間題を考えよう。 (VI) わが国の経済成長率が極めて高く,特に戦後のそれは鴬異的なものであり,そのような高度の成 長率が,高度の資本蓄積率に支えられていたことは青うまでもない。視野を戦後に限れば,敗戦に もとづく経済の荒廃から 28年にいたる復興の過程ではもちろん,その後の飛躍の時期において ち,企業の高い蓄積率を支えたものが,一方では金融機構であり他方では政府資金であったという 点も衆目の一致するところであろう。然し金融機関や,政府を通ずるこのような資金が,すべての 企業に万遍なく配分されたわけではない。日本経済の急速な回復→発展の陰には,すでに戦前から 存在していた金融機関と企業間の差別的融資の機構が強く働いていた。特に戦後の急速な発展や技

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術革新に必要な資金は,ただでさえ資本不足のわが国経済にとって夷に重大な問題であった。企業 はこのために必要とされる莫大な資金を,自己内蓄積で賄うことは到底不可能であった。かくて戦 前においてもそれ程高くなかった自己資本比率は戦後急激に低下し,反面借入率は高まった。銀行 のオーバー・ローンが注目を浴びるに至ったのもかかる事情にもとづくものである。 さてこのような一般的資本不足-企業の借入融資の中で資金はどのように流れたであろうか。端 的な表現をすれば,それは資本支配力の大小に従って,傾斜的に流れたということができる。もと もと資本支配力という言葉は極めて複雑な社会経済的内容を合むが,やはり最も基本的には企業の 信周力であろう。そして企業の信用力の背後にあって,それを支えているものは,その企業の成長 性や自己資本であると見られる。 一般的には自己資本の大きな企業はど信用力が大きく,一流大企業はとくに長期資金の借入れ正 おいて有利な立場に立つことができる。事実大規模企業の自己資本額は,その絶卦額において,中 小企業のそれを上廻っているばかりでなく,企業の稔資金中に占める自己資本の比率においても中 小企業より造かに高率である。かくて大企業は自己資本の優位を基盤として,借入れ,特に長期資 金の借入れについて,絶対⊥的とも言い得る有利な地位を占めているのである.次表はこのことを示 すであろう。 〔第3表〕  資本集約度,自己資本,長期借入金の規模間格差 (製造業単位1,000円) 総資産規模区分 - 200万円 200万- 500万 500 -1,000 1,000 -3,000 3,000 -5,000 5,000 - 1億円未満 1億- 5億 10 10 .- 50 50 ′-100 100 .-平   均 70.2 68.3 95.7 167.3 186.0 226.9 459.7 640.7 1,014.8 1,589.2 1,316.7 708.0 65.6 60.2 83.9 143.2 121.0 188.8 375.8 425.8 685.7 1,186.6 1,015.3 529.9 貞 1 り 長 入 金 資本集約度 従業員1人当り 有形固定資産 4.6 8.1 ll.8 24.5 65.0 38.1 85.2: 214.9 329.1 402.6 301.4 178.1 57.8 60.2 102.0 142.6 182.2 186.0 334.8 533. Q 739.9 1,018.6 988.9 525.3 〔資料〕 「法人企業統計」再集計資料。 〔出所〕 経済企画庁経済研究所「上掲書」 p. 84および中山伊知郎編「資本蓄積と金融構造」 P. 10。 第3表によると資本集約度格差は1人当り自己資本格差と,かなりよく対応している。そして最 高,最低の倍率は資本集約度倍率(17倍)よりも自己資本倍率(18倍)のほうが僅かに高くなって いる。叉この表から,自己資本の量が資本支配力の基盤となっていることは長期借入れ金の最高最 低倍率が87.5倍と格段の開きを示していることからも推察できよう。この点を確かめるため,試み に自己資本をKl,長期借入れ金をK2として第3表から両者の相関を求めるとK2-0.0667Kiimと なる。ここでKlの指数は音うまでもなく長期借入れ金の自己資本に対する弾性値に他ならない13) 従っていま1人当り自己資本が規模拡大につれて10%高まれば,長期借入れ金は13%程度増大する

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岡  部  市  之  助   〔研究紀要 第13巻〕  63 ことを意味する。かくて各企業にとって,自己資本の大きさは,その一般的な資本支配力の程度を 支配し,資本市場での各企業の競争条件は,自己資本の量によって制約されると見ることができよ う。 ところで資本集中機構において大企業の占める優位はこれのみには止まらない。    も言う ように,現実の利子は「貸付けに対する報酬」という要素の他に危険負担という意味を含む14)前者 の面では規模閏の貸付金利に区別は生じないとしても,後者の面では企業の安定性,収益性などに 大きな違いがあるとすれば,これら両者を含む現実の貸付け利子には当然格差が生ずるであろう。 由来わが国の中小企業は大企業との関係で景気の調節弁的機能を果すと言われてきた。下請中小企 業はいわずもがな,そのような関係にないものでも,多種小量生産であったり,輸出に強く依存し ており,堅実な国内市場に地盤を置いていないとか,過当競争による共喰いなどのために,その浮 沈が極めて烈しいのが普通であった。従ってこのように考えれば「間接金融」の主体たる各種金融 機関が公衆預貯金の安全維持の建前から中小企業に升する融資をしぶり,又貸付けをする場今にも 相対・的に高い金利を課そうとするのも自然のなりゆきであったともいえよう。次表はこの点をある 〔第4表〕  平均借入れ金利の規模間格差 (製造業;単位%) -200万円 200-500万 500.-1,000万 1,000-5,000万 5,000万-1億 1億円以上 〔資料〕 「法人企業統計年報」 〔出所〕 中山伊知郎編「資本蓄積と金融構造」 p. 130 〔註〕 平均金利-支払利子割引き料÷(金融機関短期借入れ金+同長期借入れ金+社債) 金融機関別企業借入れ資金の規模別分布 (従業員規模別)

