東医大誌 74(3): 247-255, 2016
総 説
軟部腫瘍の診断
Diagnosis of soft tissue tumors
西 田 淳
Jun NISHIDA
東京医科大学整形外科学分野
Department of Orthopedic Surgery, Tokyo Medical University
は じ め に 軟部腫瘍は線維性結合組織(皮下・筋間)、線維 組織(腱・靭帯)、筋組織、血管およびリンパ管組織、 滑膜組織などの中胚葉由来の組織と外胚葉由来の末 梢神経組織が発生母地となり、全身のあらゆる部位 に発生する疾患である。軟部腫瘍には多彩な疾患が 存在し、各々の疾患により治療方針が異なる。正確 に診断を確定した後、組織型によっては術前化学療 法あるいは放射線療法を加えながら、十分な外科的 切除を行うことが診療の基本である。 診断をすすめるためには各疾患の臨床的特徴、す なわち好発年齢、好発部位、症状、画像所見等の知 識が必須である。本稿では軟部腫瘍の分類、臨床像、 診断確定のプロセスに加えて、種々の軟部腫瘍登録 の際必要となる病期分類、組織学的悪性度分類も併 せて記載する。 I. 分類と疫学 1) WHO 分類 軟部腫瘍は WHO 分類に従って診断される。2013 年 WHO 分類が改訂され、113 種類の組織型の軟部 腫瘍がそれぞれの分化に基づいて、脂肪性腫瘍、線 維芽細胞性/筋線維芽細胞性腫瘍、いわゆる線維組 織球性腫瘍、平滑筋腫瘍、血管周皮(血管周囲)性 腫瘍、骨格筋腫瘍、血管性腫瘍、軟骨・骨性腫瘍、 胃腸管間質腫瘍、末梢神経性腫瘍、分化系統不明の 腫瘍、未分化/分類不能の腫瘍の 12 腫瘍群に分類 されている1)が、診断にあたっては若干の注意を要 する。この改訂版では 2002 年の WHO 分類で「い わゆる線維性組織球性腫瘍」の「悪性」は除外され、 この「悪性」に含まれて 3 種の亜型に分類されてい た悪性線維性組織球腫2-4) が、2013 年版からは新た に 作 ら れ た 上 記 最 後 の undifferentiated/unclassified sarcoma (undifferentiated soft tissue sarcoma ; USTS) という範疇に含まれることになり5)、大きな変更が
あった。また「良性」も giant cell tumor of tendon sheath と diffuse-type giant cell tumor の二つに分類さ
れていたものが tenosynovial giant cell tumor とひと くくりにされ、その中の localized type、diffuse type、 malignant に分けられた1)。「良性」の中に malignant
tenosynovial giant cell tumor が含まれており、今回の 改定には混乱も見受けられる。次々と見出される分 子遺伝学的知見をもとに、これらの問題解決も含め て、軟部腫瘍の分類は今後さらに検証、再編されて いくと推測される。 2) 好発年齢 代表的な良性軟部腫瘍の好発年齢は、脂肪腫が 40∼60 代、結節性筋膜炎が 10∼40 代、弾性線維腫 が 60∼70 代、血管腫が 40 歳以下、腱鞘巨細胞腫が 平成 27 年 10 月 23 日受付、平成 28 年 3 月 15 日受理
キーワード : 軟部腫瘍(soft tissue tumor)、画像所見(imaging findings)、生検(biopsy)
