• 検索結果がありません。

企業の社会的責任

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "企業の社会的責任"

Copied!
27
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.問題の所在と研究の目的

1‑1 問題の所在

 消費者教育は「消費者が商品・サービスの選択・購入・消費などを通し て消費生活の目標を達成するために必要な知識や態度を修得し,消費者の 権利と責任を自覚しながら,個人として,また社会の構成員として自己実 現していく能力を開発する教育」として定義される(日本消費者教育学会,

 1 商学論纂(中央大学)第59巻第3・4号(2018年3月)

企業の社会的責任 ( CSR ) と消費者教育

──マーケティングの視点からの再検討──

天 野 恵 美 子

   目   次

1.問題の所在と研究の目的  1‑1 問題の所在

 1‑2 研究の目的

2.企業による消費者教育に関する先行研究  2‑1 企業の社会的責任(CSR)と消費者教育  2‑2 企業による消費者教育に関する先行研究

 2‑3 消費者教育の教材ガイドラインの整備(米国・英国・日本)

3.企業による消費者教育(食育関連プログラム)の事例  3‑1 食育プログラム(小・中学校対象)

 3‑2 キャリア教育プログラム(3歳から12歳対象)

 3‑3 ルール,マナー教育プログラム(保育園・幼稚園・小学校対象)

4.考   察  4‑1 事例の検討  4‑2 今後に残された課題

(2)

2016,4頁)。また,2012年に施行された「消費者教育の推進に関する法律」

(以下,消費者教育推進法)は,第2条で「消費者の自立を支援するために 行われる消費生活に関する教育(消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参 画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む。)及びこれ に準ずる啓発活動」として消費者教育を定義している1)。具体的には,衣 食住を中心とした消費生活に密接なかかわりを持つテーマ,すなわち食育 や環境教育,情報教育,国際理解教育,金融経済教育,法教育など多様な 内容を含む教育領域である2)。長らく消費者教育は家庭や学校,行政(消費 者庁や文部科学省が中心となり,国や地方公共団体,国民生活センター,消費生活 センターなど)を主たる担い手として行われてきた。

 しかしながら,学校教育への「総合的な学習の時間」の導入,事業者や 事業者団体に食育や消費者教育への協力を要請した「食育基本法」(2005 年)や「消費者教育推進法」(2012年)の成立・施行などを契機に,企業が

1) 第11条(学校における消費者教育の推進)で,国や地方公共団体が幼児,

児童及び生徒の発達段階に応じて,学校の授業その他の教育活動において適 切かつ体系的な消費者教育の機会を確保し,必要な施策を推進することや実 践的な消費者教育が行われるよう,その内外を問わず,消費者教育に関する 知識,経験等を有する人材の活用を推進することなどを規定している。

2) 従来,小学校の生活科,社会科や公民科,家庭科,技術・家庭科などの科 目の中で取り入れられてきたが,消費者教育に割かれる時間は依然として不 十分なものとなっている。消費者庁も「消費者教育ポータルサイト」を開設 するなど,様々な省庁や地方公共団体が推進に努めてきた。消費者教育推進 会議(2016)は,学校における消費者教育をさらに充実させるための方策と して,① 機会(時間)の確保,② 教員の指導力向上のための教育・研修,

③ 外部人材の活用(弁護士や司法書士,消費生活相談員,消費者団体,事 業者・事業者団体など)を挙げている(消費者教育推進会議,2016)。詳細 は消費者教育推進会議(2016)「学校における消費者教育の充実に向けて」

(平成28年4月28日)。〈http://www.caa.go.jp/policies/council/cepc/other/pdf/     

school_education_text.pdf〉(2017年9月15日アクセス)

(3)

社会的責任(CSR)の一環として教育支援を積極的に行うようになってき た。その結果,多くの企業が教育現場への講師派遣(出張授業)や授業教 材の開発・提供,職場体験の受け入れ,工場や施設見学の受け入れ,イベ ントなどの教育支援活動を積極的に行うようになってきている3)。企業に よる教育活動は食育(栄養教育)4)から情報教育5),キャリア教育,国際理解 教育,防災教育,金銭教育(経済教育),プログラミング教育など多岐にわ たり,今や「地域」や「市場」にとどまらず,「教室内」にまで及んでい る。今まで立ち入ることができなかった学校で活動する機会を手に入れた 企業は,様々な思惑を持って独自の食育プログラムや教材を開発し,「未 来の顧客」である子どもに対するアプローチを戦略的に検討し始めている

(「日本経済新聞」2011年7月16日付)。

 文部科学省は企業の学校教育に対する支援を後押しするために「教育支 援のプログラムの活用を模索する企業や団体」と出前授業などの「教育支 援を要請している小・中・高等学校」とを結びつけるウェブサイト「子供 と社会の架け橋となるポータルサイト」を開設し,各省庁や団体が優れた 教育支援活動を行う企業を表彰する制度を設けている(文部科学省ウェブサ

3) 詳細は企業の教育支援活動充実のための教育CSRメソッドウェブサイト を参照。〈http://method.careerlink-edu.co.jp/aboutsite/〉

4) 大手食品企業は親子で参加できる料理教室などの食育活動を通じて,自社 商品のファンづくりにつなげる試みを始めている。家庭での料理の楽しさを 知ってもらい,将来の需要につなげる機会としている(「日経流通新聞」

2017年5月10日;「日本経済新聞(地方経済面:長野)」2016年10月8日)。

5) 公益財団法人消費者教育支援センターの2017年度の消費者教育教材資料表 彰で優秀賞を受賞しているKDDI株式会社は「KDDIスマホ・ケータイ安全 教室」(情報教育)を全国の学校で年間3,800件以上実施し,2005年度の開始 から累積開催数は2万件に上り,累計受講者数は370万人となっている(2017 年消費者教育シンポジウム(2017年6月26日)配布冊子「学校における消費 者教育の最前線─次期学習指導要領の実施に向けて─」27頁)。

(4)

イト,農林水産省ウェブサイト,公益財団法人消費者教育支援センターウェブサイ ト)。

 また,2007年5月には日本経済団体連合会(以下,経団連)が,社会貢 献活動,次世代を担う人材育成の一環として,企業の人材やノウハウを学 校教育に積極的に活かし,主体的に取り組むことを目標に,「教育と企業 の連携推進ワーキンググループ」を発足させ,企業の教育支援プログラム のポータルサイトを開設している(経団連ウェブサイト)6)