二三二一二至言三真宗芸 ≡二言≒三三二

民間金融機関

≒㌻

行行行門関 銀小 都地長中金 O C O 0 0 O i t D H C Q   -t f ● ● ● r > -1 o c o t h l 1 C O -* # I A O O < O O * O   * O ● ● ● ● i r s i n c o   < m O C O C O   " t f H O ( N C O ● ● ● ● O > 0 0 L f 5   t H O ) I O t > .   O O o i r > * &   < y > ● ● ● ● " ^ " * T -H T " H 2       1 0 0 < M r H O < N l t ^ < M t -H ● ● ● ● C N I C S l ゥ   C M C O C O 0 0 C O < M ^ t -H   ^ ●         ●         ●             ● S o H C O 取  引  先 貸 金 業 者 親 戚・知 人 そ  の  他 22.76 5.99 3.52 8.95 i -H < N ! l > -r H < O b -T -H O ●         ●         ● ^ o o w 12.48 12.22 0.57 10.34

全。計。h L竺讐  9.68  9.12  4.92  7.竺  58.04 100.0

〔出所〕 経済企画庁経済研究所「上掲書」 pp. 98-9の表より組換えて算出。

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程度推察せしめるであろう。昭和33年について見ると資本金500万円未満の小企業は平均して17 -18^ちかくの利子負担をしているのに対し,資本金1億円以上の大企業では平均約11%の相卦 的低利で借入れていることが分る。更に第5表は金融機関別規模別貸出し状況を示したものであ る。代表的金融機関たる銀行(都市,地方銀行を含む)の全貸出しに占める割合は50-60%であ るが,この表からも見られるごとく,このうち中小企業向け貸出しは僅かに1/3にすぎない。企業 数において約90 %を占める中小企業に漸する貸出しは全金融機関を合しても僅かにその1/2以下 にすぎないという事実は,資金配分において規模闇の不平等がいかに烈しいかを明瞭に物語るもの である。 要するに大企業は中小企業に対する資本支配力の優位にもとづき-それは自己資本の絶卦額お よび自己資本比率における優位にもとづく-労働者1人当り資本装備率,なかでも1人当り固定 資本装備率において格段に有利な立場に立っている。このことが労働生産性格差,ひいては労働需 要曲線における規模聞格差を生ぜしめている,というのが,以上2節にわたってわれわれが示そう とした点である。ではひるがえって供給側の事情に眼を転じよう。 (VII) さきに引屈したごとく Robinson夫人によると近代労働者に許された選択は「働くかそれとも 飢えるか」に限られる。ところでこのような事態は労働者の大部分が雇用労働者から成る欧米の発 進工業国の労働市場では妥当するとしても,独立業主と家族従業者がなお就業人口の約半数を占め ているような,わが国労働市場にそのままの形で妥当するであろうか。次表は主要国の従業上の地 位別就業者構成を示したものである。 (第6表参照) 〔第6表〕  各国自営業主家族従業者の割合 日  本 フィリピン ブラジル カナダ アメリカ 西  独 イギリス (1956) (1948) (1950) (1951) (1950) (1950) (1951)

i旦宣罷業鮮卑(#)55.6 51.9 49.2 22.7 17.8 29.1 7.6

〔資料〕 わが国は「就業構造基本調査」 1956年,他は国連「世界統計年鑑」 1957年版。 〔註〕 国名の下の( )内は調査年次を示す。 雇用労働者の場合,彼等は労働力という商品を企業という別の経済主体に売ることにより,その 対価とし七得られる賃金,給料などが,彼および彼の豪族の労働力乃至生命再生産のための所得を 形成するのであるから,生命,労働力推特のためには雇用されるということが,絶滑的必要条件と なる。かくて雇用契約の解除,即ち失業,解雇はこれら雇用労働者には餓死を意味する。勿論失業 が一時的なものであれば,彼自身の貯蓄,失業手当,親族知人の同情などに手頼ることによって, 彼及び彼の家族の生活を維持することはできよう。然し失業が長期に亘るならば, Robinsonのい わゆる「飢え」に直面せざるをえない。すなわちこの種の労働者にとっては被備考となって「働 く」ということは彼の世帯の生命維持や,労働力の再生産と表裏の関係にある。かくて彼等にとっ ては「働くかそれとも飢えるか」の選択しか許されないとするRobinson夫人の立言は妥当する

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岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  65 I I t t t ・ ▲       -        ト 、 卜 き J I 一 書 ・ , -一 1 -. -ノ ∼ / & ′1 であろう。 然しこのような雇用労働者に対'して,業主,家族従業者V7)場合,彼等の労働力の売り手も買い手 ち,しょせんは彼自身または彼等の世帯主である。従ってここでは当:然近代的な意味での雇用契約 は成立せず,解雇という現象は生じない。彼等の場合にも,なにがしかの資本と彼等自身の労働と いう犠牲を払って,その報酬としての所得を得るという点では雇用労働と異ならないとしても,そ こでの労働力は商品としてのそれとは性格的に異るものである。彼等がどの程度労働の犠牲を払う かほ,彼とは別の主体である使用者によって決定されるのではなく,彼等自身によって決定され る Robinson夫人がいみじくも指摘したごとく,彼等は新古典派的に「もう1時間の肩や背中の 痛み」が「もう1時間余計に働いて得られる生産物(価値) 」に値するかどうかという点を比較商 量し得る立場にあるのだ15) もし労働供給を労働時間で測るならば,自営業主や家族従業者の分野における供給は労働の限界 不効用と労働の限界生産性の均等という条件によって与えられるであろう。かくてこの場合,労働 供給曲線の水準とその傾斜とを規定するものは,一方では労働に伴う限界苦痛であり,他方では所 得および閑暇の限鼎効周であろう16)更に労働供給の主体を労働者個々人と考えるのではなく,本来 的には家計だと考えるならば,家族の中で誰が働き,誰が家事に従事し,誰が教育を受けるかを決 定するのは,豪族全体の希望する現在および将来の生活水準と家計全体の収入のバランスであると 考えることもできよう。 かくてわれわれは労働供給行動一般を規定するものが「働くかそれとも飢えるか」という単純明 瞭な原理のみによるのではなく,実に複雑な主体的,社会的制約要因が相互的に規定し合っている のに気付くのである。そしてこういう立場から,われわれは以前に労働力を核労働と縁辺労働とに 区別し,労働力率の問題を考え,家計の労働供給行動に-分析を試みておいた17) 然し労働供給に関してはいま一つ別の重要な視点がある。それは未だ全く労働力を提供したこと がなかったという意味で,未就業者であったものの労働市場-の登場と,既に就業していたが,現 在の就業状態に何等や、の意味で満足せず,別の就業機会を求めているとか,叉は失業したために新 な雇用機会を求めて労働市場に現われる場合とがあるということである。そしてこの点を考慮すれ ば,われわれは労働市場への新規流入労働力を次の三つのタイプに分寮するのが便利であろう18) -(i) 新規学卒労働力 (ii) 現在各種の異る自営業を自ら経営しているか,叉はその家族従業者であるが,それを止 めるか,叉はそれを継続しながら雇用労働者として彼等の労働力を販売しようとするも の。 (iii) 家庭の主婦またはその手助けをしている女子,就学中の学生,生徒19)また既に労働市場 からl)クィアして豪族や社会により扶養されている老人などで,何等かの理由のため労働 市場に現われるもの。この種労働力は(ii)のそれが一種の職業闇移動と見倣し得るのに 対し,正常状態の下では労働市場に現われなかったであろうと思われる労働力が,異状事

