博 士 ( 歯 学 ) 北 田 秀 昭
学位論文題名
The efi ・・.eCtSOfplatinum _COntainlnganti ―CanCerdrugS onNa 十 , K 十 ― ATPaseaCtivityinplgkidneyand humanrenalprOXlmaltubuleepithelialCe11S (白金含有抗癌剤がブ夕腎 Na +, K ゛― ATPase 活性および ヒ ト 腎 由 来 近 位 尿 細 管 細 胞 に 及 ぼ す 影 響 )
学位論文内容の要旨
【目的】白金含有抗癌剤による腎Na十,K十一ATPase活性阻害と腎毒性発現との関 連 を明ら かに する 事を 目的 に, ヒト 腎由来近位尿細管細胞(HRPTE cell)とブタ 腎臓から精製したNa十,K十‑ATPaseを用いて阻害様式の詳細な検討や,各種薬剤 に よる活 性阻 害か らの 回復 効果 やNa+,K十‑ATPase分子構造変化の影響などにつ いて検討した.
【 材料と 方法 】Na+,K十‑ATPaseはブ タ腎髄質外帯部より調整したミクロソーム をDOCお よ びNal処 理 し て 精 製 し た . ま たN― エ チ ル マ レ イ ミ ド(NEM)処 理 酵 素の調 整はNagaiら の方 法に 準じた .Na十,K十‑ATPase活性測定はATPの加水 分解により生じた無機リンをChifflet法により測定した.
実験は以下に関して行なった・
1)HRPTE cellに種 々の 濃度 の白金 含有 抗癌 剤( シス プラ チン ,ネダプラチ ン , カ ル ボ プ ラ チ ン ) を添 加 し て 培 養 し , 細 胞 の 生 存 度 を 評 価 し た . 2)前 述の白金含有抗癌剤が精製腎Na+,K十ーATPase活性に与える影響につい て調べた.
3)シ スプラチンによるNa十,K十‑ATPase活性阻害がチオール化合物などによ り回 復す るか 否か につ いて2ーメ ルカ プト エタ ノー ル(2―ME),還元型グ ル タ チ オ ン(GSH), 酸 化 型 グ ル タ チ オ ン(GSSG), シ ステ イ ン(Cys), チ オ硫 酸ナ トリ ウム(STS), 硫酸ナ トリ ウム(Na2SO。 ), フオ スフオマイシ ン(FOM)を用いて調べた.
4)Na十,K十一AT Pase活性の回復実験の結果から,シスプラチンによる活性阻 害はNa十 ,K゛‑ATPaseのチ オー ル基への直接的な化学結合により生じるこ と が 示 唆 さ れ た. そこ でNEM処 理に よりNa十,K十 一ATPase活性 中心近 傍 ―98―
の チオ ール 基を 保護 し, シスプラチンによる活性阻害への影響を調べた.
5)前述のNEM処理Na゛,K゛−AT Paseに対するシスプラチンによる阻害の結果 か ら,Na゛ ,K゛‑ATPaseの分子構造変化がシスプラチンの感受性に影響を 与えることが推察された.Na゛,K゛‑AT Paseはナトリウム結合型とカリウ ム結合型での構造が明らかに異なる事が知られている.そこでNa゛.K゛ー ATPaseの構 造変 化と シス プラチンによる活性阻害の関連を検討するため,
ナ ト リ ウ ム イ オ ン と カ リ ウ ム イ オ ン の 影 響 に つ い て 調 べ た ,
【結果】
1)3種 の 白 金 含有抗 癌剤 は濃 度依 存性 にHRPTE cellの生 存細 胞数 を減 少さ せ , そ の 程 度はシ スプ ラチ ン, ネダ プラ チン ,カ ルボ プラ チン の順 に強 かった.
2)シ スプ ラチ ン, ネダ プラ チン ,カ ルボ プラ チン は濃 度とプレインキュベ ー ショ ン時 間に 依存 してNa十,K十‑ATPase活性を阻害した.その強さは,
シ ス プ ラ チ ン、ネ ダプ ラチ ン、 カル ボプ ラチ ンの 順で あり ,HRPTE cell の生存数を減少させる強さの順序と一致した.
3)シスプラチンにより低下したNa十,ぐーATPase活性はチオール基を持つ2ー ME,Cys,GSH,STSの 添 加 に よ り , 程 度 の 差 は あ る も の の , そ の 濃 度 と イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン 時 間 に 依 存 し て 回復 が 認 め ら れ た , 一 方GSSG, Na2S04,FOMで は シ ス プ ラ チ ン に よ っ て 阻 害 さ れ た 活 性 は 回 復 し な か った.
