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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 勝 俣 一 晃

学 位 論 文 題 名

ヒト内在性レトロウイルスの臓器特異的発現とサイトカ インによる試験管内発現誘導に関する研究

学位論文内容の要旨

  酵母から ヒトに至 る全ての真 核細胞に はその染 色体内に 感染性レ トロウイルスと相同性 の あ る 塩 基 配 列 が 多 数 存 在 し て い て 、 そ れ ら は 内 在 性 レ ト ロ ウ イ ル ス (endogenous retroviruses, 以 下ERV) と 呼 ばれ る 。こ れらERVは感 染性レト ロウイル スの宿主胚 細胞 ゲノムヘ の組み込 みに由来し たり、一 部のもの は転移性 遺伝要素 (トランスポゾン)が進 化したも のと考え られている 。多くは 終止コド ンの形成 や欠失な どにより不活化されてい るが 、 一部 に はmRNAの発 現 や蛋 白 の 産生 が可能 なものも あり、細胞 の分化や 増殖など の 生理的機 能あるい は発癌や免 疫異常な どの病因 に、直接 または間 接に関与していることが 予想 さ れる 。実 際、マウ スなどで はERVが胸腺 レペルで の免疫の発 生や自己 免疫疾患 の病 因に 深 く闃 わっ ているこ とが知ら れている 。ヒトで も現在まで に多くのERVが単離さ れ、

そのうち のいくっ かは機能的 遺伝子と 考えられ ているが 、それら の生物学的な意義はまだ ほとんど 分かって いない。

  我 々 は ヒ トERVの 基本 的 性 格の 解 析 の一 環 とし て い くっ か のヒ トERVにつ い て種 々 の 組織 や 培養 細 胞 での 発 現 を調 べ てき た 。そ れらの検 討と他の施 設からの 報告から 、ERV3 が 生 物 学 的 活 性の あ るERVの ー つで あ るこ と が 分か っ て きた 。ERV3は第7染 色 体上 に 位 置す る1コ ピー型 のC型ERVで、 プロウイ ルスの全 長を有し 、env(外被膜) 領域に完 全な読 み取 り 枠を 残し ているこ とからEnv糖 蛋白の産 生が予想 されている 。その生 物活性の 根拠 は次 の2点 に要 約 さ れる 。i) mRNAの 発現 量 が 組織 や 培養 細 胞 の種 類 によって 異なり、

組織によ っては個 体間で差が ある。 11) いくつかの培養細胞ではある種の刺激によりその 発現量が 変化する 。

  本研究で は、I)  ヒ トERVのmRNA発現の 臓器間差 を正確に 知る目的 で、、剖検臓器を用 いた ノ ザン プ ロ ット 解 析 によ り 個々 の 個体 内での発 現の比較検 討を行っ た。さら にERV3 の 恒 常 的 な 高 発 現 を 示 し た 副 腎 に つ い て 、 そ の 局 在 を 明 ら か に す る 目 的 で |nsitu hybridizationを試 み た 。II) 以前 報 告さ れ た ヒト 培 養尿 細 管 上皮 細 胞(hKEC)やPBMC 以外の正 常細胞で の発現様式 を調べる 目的で、 多くの疾 患への関 与が推測される血管内皮 細 胞 の モ デ ル とし て ヒト 臍 帯 静脈 由 来血 管 内 皮細 胞 (HUVEC)を 用 い 、競 合PCR法 を 利 用 し た 定 量 的RT‑PCR法 に よ り 各 種 サ イ ト カ イン 刺 激 後のERV3 mRNA量 の 変化 に つい て 検討した 。

  I) で 対 象 と した ヒ トERVは 、ERV3の他 、 同じ く プ ロウ イ ルス の 全 長を 有 す るC型ERV でenv領 域 に 完 全な 読 み取 り 枠 を持 つ 多コ ピ ー 型の ス4‑1、humanTlymphotropic virus typeIとgag領域で 高いホモ ロジーを持 ちぎag相当 領域から の蛋白の 産生が証明されている HRES.1、マ ウ ス内 因 性 スー パ ー抗 原 のMls(minor lymphocyte stimulatory antigen)

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を産生する事で知られる内在性マウス乳癌ウイルス(Mtv)とhom ologyの高いHER V‑K、 ERV3とのクロスハイプリダイゼーションから当教室で新たにその断片を単離したERVの ーつであ るSY‑3の5種 類である。剖検臓器を用いたノザンプロット解析の結果、HERV‑