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態のために労働市場に流入するものであり,われわれの上記「縁辺労働」の代表的グルー プと考えられる。 さてここで注意すべき点は,このような分掌そのものよりはむしろ,それらが(a)労働力の質や (b)労働力の供給動機において異層をなしているという点である。まず(a)から見よう。 第(i)のグループについて言えることは,それが他のグループと全く異り,職業的にも社会的に ち,殆んど経験をもたない無垢の未経験者であり,精神的にも技術的にも大きな可能性を胎む未成 熟労働であるということ,これを企業の立場から見ると訓練いかんでは最も弾力性に富んだ「扱い やすい」労働力であるということであろう。 これに対し第(ii)のグループは一定の職業的社会的経験を積んだ,肉体的にも精神的にも威熟 した既経験者であり, 「その途にかけての」熟練,または半熟練労働者である。換言すれば,彼等 はよかれあしかれ,いわゆる「色のついた」労働力であり,罪(i)グループとは全く異っている。 更に第(iii)グループの主要部分である家庭嫁入の場合は,職業的,社会的経験をもたない場合 ち,結婚前の職業経験者である場合でも,多く長期の中断期闇をはさんでいるとという意味で第 (ii)グループと異っているし,叉未経験者の場合でも,年令的に叉は家事育児労働との両立とい う点でも学卒未経験者とは極めて異った質の労働力を形成していると見なければならない。 然し更に重要な相違はグループ別の労働供給の法則ないし,供給動機の差についてであろう。 上記のごとく第(i)グループはその未成熟と将来の大きな可能性という点で他の2着と質的な違 いをもつが,ま、さにこの点において他に滑し労働力として決定的に優位に立っている。この点最近 時のわが国労働市場における新規学卒労働市場の烈しい逼迫状態を見るだけでも容易にうなづけよ う。第7表は近年の新規学卒労働市場の需給関係と職安一般市場におけるそれとを比べたものであ る。 (第7表参照) 〔第7表〕  労 働 市 場 の 需 給 関 係 (単位1,000人) 中 学 卒 高 校 卒 求 ォ (a ) 求 人 (b ) ー求 人 率 (‡ ) 求 職 (a ) 求 人 (b ) 桓 人 率 (吾 ) 一 般 市 場 求 職 (i ) 求 人 (b ) 求 人 率 (‡ ) 31 年 51 .7 5 1 .1 9 S.7 96 2 9 .6 2 0.5 69 .2 ^ 1 ,19 9 i 5 8 5 7 2 54 7 3 8.1 & 4 8.5 39 .0 I 字2 ‥07 一 32 57 .6 6 8.0 11 8.2 3 0 .5 2 9⊥4 9 6.3 1 ,18 0 33 57 .8 6 6.7 11 5.5 3 5 .4 3 2.4 9 1.4 1 ,40 7 34 5 5 .6 6 6.8 1 2 0.1 4 0 .0 3 8.0 9 5.1 1,34 1 68 0 88 1 35 ■ 4 8 .8 9 4 .9 19 4 .5 4 2 .2 - 5 3.0 12 5.5 1 ,19 1 〔資料〕 労働省「職業安定業務統計」 〔出所〕 野見山真之稿「最近における労働市場の変化とその背景」 (「労働統計調査月報」 VOL. 13, No. 4, p. 11より作成。 次に第(ii)グループの人々は少くとも次の諸条件のうち一つ叉はいくつかが充される場合に, はじめて雇用労働にかわるであろう。即ち(イ)小自営業を継続するよりは,雇用労働者となる方 が収入も多く将来性もあると考えられる場合。 (ロ)現在の収入では,彼等の家計が希望する生活 水準を維持することが極めて困難である。 (-)過去の職業的社会的経験を生かし得る。というこ . = ! ー -∼ . -  -  -一 -  I ! i " _ 日 . I l l .             I . . i ′ -・ F ー

