R2:様式甲/Form Kou
2-1学位論文の要旨
Abstract of Thesis
研究科School
環境生命科学
専 攻
Division
農生命科学
学生番号
Student No.
77430905
氏 名
Name
高柿 了大
学位論文題目
T
itle of Thesis(学位論文題目が英語の場合は和訳を付記)高アミノ酸摂取における腸内細菌叢の変化と難消化性多糖の共摂取が宿主に及ぼす影響
学位論文の要旨 Abstract of Thesis
三大栄養素である糖質、脂質、タンパク質の適正な摂取目安には様々な考え方がある。一般的に食事 中の栄養素比率はカロリーあたりで 60%が糖質、20%がタンパク質、残りが脂質となる割合であること が理想的であるとされており、高糖質な食事が従来の食事での摂取目安になっている。この比率を脂質 過剰にした高脂肪食が健康に与える影響についてはよく研究されており、肥満や種々の疾病との関連が 研究されてきた。近年、新たに腸内細菌叢からの視点も加えられ、宿主への脂質の直接作用だけではな く間接的に与える影響の知見が蓄積してきている。それに対してタンパク質の過剰摂取が及ぼす生体
(宿主)への影響に関しては未解明な点が多い。高タンパク質の摂取はアンモニアやフェノール類に代 表される生体へ強い毒性を示す物質を多く産生することから、生体の防御機構である肝臓や腎臓に対し て強い負荷をかけるという考えが根強い。またフェノール類は強い細胞毒性を示すことから、短期では 皮膚のターンオーバーに対して悪影響を与え肌荒れの原因にもなり、長期では細胞内皮に障害を引き起 こし心血管障害や慢性腎症へと発展することかが危惧されている。これらのアミノ酸代謝は糖質代謝と 競合関係にあることから、高タンパク質摂取における種々の悪影響や障害に対し難消化性多糖であるイ ソマルトデキストリン(IMD)を共摂取することで栄養バランスに影響を与えずに生体への影響を改善 できるのではないかと考えた。本研究では、まず消化管でフェノール類産生の原因物質であるチロシン 過剰摂取下での Wistar ラットの腸内細菌叢の変化とフェノール類の産生において難消化性多糖が及ぼ す影響について検討した。その後、ヘアレスラットを用いて高タンパク質摂取下での皮膚や腎臓に対す る影響とその変化に対する難消化性多糖の影響について検討した。
6 週齢の Wistar ラットを通常食群、高チロシン食群、高チロシン食と低 IMD 共摂取群、高チロシン食 と高 IMD 共摂取群で各群を 6 匹として、3 週間試験食を給餌した後に盲腸内容物および血液を採取し た。高チロシン食群においては生体中のフェノールとp-クレゾール濃度が有意に増加したが、IMD を共 摂取した群では高チロシン食群に比べてフェノールと p-クレゾール濃度は有意に低下した。アミノ酸 代謝を行う腸内細菌を確認するために採取したラット盲腸内容物を用いて腸内細菌叢解析を行った結 果、IMD 摂取によっては既知のフェノール類産生細菌の腸内での比率に対して直接的な影響を及ぼして いなかった。しかしながら、腸内細菌叢としてBacteroidetes 門が増加、Firmicutes 門が低下し、そし てBacteroides 属および Bifidobacterium 属が増加、Streptococcus 属が低下しており、腸内細菌叢の 構成比率を変化させていた。また IMD 共摂取群では盲腸内容物中の有機酸含量が有意に高くなることに 起因して pH が低下していた。高チロシン摂取群ではこれらの作用は確認されなかった。このことから
R2
:様式甲/Form Kou
2-2 Name 高柿 了大高チロシン摂取で産生されるフェノール類は、多糖の代謝と競合関係にあり多糖の摂取によるアミノ酸 代謝に対して負の影響を与えると考えられた。
次に、チロシン単体ではなくタンパク質をカロリー当り 60%、糖質を 20%になるように配合した高タ ンパク質摂取試験を実施した。この高タンパク質摂取試験では皮膚性状を詳細に確認するため Wistar ラットから作出された無毛種であるヘアレスラットを用いた。本実験では、通常食群、高タンパク質食 群、高タンパク質食と IMD 共摂取群で各群を 6 匹として、3 週間給餌した後に盲腸内容物、皮膚、肝臓、