KとSY‑3で は検索した いずれの臓器においてもmRNAの発現は確認できず、またHRES‐1 では全ての臓器において発現を認めたものの発現量に臓器間差はなかった。一方ERV3と A 4‑1では複数の正常臓器での発現と発現量の臓器間差を認めた。特にERV3は、21週胎 児と新生児を含む全ての個体で、副腎での発現が他の臓器と比較して高度であった。さら に、9例の正常副腎手術材料より抽出したRNAを用いて丿ザンプロット解析を行った結果、

性別、年 齢を問わず いずれの個 体でもERV3mRNAの強い発現を認めた。また、7例の副 腎皮 質 腺腫 ( 臨床 診 断 ;原 発 性ア ル ドス テ ロン 症2例 、C ushing症候群3例、pre‑

Cushing症候群1例、non‑hyperfunctioning1例)と5例の褐色細胞腫手術材料のノザン ブロット解析では、ERV3の発現は臨床診断に関わらず全ての皮質腺腫において正常副腎 のそれと同様に強い発現を示した。一方、褐色細胞腫では個体差が存在したものの、いず れも皮質腺腫と比較して発現量はごく少量であった。同一個体での正常副腎と腺腫との比 較(2例)では、腺腫化に伴うERV3の著明な発現亢進や低下、あるいは新たな分子種の 出現は観察されなかった。

  副腎でのERV3発現の局在を明らかにするため、正常副腎の凍結切片を用いたin  situ hybridizationを行った。その結果、用いた2種類のprobeは共に皮質全層の皮質細胞にほ ぽ均一な発現シグナ´レを捕らえたが、髄質細胞ではbackgro undレペルであった。さらに competitionassayにて、同一の非標識プロープの添加によルシグナルがほぼ完全に抑制 されたことより、これら発現シグナルが個々のプロープに特異的であることが確認された。

したがって、副腎におけるERV3の高発現は皮質細胞での高発現によるものであることが 明らかとなった。この結果は副腎腫瘍を用いたノザンプロット解析の結果と矛盾しなかっ た。

  一 方 、各 種 サイ ト カイ ン で48時間刺激 したHUVECに おけるERV3のmRNA量を 求めた 結果、い ずれの検体 においてもERV3 mRNA量はIL‑1a、IL‑ip、TNF‑ロ刺激で増加し、

IF N‑ア 刺 激で 減 少を 示 した 。 各症例 間での発現 量の個体間 差を補正す る目的で、

stimulation indexとして無刺激時のERV3 mRNAの発現量に対する各サイトカイン刺激 後の発現量の比を求め、4個体を総合して統計学的解析を行った結果、IL‑1 、IL‑1p、 TNF ‑a刺激による発現増強(TNF‑ロ>IL‐1p>11‑1a)およびIFN‑アによる抑制はいずれ も統計学的に有意(pく0.05,t.検定)であった。

  数種類のヒトERVの臓器発現の検討により、その発現量の臓器間差の存在から、少なく ともERV3とス4‑1には生物活性が存在している可能性が示された。特にERV3では副腎皮 質全層の皮質細胞が高発現していることが明らかとなり、副腎皮質への細胞分化との関連 が示唆された。その機序の詳細については現段階では不明であるが、産生されたステロイ ドホルモ ンのER V3発 現への影響、発現したEnv蛋白の皮質細胞への関与、ERV3と共に 発現することが知られている下流の転写調節因子(H‑p lk)を介した皮質関連の細胞性遺伝 子への発現調節など、いくっかの可能性が考えられた。

  またHU VECを用いたサイトカインによるER V3の発現の変化の検討からは、生体内で も 炎 症 局 所 の 血 管 内 皮 でERV3の 発 現 が 増 強 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。   過剰に発現したERV産物はループスマウスなどで知られているように時として自己免疫 疾患などのtarg et分子として疾患に関与する可能性がある。さらに、ウイルス蛋白に対し 誘導されたトレランスが同じウイルスの感染によって容易に破綻されることも知られてい る。したがって、副腎皮質細胞あるいは血管内皮細胞上に発現したERV3産物が、特発性

‑ 110ー

(3)