 しかし,政府の後押しを受ける形で企業と学校教育が結びつきを深め,

企業の消費者教育の実践が活発化する中,その目的や教育内容,方法の適 切性について十分な考察がなされていない。

1‑2 研究の目的

 そこで本研究は,日本における企業の消費者教育の課題をマーケティン グという視座から照射し,明らかにすることを目指す。

 学校教育における外部人材の活用や多様な主体による消費者教育の推進 が求められるようになっているものの,学校教育の場における企業の消費 者教育の実践が先行し,それらを評価・分析しているものは依然として少 ない。本研究では,企業が行う消費者教育支援をめぐってどのような研究 が行われてきたのかを整理し,食品企業が行う消費者教育,すなわち食育

(主に保育園から小・中学校までを対象)に照準を合わせて,その現状と課題 を解明する。

6) 教育内容は,以下の通り区分されている。① 環境・エネルギー教育,

② キャリア・職業教育,③ 理科教育(理科実験・科学技術体験),④ 食育,

⑤ 金融・保険・経済教育,⑥ 英語教育,⑦ 運動・スポーツ,⑧ 地域理解,

⑨ 国際理解,⑩ 礼儀・道徳,⑪ 福祉・医療・介護,⑫ 生活指導・家庭,

⑬ その他。詳細は経団連ホームページを参照。〈http://www.keidanren.or.     

jp/japanese/profile/kyoiku/portal/index.html〉

(5)

 以下,2章では企業と消費者教育に関する先行研究ならびに消費者教育 の教材作成に関するガイドラインについて概観する。続く3章で企業の社 会的責任(CSR)活動の一環として,早い時期からキャリア教育や地域貢 献,スポーツ支援や食育支援,地域貢献などに積極的に取り組んできた食 品関連企業の消費者教育支援の事例を検討する。続く4章で企業による消 費者教育をマーケティングの視点から検討し,課題を考察する。

2.企業による消費者教育に関する先行研究

 学校教育への関与を深めている企業は,消費者教育をどのように位置づ けているのであろうか。また,そうした企業による教育支援をめぐっては どのような研究が行われてきたのであろうか。本章では企業が教育への関 与を強めることになった背景やガイドラインの整備について整理する。

2‑1 企業の社会的責任(CSR)と消費者教育

 ⑴ 企業にとっての消費者教育とCSR

 『販売士検定試験ハンドブック(応用編・④マーケティング)』(日本商工会 議所・全国商工会連合会編,2017)には,「消費者教育は,消費者との共感に よる販売促進を意図している。すなわち,商品知識,商品の利用方法など についての情報を提供し,商品についての消費者の理解を深めるととも に,自店に対する好意の醸成と顧客の固定化をはかることを目的としてい る」(69頁)と記されている。また,消費者教育は,「長い目でみた場合,

消費者教育の場を通して固定客を確保し,小売店全体の売上の安定,拡大 をはかるとともに,口コミの担い手としてのオピニオンリーダーを確保す るという意味も持っている」(70頁)と売り手の意図が明示されている。

 また企業の社会的責任(CSR)への要請が高まり,ESG(環境・社会・ガ バナンス)を中心とした社会的な課題を解決する活動を行うことによって,

(6)

ソーシャル・マーケティング,あるいはソーシャル・ブランディングを行 うようになっている。つまり,CSR活動を行うことによって社会からの 共感を高め,企業の価値やブランド価値を高めることが意図されている。

質やサービスなどで差別化が難しくコモディティ化が進行している市場に おいて,社会に貢献するような活動を行うことでソーシャルなブランドと しての共感を引き出し,企業価値を高めるブランド戦略の一環として意味 を持つようになっている(森,2017)。

 ⑵ 企業の食育・消費者教育への協力を求める2つの法律

 企業がCSR活動の一環として学校教育の支援に取り組むこと促進する 契機となったのが,2005年に成立・施行された「食育基本法」と2012年施 行の「消費者教育推進法」である。

 「食育基本法」(2005)は,「食育を,生きる上での基本であって,知育,

徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付け」(前文)ている。法律の 中で国の責務(第9条)や地方公共団体の責務(第10条),ならびに教育関 係者等及び農林漁業者等の責務(第11条),国民の責務(第13条)と並んで,

食品関連事業者等の責務(第12条)が明記されている。

第12条 食品の製造,加工,流通,販売又は食事の提供を行う事業者 及びその組織する団体(以下「食品関連事業者等」という。)は,基本理 念にのっとり,その事業活動に関し,自主的かつ積極的に食育の推進 に自ら努めるとともに,国又は地方公共団体が実施する食育の推進に 関する施策その他の食育の推進に関する活動に協力するよう努めるも のとする。

 また,「消費者教育の推進に関する法律」(2012)は,その基本理念を

「消費生活に関する知識を修得し,これを適切な行動に結び付けることが

(7)

できる実践的な能力」の育成と「主体的に消費者市民社会の形成に参画 し,その発展に寄与」できるよう積極的に支援することにあるとしている

(第3条)7)。消費者教育の推進に関する総合的な施策策定,実施を第4条で 国の責務とし,団体の区域の社会的,経済的状況に応じた施策策定,実施

(消費生活センター,教育委員会その他の関係機関と連携)を地方公共団体の責 務としている(第5条)。また,消費者団体の自主的活動・協力を努力義務 とし(第6条),事業者・事業者団体の施策への協力・自主的活動(第7 条),消費生活の知識の提供,従業員の研修,資金の提供(第14条)を努力 義務として規定している。

第7条(事業者及び事業者団体の努力)

事業者及び事業者団体は,事業者が商品及び役務を供給する立場にお いて消費者の消費生活に密接に関係していることに鑑み,基本理念に のっとり,国及び地方公共団体が実施する消費者教育の推進に関する 施策に協力するよう努めるとともに,消費者教育の推進のための自主 的な活動に努めるものとする。

2‑2 企業による消費者教育に関する先行研究

 ⑴ 日   本

 今井(1983)は,企業による「生き残るカギとして,成熟した企業行動 として,宣伝広告の立場からではないところの消費者教育」の必要性を説

7) ① 体系的な促進は,幼児期から高齢期までの段階特性に配慮 ② 効果的推

進は,場(学校,地域,家庭,職域)の特性に対応,多様な主体間の連携,

消費者市民社会の形成に関し,多角的な情報を提供,非常時(災害)の合理 的行動のための知識・理解,環境教育,食育,国際理解教育などとの有機的 な連携を規定している。