腎臓、腸管および血液を採取した。高タンパク質摂取群は通常食群と比較して体重や摂餌量において有 意な変化はなかったが、飲水量は常に有意に多かった。IMD 共摂取群においては高タンパク質食群との 間で、7 日目から摂餌量が有意に低下する日があり、高タンパク質食群や通常食群と比較して体重増加 が減少傾向となった。高タンパク質食群と同様に IMD 共摂取群においても飲水量の増大が確認された が、高タンパク質食群との間に有意な差は認められず IMD が水に含まれることによる嗜好性は確認され なかった。高タンパク質の摂取によって腎臓では糸球体や尿細管に過形成変異が確認された。この変異 は高タンパク質食群と IMD 共摂取群においてやや軽度化する傾向が認められたが、その変異を抑制して はいなかった。また肝臓においては高タンパク質食群で炎症細胞の増加傾向はあったが、肝臓組織像で は大きな変化はなかった。また皮膚において高タンパク質の摂取は毛包細胞の肥大化傾向が確認され、
この作用は IMD 摂取下でも同じ傾向であった。
これらの食餌の影響が腸内細菌の作用を介するものかを確認するために、盲腸内容物から細菌 DNA を 調製し RT-PCR による総菌数測定および腸内細菌叢解析を実施した。総菌数測定の結果、高タンパク質 食と IMD 共摂取群では有意に増加しており、高タンパク質食群では有意なものではなかったが、通常食 群との比較では総菌数の低下を確認した。腸内細菌叢のα多様性解析の結果、高タンパク質食群および 高タンパク質食と IMD 共摂取群は、通常食群と比較して有意な多様性の増加を示した。これらの変化し た腸内細菌叢はβ多様性解析の結果から相互に異なるクラスターであった。ヘアレスラットの腸内細菌 叢において、通常食群ではFirmicutes 門および Actinobacteria 門が優勢な比率であった。しかし、高 タンパク質食群ではFirmicutes 門がさらに優勢となり、Actinobacteria 門は検出限界以下まで低下し ていた。その減少した Actinobacteria 門に代わって高タンパク質食群ではDesulfobacteria 門および Verucomirobiota 門が通常食群と比較して有意に増加していた。高タンパク質食と IMD 共摂取群におい ては高タンパク質食群において増加した Verucomicrobiota 門は有意に低下していた。その代わりに Bacteroidota 門が有意に増加し、高タンパク質のみを摂取したときとは異なった腸内細菌叢を構築し ていた。皮膚常在菌についても検討した結果、門レベルでは高タンパク質摂取で有意な変化は認められ ず、Bacteroidota 門と Patescibacteria 門が上昇し Proteobacteria 門が減少することは確認されたが、
いずれも有意な変化ではなかった。科レベルでは有意な変動が確認されることから、皮膚常在細菌叢の 変化は腸内細菌叢ほどではないが、食餌中の栄養組成によって影響を受けることが示唆された。
食餌中の栄養組成の変化に呼応して腸内細菌叢に変化を認めたこと、腎臓や皮膚性状にその作用が及 んだことから糞便および血清のメタボローム解析を実施した。その結果、盲腸内容物中の代謝産物はそ れぞれの群で異なるクラスターを形成し、腸内細菌叢の違いに起因すると推察された。高タンパク質食 と IMD 共摂取群において多くのアミノ酸が検出されたことから、前述のチロシン摂取時にみられたアミ ノ酸代謝と糖質代謝が競合関係にあり難消化性多糖の摂取が有害なアミノ酸代謝に対して負の方向に はたらくことが示唆された。また、高タンパク質と IMD 共摂取群ではγ-アミノ酪酸やスペルミジンと いった健康寿命に関与するアミノ酸代謝産物の有意な産生増加が認められた。
以上、高チロシン摂取下で産生されるフェノール類などの炎症性物質は IMD 共摂取下では産生量が抑 制された。高タンパク質食による高アミノ酸過剰供給環境においては腸内細菌叢組成を変化させ、大腸 での代謝産物に影響を与えていた。高タンパク質食と IMD の共摂取下において、この変化は顕著であり 有用なアミノ酸代謝産物が豊富に産生されていることが確認されたことから、高タンパク質食と IMD 共 摂取は高タンパク質食による負の影響を抑え、健康寿命の延伸に寄与する可能性が示唆された。