博士(工学)山本 学位論文題名
金属 錯塩を 経由する 機能性セ ラミックス薄膜の合成 学位論文内容の要旨
修
耐 熱性 あ る い は導 電 性 を示 す機 能性セラ ミック ス薄膜は 、材料 の耐環境 性の向 上あるい は 素 子 など の 小 型 化と 関 連 した 多くの応 用が展 開される ものと 期待され ている。 これら 薄 膜 の 合 成手 法 の ー っと し て 、低 温で効率 よく薄 膜の合成 ができ る金属錯 塩を用い た液相 合 成 法 が ある 。 し か し、 均 一 な薄 膜を合成 するた めには、 金属錯 塩を形成 する配位 子の添 加 に よ っ て反 応 速 度 を制 御 す る必 要があり 、その ための配 位子の 効果は必 ずしも明 確にさ れ て い な い。 そ こ で 本研 究 で は、 材料表面 上に均 一な薄膜 を得る ための金 属錯塩の 配位子 の 効 果 、 薄膜 の 形 成 条件 及 び 構造 を明らか にし、 さらに炭 素基材 表面上に 酸化物被 覆膜を 形 成 し た 場合 の 耐 酸 化性 及 び ガラ ス基材表 面上に 形成した 導電性 酸化物及 びカルコ ゲン薄 膜 の 導 亀 特性 に っ い て検 討 し た。
1.耐熱性酸化物セラミックス薄膜の炭素材料への被覆
金属ア ルコキ シドを用 いたゾ ルーゲル 法によ り、健全 性の高い ジルコニア(2r02)、シリ カ(Sioz)、ジルコン(ZrSi04)及びムライト(3Al208 ‑2Sioz)薄膜を炭素基材表面上に被覆す るための配位子の添加の効果、被覆条件にっいて検討した。
均 一 な ジル コ ニ ア薄 膜 を 炭素 基材表面 上に被 覆するた めには、 ジルコ ニウムア ルコキ シ ド(ZrBu)の加水 分解反応 を制御 するための安定化剤として、ジェチレングリコール(DEG) をZrBu対し て2倍モ ル 添 加 して 加 水 分解 反 応 を遅 く す るこ と、シ リカ被覆 膜の形成 におい て はシリコ ンアル コキシド(TEOS) の加水分 解反応 触媒とし て塩酸 及び蒸留 水を添加 し、還 流 する こ と によ っ て 加水 分 解 反応を促 進するこ とが必 要である ことを 明らかに した。 ジル コ ニア 及 び シリ カ 被 覆膜 の 被 覆条件は 、基材の 前駆体 溶液から の引き 上げ速度 、熱分 析、
X線回 折 測 定及 び 被 覆状 態 の 観 察に よ っ て確 立 し た。 基 材表面 上の被 覆膜には クラッ ク及 び 基 材 か ら の 剥 離 が 見 ら れ ず 、 膜 厚 が 約0.2ロmの 被 覆 膜 が 基 材 表 面 上 に 形 成 し た。
ジ ル コ ン被 覆 膜 を炭 素 基 材表 面上に形 成する 場合には 、加水分 解反応 速度の異 なるZrBu とTEOSの加水 分解反応 を同時 に進め、 ジルコン ゲル中 にZr―0―Si結合 を形成す ること 及び ジ ルコ ン の 核発 生 剤 を添 加 す ることが 必要であ った。 被覆用前 駆体溶 液の調製 条件を 検討 し た結 果 、ZrBuの加 水 分 解 反応 を 制 御す る た めの 安 定 化剤 と し てト リ エ タノ ー ル アミン
(TEA)をZrBuに 対して2倍モ ル添加す ること 、TEOSの加水 分解触 媒及びジルコンの核発生触 媒 とし て 硝 酸銅 をTEOSに 対 してlOmoIX添 加し、 沸点で48時 間還流 すること が最適 であるこ とが明 らかと ナよった 。この ように生 成したジ ルコン ゲルの結 晶化温度は1000℃であり、ジ ル コン が 直 接結 晶 化 する 。1回の被 覆操作で 約O. 5Umの膜厚 のジル コン被覆 膜が基 材表面 上に幵彡或できた。
炭素基 キ才表 面上にム ライト 被覆膜を 形成す る際の被 覆用前駆 体溶液は、硝酸アルミニウ ムとTEOSとの混合 エタノー ル溶液 を沸点で12時間還 流するこ とによって調製した。そして、
ム ライ ト ゲ ルの 加 熱 に伴 う 構 造 変化 をX線回 折 及 び赤 外 吸収分 光測定 により調 べ、そ れら