(8)

いている(11頁)。また,企業による消費者教育について,①宣伝広告が 混在しない教材づくり,②消費者教育のガイドラインの必要性,③学校 で企業制作教材を使用する場合のガイドラインの必要性を強調している。

 高橋・小木(1983)は,マーケティング論では販売促進の手段として消 費者教育を取りあげることを指摘し,企業の消費者教育の販売促進を意図 する程度には違いがあるものの,自社の財・サービスと切り離して客観的 な立場で消費者教育を行う主体にはなりえないと述べている。企業の果た すべき役割は,情報提供(商品説明情報,商品周辺情報,商品に関連する生活 情報)を通して消費者教育に貢献することであると述べている。

 安部(1985)は,日本の企業が行う消費者教育は消費者情報を提供する という啓発にとどまっていることを指摘している(30頁)。しかしながら,

本来企業が行う消費者教育は「消費者に,当該企業製品の認識を深めさ せ,親しみを持たせ,さらに日常的に間接的なアプローチをすることによ って,具体的にはパブリック・リレーションズ(public relations)を行うこ とによって企業イメージ,製品イメージ,その他を高め」(32頁)るプロ モーション戦略と関連し,基本的立場は市場開発にあると述べている。

 また,佐藤(1985)は,日本では消費者教育資料は私企業ではなく,事 業者団体が作成するものだという考えが強いという傾向を指摘している。

米国のコカ・コーラ社とアメリカン・エキスプレス社が行った消費者教育

(教育資料の作成と配布)に関する研究を取りあげ,「企業に対する信頼度が 高まり,商品購入意図が強まり,さらにマーケット拡大,新規顧客獲得に 貢献することが証明された以上,この種の特権を事業者団体などにみすみ す手渡すことはこれ以上愚かなことはない」(9頁)と述べている。また,

「マーケットにおける優位性を確保する手段として,企業にとって消費者 教育はマーケティング戦略の上にきわめて重要な役割を果たし得るもので ある」(9頁)として,市場拡大の戦略のツールとして消費者教育を行う

(9)

ことの有効性を説いている。

 色川・遠藤(2010)は,企業が作成した消費者教育・啓発に関する教材 が学校現場で利用できるのかを検討している8)。社団法人消費者関連専門 家会議(ACAP)加盟の11業界69社,151冊を教材として分析を行った。食 品業界では33社の72教材を分析対象とし,①教材であることが明記され ていたのは8教材,②対象(小・中・高及び教科名の有無)の明示は1教材,

③作成者に関する情報明記(企業名は62教材,担当部署名は42教材,住所は39 教材,電話番号48教材,URLは50教材),④作成年月の明示は41教材,⑤宣 伝・販促表現の表記は48教材9),⑥内容の改訂の有無は10教材,⑦ドリル などがある教材は5教材,⑧指導手引書がある教材はなし,⑨第3者の 協力がある教材は24教材という結果を示した。注目すべきは72教材のうち 3分の2に相当する48教材に宣伝・販促表現が記載されていることであ り,企業によって作成された消費者教育・啓発教材の多くは学校の現場で そのまま利用できないと結論づけている点である。

 櫻井・磯部・吉本(2013)は,企業のホームページやCSR報告書をもと に企業が行う食育活動や食育の理念などを分析した。58社の食育活動(170 件)を調査対象とし,その結果,「小学生」を対象とする食育活動が最多 となり,続いて「親子」「一般(成人など)」となっていることを明らかに

8) 検討するにあたって ① 社団法人 消費者関連専門家会議(ACAP)が作成

した「企業が提供する学校における消費者教育資料作成ガイドライン」(1993 年),② 財団法人 消費者教育支援センターが作成した「消費者教育の体系シ ート」,③ 学習指導要領における消費者教育の該当部分を指標として用いて いる。

9) 色川・遠藤(2010)は,「教材は教育目的であることが求められており,

宣伝や販促といった内容の表記が含まれることは相応しくない」(168頁)と 述べている。しかしながら,企業が作成した151教材のうち60教材(総数に 占める割合39.7%)に「宣伝・販促表現の表記」があったとしている。

(10)

した。活動の内容は「料理教室」が最も多く,続いて「メニュー・レシピ の提供」,「出前授業」であった。

 また,14社の21資料の食育教材を分析し,「企業名」がほとんどの教材 で明示されていること,「商品名」(4資料),「対象学年」(7資料),「対象 教科」(11資料)で明示されており,12資料が「ドリルなど」を含む教材と なっていることを明らかにした。

 古谷(2017)は,企業の消費者教育の意義と責任について考察している。

企業の消費者教育の意義は,①事業コストやリスクを下げる点,②市場 の健全化に寄与する点(消費者が企業の商品等を適切に選択することを促す),

③企業が持つ情報と機会の活用により,消費者市民社会の構築に関与で きる点にあると指摘している。

 また一方で,企業の消費者教育の課題を,①多様な主体が消費者教育 にかかわるようになってはいるが,効果的な内容や取り組みとしていまだ 十分でないこと,②企業の消費者教育の実態が自社の商品への理解の促 進や情報提供にとどまり,「消費者の自立,持続的な社会に参加していく 消費者を育成するものは非常に少ない」(303頁)こと,③消費者対応窓口,

販売,調査,工場見学,消費者団体との意見交換,SNSなど多様な接点 を持つにもかかわらず,企業が持つ膨大な消費者の声を消費者教育に生か せていないことを指摘している。

 ⑵ 米   国

 1980年代から学校内に企業を招き入れた米国では,自動販売機の校内設 置契約や教材頒布などが行われてきたが,学校を企業に開放することと引 き換えに,企業のコマーシャル・メッセージが流れ込み,公教育機関であ る学校が商品宣伝,マーケティング活動の場となることに対する批判や警 戒が依然として根強い(Nestle, 2002 ; Boyles, 2008 ; Molner, 2009)。米国では,

企業による教育活動を「学校コマーシャリズム(school commercialism)」と

(11)

呼び,教育関係者は批判の対象としてきた(上杉,2007)。Molnerらが運 営するCommercialism in Education Research Unit (CERU)は,米国の教 育現場に侵入・浸透している過剰なコマーシャリズム,マーケティングの 実態について実証的な研究を行い,10年以上にわたって詳細な年次報告書 を刊行している。

