九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
食品中のアクリルアミド迅速定量法の開発と低減化 に向けた減少機構の解析
吉岡, 俊暁
https://doi.org/10.15017/4060007
出版情報:九州大学, 2019, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
- 1 -
博士論文
食品中のアクリルアミド迅速定量法の開発と 低減化に向けた減少機構の解析
2019 年 12 月 17 日
九州大学大学院 システム生命科学府 生命医科学講座 メタボロミクス分野
吉岡 俊暁
- 2 -
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目次
略号 ... - 4 -
第一章 緒論 ... - 9 -
1.1. 食品中のアクリルアミドについて ... - 9 -
1.2. 食品中のAA定量分析 ... - 15 -
1.3. 食品中のAA低減法 ... - 20 -
1.4. 博士論文の研究目的 ... - 23 -
第二章 SFC/MS/MSを用いたAAの高感度迅速定量法の開発 ... - 25 -
2.1. 諸言 ... - 25 -
2.2. 実験 ... - 27 -
2.2.1. 試薬,器具,およびサンプル ... - 27 -
2.2.2. SFC/MS/MS分析条件 ... - 28 -
2.2.3. UHPLC/MS/MS分析条件 ... - 30 -
2.2.4. SFC/MS/MSとUHPLC/MS/MSでのフローインジェクション条件 .... - 30 -
2.2.5. サンプル前処理法開発のための予備検討 ... - 31 -
2.2.6. 飲料,菓子類,および穀類サンプルの前処理法 ... - 32 -
2.2.7. SFC/MS/MSとUHPLC/MS/MSでの感度比較 ... - 33 -
2.2.8. SFC/MS/MSを用いたAA分析法のバリデーション試験 ... - 33 -
2.2.9. FAPAS外部精度試験 ... - 34 -
2.2.10. 統計分析 ... - 34 -
2.3. 結果と考察 ... - 34 -
2.3.1. AAのSFC分離のための最適なカラムのスクリーニング ... - 34 -
2.3.2. AA標準溶液を用いたSFC/MS/MSおよびUHPLC/MS/MSでの感度の比較 ... - 36 -
- 2 -
2.3.3. AA 標準溶液を用いたSFC/MS/MS およびUHPLC/MS/MS のFI 分析での
感度比較 ... - 39 -
2.3.4. AAのサンプル前処理法の検討 ... - 41 -
2.3.5. 飲料,穀類,および菓子を用いたSFC/MS/MS分析法のバリデーション試 験 ... - 43 -
2.3.6. サンプル抽出液を用いたSFC/MS/MS と UHPLC/MS/MS での分析結果の 比較 ... - 45 -
2.3.7. 日本国内で市販されている飲料,穀類,および菓子類のAA定量分析結果 ... - 48 -
2.4. 小括 ... - 50 -
第三章 コーヒー飲料中のAA減少機構の解析 ... - 53 -
3.1. 諸言 ... - 53 -
3.2. 実験 ... - 55 -
3.2.1. 試薬,器具,およびサンプル ... - 55 -
3.2.2. 3-(3-hydroxypyridin-1-ium-1-yl)propanamide (3HP-AA) の合成 ... - 56 -
3.2.3. (2S)-2-amino-6-((2-carboxyethyl)amino)hexanoic acid (Lys-アクリル酸) の 合成 ... - 57 -
3.2.4. (2R)-2-amino-3-(2-carboxyethylsulfonyl)propanoic acid (CysSO2-アクリル 酸) の合成 ... - 58 -
3.2.5. コーヒー飲料と液体サンプルの調製 ... - 58 -
3.2.6. 分析装置 ... - 59 -
3.2.7. NMR測定 ... - 59 -
3.2.8. AAの定量分析 ... - 60 -
3.2.9. ミルクコーヒー液中の低分子化合物に由来するAA付加体の探索 ... - 60 -
3.2.10. ミルクコーヒー液中のAA付加物の探索のためのデータ解析 ... - 62 -
- 3 -
3.2.11. ミルクコーヒータンパク質の加水分解によって生じる AA 付加アミノ酸
の探索 ... - 63 -
3.2.12. ショットガンプロテオミクスによるミルクコーヒータンパク質中の AA 結合部位の探索 ... - 65 -
3.2.13. Py,3HP,Py-AA,および3HP-AAの定量分析 ... - 66 -
3.2.14. Lys-アクリル酸とCysSO2-アクリル酸の定量分析 ... - 67 -
3.2.15. ヒトHbを用いたin vitro結合試験評価 ... - 68 -
3.2.16. 統計分析 ... - 68 -
3.3. 結果と考察 ... - 69 -
3.3.1. コーヒー飲料と水溶液中でのAA濃度の経時変化 ... - 69 -
3.3.2. ミルクコーヒー中のAA付加体の探索 ... - 70 -
3.3.3. ミルクコーヒー液中Py,3HP,Py-AA,3HP-AAの定量分析 ... - 74 -
3.3.4. ミルクコーヒータンパク質中のアクリル酸付加アミノ酸の探索 ... - 76 -
3.3.5. ミルクコーヒータンパク質中の Lys-アクリル酸 (Lys-AA) と CysSO2-ア クリル酸 (Cys-AA) の定量分析 ... - 79 -
3.3.6. ショットガンプロテオミクスを利用したミルクコーヒータンパク質への AA付加部位の特定 ... - 81 -
3.3.7. ヒトHbを用いたAAおよびAA付加体の反応性の比較評価 ... - 83 -
3.4. 小括 ... - 85 -
第四章 総括と展望 ... - 87 -
謝辞 ... - 89 -
引用文献 ... - 90 -
論文目録 ... - 105 -
学会発表 ... - 106 -
- 4 -
略号
1-AA: 1-アミノアントラセン (1-aminoanthracene) 2-PIC: 2-ピコリルアミン (2-picolylamine)
3HP: 3-ヒドロキシピリジン (3-hydroxypyridine)
3HP-AA: 3-ヒドロキシピリジン-アクリルアミド付加体 (3-(3-hydroxypyridin-1-ium-1- yl)propanamide)
AA: アクリルアミド (acrylamide)
ABPR: ア ク テ ィ ブ バ ッ ク プ レ ッ シ ャ ー レ ギ ュ レ ー タ ー (active back pressure regulator)
Asn: アスパラギン (asparagine) Asp: アスパラギン酸 (aspartic acid)
ATR: 全反射測定 (attenuated total reflection)
BEH: エチレン架橋ハイブリッド (ethylene bridged hybrid) CD: Compound discoverer
CD3OD: メタノール-d4 (methanol-d4)
CE: コリジョンエネルギー (collision energy)
CRISPR/Cas9: ク リ ス パ ー キ ャ ス ナ イ ン (clustered regularly interspaced short palindromic repeat/CRISPR associated proteins 9)
CSH: 表面荷電ハイブリッド (charged surface hybrid) CV: コーン電圧 (cone voltage)
CYP2E1: シトクローム P450 2E1 (cytochrome P450 2E1) Cys: システイン (cysteine)
CysSO2-ア ク リ ル 酸: シ ス テ イ ン-ア ク リル 酸 付 加 体酸 化 物 ((2R)-2-amino-3-(2- carboxyethylsulfonyl)propanoic acid)
DNA: デオキシリボ核酸 (deoxyribonucleic acid)
- 5 - D2O: 重水 (heavy water)
d-SPE: 分散固相抽出 (dispersive-solid phase extraction) ECD: 電子捕獲型検出器 (electron capture detector)
EDTA: エチレンジアミン四酢酸 (ethylenediaminetetraacetic acid) EI: 電子イオン化 (electron ionization)
ESI: エレクトロンスプレーイオン化 (electrospray ionization)
FAPAS: ファーパス (food analysis performance assessment scheme) FDR: 偽陽性の割合 (false discovery rate)
FI: フローインジェクション (flow injection) FWHM: 半値幅 (full width at half maximum) GA: グリシダミド (glycidamide)
GC: ガスクロマトグラフ (gas chromatograph),ガスクロマトグラフィー (gas chromatography)
Gln: グルタミン (glutamine) Gly: グリシン (glycine)
Hb: ヘモグロビン (hemoglobin)
HILIC: 親水性相互作用クロマトグラフィー (hydrophilic interaction chromatography) HMBC:1H-13C相関観測 (heteronuclear multiple bond coherence)
HRMS: 高分解能質量分析計 (high resolution mass spectrometer),高分解能質量分析 (high resolution mass spectrometry)
HRMS/MS: ハ イ ブ リ ッ ド 型 高 分 解 能 質 量 分 析 計 (hybrid high resolution mass spectrometer), ハ イブ リ ッ ド 型 高分 解 能質 量 分 析 (hybrid high resolution mass spectrometry)