20∼50 代、神経鞘腫 が 40∼60 代、グロムス腫瘍が 20∼30 代などである。これに対し代表的な悪性軟 部腫瘍の好発年齢は、脂肪肉腫が 30∼60 代、未分 化/分類不能肉腫が 40∼70 代、横紋筋肉腫が 15 歳 以下、平滑筋肉腫が50∼70代、神経肉腫が20∼40代、 滑膜肉腫が 15 歳∼30 代、類上皮肉腫が 10∼30 代、 胞巣状軟部肉腫が 15 歳∼30 代などである。 3) 好発部位 代表的な良性軟部腫瘍の好発部位は、脂肪腫が頚 部∼上背部、肩、腹、臀部∼大腿、結節性筋膜炎が 上肢、頭頸部、体幹、下肢、弾性線維腫が肩甲骨部、 血管腫が下肢、頭頸部(タイプにより異なる)、腱 鞘巨細胞腫(限局型)が指、手関節、足・足関節、 腱鞘巨細胞腫(瀰漫型)が膝関節、股関節、神経鞘 腫が頭頸部、四肢屈側、後腹膜腔、グロムス腫瘍が 爪下部、手掌などである。 代表的な悪性軟部腫瘍の好発部位は頻度順に脂肪 肉腫が大腿深部、後腹膜腔、横紋筋肉腫が頭頚部、 泌尿生殖器、四肢、平滑筋肉腫が後腹膜腔、下肢、 神経肉腫が坐骨神経、腕神経叢、腰神経叢、滑膜肉 腫が大腿・膝、足、下腿、前腕、類上皮肉腫が手・指、 前腕・手関節、膝・下腿、胞巣状軟部肉腫が臀部・ 大腿部、下腿、胸壁、淡明細胞肉腫が足、膝、踵、 未分化/分類不能肉腫が大腿深部、体幹などである。 4) 組織学的悪性度
フ ラ ン ス の FNCLCC (Fédération Nationale des Centres de Lutte Contre le Cancer) grading system が用 いられる6)。これは組織型、核分裂の数、壊死を点 数化して組織学的悪性度を評価する方法である(表 1)。組織型は Score 1 : 成人間葉系組織に類似し、 良性腫瘍との鑑別が難しい肉腫(高分化型脂肪肉腫 など)、Score 2 : 明瞭に分化した組織型を呈する肉 腫(粘液型脂肪肉腫、粘液線維肉腫など)、Score 3 : 胎児型および未分化肉腫、滑膜肉腫とされている。 核分裂の数は Score 1 : 0-9 mitoses/10HPF(10 強拡 大 視 野 あ た り )、Score 2 : 10-19 mitoses/10HPF、 Score 3 : > 19 mitoses/10HPF とされている。腫瘍壊 死 像 で は Score 0 : 壊 死 な し、Score 1 : 腫 瘍 壊 死 50% 未満、Score 2 : 腫瘍壊死 50% 以上とされてい る。上記 3 種類の評価項目のスコアを加点し total score 2, 3 を Grade 1、total score 4, 5 を Grade 2、total score 6, 7, 8 を Grade 3 としている。
5) 病期分類
American Joint Committee on Cancer system (AJCC system : 表 2)、Union for International Cancer Control system (UICC system : 表 3)、Muscle Skeletal Tumor Society の Surgical staging system (表 4)の 3 種類の 分類法が頻用されている7-9)
。AJCC system の病期分 類では腫瘍の大きさが 5 cm 以下を T1、5 cm より 大きいものを T2、浅在性を a、深在性を b と区分 している。原則として病期は組織学的悪性度により 分類され、Grade 1 が Stage I、Grade 2 が Stage II、 Grade 3 が Stage III に相当するが、例外的に悪性度 が Grade 3 であっても大きさが 5 cm 以下なら Stage IIA に分類される。尚、大きさが 5 cm 以下か 5 cm 超かで A と B に区分される。転移に関してはリン 表 1 FNCLCC (Fédération Nationale des Centres de Lutte Contre le Cancer) grading system
病理学的パラメーター 定義 組織型 Score 1 : 成人間葉系組織に類似し、良性腫瘍との鑑別が難しい肉 腫(高分化型脂肪肉腫等) Score 2 : 明瞭に分化した組織型を呈する肉腫(粘液型脂肪肉腫、 粘液線維肉腫等) Score 3 : 胎児型および未分化肉腫、滑膜肉腫 核分裂像の数 (強拡大 10 視野 : 10HPF) Score 1 : 0-9 mitoses /10HPF Score 2 : 10-19 mitoses/10HPF Score 3 : > 19 mitoses/10HPF 腫瘍壊死像 Score 0 : 壊死なし Score 1 : 腫瘍壊死 50% 未満 Score 2 : 腫瘍壊死 50% 以上 組織学的悪性度 Grade 1 : total score 2, 3
