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博士(工学)長尾 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(工学)長尾 学位論文題名

太政官公文録中の建築仕様書からみた明治初期の建築技術

学位論文内容の要旨

  幕 末開 港以降 の初期 洋風建 築の 研究は 数多く 積み重 ねられ てお り,そ の歴史 的展開の概要につ い てはひ とま ず安定 した理 解が得 られて いる 。しか し設計 技法, 設計 プ口セ ス,構法など建築技 術 の内容 にっ いての 詳細研 究は, その端 緒に っいた ばかり といっ てよ い。近 年,現存する明冶初 期 の建物 の調 査報告 が集積 され, 各所に 所蔵 された 建築関 連古文 書史 料の整 理が進み,こうした 詳 細研究 が可 能にな ってき た。特 に古文書史料の研究からは,外見から知り得ナょい建築技術の内 容 にっい て, 失われ た建築 も含め て豊富 な情 報を加 えるこ とがで き, 和風の 伝統建築技術と外来 の 洋風新 技術 の遭遇 からひ きおこ される 複雑 な歴史 過程に っいて ,多 くの知 見を得ることが期待 さ れる。

  本 研究 は明治 初期の 建築関 連史 料のう ち,建 築設計 図書の 一部 である 建築仕 様書(以下,仕様 書 )に注 目し たもの である 。仕様 書は従 来, 個々の 建築の 復原史 料と して援 用されてきたが,仕 様 書その もの を対象 とした 研究は ほとんどなされていナょい。しかし建築構法技術,設計技術の近 代 化過程 を考 える上 で,極 めて重 要な史料と考えられる。拙稿『建築仕様書と開拓使の建築技術』

( 修 士 論文 )では 開拓使 (明冶2〜15年) 関連の 仕様書23件を 対象に ,そこ から読 み取 ること の で きる建 築技 術の分 析を行 ったが ,本論 は同 時代の 中央官 庁関連 の仕 様書を 取り上げ,建築構法 技 術にっ いて 分析し ,考察 を加え たもの であ る。ま た開拓 使の建 築技 術をこ れと比較することに よ り,明 治初 期官庁 営繕に おける 開拓使 の位 置づけ も試み た。

【第1章】

  本論で は中央 官庁 の建築 関連文 書を「 太政官 公文録」に求めた。これは太政官(明冶2〜18年)

が接受 した公 文書を 編集し たも ので国 立公文 書館が 所蔵 する。 同館の 『公文録目録』から建築関 連文書 ,約2,700件を抽出,検索し,153件に仕様書を確認した。本論では中央政府がある東京と,

東京に 最も近 い開港 場横浜 に計 画され た建物 の仕様 書を 取り上 げ,北 海道関連の仕様書もこれに 加えた 。構造 種別で は木造 (土 蔵造, 木骨石 造を含 む) に限定 した。 対象とした仕様書は61件の

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89仕 様書 で, 建 築93例を 分 析す るこ と がで きた 。提出機関別の 内訳は太政宮課局2件,左院 ・元 老 院3件 , 会 計 官 ・ 大 蔵 省11件 , 工 部 省1件 ,司 法省4件, 宮 内省1件, 内務 省37件 ,東 京 府2 件 で ある 。

【第2章】

仕 様書 を分 析 する 前提として,設計 対象の各建物にっい て建築経緯,規模 ,竣工年など基礎 デー タを把握し た。本論で扱う93例のうち詳細が明 らヵヽな建物は僅か で,多くはこれまで存在すら知 ら れ て い な か っ た も の で あ る 。 公 文 録 の 文 書 と 刊 行 本 か ら そ の 建 築 像 の 解 明 を 試 み た 。

【第3章】

  対 象仕様書を分類整理 し,各仕様書の特 徴にっいて考察し た。

〔建 物分類〕分析の便の ため建物用途によ り,執務空間を持 つ「事務所建築」(32例),これを補 助す る「事務所付属建築 」(15例),居住機能を持つ「住宅建築」(10例),工場・倉庫・農業施設 など の「産業建築」(36例)に分 類した。