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岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  67 となどであるが,ともかく,彼等の場合他ときわだって異る点は,現在の職業と,これから就こう. とする職業とが比較され,その判断に立って労働力の移動が決定されるということである。 最後に第(iii)グループにとっては,比較対照さるべき前職は存しない。過去の職業であっても 長期間それから離れている場合には,特殊な専門的職業ででもない限り,それを生かす途は極めて 限られている。従ってここで専ら問題になるのは生活の困難ということであろう20)かくてこのグル ープにおける求職の基本的動機は生計補充という点に求められる。この点第(ii)グループでは生 涯の職業とそれによる生活が労働力供給の基本的要因となるのに対し,ここでは止むを得ざる求職 と雇用機会の有無とが彼等の生計補充的労働供給を決定する。そしてこれらの点から,両者におけ る労働供給価格にも差が生ずると共に∴供給量変動の態様にも相違が出てこざるを得ない。 即ち第(iii)グル-プの労働供給は,それが家計補充的と規定される限りにおいて,世帯主たる 核労働の収入の高低,叉家族を考慮する場合,その世帯生活水準にとって収入が十分であるかどう か,及びその程度に強く制約されよう。 r更に学卒の場合も,進学と就業の選択可能性を考慮すれ ば,同様のことが言えるし,世帯主収入水準の上昇は反って,この種労働力供給を減ぜしめる可能 性が大きいとも言い得よう。21)これに対-し第(ii)グループの雇用市場-の労働力供給は雇用労働者 としての賃金の自営業収入に対する相対一的優位や,安定性などに基き,それと対応的に増大する可 能性が大きいと考えられるのである。 以上二っの視点にもとづいて,労働供給という面から労働者を察型化したが,上の記述からも分 るように,これら両視点による分賓は極めて複雑な形で相互にからみ合っている。そのような構造 の分析は別の機会にゆづるとして,概括的に言えば,前者のいわゆる「核労働」は後者の第(ii) グループ及び第(i)グループの一定部分と,叉、「縁辺労働」は第(iii)グループ及び第(i)グル ープの一部特に18才未満層労働力に対応すると考えられよう。 更にわが国の雇用慣行を考慮する場合,大体の傾向として,次のように言うことも許されるので はなかろうか.即ち,大企業の労働力別して将来の基幹的労働力は-企業内養成制度などを考え れば-殆んど専ら新規学卒者のみから成り,大企業の臨時工や中小企業の熟練,未熟練工が残余 の労働力から成っているということ。勿論この点も概括的な見方にすぎず,職種や産業別に考える 場合,必ずしもそのままの形であてはまるものではないが,大企業労働市場の閉鎖性,これに対す る中小企業労働市場の相対一的開放性とを考慮すれば,一つの傾向としては言い得られよう。 然しだからといって新規学卒労働力のすべてが,いわゆる大企業労働者としての雇用機会に恵ま れているわけではない。むしろ反対■に,その中の一部しかそのような機会に恵まれないというのが 現実である22)かくてこそ中小企業労働市場に関する,いわゆる「残されたる労働力」論の成立す る余地が存するのである。氏原氏は言う「中卒者の労働市場においては,製造業と商業は単一の労 働市場を形成する。この中から製造業の大企業が高い初任給をもって,中卒者をまず吸引する。中 卒者も第一にこの雇用分野を選択する。製造業の中小企業と商業企業とは,その残りの部分から中 卒者を求める。中卒者の側から言えば第二次的にこの雇用分野を選択する。この意味では後者は製

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近業でも商業でも同じ労働市場を形成するが,前者に比べれば,低位の雇用分野を形成するのであ る。」23)次表は東大社会科学研究所が神奈川県の中学校新規学卒労働者について行った実態調査結果 の一部である。この表によってわれわれは労働市場における需要側及び供給側の志向を概括的に把 えることができよう。 (第8表参照) 〔第8表〕  中 卒 労 働 市 場(男子)の 構 造 1 \ \ \ 産 職■\\\\、\\■\業 別 、、\、\ 業 加 \\\\\ 農 業 建 設 莱 製 造 業 卸売友部小 売 業 金 融 保 険 ● 不 動 産 サ ー ビ ス 業 . ス 公 】務 ■ 自 小 質 工 工 業 場 大 工 場 日 商 営 商 業 業 専 門 的 技 術 的 職 業 - l - - - - - - - - - - - -管 理 的 職 業 E - E - - E - - - -- - - - - ● - - ′ 事 務 従 事 者 - A - A A - A A A A A - A - - A 販 売 従 事 者 - - - - - E C - - - - - - - - -農夫 ●伐木夫●漁師その他 E - - - - - - - - - - - - - - -採 鉱 -採 石 的 職 業 - - - - - - - - - - - - - - - -運 輸 的 職 業 - - - A - ー - - - - -技 能 工 -■- C E C B - - - - A A - C - - -単 純 労 働 者 - D - D D - - - D D ■D - D - - -家 族 サ ー ゼ ス - - - - - - -■- - - - - D - - - -保 安 サ ー ビ ス - - - ■ --- - - -そ の 他 の サ ー ビ ス - - - - - - - - - - -D - D - -〔出所〕 〔註〕 大河内・氏原編「労働市場の研究」 pp. 142-3。 A :中卒者が第一次的に志望しても,社会的理由によって就職することがむつかしかった職業。 B :中卒者が第一次的に志望し,かつ就職することのできた職業。 C :中卒者が第一次的には志望しなかったが,就職するものの多い職業。 D :中卒者に就職の機会はあるが,志望することの少かった職業。 E :その産業の特質のために中卒者の中,特定のものに就職が限定されているもの。 このような傾向は最近の如き労働力不足の時期にも依然として作周しているであろう。勿論労働 力の質の問題は,需要側たる企業の質を区分するようには容易に行なえない。24)然し少くとも使用 者たる企業の立場から見れば,彼等が有形,無形の各種のテスT・を経て選ばれているという事実か ノ ら,そこには何等かの意味での質の格着けが行われていると見ることもできよう。 兎まれわが国の相対■的過剰人口を考慮するならば,上記第3グループはもちろん第2,第1グル ープの相等部分は賃金その他の労働条件において優位にある大企業労働市場からはシャツ トアサ Tlされ,第1グループの中でもごく-部の者のみしか,大企業労働市場における雇用機会に恵まな いと考えられる。他面から言えば,大企業の将来の基幹労働力として,選ばれたるェi; - >の地位 につき得るのは,核労働力のうちの限られたる一部であり,縁辺労働はそれが大部分家計補充的な 意味での労働力の窮迫販売者の地位に置かれていると見る限り,その殆んどが中小企業の労働市場 に雇用機会を求めざるを得ないであろう。第9表はわが国の規模別労働者の分布を示すものである