Grade 2 : total score 4, 5 Grade 3 : total score 6, 7, 8
パ節転移のみは Stage III、遠隔転移があれば Stage IV に分類される。UICC system は組織学的悪性度を 低悪性度と高悪性度のみに分類し、深度で Stage II B と Stage III が異なっている。Surgical staging sys-tem では組織学的悪性度は転移が無ければ低悪性度 病変を Stage I、高悪性度病変は Stage II とし、区画 の概念を導入して、区画内病変を A、区画外病変を B とし、転移があればリンパ節転移、肺転移等にか かわらず Stage III としている。 6) 生存率 主な疾患の 5 年生存率は、脂肪肉腫 30-90%(組 織型により異なる)、平滑筋肉腫 60-65% (後腹膜腔 病変を除く)、悪性末梢神経鞘腫 50%、滑膜肉腫 35-50%、淡明細胞肉腫 50-60%、未分化/分類不能 肉腫 50-70% などと報告されている10)。ただし、軟 部肉腫の予後は発生部位、サイズ、切除縁等により 異なるため、これらの組織型別予後を個々の患者に 当てはめて、予後を推測することは必ずしも適切と は言えない。 II. 軟部腫瘍の診断・治療のプロセス 軟部腫瘍の診療は 1. 病歴聴取、診察所見の評価、2. 画像所見の評価、3. 生検(針、切開)、(4. 術前補助 化学療法/放射線療法)、5. 手術、(6. 術後補助化学 療法/放射線療法)、7. リハビリテーションの順番 で進む。診断は生検で確定され、以後の化学療法/ 放射線療法の必要性、手術術式が、患者の背景、画 像所見等と併せて決定される。このため生検を行わ ずに手術を実施するということはなく、基本的に全 例で術前組織診断が確定される。しかし生検の正診 率は 100% ではなく、また病理診断に難渋する例も あり、良性腫瘍の術前診断であった例が、摘出後悪 性腫瘍と診断変更されたり、低悪性度疾患と診断さ れていた例が術後高悪性度疾患と診断変更されるこ とがあり、追加の治療が必要となり問題を生じるこ とがある。 III. 軟部腫瘍の臨床症状 診察に当たっては既往歴 (稀であるが転移性腫瘍 がみられることがある。放射線照射後肉腫、リンパ 浮腫に続発する血管肉腫が存在する)、家族歴(神 経線維腫症、遺伝性網膜芽細胞腫、Li-Fraumeni 症 候群に併発する軟部肉腫が存在する)、外傷歴(骨 化性筋炎では重要である)を丁寧に聴取する必要が ある。 発症の仕方、痛みの有無、腫瘍の増大速度を丁寧 に聞くことも重要である。結節性筋膜炎等を除くと 良性腫瘍の増大速度は比較的ゆっくりしているもの が多いが、悪性腫瘍は月単位で大きくなるのが通常 である。しかし、滑膜肉腫、類上皮肉腫などでは年 単位で大きくなることがあるので注意を要する。圧 痛は良性病変では血管腫、グロムス腫瘍、血管平滑 筋腫、神経鞘腫、結節性筋膜炎でよくみられ、悪性 腫瘍では滑膜肉腫、悪性末梢神経鞘腫でみられるこ 表 2 AJCC system (7th ed.)
病期 サイズ リンパ節転移 遠隔転移 組織学的悪性度
IA T1a, T1b N0 M0 Grade 1
IB T2a, T2b N0 M0 Grade 1
IIA T1a, T1b N0 M0 Grade 2, 3
IIB T2a, T2b N0 M0 Grade2
III T2a, T2b N0 M0 Grade 3
Any T N1 M0 Any Grade
IV Any T Any N M1 Any Grade
※ T1、5 cm 以下 ; T2、5 cm より大きい ; a、浅在性 ; b、 深在性
表 3 UICC system (6th ed.)
