博士(水産科学)清水智子 学位論文題名
抗ウイルス活性を有する魚類腸内細菌を用いた ヒラメのウイルス性表皮増生症の制御に関する研究 学位論文内容の要旨
ヒラメはわが国において産業上重要な魚種のーつであるが,その種苗生産過程および 養殖段階において疾病による被害が大きな問題となっている。特に仔稚魚期に感染症が発 生すると,その減耗は大きく,有効な対策の確立が求められている。仔魚期に発生する疾 病のーっにウイルス性表皮増生症があり,本病の原因ウイルスはへルペスウイルス科に属 することが明らかとなっている。しかし,未だ病原体の培養ができず,有効な対処法もな いこ・とから,従来の防疫対策に頼るしかない。近年,魚類ウイルス病対策としてワクチン 開発が進められているが,本病の発症時期には免疫応答が成立していないため,ワクチン での防除は難しい。これまでに,水圏環境中には抗ウイルス活性を有する細菌が存在する ことが報告されており,抗ウイルス活性を有する宿主の腸内細菌を有効に用いることによ り , 薬 剤 を 使 わ な い , 自 然 に 優 し い 疾 病 の 予 防 が で き る と 考 え る 。 本研究では,抗ウイルス活性を有する腸内細菌を用いた防疫対策の確立を目的に,まず,
抗 ウ イルス活性 を有する細 菌の探索を 行い,分離 菌株であるVibrめsp.V5株および V23株の同定お よびmrめsp.V23株培養濾 液の温血動 物への安全 性を評価し た。次い で , 抗ウイルス 活性を有し ,ショ糖分 解能のない マツカワ腸 管内容物由 来菌竹6rめ 即|ぬ出d珊V15株を指標に,ワムシおよぴヒラメ腸内細菌叢の制御について検討し,ヒラ メ由来の励rめa増わ心厄を恥V23株を用いてヒラメの腸管内容物および飼育水人の抗ウ イルス活性の賦与にっいて検討した。
まず,第1章では,ワムシ,アルテミア,生物餌料の培養に用いる濾過海水,ヒラメの 腸管内容物およびその飼育水から分離した計251株を対象に,培養が可能な海産ギンザ ケ由来のへルペスウイルス0MV(匸功舶噛聞出珊皿a舶Hvirus)を対象に抗ヘルペスウイ
ル ス活 性を有 する 細菌 の検 索を行 った。供試した251株の11%からOMVに対して抗ウ イルス活性を有するVibr.,D属細菌が分離された。本検索法は,供試菌培養濾液とウイル スを直接反応させていることから,これらの細菌は菌体外に抗ウイルス物質を産生しウイ ルスを不活化させているものと考えられる。
次いで,ヒラメの腸管内容物から分離した抗ヘルペスウイルス活性を有する細菌の中か らWめ めsp.V23株 にっ いて ,彫舛 遺伝子の塩基配列に基づく同定を行ったところ,
供 試 菌は 玩 み 血 aな 血 め 枇 恥 と 分類 さ れ た 。 レaな わ 心y加 珊V23株 培 養 上 清 を 1‐BuOHで抽出し,SephadexLH‐20カラムクロマトグラフィーを行ったところ,最終的 に1Lの 培養液 から1.3mgの 活性画 分を得ることができた。さらに,レ劃伽心厄を珊 V23株 培養濾液をマウスに腹腔内接種し,10日後韜よび20日後に体重測定を行ったと ころ,レa々むめ柚恥V23株培養濾液投与区と対照区に有意な差は認められず,試験終 了時の剖検においても主要臓器に異常は認められず,臓器重量の測定でも対照区と有意差 は認められなかった。
第2章では,マツカワ腸管内容物由来の抗ウイルス活性を有し,ショ糖分解能のないレ 印Z簡捌弸V15株を用い,ワムシおよびヒラメ腸内細菌叢の制御について検討した。ワ ムシ卵の生菌数は,消毒により108.3CFU/gから10315CFU/gに減少し,さらに消毒し た卵にレ叩ん田めガ弸V15株を添加すると,孵化ワムシの生菌数は10712CFU/gとなり,
その細菌叢も制御可能であることが示された。また,レ印Z簡捌弸V15株添加ワムシを ヒラメに給餌したときのヒラメ腸管内における励ぬり属細菌のうち,ショ糖非分解菌の 割 合は対照区で62%,消毒区で59%,菌添加区で100%であった。通常,海産魚の腸 管内に存在する励rめ属細菌はショ糖分解能を有するものが多いことから,ヒラメ腸管 内には添加細菌が定着したと考えられた。