HSS: 高強度シリカ (high strength silica)
IARC: 国際がん研究機関 (international agency for research on cancer)
- 6 - IR: 赤外分光法 (infrared spectroscopy)
JECFA: FAO/WHO 食 品 添 加 物 専 門 家 会 議 (the joint food and agriculture organization/world health organaization expert committee on food additives)
LC: 液体クロマトグラフ (liquid chromatograph),液体クロマトグラフィー (liquid chromatography)
LOD: 検出限界 (limits of detection) LOQ: 定量下限 (limits of quantitation) Lys: リジン (lysine)
Lys- ア ク リ ル 酸 : リ ジ ン - ア ク リ ル 酸 付 加 体 ((2S)-2-amino-6-((2- carboxyethyl)amino)hexanoic acid)
MRM: 多重反応モニタリング (multiple reaction monitoring)
MS: 質量分析計 (mass spectrometer),質量分析 (mass spectrometry)
MS/MS: タンデム質量 分 析計 (tandem mass spectrometer),タン デム質 量分析 (tandem mass spectrometry)
N.D.: 未検出 (not detected)
NMR: 核磁気共鳴 (nuclear magnetic resonance)
PET: ポリエチレンテレフタレート (polyethylene terephthalate) PP: ポリプロピレン (polypropylene)
PPF: ペアードピークスフィルタリング (paired-peaks filtering) Py: ピリジン (pyridine)
Py-AA: ピリジン-アクリルアミド付加体 (1-(2-carbamoylethyl)pyridinium) QqQMS: 三連四重極型質量分析計 (triple quadrupole mass spectrometer) QuEChERS: キャッチャーズ (quick, easy, cheap, effective, rugged, safe) R2: 決定係数 (coefficient of determination)
RSD: 相対標準偏差 (relative standard deviation)
- 7 - S/N: SN比 (signal-to-noise)
SCCO2: 超臨界流体二酸化炭素 (supercritical fluid carbon dioxide) SDS: ドデシル硫酸ナトリウム (sodium dodecyl sulfate)
SFC: 超臨界流体クロマトグラフ (supercritical fluid chromatograph),超臨界流体ク ロマトグラフィー (supercritical fluid chromatography)
TALEN: タレン (transcription activator-like effector nuclease)
TCEP: トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン (tris(2-carboxyethyl)phosphine) Tris-HCl: ト リ ス 塩 酸 緩 衝 液 (tris(hydroxymethyl)aminomethane-hydrochloric acid buffer)
UHPLC: 超高速液体クロマトグラフ (ultra high performance liquid chromatograph),
超高速液体クロマトグラフィー (ultra high performance liquid chromatography) UPC2: UPCスクエア (ultraperformance convergence chromatography)
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- 9 -
第一章 緒論
1.1. 食品中のアクリルアミドについて
アクリルアミド (AA) はアミド基とアクリル基を持つ化学式C3H5NO (exact mass
71.0371) の水に溶解しやすい,揮発性のある高極性物質である.AAは,室温では安
定であるが,加熱や紫外線によって反応性の高いアクリル基において重合反応が生じ てポリアクリルアミドとなる反応特性が知られている.日本では,主に紙を破れにく くする紙力増強剤や産業排水中の粒子を分離するための凝集剤の原料としてAAが使 用されている (新エネルギー・産業技術総合開発機構; 農林水産省a).
AA の生体内での代謝および反応特性は,これまでの研究において以下のことが分 かっている.生体内に摂取されたAAは消化管から速やかに吸収され,そのほとんど は肝臓でグルタチオン抱合体として解毒され尿中に排出される (Duda-Chodak, A., 2016; Watzek, N., 2013).一方で,AAの一部は代謝酵素CYP2E1によって酸化され 分子内にエポキシドを持つグリシダミド (GA) へと代謝されてから,AA と同様に肝 臓で解毒され尿中に排出される (図1-1) (Duda-Chodak, A., 2016; Watzek, N., 2013).
AAは精子中のプロタミン,血中のヘモグロビン (Hb),神経系のタンパク質といった 生体内で重要な機能を有するタンパク質と共有結合することが報告されており (Li, D., 2016; LoPachin, R. M., 2012a; Sega, G. A., 1989),また,エポキシドを持つGA は,AA よりも反応性が高いため,タンパク質だけでなく DNA にも結合することが 報告されている.したがって,AAの遺伝毒性および発がん性は,主に代謝物のGAに よるものと考えられている (図1-1) (Li, D., 2016; Pundir, C. S., 2019).
日本において,AAは「毒物および劇物取締法」の劇物に指定されている.AAを大 量に経口,経皮摂取した場合には,中枢神経や末梢神経に障害を引き起こし,筋力低 下や感覚異常等の重篤な症状が発生することが知られており,酵素阻害や神経系タン
- 10 - 図1-1. AAの代謝経路
Covalent binding to hemoglobin (Hb) or DNA
CYP2E1
AA GA Glyceramide
AA-Hb
Phase 1: oxidation
GA-Hb
N7-GA-guanine
N3-GA-adenine
Phase 2: glutathione conjugation
+ GSH + GSH
N-Acetyl-S-(2-carbamoyl -ethyl)-L-cysteine-sulfoxide
N-Acetyl-S-(2-carbamoyl -ethyl)-L-cysteine
N-Acetyl-S-(2-carbamoyl -2-hydroxyethyl)-L-cysteine
N-Acetyl-S-(1-carbamoyl -2-hydroxyethyl)-L-cysteine
+ Hb + Hb
+ DNA
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パ ク 質 と の 結 合 に よ っ て 毒 性 を 示 す と 考 え ら れ て い る (Erkekoglu, P., 2014;
Martyniuk, C. J., 2013; Nordin-Andersson, M., 2003; Prats, E., 2017; 農林水産省b). AA と GA は,ラットやマウスなど哺乳動物において染色体異常試験や小核試験で陽 性を示すことが多数報告されており,遺伝毒性を有するとされている (Chevolleau, S., 2007; Rice, J. M., 2005; Yang, H.-J., 2005; 新エネルギー・産業技術総合開発機構). また,AA はラットやマウス試験において発がん性を示す事例が多数あり,ヒトにお ける発がん性を示すデータはないものの,HbやDNAと結合することからヒトでも発 がん性を有する可能性が高い.そのため,国際がん研究機関 (IARC) はAAを「ヒト に対しておそらく発がん性がある物質 (グループ 2A)」に分類している (Chevolleau, S., 2007; IARC, 1994; Rice, J. M., 2005).
食品中に AA が含まれることが注目されるようになったきっかけは,1997 年のス ウェーデンでのトンネル工事での水漏れ事故による環境汚染である.トンネル工事で 発生した漏水を防ぐために AA と N-(Hydroxymethyl)acrylamide を含んだ大量の充填 材が用いられたが,その漏水の一部は近くの河川に排出された.川の魚が死んだり,
その水を飲んだ牛が麻痺を起こすなど周辺生物にAAの急性毒性症状がみられ,原因 は漏水防止のための充填材中のAAであることが判明した.そのため,周辺住民やト ンネル工事作業員に対しても健康への懸念が生じた.スウェーデン政府とストックホ ルム大学の合同調査の結果,作業員の多くがAAを大量に摂取していたことも分かり,
作業員の一部には末梢神経の障害といった重度の症状がみられた.スウェーデン政府 は,周辺住民や野生動物がどの程度 AA を摂取したかを評価するために,血中の Hb に結合したAA濃度の測定を行った.その結果,汚染地域外の住民からも低濃度のHb に結合したAAが検出された.したがって,トンネル工事に由来するものだけではな く,共通のAA 汚染源の存在が示唆された.ヒトのAA摂取量が野生動物よりも多い こと,またタバコの煙からもAA が発見されたことからAA生成には燃焼が関係して おり,ヒトの AA 摂取原因は,加熱食品ではないかと推測された.その検証のため,
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加熱飼料の投与による動物実験が行われた.その結果,加熱飼料とその飼料を喫食し た動物の両方からAA が検出されたため,加熱食品がAA摂取の原因であることが強 く示唆された (Törnqvist, M., 2005; 農林水産省c).
