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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 中 村 浩 之

     学位論文題名

Studies on the Mechanisms of Fertilization Envelope Formation in the Sea Urchin Eggs      (ウニ卵における受精膜形成機構に関する研究)

学位論文内容の要旨

  近年、 ヒトを含めた哺乳動物の生殖・発生に関する研究は活発 であるが、個体発生の出発 点である 受精の化学的機構については不明な点が多い。卵は成熟して初めて受精可能となる。

成熟卵は 、引き金が引かれれば賦活され、受精膜形成を含む一連 の受精反応を起こす能カを 持つ。精 子の働きのーっはその引き金を引く事である。既知の因 子で人工的に卵を賦活する 事で精子 の働きを真似し、引き金が何かを調ぺる方法がある。1887年に発表されたO.Hertwig 及びR.Hertwigによる人工的卵賦活実験以来、多くの物質によっ てあるいは機械的刺激によ って卵が 賦活される事が示された(Harvey,1956)。卵賦活の機構についての統一的な説明は 未だにな されていないが、卵の賦活から受精膜形成までに、次の ような一連の反応が起こる と考えられている(Trimmer and Vacquier,1986; Berridge,1993)。くD精子と卵表面に存在する 精子受容 体との結合、◎Gタンパク質(あるいはTyrosine kinase)の活性化、◎Phospholipase C (PLC)の活 性化 、@IP3の 細胞 質内 増加 、◎ 小胞 体か らのCa2゛ の遊 離、◎表層顆粒の 開 口分泌、◎受精膜の形成。

  しかし 、(1)引き金とは何か、(2)それはどのように引かれ るのか、という問題につい て は未 解決 であ り 、(3) 上記 の@ 一◎ の経 路 が唯 一の もの かど うか 、についても明確 な 実験的証 拠があるわけではない。現在まで、ウニ精子から卵賦活 能を持つ物質は精製されて いない。 従って、これらの問題を解決する手段として、新しい人 工賦活剤の開発は不可欠で ある。本 研究は、受精研究では輝かしい成果をあげてきたウ二卵 を用い、新しい人工賦活剤 の 探索 から はじ め 、賦 活剤 の作 用機 構を 解析 する事によって、(1)←(3)の問題を解 析 する事を試みた。

第1章: バフ ンウ ニ 卵に 受精 膜形 成を 誘起 する オニ コン ブ由 来の レク チン 様タンパク質、

    Diabolinの発見

  バフンウニ成熟卵をオニコンブ葉状部の海水抽出 物で処理すると受精膜が形成された。し かし 、こ の抽 出物 はエ ゾバ フン ウ二 及び キタ ムラサキウニ卵 には無効であった。抽出液を 600C、5分間 熱処 理 すると受精膜形成能が失われたので、有効 物質はタンパク質性で、しか も精製に使用を試みたSephadex gelをカラム内で凝 集させる性質を持つことから、レクチン 様物質であると推測し、レクチンを不活性化させる 各種の糖存在下でのオニコンブ抽出液に よる バフ ンウ ニ未 受精 卵へ の受 精膜 形成 能を 検討した。その 結果、GlcNAcが最も強い抑制 効果を示した。レクチンによるウ二卵の賦活につい ての報告は皆無であったので、この有効 物 質 を 新 し い 人 工 賦 活 剤 と し て 利 用 す る こ と を 目 的 に 、 こ の 物 質 の 精 製 を 試 み た 。   80%飽和硫安沈殿後、TSK gel DEAE‑Toyopearl 650M、TSK gel Toyopearl HW‑55F、TSK gel AF‑Blue Toyopearl 650MLによるchromatographyを行い、native PAGE的に単一のCoomassiee brilliant blue染色バンドになるまで精製した。精製物質(夕ンパク質)のゲル濾過による推 定分 子量 は120 kDaで、100%受精 膜形成を起こす最低濃度はO.SUg/mlであった。精製物質 によ る受 精膜 形成 能はGlcNAcによ って最も強く抑制され、精製物質4.2Ug/mlによる受精膜 形成 能は24pLMのGlcNAcで完 全に 抑制 され た。 しか し、 同じ 抑制 効果 を示 すためにはGlcN

(2)

はGlcNAcの2、000倍 の 濃度 を 必 要 とし た 。 なお 、GlcNAcは 精 子によ る受精 膜形成は 抑制 し なかった 。精製 物質に対 する抗 ウサギ抗 体を用いての免疫組織化学的検討によって、この 物 質はオニ コンブ の粘液腔 道を構 成する細 胞が腔道内に分泌したものであることが明らかに な った。こ の物質 は血球凝 集は起 こさない ので、レクチンとは断定できないが、レクチン様 タンパク質と結論し、Diabolinと命名した。

