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背 景
ステントレトリーバーによる血栓回収後のくも膜下 出血の発症率は 3.5–16.2%と報告されているが1),そ の後の出血増大や再出血に関する報告は乏しい.血栓 回収の適応となる急性期脳梗塞の多くは心原性脳塞栓 症であり2),脳梗塞再発予防のためには抗凝固療法が 必要となる3).多くの場合は血栓回収後急性期の出血 性合併症がないことが確認されれば抗凝固療法が開始 されるが,抗凝固療法開始のタイミングについては統 一された見解がなく,術者や施設の経験に依存してい るのが現状であると思われる.今回われわれはステン トレトリーバーによる血栓回収において,術直後に認 めた,くも膜下出血が亜急性期に増悪した症例を経験 した.早期の抗凝固療法開始についてより慎重である べきことを示唆する症例と思われ,ここに報告する. ¥症 例
80 歳男性.特記すべき既往歴無し.左半身不全麻 痺発症後 1 時間で来院.来院時血圧 164/89 mmHg, 脈拍 84 回 / 分,心電図では洞調律であり,採血では NT-pro BNP 300 pg/ml,D–ダイマー 1.2 μg/ml であっ た.意識清明,右共同偏視,徒手筋力テスト(MMT) 4/5 レベルの左半身不全麻痺あり,National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)4) は 10 点,MRI で は Diffusion Weighted Imaging(DWI)に て 明 ら か な 抑 制 像は指摘できず DWI Alberta Stroke Program Early CT Score(DWI-ASPECTS)5)は 11 点,MRA で は 右 中 大 要 旨 【目的】血栓回収術後のくも膜下出血が,術後 72 時間以降に増悪した症例は稀であり報告する. 【症例】80 歳男性.右中大脳動脈 M1 閉塞に対しステントレトリーバーによる血栓回収を行った. 術後右シルビウス裂に出血を認めたが拡大なく,術翌日からヘパリンを開始した.第 5 病日に突 然意識障害・左麻痺が出現し,撮影した頭部 CT にてくも膜下出血のびまん性増大を認めた.血管 撮影上明らかな出血源はなく,保存的治療にてリハビリ病院へ転院となった.【結論】出血の原因は 血栓回収時の小血管損傷の可能性があり,ヘパリン使用に伴い増悪したと考えられた.術後に血栓 回収に伴う出血がその後増悪する可能性につき,今後も症例を重ねて検討が必要と思われた.Keywords stent retriever, mechanical thrombectomy, hemorrhagic complication
中大脳動脈閉塞症に対する血栓回収術後の
くも膜下出血が亜急性期に増悪した1 例
酒井優1) 小泉聡1) 上田雅之2) 太田貴裕1) 1)東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科 2)東京都立多摩総合医療センター 神経・脳血管内科症例報告
連絡先:小泉聡 東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科(〒 183-8524 東京都府中市武蔵台 2-8-29) E-mail: [email protected] Tel: 042-323-5111 2017 年 11 月 9 日受付 2018 年 1 月 18 日採択 本論文は,クリエイティブコモンズ CC-BY-NC-ND(表示–営利利用不可–改変禁止)の条件下で利用できる. ©2018 日本脳神経血管内治療学会脳動脈 M1 部閉塞の所見であった(Fig. 1).Clinical-diffusion mismatch があると判断し,再開通治療を行っ た.
血管撮影室に移動し,発症から 163 分で局所麻酔 下に右総大腿動脈を穿刺した.並行して発症から 164
分 で Tissue Plasminogen Activator(tPA)を 経 静 脈 投 与 した.ヘパリン 2000 単位静脈内投与して Activated Clotting Time(ACT)277 秒 で あ る こ と を 確 認 し た. Cello 9 Fr 90 cm(Medtronic, Minneapolis, MN, USA)を 右頚部内頚動脈に留置,右内頚動脈造影では右中大脳
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Fig. 1
発症時 MRI.Diffusion Weighted Imaging(DWI)にて明らかな急性期虚血像は指摘できず DWI Alberta Stroke Program Early CT Score(DWI-ASPECTS)11 点であったが(A, B),MRA では右中大脳動脈 M1 部閉塞の所見 であった(C).