Addison病や血管炎などにおいて、自己抗原のーっとしてその病態を修飾している可能性 も充分考えられる。今後、抗体や組み換え蛋白などを用いてこれらの可能性について検討 してゆく必要がある。

  いずれにせよ今回のニつの実験結果は、ERV3の生物学的活性の存在を示唆する知見に 新たな項目を付け加え、今後のヒトERVの研究にはずみをつけたという意味で大きな価値 があると考えられた。

(4)

学位論文審査の要旨 主査    教 授    吉木    敬 副査    教授   細川眞澄男 副査    教 授    小池隆夫

学 位 論 文 題 名

ヒト内在性レトロウイルスの臓器特異的発現とサイトカ インによる試験管内発現誘導に関する研究

  全て の 真 核細 胞はその染 色体内に 感染性レ トロウイ ルスと相 同性のあ る塩基配列 を多数有 し て い て、 そ れ らは内在性 レトロウ イルス(endogenous retroviruses,  以下ERV)と呼 ばれる。

ERVは 感染 性 レ トロ ウ イル ス の 宿主 胚 細胞 ゲ ノムへの 組み込み に由来し たり、転移 性遺伝要 素 が 進 化し た も のと 考 えら れ て いる 。 既に 不 活 化さ れ てい る も のも 多 い が、mRNAの発 現や蛋白 の 産 生が 可 能 なものもあ り、生理 的機能や 発癌、免 疫異常な どの病因 への関与が 予想され てい る 。 実際 、 マ ウス な どで はERVが自 己 免疫 疾 患などの 病因に深 く関わっ ていること が知られ て い る 。ヒ ト で も現 在 まで に 多 くのERVが単 離 され、い くっかは 機能的遺 伝子と考え られてい る が そ れら の 生 物学 的 な意 義 は まだ ほ とん ど 分かっ ていない 。本研究 ではヒトERVの 基本的性 格 の 解 析 の 一 環 と し て 、Dヒ トERVのmRNA発 現 の 臓 器 間 差 を 知 る 目 的 で 、 い く っ かのERVにつ い て 剖検 臓 器 を用 い たノ ザ ン 解析 に より 個 々 の個 体 内で の 発 現分 布 の 検討を行 った。さ らに ERV3の 恒 常 的 な 高 発 現 を 示 し た 副 腎 に つ い て 、 そ の 局 在 を 明 ら か に す る 目 的 で 血situ hybridization (ISH)を試みた。珂正常培養細胞での発現様式を調べる目的で、多くの疾患への関 与 が 推測 さ れ る血 管 内皮 細 胞 のモ デ ルと し てヒト 臍帯静脈 由来血管 内皮細胞(HUVEC)を 用い、

競 合PCR法 を 利 用 し た 定 量 的RT‑PCR法 に よ り 各種 サ イト カ イ ン刺 激 後のERV3 mRNA量 の 変 化 に つ い て 検 討 した 。 剖 検臓 器 を用 い た ノザ ン 解析 の 結 果、 ヒ トERVで あ るHERV‑KとSY‑3では 検 索 した い ず れの 臓 器に お い てもmRNAの 発現 は 確 認で き ず、 ま たHRES‑1では全 ての臓器に お い て 発現 を 認 めたものの 発現量に 臓器間差 はなかっ た。一方ERV3とス4−1で は複数の臓 器での 発 現 と発 現 量 の臓器間差 を認め、 特にERV3では 全ての個 体で副腎 での発現 が他の臓器 と比較し て 高 度で あ っ た。さらに 副腎腫瘍 手術材料 のノザン 解析では 、ERV3の発現 は臨床診断 に関わら ず 全 ての 皮 質 腺腫におい て高発現 を示した 一方、褐 色細胞腫 ではいず れも低発現 であった 。副 腎 切 片を 用 い たISHの 結果 、 用 いた2種 類 のプ ロ ー ブは 共 に同 一 の 非標 識 プロープの 添加によ り ほ ぼ完 全 に 抑制される プローブ 特異的な シグナル を皮質全 層の皮質 細胞に捕ら え、ERV3の発

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現と 副腎 皮質 への 細胞分 化と の関 連が 示唆 され た。一方、各種サイトカインで48時間刺激した HUVECに お け るERV3のmRNA量 を 求 め た 結果 、 い ず れ の 個 体 に お い て もIL−la、IL‑ip、TNF‑