4)シスプラチンによるNEM処理Na十,ぐ−An)aseの活性阻害は,シスプラチ ンO.5mM存 在 下 で はNEM未 処 理 酵 素 の 方 がNEM処 理 酵 素 よ り 強 く , シ ス プ ラ チ ン2.OmM存 在 下 で は 逆 にNEM処 理 酵 素 の 方 が 阻 害 は 強 か った.
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5)ナ トリ ウム とカ リウ ム非 存在下のNr.K十―ATPase活性はO,5mMのシスプ ラ チ ン 存 在 下 で180分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン す る と5% 以 下 に 低 下 し た . し か し カ リ ウ ム16mMの み で は40% , ナ ト リ ウ ム160mMの み , あ る い は ナ ト リ ウ ム160mMと カ リ ウ ム16mM存 在 下 で は50ワ 。 に そ れ ぞ れ 活性は低下した.
【 考察 】白 金含 有抗 癌剤 の投 与量規制因子は腎毒性であるが,その詳細は必ず しも明確ではない.Na十,K゛一ATPaseは腎で重要な働きをしていること,シスプ ラ チンがNa十,K゛−ATPase活性を阻害することから,白金含有抗癌剤による腎 Na゛,K十‐ATPase活性阻害が腎毒性に関与している可能性があると考え,本研究 を おこ なっ た. まずHlけrEcenにシ スプ ラチ ン, ネダ プラ チン,カルボプラチ ンが与える影響について検討し,さらにブタ腎からNa゛,K゛−ATPaseを精製して ―99―
詳細 に検 討し た. その結 果, 三剤 とも 濃度 に依存して生存細胞数を減少させ,
濃度とプレインキュベーション時間に依存してNa゛,K十‑AT Pase活性を阻害した.
その 強さ はシ スプ ラチン 、ネ ダプ ラチ ン、 カルボプラチンの順であった.本実 験結果は腎Na十,K゛‑ATPaseの阻害が白金含有抗癌剤による腎毒性の機序の一因 である事を示唆する.
臨床において腎毒性軽減目的にチオール基を持つ薬剤が使用されることから,
シスプラチンにより阻害されたNa゛,K゛一AT Pase活性のチオール化合物による回 復 効 果 に つい て 検 討 し た 結果 ,チ オー ル基 をも つ2ーME,Cys,GSH,STSに よ り部 分的 に回 復効 果が認 めら れた .そ の回 復機序については明確にはできなか ったが,チオール化合物はシスプラチンよりもNa十.K十‑AT Paseのチオール基と 高い 親和 性が あり ,酵素 とシ スプ ラチ ンと の結合を解離させて結合することで 活性を回復している可能性が考えられた.そこでNEM処理によりNa+.K十‑AT Pase の活 性発 現に 必須 とされ る活 性中 心近 傍の チオール基を保護してシスプラチン の影 響を 検討 した が,シ スプ ラチ ンに よる 活性阻害を効果的に保護することは なか った .こ れは シスプ ラチ ンの 結合 部位 がわれわれの予想した結合部位と異 な る た め と考 え ら れ , 今 後 さ ら に 検 討 す る 必 要 が あ る. しか し,NEM処理 の 有無 によ るシ スプ ラチン の感 受性 はシ スプ ラチン濃度により異なっていたこと から ,NEM処理 によりNa十,K十‑ATPaseの分子構造に変化が生じてシスプラチン との 親和 性に 変化 が生じ たこ と, さら にシ スプラチンの結合部位が複数存在す る可能性が示唆された.Na十,K十‑ATPaseの構造変化については広く研究されて おり ,そ の特 徴と してナ トリ ウム 結合 型と カリウム結合型の構造は明らかに異 なる事が知られている.そこでNa十,K十‑ATPaseの構造変化とシスプラチンによ る活 性阻 害の 関連 を検討 する ため ,ナ トリ ウムとカリウムイオンの影響につい て検 討し た. その 結果, ナト リウ ムと カリ ウム非存在下では相対活性は著明に 低下し,この条件でのNa゛,K゛−ATPaseの分子構造はシスプラチンとの結合部位 が広 く露 出す る形 になる ため と考 えら れた .さらにシスプラチンの結合部位は カリ ウム 結合 型の ほうが ナト リウ ム結 合型 よりも露出することが示唆された。
すなわち,シスプラチンのNa゛,K十―ATPaseへの結合にはNa゛,K゛‑ATPaseの分子構 造変化が影響を与えることが示唆された.