 Boninger(2017)らは,マーケターは製品やブランド,企業に対する好

意的な態度を確立するため,早い時期から子どもとの接触を試み,学校と いう場が「囚われの聴衆(captive audience)」としての子どもがいる望まし いマーケティング環境を提供していると述べている(p. 5)。また学校はプ ロモーションされている製品に正当性を与え,他の商業的な環境よりも学 校という場で展開されるマーケティングは子どもに効果的に作用すること を示唆している。マクドナルド社の例を取りあげ,マクドナルドに対して 好意的な態度を形成する様々な取り組みを例示している10)

 2000年以降,米国では学校内にまで広がる過度な子ども向けマーケティ ングに対する批判が強まり,企業の社会的責任(CSR)の観点からマーケ ティングを見直そうとする新たな動きが生じている(天野,2012)。

2‑3 消費者教育の教材ガイドラインの整備(米国・英国・日本)

 ⑴ 米国・英国のガイドライン

 米国では企業の消費者対応部門の責任者を中心に,1973年に消費者問題 専門家会議(SOCAP:Society of Consumer Affairs Professionals in Business)が

10) 学校の行事予定表(スクールイヤーブック)の広告に加え,地域のマクド ナ ル ド の 店 舗 と 学 校 が タ イ ア ッ プ し て 行 う 教 育 資 金 獲 得 の イ ベ ン ト,

McTeacherʼ s Night(子どもとその家族が対象となる)に参加することによ って子どもや若者が当該企業やブランドに対して好意を持つことが意図され ている。

(12)

設立された(SOCAPホームページ)11)。企業は学校が幼い消費者に対する販 売促進の最高の機会となると判断し,過剰な企業活動を教室内で展開し

た。SOCAPは企業の教材提供に対する信用回復のために1982年に企業に

よる消費者教育教材提供のガイドライン Guideline for Business Sponsored Consumer Education Materials を策定するにいたった(1990年に改訂版発 表)。教師や学識経験者,行政,政界,業界の代表者などが策定にあたっ た(今井,1983,21頁)。

 また,国際消費者機構(International Organization of Consumers Unions)や SOCAPの 影 響 を 受 け, 英 国 で も1988年 に 全 英 消 費 者 審 議 会NCC :  National Consumer Council)が企業による教育教材ガイドライン Guidelines for Business Sponsors of Education Material を策定した(今井・中原,1994,

380‑383頁)。今井・中原(1994)が指摘するように,「企業が学校の中の小

さな消費者を販売促進の対象にし始めているという事実」(382頁)がガイ ドラインの生まれた背景にある12)

 米国と英国の消費者教育ガイドラインは図表1のように整理することが できる。

 ⑵ 日本のガイドライン

 日本では,社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)が1993年8月に「企 業が提供する学校における消費者教育資料作成ガイドライン」を作成し た。ガイドラインは「企業が小学校,中学校,高等学校における消費者教 育に資するための資料を作成,提供する場合,教育資料として,公平で適

11) 詳細はSOCAPウェブサイト参照。〈http://www.socap. org/about-SOCAP/

about-SOCAP〉(2017年8月28日アクセス)

12) 今井・中原(1994)は,食品業界の学校教育への積極的な関与が様々な健 康教育の問題として社会問題化することを認識しておかねばならないと指摘 している(383頁)。

(13)

図表1 学校教育における企業の消費者教育ガイドライン(英国・米国)

規 定 規 定 内 容

英  国 米  国

1.適用範囲 初等・中等教育段階の学校で使用され る企業が提供,またはスポンサーとな っている教材リソース

対象を明示し,到達目標を明記す ること

2.適用範囲外の もの

ボランティア組織,NGOが制作した 資料

なし

3.ガイドライン 作成スタッフ

企業,消費者団体,教育関係者,労働 組合,行政の代表

SOCAP,ACCI,教育関係者,行 政の代表

4.宣伝・販売の 禁止

暗示,明示を問わず購入決定に影響を 与えるような表現(ただし,広告テクニ ックの教材におけるコピーの再現は可)

英国と同じ

5.情報提供者の 明示

印刷物は表表紙または裏表紙に,ビデ オまたは教材バックはタイトルに明示

(ただし,商標,ロゴをスポンサーの確 認目的のために使用する場合は,上記 の場所に使用してもよい)

作成者の担当部署名,住所,電話番号 を明記すること

英国と同じ

6.商標・ロゴの 使用

教材の中の文章および挿絵での使用は 控えめにすること

英国と同じ

7.「 教 育 資 料 」 の明示

販売促進資料は,認めない 「消費者教育用」「情報教材」「販 促用」の明示

8.教育目的の表 現方法

個別商品の事例ではなく,普遍的に入 手できる商品やサービスの使用方法に 限る

規定9を参照

9.記述の普遍性 論争中のものは,賛成,反対の双方の 見解を併記すること

① 正確性,② 客観性,③ 完全性,

④ 平易な言葉,⑤ 公平性,⑥ 非 商業性,論争中のものが確定した ときは改定すること

10.生徒への教材 送付の禁止

要求がある場合を除く なし

11.商品・サンプ ル提供の禁止

担当教師,校長の許可を得ること なし

12.教材の市販に ついて

教師による教材適正実験済みであるこ

なし

13.教材の必要条

(初等・中等教育などの)対象年齢の 明示

規定1を参照。複合教材(テキス ト,ゲーム,スライドなど)の改 訂版の入手方法の明示

14.差別表現の禁

性,②人種,③障害者,④家族構 成,⑤政治,⑥階級,⑦宗教

規定9を参照

15.日付表示 制作年月日の明示 なし

出所:今井・中原(1994),381頁に基づき筆者作成

(14)

切な内容,手段をとるための基本的な考え方を示す」ためのものである

(ACAP,1993)。ガイドラインの骨子は以下の通りである。

・ガイドライン1 教育資料であること13)

・ガイドライン2 必要事項を明示すること14)

・ガイドライン3 内容・表現方法に配慮すること15)

・ガイドライン4 承諾なしに送付しないこと16)

・ガイドライン5 最新情報を提供すること

・ガイドライン6 資料の範囲は広くとらえること17)