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岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  69 が,この表から見てもいわゆる大企業の常周労働者が全雇用労働者のいかに二小部分にすぎないかが 明瞭であろう。 〔第9表〕  規 模 別 従 業 者 の 分 布 (単位%) 年 次   1 -3人   4 -29人   30-99人  100-199人 N 0 0 N W ●               ●               ●               ● 0 0   N 0 0 O i T -i T -4     1 -i H O 0 0 N I f l ●             ●             ●             ● 00 S IO OO 200-499人  500人以上 -^   < M C O C D ●               ●               ●               ● o o o o r-¥ r-¥ tH tH CO <NJ "* rH ●             ●             ●             ● CO (M H (N N N N   ( M 0 義 計 疏 栄 工 鞘 餐 ︹ 〔出所〕 「中小企業の統計的分析」 (「中小企業研究Ⅱ」 p. 31より) 唯ここでわれわれの立場から特に注意しておきたい点は,地域的,社会的な各種の制約はあると しても,多くの場合これら各オーダーの労働供給者は,雇用機会さえあれば,労働条件や賃金の高 い大企業に自己の労働力を売りたいという希望をもっていると思われるから,彼等が中小企業労働 市場に供給者として現われるのは,むしろ大企業-の門戸が限られているという事実によるところ が大きいということである。換言すれば,彼等はいわゆる「残された労働力」なのであり,しかも なお労働力を販売せざるを得ない立場にあるという点で,わが国経済の根本的性格たる資本不足, その反面たる相対的過剰人口の必然的結果と見得るという点である。即ち彼等は一流企業の労働市 場からしめ出されたという弱い立場にあり,そのために彼等自身の労働供給価格を引下げざるを得 ない地位に追い込まれていると考えられるのである。25) さきの第3図においで労働供給曲線がSa-Sb-Soというように右に移行するにつれて水準を低 下させていくのは,かかる事情によるものである。26)そして反面生産性の高い一流企業の他に,そ れのより低い二流三流の中小企業が併存する限り,これら企業の労働需要曲線と,その水準が次第 に沈下する労働供給曲線とから成る,労働市場の階層秩序が成立するであろう。かくてそれぞれの 市場における需給両曲線の交点によって与えられる賃金水準には格差が生ぜざるを得ないこととな る。 (vni) 以上の説明に関連して注意すべき2点を附け加えよう。第1は賃金の下方硬直性の問題であり, 第2は大企業における臨時工の問題である。 先づ第1の問題から始めよう.相対値勺過剰労働力の存在を前提すれば,一流企業においても労働 の需給開係から,賃金は低下し,究極的にはより低い賃金のもとで均衡が成立するのが,むしろ理 論に忠実な解釈とも受けとれるが,現実には一流企業の賃金は他の二・三流企業のそれより高い水 準にあり,低下する傾向は見られない。このことは複雑な社会経済的理由に基づくものであろう が,最も基本的には次のように解釈できよう。即ち一方では組合の資金部下げに対する抵抗と,他 方では企業自身の態度,すなわちよりよい質の労働を確保して置きたいという欲求および労使いづ れの側にも作用すると思われる社会的勢力,いわゆる企業における「格」の作用に基づくと思われ

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る。 高田保庸博士も言われる如く27)賃金は単に労働力の価格であるのみでなく,同時にそれは「待 遇」という意味をもつ。即ち賃金はある意味で社会的なランクの一種のシンボルと見られる。かく て一流企業の常用労働者は選ばれたる- l) -トとしての社会的ランクに対応する賃金を強く要求す るであろうし,使用者も自己企業の社会的評価を崩したくないと思うであろう。資本主義企業は営 利を目的とするとは言うものの,このような意味での人間関係,社会関係は企業行動の基盤として 常に潜在的な形で作用していると思われる。かくて一流企業の場合,相対的過剰人口の下では必要 労働力をより低い賃金においても入手できるとしても,現存賃金水準を引下げようとはしない。そ してこの点に賃金の下方硬直性の一つの根拠がある。賃金格差成立の積極的要因が企業間生産性格 差にあるとすれば,賃金の下方硬直性はその消極的要因として見落し得ない重要性をもつといえよ う。 第2の問題点の意味をきわ立たせるためにわれわれは図解を用いよう。 〔第5図〕 第5図においてDaDa′は一流企業の労働需要曲線 SaSa′は一流企業の現行賃金における労働供給曲線で ある。現行賃金率OSaでは図のごとく一流企業の雇 用量はSaAで与えられる。かくてAFの労働は「残 された労働力」となり,その供給価格をShSb′のごと く下げざるを得ない。28)ここでかαかα′が一流企業の労 働の限界価値生産力曲線であったことを想起すれば, 一流企業群はOwbの賃金水準で,新にBB'の雇用を 増加しても,なんら利潤極大原則に反するわけではな い。この場合若しSaAの労働力とBB′の労働力とに 明確な質の差が存在すれば別であるが,その区別が極 めて困難であるとすれば,同一企業内で賃金水準を異にする,ほぼ同質の労働が併存することとな ろう。勿論このような事態は人間関係の上から見て決して望ましいものでないばかりでなく,既存 労働者もこのような差別賃金が,彼等の賃金引下げの一つの口実となることを恐れて抵抗するであ ろう。 然しこの場合においても BB'の新規雇用者がなんらかの形で,既存のSaAの労働者と別なラ ンクを附されるならば,このような難点も克服可能である。かくて企業はこの新規雇用労働力ββ′ を既存労働者と別なランクに属するものとして格付けする。例えば前者に臨時工という名称を与え ると同時に,後者を常用工と名づけるごときである。 ・わが国における同一企業内常用工,臨時工の 貸金格差は基本的にはこのような事情から生ずるものと思われる。29) (IX) ・さて以上の考察は専ら規模間賃金格差の静学に属する。本節でわれわれはその動学的側面に触れ

