博 士 (情 報科学 )栗林 夏城
学 位 論 文 題 名
数 値 解 析 モ デ ル に よ る 電 子 写 真 の 印 写 プ ロ セス の 研 究 学 位 論 文 内 容 の 要旨
電子写真方式の印写システムは1938年にその基本原理が発明されて以来,米Xerox社を中 心に 多くの企業で研究が進められ1980年頃にはほば現在の印 写方式が確立された。それは帯 電し た感光体上に可視光を用いて文字や図形を描き,その結果得られた静電潜像上にトナーを 現像 し,それを用紙上に転写して熱定着するもので,現在でも感光体,現像剤等の材料開発や 種々 の印写プロセスの高性能化が進められている。
初 期には複写機として製品化されていたが,コンピュータの発展とともにそのデータ出力機 器と してのレーザプリンタの需要が増し,今日では電子データ化された図形,写真や階調画像 を印 刷するための印刷機としての需要も高まってきている。したがって従来の文字印字のみで な く画 像 を高 精細 に印 刷で きる よう な解 像度 ,均 一性 ,安 定性 な どが 求め られ ている。
凹 凸の版を製作する必要があるオフセット印刷機に比べて,可変の電子データに応じて任意 の画 像を1枚ずつ印刷することが できるレーザプリンタは,多種少量部数印刷や即座の要求に 応 じた単発的な印刷(POD:Print On Demand)に対して有利であ る。しかし解像度においては オフ セット印刷機には及ばない。また,レーザプリンタの場合,1画素は照射されたレーザビ ーム 径(30―60皿m)の面積に凝集するトナー粉体であるため,粒状感(ザラツキ感)がっきま とう 。一方,インクの場合は表面張カにより1画素は自然になめらかな円形に近くなり,粒状 感の ない均一な画像が得られる。今後のレーザプリンタにおける重要課題は高画質化である。
電 子写真印写プロセスは帯電,露光,現像,転写,定着のプロセスからなり,それらは感光 体上 での画像形成(帯電,露光,現像)とその後の用紙上への画像転写・定着(転写,定着)
に 分 け る こ と が で き る 。 以 下 に , 各 プ ロ セ ス の 目 的 を 簡 単 に 箇 条 書 き し た 。 ・ 帯電:感光体上の均一帯電
・ 躍光:光照射による感光体上の静電潜像の形成 ・ 現像:感光体上のトナー像形成
・ 転写:トナー像の用紙上への転写 ・ 清掃:感光体上のトナー、紙粉等の清掃 ・ 定着:用紙上トナーの熱溶融定着
用 紙上に定着された画像が最終的な印刷出カとなるが,高画質を得るためにはそれまでの各 印 写 プ ロ セ ス で の 高 性 能 化 , 最 適 化 が 必 要 に な る こ と は 言 う ま で も な い 。 し かし,それぞれのプロセスにおいて詳細な現象解析は十分になされていない。そのため,
従来 より経験的,試行錯誤的な方法で製品開発が行われてきており,また高画質化のための方 ―1683―
策にっいては未だに確たる方向性を見い出せていなぃ。この原因は印写プロセスが様々た要因,
現象が絡み合った複雑な現象であり,それらの影響を切り分けた詳細な実験を行うのが困難で あることなどの理由で,まだ現象を十分に把握できていないことである。各印写プロセスにお いて現象の本質を見極め,様カな影響も考慮してより詳細に現象を解明することは印写プロセ スの最適化,高画質化のために不可欠である。
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本研究はレーザプリンタ開発における印写プロセスの最適化や高画質化を目的として,数値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ る 現 象 の 解 明 と 把 握 に 取 り 組 ん だ も の で あ る 。 第2章 で,ま ず印写プ ロセス全体を概観して,感光体上のプロセスでは電荷のっり合いが成 り立っように最適化すべきであることを示した。
