博 士 ( 情 報 科 学 ) 大 塚 明 香
学 位 論 文 題 名
音楽の構造的聴取に伴う聴覚性脳磁界活動の変調 学位論文内容の要旨
非 侵 襲 脳 機 能 計 測 法 の 飛 躍 的 を 発 展 に 伴 い 、 ヒ ト の 高 次 機 能 の 解 明を 目 指 し た 研 究 が世 界 規 模 で 進 展 する 中 、 近 年 、 脳 の 局 所的 誼 機 能 マ ッ ピ ング に 加 え 、 大 脳 皮質 部 位 間 の 相 互 的 を情 報 処 理 機 構 に 関す る 研 究 の 重 要 性 が 認 識 さ れ て い る。 聴 覚 野 は 、 聴 覚系 入 力 情 報 の 音 圧、 周 波 数 、 輪 郭 、 位相 等 の 音 響 特 性 、即 ち 、 外 因 性 の 要 因 に 対 す る 情 報 処理 を 行 う が 、 そ の活 動 強 度 は 臨 界 周波 数 帯 域 や 順 応 と いっ た 聴 覚 野 の 神 経活 動 の 特 性 に も 依 存 す る 。 更 に 、 聴者 の 覚 醒 、 注 意 、記 憶 、 期 待 等 の 内因 性 の 要 因 に よ る 変調 も 受 け る 為 、 前頭 葉 、 海 馬 、 視 床 、 感 覚 器 官 等 と の間 に 形 成 さ れ る 高次 の 情 報 処 理 機 構の 一 部 と し て の 体 系的 役 割 や 、 機 能 的を 情 報 処 理 機 構 の 解 明 が 期 待 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 神 経 活 動 を 起源 と す る 電 気 ・ 磁 気信 号 の 非 侵 襲 計 測手 法 で あ る 脳 磁 図(magnetoencephalogram: MEG)を 用 い て 、 聴 覚 系 情 報 処 理 に 関 わ る 脳 磁 界 活 動 を 検 出 し、 聴 覚 野 の 情 報 処 理 特 性 を 調 べ る 事 を目 的 と し た 。 神 経活 動 を 変 調 さ せ る音 刺 激 と し て 音 楽 を利 用 し た 。 音 楽 は調 性 や 旋 法 ( 長 調 ・ 短 調 ) と い う 文法 や 、 和 声 学 や 対位 法 に よ り 体 系 化さ れ た 構 造 と 統 語 機能 を 持 つ 。 音 楽 は言 語 よ り も 音 韻 的 ・ 機 能 的 を 操 作 や単 純 化 が 容 易 で あり 、 更 に 、 聴 者 の注 意 や 期 待 を 自 発 的且 つ 自 然 に 誘 起 する 効 果 を 有 す る た め 、 聴 覚 系 の高 次 機 能 に 関 す る 実験 の 刺 激 と し て 適し て い る 。
本 研 究 で は 、ま ず 、 音 圧 と 周 波数 と い う 外 因 性 の音 響 要 因 に 対 す る 聴覚 野 の 基 本 的 を 神経 活 動 の 特 性 を 調べ る 為 、9種 類 の 刺 激 音 に よ り 誘 発 さ れ た 、 聴 覚 野 を 起 源 と す る 脳 磁 界 反 応Nlmの 振 幅 に つ い て 検 討 した 。 刺 激 音 と し て 、3種 類 の 周 波 数 を 持 つ 単音 、 ま た 、 そ れ らを 重 ね 合 わ せ た 二 和音 、 三 和 音 を 作 成し た 。 各 音 の 音 圧 は 、 音 波 形 上 の ピ ー ク 値 、RMS値 、 及 び 、 周 波 数 成 分 の ス ペ ク ト ル ピ ー ク 値 に よ り 定義 し た 。 更 に 、 これ ら の 音 圧 値 に 対 す るソ フ ト ウ ェ ア 上 での 設 定 値 、 出 力 先の イ ヤ フ ォ ン 先 端 にお け る 実 測 値 、 各被 験 者 の 聴 覚 閾 値 に よ り 計 算 し た 感 覚 値 を 夫 々 求 め た 。 各 刺 激 音 に よ り 誘 発 さ れ たNlmモ ー メ ン ト は 右半 球 に お い て 感 覚値 と の 相 関 が 最 も 高 く、 設 定 値 の 中 で はス ベ ク ト ル ピ ー ク値 に 強 く 依 存 す る 事が 分 か っ た 。 こ の知 見 を 基 に 、 音 圧 依 存 性 を 補 正 し た 結 果 、 左 半 球Nlmモ ー メ ン ト が 周 波 数 成 分 数 の 増 加 に 伴 い 有 意 に 増大 す る 事 が 明 ら かに を っ た 。 本 結 果 に より 、 音 圧 と 周 波 数と い う 外 因 性 の 要因 に 対 す る 左 右 半 球聴 覚 野 の 明 確 を 機能 分 化 が 示 唆 さ れ 、 ま た 、 聴 覚 反 応の 振 幅 を 指 標 と した 研 究 に お け る 刺激 音 の 音 圧 の 設 定 法に つ い て 、 閾 値 によ る 補 正 、 ま た は ス ベ ク ト ル ピー ク 値 の 調 整 が 必 須で あ る と い う 知 見が 得 ら れ た 。