病期 サイズ リンパ節転移 遠隔転移 組織学的悪性度 IA T1a, T1b N0 M0 低 IB T2a, T2b N0 M0 低 IIA T1a, T1b N0 M0 高 IIB T2a N0 M0 高 III T2b N0 M0 高
Any T N1 M0 Any Grade
IV Any T Any N M1 Any Grade
※ T1、5 cm 以下 ; T2、5 cm より大きい ; a、浅在性 ; b、 深在性
表 4 Surgical staging system
病期 組織学的悪性度 腫瘍の局在 転移 IA 低 区画内 M0 IB 低 区画外 M0 IIA 高 区画内 M0 IIB 高 区画外 M0 III 無関係 M1
とが多い。 一般に良性腫瘍は長径が 5 cm 以下のものが多く、 脂肪腫、血管腫を除くと大きさが 5 cm を超える腫 瘍は悪性である可能性が高い。良・悪性の中間型に 含まれるデスモイド型線維腫症では 5 cm を超える ものも多い。末梢神経腫瘍は、例えば神経鞘腫は縦 隔や後腹膜に発生した場合しばしば大きな病変とな るが、それ以外の部位では他の病変と同様、5 cm 以下では良性のことが多く11)、5 cm 以上では悪性 のことが多い12)。なお組織型にかかわらず、悪性腫 瘍では大きな病変ほど小さい病変に比べ、予後は統 計学的に有意に不良である。 皮下で表在筋膜より浅い所に発生したものが表在 性、表在筋膜より深い所、筋肉内や筋間などに局在 するものが深在性である。皮下の軟らかい腫瘤は、 脂肪腫、血管腫、リンパ管腫など良性であることが 多い。このように表在性の病変は良性が多く、深在 性の病変は悪性の頻度が高いとされるが、例外も多 く注意を要する。悪性腫瘍は、表面平滑若しくは結 節状で、触れると硬いことが多い。境界も比較的明 瞭で、骨との癒着が無ければ可動性も比較的良好で ある。このため深部の腫瘍にて、触診上可動性が良 好で、画像上も境界明瞭であると良性病変を考えた くなるが、悪性病変の多くが上記のような性状を呈 することを常に念頭に置いて診察を進めるべきであ る。 多発する腫瘤は神経線維腫症 1 型(von Reckling-hausen 病)、多発性神経鞘腫、多発性脂肪腫(脂肪 腫症)、多発性血管腫などがある。両側性に発生す るものとして、肩甲部の弾性線維腫や手掌・足底の 線維腫症などがある。類上皮肉腫は多発する結節性 の腫瘤として発症することがある。また筋肉内に多 発する腫瘤としてサルコイドーシスがある。 リンパ節転移をきたしやすい疾患に、横紋筋肉腫、 淡明細胞肉腫、類上皮肉腫がある。 IV. 画 像 所 見 1) 単純 X 線写真 脂肪腫では脂肪と一致した透過性の亢進がみられ る。骨化性筋炎では腫瘤の辺縁の強い骨化像が特徴 的である。骨外性骨肉腫では中心部に不規則な骨形 成がみられる。血管腫では大小の明瞭な丸い石灰化 像(静脈石)が特徴的である。
Diffuse type tenosynovial giant cell tumor で は 関 節 周囲で骨皮質のびらん・嚢腫形成がみられることが ある。滑膜性骨軟骨腫症でも同様に骨糜爛がみられ ることがある。滑膜肉腫の約 30% では石灰化がみ られる。 2) 超音波検査(エコー) 神経発生腫瘍で、罹患神経の走行を特定するのに 有用である。神経鞘腫では target sign がみられるこ とが多い。血流の豊富な低エコー像のグロムス腫瘍、 足底腱膜に接して細長い形状の低エコー像の足底線 維腫症、手指の辺縁明瞭な低エコー像のガングリオ 図 1 A : 筋内脂肪腫の CT 像では病変が増大する際に腫瘍組織内に取り込まれた筋線維が線状、あるいは棒状の微細内 部構造として描出される。内部構造では途切れ像が特徴的である。 B : 筋内脂肪腫の T2 強調 MRI 像では、脂肪成分による高進号により CT 像でみられる微細内部構造の描出が若干 不明瞭であることが多い。
ンなどが診断に有用である。 3) CT MRI の方が病変の範囲を描出するのに有用であ る。脂肪性腫瘍では筋肉内脂肪腫(図 1)、筋間脂 肪腫(図 2)、高分化型脂肪腫の一つである脂肪腫 様脂肪肉腫(図 3)などの相互の鑑別が組織学的に も問題となることがしばしばあるが、その際、病変 内の微細構造が MRI に比し描出されやすいことが 多く、CT 所見は診断確定の参考になる13)。また肺 転移の検出には極めて有用である。 4) MRI 術前プランニング、特に病変と神経血管との関係 の評価には必須の検査である。化学療法、放射線療 法の評価では病変のサイズの変化のみならず、内部 信号の変化で効果が推測される。 T1 強調像で高輝度を呈するものに脂肪、出血(メ トヘモグロビン)、メラニンなどがある。T2 強調像 で高輝度を呈するものには水分、脂肪、蛋白濃度の 高い粘液などがある。T1 強調像、T2 強調像とも低 輝度を呈するものには腱、筋膜、骨皮質、早い血流 (flow void)などがある。 T1 強調像、T2 強調像ともに高信号のパターンを 呈する病変として、脂肪腫、高分化型脂肪肉腫、粘 液基質に富む肉腫などがあり、T1 強調像、T2 強調 像ともに低∼等信号を呈する病変として、腹腔外デ スモイド型線維腫症、tenosynovial giant cell tumor な