〔 仕様 書の作成機関 〕太政官制期の官 庁営繕事務は,明治6年まで は財務担当の会計官 ・大蔵省,

同7年以 降は 工 部省 が担 当 した こと は よく 知ら れ ている。しかし これら営繕事務担当 機関が作成 し たこ と が明 らか な 仕様 書は , 対象 中8件 にす ぎ ず,ほとんどは その他の組織で作成 されたこと がわ かった。請負業者に よる仕様書も7件含まれてい る。

〔 仕様 書 の構 成〕 標 準仕 様書 が存在しない明治 初期には,仕様書 の構成も一定でない 。仕様書の 構成 は「建物部位別」, 「工事種別」の傾 向が指摘されてい る(佐々木理乃『開 拓使の建築仕様書 に 関す る 研究 』昭 和61年 度修 士論文)。後の趨 勢としては「工事 種別」へ移行するが ,対象仕様 書 では 「 建物 部位 別 」の 傾向 を残すものが多い 。ただ司法省関連 のものは早くから「 工事種別」

を 指向 し てい た。 ま た明 治9年 以降 の 内務 省関 連 の仕様書にも「 工事種別」の傾向の 強いものが 多く みられた。

【 第4章 】

  建物 部 位ご とに 仕 様書 から読み取る ことのできる構法 にっいて分析した。 ここでは主な部位 に お ける 和 洋の 構法 の 選択 状況 に っい てま と めて おく 。

〔 地業 〕 事務 所建 築20例 ,事 務 所付 属建 築6例 , 住宅 建築2例, 産 業建築14例で洋風の杭地業 が 確 認さ れ た。 特に 司 法省 関連では建物 規模に関わらず杭 地業が採用される。 内務省関連では明 治

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10年 ま で は 割 栗 地 業 で あ る が , 同11年 か ら は 杭 地 業 が 多 く 見 ら れ る よ う に な る 。

〔床 組〕大 引,根 太を正 方形 断面と する和 風構法 が大 部分を 占め, 保守的 な部位である。洋風の 厚板 状断面 の根太 を用い るの は3例 のみ であっ た。

〔軸 組〕外 壁仕上 げの洋 風化 に伴い 早くか ら長方 形断 面の間 柱(っ まり洋 風大壁)が採用されて いた 。しか し軸部 の緊結 には 和風の 貫が多 く用い られ る。洋 風の筋 違は27例に用いられ,貫との 併用 も6例で確 認され た。

〔小 屋組〕 キング ・ポス ト・ トラス ,クイ ーンポ スト ・トラ スなど の洋風 小屋組は事務所建築13 例 , 事務 所 付 属 建 築0例 , 住宅建 築2例,産 業建築15例と 存外に 少なく ,明 らかに 洋風平 面でも 和 小 屋と す る も の が事 務 所建 築で8例, 住宅 建築で3例 あった 。洋風 小屋組 の理 解が不 十分な 仕 様も 多く, 陸梁を 丸太材 の投 掛け梁 とする 例も見 られ る。し かし, 明治15年には和風の土蔵造に キン グ・ポ スト・ トラス を架 ける例もあり,洋風小屋組の構法が定着していく過程が確認された。

〔 閉口 部〕ガ ラスの 使用 は早く ,公文 録に本 格的 な建築 の仕様 書が現 われる 明治6年に は既 に定 着し ていた らしく ,引違 建具 で紙張 障子に 取って 替わ った。 洋風窓 は開き 窓の採用が早く,明冶 10年 頃 ま で 主 流 をな す 。 上げ 下げ窓 が現わ れるの は明 冶7年 で,9年以 降一 般化し ていっ た様子 が確 認され た。

〔外 壁〕定 規柱を 用いる 洋風 下見板 張は, 事務所 建築15例,事 務所付 属建 築7例,住宅建築5例,

産 業 建築6例 に み られ た 。 和風の 漆喰塗 は土 蔵5例 のみ で,洋 風の大 壁造木 摺漆 喰が事 務所建 築 を 中 心に9例 確 認 され た 。 平 瓦 を張 る 海 鼠 壁 が6例 あるが ,うち 工部 省担当 の本庁 舎3例は瓦 を 漆喰 で塗込 んでい る。