ば刺激で増加し、IFN‑ア刺激で減少を示した。4個体のstimulation indexを総合して解析を行った 結果 、上 記サ イト カイン 刺激 によ る変 化は いず れも統計学的に有意であった。このことから生 体 内 で も 炎 症 局 所 の 血 管 内 皮 でERV3の 発 現 が 増 強 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。   上 記の 主旨 の発 表が公 開発 表の 場で 約20名の 聴衆を前にして行われた。最初に副査の細川教 授から、1.内在性レトロウイルスの発現の個体差の意味、2.ヒト自己免疫疾患での臓器発現の 検討 の可 能性 、3. 副腎でのERV3の高発現の意味、4.ERV3が蛋白にまでなっている可能性、5. ERVが ウイ ルス 粒子 を形 成す る可 能性 、6. ヒト 血清 中に おけ るERVに対 する 抗体の有無につい て質問があった。申請者は1.2.に対し、疾患との関係が興味深いがヒトの場合には使える臓器 が 限 ら れ てい て 解 析 が 充 分 で な い 旨 、 ま たPBMCを 用い た検 討では 少な くと もSLEに つい ては 正常 人と の間 に差 はなか った こと 、3.に 対し ては産生ステロイドの作用→ ERV3↑、ERV3↑→

下 流 の 転 写調 節 因 子↑ →皮 質特 異的遺 伝子 ↑の ニつ の可 能性 が考 えら れる がま だ解 析で きて いな い旨 、4. に対 しては、ERV3 env領域には完全な読み取り枠があることから蛋白にまでなっ てい る可 能性 が高 く、さ らに 共同 研究 者の 作製 したモノクローナル抗体を使ったウエスターン 解析 でも 高発 現臓 器においてERV3と考えられるバンドが確認された旨、5.に対しては、ERV3、 ス4‑1ではenvのみ の発現 であ るこ とか ら粒 子を 作っている可能性は極めて低いが、胎盤などで はC型 粒子 が観 察さ れる とい う報 告も あり 何ら かの条 件下 で粒 子を 形成 する ようになる可能性 も考 えら れる 旨、 また6.に 対し ては 、共 同研 究者の 作製 したERV3の組 み換 え蛋白に対する抗 体の 産生 は少 なく とも、 正常 人、SLE、RA患者 では検 出で きな かっ た旨 回答 した。次いで同副 査の 小池 教授 から 、1.当初よりERV3とス4―1に注目した根拠、2.ループスマウスでのERVの知 見がmotivationとなっているのなら肝臓で多量に発現しているもの、あるいは血中に蛋白として 存在 して いる こと が分かっているものに注目すべきと考えるがどうか、3.ステロイド治療患者 の副 腎で のERV3の 発現、4.ERV3の発現と血管病変との関連を証明するための今後のstrategyに つい て質 問が あっ た。申請者は、1.に対してはループスマウスなどで知られるC型のERVである こと、プロウイルスの全長を有し、env領域に完全な読み取り枠を持つことを挙げ、2.に対して は 今 の と ころ 肝 臓 で 特 に 高 発 現 し て い るERVは 見っ かっ てい ない 旨、 またHRES‑1の よう に既 に蛋 白を 産生 して いるこ との 分か って いる もの もありそのようなものも視野に入れて模索して ゆく 必要 があ る旨 、3.については未検討である旨、4.に対しては病変局所におけるISH、抗体 を使 った 免疫 染色 、局所 およ ぴ血 中で の免 疫応 答の有無についての検討などの方法が考えられ る旨 回答 した 。最 後に主 査の 吉木 教授 より 、ERV3と副腎皮質の分化形成との関係に対しては胎 児で の解 析が ーつ の有用 な手 段と 考え られ るが 、他に良い戦略がないかとの質問があり、申請 者は 、皮 質細 胞の 培養法 を確 立で きれ ば種 々の 解析が可能となると回答した。以上、いずれの 質問に対しても概ね妥当と思われる回答を示した。

  本 研究 は、 ヒトERVの 発現 様式 の解 析を 通し て特にERV3の生 物活 性の 存在 を示唆するニつの 知見 を新 たに 見い 出し、 それ らは 今後 のヒ トERVの役 割の さら なる 解明 にっ ながるものであり 学術 的価 値が 高い と考え られ た。 した がっ て審 査員一同は、本研究を博士(医学)の学位に値 するものと判定した。‑ 113―

参照

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