図 2 A : 筋間脂肪腫の CT 像では病変内に取り込まれた組織間線維が線状の微細内部構造として描出される。内部構造 の連続性は保たれていることが多い。
B : 筋間脂肪腫の T2 強調 MRI 像では、脂肪成分による高進号により CT 像でみられる微細内部構造が不明瞭に描 出されることが多い。
(Journal of Orthopedic Science より許可を得て転載)
図 3 A : 高分化型脂肪肉腫の脂肪腫様脂肪肉腫では、CT で病変内に散在する紡錘形細胞と膠原線維が雲霞状の微細内部 構造として描出される。
B : T1 強調 MRI 像では、脂肪成分による高進号により CT 像でみられる微細内部構造が不明瞭となることが多い。 C : T2 強調 MRI 像でも脂肪成分による高進号により CT 像でみられる微細内部構造が不明瞭となることが多い。 (Journal of Orthopedic Science より許可を得て転載)
どがある。また神経鞘腫では target sign の他に、 split fat sign が特徴的である。
5) シンチグラフィー 骨シンチグラフィーは骨転移の検索に有用であ る。タリウムシンチグラフィーは良・悪性診断、病 期診断、化学療法や放射線療法の効果判定における 有用性が報告されているが、感度、特異度、精度の 問題も指摘されている14)。 6) PET 検査 腫瘍細胞の活動性を反映し、転移病変や病変の拡 大の描出に優れているとされている15)。 V. 生検、病理組織学的診断 1) 組織診断 軟部腫瘍の確定診断は組織診断による。非常に多 くの疾患が存在し、いずれも頻度の低い疾患である ため、診断が困難なことがある。熟練した病理医と の連携が重要である。 2) 免疫組織学的診断 由来する細胞を推測(診断)するため、非上皮性 腫 瘍 マ ー カ ー(vimentin)、 上 皮 性 腫 瘍 マ ー カ ー (cytokeratin, EMA)、筋原性マーカー(desmin ; 横 紋筋、平滑筋、myoglobin ; 横紋筋、myogenin ; 横 紋 筋、MyoD1 ; 横 紋 筋、α-smooth muscle actin ; 平
滑筋、HHF-35 ; 横紋筋、平滑筋)、血管内皮系マー
カー(Factor VIII, CD31, CD34)、神経系マーカー (S-100 protein, synaptophysin, NSE)、メラニンのマー
カー(HMB-45)、Ewing 肉腫のマーカー(MIC2 :
CD99)などが用いられる。また予後予測のため、 生物学的悪性度を MIB-1 index (Ki-67 scoring)によ
り評価する。 3) 染色体・遺伝子検索 滑膜肉腫、骨外性 Ewing 肉腫、胞巣型横紋筋肉 腫などでは腫瘍特異的な染色体転座とそれに伴う融 合遺伝子が存在し、鑑別診断に有用である。代表的 な も の と し て 滑 膜 肉 腫 の t (X : 18) (p11 : q11)、 SS18 & SSX genes があり、診断的価値があるとされ ている16)。 4) 生検 生検法は針生検、切開生検、切除生検に分類され る。いずれかの方法で組織を採取する必要があるが、 骨軟部病変における生検の正診率は針生検で 90% 以上と報告されている17)18)。正診を得るため、画像 所見を基に壊死組織や血腫が予想される部位を避け て組織を採取する。 いずれの生検法でも悪性疾患であれば、生検経路 は汚染創として手術時に病変とともに合併切除する 必要がある。このため針生検であっても刺入部は最 終的な手術の進入路を考慮して決定する必要があ る。針生検では生検針で腫瘍を貫いてしまわないよ うに注意する。局所麻酔の際も針が腫瘍に入らない よう心がける。 切開生検では皮切の長さは可能な限り短く、どの ような切除術が行われるかを考えながら長軸(神経 血管束)に平行に縦皮切を加える。侵入経路は汚染 範囲が拡大しないよう筋間ではなく筋内に設定す る。侵入経路の皮下組織や筋の剥離は最小限にとど める。生検後に血腫が生じないよう確実な止血が必 要である。ドレーンは皮切内、皮切の端あるいはそ の延長上のすぐ近傍に留置する。