【 第 5 章 】

  中 央官庁 と開拓 使の構 法技 術を比 較した 。開拓 使の建 築技 術の洋 風化に大きな役割を果たした バル ーン ・フレ ーム構 造fま,中 央官庁 では見 られ なかった。中央官庁の建築は開拓使に比べて大 規模 で仕 様も高 級であ るが, 仕様書 から みると ,開拓 使の洋 風技 術に対 する取組みはより積極的 で, 特に 主構造 の構法 におい て先進的であった`ことが確認された。本論の分析から中央官庁では 司法 省が 早くか ら洋風 技術を 適用し てい たこと が指摘 できた が, 開拓使 の技術はこれに次ぐもの と位 置づ けられ よう。

【 結】

以 上,太 政官公 文録を 通し て,明 冶初期 の官庁 営繕事 業に おける 建築技 術をみてきたが,洋風

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建築の 導入後 も和風 の伝 統技術 が生き 続けて いるこ とが わかっ た。

  開口部 ,外壁 など ,意匠 上洋風 化を要 求さ れた部 位ほど 洋風技 術が早 く定着しており,建築の 洋風化 は意匠 先行で 進め られた とみて よい。 床組, 小屋 組など 表面に 現われない部分では,伝統 技術が 根強く 残る。 また 建物種 別によ る洋風 構法の 採用 状況で は,政 府の顔となるべき主要建築 で特に 洋風化 が計ら れて いた。

  各省間 で各部 構法 におけ る仕様 が異な るこ とから ,官庁 営繕工 事を統 括する主導的な機関が存 在しな かった ことも わか った。

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授

越野 足達 上田 鎌田

    武 富 士 夫 陽 三 英 治

  幕 末開港 以降 の初期 洋風建 築の研 究は数 多く 積み重 ねられ ている が, 建築構 法,設計技法など 建 築技術 に関す る詳細 研究 はまだ 端緒にっいたばかりである。本論文が取りあげた建築仕様書も,

従 来個別 史料と して援 用さ れるこ とはあ っても ,仕 様書そ のもの の体系 的な研 究はほとんどなさ れ ていな い。こ うした 文書 史料の 研究は ,外見 から 知り得 ない建 築技術 の内容 をも明らかにする も ので, 和風の 伝統技 術と 洋風新 技術の遭遇から生ずる初期洋風建築の複雑な歴史過程にっいて,

多 くの知 見を得 ること が期 待され る。

  筆 者 は先に 開拓使 (明治2〜15年) 関連の 仕様書23件を 取りあ げたが (修士 論文) ,本 論文で は 研究対 象を同 時代の 中央 官庁関 連の仕 様書に ひろ げ,建 築構法 技術に っいて 分析,考察を加え て いる。 「太政 官公文 録」 (国立 公文書 館所蔵 )は 太政官 (明治2〜 18年 )の接受した公文書を 編 集した もので あるが ,著 者は「 公文録目録」によって,建築関連文書約2,700件を抽出検索し・

153件に 仕様 書を 確認し ている 。うち 地域を 東京 とその 近傍の 開港場 横浜 ,北海 道とし ,構造 種 別 を木造 (土蔵 造,木 骨石 造を含 む)に 限定し て, 対象と された 仕様書 は61件 の89仕様書,建物 93例 を分折 して いる。

  【 第2章: 建築 仕様書 と建物 】では ,公文 録中 の文書 などか ら,仕 様書 の設計 対象建 物93例 に

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っい て建築 経緯, 規模 ,竣工 年など 基礎デ 一夕を 明ら かにし ている 。対象 建物 のうち多くはこれ まで 取りあ げられ なか った建 物であ る。