スウェーデンでは,この事故に端を発し,1998年に食品中のAAに関する研究が始 まった.2002 年にはフライドポテトなど様々な加熱食品から AA が検出されたこと を発表し (Rosén, J., 2002; Rydberg, P., 2005; Tareke, E., 2002),世界中で大きな話 題となった.その後,食品におけるAA生成メカニズムの研究が行われた.焼く,揚 げるなどの調理工程で 120 ˚C 以上に加熱し,低水分となることで,食品中の遊離ア スパラギン (Asn) とグルコースなどの還元糖がメイラード反応を起こし,その副産 物としての AA 生成が主な生成経路と考えられている (図 1-2) (Gökmen, V., 2008;
Pundir, C. S., 2019; S. Arvanitoyannis, I., 2014; Stadler, R. H., 2002).さらに,カルボ ニル化合物との反応経路,脂質の酸化分解によって生じるアクロレインの酸化による 生成経路,アスパラギン酸 (Asp) から生成したアクリル酸がアンモニアと反応する 経路,およびAsnの脱炭酸経路 (Duda-Chodak, A., 2016; Toda, M., 2005; Törnqvist, M., 2005) などのAA生成経路が推定されている (図1-3).また,食品中のAAのリス ク評価が様々な国際機関や大学によって行われた.国際的な科学専門家委員会である JECFA (the joint food and agriculture organization/world health organaization expert committee on food additives) は,AAのリスク評価として,遺伝毒性発がん物質とし ては暴露マージンが小さいため,健康に悪影響を及ぼす懸念があると結論付けた
(JECFA, 2010).同様に,日本の食品安全委員会も発がんリスクについては懸念がな
いとは言えない,との評価を下している.食品中の遺伝毒性発がん物質は毒性発現の 閾値が設定できないため,ALARA (As Low As Reasonably Achievable) の原則に則り,
達成可能な範囲で食品中の AA 含量をできるだけ低減することが求められている (Food Safety Commission of Japan, 2016a).そのため,日本の農林水産省は食品事業 者に対して食品中の AA の低減指針を示し,低減を行うことを推奨している (農林水
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産省 d, 2013).EU では食品事業者に向けて,各食品ごとにAA の低減策と低減の目
安となるbenchmark level (AAモニタリング結果の中で最も高い数値の90%値) が設 定されている (表1-1) (European Union, 2017).食品事業者が製品のAA含量を分析 することで,自らbenchmark levelへの到達を確認する一方,行政は市場に流通して いる製品の AA 含量の定期的な分析を行い,AA が低減されているかを確認するとと もに,AA が低減されていれば benchmark level をさらに改訂する仕組みとなってい る.また,食品は国ごとに食材や調理法に特徴があるため,様々な食品のAA含量を 把握することは重要である.これらの理由から,政府機関,大学,および食品事業者 が食品中のAAの実態調査,低減研究,および品質管理を行う上で,数百検体に及ぶ 製品や開発品のAA含量を定量的に分析する必要がある.したがって,食品からのAA 摂取量を減らし,食品の安全性を向上させるために,簡便かつ迅速なAA定量分析法 の開発および食品からの AA 摂取量を減らすために食品の味や香りに影響を与えず AAを効果的に低減する方法の開発が求められている.
図1-2. メイラード反応経由のAA生成機構 +
Asn Reducing sugar
− H2O
AA
3-Aminopropionamide
− CO2
+ H2O
− NH3
Schiff base
−
- 14 - 図1-3. その他の推定AA生成機構
+ NH3
− H2O
− H2O
Asn Schiff base
− CO2
3-Aminopropionamide + H2O
− NH3
AA
− CO2
− NH3
Acrylic acid
β-Alanine Asp
− NH3
− CO2
Lipids
Acrolein
Glycerol
− 2H2O
Oxidation
[O]
Reactive carbonyl groups α-Dicarbonyl groups Diunsaturated carbonyl groups
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表1-1. EUでの食品中AA濃度のベンチマークレベル (European Union, 2017)
Benchmark level (ng g‒1)
French fries 500
Potato crisps, potato-based crackers, and other potato products 750
Soft bread (a) wheat based bread 50
(b) Soft bread other than wheat based bread 100
Breakfast cereals (a) wheat and rye based productsa 300 (b) Bran products and whole grain cereals, gun puffed grain 300 (c) Maize, oat, spelt, barley, and rice based productsa 150
Biscuits and wafers 350
Crackers with the exception of potato based crackers 400
Crispbread 350
Ginger bread 800
Products similar to the other products in this category 300
Roast coffee 400
Instant (soluble) coffee 850
Coffee substitutes (a) coffee substitutes exclusively from cereals 500
(b) Coffee substitutes exclusively from chicory 4000
Baby foods, processed cereal based foods for infants and young children
excluding biscuits and rusks 40
Biscuits and rusks for infants and young children 150
aNon-whole grain and/or non-bran based cereals. The cereal present in the largest quantity determines the category.
1.2. 食品中の AA 定量分析
食品中の AA 定量分析法は,ガスクロマトグラフィー/電子捕獲型検出 (GC/ECD), GC/(タンデム) 質量分析 (GC/MS(/MS)),液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析 (LC/MS/MS) お よ び 超 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー/タ ン デ ム 質 量 分 析
(UHPLC/MS/MS) を使用した方法が一般的であり,特に検出器には感度と選択性に優
れ た MS を 用 い る こ と が 多 い (Evrim kepekci tekkeli, S., 2012; Food Safety Commission of Japan, 2016a; Keramat, J., 2011b; S. Arvanitoyannis, I., 2014).GCを 用いた分析法では,内部標準物質としてAA と化学的,物理的性質が同一で,m/zの 異なる安定同位体標識体 (サロゲート) を添加したサンプルから AA を水や極性有機 溶媒で抽出した後に,誘導体化を行い ECD や電子イオン化 (EI) 法の MS で検出す
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る手法がよく用いられる.抽出時にサロゲートを添加することで,誘導体化効率の変 動あるいはイオン化などの機器分析での測定誤差の補正が可能となる.GCを用いた AA の分析は,誘導体化を行わずに直接 GC/MS にて観測する事例もいくつか報告さ れているが (Dunovská, L., 2006; Omar, M. M. A., 2014),多くの場合,AAのアクリ ル基やアミド基を誘導体化して分析するのが一般的である.AA の誘導体化の種類と して,GC/ECD法では臭素化 (Saraji, M., 2019; Zhang, Y., 2006; Zhu, Y., 2008),トリ フルオロアセチル化 (Notardonato, I., 2013; Russo, M. V., 2014) が,GC/MS(/MS) 法 では ,臭 素 化 (Andrawes, F., 1987; Pittet, A., 2004),2-メルカ プト安息香 酸化 (Jezussek, M., 2003),ビストリメチルシリル化 (Lagalante, A. F., 2004; Surma, M., 2017),キサントヒドロール化が報告されている (図 1-4) (Lim, H.-H., 2013; Zokaei,
M., 2017).AAのGC法にて,誘導体化を行う理由は検出感度を向上させるためであ
る.例えば,GC/ECD法では誘導体化を行うことで電子を多く持つハロゲン原子がAA に付与されることで検出が可能となり,また GC/MS の EI 法では分子が開裂してよ り小さいフラグメントイオンが検出されるため,誘導体化によりAA分子を大きくす ることで小さいフラグメントイオンの生成を抑制し検出感度の向上を図っている.ま た誘導体化を行うことで分子の極性が下がり,前処理の精製工程で固相カラムへの保 持が強くなり,GC サンプルの溶解溶媒に用いられる低極性有機溶媒への溶解性が上 がることも利点である.一方で,AA誘導体化GC測定法は,誘導体化を伴わないGC 測定法と比べると,工程数が増えて煩雑になると同時に時間がかかるため,多検体の 迅速分析には不向きである.また,誘導体化の工程で臭素などの有害物が発生すると いった安全性の問題も挙げられる.一方で,水などの高極性溶媒で抽出したAAを誘 導体化を行わずに直接分析した場合,同時に抽出された AA 前駆体 (グルコースなど の還元糖や Asn) が 200 ˚C 以上の高温のGC 注入口で反応することで AA が生成す るため,実際よりもAAが多く検出され定量精度が低下する可能性がある.そのため GC を用いた AA の直接分析で精確な定量を行うには抽出液から溶媒交換や精製によ
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って,糖とAsnを完全に除去することが必須となる (Dunovská, L., 2006; Omar, M.