次 に 、 和 音 の 知 覚 と 聴 覚 反 応Nlmの 振 幅 に つ い て 、 先 行 音 階 に よ る 調 性 的 ・ 旋 法的 を プ ラ イ ミ ン グの 影 響 を 調 べ た 。Probe−tone methodと いう 心 理 実 験 の 手 法 を参 考 に 、2オ ク タ ー プ の 上昇 長 調 ′ 短 調 音 階の 後、 主和 音 ま た は 関 係 調 和 音を 提 示 し た 。 そ の結 果 、 長 調 音 階 にプ ラ イ ミ ン グ さ れ た関 係 調 和 音 は 主 和音 よ り も 有 意 に 大 き いNlm反 応 を 誘 発 し た 。 一 方 で 、 短 調 音 階 に プ ラ イ ミ ン グ さ れ た 場 合 に は 、 主 和 音と 関 係 調 和 音 の 間に 差 異 が を か っ た 。 行動 実 験 に よ る 指 標で は 、 両 調 に お いて 主 和 音 は 安 定 、 関係 調 和 音 は 不 安 定で あ る と 弁 別 さ れ た が 、 短 調 に お け る 和 音 の 安 定 度 の 知 覚 の 差 異 は 小 さ か っ た 。 こ の 事 か ら 、 長 調に お け るNlm反 応 の 差異 は 、 よ り 明 確 を 安 定度 の 弁 別 に 関 係 があ る 事 が 示 唆 さ れた 。 調 性 ・ 旋 法 的 プラ イ ミ ン グ に よ り主 和 音 が テ ン プ レ ー ト と を り 、 入 力音 沽 テ ン プ レ ー ト音 と の 相 対 関 係 にお い て 分 析 ・ 処 理 され る と 仮 定 す る と、 和 音 の 知 覚 的 安 定 度 の 弁 別 は 、 注 意 を 向 け る 対 象 を 「 テ ン プ レー ト 音 以 外 」 と した 方 が 容 易 に 遂 行で き る 。Nlm反 応 に 対す る 調 性 と 旋 法 の 相 互作 用 は 、 テ ン プ レー ト 音 で あ る 主 和音 に 対 す る 感 覚 器 官の フ ィ ル タ リ ン グと 、 テ ン プ レ ー ト か ら 逸 脱 す る 関 係 調 和 音 に 対 す る 視 床 に お け るgatingの 重畳 効 果 と い う 、 選択 的 注 意 に 関 連 する ト ッ プ ダ
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ウ ン機 構 に 依 存 す る もの で あ る 事 を 示 唆す る 。
更 に 、 単 一 和 音の 連 続 聴 取 . と 、音 楽 的 毅 進 行 の 一 部と し て の 聴 取 と いう 、 異 を る 条件 下に おいて 誘発 された NlmのRMS振 幅 を 比 較 し た 。Nlm反 応 の 振 幅 は 、 前 者 で は 和 音 の 音 響 特 性 に 依 存 し て 差 異 を 示 し た が 、 後 者 で は 一 定 だ っ た 。 和 音 が 進 行 の一 部 と し て 提 示 され た 場 合 の 聴 覚 野 の活 動 は 、 先 行 す る和 音 に よ る プ ラ イミ ン グ 効 果 や 、 注 意 や 課 題 に 関 わ る内 因 性 の 要 因 等 によ り 変 調 さ れ 、 刺 激音 の 音 響 特 性 に よる 効 果 を マ ス ク した 可 能性 が 示 唆 さ れ た 。