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Fig. 2 血栓回収療法.ガイディングカテーテルからの撮影で右中大脳動脈 M1 遠位部閉塞を確認した(A:正面 像,矢印:閉塞部位.D:側面像,矢印:閉塞部位.).Rebar 153 cm (Medtronic, Minneapolis, MN, USA), CHIKAI 0.014 200 cm(Asahi intecc Co., Ltd, Aichi, Japan)にて lesion cross し,Solitaire2 4×20 mm(Medtronic) を展開・回収したところ(B:正面像,矢印:Solitaire の遠位マーカー.E:側面像,矢印:Solitaire の遠位 マーカー.),1 pass で modified thrombolysis in cerebral infarction(mTICI)2b の再開通を得た(C:正面像,F: 側面像).動脈 M1 遠位部閉塞であった(Fig. 2A, 2D).Rebar 153 cm(Medtronic),CHIKAI 0.014 200 cm(Asahi Intecc Co., Ltd, Aichi, Japan)を用いて lesion cross し,Rebar を右 中大脳動脈 M2 部 superior trunk に誘導,Rebar から 造影して閉塞部の遠位であることを確認した.ワイヤ の先端は round curve 型に形成していたが,誘導時に subintimal space への迷入や穿通枝の穿孔を示唆するよ うな動きや抵抗はみられなかった.Solitaire2 4×20 mm (Medtronic)を右中大脳動脈 M2 部 superior trunk 近位 部から右中大脳動脈 M1 部遠位部にかけて展開(Fig. 2B, 2E),immediate flow restoration を得た.Cello のバ ルーンを拡張し Cello から用手吸引しながら Solitaire を 回 収 し た.Solitaire 回 収 時 は 特 に 抵 抗 は な か っ た.1 pass で modified thrombolysis in cerebral infarction
(mTICI)6)2b の再開通を得て手技終了した(Fig. 2C, 2F).撮影は右内頚動脈からのみであり撮影範囲で明 らかな動脈瘤など異常血管をみとめなかった.発症か ら再開通までは 184 分,穿刺から再開通までは 21 分 であった.再開通を得た後に撮影した CT like image にて右シルビウス裂と右基底核に高吸収域あり,出血 の可能性を考慮して tPA は開始 45 分で終了した(Fig. 3).手技終了時の ACT は 189 秒であった.術後 CT では右シルビウス裂と右基底核の高吸収域は縮小傾向 であった. 術翌日の NIHSS は 1 点であった.術翌日の MRI で は DWI にて右内包後脚に淡い抑制像をみとめ,MRA では右中大脳動脈は再開通しており,CT では右シ ルビウス裂の高吸収域の増加がないことを確認した (Fig. 4).来院時 NT-pro BNP が軽度上昇していたこと から心原性塞栓を疑い tPA 開始から 24 時間以降にヘ パリン 10,000 単位 / 日投与開始した.活性化部分ト ロンボプラスチン時間(aPTT)は来院時 26.9 秒,第 2 病日 28.3 秒,第 3 病日 42.7 秒であった.術後の血圧 は収縮期 120 mmHg 以下にコントロールされていた. 第 5 病日,突然 Japan Coma Scale II-10 の意識障害・ MMT 4/5 の左半身不全麻痺・構音障害・左半側空間 無視を呈し NIHSS 8 点となったため,頭部 CT を撮影 したところびまん性のくも膜下出血および右シルビウ ス裂内血腫を認めた(Fig. 5A–C).この際の収縮期血 圧は 130 mmHg 程度,aPTT は 30.4 秒であり,他の血 液検査上特記すべき異常所見を認めなかった.ヘパリ ン持続投与していたためプロタミン 30 mg 投与,収縮 期血圧を 120 mmHg 以下に降圧した.引き続いて右中 大脳動脈の解離や動脈瘤などを疑い,緊急で脳血管撮 影を行った.右中大脳動脈 M1 遠位部はやや口径不整 を認めたが明らかな出血源は指摘できなかった(Fig. 5D, 5E).動脈解離の可能性を考慮して第 6 病日にも 再度脳血管撮影を行なったが,明らかな異常所見を認 めず,右中大脳動脈 M1 遠位部の口径不整な領域はス テントレトリーバーによる機械的刺激や,くも膜下出 血に起因する脳血管攣縮の可能性を考えた7).第 8 病 日 CTA で右中大脳動脈 M1 遠位部の口径不整な領域 は改善しており,この考察を支持していると考えた (Fig. 5F). 保存的治療を行い血腫は徐々に消退,リハビリテー ションにより左片麻痺は 4 週間程度の経過でほとん ど改善した.第 10 病日に心房細動が出現したため心 原性脳塞栓症と診断した.第 34 病日にアピキサバン