皮切から離すと汚 染範囲拡大の原因となる。縫合針はなるべく幅を狭 く掛ける。切除術の前に生検によって、神経血管束 を汚染してしまって患肢温存不能とならないように 経路を考慮することが肝要である。 切除生検は、大きさが針生検、切開生検には小さ すぎる場合(2∼3 cm より小さい)、皮下にあること、 重要な血管神経束などと離れていて切除する際に剥 離する必要がないこと、MRI などの術前評価がしっ かりと行われていることなどを満たしていれば、経 験十分な腫瘍外科医が行う場合には許容されると考 えられている19)。これは追加広範切除術後の再発率、 予後が通常の広範囲切除術と変わらなかったとの報 図 4 生検前の腫瘍と周囲組織との関係。病変と神経血管束 との関係に注意を要する。
告が背景となっているためであるが20)、軟部肉腫の 切除生検後に実施された追加広範切除術後の標本で 24∼60% に残存腫瘍が認められたとされており19)、 実際に適応となる症例は極めて少ない(図 3、図 4、 図 5)。 いずれにしろ生検は腫瘍の手術に精通している医 師が実施することが望ましいとされている21)。安易 な生検により不幸な結果を招かぬよう注意が必要で ある。 VI. 軟部腫瘍の治療 以上のプロセスにより診断が進められた後には、 考え得る最適な治療を実施する。軟部腫瘍の一般的 な治療法について概略を記載する。 1) 化学療法 横紋筋肉腫や Ewing 肉腫/末梢性原始神経外胚 葉性腫瘍では化学療法が有効とされているが、他の 悪性軟部腫瘍では決定的な化学療法は存在しない。 保険適応とされている薬剤が少ないこともあり、適 応外の薬剤も投与されている。使用される代表的な 薬 剤 に ifosphamide、adriamycin、cyclophosphamide、 vincristine、dacarbazine、actinomycin-D などがあり、 最近では docetaxel、gemcitabine や22)、分子標的薬 である pazopanib も23)、主にセカンドライン、サー ドラインの薬剤として使われている。Docetaxel、 gemcitabine、pazopanib 以外は術前投与を行い、有 効性を評価して術後投与を検討することが一般的で ある。 2) 放射線療法 放射線療法が有効な疾患として Ewing 肉腫/末 梢性原始神経外胚葉性腫瘍、横紋筋肉腫が知られて いる。他の疾患でも有効な例を日常診療で経験する ことがあるが、症例によって効果が異なることが多 い。また切除縁が不十分と評価された結果、術後 40∼50 Gy 前後の照射が行われることがある。この ような例が存在するので綿密な切除縁評価が必要で ある。 3) 外科的療法 局所再発を防ぐため、高悪性度病変の広範切除術 は、補助療法(化学療法、放射線療法)が有効であ れば 2 cm 以上の切除縁、補助療法無効例では 3 cm 以上の切除縁、低悪性度病変の広範切除術では 1 cm 以上の切除縁が適切とされている。腫瘍細胞が 浸潤しにくいとされる筋膜などのバリアーの存在も 考慮しながら再発率の低い手術を実施する。局所再 発は生命予後に悪影響を与える因子である。 ま と め 軟部腫瘍の診断では好発部位、好発年齢等を念頭 において診察をすすめる。 結節性筋膜炎を除くと良性腫瘍の増大速度は比較 的遅いことが多いが、悪性腫瘍は通常月単位で大き くなる。しかし滑膜肉腫、類上皮肉腫などは年単位 で大きくなることがあるので注意を要する。 圧痛がみられる疾患は良性病変では血管腫、グロ ムス腫瘍、血管平滑筋腫、神経鞘腫、結節性筋膜炎 図 5 切除生検後の汚染創の範囲。 : 汚染創。 : 生検創。汚染創は広範囲に及ぶ。 図 6 針生検後および切開生検後の汚染創の範囲。創。 : 生検創。汚染創の範囲は限局的である。: 汚染
皮 下 組 織
が代表的で、悪性腫瘍では滑膜肉腫、悪性末梢神経 鞘腫が代表的である。 脂肪腫、血管腫を除くと大きさが 5 cm を超える 腫瘍は悪性腫瘍である可能性が高い。良・悪性の中 間型に含まれるデスモイド型線維腫症では 5 cm を 超えるものも多い。 画像所見は非特異的な疾患が多いが、鑑別が組織 学的にも問題となることが多い脂肪性腫瘍では鑑別 に有用である。筋肉内脂肪腫、筋間脂肪腫、高分化 型脂肪肉腫の一つである脂肪腫様脂肪肉腫などの CT 所見では、病変内の微細構造が MRI に比し描出 されやすいことが多く、診断確定の参考になる。 治療の前に必ず生検を行って組織診断を確定す る。生検では手術を想定して針生検の刺入部、切開 生検の皮切を決定する。生検の皮切は縦切開が基本 である。生検によって神経血管束を汚染して患肢温 存不能とならないように経路を考慮する。 以上のプロセスにより診断を進めた後、考え得る 最適な治療を実施する。 文 献