M. A., 2014).また,GCでの分析時間は,短縮しても13分程度を要してしまうため
(Saraji, M., 2019),GC分析では前処理とGC分離において,簡便性と迅速性に課題 が残っている.
図1-4. GC分析のためのAA誘導体化法
LC/MS/MS やUHPLC/MS/MSを用いたAA 分析では,誘導体化を伴わずに,内部
標準物質としてサロゲートを添加したサンプルから水や極性有機溶媒を用いてAAの 抽出を行い,固相カラム精製後にエレクトロンスプレーイオン化タンデム質量分析計 (ESI/MS/MS) で定量分析する方法が一般的である (Lambert, M., 2018; Petrarca, M.
H., 2017).サンプルと標準液にサロゲートを添加し,AAとサロゲートのエリア比か
ら濃度を求める内部標準定量法を用いることで,前処理工程での AA の損失や,ESI でのマトリックス効果 (イオン化抑制など) による感度変化の補正ができるため,よ
Bromination
Trifluoroacetylation
2-Mercaptobenzoic acid derivatization
Xanthydrol derivatization
Trimethylsylyl derivatization GC/ECD
GC/MS GC/MS
AA
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り精確な定量が可能となる (Wu, J., 2010).これまで,UHPLC/MS/MSを用いた7分 以下のAA定量分析法が報告されており (De Paola, E. L., 2017),UHPLCではGCと 比べて迅速分析が可能となっている.また,LC/MS/MS あるいは UHPLC/MS/MS に 適したサンプル前処理法としてQuEChERS (Quick,Easy,Cheap,Effective,Rugged, Safe) 法と呼ばれる簡易前処理法が提案されている (De Paola, E. L., 2017; Huang, Y., 2019; Mastovska, K., 2006).MastovskaらによるQuEChERS法では、サンプル に水,アセトニトリル,n-ヘキサン,無水MgSO4,およびNaClを加えて簡便な抽出 が実施できる.水の添加がサンプルからのAA の抽出を促進し,n-ヘキサンは脂質の 除去を行い,無水 MgSO4と NaCl によるアセトニトリル相と水相の塩析によって,
AA のアセトニトリル相への抽出を行っている.そのアセトニトリル抽出液に,固相 カラムの充填剤を直接加える分散固相抽出 (d-SPE) によって,濃縮することなく希 釈だけで簡便に前処理を行う手法である.しかしながら,QuEChERS 法を用いてコ ーヒー豆のような夾雑物の多い食品を分析した場合,夾雑物の影響で質量分析におい て感度低下の原因であるイオン化抑制が生じるため (Mastovska, K., 2006),夾雑物を 低減するために固相カラムでの追加精製を行う場合がある (Bertuzzi, T., 2017).また,
茶,ほうじ茶,およびコーヒー飲料などAA含量が数ng g‒1レベルの低濃度のサンプ ルは (Food Safety Commission of Japan, 2016b),通常のd-SPEを伴ったQuEChERS 前処理法とLC/MS/MS,UHPLC/MS/MS分析法の組み合わせでは濃度が低いためAA の検出が難しいとされている.また,アセトニトリル抽出液を逆相LCや逆相UHPLC 分析に直接供するとAAが保持されずピークリーディングが生じることから,アセト ニトリル抽出液を一旦濃縮乾固し水に再溶解する工程が必須となるため,前処理工程 においても時間がかかることが課題である (De Paola, E. L., 2017; Huang, Y., 2019;
Mastovska, K., 2006; Yoshioka, T., 2019).さらに,AAは濃縮工程中に揮発すること が報告されており (Gökmen, V., 2006; Rufián-Henares, J. A., 2006),AA濃度の低い サンプルでは精度のよい検出・定量が困難となる.また,抽出液をろ過するメンブレ
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ンフィルターからAAの溶出が報告されており (Mastovska, K., 2006),低濃度のAA を分析する場合にフィルター由来のAAによる汚染の影響によって正確な定量値が得 られない可能性がある.特に飲料などのAA含量の少ないサンプル分析時に感度不足 やAA の損失,汚染は重大な問題となるが,これら全ての問題を解決したAAの迅速 高感度分析法については確立されていないのが現状である.前処理時間の短縮,機器 分析でのデータ取得と解析を含めた分析工程全体のハイスループット化と,様々な食 品中の数ng g‒1レベルの低濃度から数μg g‒1レベルの高濃度のAAの定量ができるよ うになれば,数百検体の食品サンプルの迅速なモニタリングが可能となりAAの実態 調査,品質管理,および低減研究に貢献できる.
本研究では,食品中のAAの定量分析を高感度かつ迅速に行うために,超臨界流体 クロマトグラフィー/タンデム質量分析 (SFC/MS/MS) に注目した.SFC/MS/MS は 超臨界流体二酸化炭素 (SCCO2) を移動相として使用する SFC と MS を組み合わせ た分析手法で,高速分析や高感度分析の点から,近年多くの分析事例が報告されてい る (Fujito, Y., 2017; Grand-Guillaume Perrenoud, A., 2014; Lesellier, E., 2015).最近 の SFC システムは高い圧力上限値と低いデッドボリュームを備えた UHPLC テクノ ロジーを応用して開発されている (Takeda, H., 2018).CO2は臨界圧力が7.3 MPa, 臨界温度が31 ˚CのUHPLC分析に近い条件でSCCO2となり,可燃性がなく大気中 にも含まれるガスのためSFCに使用される.SCCO2はn-ヘキサンと同程度の溶出力 であり,モディファイアー溶媒の混合比率を上げることで溶出力を上げることができ る (Lesellier, E., 2015).SCCO2は粘性が低いことと,大気圧のイオン源で気化する ため溶媒のように気化に負担がかからないことから UHPLC/MS/MS に比べて高流速 で分析が可能で,分析時間を短縮することができる. また,SFC/MS/MS では
LC/MS/MSと比較して,理由は明らかではないが大幅に高感度検出できる化合物の事
例が報告されている (Fujito, Y., 2017; Grand-Guillaume Perrenoud, A., 2014).そのた め,本研究では,SFC/MS/MS を用いた迅速高感度なAA 分析法の開発に取り組むこ
- 20 - とにした.
1.3. 食品中の AA 低減法
遺伝毒性発がん物質であるAAを食品からできるだけ低減するために,多くの国で 食品事業者は政府機関と連携し,自主的にAAの低減に取り組んでいる.国際的な食 品基準を定める政府間組織であるコーデックス委員会は2009年に「Code of practice for the reduction of acrylamide in foods」を採択し,日本を含む加盟国がこの規範に沿 って AA の低減に取り組むことを勧告している (FAO/WHO, 2009).日本では農林水 産省が 2013 年に「食品中のAA を低減するための指針」を提供し,大小様々な食品 事業者が自主的に AA の低減に取り組むことができるように支援を行っている (農林
水産省 d, 2013).AA 低減の際に最も重要なことは,食品の味や安全性といった品質
を変えないことである.揚げた食品や焼いた食品中のAAを低減する手法は,1) 農学 的手法,2) 生物学的手法,3) 物理学的手法,および 4) 化学的手法の 4 つに分類で きる (Baskar, G., 2018).また,5) 既に生成したAAを食品中の成分との反応によっ て除去する手法もある (Friedman, M., 2008).
