別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲 ・乙 第 3052 号 氏 名 岩内 めぐみ
論文審査担当者
主査 教授 桑田啓貴 副査 教授 山本松男
副査 教授 佐藤裕二
(論文審査の要旨)
学位論文申請「Relationship between oral and gut microbiota in elderly people( 高齢者 における口腔内細菌叢と腸内細菌叢の関連性)」について、主査1名、副査2名が個別に審査 を行った。
本研究では、まず、健常者と高齢者(特別養護老人ホーム入居者 )における腸内細菌と口腔内細 菌の関連について舌苔、歯周ポケットおよび腸内細菌より細菌 DNA を採取し、定量PCRおよ び 16sRNA メタゲノム解析によって細菌叢解析を行っている。結果として、 特養ホームで居住 しているような高齢者では健常者と比べて、腸内において歯周病原性細菌P.gingivalisを有 意に高く検出し、かつ口腔と腸内の細菌叢の高い相同性を認めた ことから、口腔内細菌が通常 よりも高率に腸内へ移行していることが示された、とのことであった。
本論文を審査するにあたり、初めに副査各委員より質問がなされた。以下要約抜粋を示す。
山本委員
質問 1 口腔内細菌を採取するにあたって、唾液を選定しなかった理由 。
回答 1 消化管への移行を考えると、唾液の方が合理的かもしれ ないが、要介護高齢者が対 象であり、唾液を十分に採取できないリスクを考慮して舌苔を採用した。Nicola Segata ら の報告では、舌苔と唾液の細菌叢は構成が類似していることを示しており、本研究でも舌苔 と歯肉縁下プラークの採取で問題ないと判断した。
質問 2 腸内細菌叢の変化を導くために口腔内細菌叢で できることはなにか。
回答 2 健常成人と比較して高齢者は口腔内細菌叢と腸内細菌叢の類似性が高く、口腔内細 菌叢の変化は腸内細菌叢により高率で影響を及ぼすだろう 。定期的な口腔健康管理は口腔内 細菌叢を良くし、引き続いて腸内細菌叢の改善に繋がると期待される。これを明らかにする ため、今後の追加研究が必要である。
佐藤委員
質問1UniFrac 距離とは何を意味するものなのか。図について説明せよ。
回答1UniFrac 距離とはサンプル間の距離測定方法のことであり、主座標分析 で用いられる。
各サンプルのオリジナルデータは、500 種以上の細菌属および種の存在の有無についての膨 大かつ複雑なデータを含む。これを単純化し、視覚的な2次元図にしたのが主座標分析であ る。例えば、本論文 Figure2(a)の 24.16%、8.78%を寄与率と呼び、元データの複雑度合いを 示す。PC1 と PC2 で 24.6%+8.7%=33.3%であり、単純化した図において多次元データの差の大 きかった主データについて明示的に説明することが可能となる (本欄では説明図を省略)。
質問2 口腔内細菌叢と腸内細菌叢の相同性が高いということの意義はなにか。
回答2 成人と比較して高齢者の 方が口腔内細菌叢と腸内細菌叢の類似性が高かった。歯肉 縁下プラークおよび舌背細菌が消化管に到達することと、歯肉縁下プラーク細菌が歯周炎を 誘発し歯肉組織に侵入、次いで全身を循環し大腸に達したと考えられる。口腔健康管理を定 期的に行うことで口腔内細菌叢の状態を良くし、結果として腸内細菌叢の状態を良くするこ とに繋がると期待できる。
これら副査よりの質問に対する回答はいずれも適切であると考えられた 。続いて、主査桑田委 員より以下のような質問を行った。
質問 1 被験者 30 名という人数は適正か。
回答 1 適格被験者の総数が約 60 症例であった。高齢者群においては、二つの施設で行った がそれぞれ 15 症例が実施可能最大症例数であると想定し、計 30 症例と設定した。健常 成人 群においては、森永乳業株式会社にて実施可能最大症例数として 30 例を設定した。結果と して、仮説通り、高齢者群と健常成人群の腸内細菌叢の違い、また高齢者群の方が口腔内細 菌の腸への移行が示唆できたことからこの人数設定は適正であったと考える。
質問 2 高齢者における口腔から腸内細菌叢への移行を報告している論文と比較せよ。
回答 2 口腔内細菌が腸内細菌叢へ移行し攪乱させていると 示唆される報告は多くあるが、高 齢者における口腔から腸内細菌叢への細菌移行の詳細についてはほとんどわかってい ない。
本研究では実際に移行が示唆される細菌群を結果として示したが、このように細菌群を具体 的に示している報告はまだほとんどない。今回移行が示唆された細菌群は、すべての分類群 が Human Oral Microbiome Database の口腔細菌として登録されているわけでは ない。しか しながら、本研究により、今 後移行を確認すべき候補となる菌の情報が得られたのではない かと考える。
以上、主査桑田委員は全委員からの質問に対する回答の妥当性を確認したことによって 博士 (歯学)学位授与がふさわしいと判断した。
(主査が記載)