・ガイドライン7 第3者の協力と参加を得ること

13) 教育資料は下記の3つに分類される。 教育資料:教育資料としてふさ

わしい,中立公平で普遍的なもので,商業性を意図しないもの。 企業,

商品,サービス情報資料:企業の情報および製品サービスについての事実を 客観的に提示するもので,時として企業名,商品名が入る。 広告・宣伝 情報資料:企業イメージ,製品サービスを売り込むための情報である。

14) 必要事項とされているのは,以下の6つの事項である。⑴ 資料の種類(ガ イドライン1で分類した 企業,商品,サービス情報資料および, 広 告・宣伝情報資料のいずれでもないことを明確にする,⑵ 目標 ⑶ 対象,

⑷ 作成者または情報提供者,⑸ 作成年月,⑹ 有償・無償。

15) 配慮すべき内容・表現は以下の5つである。⑴ 宣伝,販売と思われる一 切の表現の禁止,⑵ 記述の普遍性,⑶ 差別表現の禁止,⑷ 言葉の平易性,

⑸ 内容の整合性(学習指導要領に準拠)。

16) 送付に関しては以下のような補足がある。⑴ 児童・生徒への資料の直接 送付または配布,郵送等の禁止。サンプルにおいても同様である。⑵ 教育 資料を送る場合は,あらかじめ教育委員会,学校長,担当教師等,その活用 に責任ある立場の学校関係者の承諾を得ること。

17) 資料の範囲に関して以下のような補足がある。⑴ 学校における消費者教 育資料としてはパンフレット,小冊子,映画,スライド,ビデオ,テレビ放 映,コンピュータソフトウェア,ゲーム,壁掛け図表,その他の印刷物がふ

(15)

 また,2007年1月には『企業が提供する学校における消費者教育資料作 成ガイドライン』付則「インターネット掲載ガイドライン」(作成した消費 者教育のための資料をインターネットで掲載する際に配慮する事項)を作成して いる。骨子は以下の通りである(ACAP,2007)。

・ガイドライン1 誰もが容易に利用できるよう閲覧環境に配慮する

・ガイドライン2 誰もが安心して利用できるようわかりやすく掲載 する

・ガイドライン3 掲載内容を見直す

・ガイドライン4 関連法令等を遵守する

3.企業による消費者教育

(食育関連プログラム)の事例

 本章ではスポーツ支援,食育支援,地域貢献,障害者雇用,環境への取 り組みなど様々な社会貢献・地域貢献活動を行う日本マクドナルド株式会 社(以下,日本マクドナルド)18)がCSR活動の一環として行っている子ども を対象とした消費者教育(食育関連プログラム)を取りあげる19)。日本マク ドナルドが行う食育活動は,食育基本法が制定された2005年から大規模か

  くまれるが,その他の形態であっても教育資料として使われる場合は本ガイ ドラインに基づくことが望ましい。⑵ 教育資料を補完するものとしてドリ ルなどを提供することも必要である。⑶ 児童・生徒用の他に必要に応じて 教育用指導手引書も用意する。

18) 日本経済新聞データベース【業界情報(2017年8月)】によれば,「ファス トフード(ハンバーガー)」の国内の市場規模は1兆円で,1971年に日本に マクドナルドが1号店を開店し,日本市場においては日本マクドナルド株式 会社が5〜6割の市場を占めている。

19) 日本マクドナルドウェブサイト。〈http://www.mcdonalds.co.jp/community/〉

(2017年9月15日アクセス)

(16)

つ継続的に実施されており,保育園から中学校までの幅広い層を対象とし ている。教育内容も食育,環境教育・交通・防犯教育など多岐にわたる。

日本マクドナルドの食育支援活動(図表2)は『平成28年度 優れた「早寝 早起き朝ごはん」運動の推進にかかる文部科学大臣表彰』を受けており,

事例研究の対象としてふさわしい(日本マクドナルド,2017年3月23日,ニュ ースリリース)20)

20) 詳細は日本マクドナルド(2017年3月23日,ニュースリリース)参照。

〈http://www.mcd-holdings.co.jp/news/2017/csr/csr0323b.html〉

図表2 日本マクドナルド株式会社の食育支援活動

名 称 開始時期 内 容

食育の時間

(小・中学校向け デジタル教材)

2005年7月 「食育の時間」(デジタル教材)開発,無償提 供開始。2007年に株式会社NHKエデュケー ショナルとNPO法人企業教育研究会と協力 し,食育授業支援事務局を設置。モデル指導 案の配布や教具の貸し出し,デモ授業など,

全国各地で食育授業を行う先生の授業づくり のサポートを開始。

〈実績〉(2007〜2016年12月まで)

授業実施回数:5,573回 受講児童・生徒数:160,061人 サブ教材

食育デジタルブック

2015年12月 15分で読み切れるデジタルブック(全3編)

公開。

オリジナルラジオ体 操カード配布

オリジナルのラジオ体操カード配布(約300 万枚)。

その他食育支援活動

( 保 育 園・ 幼 稚 園,

小学校向けプログラ ム)

「ハロードナルド」:食育や防犯など日常生活 に必要なルールやマナーを伝えるプログラム

「マックアドベンチャー」:職と食を体験する 活動

出所:日本マクドナルド,2017年3月23日,ニュースリリース

(17)

3‑1 食育プログラム(小・中学校対象)

 食育基本法が施行された2005年の7月に日本マクドナルドはCSR活動 の一環として食育サイト「食育の時間」21)を開設した。「子どもたちにバ ランスの良い食生活の重要性をアニメやゲームを使いながら楽しく知って もらうことを目的に開発された,楽しみながら食育を学べる教材」である

(日本マクドナルドウェブサイト)22)。小・中学校の「総合的な学習の時間」や 家庭学習用として教材を配信し,小・中学校の先生用にDVD付きのモデ ル指導案が配布されている。2005年9月から全国5校で「食育の時間」を 活用した食育の授業を実施し23),翌年2006年にはDVD付き食育授業の指 導案を全国3,000校に無償配布した。小・中学校の「総合的な学習の時間」

を中心に,本教材を活用した食育授業は,図表3にあるように,2007年か ら2016年12月末までに5,573回も実施され,16万61人の児童・生徒が受講 している(日本マクドナルド,2017年3月23日,ニュースリリース)。

