博士(農学)ノくイ口ー卜 ラウンピタクサ
学 位 論 文 題 名
食物繊維のアマランス毒性防止作用と 小腸機能正常化効果に関する研究
<STUDIES ON DIETARY FIBER AND ITS MECHANISMS IN COUNTERACTING AMARANTH TOXICITY>
学位論文内容の要旨
食物繊維(DF)は, 元来食物中の非消化成分を表 現するのに使われていた用語である。DF の定義として『ヒトの消化酵素によって消化されない食品成分の総体』が現在のところ受け入れ られている。したがって,DFの生理的効果発現の場は主に消化管腔内であり,消化管との物理 的・化学的相互作用を介しての消化管機能の調節,消化管腔内の内部環境(pH,腸内の細菌の 量・質など)の調節,他の食物成分との相互作用などに影響を与えることにより効果を示すと考 えられる。DFの生理 的効果は,DFの有する物理・化学的特性ならびに消化管各部位の機能と 密接に関連している 。このDFの生理作用のなかに,様々な有害物質に対する毒性軽減効果が ある。この効果の発現機構を解明することは,DFの新しい未知の栄養的な役割を明らかにする うえで重要な課題であると思われる。そこで,本研究はラットにおけるアマランス(食用赤色2 号,AM)過剰毒性をモ デルとしてこの毒性に対するDFの防止効果の発現機構を解明すること を 目 的 と し , 多 角 度 か ら 実 験 を 行 な っ た 。そ の概 要 を示 すと ,以 下 の通 りで ある 。
1)ラッ トにおけるAM毒性の性差及び 系統特異性の検討。
Sprague−Dawley系 (日 本SLC)の離 乳期 の雌 雄ラ ッ ト及 び2種Wistar系( 日本SLC, 徳島実 験動物研究所)雄ラットを用 いて,AM毒性発現,dose responseを観察した。その結 果,AM5%以上で,毒性が強く発現し,激しい下痢,飼料摂取低下,成長阻害が見られた。3 種のstrainの中では,徳島Wistarに もっともAM毒性が強く現れ た。そこで以後は実験動物 として 徳島Wistar雄ラットを選んだ 。
2)各 種食 物繊 維 のAM毒性 防止 効 果と 水中 沈定 体積<settling volume (SV)〉の相関。
徳 島Wistar系雄 ラッ ト を用 いて ,AM毒性 防 止効 果に 対し てDFのSV <DFlgが水 中で占 める体積(縦)>が重要であると考えられたため,この効果とSVとの関係を明らかにすることを 目的 として,異なるSVを持つDF(野菜,豆類,ナッツ類,根 菜類,穀類から調製したDFと 木材cellulose, guar gum,これらの人工複合体,及び単なる混合物)を用いて,有効性を比較 した 。全てのDF摂取ラットでAM毒性による症状から回復が見られた。すなわち,体重増加,
飼料 摂取量,及び飼料効率が顕 著な回復を見せた。DFのSVとAM毒性からの回復率との間に は 正 の相関が見られ た。特にSVの高いDFでtよ, 完全な回復が見られたが,SVの低いDFに は, わずかな効果しかみられなかった。この関係を説明し,DFのAM毒性防止効果を規定する 正確 な機構を知るために,DFの モデルとしてSVの異なる種々の発泡スチロール末(PSF,発 泡度20―90倍)を用いて実験を行なった。発泡スチ口ール末はAM毒性阻止能において,DFと 同 様 の効果を示した 。PSFの発泡度が高い,すな わちSVが高い方がAM毒性阻 止能も強くな る事 が明らかになった。以上の 実験ではSVはDFのAM毒性阻止 能を定める上で重要なファク ター であり,その効果のcritical pointは,SV値でiOmE/9であった。特にPSFの実験より,
AM毒 性防止効果は小腸腔内におけるDFのbulk―formation effectに依存する事が分かった。
3)DFのAM毒性 阻止と小腸通過速度(small intestinal transit speed,SJTS)との関係。
小腸腔内にお いて,DFはbulkを形成し,SITSを低下させている可能性 がある。この実験 では,消化管内 でのDFの役割にっいて,そ の腸管内での食物粥の動態, 特にAM毒性防止効 果 とSITSと の関 係を 調 べた 。初 めに,予備実験とし て,種々のDFを用いて,AM毒性防止 効果を確認しっつ,胃内への試験食の強制投与によりSITSを測定した。マ一力―として試験食 中にindigo carmineを添加して,diet front法で測定した。DF投与群で は,有意にSITSが 低下しており,AM毒性防止効果との関係が 示唆された。次に,十二指腸にマーカー(indigo carmlneとradioactive chromium,5|Cr)投与用カテ ーテルを留置したラッ卜を 用いて,
leading edge法 とgeometric center法で小 腸腔内のSITSを測定した。DFとしては,beet DF (BDF)を 用 い た 。 そ の結 果 ,AM投与 によ りSITSは有 意に 上昇 し,DF投与 で有 意に 低 下 し た。 さら にAM投与 群 にDFを添 加し た 群のSITSは, 完全 に 抑制 され てい た。DFと同様 SITSを低下させ る作用を持っているモルヒ ネを用いて,SITS低下とAM毒 性防止効果との関 係を調べた。モルヒネをmlni―osmotic pumpにより腹腔内に2週間持続投与することにより,