  非ジヒド口ビリジン系の2種類のCa2←‐チャンネル阻害剤(Diltiazem、Verapamil)を用い てDiabolinの作用 機構を検 討した 結果、200 UMのDiltiazemに よる前 処理卵でのDiabolinに よ る受精膜 形成率 は14%で、 先体反 応後の精 子による受精膜形成率は63%であった。また、

500 ptMのDiltiazemによる 前処理 卵でのDiabolinによる受 精膜形 成率はO%で、先体反応後 の 精 子 によ る 受 精膜 形 成 率は27%で あっ た。一方 、200 UMのVerapamilによ る前処理 卵で はDiabolinに よる受 精膜形成 率は27% で、先体 反応後 の精子に よる受精 膜形成 率は92%で あ った。更 に、500 ptMのVerapamil前処理 卵では、Diabolin及び先体反応後の精子による受 精 膜 形 成率は 共に0%であ った。Verapamil存在 下では 、受精膜 形成の有 無に関 らず媒精90 分 後 に 約30%の 卵に細 胞分裂が 認めら れたので 、精子の 侵入は 起こって いるも のと考え ら れる。

  ウ ニ卵は脱 分極性 の外向き 電流に よっても 、細胞 外液のK←濃度 を高くしても活性化され ない( Jaffe,1976; Hagiwara and Jaffe,1979)ことが広く認められているので、卵の電位依存 性Ca2←チ ャンネ ルは受精時には働いていないと考えられている。上記の定説を踏まえ、本研 究の結果を以下に考察する。

  Diabolinは、卵表 面に存在すると考えられるDiabolinレセプ夕―作動性Ca2←チャンネルを 開 口し、細 胞外Ca2゛の細胞内への流入を促進させ、受精膜形成を引き起こすものと考えられ る 。GlcNAcはDiabolinによ る受精 膜形成を 抑制する が、精 子による 受精膜 形成を抑 制しな い ことから 、Diabolinが受 精膜形 成におい て精子 を完全にmimicし ているとは言えないが、

両 者は部分 的に類 似の作用機構を持ち、同一のCa2←チャンネルの開口に関与しているものと 考 える。Diabolinの効果に 種特異 性がある ことは、精子との類似点であり、Diabolinの作用 が 精 子 受容体 を介し ているこ とも考え られる 。従って 、卵賦 活の引き 金は、 @種特異 的糖 鎖 を 持 つ卵表 面の精 子受容体 にあり、 ◎精子 が持つレ クチン あるいは レクチ ン様の物 質に よ って引き 金が引 かれ、◎ レセプ ター作動 性Ca2゛ チャン ネルの開 口によって引き起こされ るものと推測する。

第2章:細胞内フッ素イオン(F‑)によるウ二卵の受精膜形成

  l‑fluoro‑2,4‑dinitrobennzene (FDNB)をエゾバフンウ二卵に与えると受精膜が形成された。

100% 受 精 膜 形 成 を 起 こ すFDNBの 濃 度 は0.lmMで あっ た 。FDNBはバ フ ン ウ二 、 キ タ ム ラサキ ウニ卵に も受精 膜形成を 誘起し た。しか し、FDNBの フッ素の 位置が 塩素に置 き換わ ったl‑chloro‑2,4‑dinitrobennzene (CDNB)には受精膜形成能は認められず、しかも卵懸濁液に 加 え たNaFで は 受 精 膜 は 形 成 さ れ な か っ た 。FDNBはSH基 と 結 合し て フ ッ素 イ オ ン(F‑) を放出することが知られているので(Wallenfels and Streffer,1965; Gold,1968)、FDNBによ る 受精 膜 形 成はFDNBか ら 放出 さ れ たフ ッ 素 イオ ン に 起因す るものと 推測さ れる。ま た、

L‑cysteine存在 下で媒精 した場合 は受精 膜は形成 された が、FDNBによ る受精 膜形成は 起こ らなか った。更 に、SH基 阻害剤で あるiodoacetamideで前 処理した卵を媒精した場合、受精 膜は形 成された が、FDNBに よっては 受精膜 は形成さ れなか った。こ れらの 結果は、 細胞内 のフッ 素イオン は表層 反応のあ る段階を促進するが、細胞外のフッ素イオンは無効であるこ とを示す。