 日本マクドナルドのウェブサイトによれば,小・中学校の教員向けに は,① DVD付きの指導案(冊子)の無償配布,②授業用教具の貸出,

③授業に関する相談の受付など授業支援を行っている。また,授業で利 用できるアニメやゲームなどのコンテンツを活用した教材は無償でダウン ロードできるようになっている。また,家庭で保護者と子どもが一緒に食 育を学ぶことができるようにアニメやゲームによって構成されている教材 も用意している。

21) 食育授業の設計や指導はNPO法人企業教育研究会,コンテンツ制作は

NHKエデュケーショナルと共同開発している。企画・制作・運営は日本マ クドナルド株式会社が実施している。

22) 詳細は日本マクドナルドウェブサイト。〈http://www.chantotaberu.jp/〉

23) 日本マクドナルド(2017年3月23日,ニュースリリース)。〈http://www.

mcd-holdings.co.jp/news/2017/csr/csr0323b.html〉(2017年9月30日 ア ク セ ス)

(18)

 教材コンテンツの構成は以下の通りである(日本マクドナルドウェブサイ ト)。

・0時間目 「朝ごはんってなぜ大切なの?」

       ─早ね早おき朝ごはん─

・1時間目 「好きなものだけ食べちゃいけないの?」

       ─栄養バランスと栄養素─

・2時間目 「ハンバーガーは何でできているの?」

       ─食品群とそのはたらき─

・3時間目 「どうしてお腹がへるのかな?」

       ─基礎代謝ってなに?─

・4時間目 「私たちの食べ物は大丈夫?」

       ─衛生管理と食の安全─

・5時間目 「みんなで食べるとおいしいね!」

       ─正しい食生活─

・放課後  「スポーツを全力で楽しもう!」

       ─もっと強くなれるヒミツ─

図表3 授業実施回数の推移(2005_2017)

出所:日本マクドナルド,2017年3月23日,ニュースリリースに基づき筆者作成 800

600 400 200

0 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 515 525 547 536

530 662 651

567 609 431

実施年

回数

(19)

 その他,2015年にはサブ教材として,パソコンやタブレット端末での閲 覧,短時間授業や家庭学習で利用されることを目的に制作された3編から なるデジタルブックを「食育の時間」サイトで公開した。デジタルブック の内容は,以下の通りである(日本マクドナルドウェブサイト)。

1.『ぼーっとしちゃうのはなぜ?』:

     朝ごはんの大切さについて考えさせる内容 2.『腹痛探偵「お腹痛い」の原因を探れ!』:

     調理や食事の前に手洗いの大切さについて気付かせる内容 3.『ごはんでござる マナーでござる〜お茶わんの巻〜』:

     食事マナーを身につけさせる内容

 また文部科学省が推進する「早寝早起き朝ごはん」運動の普及啓発のた めに,夏休み時期にハンバーガーの形をしたオリジナルのラジオ体操カー ドを毎年配布(総計300万枚)している24)

3‑2 キャリア教育プログラム(3歳から12歳対象)25)

 日本マクドナルドは2016年4月に子ども用の無料アプリ「タッチでハッ ピー」に,マクドナルドの仕事の疑似体験ができる新しいゲームのコンテ ンツ「マックアドベンチャー」を導入した。従来の「マックアドベンチャ

24) 日本マクドナルド(2017年3月23日,ニュースリリース)。

25) 日本マクドナルドは,小学校から高等学校までそれぞれ子どもの成長段階 に応じたキャリア教育支援プログラムを展開している。具体的には小・中学 生に対しては食育プログラムの他に,それぞれ「マックアドベンチャー」と

「職場体験」を,そして高校生に対しては「インターンシップ」や「アドバ ンス・インターンシップ」がある。詳細は日本マクドナルドウェブサイト参 照。〈http://www2.mcdonalds.co.jp/community/mc_discovery/〉

(20)

ー」は,マクドナルドが30年以上にわたり実施してきた仕事体験プログラ ムである。実際の店舗(全国約1,000店舗)で子どもたちが制服を着用し,

ハンバーガー作製,カウンターでのドリンク作りや商品の受け渡しなどを 行う。仕事体験を通じて,「マクドナルドの品質や衛生管理に対するこだ わりを楽しみながらお子様が楽しく学べるプログラム」となっている(日 本マクドナルド,2016年4月22日,ニュースリリース)26)。対象は3歳から12歳 で,約1時間程度で実施され,ハンバーガーやポテト,ドリンクやおもち ゃなどがついて600円の費用がかかる(日本マクドナルド,2016年4月22日,

ニュースリリース)。

3‑3 ルール,マナー教育プログラム(保育園・幼稚園・小学校対象)

 子どもの日常に必要なルールやマナーを伝えるプログラムとして,幼稚 園・保育園,小学校向けの「ハロードナルド!」を実施している27)。保育 園・幼稚園向けのプログラムは日本マクドナルドの公式キャラクターのド ナルド・マクドナルドが4つのテーマについて話をする構成となってい る。

① 環境 「もったいないを見つけよう」:電気やガソリンといったエ ネルギーの使い過ぎが動物の生活に影響を与えていることを 考える

② 食育「 いただきます のナゾ!もったいないを見つけよう!」:

    いただきますの意味から食べることについて考える

26) 日本マクドナルド(2016年4月22日,ニュースリリース)。〈http://www.

mcd-holdings.co.jp/news/2016/promotion/promo0422a.html〉

27) 日本マクドナルド株式会社「ハロードナルド!」ウェブサイト。〈http://

www.mcdonalds.co.jp/donaldroom/hello/〉

(21)

③ 交通「よく見て渡ろう,横断歩道!」:交通ルールについて学ぶ

④ 防犯「知らない人にはついていかない!」:

    自分の身を守るための知識について考える

 小学校向けではワークショップ形式で2つのテーマについて,マクドナ ルドのキャラクターと一緒に考え,学ぶよう構成されている。

① ドナルドの防犯教室(小学生対象):     自分で自分の身を守るすべを学ぶ

② ドナルドの食育教室(小学校低学年対象):     バランスのよい食事について学ぶ

4.考   察

4‑1 事例の検討

 前章では大手食品関連企業がCSR活動の一環として取り組む食育を中 心とした消費者教育のプログラムを概観した。その対象は保育園や幼稚 園,小学校から中学校までと幅広く,また取り扱う内容も食を中心に栄養 から職業,環境,防犯教育まで多岐にわたる。教材の中には,ハンバーガ ーや公式キャラクター ドナルド・マクドナルド を登場させてはいる が,ACAPのガイドライン(1993)に照らして大きな問題を含んでいない といえる。