最 後 に 、 よ り 内 因 性 の 要 因 に よ る 変 調 を 調 べ る 為 に 、4ま た は5音 進 行 の 完 全 終 止 型 和 音列(PC4/5)、途 中 で 係 留 す る 半 終 止 型 和 音 列(HC4/5)、 暖 味 に 終 止 す る 偽 終 止 型和 音 列(MC4/5)を 提 示 し た 後 の 無音 期 間 に お け る 脳 磁 界 活 動 に 焦 点 を 当 て 、 異 誼る 終 止 型 が 誘 起 する 期 待 や 音 の 想 起 の効 果 に つ い て 検 討し た 。 各 和 音 の 提示 後 約50 ms、100 ms、170 msにPlm、Nlm、P2m反 応 が 誘 発 さ れ た 。 更 に 、 完 全 終 止 型 以 外 の 和 音 列 の 最 終 和 音の 提 示1拍 後 の 無 音 其 耳 間に 明 瞭 を 活 動 ピ ーク が 観 察 さ れ た 。無 音 期 間 に お け る 最大 の 活 動 部 位 は 空間 フ イ ル タに 基 づ く 、 .ector Beamformer法 に より 聴 覚 野 付 近 に 推定 さ れ た 。 そ の 結 果、 無 音 反応 の活動 部位 と和音 進 行 列 の 第1音 目 に よ り 誘 発 さ れ たNlm反 応 の 信 号 源 の 位 置 に 統 計 的 有 意 差 は を か っ た 。 聴 覚 野 に お け る 無 音 反 応 の 活 動 強 度 の 時 間 変 化 をfixed dipole法 に よ り 計 算 し た 結 果 、 約80 msと 約150ま た は200 msに 有 意 を 活 動 ピ ー ク が 観 察 さ れ 、 第2成 分 の 潜 時 は 終 止 型 によ り 異 誼 る 事 が 分 かっ た 。 音 楽 聴 取 では 、 連 続 や 非 連 続、
抑 揚 や 終 止 等 の 内 因 性 の 感 覚 が 生じ る 。 こ れ ら の 効果 は 、 音 の 提 示 順 列、 即 ち 、 音 の 周 波数 の 序 列 的 変 化 に伴 う 次 音 へ の 期 待 に 関 連 す る と 考 えら れ て い る 。 音 に対 す る 期 待 や 内 的 誼想 起 に 関 す る 情 報処 理 基 盤 と し て 、前 頭 葉 と 聴 覚 野 を 含 む 神 経 回 路 モ デル が 提 案 さ れ て いる 。 期 待 と い う 認 知活 動 に は 具 体 的 を感 覚 情 報 の 内 的 を想 起 が 不 可 欠 で あ り 、 こ の モ デ ル の中 で 聴 覚 野 は 保 持し て い る 入 力 音 の 音響 特 性 に 関 す る 情報 処 理 の 記 憶 を 提供 す る と い う 中 継 的 役 割 を 果 た す と考 え ら れ て い る 。こ れ ら の 事 か ら 、 本実 験 に お い て 観 察さ れ た 聴 覚 野 の 活動 は 、 和 音 列 の 進 行 を 終 止 へ と 導 く音 の 内 的 橡 イ メ ージ の 生 成 に 関 わ っ てお り 、 特 に 半 終 止の 後 の 無 音 反 応 は明 確 を 周 波 数 情 報 を 伴 う 音 の 想 起 、 ま た 、 偽 終止 の 後 の 無 音 反 応は5拍 目の 入 カ に 対 す る 時間 情 報 の み を 伴 う音 の 想起 を 反 映 す る 事 が示 唆 さ れ た 。
以 上 、 本 研 究 に よ っ て 、 聴覚 野 に お け る ポ トム ア ッ プ 処 理 の 特 性と し て 、 刺 激 音 の音 圧 や 周 波 数 と いっ た 外 因 性 の 要 因 に 対 す る 依 存 と 、 順 応や 臨 界 周 波 数 帯 域幅 に 関 連 す る 神 経 的特 性 の 相 互 作 用 、更 に 、 自 発 的 を 注意 や 期 待 に 関 わ る ト ッ プ ダ ウ ン 処 理 に お け る 振 幅 変 調 と 時 間 特 性 が 明 ら か に を っ た 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
音楽の構造的聴取に伴う聴覚性脳磁界活動の変調
本研究は,音楽という音情報の素材を利用して,ヒトの高次機能を支える注意や期待な どの内的情報処理に関し,その一端としての大脳聴覚野・神経活動の時空間特性を捉える 事を目指したものである.音情報は耳から入カされ,聴覚系上向神経路を経て大脳皮質聴 覚野に至る.聴覚野の活動は刺激音の音響特性に依存するだけではなく,視床のゲート機 能や聴覚野から末梢器官へ投射される遠心経路に関連する注意効果などにより変調を受け る.本研究では,大脳皮質における第一の処理地点である聴覚野に焦点を当て,外的要因と して楽音のもつ音響パラメータや,内的要因として音楽聴取によって誘起される注意や期
,待に依存する脳磁界反応の時系列変化を捉え,神経活動の特性を明らかにする事を目的と している.