AM毒性 が部 分的 に回 復 した 事に より,SITSがAM毒性 阻止に一部関与しているこ とが確認
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され た。 以 上の 結果 によりSITSは,DFのAM毒性 阻止及びラッ卜の成長回復の メカニズム を説明するうえで,重要なファク夕―であることが示された。AMによる毒性は,SITS上昇に よる栄養素の消化吸収障害が関与し,DF添加によるSITSの低下により,この消化吸収障害が 回 復 す る こ と に よ っ て , AM毒 性 が 阻 止 さ れ た こ と を 示 唆 し て い る 。
4) 門脈血中アミノ酸濃度の 上昇を指標としたタンパク 質の消化・吸収に対するAMとDFの 影響。
SITSの実験より,DFの栄養素の消化吸収への 影響がAM毒性阻止と関係している事が示唆 された。そこで,夕 ンパク質の吸収速度に対す るAMとDFの影響を検討した。門脈にカテー テル を 留置 した ラッ トを 用 いて,小腸内にAM及びタン パク質源としてNa−CASEINを 投与 し,経時的に門脈血を採取し,アミノ酸濃度の変化を指標としてタンパク質の吸収速度を測定し た 。DFの 効 果 は ,BDFの 経口 摂 取時 と同 様,Na−CASEIN,及 びAMを経 腸 投与 し, 門脈 吸収を見る事により 検討した。その結果,AM投 与によりNa―CASEINの消化・吸収速度は,
明ら か に抑 制さ れた 。ま た ,BDF摂 取時 にお いて は,AM投与によるNaーCASEINの消 化・
吸収の抑制は,観察 されなかった。以上の結果より,BDFの摂取によりAMによるタンパク質 の消化吸収の阻害は,防止される事が示された。
以上の研究に基づ いて,ラットにおけるAM過 剰毒性に対するDFの防止効果の発現には,
DFのSVすな わち 小腸 内の 体 積が重要なファクターであ り,SVが大きいほどAMによる 小腸 通過速度の昂進を防 ぐ能カが大きく,それに関連して,AMによる摂取夕ンパク質の消化吸収 阻害をDFが,回復させると結論している。
学位論文審査の要旨
本論文は,総頁数319ページの英文論文で,表60,図39,写真68,参考文献255を含み,5章で 構成されているものである。
八 也
哉
修 純
誠
山
谷 葉
桐 水
千
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
食 物 繊 維 (DF) は , 様々な 有害物 質に対 して毒 性軽 減効果 がある ことは よく 知られ ている 。 本 論 文は , こ のDFの 毒 性防止 効果 発現機 構の解 明をめ ざし 実験的 ナょ研 究を行 い,ラ ット にお け る アマ ラ ン ス ( 食用 赤 色2号 ,AM) 過 剰 毒性 を モ デ ル とし て こ の 毒 性に 対 す るDFの 防 止 効 果 の 発現 機 構 を 一 部明 ら か に し たも の で あ る 。
1) ラ ッ トに お け るAM毒 性 の 性 差 及び 系 統 特 異 性 の検 討 。
Sprague―Dawley系 ( 日 本SLC)の 離 乳 期 の 雌 雄 ラ ッ ト 及 び2種Wistar系 ( 日 本SLC, 徳 島 実 験 動 物研 究 所 ) 雄 ラッ ト を 用 い て,AM毒 性 発現 ,dose responseを 観 察 し た 。 その 結 果 ,AM5% 以 上 で , 毒性 が 強 く 発 現し , 激 し い 下 痢, 飼 料 摂 取 低下 , 成長阻 害が見 られた 。3 種 のstrainの 中 で は , 徳島Wistarに も っ ともAM毒 性 が強 く 現 れ た 。そ こ で 以 後 は実 験 動 物 と し て 徳 島Wistar雄 ラ ッ ト を 選ん だ 。
2) 各 種 食 物 繊 維 のAM毒 性 防 止 効 果 と 水 中 沈 定 体 積<settling volume (SV) 〉 の 相 関 。 徳 島Wistar系 雄 ラ ッ ト を 用 い て ,AM毒 性 防 止 効 果 に 対 し てDFのSV <DFlgが 水 中 で 占 め る体積 (施) 〉が 重要で あると 考えら れたた め, この効 果とSVと の関 係を明らかにすることを 目 的 と し て , 異 な るSVを 持 つDF( 野 菜 , 豆 類, ナ ッ ツ 類 ,根 菜 類 , 穀 類か ら 調 製 し たDFと 木 材cellulose gu ar gum,これらの人工複合体,及び単なる混合物)を用いて,有効性を比較 し た 。 全 てのDF摂 取 ラッ ト でAM毒性 に よ る 症 状か ら 回 復 が 見ら れ た 。