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Q                 か 岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  71 よう。即ち規模闇賃金格差は循環の過程でどのようなど--ビアを示すかというのが本節での視点 である M. Rederは熟練度格差skill differentialsが経済循環のプロセスでどのように変化す るかについて,分析のための一つのモデルを提供している30)彼によると,何等かの理由で労働に 対する需要が増大する場合(熟練度に階層を想定すれば)最高級の熟練労働の不足は,その基準を 引下げることによって,次位の熟練労働を以て補充することが可能である。かくすることによっ て,最高熟練労働者の貸金水準を引上げることなしに,次位の熟練労働者に最上位者の賃金を支払 えば,必要労働力を賄うことができる。同様に次位以下の労働不足は,第3位,第4位などのより 熟練度の低い労働力で補うことができよう。 ただ然し,完全雇用が想定され,縁辺労働力からの労働力補充の見込みが薄いような,特殊の場 合を想定すれば,最下級未熟練労働力の補充は困難となる。かくて考察を短期に限る場合,募集, 移動,訓練などの困難のため,最下級未熟練労働者の賃金は上昇する傾向が生ずるであろう。従っ て急速な労働需要の上昇期には,賃金の熟練度格差は多かれ少かれ減少する傾向があるとするのが 彼の仮説であった。 われわれの当面の問題はもちろん賃金の熟練度格差ではなく,企業規模闇賃金格差の問題であ る。然し前にも指摘したごとく,労働の質に差はあるとしても,わが国の規模闇賃金格差生成の基 本要因は,労働力の相升的過剰(需要側要因はここでは問わない)という点にあると考えられるか ら, 「残された労働力」としての中小企業労働者もT'規模間における上向意欲は極めて強いと見るこ とができる。かくていま企業内労働力構成を問わないとすれば,より条件のよい企業に就業の機会 が開かれれば-本格的な企業の拡張,新設などのため-中小企業労働者は強い制約要因のない 限り,そちらへ移動しようとするであろう。かくてRederの方法は,われわれの規模闇賃金格差 の問題にも応用可能である。図を用いて以上の説明を補足しよう。 (第6図参照) W b I I I 一 I I I I I ■

-一→ :

I -W〝Cト-__ W′e十一一一 IUR W e F -I

→ :

-■■】 1 A A/ 革  B′ 〔第6図〕 図において一流大企業の労働需要が急増したた め,需要曲線はDaからDa′に移行する.このよ、 うな需要増大を充すため,一流企業は現行賃金で ち,二流以下企業から必要な労働力を引抜くこと が可能である3Dひるがえって二流企業は引抜か れた不足分を同じ要領で三流以下企業から手に入 れることが出来る32)然し最後に残された三流企 業は,そのような余地は殆んどない。従ってこの 最下級企業群では労働力確保のためには,質金水 準を引上げることにより,引抜きに対応するか, 従来の家族就業者のグループや非労働力的縁辺労 働から不足分を補充しなくてはならない33)かく て急速な経済成長-労働需要増大期には,下級企業の賃金が相野的に上昇し,規模聞賃金格差には

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縮少の傾向が生ずるであろう。 然し以上の説明が上昇局面で常に妥当すると考えるのは行き過ぎであろう。例えば一流企業の組 合組織率が極めて高く,しかも強力であり,他面三流小零細企業では組織率も極めて低く,更に潜 在失業,頗在失業がなお多数存在するような社会を想定しよう。一流企業の拡蘇,新設などによっ てそこでの労働生産性が上昇すれば,一流企業労組は,このような生産性上昇の成果を取り返すた めに,直ちに賃上げに訴えるかもしれない。このような場合    も言うように34)企業は収益 の増大する時期であるから,比較的容易に組合の賃上げ要求を-全面的にではないとしても-容れるかもしれない。然し反面最下級の三流企業では∴或は賃金支払能力の限界とか,潜在失業の プールからの吸上げなどにより,現行賃金水準でも必要労働を十分補充できるであろう。かくてこ のような場合には上記とは道に規模間格差は反って拡大すると思われる。 わが国の場合昭和26-32年間にわたる,回復発展の時期は,むしろ規模間格差は拡大の傾向に あったが,この時期はわれわれの第2のケースで解釈されるし, 34年以後それが縮少傾向を見せ始 めたのは第一のケースで解釈できるのではなかろうか。次表は規模聞賃金芸格の年次別比較であ る。 (第10表参照) 〔第10表〕製造業 現金給与総額の規模別格差の推移 (500人以上-100) 年  100-499人 C M L f D r H C O O O C O T -H O O t ^ C D t ^ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ^ c ^ o i O i t ^ ^ c N i o a J O J O 8 7 7 7 7 7 7 7 6 6 7 30-99人   5-29人 C O N O O O O O O O H O N H O J ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● t ^ T H o o a > o o o < o < 」 > ^ c o o o C D C O L O L O C O L O L O I O L O I O I O O > C O C O C O ●● < N I C O ^ H C O t J * " ^ " ^ t l " ^ 〔資料〕 〔出所〕 毎月勤労統計調査。 安庭信清稿「最近の規模別賃金格差につ いて」 (「労統」 13の4, P. 21) (Ⅹ) 最後にわれわれは規模間賃金格差問題の将来 に一瞥を与えて,この小稿Q結びに代えよう。 本稿でわれわれが一貫して維持してきた視点は 最も基本的には二つである。一つは需要側での 規模闇労働生産性格差の存在であり,その背後 には労働の資本装備率格差とそれを支える金融 構造があった。他の一つは供給側要因としての 相葉卜的過剰人口,即ちわが国の資本不足という ことであった。この後の要因が一流企業-の雇 用機会を狭く限定し,一部の恵まれた労働者の みに門戸を開くにすぎないから,大多数の「残 された労働力」はより低位の二,三流中小企業に雇用機会を求めざるを得ないこととなり,彼等の 労働供給価格も次第に低下せざるを得ないと考えられたのであや. さて最近わが国の労働市場でも,労働力不足が注目せられるに至った。このような事態は明治中 期の日本資本主義の急速な発展期や第一次,二次大戦の一時期を除くと,わが国資本主義史におい ては殆んど見られなかった現象と言わねばならない。36>35年度「経済自書」でも,この点が特に強 調されている。自書ではこの間の事情が「このような生産の急増(対前年16%の増加)にともなっ て,労働力に升する需要が増加して一部に労働力不足が生じ,これまで改善がおくれていた中小企 業などでの賃金水準や労働条件の向上が目立った。87)」という言葉で表わされている。われわれは欝