第3章で は, ヒラメ 腸管 内容 物由 来の抗ウイルス活性を有するレa々ね心y加弸V23 株優勢ワムシを作出し,これを給餌したときのヒラメ腸管内韜よび飼育水中の細菌叢を調 べるとともに抗ヘルペスウイルス活性を測定した。試験期間中,ヒラメ腸管内生菌数はワ ムシへの菌添加の有無に依らず,104〜106CFU/gの範囲で測定された。しかし,ヒラメ の腸内細菌叢は,細菌非添加区に比べてレa々む心y戯 恥V23株添加ワムシを給餌した区 の方が早期に励rめ属細菌が菌叢の主体を成したことから,ヒラメ腸内細菌叢の形成に生
物餌料の細菌叢が影響していることが示唆された。
最後に,卵消毒後に抗ウイルス活性を有する細菌を添加したワムシあるいはアルテミア 給餌によるヒラメの腸管内容物および飼育水への抗ヘルペスウイルス活性の賦与について 検討した。抗ヘルペスウイルス活性を有するレalginolyticus V‑23株添加ワムシを給餌し た区のヒラメ腸管内容物は,給餌20日後から高い抗ウイルス活性を示し,ヒラメ飼育水 に も,給餌20日後から抗ヘルペスウイルス活性が認められた。本試験では,給餌19日 以降,ワムシからアルテミアヘ生物餌料を切り替えたため,給餌20日目以降にヒラメ仔 魚の腸管内容物および飼育水のVibrめ属細菌の割合が増加し,抗ウイルス活性も上昇し たのはワムシよりも大型のアルテミア給餌による影響が大きいものと推察された。また,
菌非添加区のヒラメ腸管内容物およぴ飼育水でも抗ウイルス活性が認められたことから,
対照区のヒラメ腸管内容物にも抗ヘルペスウイルス活性を有する細菌が存在していたこと が示唆された。
以上,本研究では,魚類棲息環境中に抗ウイルス活性を有する細菌が多数存在すること を明らかにし,さらにプロバイオティクス的手法を用いることにより,魚類腸管内容物韜 よび飼育水に抗ウイルス活性を賦与することが可能であることを示した。本手法はヒラメ 以外の他の海産魚種においても実施が可能であると考える。ワクチンが有効になるまでの 仔魚期の感染症対策の実現に向け,生物餌料の有効活用が可能になれば防疫対策は一歩前 進する。特に,閉鎖循環式陸上養殖や換水率の低い仔魚期の水槽において有効と考えられ,
このプロバイオティクスを用いた魚類腸内細菌叢の安定化による仔稚魚の健康管理手法が 広く普及することを期待したい。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
抗ウイルス活性を有する魚類腸内細菌を用いた ヒラメのウイルス性表皮増生症の制御に関する研究
ヒ ラ メ は わ が 国 に お い て 産 業 上 重 要 な 魚 種 の ー つ で あ る が , そ の 種 苗 生 産 過 程 に お い て 疾 病 に よ る 被 害 が 問 題 と な っ て い る 。 仔 稚 魚 期 に 発 生 す る 疾 病 の ー っ に ウ イ ル ス 性 表 皮 増 生 症 が あ り , 本 病 の 原 因 ウ イ ル ス は , 未 だ 培 養 が で き ず , 有 効な 対処 法も ない こと から , 従 来 の 防 疫 対 策 に 頼 る し か な い 。 近 年 , 魚 類 ウ イ ル ス 病 対 策 と し て ワ ク チ ン 開 発 が 進 め ら れ て い る が , 本 病 の 発 症 時 期 に は 免 疫 応 答 が 成 立 し て い な い た め , ワ ク チ ン で の 防 除 は 難 し い 。 こ れ ま で に , 水 圏 環 境 中 に は 抗 ウ イ ル ス 活 性 を 有 す る 細 菌 が 存 在 す る こ と が 報 告 さ れ て お り , 抗 ウ イ ル ス 活 性 を 有 す る 腸 内 細 菌 を 有 効 に 用 い る こ とに より ,薬 剤を 使わ なぃ , 自 然 に 優 し い 疾 病 の 予 防 が で き る と 考 え る 。 そ こ で , 本 研 究 で は , 抗 ウ イ ル ス 活 性 を 有 す る 腸 内 細 菌 を 用 い た ウ イ ル ス 病 の 制 御 を 目 的 に , ま ず , 抗 ウ イ ル ス 活 性 を 有 す る 細 菌 の 探 索 を 行 い , ワ ム シ お よ ぴ ヒ ラ メ 腸 内 細 菌 叢 の 制 御 に つ い て 検 討 する とと もに ,. ヒラ メ腸 管 内 容 物 由 来 の 班 加 あalginolyめ 恥V23株 を 用 い て , ヒ ラ メ の 腸 管 内 容 物 お よ ぴ 飼 育 水 へ の 抗 ウ イ ル ス 活 性 の 賦 与 に つ い て 検 討 し た 。