.まず,音圧と周波数多重という外因性の音響要因に対する聴覚野の基本的を神経活動の 特性を調べるため,単一周波数音および協和音である二和音,三和音の音圧を変化させた 各種の刺激音により,聴覚野に誘発される 脳磁界 Nlm 反応について検討している.各音の 音圧は,時間領域及び周波数領域に茄ける特性値,すなわち音波形上のピーク値,RMS 値,
周波数成分のスペクトルピーク値により定義した.脳磁界計測と解析の結果,各刺激音に より誘発されたNlm 反応のモーメント強度は,右脳半球においてRMS 値及びスペクトル ピーク値に強い依存性を示した.また,左脳半球のNlm モーメントは周波数成分数の増加 に伴い有意に増高した.以上から,音圧の時間平均値であるスペクトルピークやRMS 値に
.対する感度は,右脳半球が音情報の処理において長い分析時間窓を持つことに起因すると 推察された.一方で,左脳半球の周波数成分数に対する高い感度は,左脳が固有の短い分析 時間窓をもっため,周波数の差分成分が時間波形上に作る速い振幅変化を検出することに よると推察された.即ち,本結果から,左右脳半球聴覚野における音情報の分析が,それぞ れ周波数領域と時間領域に選択性を持っことが示唆された.
次に,和音の知覚とNlm 反応の振幅について,和音に先行する音階が与えられたときの
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也 一
一
真 剛
孝
城 原
水
栗 河
清
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
調性・旋法的なプライミングの影響を調べている.その結果,長調音階にプライミングさ れた短調和音は長調和音よりも有意に大きいNlm 反応を誘発する事が分った.一方で,短 調音階 にプライ ミング された場 合には ,長調和音と短調和音の問にNlm 振幅の差異がな かった.このNlm 反応の差異は,長調音階において和音の安定度が明確に弁別されたこと と関係している,調性・旋法的プライミングにより長調和音がテンプレートとなり,それ との相対関係において入力音が分析・処理されると仮定すると,和音の知覚的安定度の弁 別は,注意を向ける対象とテンプレート音との比較で容易に遂行できる.即ち,観測された Nlm 反 応に対す る調性 と旋法の 相互作 用は,テンプレート音である長調和音の受容とテ ンプレートから逸脱する短調和音に対するゲート作用の重畳効果によると考えられた.こ の こ と は , 選 択 的 注 意 に 関 連 す る ト ッ プ ダ ウ ン 機 構 を 示 唆 し て い る . さらに,自発性の内的要因による聴覚野の変調を調べるために,4 音または5 音進行の完 全終止型和音列,途中で係留する半終止型和音列,曖味に終止する偽終止型和音列を提示し た時の脳磁界反応を計測しでいる.その結果,完全終止型以外の和音列において,最終和音 終了後の無音期間に,聴覚野を起源とする明瞭を活動ピークが約80 ms と約150 ms ,をい し200 ms に観察された.音楽聴取では,和音の進行にともない連続や非連続,抑揚や終止 等の内的た感覚が生じる.これらの現象は,音の提示順列,すなわち周波数の序列的変化に ともない順次生じる,次の音への予期や期待に関連している,ここで,音に対する期待や内 的な音の想起に関する神経基盤として,前頭葉と聴覚野を含む神経回路モデルが提案され ている.期待という認知活動には具体的な感覚情報の想起が不可欠である.このモデルの 中で,聴覚野は保持された入力音の音響特性に関する情報パターンを提供するという中継 的役割を果たすと考えられている.これらの事かち,本実験において観察された無音期間 の聴覚野の活動は,和音列の進行を終止へと導く音の内的なイメージの生成に関わってい ることが示唆された.半終止のあとは明確な周波数情報をともなう音が想起され,他方,偽 終止のあとは次音に対する時間情報のみの音が想起されることで,各々異なる時間特性の 反応が誘起されたと考えられた.
以上を要するに,本研究はヒト聴覚野の神経活動における外因性,内因性の要因による変 調の特性を明らかにし,聴覚系情報処理特性の解明に貢献したものであり,脳神経科学およ び神経情報科学に対する寄与は大きいと評価できる.よって著者は,北海道大学博士(情報 科学)の学位を授与される資格があるものと認める.
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