第3章 ではコ ロナ帯電 器による感光体への帯電電流を予測するために,コロナワイヤ近傍の 放電をTownsendの放電理 論を用 いて解析 し,得 られた知見をもとに帯電機内空間のイオン電 流分布を有限要素法で計算した。帯電器の形状,ワイヤの配置,ワイヤ印加電圧などを入カデ ータとし て感光 体上の帯 電電流分布を実験値と5%以内の精度で予測でき,実機開発にも適用 した。
第4章 では現 像プロセ スにおいて長年採用され続けているが,未だに微細な現象については 十分には 把握で きていな い2成 分現像 プロセス の中の 磁気ブラ シ現像 の現象解 明に取り組ん だ。その結果,磁性粉体粒子であるキャリア粒子が磁カの作用によって磁気ブラシを形成しな がら搬送されていく現象をシミュレートし,定性的な挙動特性を得ることができた。まず,解 析の方針として,粉体粒子の挙動をシミュレートするための計算手法である個別要素法(DEM; Distinct Element Method)を用 いて,個 々の磁 性粉体粒子の挙動を求める必要があることを 示した。次に,磁場を作っている磁気ロール内の永久磁化の分布を求めるために,有限要素法 による磁気ロールの着磁シミュレーションを行った。さらに,凝集した磁性粉体粒子に働く磁 カを知る ために は,個々 の粒子の表面上で異なっている磁束密度を詳細に計算してMaxwellの 応カを求める必要があることを示し,これを行うために境界要素法で粒子表面を離散化して磁 場計算を行った。計算によって得られた磁気ブラシの挙動特性は実験で検証することはできな いが,従来より知られていた経験的事実と一致しており,高画質化のための新しい知見も得る ことができた。
第5章で は ,他 の2っのプロ セスにっ いて簡 易モデル による シミュレ ーショ ンを示し た。
5.1飾で は2成分現像 プロセス の中の トナーと キャリ アの混合撹拌装置の最適化のためのシミ ユレーションを行った。混合撹拌装置内に補給されたトナーはキャリア粒子群の中を流動拡散 しながらキャリアと接触して摩擦帯電するとともに,キャリアと均一に混ざり合う必要がある。
この現象 を簡易 的な1次元流動拡散としてモデル化して解析し,装置内のトナー分布やトナー の帯電量分布について定性的な知見を得ることができた。5.2節ではローラ転写プロセスにつ いて,転写電流やトナー転写効率を予測するための解析を行った。電圧印加された導電性のゴ ムローラ と感光 体とに挟 まれた 用紙やト ナー層の 中の電界強度や電流密度について疑似的な 2次 元 モ デル で 計 算し , ロ ーラ の 抵 抗 値や 転写電 流の最適 化に利 用できる ことを 示した。
最後に今後の課題として,電子写真の印写プロセスが粉体挙動や静電気などに起因する微細 な領 域 の 現象 で あ るた め , その 解 明 に は微 視 的 な数 値 解 析が 必 要 である ことを 述べた。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 本間利久 副 査 教 授 五 十 嵐
副査 教授 北 裕幸
副査 教授 板垣正文(大学院工学研究科)
学 位 論 文 題 名
数値解析モデルによる電子写真の印写プロセスの研究
近年,電子 写真の印写プロセスの数値解 析に関する研究が盛んに行 われている。それらはプ口 セスの最適化 や高画質化を目的としたもの であるが,多くは現象を簡 易化したモデルで取り扱い 詳細までは立 ち入っていない。特に,微小 な帯電粉体(トナー)や磁 性粉体(キャリア)の微視 的 な 挙 動 の 解 析 は 未 開 拓 の 分 野 で , 今 後 の 発 展 が 待 た れ て い る 状 況 に あ る 。 本論文は,こ のような現況にある印写プ口 セスの現象解明や最適化に ついて,様々な数値解析手 法を用いて現 象の詳細を明らかにし,特に磁性粉体(キャリア)挙動に関しては微視的に解明し,