1) 農学的手法のAA生成防止は,主に食品原料の生育中や保存中における,AA前 駆体である還元糖と Asn を低減するアプローチである.ジャガイモへの窒素施肥量 が増えるとAsnが増加し,カリウム施肥量が減少すると還元糖が増加するため,施肥 量はAAの生成に重要な役割を果たすことが報告されている (Gerendas, J., 2007). また,ジャガイモにおいては,低い温度および低い酸素濃度で貯蔵させることで,ジ ャガイモ中の還元糖が減少すること (Olsson, K., 2004),コーヒー豆においては,10
˚C で 6 か月間保存した場合,AA 量が約 30%減少することが報告されている (Hoenicke, K., 2005).
2) 生物学的手法でのAA生成防止策の代表例は,食品原料の遺伝子操作を行うこと で,AA前駆体であるAsnや還元糖を低減させる方法である.しかし,遺伝子操作を
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伴うため,日本国内では他の手法と比べてその実施例が少ないのが現状である.一方 で,近年 TALEN (Transcription Activator-Like Effector Nuclease) や CRISPR/Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins 9) といったゲノム編集技術が注目されており (Hameed, A., 2018; Nakajima,
O., 2018),スクロース分解酵素をコードする遺伝子の発現を阻止した還元糖の生成し
ないジャガイモでは,AAの低減が報告されている (Clasen, B. M., 2016).今後,こ のゲノム編集技術を用いたAA低減法が発展していく可能性がある.
3) 物理学的手法でのAA生成防止策は,AAの生成に直接影響する食品加工時の工 程最適化であり,主に加工時の温度,時間,および水分量に注目して検討が行われて いる.食品原料の下茹でを行うブランチング工程は,油の吸収を制限し,食感を改善 するため,フライドポテトの製造において重要な工程である.ブランチング時にはAA 前駆体が溶出するため,AA 濃度の低下に有効である.フライドポテトとポテトチッ
プスでは70 ˚Cにおける10分間のブランチング処理により,それぞれ65%と96%の
AA 減少が報告されている (Mestdagh, F., 2008).長時間かつ高温の揚げ条件によっ て,AA が多く生成する傾向がみられるため,なるべく低温で揚げ時間を慎重に最適 化することが望ましいと考えられている (Foot, R. J., 2007).ポテトチップスを真空 下で揚げると,油の沸点が下がり低温で揚げることができるため,AAを94%減少し たと報告されている (Granda, C., 2004).ポテトチップスを170 ˚Cのオーブンで焼 く場合と 170 ˚C の油で揚げる場合を比較すると焼いた方が AA 量が多くなった.焼 く方が調理に時間がかかるためと推測されている (Palazog̀lu, T. K., 2010).パンの製 造においては,パンの焼き色とAA産生には関連があると考えられている.そのため,
パンの調理工程におけるオーブンの温度と湿度は,AA の減少に効果的である.スチ ーム無しのベーキングとスチームベーキングでパンを焼いた場合,湿度の高いスチー ムベーキングでAAが約50%減少した (Ahrné, L., 2007).また,ベーキング温度の低 下によって,ベーキング中の AA 生成を抑制したと報告されている (Keramat, J.,
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2011a).また,パンの発酵はAAの減少に重要な役割を果たした.全粒粉を含むパン
では,長い醗酵時間に対して短い発酵時間でAAが87%減少し,ライ麦ふすま入りの パンではAAが77%減少した (Keramat, J., 2011a).
4) 化学的手法でのAA生成防止策として,アミノ酸,有機酸,酵素,塩,カチオン,
および抗酸化物質といった食品添加物の使用が報告されている.これらの添加物は,
ベーカリー製品の AA低減に利用しやすい.ベーカリー製品への0.2% (w/w) のクエ ン酸等の有機酸の添加は,AsnのAspへの加水分解や,α-アミノ基のプロトン化によ る反応性低下のため,結果的に AA 生成量の低下に寄与した (Jung, M. Y., 2003;
Rydberg, P., 2003).また,ホモジナイズしたジャガイモにグリシン (Gly) やグルタ ミン (Gln) を添加し加熱することで,AA 生成量が 70–90%減少した (Rydberg, P.,
2003).ベーカリー製品にGly,リジン (Lys),およびシステイン (Cys) などのアミノ
酸を添加することで,AA生成量は50%減少するという報告もある (Kim, C. T., 2005).
さらに,ポテトチップスを酢酸溶液に20分間浸漬してから揚げることで,AA生成量
が 90%減少し,フライドポテトを水に浸漬し,80 分クエン酸溶液でブランチングし
てから揚げると,AA量の減少が確認された (Kita, A., 2004).一方,抗酸化物質は,
メイラード反応中に生成する自由電子を除去することでAAの減少に重要な役割を果 たすことが知られている.抗酸化物のルチンは Asn/グルコースモデル試験系におい て,AAの生成を50%低減させた (Zhu, F., 2009).
AA 生成を低減するもう一つの解決策は,加水分解酵素アスパラギナーゼの使用で ある.アスパラギナーゼはAsnのアミドを加水分解し減少させるため,フライドポテ トやポテトチップスの AA 量を 60–80%減少することが報告されている (Aiswarya, R., 2018; Pedreschi, F., 2008).Ca2+やNa+などのカチオンもAAの減少に重要な役割 を果たしており,CaCl2とNaClはAAを減少させる効果を示した.ジャガイモをCaCl2
もしくはNaCl溶液に浸漬すると,ヒドロキシメチルフルフラールやフルフラールと いったシッフ塩基中間体形成のために,揚げ工程中のAA生成が抑制された (Gökmen,
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V., 2007).また,コーヒーへの 16 時間の麹菌の浸漬によって,AAが 84%減少する
という事例も報告されている (Kazuya, I., 2012).
5) のAAと食品成分との反応によるAAの低減法は,AAのα, β-不飽和カルボニル 部位の反応性が高いことを利用したものである (Friedman, M., 2003; Kumagai, Y., 2017; LoPachin, R. M., 2012b).実際に,食品中のCysやナイアシンと反応すること でAAが低減することが報告されている (Narita, Y., 2014; Zeng, X., 2010).
1)–5) で示した食品中のAA の低減戦略の中で実際によく用いられるのは,最終形
態が焼いた状態や揚げた状態の食品に対して実施と管理のしやすい 3) 物理的手法と 4) 化学的手法の加熱温度,加熱時間の最適化や食品添加物の使用である.一方で,AA の低減のために Cys や麹菌を添加した場合,不快な匂いや製品由来ではない香りが 発生することもあるため (Casado, F. J., 2010; Kazuya, I., 2012),添加物を使用する 場合は味や香りへの影響に注意を払う必要がある.また,コーヒー飲料のような焙煎 コーヒー豆から熱水で抽出を行う飲料の場合,AA の生成する焙煎工程時に AA の低 減を行う必要があるが,コーヒーの香ばしさを付与する必要があるために加熱を弱め ることや,豆を直接焙煎するためベーカリー製品のように添加物を加えることが難し く,3)と 4)で示した一般的な AA 低減法が適用できない.一方で,コーヒー飲料は,
保存中においてAAが減少することが報告されており,コーヒー飲料中の何らかの物 質とAAが反応している可能性が示唆されているがその全貌は明らかになっていない (Baum, M., 2008; Hoenicke, K., 2005).コーヒー飲料中のAAと反応している物質が 特定できれば,AA 低減に向けた新たな戦略を立案できる可能性がある.そこで,本 研究ではコーヒーの保存期間中に生成するAA反応物質の探索に取り組むことにした.
1.4. 博士論文の研究目的
食品中に遺伝毒性発がん物質であるAAが含まれることが明らかとなって以来,世 界中の政府機関,大学,および食品事業者で食品中のAAの実態調査,低減研究,およ
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び品質管理が行われてきた.今後,このような食品中のAA研究を加速させるためには,
様々な夾雑成分を含む多種多様な食品に対して,数ng g‒1レベルの低濃度から数μg g‒
1レベルの高濃度まで濃度域の異なるAAを正確かつ迅速に定量するための方法が必要 である.近年のAA分析ではUHPLC/MS/MSを用いた迅速分析法がよく用いられている が,飲料などの低濃度のAAサンプルにも適用可能な迅速分析法は確立されていない.