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岡  部  市  之  助    〔研究紀要 第13巻〕  73、 7表で中学高校新規学卒就業者に漸する需給関係が年次別にいかに変化したかを見た。そこで見た ように新規学卒労働市場の需給逼迫の状態は極めて明瞭である。かくて求人側における需要充足率 は中小企業の場合はもちろん,一流大企業においてすら,技能労働に関しては十分であるとは思え ない。 (第11表参照) 〔第11表〕  技能労働力の充足状況(34年11月) 計 熟 練 工 半熟練工 全 産 業 計 うち従業員14人以下 〝 15-99人 製 造 業 計 うち従業員14人以下 〝 15-99人 製造業中機械金属工業計 うち従業員14人以下 〝 15-99人 47.6# 40.0 58.3 61.3 88.8 58.3 62.1 44.4 58.3 未  熟  練  工 3 年以下 42.25?$ 9.5 28.8 43.4 12.5 26.7 43.7 25.7 31.9% 22.2 18.2 33.5 25.0 25.0 34.3 ll.1 100.0 〔資料〕 川崎職業安定所調。 〔出所〕 経済企画庁編「昭和35年度経済自書」 p. 147より。 〔註〕 求人数に対する充足数の割合。 日本経済のこのような新しい事態をわれわれはどのように理解すればよいであろうか。 30年以後 における技術草新投資の本格的展開,それに基づく下請企業の近代化と拡張とは労働力需要の急増 をもたらした基本要因であった。他面最近の進学率の上昇は,特に新規労働力供給減少-これは 最近の中卒新規労働力が終戦前後の出生率減退期の年令別人口と対応していることにもとづく 」 という供給側の基本要因と相保って,この期の労働力不足を特にきわ立たせているという事情は考 えねばならないとしても,企業の未充足率の高さや,設備のオートメ化,コンベヤー化などが,任 意の操業短縮を困難にしているという事情などと相侯って,現下の労働力不足現象を極めて限られ た一時的な特殊現象たらしめない面も存在すると言わねばならない。38) 兎まれ将来の労働市場の問題として決定的に重要なのは,昭和25年以後におけるわが国出生率 の急激な減少という事実であろう。今後数年乃至10年の間にはこの事実は学卒新規労働力の供給 面にはっきりと現われてくる筈である。他面日本経済が,いわゆる「長期経済計画」の線に添って 順調に進むとすれば,労働需要は益々増大すると予想される。次表は篠原三代平氏の堆計によよる ものであるが,この表からも将来の労働市場Jlの問題が奈辺にあるかが推察できよう。 (第12表参 照) 〔第12表〕   将来における想定労働力需給関係

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〔出所〕篠原三代平稿「日本経済の二重構造」 (同氏編「産業構造」 p. 128)但しffl閑は人口問題

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審議会編「人口自書」昭和34年 p. 31,第10表より引用。 〔註〕 (1) (e欄の1960年は就業労働力をそのまま用いた1965年以後は5ケ年間成長率8.64-(-27.6^×0.313)による推算である。又国民所得の成長率は年率5%として計算。 (2)経済審議会の10ケ年計画では年成長率は1.1%であり,又(d欄の人口問題審議会の 労働力率を考慮した場合の労働力人口は(e欄より遥かに小さい。かくて(f欄は篠原 氏の場合より,はるかに早期に逼迫を示し始めると予想される(この点60才以上の ● 労働人口を考慮しても傾向には大して影響がないであろう)。 (3)尚将来の労働供給についてはより具体的な分析が,小坂新一稿「労働供給量につい ての一考察」 (昭和同人会編「我国完全雇用の意義と対策」 p. 231以下)において 行われているから,併せて参照せられたい。 本稿でのわれわれの視点から見れば,このような事態は規模闇賃金格差を支える二つの基本要因 のうちの一つ,即ち相対的過剰人口という柱が,次第に取り除かれるということである。そしてこ のことは日本経済における二重構造乃至傾斜構造と呼ばれてきた。経済のアンバランスの問題-その集約的表現の一つが規模聞賃金格差の問題である-に何等かの形で変容をせまるであろうと 考えざるを得ない。 以上われわれは日本経済の主要な構造上のゆがみと考えられる規模間貸金格差の基本要因は何か ということについて,視点を専ら経済的側面に限って,一つの素描を与えたにすぎない。いってみ ればそれは仮説以上のものではないであろう。賃金格差の問題は本来経済の領域を超えた,社会問 題的性格のものだとも考えられる。従ってより具体的な壊近のためには社会的,制度的,歴史的視 点が綜合的にとり上げられねばならないが,それは筆者の能力を造かにこえるものであるし,叉こ のような小論の到底なしえざるところであろう。更にまた,問題を経済的側面だけに限るとして ち,視野の外にとり残された問題は多い。そのような点については稿を改めて考えてみたいと思 う。

〔註〕 (1) Clark Kerr, "Wage Relationships-The Comparative Impact of Market and Power Force." in the Theory of Wage Determination, ed. by J. T. Dunlop.

pp. 173 et seq.