ま ず , ヒ ラ メ 飼 育 環 境 水 か ら 分 離 し た 玩 み 門 わ 属 細 菌 計251株 を 対 象 に , 抗 ヘ ル ベ ス ウ イ ル ス 活 性 を 有 す る 細 菌 の 検 索 を 行 っ た 。 供 試 し た251株 のn% か ら 抗 ヘ ル ペ ス ウ イ ル ス 活 性 を 有 す る 珊 ぬ . ,D属 細 菌 が 分 離 さ れ た 。 本 検 索 法 は , 供 試 菌 培 養 濾 液 と ウ イ ル ス を 直 接 反 応 さ せ て い る こ と か ら , こ れ ら の 細 菌 ぼ 菌 体 外 に 抗 ウ イ ル ス 物 質 を 産 生 し , ウ イ ル ス を 不 活 化 さ せ て い る も の と 考 え ら れ る 。
ま た , ヒ ラ メ の 腸 管 内 容 物 か ら 分 離 し た 抗 ヘ ル ペ ス ウ イ ル ス 活 性 を 有 す る 細 菌 の う ち Wめ めsp.V23株 は , 舒 舛 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 に 基 づ き , シ 劫rめaな 勘 め 枇 恥 と 同 定 さ れ た 。 レ 心 曲 心yめ 恥V23株 培 養 上 清 を1‐BuOHで 抽 出 し ,SephadexLH‐20カ ラ ム
守史 雄会 祐智 久 水合 辺井 吉 川 澤 笠 授授 授教 教教 教助 査査 査査 主副 副副
クロマトグラフイーを行ったところ,最終的に1Lの培養液から1.3 mgの活性画分を得 ることができた。さらに,レa伽:ロめ恊恥V23株培養濾液をマウスに腹腔内接種し,体 重測定を行ったところ,培養濾液投与区と対照区に有意な差は認められず,試験終了時の 剖検においても主要臓器に異常は認められず,臓器重量の測定でも対照区と有意差は認め られなかった。
次いで,マツカワ腸管内容物由来の抗ウイルス活性を有し,ショ糖分解能のないレ 印畑めめ竡V15株を用い,ワムシおよびヒラメ腸内細菌叢の制御について検討した。ワ ムシ卵の生菌数は,消毒によ゛り10813から103.5CFU/gに減少し,さらに消毒した卵にレ 叩Z簡めめ西V15株を添加すると,孵化ワムシの細菌叢は励戯 属細菌が優勢となり,
その細菌叢も制御可能であることが示された。また,レ叩´|簡めめ竡V15株添加ワムシを 給餌したときのヒラメ腸管内におけるW茄あ属細菌のうち,ショ糖非分解菌の割合は対 照 区で62%,消毒区で59%,菌添加区で100%であった。通常,海産魚の腸管内に存 在する班みr』め属細菌はショ糖分解能を有するものが多いことから,ヒラメ腸管内には添 加細菌が定着したと考えられた。
ヒラ メ腸管 内容 物由 来の抗 ウイ ルス 活性を有するレa々ぬめ椨恥V23株優勢ワムシ を給餌したときのヒラメ腸管内および飼育水中の細菌叢を調べるとともに,抗ヘルペスウ イルス活性を測定した。試験期間中,ヒラメ腸管内生菌数は,ワムシへの菌添加の有無に 依らず,104〜106CFU′gの範囲で測定された。しかし,ヒラメの腸内細菌叢は,細菌非 添加区に比べてレ釧曲心yぬを弸V23株添加ワムシを給餌した区の方が早期にレ勧門b属 細菌が菌叢の主体を成したことから,ヒラメ腸内細菌叢の形成に生物餌料の細菌叢が影響 していることが示唆された。また,ヒラメ腸管内容物およぴ飼育水には,給餌20日後か ら高い抗ウイルス活性が認められた。
以上,本研究は,魚類棲息環境中に抗ウイルス活性を有する細菌が多数存在することを 明らかにし,さらに魚類腸内細菌をプロバイオティクスとして用いることにより,魚類腸 管内容物およぴ飼育水に抗ウイルス活性を賦与することが可能であることを示した。本手 法はヒラメ以外の他の海産魚種においても応用が可能であると考える。ワクチンが有効に なるまでの仔魚期の感染症対策として,生物餌料の有効活用が可能になれば,本手法は防 疫対策は一歩前進する。特に,閉鎖循環式陸上養殖や換水率の低い仔魚期の水槽において 有効と考えられる。