理想的なAA分析法を構築するには,低濃度のAAの検出,マトリックス効果による感 度低下,抽出液濃縮時のAA揮発による感度低下,メンブレンフィルターからのAA汚 染による定量精度の低下,および前処理時間の短縮といった多くの課題を解決する必 要がある.
AAの低減には加熱温度の低下,加熱時間の短縮,および食品添加物を加える方法が 一般的であるが,コーヒー飲料のように原料のコーヒー豆を焙煎する飲料ではそれら 一般的なAA低減法の適用は難しい.一方,AAのα, β-不飽和カルボニル部位の反応性 の高さを利用し,食品中の成分と反応させることでAAを低減する手法が報告されて いる (Narita, Y., 2014; Zeng, X., 2010).また,コーヒー飲料中のAAは保存中に何ら か の 物 質 と 反 応 す る こ と で 減 少 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (Baum, M., 2008;
Hoenicke, K., 2005).しかし,これまで複雑な混合系であるコーヒー飲料中でのAAの
減少メカニズムを詳細に解析した例はない.AAと反応しているコーヒー飲料に含ま れる原因物質を特定することで,AAの低減につながる戦略を立案できる可能性があ る.
そこで本研究では,食品中のAAを低減することを目的として,AAの迅速高感度定 量分析法の開発とコーヒー飲料中のAA減少の原因解析を行った.まず第二章では,
SFC/MS/MSを用いた様々な食品中の夾雑成分に対応可能なAAの実態調査,低減研究,
および品質管理に適用可能な迅速高感度なAA定量分析法の開発を行った.第三章で はコーヒー飲料中AAの減少原因を解析するために,AAの減少に応じて生成するAA付 加体の探索を行った.
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第二章 SFC/MS/MS を用いた AA の高感度迅速定量法の開発
2.1. 諸言
第一章で述べたように,国内外での様々な食品中のAAの実態調査,低減研究,お よび品質管理では,多様な夾雑成分を含む食品中の低濃度から高濃度まで異なる濃度 のAAを正確かつ迅速に分析する必要がある.しかし,高感度化と迅速化を両立した AA 定量分析法は確立されていないのが現状である.日本ではコーヒー飲料は AA 含 量が低いものの 1日当たりの摂取量が多いため,AA 摂取寄与率の高い飲料,食品の 上位であり (表2-1) (Food Safety Commission of Japan, 2016b),その影響を無視す ることはできない.そこで,低濃度サンプル (数ng g‒1レベル) 中のAAの高感度検 出法と迅速なサンプル前処理法を組み合わせたハイスループットな分析法を開発す ることを目指し,1) AAの高感度検出,2) マトリックス効果低減による感度改善,3) サンプル抽出液濃縮時の AA の揮発防止による感度の向上,4) 前処理工程のさらな る迅速化,および 5) メンブレンフィルターからの AA の汚染防止による定量精度の 向上に取り組んだ.
以前の研究において,農薬や医薬品をLC/MS/MS (UHPLC/MS/MS) とSFC/MS/MS で比較検証したところ,SFC/MS/MSの方が高感度に検出できる事例が報告されてい る (Fujito, Y., 2017; Grand-Guillaume Perrenoud, A., 2014).AA分析によく用いられ るLC/MS/MS (UHPLC/MS/MS) の代わりに (De Paola, E. L., 2017),SFC/MS/MSを 用いることで1) の課題であるAAの高感度検出が可能となり,またSFCによる高速 分析によって分析時間の短縮につながる可能性もある.そこで,前処理は既知法の中 でも迅速な処理の可能なQuEChERS法を参考とし (Mastovska, K., 2006),これまで 報告のないSFC/MS/MSを用いたAAの分析に取り組むことにした.分析法開発の戦 略として,SFC/MS/MSを用いてAAの高感度化ができれば,QuEChERS抽出液に対
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表2-1. Revised point estimate of AA intake from each food item (Food Safety Commission of Japan, 2016b)
AA intake (ng kg bw‒1 day‒1)
Bean sprout (Fried/Sautéed) 66
Potato (Sautéed) 13
Regular coffee (Extracts) 12
Instant coffee (Freeze-dried) 12
Lotus root (Fried/Sautéed) 11
Wheat flour snacks 10
Potato chips 9.4
Cabbage (Fried/Sautéed) 9.0
Molded mashed potato snack 7.8
Potato (Fried) 7.5
Onion (Surface fried) 6.7
Hashed beef/curry 6.1
Green tea/oolong tea (Extracts) 5.3
Onion (Fried/Sautéed) 5.3
Rice cracker 5.1
Cooked rice 3.9
Hoji-cha (Extracts) 3.1
Mugi-cha (roasted barley extracts infused at home) 2.6
Bottled mugi-cha tea (roasted barley extracts) 2.5
Karinto (with non-centrifugal sugar) 2.4
Coffee-based beverage 2.0
Many other foods 37.3
Total 240
して d-SPE や固相カラムによる精製を行わずとも,溶媒による希釈によってマトリ
ックス効果を低減でき,2) の課題である感度を改善できると考えた.また,溶媒希釈 によって精製工程が不要となれば,時間を要する濃縮工程が不要となり3) を達成し,
結果として前処理を大幅に迅速化できるため,4) も達成できると考えた.5) のメン ブレンフィルターからのAAによる汚染を解決するための方策として,遠心分離によ る異物の除去を考えた.遠心分離の方が,メンブレンフィルターを用いるよりも多検 体のサンプルを短時間で処理可能である.また,LC/MS/MS や UHPLC/MS/MS では
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AA の保持が弱くピーク形状がブロードになる場合があり (De Paola, E. L., 2017;
Huang, Y., 2019; Yoshioka, T., 2019),SFC/MS/MSを用いることで分離機構が変わり 保持の改善がみられる可能性がある.そのため,SFC/MS/MSを用いることによって 全ての課題を解決できて,分析工程全体のハイスループット化につながると考えた.
本章では,簡易前処理法であるQuEChERS法をベースとして精製工程やメンブレ ンフィルターろ過工程を省略した迅速な前処理法と SFC/MS/MS を用いた食品中の 高 感 度 AA 定 量 分 析 法 の 開 発 に 取 り 組 んだ . 同 一 の 三 連 四 重極 型 質 量 分 析 計 (QqQMS) に接続した SFC/MS/MS と UHPLC/MS/MS による同一サンプルの AA 測 定結果を比較することで,SFC/MS/MS のAA 測定に関する優位性を検証した.さら に,AA 定量分析の外部精度管理試験に参加することで,本分析法の施設間の検証を 行った.また,本分析法を用いて飲料,飲料の原料穀物,菓子などの様々な市販食品 中のAA定量分析を行った.
2.2. 実験
2.2.1. 試薬,器具,およびサンプル
AA (プロテオミクス用),ギ酸 (LC/MS用),アセトニトリル (LC/MS用),メタノー ル (LC/MS用) は富士フィルム和光純薬 (大阪,日本) から,n-ヘキサン (残留農薬分 析用) は関東化学 (東京,日本) から購入した.サロゲートとして用いた 13C3-AA メ タノール溶液 (13C3-AA, 1 mg mL‒1; ヒドロキノン, 0.1 mg mL‒1含有) はCambridge Isotope Laboratories (Tewksbury, MA, USA) から購入した.Supel QuE Citrate (EN) tube (無水硫酸マグネシウム, 4 g; 塩化ナトリウム, 1 g; クエン酸三ナトリウム, 1 g;
クエン酸二ナトリウム, 0.5 g含有) はSigma-Aldrich (St. Louis, MO, USA) から購入
した.CO2 (99.5%グレード,巴商会,茨城,日本) はSFC移動相として用いた.メ
ンブレンフィルターMillex LG (4 mm 0.2 μm, 13 mm 0.2 μm) は Merck Millipore (Billerica, MA, USA) から,Dismic-13HP (13 mm 0.2 μm) は東洋濾紙 (東京,日本)
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から購入した.実験で用いた水は Merck MilliporeのミリQシステムで精製したもの を使用した.