 食育プログラムでは,ウェブ教材としての特性を十分に生かし,キャラ クターが登場するアニメーションやゲームなどを用いて,子どもが興味を 持って楽しく学べる工夫がなされている。また教員に対する指導案やより 短い時間で活用できる教材を用意するなど,学校現場で利用しやすい工夫

(22)

もほどこされている。2007年から2016年末までに16万人を超える児童や生 徒が受講するなど,教育の継続性や浸透力,推進力などは大いに評価でき る。

 しかしながら,プログラムのテーマや内容はいずれも企業の教材を利用 せずとも教員が指導できる水準にとどまっている。また,受講者となる当 該年齢の子どもにハンバーガーは好まれる食品ではあるが,摂取に際して 高カロリー,高塩分・高脂肪食品として批判されることも多い。しかしな がら,教材の中でハンバーガーは,直接批判の対象となってはいない。

 また,子ども(3歳から12歳)を対象とした「食と職」を体験するキャ リア教育支援プログラムにおいても,「マクドナルドの品質や衛生管理に 対するこだわり」を強く印象付けるような内容になっており,関連のある ネガティブ情報,すなわち海外工場での賞味期限切れ食材使用の問題

(2014年)や異物混入問題(2015年)は直接触れられていない。

 その他,保育園や幼稚園,小学校低学年を対象としたルール,マナー教 育プログラム「ハロードナルド!」では,環境や食育,交通,防犯など多 様なテーマを取り扱い,楽しく知識を身に付けられるように工夫されてい る。プログラムの中で公式キャラクターが重要な役割を果たすなど,子ど もに企業やブランドに対する好意的なイメージが醸成されるようになって いる。

 これらの消費者教育プログラムは,既出の『販売士検定試験ハンドブッ ク(応用編)』の記述,「消費者教育は,消費者との共感による販売促進を 意図している。すなわち,商品知識,商品の利用方法などについての情報 を提供し,商品についての消費者の理解を深めるとともに,自店に対する 好意の醸成と顧客の固定化をはかることを目的としている。」(69頁)とし ての側面を持つと言える。したがって,上述したような教育支援活動の中 には,企業や商品に対する好意的なイメージ醸成や共感,「販売促進」の

(23)

意図が包摂されうることが示唆される。

4‑2 今後に残された課題

 家庭や学校,行政など従来からの教育主体に加え,企業による教育実践 は消費者教育の推進といった点から見ると,内容の充実や教育機会の増加 に貢献しうる望ましい一面がある。しかしながら,その教育内容や方法に ついてはマーケティングの視点からも今後さらなる検証が必要であると言 えよう。

 米国では企業による教材頒布や講師派遣などの学校教育支援活動は,子 どもへの直接的な商品宣伝・販促活動の技法(in-school marketing=学校内 マーケティング)と見なされ,批判の対象となってきた。しかしながら,

日本では政府の後押しを受けているということもあり,企業の教育支援活 動を無批判に学校教育の中に取り込んでいる状況がある。つまり,日本で は企業による消費者教育の推進という大義が優先され,他の先進諸国では 厳しい批判の対象となっている企業の教育支援の意図,内容や方法は問題 にされず,問題について十分な考察がなされぬままとなってきた。日本で は,CSR活動の一環として多くの企業が消費者教育に取り組むようにな っているが,それを受け入れる学校現場にはそれらを販売促進・マーケテ ィングと見なす批判的な視点が欠如している。マーケティングの視点から は,学校といういわば強力な舞台装置を利用して,「未来の顧客」として の子どもに早い時期からアプローチする効果的な広報・販促活動として戦 略的に位置づけられる側面もあることから,企業の食育・消費者教育支援 活動を無批判に受け入れている日本の食育,消費者教育のあり方は,今こ そ改めて再検討されねばならない。

 子どもは広告を視聴したブランドに対して好意的な態度を形成し,食 品・飲料のテレビ広告は2歳から11歳までの子どもの食選好,購入リクエ

(24)

スト,短期消費に影響を及ぼすという研究もある(Institute of Medicine of

National Academies, 2006)。明確な説得意図を持って行われる広告であって

も,4・5歳の子どもは広告と番組の境界を理解できず,7・8歳の子ども は 広 告 の 説 得 意 図 を 読 み 解 く こ と が で き な い と い う 研 究 結 果 も あ る

(American Psychological Association, 2004)。また,アドバゲーム(advergame) と呼ばれる企業名や企業のロゴが入ったゲームをした6歳から14歳の子ど もは,テレビ広告を視聴しただけの子どもよりも,ブランドに対してポジ ティブな態度を持ち,おねだり行動をとるとの研究もある(Neyens et al.,

2017)。したがって,教育現場に教育主体として登場する企業担当者や教

材に対して,その中に多少なりとも存在しうる広報や販売促進の要素に対 して子どもは注意を向けることは難しいと考えられる。

 消費者教育の本来の目的は,消費者として必要となる知識や判断力・理 解力・批判力・選択力,生活に役立つ力を身に付けることであり,衣食住 をはじめとする消費生活において自立した消費者になることを支援するこ とにある。家庭や学校を超えて,多様な主体による消費者教育推進が求め られる中で,売り手の販売促進,顧客獲得に消費者教育という呼び名が与 えられるようになっている。特に,消費者教育はキャリア教育・食教育・

環境教育・法教育・防災教育・主権者教育,情報教育などと密接な関係を 持つ領域であるが故に,外部人材の活用の呼びかけに答える形で自社の商 品やサービスと関連づけて子どもへの教育支援,接触を試みる企業はこれ からも増加していくことが予想される。消費者教育が行われる教育の場を 販売促進の場とするのか,それとも自立支援のための教育の場とするの か,その選択が問われている。

 次期学習指導要領では,「開かれた教育課程」が掲げられ,学校側にも 地域資源,外部人材を活用する流れが生まれつつある。教育のねらいに合 致するよう,企業が提供するプログラムや教材に営利的(販売促進的)な

(25)

側面があることを知ったうえで,教育現場での適切な利用・活用が求めら れている。

 また,様々な企業が行う消費者教育プログラムのより詳細な分析や,受 講した児童や生徒のブランドや当該企業に対する意識や消費行動の変容な どについては今後の研究課題としたい。