1) WHO : WHO Classification of Tumours of Soft sue. In WHO Classification of Tumours of Soft Tis-sue and Bone. (Edited by Fletcher CDM, Bridge JA, Hogendoorn PCW, Mertens F) 9-12. International
Agency for Research on Cancer (IARC), (Lyon), 2013
2) Fletcher CDM, van den Berg E, Molenaar WM : Pleomorphic malignant fibrous histiocytoma/Undif-ferentiated high grade pleomorphic sarcoma. In World Health Organization Classification of Tumors. Pathology & Genetics. Tumours of Soft Tissue and Bone. (Edited by Fletcher CDM, Unni KK, Mertens F) 120-122. Oxford University Press, 2002
3) Fletcher CDM : Giant cell malignant fibrous histio-cytoma/Undifferentiated pleomorphic sarcoma with giant cells. In World Health Organization Classifi-cation of Tumors. Pathology & Genetics. Tumours of Soft Tissue and Bone. (Edited by Fletcher CDM, Unni KK, Mertens F) 123-124.
Oxford University Press, 2002
4) Coindre JM : Inflammatory malignant fibrous histio-cytoma/Undifferentiated pleomorphic sarcoma with prominent inflammation. In World Health Organi-zation Classification of Tumors. Pathology & Genetics. Tumours of Soft Tissue and Bone. (Edited by Fletcher CDM, Unni KK, Mertens F)
125-126. Oxford University Press, 2002
5) Fletcher CDM, Chibon F, Mertens F : Undufferenti-ated/unclassified sarcomas. In WHO Classification
of Tumours of Soft Tissue and Bone. (Edited by Fletcher CDM, Bridge JA, Hogendoorn PCW, Mertens F) 235-238. International Agency for
Research on Cancer (IARC), (Lyon), 2013
6) Coindre JM : Grading of soft tissue sarcomas : review and update. Arch Pathol Lab Med 130 :
1448-1453, 2006
7) American Joint Committee on Cancer (AJCC): Part V. Musculoskeletal Sites. In AJCC Cancer Staging manual 7th ed. (Edited by Edge SB, Byrd DR, Comp-ton CC, Fritz AG, Greene FL, Trotti A III) 279-298.
Springer-Verlag. (NewYork), 2010
8) International Union Against Cancer (UICC): Tumors of Bone and Soft Tissue. In TNM classifi-cation of malignant tumors 7th ed. (Edited by Sobin LH, Gospodarowicz MK, Wittekind Ch) 151-161.