分析サンプルとして用いた 7 種の麦茶,1種のほうじ茶,3 種の混合茶,6 種のブ ラックコーヒー,6種のミルクコーヒー,2種の焙煎麦,7種のコーヒー豆,12種の ビスケット,7 種のクッキー,3種のクラッカー,および1種のサブレはスーパーマ ーケットで日本産の製品を購入した.穀類と菓子サンプルは,フードプロセッサーで 粉砕,均一化したものを用いた.FAPAS (Food Analysis Performance Assessment Scheme) 外部精度管理試験用のビスケットサンプルはFera Science (York, UK) から 購入した.
2.2.2. SFC/MS/MS分析条件
SFC/QqQMSシステムとして,ACQUITY UPC2 (Waters, Milford, MA, USA) とXevo TQ-S micro triple-quadrupole mass spectrometer (Waters) を使用し,イオン化法には ESIを用いた.システム制御とデータ取得にはMassLynx software version 4.1 SCN
909 (Waters) を用いた.移動相の超臨界流体に溶解しない水溶性の塩などを洗浄する
ための分析後のポストランメソッドにおいて,515 HPLC pump (Waters) をメイクア ップポンプとして使用した.分析カラムには,ACQUITY UPC2 BEH,ACQUITY UPC2 CSH Fluoro-Phenyl,ACQUITY UPC2 Torus 2-PIC,ACQUITY UPC2 Torus DIOL, ACQUITY UPC2 Torus 1-AA (150 mm × 3.0 mm i.d.,particle size 1.7 μm, Waters),
およびACQUITY UPC2 HSS C18 SB (150 mm × 3.0 mm i.d.,particle size 1.8 μm,
Waters) を用いて,AA分析に最適なカラムのスクリーニングを行った.
SFCの分析条件は以下に記す.注入量は3 μL,移動相流速は1.0 mL min‒1,カラ ム温度は40 ˚Cに設定した.移動相 (A) はSCCO2,移動相 (B,モディファイアー) はメタノールとした.分析時のグラジエント条件は,SFCの移動相は0–0.2 min (5%
B), 3.6 min (22% B), 4–5 min (47% B), 5.5–5.8 min (5% B),メイクアップ溶媒は0–
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5.8 min (0 mL min‒1) に設定した.分析後に,MSへの分岐部や分岐後の配管に残存し た水溶性の塩などのつまりを防ぐための洗浄用のポストランメソッドを以下に記す.
SFC の移動相は B 液を 5%のアイソクラティックモード,メイクアップ溶媒はメタ ノール:水 (95:5 v/v) でそれぞれ流速1.0 mL min‒1で,5.8分から6.8分まで送液し,
分析時間はポストランメソッドも含めて合計 6.8 分とした.背圧制御装置 (ABPR, active back pressure regulator) 条件は,0–3.2 min (13.8 MPa), 3.3–3.6 min (20.7 MPa), 3.65 min (13.8 MPa), 3.7–5.2 min (12.4 MPa), 5.25 min (13.8 MPa) の条件に設定し,
高感度化するために ABPR を上下動させた.カラムスクリーニング分析と ABPR 固 定分析時は,ABPRを13.8 MPaに設定した.また,QqQMSの分析条件を以下に記 す.ESI はポジティブイオンモード,キャピラリー電圧は 1.6 kV,イオン源温度は 150 °C,脱溶媒ガス温度は400 °C,脱溶媒ガス流量は1000 L h‒1に設定した.質量 分析は,Multiple reaction monitoring (MRM) 測定で行った.MRM測定とは,QqQMS
の1つ目のMS (Q1) でESIによってイオン化した目的物の分子イオン (プリカーサ
イオン) を選択し,続くコリジョンセル (q2) において衝突誘起解離 (collision- induced dissociation: CID) を用いて選択したイオンを不活性ガスに衝突させること でプリカーサイオンの開裂を起こし,2つ目のMS (Q3) で開裂したイオン (プロダク トイオン) 中の特定イオンを検出する方法のことであり,Q1 と Q3 の設定値の組み 合わせのことを MRM トランジションという.MRM 測定では,MS 内部で特定の標 的イオンのみを選択的に単離し,共溶出する夾雑イオンを除去することができるため,
結果としてバックグラウンドを低下させることができる.そのため,S/N が向上し,
高感度かつ選択性の高い検出が可能となる.MRMトランジションは,AAは72 (cone voltage (CV), 25 V) > 55 (collision energy (CE), 8 V),72 (CV, 25 V) > 44 (CE, 10 V) に,13C3-AAは75 (CV, 25 V) > 58 (CE, 8 V) に設定した.
- 30 - 2.2.3. UHPLC/MS/MS分析条件
UHPLC/QqQMS シ ス テ ム と し て ,ACQUITY UPLC I-class (Waters) と 2.2.2.
SFC/MS/MS 分 析 条 件 に 記 載 の あ る Xevo TQ-S micro triple-quadrupole mass spectrometerを用いた.
UHPLC条件を以下に記す.分析カラムには,ACQUITY UPLC HSS T3 (150 mm × 3.0 mm i.d., particle size 1.8 μm, Waters) を用いた.注入量は3 μL,移動相流速は 0.35 mL min‒1,カラム温度は40 ˚Cに設定した.移動相 (A) は0.1% (v/v) ギ酸水溶 液に,移動相 (B) はメタノールとした.グラジエント条件は,0–4.75 min (0.5% B), 5–6.75 min (80% B), 7–10 min (0.5% B) に設定し,分析時間は合計10分とした.SFC
とUHPLC での分析結果の比較検討を行うために,QqQMSの装置条件とMRMトラ
ンジションは2.2.2. SFC/MS/MS分析条件に記載された数値を設定した.
2.2.4. SFC/MS/MSとUHPLC/MS/MSでのフローインジェクション条件
フローインジェクション (FI) 分析はカラムを使用せずに分析する手法で,この手 法を用いて二酸化炭素の有無と溶媒比率の違いによってAAのイオン化効率に違いが 生じるか確認を行った.SFC/MS/MS での FI条件を以下に記す.注入量は 3 μL,流
速は1.0 mL min‒1に設定した.移動相にはSCCO2とメタノールを用いて,メタノー
ルの割合を5, 10, 20, 30, 40, 50, 60, 70%に設定してアイソクラティックモードで分 析を行った.
UHPLC/MS/MSでのFI条件を以下に記す.注入量は3 μL,流速は0.35 mL min‒1 に設定した.移動相には0.1% (v/v) ギ酸水溶液とメタノールを用いて,メタノールの
割合を0, 5, 10, 30, 50, 70%に設定し,アイソクラティックモードで分析を行った.
QqQMS 装置条件と MRM トランジションは,2.2.2. SFC/MS/MS 分析条件に記載さ
れた数値を設定した.FI分析のための標準溶液は,SFC分析用には2.5 ng mL‒1のAA アセトニトリル溶液を,UHPLC分析用には2.5 ng mL‒1のAA水溶液を用いた.
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2.2.5. サンプル前処理法開発のための予備検討
サンプル抽出液の希釈によるマトリックス効果の低減と,メンブレンフィルターか らのAA溶出量についての調査を行った.マトリックス効果の低減の検討では,ミル クコーヒー,ビスケット,コーヒー豆をサンプルに用いた.AA を添加した場合,サ ンプル内在性のAAによって回収率の評価が難しいため,サロゲートを添加して回収 率の評価を行った.既知のQuEChERS前処理法を参考に (Mastovska, K., 2006),d- SPE工程を実施せずに,QuEChERS抽出液の希釈操作のみを実施した.ミルクコー ヒー2 g,ビスケット1 g,コーヒー豆0.5 gをそれぞれ50 mL PPチューブに量りと
り,0.25 μg mL‒1 サロゲートアセトニトリル溶液を0.2 mLずつ添加した.ビスケッ
トには水5 mL,コーヒー豆には水1.5 mLを加えてボルテックスミキサーで30秒撹
拌後,15分放置し膨潤させた.ミルクコーヒーにはアセトニトリル9.8 mL,ビスケ ットとコーヒー豆にはアセトニトリル 9.8 mL と n-ヘキサン 2.5 mL を加えた後,
Supel QuE Citrate (EN) tubeを加えた.Supel QuE Citrate (EN) tubeに含まれる無水 硫酸マグネシウムは吸湿して固まるため,すぐに蓋を締めて手で振とう後,270 rpm の振とう機で15分振とうした.遠心分離後 (20 °C,2380 g,5分),ミルクコーヒー では上相のアセトニトリルを回収し,ビスケットとコーヒー豆では中間相のアセトニ トリルを回収した.各アセトニトリル抽出液1000,500,200,100,および100 μL を,それぞれアセトニトリル0,500,800,900,および1400 μLと混合し,1,2, 5,10,および15倍の希釈液を調製した.ミルクコーヒーは希釈液をそのまま分析に 用いて,ビスケットとコーヒー豆は遠心分離後 (20 °C,15000 g,3分) の上清を分析 に用いた.各サンプルn = 2で分析を行い,マトリックス効果低減の評価に用いた.