印 写 プ ロ セ ス 開 発 上 の 有 益 な 知 見 を 得 る こと を目 的 とし て研 究に 取り 組 んだ もの であ る 。 第2章 で ,まず印写プロセス 全体を概観して,感光体上の プロセスでは電荷のっり合 いが成り 立つように最 適化すべきであることを示し た。
第3章 で はコロナ帯電器によ る感光体への帯電電流を予測 するために,コロナワイヤ 近傍の放 電 をTownsendの 放 電理 論を 用い て解 析し,得られた知見を もとに帯電機内空間のイオ ン電流分 布を有限要素 法で計算した。帯電器の形状 ,ワイヤの配置,ワイヤ印 加電圧などを入カデータと し て感 光体 上の 帯 電電 流分 布を 実験 値 と5% 以 内の 精度 で予 測でき,実機開発にも適 用した。
第4章 で は現像プ口セスにお いて長年採用され続けている が,未だに微細な現象につ いては十 分 には 把握 できていない2成分 現像プ口セスの中の磁気ブラ シ現像の現象解明に取り組 んだ。そ の結果,磁性 粉体粒子であるキャリア粒子 が磁カの作用によって磁気 ブラシを形成しながら搬送 されていく現 象をシミュレートし,定性的 な挙動特性を得ることがで きた。まず,解析の方針と し て, 粉体 粒子 の 挙動 をシ ミュ レー ト する ため の計 算手 法 であ る個 別要 素 法(DEM:Distinct Element Me thod)を用いて,個々の磁性粉体粒子の挙動を求める必要があることを示した。次に,
磁場を作って いる磁気ロール内の永久磁化 の分布を求めるために,有 限要素法による磁気ロール の着磁シミュ レーションを行った。さらに ,凝集した磁性粉体粒子に 働く磁カを知るためには,
個 々の 粒子 の表 面 上で 異な って いる 磁 束密 度を 詳細 に計 算 してMaxwellの応カを求め る必要が あることを示 し,これを行うために境界要 素法で粒子表面を離散化し て磁場計算を行った。計算 によって得ら れた磁気プラシの挙動特性は 実験で検証することはでき ていないが,従来より知ら れ て い た 経 験 的 事 実 と 一 致 し て お り , 高 画質 化の た めの 新し い知 見も 得 るこ とが でき た 。 第5章 で は , 他 の2つ の プ 口 セ ス に つ い て簡 易モ デ ルに よる シミ ュレ ー ショ ンを 示し た 。 5.1節で は2成分 現 像プ 口セ スの 中の ト ナー とキ ャリ アの 混 合撹 拌装 置の 最 適化 のた めのシミ
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ユレーションを行った。混合撹拌装置内に補給されたトナーはキャリア粒子群の中を流動拡散し ながらキャリアと接触して摩擦帯電するとともに,キャリアと均一に混ざり合う必要がある。こ の現象を簡易的な1次元流動拡散としてモデル化して解析し,装置内のトナー分布やトナーの帯 電量分布について定性的な知見を得ることができた。5.2節ではローラ転写プロセスについて,
転写電流やトナー転写効率を予測するための解析を行った。電圧印加された導電性のゴムローラ と感光体とに挟まれた用紙やトナー層の中の電界強度や電流密度について疑似的な2次元モデ ル で 計 算 し , ロ ー ラ の 抵 抗 値 や 転 写 電 流 の 最 適 化 に 利 用 で き る こ と を 示 し た 。 最後に今後のさらなる取り組みについても,電子写真の印写プロセスが粉体挙動や静電気など に起因する微細な領域の現象であるため,その解明には微視的な数値解析が必要であることを述 べた。
これを要するに,著者は,電子写真の印写プロセスについて,微視的な現象にまで立ち入って 数値解析を行った結果,プロセスの基礎的現象の解明や最適化について新しい知見を得たもので あり,それらの解析手法や結果は電子写真技術の発展に貢献するところ大なるものがある。よっ て著 者 は,北 海道大学 博士(情 報科学 )の学位 を授与 される資 格ある ものと認 める。
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