  受精膜 形成におけるフッ素イオンの作用点を特定するために、Ca2←‑ionophoreの一種であ るionomycin(Liu and Hermann,1978)とFDNBの受精膜 形成に 対する作 用効果を 、細胞 内 Ca2+の移動を阻害することが知られているTMB‑8(Stapleton et馴.,1985)で前処理した卵に つ いて 比 較 検討 し た 。O.2 mM TMB‑8存 在 下 で は、FDNBに よる受精 膜形成 率はO%であ っ たが、ionomycmによる 受精膜形 成率は60%あった 。C舛ochalasinB前処 理卵ではionomycin による 受精膜形 成は完 全に阻害 され、FDNBについても同様であった。Ca2゛−ionophoreの作 用点はpユの 作用点 と同じで あること が知ら れている ので、 上記の結果は細胞内フッ素イオ ンの作用点がPユの産生以前の段階にあることを示すと思われる。

  以 上 、 本研 究 で 明ら か に され たDiabolinとFDNBに よるウニ 未受精 卵への受 精膜形成 は 動物卵 一般にお ける受 精膜形成 機構の研究の発展に貢献するだけでなく、未だ完全には理解 されていない精子による卵賦活機構の解明に資するものと考える。

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(3)

学位論文審査の要旨

主査    教   授    鈴木範男 副査    教   授    山下正兼 副査    助教授   清水    隆

副査    主任研究員    野村晃司(東京都老人総合研究所)

     学位論文題名

Studies on the Mechanisms of Fertilization Envelope Formation in the Sea Urchin Eggs      (ウニ卵における受精膜形成機構に関する研究)

   近年、ヒトを含めた哺乳動物の生殖・発生に関する研究は活発であるが、個体発 生の出発点である受精の分子機構については未だ不明な点が多い。卵は成熟して初 めて受精可能となり、成熟した卵は精子の接近、結合によって賦活され、受精膜形 成を含む一連の化学反応を起こし、精子・卵両細胞の融合(受精)に至る。即ち、

受精における精子の働きのーっは卵を賦活させる事である。19 世紀後半から既知 の物質によって人工的に卵を賦活する事で精子の受精における役割の1 っを真似し、

卵の賦活から受精膜形成に至る機構を調ぺる研究が行われてきた。その結果、卵賦 活の機構についての統一的な説明は未だになされていないが、卵の賦活から受精膜 形成までに、次のような一連の反応が起こると考えられている:@精子と卵表面に 存在する精子受容体との結合、◎G 夕ンパク質(あるいはチロシンキナ―ゼ)の活 性化、◎ホスフォリパーゼ C (PLC) の活性化、@イノシトールトリスリン酸(IP3) の細胞質内増加、◎小胞体からのCa2 ゛の遊離、◎表層顆粒の開口分泌、◎受精 膜の形成。しかし、(1 )卵の賦活は何によって引き起こされるか、(2 )それはど のような仕組みなのか、という問題は未解決であり、( 3 )上記の@ー◎の経路が 唯一のものかどうか、についても明確な実験的証拠が提出されていない。その1 つ の理由は、卵の賦活を容易に引き起こす人工賦活剤が無いことにあるものと考えら れる。本学位論文は、受精の研究に頻用され、輝かしい成果をあげてきたウ二卵を 用い、新しい人工賦活剤の探索からはじめ、賦活剤の作用機構を解析する事によっ て、(1 )―(3 )の問題を解析する事を試みたもので、2 つの章から構成されてい る:第1 章は「バフンウニ卵に受精膜形成を誘起するオニコンブ由来のレクチン様 夕ンパク質、Diabolin の発見」、第2 章は「細胞内フッ素イオン(F') によるウ二卵 の受精膜形成」に関するものである。

   第1 章では、バフンウニ成熟卵をオニコンブ葉状部の海水抽出物で処理すると受

精膜が形成されるという発見に端を発して、この有効物質を精製し、有効物質の本

体( Diabolin と命名)が分子量120 kDa のレクチン様夕ンパク質であることを明ら

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か にし 、こ のタ ンパク 質を用いた研究から、卵賦活は、@種特異的糖鎖を持つ卵表 面 の精 子受 容体 に、◎ 精子が持つレクチンあるいはレクチン様の物質の結合によっ て 開始 され 、◎ 受容体 作動 性Ca2゛ チャ ンネ ルの開 口によって引き起こされる示唆 した。

  第2章では、l‑fluoroー2,4‑dinitrobennzene (FDNB)をエゾバフンウニ卵に与えると受 精 膜が 形成 され るとい う発見に端を発して、この機構を詳細に調ぺ、細胞内のフッ 素 イオ ンが 細胞 内二次 伝達 物質 の1つで あるIP3の 産生 以前 の段 階で 表層 反応を 促 進することによって引き起こされることを明らかにした。

  以上 、本 学位 論文で 明ら かに され たDiabolinとFDNBによ るウ ニ未 受精 卵への 受 精膜形成は動物卵一般における受精膜形成機構の研究の発展に貢献するだけでなく、

未だ完全には理解されていない精子による卵賦活機構の解明に資するものと考える。

よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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