メンブレンフィルターからのAAの溶出量については,各メンブレンフィルターに
対してn = 3でアセトニトリルを1 mL通液したものを分析し,評価を行った.
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2.2.6. 飲料,菓子類,および穀類サンプルの前処理法
飲料サンプル前処理法:飲料2 gを50 mL PPチューブに量りとり,0.25 μg mL‒1 サロゲートアセトニトリル溶液0.2 mLを添加した.アセトニトリル9.8 mLを加えた 後,Supel QuE Citrate (EN) tubeを加えた.手でよく振とう後,270 rpmの振とう機 で15分振とうした.遠心分離後 (20 °C,2380 g,5分),上相のアセトニトリル抽出
液0.5 mLを分析バイアルに入れた後,アセトニトリル0.5 mLで希釈し,SFC/MS/MS
分析サンプルとした.UHPLC/MS/MS分析サンプルには,遠心後の上相のアセトニト リル抽出液0.5 mLを40 °Cで窒素乾固した残留物を水1 mLに再溶解したものを用 いた.
菓子類,および穀類サンプル前処理法:菓子類と穀類は食品用ミルで粉砕,均一化 したものを分析サンプルとした.菓子類は1 g,穀類は0.5 gを50 mL PPチューブに 量りとり,10 μg mL‒1 サロゲートアセトニトリル溶液25 μLを添加した.菓子類は
水5 mL,穀類は水1.5 mLを加えてボルテックスミキサーで30秒撹拌後,15分放置
して膨潤させた.アセトニトリル10 mLとn-ヘキサン2.5 mLを加えた後,Supel QuE Citrate (EN) tubeを加えた.手でよく振とう後,270 rpmの振とう機で15分振とうし た.遠心分離後 (20 °C,2380 g,5分),中間相のアセトニトリル抽出液0.1 mLとア セトニトリル0.9 mLを1.5 mL PPチューブで混合し,遠心分離後 (20 °C,15000 g, 3分) にバイアルに移してSFC/MS/MS分析サンプルとした.UHPLC/MS/MS用分析 サンプルは,遠心後の中間相のアセトニトリル抽出液0.1 mLを40 °Cで窒素乾固し た残留物を水1 mLに再溶解したものを用いた.
サンプルの定量には,サロゲートを用いた内部標準絶対検量線法を用いた.2.5 ng mL‒1となるようにサロゲート溶液を加えた,0.050–50 ng mL‒1 AA標準アセトニトリ ル溶液 (SFC分析),もしくはAA標準水溶液 (UHPLC分析) を調製した.
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2.2.7. SFC/MS/MSとUHPLC/MS/MSでの感度比較
直線性と定量下限 (LOQ) の評価は,SFC にはアセトニトリル,UHPLC には水で 希釈した0.050–50 ng mL‒1 AA標準液で行った.LOQはS/N = 10となる濃度とした.
AA の保持時間,AAピークエリアの半値幅 (FWHM),再現性は,2.5 ng mL‒1のAA アセトニトリル溶液とAA水溶液を用いて比較を行った.また,2.2.6. 飲料,菓子類,
および穀類サンプルの前処理法に記載の方法で前処理を行ったミルクコーヒー,麦茶,
およびコーヒー豆の抽出液を SFC/MS/MS と UHPLC/MS/MS で分析を行い,感度比 較を行った.
2.2.8. SFC/MS/MSを用いたAA分析法のバリデーション試験
飲料サンプルにはミルクコーヒーと麦茶,菓子サンプルにはビスケット,穀類サン プルにはコーヒー豆を用いて,SFC/MS/MS によるAA 分析法の真度,再現性,検量 線の直線性のバリデーション試験を行った.真度は,サンプルにAAを一定量添加し て定量を行い,添加量100%を真値として前処理工程でのロスと分析時のマトリック ス効果の影響を真値とのずれで示す.再現性は,AA を添加したサンプルを複数分析 し,それら定量値のばらつきを示す.AAの検量線には,サロゲートを2.5 ng mL‒1と なるように加えた 0.050–12 ng mL‒1の AA アセトニトリル標準溶液を用いた.サン プリングしたミルクコーヒー,麦茶に20 ngのAAを,ビスケット,コーヒー豆には
100 ngのAAをそれぞれn = 6で添加した後に前処理を行い,その分析結果を評価に
用いた.また,各サンプルには内在性のAAが含まれており,分析結果は内在性のAA に添加分の AAが上乗せして得られるため,内在性の AAを把握するためにAA 無添 加サンプルの分析を n = 2で行った.真度を求める際は,AA 添加サンプルの各分析 値から AA 無添加サンプルの平均分析値を差し引いた値を,AA 添加量として評価に 用いた.本バリデーション試験の基準は,真度70–110%,精度は≤ 15%とした (AOAC International, 2016).LOQ,検出限界 (LOD) は,各AA無添加サンプルの分析結果か
- 34 - ら計算で求めたS/N = 10,3となる濃度とした.
2.2.9. FAPAS外部精度試験
ビスケットに含有する AA を分析する FAPAS 外部精度試験を行い,他の分析機関 との分析結果の比較を行った.この試験は,均一に粉砕されたビスケットが主催者か ら送付され,そのAA分析結果を主催者に送ることで,参加した分析機関内での分析 結果の評価がzスコアとして返送される.分析結果が正規分布していると仮定し,分 析値の95%は–2 ≤ z ≤ 2の範囲内におさまる.つまり,zスコアが–2から2の範囲で あれば,その分析結果は妥当であると判定され,それ以外の値では不満足な結果と判 定される.
2.2.10. 統計分析
分析値はMicrosoft Excel 2013を用いて平均値,RSD (相対標準偏差),および標準 偏差を計算し,CSVファイルで保存した.
2.3. 結果と考察
2.3.1. AAのSFC分離のための最適なカラムのスクリーニング
SFC/MS/MSを用いてAA分析を行うために,まず2.5 ng mL‒1のAAアセトニトリ ル溶液を用いて,6種の異なるカラム (図2-1) の中からAA分析に最適なカラムの選 択を行った.また,カラム比較において,SFC/MS/MS 分析は同一条件で実施した.
各カラムでのSFC/MS/MS測定結果から得られたAAの保持時間,FWHM,ピークエ リア値,およびピークエリア値の再現性を表 2-2にまとめた.その結果,DIOLと1- AAカラムでのFWHMは0.03分であり,他4種のカラムと比較してピーク幅の狭い シャープなピーク形状で AA が検出できることを確認した.ピークエリア値は DIOL
< 1-AAの順となっており,1-AAカラムを用いた時のピークエリア値が最も大きかっ
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た.さらに,この二つのカラムで分析した際のピークエリア値の再現性は,4%RSD 以下であり両者とも良好であった.DIOL と 1-AA カラムでの保持時間は,それぞれ 3.58 と 3.45 分であり,他のカラムに比べて保持時間が長いためAA がよく保持され ていることが推察された.この理由としては,DIOL カラムが高極性基であるジオー ルを固定相に持つため,極性化合物であるAA (logPow of –0.67) を強く保持している と考えられ,また1-AA カラムは固定相に低極性のアントラセン基が結合しているた め,アントラセンとAAのπ–π相互作用のために強く保持していると考えられた.
図2-1. AA分析の評価に用いたSFCカラムの6種の固定相