  【第3章 :建築 仕様書 にっい て】 では, 対象仕 様書を 分類 整理し ,各仕 様書の 特徴に っい て考 察し ている 。明冶 初期 には, 仕様書 の構成 に近世 的な 「建物 部位別 」と新 しい 「工事種別」双方 の傾 向があ り,後 の趨 勢とし ては「 工事種 別」へ 移行 するこ とが指 摘され てい る。対象仕様書に は「 建物部 位別」 の傾 向を残 すもの が多いこと,ただし司法省関連のものは早くから「工事種別」

を 指 向し , また明 治9年以降 の内務 省関 連の仕 様書に も「工 事種別 」の 傾向の 強いも のが多 くみ られ ること を明ら かに した。

  【第4章 :建築 仕様書 からみ た構 法】で は,建 物部位 ごと に仕様 書によ って各 構法を 復原 し,

それ ぞれの 特性に っい て分析 してい る。各 部位別 にい えば;

〔 地 業〕 洋 風 の 杭 地業 は 事 務 所建 築20例 ,事務 所付属 建築6例, 住宅 建築2例, 産業建 築14例で 確認 され, 特に司 法省 関連で は建物 規模に 関わら ず杭 地業が 採用さ れてい るこ と,内務省関連で は明 治11年以 降, 杭地業 が多く 児られ るよ うにな ること ,

〔 床 組 〕 根 太 を 正 方 形 断 面 と す る 和 風 構 法 が 大 部 分 を 占 め , 保 守 的 な 部 位 で ある こ と ,

〔軸 組]外 壁仕上 げの 洋風化 に伴い 早くか ら洋風 の大 壁造が 採用さ れたが ,軸 部の緊結は主に和 風の 貫によ り,洋 風の 筋違27例 だけに 確認 される こと,

[小 屋組〕 キング ポス ト・ト ラスに 代表さ れる洋 風小 屋組は 事務所 建築ユ3例 ,事務所付属建築O 例 , 住宅 建 築2例,産 業建築15例と 存外に 少なく ,明ら かに 洋風平 面でも 和小屋 とする もの が事 務 所 建築 で8例 , 住宅 建 築 で3例に 見られ ること ,洋風 小屋 組の理 解が不 十分な 仕様も 多く ,和 洋技 術が混 淆する 状況 にあっ たこと ,

〔 閉 口部 〕 ガラス は明治6年 にまず 引連 建具で 定着し たこと ,洋風 窓で は開き 窓の採 用が早 く,

明 冶10根 頃 ま で 主流 を な し , これ に対し ,上げ 下げ窓 が現 われる のは明 冶7年で,9年 以降一 般 化し ていっ たこと ,

〔 外 壁〕 洋 風 下 見 板張 は 事 務 所 建 築15例 , 事務 所 付 属 建築7例, 住宅建 築5例,産 業建築6例 に みら れ洋風 化の早 い部 位であ ること ,洋風の大壁造木摺漆喰は事務所建築を中心に12例確認され,

うち 事務所 建築3例は 漆喰塗 下地 に平瓦 を張る 仕様で あった こと , など を明ら かにし てい る。

  【第5章 :明治 初期の 建築技 術と 開拓使 】では ,中央 官庁 と比較 して, 規模や 仕様の 程度 は別 とし て,開 拓使の 洋風 技術に 対する 取組み は積極 的で ,特に 主構造 の構法 にお いて先進的であつ たこ とを明 らかに して いる。

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  こ れを要 するに 本論 文は, 従来体 系的に 扱わ れるこ とのな かった 明治初期の中央官庁建築公文 書 を基本 史料と し,特 に, 建築仕 様書の 分析を 通じて ,建 築設計 技術の一部である仕様書の構成 手 法と, 建築各 部の構 法技 術を復 原的に 考察し ,それ らの 特質を 解明しており,わが国近代建築 史 上にお ける洋 風建築 技術 導入の複雑ナょ過程を考える上で,優れた新知見を加えたものであり,

建 築学の 発展に 寄与す ると ころが 大きい 。よっ て著者 は博 士(工 学)の学位を授与される資格あ る ものと 認める 。

参照

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