第三章 コーヒー飲料中の AA 減少機構の解析
3.3. 結果と考察
3.3.2. ミルクコーヒー中の AA 付加体の探索
AA 無添加,AA 添加,および 13C3-AA 添加のミルクコーヒーサンプルを調製し,
37 °Cで4か月間保存し,経時的にAA含量を分析した (図3-6).AA添加サンプルで は,AA 無添加サンプルと同様の減少速度で AA含量が減少したため,これら 3 種の サンプルを用いてAA付加体を探索可能であると判断した.
AA無添加,AA添加,13C3-AA添加ミルクコーヒーサンプルは2種の異なるLCク ロマトグラフィー条件であるUHPLC/HRMS (method 2) とHILIC/HRMS (method 3) を用いて分析を行い,得られたデータをCD解析に供した.従来の探索法では,バッ クグラウンドの減算処理と各化合物のサンプル間の有意差から絞込みを行っていた ため,偽陽性として多くの化合物を検出する懸念があった.そのため,PPF解析を行
0 2 4 6 8 10 12
0 1 2 3 4
Storage time (months) 0
Conc.of AA (ng g-1) 0 8 12 10
6
2 4
1 2 3 4
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図 3-6. 37°Cで保存したAA添加ミルクコーヒーとAA無添加ミルクコーヒーの AA
濃度の経時変化
う こ と で よ り 精 度 の 高 い AA 付 加 体 の 探 索 を 行 っ た . 逆 相 カ ラ ム を 用 い た
UHPLC/HRMS分析条件 (method 2) ではプロトンアダクトイオン,プロトン脱離イ
オン,同位体イオンが共通の 3532 成分が検出され,その中から AA 添加と 13C3-AA 添加サンプル間の比較でピーク強度に4倍を超える違い (Log2 fold change > |2|) の みられた 177 成分が見つかった.しかしながら,177 成分の中で,3.2.10 で示した PPF 解析の3 つのクライテリア [1) 同位体元素との m/zの差とその標識数に依存し たm/zの差が3.0102 (Δm/z = 1.0034 × 3),2) 質量誤差が5 ppm,および3) 保持時 間の差が 0.1 分未満] を全て満たすAA 付加体候補化合物は検出できなかった (表 3-4).これは,生成した AA付加体が逆相カラムにおいて保持および分離が不十分であ ったため,イオン化阻害等によって検出限界以下であったと推察された.一方で,親 水性相互作用クロマトグラフィーに基づく HILIC/HRMS (method 3) 分析では 5735 成分の候補化合物が検出され,その中からAA添加と13C3-AA添加サンプル間の比較 で4倍を超える違い (Log2 fold change > |2|) のみられた198 成分が見つかった.さ らに,198 成分の中でPPF 解析の3つのクライテリアを全て満たす2 成分を検出し た.AA 付加体候補化合物と 13C3-AA 付加体候補化合物は同じ挙動を示すため,セッ
0 4 8 12 16 20
0 1 2 3 4
0 200 400 600 800 1000
0 1 2 3 4
Storage time (months) Storage time (months)
AA no added milk coffee (n= 3) AA added milk coffee (n = 3)
0 4 8 12 16 20
0 1 2 3 4
0 200 400 600 800 1000
Conc. of AA (ng g-1) Conc. of AA (ng g-1)
0 1 2 3 4
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トで解析を行うことで従来法に比べて大幅に偽陽性成分を低減し,5735 成分から 2 成分まで絞込むことができた.
AA 付加体候補化合物としてポジティブイオンモードにて検出された2 種のピーク は,m/z 167.0811 (推定組成式:C8H11N2O2) とm/z 151.0862 (推定組成式:C8H11N2O) の物質であった (表3-4,3-5).一方で,当該分析結果において,以前の研究で報告さ れたAAが付加した遊離アミノ酸は検出されなかった (Koutsidis, G., 2009; Narita, Y., 2014).続いて,検出した m/z 167.0811 (推定組成式:C8H11N2O2) とm/z 151.0862 (推定組成式:C8H11N2O) の両物質の構造を推定するために,これら 2 つのプリカー サイオンに対するプロダクトイオン (HRMS/MS) を取得するために,プロダクトイ オンスキャン分析を行った.その結果,m/z 167.0811 の物質からは m/z 72.0444 と m/z 96.0444のプロダクトイオンが検出され,m/z 151.0862の物質からはm/z 72.0444 とm/z 80.0495のプロダクトイオンが検出された (表3-5).m/z 72.0444 (C3H5NO + H+) はAAのプロトンアダクトイオンであるため,m/z 96.0444 (推定組成式:C5H5NO + H+) とm/z 80.0495 (推定組成式:C5H5N + H+) の物質が,AAに付加した物質由来 のマススペクトルであることが推定された.プロダクトイオンとして検出されたm/z 96.0444とm/z 80.0495と同じ精密質量を持つ候補化合物として,3HP (C5H5NO) と Py (C5H5N) が挙げられた.3HP と Py は,コーヒー中に香気成分として含まれてい ることからも (Moon, J.-K., 2009),今回検出した両物質は,3HP,PyとAAの付加体 である可能性が示唆された.そこで,今回検出した2種のAA付加体候補化合物の標
準品のHILIC/HRMS/MS分析を行い,保持時間およびMS/MSスペクトルの一致度を
基に化合物同定を行った.Py-AAについては既知化合物であり,市販試薬として入手 可能であったが,3HP-AAは新規の化合物であったため化学合成を行い標準品の調製 を行った.3HP-AAとPy-AAは,AAに対する3HPとPyのマイケル付加反応によっ て生成していると考えられるが,3HP では,ピリジン環上の N とヒドロキシ基がマ イケル反応のドナーとなりうる.3HP-AA合成品のNMR測定で得られたHMBCスペ
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クトルから,ピリジン環上のNとAAが結合していることを確認した (図3-2).さら
に,3HP-AA 合成品と Py-AA 標準品の保持時間と HRMS/MS スペクトルは,ミルク
コーヒーサンプル中の 3HP-AA と Py-AA の保持時間,HRMS/MS スペクトルと一致 した (図 3-7).3HP-AA と Py-AA は AA 無添加ミルクコーヒーからも検出されてお り,コーヒー豆に由来する 3HPとPyから生成したと考えられる.以上の結果から,
3HP-AAとPy-AAをAA付加体と同定した.コーヒー飲料から,これらの化合物を発
見したのは初めてであり,特に3HP-AAは新規の化合物であった.
表 3-4. AA お よ び 13C3-AA を 添 加 し て 4 週 間 保 存 し た ミ ル ク コ ー ヒ ー の
UHPLC/HRMSデータのCDとPPF解析で得られた化合物の数
Number of compounds (AA added vs 13C3-AA added)
Reversed phase conditions HILIC conditions
Peak picking 3532 5735
Log2 fold change > |2| 177 198
Paired-peaks filtering 0 2
Identified AA adducts 0 2
表3-5. PPF法で得られたAA付加体2種のHRMS/MSスペクトル解析結果
Measured
precursor ion Estimated formula Measured
product ionb Estimated formula
(m/z) (m/z)
1 151.0862
(154.0963)a C8H11N2O 72.0444 C3H6NO (AA)
80.0495 C5H6N
2 167.0811
(170.0911)a C8H11N2O2
72.0444 C3H6NO (AA)
96.0444 C5H6NO
aCompounds with an increased m/z of 3.0102 detected in 13C3-AA added milk coffee.
bProduct ion of AA adducts.
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図3-7. 3HP-AAとPy-AAのクロマトグラムおよびMS/MSスペクトル