学位論文審査の要旨
学位論文題名
The effCtSOfplatinum ―COntalnlnganti ‐ CanCerdrugS onNa 十 , K 十 ― ATPaseactivityinpigkidneyand humanrenalprOXimaltubuleepithelialCe11S
( 白 金 含 有 抗 癌 剤 が ブ 夕 腎Na+,K+―ATPase活 性 お よ び ヒ ト 腎 由 来 近 位 尿 細 管 細 胞 に 及 ぼ す 影 響 )
本 研究 は口 腔癌 をは じめ とす る固形 癌治 療に 広く 用い られ ている白金含有抗癌 剤による腎毒性発現と腎Na゛,K゛‑ATPase活性阻害との関連を検討する事を目的に,ヒ ト腎由来近位尿細管細胞(HRPTE cell)とブタ腎臓から精製したNa゛,K十一ATPaseを用い て 白金 含有 抗癌 剤に よる 生存 度へ の影響 や酵 素活 性の 阻害 様式 の詳細な検討,各種 薬剤による活性阻害からの回復効果やNa゛,K゛‑ATPase分子構造変化の影響などにっい て検討したものである.
ま ずHRPTE cellに3種の白 金含 有抗 癌剤 を種 々の 濃度 で添 加し て培 養し ,細 胞生 存 度を 評価 した とこ ろ, 臨床 的な 腎毒性 の強 さに 一致 して シス プラチン,ネダプラ チ ン, カル ポプ ラチ ンの 順に ほば 濃度依 存性 にHRPTE cellの生 存細胞数を減少させ た.そこで腎精製Na゛,K゛ーATPaseを用いて活性への影響を調べたところ,3剤ともプ レインキュベーション時間に依存してNa゛,K゛ーATPase活性を阻害し.その程度もシス プ ラ チ ン , ネ ダ プ ラ チ ン , カ ル ボ プラ チ ン の 順 で あ り , 白 金 含 有 抗 癌 剤 に よ る Na゛,K゛ーATPase活性の阻害が腎毒性の一因である可能性が示唆された.っぎにシスプ ラ チン につ いて 詳細 に検 討し た, シスプ ラチ ンに よる 腎毒 性は ある種の含硫化合物 により軽減されることが知られているため,シスプラチンにより低下したNa゛,K゛―
ATPase活性 が回 復す るか 否か を各 種薬剤 で検 討し たと ころ ,程 度の差はあるものの チ オー ル基 を持 つ2−ME,Cys,GSHなどの添加によりその濃度とインキュベーション 時 間に 依存 して 回復 が認 めら れた .一方,チオール基を持たないGSSG,Na2S04,FOM で はシ スプ ラチ ンに よっ て阻 害さ れた活 性は 回復 しな かっ たこ とから,チオール化
政 明
人
善 邦
正
川 木
村
北 鈴
田
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
合物はNa゛,K゛‑ATPase活性の回復により腎毒性を軽減する可能性が示唆された,さら にシスプラチンの結合部位を検討するためNEM処理Na→,K゛ーATPaseを用いて活性阻害 の変化を調べたところ,NEM処理によるNa→,K゛ーATPaseの分子構造に変化が生じてシ ス プラ チン との 親和 性に 変化 が生 じた こと ,さら に結 合部位が複数存在する可能性 を示唆する結果であった.そこでナトリウムとカリウム濃度を変化させてNa゛,K゛−
ATPaseの分 子構 造変 化と の関 連を 検討 した ところ ,カ リウムよルナトリウムのほう が活性阻害に対する保護効果が高いことから,シスプラチンのNa゛,K゛―ATPaseへの結 合 に はNa゛ ,K゛ ―ATPaseの 分 子 構 造 変 化 が 影 響 を 与 え る こ と が 示 唆 さ れ た ,
試問 では ,本 論文 の内 容と その 関連 事項 につ いて質 疑応答がなされたが,これら に 対し て学 位申 請者 は本 研究 から 得た 知見 と文 献を引 用して適切な回答を行い,本 研 究は もと より ,専 門お よび 関連 領域 につ いて も十分 な学識と理解を有しているこ とが認められた.
本研 究は ,現 在口 腔領 域の みな らず 悪性 腫瘍 に頻用 されている白金含有抗癌剤の 腎毒性の作用機序解明とその予防に向けて,白金含有抗癌剤と腎Na゛,K゛―ATPaseとの 関連を検討した極めて有意義な研究であると判断された,
以上より,審査委員は全員,本研究が学位論文に十分値し,申請者が博士(歯学)
の学位に値するものと認められた.