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Fig. 3 術後 CT like image.右シルビウス裂と右基底核に高吸収域あり(A, B).5 mg/ 日を開始し,第 43 病日リハビリテーション病 院へ転院となった.左半身の軽度の耐久性低下が残存 しており,退院時 modified Rankin Scale(mRS)は 1 で あった.第 61 病日に自宅退院となり,発症 3 カ月後 の mRS は 1,以降外来での経過観察を継続中である. ¥
考 察
血栓回収に続発するくも膜下出血の原因としては, ステントレトリーバーを回収する際に中大脳動脈から 内頚動脈が直線化することで,くも膜下腔の細径の血 管が引き延ばされ血管撮影には反映されない程度の微 小な損傷をきたすことが推測されている8,9).過去の 報告においてもくも膜下出血の多くは血栓回収した側 のシルビウス裂に見られること8),中大脳動脈 M1 部 の閉塞で有意にくも膜下出血の合併が多いこと10)が報 告されており,本症例も当初の出血についてはこれら と一致していた.過去の報告とわれわれの経験から総 合すると,M1–M2 移行部については,血管の屈曲が 強い部位に細径の穿通枝が多いことから,解剖学的に も牽引による穿通枝の損傷が起こりやすい部位である と考えられ,ステントレトリーバーを用いた血栓回収 の際には特に注意を要すると思われる. 近年血栓吸引カテーテルを用いた A Direct Aspiration First Pass Technique(ADAPT)11)の有用性が報告され, ステントレトリーバーと同様の再開通率であるこ と12),血栓回収後のくも膜下出血の発症率が少ないこ とが報告されている9).ADAPT による血栓回収後の くも膜下出血が少ない理由としては,ステントレト リーバーよりも動脈壁に与えるストレスが少ないこと が考えられる13).またステントレトリーバーを閉塞部 手前まで誘導した中間カテーテル内に回収し,その後 中間カテーテルを引き戻すことで出血性合併症を少な Fig. 4 血栓回収翌日の画像.頭部 CT にて出血の拡大を認めなかった(A, B). DWI では右内包後脚に高信号域を認め(C),MRA では右中大脳動脈は再 開通していた(D).B
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くできるという報告がある14).その理由としてはステ ントレトリーバー回収時の血管偏位を最小限として周 囲小血管の損傷を防ぐこと,またステントレトリー バーが血管壁を損傷する距離がより短いことなどが 考えられる.くも膜下出血の予防という観点からは ADAPT テクニックの使用や吸引カテーテルの併用に ついても検討する必要があったと考えられる. 血栓回収術に伴う出血のその後の増大については発 症から 48–72 時間後の CT において,術直後に比し増 大していたものはなかったとする報告が見られた15). 一方で本症例に見られたように術後 72 時間以降に出 血が増大したと思われる報告は,渉猟し得た限りでは 認められなかった.その原因を推察することは困難だ が,血栓回収術後 8 時間で認めた再出血に対して直逹 手術を行い,血管損傷部に一致した仮性動脈瘤を確認 した報告がある16).本症例では微小動脈瘤や仮性動脈 瘤の他動脈解離の可能性も考え再出血時に緊急で血管 撮影を繰り返し行なったが血管撮影上は異常所見が見 られなかった.しかし広範な出血をきたした後の所見 であり,血栓回収時の小さな血管損傷に起因した動脈 瘤や動脈解離があっても,血管攣縮や頭蓋内圧上昇の 影響で血管撮影上確認できなかった可能性は否定でき ない17).第 5 病日の血管撮影で血管攣縮を示唆する狭 窄があったこと,並びに再出血時にシルビウス裂内血 腫をともなっていたことはこの推察を支持すると思わ れる. 機械的血栓回収後の患者の脳梗塞の急性期再発リ スクについてはまだ報告が乏しいが18),血栓回収を 行った患者の 2%がもう一度血栓回収を要したという 報告19)も見られる.心房細動患者におけるワーファリ Fig. 5 第 5 病日の再出血.頭部 CT にてびまん性のくも膜下出血および右シルビウス裂内血腫を認め(A, B:軸 状断,C:冠状断),原因検索のため血管造影を行った.右中大脳動脈 M1 遠位部に口径不整な領域を認め (E:白矢印),翌日再度脳血管撮影をおこなったが明らかな変化を認めなかった.(D:右内頚動脈撮影正 面像,E:右内頚動脈撮影 3D 回転撮影).第 8 病日頭部 CTA にて右中大脳動脈 M1 遠位部に口径不整な領 域は改善していた(F:矢頭,CTA Volume Rendering 画像).