(2) D. Ricardo; Principles. Chap. V.

(3) J. M. Keynes; General Theory of Employment, Interest and Money, pp. 5-6

邦訳p.7.

(4) J. R. Hicks; Value and Capital, second ed. pp. 80-2.

(5) 「一般理論」出版の初期におけるPigou, Keynes, Lesterなどの論争を見よ。

(6) W. W. Leontieff, "Postulate", in The New Economics, ed. by S. E. Harris, pp. 237-8邦訳「新しい経済学」第一分冊pp. 355-6.

(7) J. Robinson; AA Essay on Marxian Economics.邦訳p. 3.

(8)労働組合の勢力も考慮しなければならないが:,然しそれが一部の論者の言うどとく,労 働の供給独占者として十分機能しうるかどうかには,多くの疑問がある。特に新規学卒 労働市場においてはそうである。 (9) 全市場が質を異にする複数の個別市場によって分割されているような壊合,それぞれ独 立性をもった(この独立性も要するに程度の問題であるが)個別市場乃至それを構成す -     る社会集団がいわゆる非競争集団non-competing group と呼ばれる。 (10) 内海洋一著「社会問題の基礎理論」 p. 144. (ll) ここにk+jキ1とは収益不変の法則を前提していないことを意味するO (篠原三代平著 「雇用と賃金」参照)

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e h A 伊 , 岡  部  市  之  助   〔研究紀要 第13巻〕  75 (12) 中山伊知郎編「賃金基本調査」 p. 813. (13) この式からdlog;#2/Olog#1-1.303であるから,弾性値の定義により直ちに明らかで ある。 (14) J. M. Keynes. ibid. p. 209邦訳p. 251. (15) これは結局Keynesのやった,古典派雇用理論の「第二公準」の別の表現にすぎないo (16) この点労働供給の主体が世帯であるとすれば,この供給法則は必ずしも業主家計のみで なく,雇用者家計にも妥当する。 (拙稿「家計の労働供給行動について」鹿大教育学部 研究紀要,第12巻 pp. 75以下) (17)上掲拙稿,特にp. 76および梅村又次稿「労働力の構造と変動」 (「経済研究」 VOL. 8, No.3) (18)氏原正治郎稿「神奈川県における中卒労働力市場の実証的研究」 「序章」 (大河内,氏 原編「労働市場の研究」 Pp. 79以下) (19) 但し義務教育期間中の生徒は除外した方がよいo (20) 勿論,家事育児労働からのある程度の解放が伴わねばならないo (21) この点やや詳細な考察は前掲拙稿を見られたいo (22)例えば35年3月中学卒業就業者中総数の80%は製造業に就職しているが,このうち500 人以上の大企業に就職したものは22.2^にすぎない。又32年3月中卒についてのそれ は製造業75^,うち500人以上規模は約15%にすぎない。 (「労働統計調査月報」 13巻 4号, P. 13) (23) 氏原正治郎稿「労働市場と初任給」 (大河内,氏原編「上掲書」 pp. 326-7) (24) 労働力の質は教育,訓練,経験だけでなく,肉体的,精神的(例えば労働意思のどと き)極めて複雑な人間的属性を包括し,適切な基準が立ち難いことにもとづくo (25) この点をある程度推察せしめるものとして,労働省「昭和34年失業者帰趨調査結果報 告」が利用できる。それによると前職より賃金の低下したものと反対に上昇したものと の割合は,男子19才以下の場合のほぼ均等なのを除くと,他の年令層及び女子ではすべ て「低下したもの」の割合の方が高くなっている。然も年令が高まるにつれて悪化の程 度が高まることは注目すべきであろう。 (尚この点については梅村又次著「賃金,雇用, 農業」 pp. 235-239を参照) (26) 内海洋一著「社会問題の基礎理論」 pp. 144-5. (27) 高田保馬著「ケインズ論難」 pp. 45-6. (28)この図では第3図の二流以下企業の労働需要曲線が省略されており,その代りをとSbS′b とかαかα′とがβ′で交わっている。 (29) 内海洋一稿「賃金問題の経済学(9)」 (「社会思想研究」1芦巻4号)なお臨時工の最近の問 題については「鹿児島労働時事gj 14巻3号中の拙稿参照。

(30) M. W. Reder, "The Theory of Occupational Wage Diぽerentials" Ame. Econ. Rev. Dec. 1955. (31) 賃金その他労働条件にの格差が存在しているとの前提の下では。 (32) 日本中小企業団体連盟は会長豊田雅孝名で本年7月18日次の趣旨の要望をしているo 「中小企業の求人難は最近いっそう深刻化し,一部の中小企業は大企業に熟練技術者, 従業員を引抜かれて,経営が危ぶまれるものが出てきているo このさい大企業側は自粛 してもらいたい。」 (「南日本新聞」 36.7.19付朝刊) (33)家族従業者や非労働力を新に雇用労働市場に参加させるためには,それに必要な労働条 件別して賃金水準の改善がなければならない。 (34)第6図で供給がOCに限られる場合,三流企業の賃金はWc′′に上昇するo 又供給が oc以後でもFScの如く供給価格上昇につれて増大する場合三流企業の賃金はWc'に 上昇する。 (35) Keynes. ibid. p. 301邦訳p. 365. (36)本表では平均賃金格差のみしか示されていない。然しわが国の雇用慣行-新規雇用の 重要部分が新規学卒労働力から成る-を考慮すれば,最近の格差縮少の最も著しい層 は初任給及び若年労働者層,特に女子若年層にあると思われるo (37) 昭和同人会編「わが国賃金構造の史的考察」 pp. 319-332. (38) 経済企画庁編「35年度経済自書」 p. 3. (39)更に投資の盛行がその懐妊期間を終えて,実動するまでのタイム・ラグを考える必要も あろう。その場合製造業での労働需要は一層高まるかもしれないからである。

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