第三章 コーヒー飲料中の AA 減少機構の解析
3.3. 結果と考察
3.3.4. ミルクコーヒータンパク質中のアクリル酸付加アミノ酸の探索
3HP-AAとPy-AA以外のAA付加体は,低分子化合物を測定対象としたミルクコー
ヒー分析サンプル調製時に除去されたタンパク質中に含まれる可能性が高いため,タ ンパク質の酸加水分解によって得られた構成アミノ酸の側鎖や N 末端へのアクリル 酸付加体の探索を行った.アクリル酸付加体となるのは,酸加水分解中にタンパク質 のアミド結合だけでなく,AA のアミド結合も加水分解されるためである.4 か月間 保存したAA無添加,AA添加,13C3-AA添加ミルクコーヒーから抽出したタンパク質 の酸加水分解を行った.分子内にスルフィド結合 (-S-) を持つメチオニンは,酸加水
0 5000 10000 15000 20000 25000 30000
0 1 2 3 4
Storage time (months) Storage time (months)
0 1 2 3 4
0 1 2 3 4
0 1 2 3 4
0 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0
1 2 3 4
3HP and Py (n= 3) 3HP-AA and Py-AA (n= 3)
Conc. of 3HP, Py(ng g-1) Conc. of AA adducts (ng g-1)
0 1 2 3 4
- 77 -
分解中の分解が報告されており,分解を防ぐために加水分解の前に過ギ酸酸化が行わ れている (Gehrke, C. W., 1987; Lamp, A., 2018; Spindler, M., 1984).AA付加体アミ ノ酸候補の Cys-アクリル酸も分子内にスルフィド結合を持つため,分解を防ぐため に過ギ酸酸化の必要があると考えられる.一方で,過ギ酸酸化によって上記以外のア ミノ酸が分解される可能性があったため,1) 過ギ酸酸化後の酸加水分解サンプルと,
2) 直接酸加水分解サンプルの間で検出されるアミノ酸の比較を行った.AA と 13C3 -AA を添加したタンパク質加水分解物の CD解析結果から,表 3-8 のアクリル酸付加 アミノ酸の非標識体と 13C3標識体の m/z 理論値と両者の保持時間の一致度を指標に アクリル酸付加アミノ酸の探索を行った.その結果,1) のサンプルでは Lys-アクリ
ル酸と CysSO2-アクリル酸が検出され,2) のサンプルでは Lys-アクリル酸のみが検
出された.また,1) の処理で得られたAA無添加サンプルのタンパク質加水分解物か
らもLys-アクリル酸とCysSO2-アクリル酸が検出された.また,Lys-アクリル酸は過
ギ酸酸化の影響を受けないということが報告されているため (Gehrke, C. W., 1987),
過ギ酸酸化後に酸加水分解を行った.続いて,2種のアクリル酸付加アミノ酸が Lys-アクリル酸とCysSO2-アクリル酸であることを確定させるために,両標準品を化学合 成し,同定を行った.合成した標準品とミルクコーヒータンパク質加水分解物中の Lys-アクリル酸と CysSO2-アクリル酸の HRMS/MS スペクトルと保持時間が一致し たことから (図3-9),2種のアクリル酸付加アミノ酸はLys-アクリル酸とCysSO2-ア クリル酸であると結論づけた.タンパク質中のLysとCys側鎖はAAとの反応性が高 いことが報告されており (Bailey, E., 1986; Barber, D. S., 2004, Barber, D. S., 2007), 検出された Lys-アクリル酸と CysSO2-アクリル酸はミルクコーヒータンパク質中で
はLys-AA,Cys-AAとして存在していると考えられる.一方で,他のアミノ酸の側鎖
やN末端アミノ基との反応を示す物質は検出されなかった.この考察として,他のア ミノ酸側鎖は,AA に対する求核性が弱いこと,N 末端アミノ基は各タンパク質中に 1箇所しか存在しないため,該当するアミノ酸量が極微量であったことが検出されな
- 78 - かった理由として考えられた.
表3-8. 添加ミルクコーヒータンパク質中に存在しうるアクリル酸と13C3-アクリル
酸付加アミノ酸のプロトン付加イオンと脱離イオンの精密質量リスト
[M + H]+ (m/z) [M – H]– (m/z)
acrylic acid adduct
13C3-acrylic acid adduct
acrylic acid adduct
13C3-acrylic acid adduct
CysSO2 226.0380 229.0480 224.0234 227.0335
Lys 219.1339 222.1440 217.1194 220.1294
His 228.0979 231.1079 226.0833 229.0934
Asp+Asn 206.0659 209.0759 204.0513 207.0614
Thr 192.0866 195.0967 190.0721 193.0821
Ser 178.0710 181.0810 176.0564 179.0665
Glu+Gln 220.0815 223.0916 218.0670 221.0770
Pro 188.0917 191.1018 186.0772 189.0872
Gly 148.0604 151.0705 146.0459 149.0559
Ala 162.0761 165.0861 160.0615 163.0716
Val 190.1074 193.1174 188.0928 191.1029
Met 222.0794 225.0895 220.0649 223.0749
leu/Ile 204.1230 207.1331 202.1085 205.1185
Tyr 254.1023 257.1123 252.0877 255.0978
Phe 238.1074 241.1174 236.0928 239.1029
Arg 247.1400 250.1501 245.1255 248.1356
Trp 277.1183 280.1283 275.1037 278.1138
- 79 -
図 3-9. Lys-アクリル酸と CysSO2-アクリル酸のクロマトグラムおよび MS/MS スペ クトル
3.3.5. ミルクコーヒータンパク質中のLys-アクリル酸 (Lys-AA) とCysSO2-アク