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ンの一時中断に関しては,中断期間が 5 日間以内なら 血栓塞栓症のリスクは 0.4%と低かったと報告されて おり,抗凝固療法を行わない期間はなるべく短くする のが望ましい20).しかし本症例が示唆するように発症 後 72 時間以降も血栓回収に伴う出血が増大するリス クがあるとすれば,抗凝固療法の開始・再開はそれ以 降に遅らせる方が安全と考えられる.従来急性期脳梗 塞の内科的治療および血栓回収療法においては発症 後 24 時間前後での出血性合併症に注目してその安全 性を評価した報告が多く21,22),それ以降の出血の重要 性についてはまだ十分に検討がなされていないのが現 状である.本症例では幸い患者の最終的な転機には大 きな影響を及ぼさなかったものの,血栓回収術後の出 血性合併症の評価法および適切な抗凝固療法再開時期 については今後も症例を重ねての検討が必要と思われ た.
結 語
血栓回収後にくも膜下出血を認めた症例では,亜急 性期に出血の増悪をきたす可能性がある.抗凝固治療 開始の際には十分な注意が必要であり,今後は血管閉 塞部位や使用デバイスにも注目して症例毎の出血増悪 リスクを評価していくことが重要と思われた.利益相反の開示
筆頭著者および共著者全員が利益相反はない. References1) Nikoubashman O, Reich A, Pjontek R, et al: Postinterventional subarachnoid haemorrhage after endovascular stroke treatment with stent retrievers. Neuroradiology 2014; 56: 1087–1096. 2) Ahn SH, Hong R, Choo IS, et al: Histologic features of acute
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Repeated Subarachnoid Hemorrhage after Mechanical
Thrombectomy for Middle Cerebral Artery Occlusion: A Case Report
Yu SAKAI1) Satoshi KOIZUMI1) Masayuki UEDA2) Takahiro OTA1)1)Neurosurgery, Tokyo Metropolitan Tama Medical Center, Fuchu, Tokyo, Japan
2) Department of Neurology and Stroke Medicine, Tokyo Metropolitan Tama Medical Center, Tokyo, Japan
Objective: We report a rare case of subarachnoid hemorrhage after mechanical thrombectomy that worsened after a period of 72 h after the maneuver.
Case Presentation: An 80-year-old male had mechanical thrombectomy for right middle cerebral artery M1 occlusion. After maneuver, hemorrhage in the right Sylvian fissure was observed, but there was no expansion in the next day, so we started to use heparin. On the 5th day of hospitalization, he exhibited sudden disturbance of consciousness and left hemiparalysis, and head CT scan showed diffuse subarachnoid hemorrhage. Angiography did not show any obvious cause of hemorrhage. He was treated with conservative therapy and was transferred to a rehabilitation hospital.
Conclusion: The cause of hemorrhage was probably the rupture of a small blood vessel, and the hemorrhage was thought to have worsened with the use of heparin. It is necessary to discuss in the future about the possibility of hemorrhage that worsens after mechanical thrombectomy.