 謝辞 林田先生には大学の学部生の頃から学位論文の執筆に至るまで,長きにわ たりご指導を賜りました。ここに記して深く感謝申し上げます。

参 考 文 献

安部文彦(1985)「消費者教育の理念と方法─マーケティングからのアプローチ─」

日本消費者学会編『消費者教育』(第3冊)17‑39頁。

天野恵美子(2012)「米国における食品・飲料企業の学校内マーケティング─問わ れる米国食品企業の社会的責任─」『経済系』第251集,35‑49頁。

色川卓男・遠藤陽介(2010)「企業による消費者教育・啓発教材は学校で利用でき るか:家庭科での利用を想定して」『静岡大学教育学部研究報告(教科教育学 篇)』第41号,165‑176頁。

今井光映(1983)「消費者教育の課題と展望」日本消費者学会(1983)『消費者教 育』(第1冊),1‑27頁。

今井光映・中原秀樹(1994)『消費者教育論』有斐閣。

上杉嘉見(2007)「アメリカの食育に見るコマーシャリズム─学校の市場化に対す る批判的検討」『アメリカ教育学会紀要』18号,77‑88頁。

ACAP(1993)『企業が提供する学校における消費者教育資料作成ガイドライン』

〈http://www.acap.or.jp/kigyou-dantai/siryousakusei/img/guideline.pdf〉(2017 年8月28日アクセス)

ACAP(2007)『企業が提供する学校における消費者教育資料作成ガイドライン:

付 則「 イ ン タ ー ネ ッ ト 掲 載 ガ イ ド ラ イ ン 」』〈http://www.acap.or.jp/kigyou- dantai/siryousakusei/img/internet.pdf〉(2017年8月28日アクセス)

企業の教育支援活動充実のための教育CSRメソッドウェブサイト〈http://method.

careerlink-edu.co.jp/aboutsite/〉(2017年9月15日アクセス)

経団連ウェブサイト〈http://www.keidanren.or.jp/japanese/profile/kyoiku/portal/

index.html〉(2017年7月19日アクセス)

(26)

公 益 財 団 法 人 消 費 者 教 育 支 援 セ ン タ ー ウ ェ ブ サ イ ト〈https://www.consumer- education.jp/activity/contest.html〉(2017年10月1日アクセス)

櫻井誠・磯部由香・吉本敏子(2013)「企業の食育イメージと食教育教材の分析」

『三重大学教育学部研究紀要』第64巻教育科学,135‑141頁。

佐藤知恭(1985)「市場拡大戦略としての消費者教育の評価とその実証」日本消費 者学会編『消費者教育』(第3冊)1‑16頁。

消費者教育推進会議(2016)「これからの学校における消費者教育のあり方」「学校 における消費者教育の充実に向けて」(平成28年4月28日)〈http://www.caa.

go.jp/policies/council/cepc/other/pdf/school_education_text.pdf〉(2017年 9 月15日アクセス)

高橋明子・小木紀之(1983)「企業における消費者教育(Ⅰ)」日本消費者教育学会 編『消費者教育』(第1冊)』,188‑197頁。

日本商工会議所・全国商工会連合会編(2017)『販売士検定試験ハンドブック(応 用編・④ マーケティング)』69‑70頁。

日本消費者教育学会(2016)『消費者教育Q&A─消費者市民へのガイダンス─』

株式会社中部日本教育文化会。

日 本 マ ク ド ナ ル ド(2017年3月23日, ニ ュ ー ス リ リ ー ス )〈http://www.mcd- holdings.co.jp/news/2017/csr/csr0323b.html〉(2017年9月30日アクセス)。

農 林 水 産 省 ウ ェ ブ サ イ ト「 食 育 活 動 表 彰 」〈http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/

hyousyo/161102.html〉(2017年10月1日アクセス)

古谷由紀子(2017)「企業の消費者教育の意義と責任─消費者とともに持続可能な 社会の構築に向けて─」『日本経営倫理学会誌』第24号,295‑308頁。

森摂(2017)「CSVは企業が未来に生き残るための有効な戦略となりえるか」『生 活協同組合研究』Vol. 498,7月5日号,13‑21頁。

文部学部省ウェブサイト「子供と社会の架け橋となるポータルサイト」〈http://

kakehashi.mext.go.jp/〉(2017年10月1日アクセス)

SOCAPウェブサイト〈http://www.socap. org/about-SOCAP/about-SOCAP〉(2017 年8月28日アクセス)

American Psychological Association (2004) Repor t of the APA Task Force on Adver tising and Children Section : Psychological Issues in the Increasing Commercialization of Childhood.〈https://www.apa.org/pi/families/resources/

advertising-children.pdf〉(2017年9月15日アクセス)

Boninger, F. Molnar, A., & Murray, K. (2017) Asleep at the Switch : Schoolhouse Commercialism, Student Privacy, and the Failure of Policymaking (Report on Schoolhouse Commercializing Nineteenth Edition). Boulder, CO. National

(27)

Education Policy Center.〈http://nepc.colorado.edu/publication/schoolhouse- commercialism-2017〉(2017年9月15日アクセス)

Boyles, D. (2008) The Corporate Assault on Youth : Commercialism, Exploitation, and the End of Innocence. New York, NY, Peter Lang Publishing, Inc.

Institute of Medicine of National Academies (2006) Food Marketing to Children and Youth : Threat or Opportunity?. Washington, D.C. : The National Academies Press.

Molner A. (2009) Marketing in Schools : Little Educational or Nutritional Content.

〈http://nepc.colorado.edu/publication/Molnar-Determinants〉

Nestle, M. (2002) Food Politics : How the Food Industry Influences Nutrition and Health. Berkley, CA : University of California Press.

Neyens, E. Smits, T. and Boyland, E. (2017) Transferring Game Attitudes to the Brand : Persuation from Age 6 to 14. International Journal of Advertising.

Volume 36, Issue 5, pp. 724‑742.

参照

関連したドキュメント

2 Friedman, 1962, p.133, フリードマン, 2008,

       企業の社会的責任とコーポレート・ガバナンス  81

環境保全などの企業の 投資行動にも

ところで,権力というものの概念についてはリーガンの所説の考察のうち

[r]

 さて、先ほど言及した企業倫理は、情報公

Keywords: corporate social responsibility, arts, m áes áenat, philanthropy, Corporate Citizenship

2 会計の社会的役割 〔1)企業における会計の地位