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の結果に基づいてゲル被覆基材の加熱処理条件を決定した。得られたムライト被覆膜には ク ラ ッ ク が 認 め ら れ ず 、 基 材 表 面 上 に膜 厚1.Oロmの 均一 な 被 覆膜 が 形成 し た 。 炭素基材表面上にこれら酸化物薄膜を被覆することによる、炭素材の耐酸化性の向上に っいて検討した。その結果、基材表面上にジルコニア及びシリカを被覆した場合、耐酸化 性の向上は認められなかった。しかし、炭化ケイ素傾斜炭素基材表面上に膜厚1.5ロmのジ ルコン及び膜厚1.0皿mのムライト被覆膜を形成した場合には、酸化温度が1000及び1400℃ において極めて高い耐酸化性を示した。酸化試験後の基材表面の被覆膜をX線回折測定に よって調べた結果、ジルコン被覆膜は相分離し、ムライト被覆膜では相分離を示さナょかっ たことから、炭素基材の酸化防止被覆膜としてムライトが有効であるとの結諭を得た。ま た、ムライト被覆炭素材を1400℃と液体窒素温度の問で急熱・急冷を繰り返しても耐酸化 性の劣化は認められなかった。
2.高導亀性セラミックス薄膜の合成
塩化インジウム及び塩化スズのエチレングリコール(EG)溶液を用いて、ガラス基材表面 上に均ーナょインジウムースズ酸化物(ITO)薄膜を形成する条件を検討した。その結果、均 一で透光性のITO薄膜を形成するための条件は、EG溶液を加熱・濃縮して粘度を約50cStと した前駆体溶液を調製し、基材の回転速度を2000rpmとして基材表面上に前駆体溶液をス ピン被覆し、600℃で加熱処理することであった。得られたITO薄膜のX線回折測定を行つ たところ、ITO薄膜の結晶構造は立方晶Tl208型構造の単一相であった。基材表面上のITO 薄膜は高い密着性を示し、その膜厚は約1.Oロmであった。得られたITO薄膜の抵抗率は、
スズ の添加量 が5at.Xの時約1.Ox10− Qcmの最 小値を示 すことが 明らかと なった。
Chemicalーbath法によルガラス基材表面上に均一な結晶質硫化カドミウム(CdS)薄膜を形 成するためのカドミウムに対する配位子の効果を検討した。配位子としては、アンモニウ ムとTEAの混合配位が最適であることが明らかとなった。ガラス基材表面上に析出したCdS 薄膜の膜厚は約0.5umであった。また、銅添加CdS薄膜の形成について検討し、銅の添加 量をlOmolX以下とする必要のあること、薄膜の結晶構造が立方晶の閃亜鉛型構造であるこ と、そして5molX以上の銅の添加でCuS相が析出することを明らかにした。これら薄膜の導 電率と移動度は、暗所及び可視光照射において銅の添加量の増加に伴い増加し、紫外光照 射においては減少した。キャリアー濃度は、光の照射環境に関わらず一定であった。また、
熱起電力測定から、これら薄膜がp型半導体であることを示した。
カドミウムの配位子として種々のカルポン酸を用いて、カドミウムのセレン化反応を制 御し、ガラス基材表面上に均一な結晶質セレン化カドミウム(CdSe)薄膜の形成を行った。
カドミウムの配位子としてはマロン酸を添加することによって均一なCdSe薄膜が形成でき ることを明らかにした。また、セレン原料として用いたセレノウレアの酸化を防止するた め、亜硫酸ナトリウムの添加が必要であった。ガラス基材表面上に形成したCdSe薄膜には、
立方晶と六方晶が共存していた。得られたCdSe薄膜の導電率を暗所、可視光及び紫外光照 射環境で測定し、約2.4xlO‑|S/cmの高い値を得た。
以上の研究より、均一ナょ金属酸化物及びカルコゲン化物を基材表面上に被覆するために は、加水分解反応及びカルコゲン化反応速度を制御するために配位を選択することが極め て重要であり、それによって薄膜を形成するための最適条件が確立できた。そして、金属 酸化物薄膜を炭素基材表面上に被覆することにより炭素材料の耐酸化性は向上し、透光性 かっ高導電性の金属酸化物及びカルコゲン化物薄膜をガラス基材表面上に形成することが できた。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
金 属錯塩を 経由する機能性セラミックス薄膜の合成
近 年, 機 能性 セラ ミッ クスに関して基礎から応用に渡る広 い範囲の研究が行われている.
なか でも , セラ ミッ クス を薄 膜と して 作製 する こと は, 軽量 ・小 型 であ るこ とが要求され る先 端技 術 領域 への 用途 展開 をは かる うえ には 極め て重 要で ある こ とが 指摘 され,機能性 の高 度化 と とも に重 要な 研究 テー マで ある .