Wiley-Blackwell, (New York), 2009
9) Enneking WF, Spanier SS, Goodman MA : A system for the surgical staging of musculoskeletal sarcoma. Clin Orthop Relat Res 153 : 106-120, 1980
10) 悪性軟部腫瘍取扱い規約作成委員会。悪性軟部 腫瘍の病理。整形外科・病理悪性軟部腫瘍取扱 い規約、第3 版。(日本整形外科学会骨軟部腫瘍 委員会編)。108-170、原出版(東京)2002
11) Weiss SW, Goldblum JR : Schwannoma (Neurile-moma). In Enzinger and Weiss’s Soft Tissue tumors, 4th edition. 1146-1160, Mosby, (St. Louis), 2001
12) Weiss SW, Goldblum JR : Malignant tumors of the peripheral nerves. In Enzinger and Weiss’s Soft Tis-sue tumors, 4th edition. 1209-1230, Mosby, (St. Louis), 2001
13) Nishida J, Morita T, Ogose A, Okada K, Kakizaki H, Tajino T, Hatori M, Orui H, Ehara S, Satoh T : Imag-ing characteritics of the deep-seated lipomatous
tumors : Intramuscular lipoma, intermuscular lipoma and lipoma-like liposarcoma. JOrthop Sci 12 :
533-541, 2007
14) Otsuka H, Terazawa K, Morita N, Otomi Y, Takao S, Iwamoto S, Osaki K, Harada M, Nishitani H : Thal-lium-201 chloride scintigraphy in soft tissue tumors.
J Med Invest 56 : 136-141, 2009
15) Nishida J, Shiraishi H, Ehara S, Tada H, Satoh T, Okada K, Shimamura T : Clinical findings of Hiber-noma of the buttock and thigh : Rare involvements and extremely high uptake of FDG-PET. Med Sci
Monit 15 : CS117-122, 2009
16) Motoi T, Kumagai A, Tsuji K, Imamura T, Fukusato T : Diagnostic Utility of dual-color break-apart
chromogenic in-situ hybridization for the detection
of rearranged SS18 in formalin-fixed, paraffin
-embedded synovial sarcoma. Human Pathol 41 :
1397-1404, 2010
17) Adams SC, Potter BK, Pitcher DJ, Temple HT : Office-based core needle biopsy of bone and soft
biopsy with infrequent complications. Clin Orthop Relat Res 468 : 2774-2780, 2010
18) Kamei Y, Nishida J, Mimata Y, Shiraishi H, Ehara S, Satoh T, Shimamura T : Core Needle Percutaneous Transpedicular Vertebral Body Biopsy : A Study of 128 Cases. J Spinal Disord Tech 28 : E394-399,
2015
19) Bannasch H, Eisenhardt SU, Grosu AL, Heinz J, Momeni A, Stark GB : The diagnosis and treatment of soft tissue sarcomas of the limbs. Dtsch Arztebl Int 108 : 32-38, 2011
20) Morii T, Yabe H, Morioka H, Anazawa U, Suzuki Y, Toyama Y : Clinical significance of additional wide resection for unplanned resection of high grade soft tissue sarcoma. Open Orthop J 30 : 126-129, 2008
21) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会軟部
腫瘍診療ガイドライン策定委員会。生検による 診断。軟部腫瘍診断ガイドライン改定 2 版(日 本整形外科学会編)57-64、南江堂(東京)2012
22) Ravi V, Patel S, Benjamin RS : Chemotherapy for soft-tissue sarcomas. Oncol 29 : 43-50, 2015
23) van der Graaf WT, Blay JY, Chawla SP, Kim DW, Bui-Nguyen B, Casali PG, Schöffski P, Aglietta M,
Staddon AP, Beppu Y, Le Cesne A, Gelderblom H, Judson IR, Araki N, Ouali M, Marreaud S, Hodge R, Dewji MR, Coens C, Demetri GD, Fletcher CD, Dei Tos AP, Hohenberger P : EORTC Soft Tissue and Bone Sarcoma Group ; PALETTE study group. Pazopanib for metastatic soft-tissue sarcoma
(PAL-ETTE): a randomised, double-blind, placebo-