す なわち ,体 重増加 , 飼 料 摂 取 量 , 及 び 飼 料 効 率 が 顕 著 な 回復 を 見 せ た 。DFのSVとAM毒 性 から の 回 復 率 との 間 に は 正 の 相 関 が 見 ら れ た 。 特 に ,SVの 高 いDFで は , 完 全 な 回 復 が 見 ら れ た がSVの 低いDFに は , わ ず かな 効 果 し か 見 られ な か っ た 。こ の 関 係 を 説明 し ,DFのAM毒性 防止効 果を 規定す る 正 確 な 機 構 を 知 る た め に ,DFの モデ ル と し てSVの 異 な る 種々 の 発 泡 ス チロ ー ル 末(PSF, 発 泡 度20ー90倍 ) を 用い て 実 験 を 行っ た 。 発 泡 スチ 口 一 ル 末 はAM毒 性 阻止能 にお いて,DFと同 様 の 効 果 を 示 し た 。PSFの 発 泡 度 が 高 い , す な わ ちSVが 高い 方 がAM毒性 阻 止 能 も 強く な る 事 が 明 ら か に な っ た 。 以 上 の 実 験 でSVはDFのAM毒 性 阻 止能 を 定 め る 上で 重 要 な フ ァク タ ー で あ り , そ の 効 果 のcritical pointは ,SV値 でlO耐 /gで あ った 。 特 にPSFの 実 験 よ り,AM 毒 性 防 止 効果 は 小 腸 腔 内 にお け るDFのbulk―formation effectに 依 存す ること が分か った。
3)DFのAM毒 性 阻 止 と小 腸 通 過 速 度(small intestinal transit speed,SITS)と の 関 係 。 小 腸 腔 内 に お い て ,DFはbulkを 形 成 し ,SITSを 低 下 さ せ て い る 可 能性 が あ る 。 この 実 験
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で は,消化管内でのDFの役割に っいて,その腸管内での食 物粥の動態,特にAM毒性防止効 果 とSITSとの 関係 を調 べ た。初めに,予備実 験として,種々のDFを用い て,AM毒性防止 効果を確認しっつ,胃内への試験食の強制投与によりSITSを沮l亅定した。マーカーとして試験食 中 にindigo carmineを添加して,diet front法で沮lJ定した。DF投与群では,有意にSITSが 低 下しており,AM毒性防止効果 との関係が示唆された。次に,十二指腸にマ一カー(indigo carmlneとradioactive chromium,5'Cr)投与 用カテーテルを留置したラ ットを用いて,
leading edge法とgeometric center法で小腸腔内のSITSを測定した。DFとしてfま,beet DF (BDF)を 用 い た 。 その 結果 ,AM投与 に よりSITSは有 意に 上 昇し ,DF投与 で 有意 に低 下 し た 。さ らにAM投 与群 にDFを 添加 した 群 のSITSは ,完 全に 抑 制さ れて いた 。DFと同様 SITSを低下させる作用を持って いるモルヒネを用いて,SITS低下とAM毒性防止効果との関 係を調べた。モルヒネをmlni−osmotic pumpにより腹腔内に2週間持続投与することにより,
AM毒 性が 部分 的に 回復 し た事より,SITSがAM毒性阻止に一部関与してい ることが確認さ れ た。以上の結果は,AMによる 毒性はSITS上昇による栄養 素の消化吸収障害が関与し,DF 添 加によるSITSの低下により, この消化吸収障害が回復す ることによって,AM毒性が阻止 されたことを示唆している。
4)門脈血中 アミノ酸濃度の上昇を指標と したタンパク質の消化・吸 収に対するAMとDFの 影響。
SITSの実験より,DFの栄 養素の消化吸収への影響がAM毒性阻止と関係している事が示唆 された。そこで,夕ンパク 質の吸収速度に対するAMとDFの影響を検討した。門脈にカテー テル を留 置し た ラッ トを 用いて,小腸内 にAM及びタンパク質源とし てNa―CASEINを投与 し,経時的に門脈血を採取し,アミノ酸濃度の変化を指標としてタンパク質の吸収速度を測定し た 。DFの 効 果 は,BDFの経 口摂 取 時と 同様 ,Na―CASEIN, 及びAMを 経 腸投 与し ,門 脈 吸収を見る事により検討し た。その結果,AM投与によ りNaーCASEINの消化・吸収速度は,
明ら かに 抑制 さ れた 。ま た,BDF摂取 時に お いて は,AM投与によるNa宀CASEINの消化・
吸収の抑制は,観察されな かった。以上の結果より,BDFの摂取によりAMによるタンパク質 の消化・吸収の阻害は,防止される事が示された。
以上のように,本研究は小腸部位におけるDFの栄養的役割に関して,新しい知見を加えた ものである。よって審査員一同は,別に行なった最終試験の結果と合わせて,本論文の提出者パ イロートラウンピタクサは博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるものと認定した。