本 論文 は ,耐 熱性 およ び導 電性 を有 する セラ ミッ クス 薄膜 に焦 点 を絞 り, それら薄膜を 金 属 錯 塩 を 経 由 し て 合 成 す る た め の プ 口 セ ス を 確 立 す る こ と を 目 的 と し て い る . ま ず, 高 温耐 熱材 料と して の多 くの 用途 を持 っが ,酸 化さ れる 欠 点を 持つ 炭素材料の表 面に 耐熱 性 酸化 物セ ラミ ック ス薄 膜を アル コキ シド の加 水分 解反 応 を制 御す ることによっ て 形 成 さ せ る た め の 条 件 に つ い て 検 討 し た . ジ ル コ ニ アZrozお よ び シ リ カSioz薄 膜 を 炭素 材料 表 而に 形成 させ るた めに は, 前者 では 加水 分解 速度 を加 迎 させ ,後 者では抑制さ せる 必要 の ある こと を示 した .そ して ,亀 裂の 無い 健全 な被 膜の 作 製す るた めの条件を確 立 し た . さ ら に , そ の 結 果 を も と に , ジ ル コニ アと シ リカ の複 合酸 化物 であ るジ ルコ ン ZrSi04薄 膜 を 炭 素 材 料 上 に 形 成 さ せ る た め の条 件を 確 立し た. また ,基 材炭 素材 料中 に 炭 化 珪 索SiCの 濃 度 傾 斜 を 設 け る 手 法 を 開 発 し , 基 材 炭 素 材 料 と 酸 化 物 セラ ミッ クス 薄 膜と の間 の 熱膨 張差 に起 囚す る剥 離の 発生 を防 ぐこ とに 成功 した . 基材 への 炭化珪素濃度 傾斜 とジ ル コン 薄膜 被覆 を組 み合 わせ るこ とに よっ て,1400℃の 高 温で も酸 化消耗をきわ めて 低く 抑 える こと が出 来る こと を示 した .し かし ,こ のよ うな 高 温で はジ ルコンと炭化 珪素 との 冏 に反 応が 生じ るこ とが 明か とな り, それ を避 ける ため | シリ カと アルミナの複 合 酸 化 物 で あ る ムラ イト3Alz03 ‑2Sioz薄膜 の被 覆を 行 った .基 材炭 素材 料へ 炭化 珪素 の 濃度 傾斜 を 付与 し, その 表面 にム ライ ト薄 膜を 被覆 する こと によ っ て,1400℃の高温でも 空気 中で 酸 化消 耗を 示さ ず, しか も急 熱・ 急冷 によ って も全 く剥 離 しな い材 料とすること に成 功し た .
次 に, 導 電性 セラ ミッ クス 薄膜 とし ての イン ジウ ムー スズ 酸化 物 と硫 化お よびセレン化 カド ミウ ム の合 成に 関す る研 究を 行っ た. 塩化 イン ジウ ムお よび 塩 化ス ズを エチレングリ コー ル溶 液 とし た後 ,加 熱・ 濃縮 する こと によ って 粘度 を調 整し , スピ ンコ ーティング法 に よ っ て 基 材 ガ ラ ス 上 に 薄 膜 を 形 成 し , そ れを600'℃ まで 加熱 する こと によ って イン ジ ウム ース ズ 酸化 物薄 膜を 作製 する 手法 を開 発し た. この よう に作 製 した 薄膜 は良好な電気
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夫 平
郎 一
道 紘
志 順
垣 平
田 橋
稲
小
嶋
高
授 授
授 授
教
教
教
教
助
査
査
査
査
主
副
副
副
伝導性を示した.硫化およびセレン化カドミウム薄膜は前駆体溶液中に基材ガラスを浸潰 することによって室温付近の低温で作製することに成功した.いずれの場合も金属錯塩の 安定性を,エチレングリコール,アンモニアあるいはトリエタノールアミンなどの配位子 を選択することによって制御し,導電性が高い健全な薄膜を作製している.硫化カドミウ ム に つい て は, 銅 イ オン の ドー ピ ン グを 行 い ,導 電 性の 改 良 の可 能 性を 示 し た.
これを要するに,著者は,耐熱性および導電性セラミックス薄膜の合成について,健全 な薄膜を作製するためには,原料前駆体溶液中での金属錯塩の安定性制御が必須であるこ とを示すとともに,具体的な作製法および条件を明かにし,高い機能性を発揮し得るセラ ミック薄膜の合成技術向上に大きく寄与している.それを通して,セラミックス工学,材 料科学の発展に貢献するところ大なるものがある.
よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める.
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