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林秀樹氏博士論文審査要旨

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Academic year: 2022

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林秀樹氏博士論文審査要旨

I.論文の主題と構成

林秀樹氏が提出した博士論文のタイトルは、『中国における地方政府の都市 経営と財政及び住宅政策~土地出譲金に依存する地方政府の経営リスクを回避 するために~』である。

本論文の対象と課題は以下の2点に整理される。

第1は、分税制度導入により財源不足に直面した地方政府が、その都市経営 のため財源を、国有土地の使用権譲渡収入(土地出譲金)に依存することとな ってゆく過程を検討し、それによって顕在化した地方財政の課題を指摘し、今 後の地方財政健全化に向けた方向性を探ることである。

第2は、土地出譲金に過度に依存した財政運営が主因の一つとなっている不 動産価額高騰を抑制するために、中央政府が採用した政策の分析を行い、その 中でも保障性住宅による不動産供給制度の在り方と、地方財政の安定に資する べき不動産保有税(房産税)導入の課題を検討することである。

論文の構成は、以下のとおりである。

序 章 本論文の課題と構成

第1章 分税制度導入と地方政府財政運営の限界~土地出譲金収入に依存する 地方政府による都市経営の実情~

第2章 地方政府による農地収用と不動産開発~大連市近郊農地の宅地転用に よる住宅開発と地方政府の収益構造~

第3章 中国における不動産価額高騰要因の分析~商品房の建設原価分析にみ る地方政府の土地出譲金収入と市場収益~

第4章 地方政府融資平台の展開によって発生した債務リスクの回避~隠れ債 務・城市投資債権から地方政府債券発債へ~

第5章 中国における保障性住宅政策の変遷と今後の課題~中低所得者層への 住宅供給促進による資産格差是正策~

第6章 中国における不動産税制の現状と課題~房産税導入の効果検証と今後 のあるべき方向性~

終 章 本論文の総括と今後の展望 参考文献

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Ⅱ.論文の概要

序章では、先行研究の概観をふまえて、本論文の意義と課題及び論文の構成 を述べている。

第1章では、中国における地方財政と不動産政策の枠組みを概観している。

地方財政の課題については、分税制度導入に至るまでの過程と分税制度の概要 を検討している。そして、地方財政運営の現状を整理した上で、分税制度の導 入により財源不足に陥った地方政府が、都市経営の原資を確保するために、地 方政府に管理が委ねられている国有土地の使用権を、不動産デベロッパーに譲 渡することで得られる土地出譲金収入に依存してゆく過程を考察している。

第2章では、現代中国における不動産の概念をまとめ、農民集団所有土地の 使用権について検討している。そして、地方政府の「商品」である出譲用の国 有土地がどのように確保されてゆくのかについて、農村での農地収用の仕組み について検討し、大連市農村部の農地収用の実態調査にもとづき、失地農民に 対する補償金の算定根拠と、補償金分配方法の実情と課題を明らかにしている。

さらに、宅地転用した農地が不動産市場で、不動産デベロッパーに土地出譲さ れる流通過程を分析している。

第3章では、地方政府によって収用された市街地に隣接する農地が住宅用地 に転用され、どの程度の含み益を持って不動産デベロッパーに売却されてゆく のかを検討している。大連市・市街地隣接農村での被収用農民に対する調査を 行い、都市部から離れた農村とは異なる失地農民への補償内容の実情を明らか にしている。また、大連市・市街地で建て替え需要の対象となっている「旧国 営企業社宅」の立ち退き・再開発事案について調査を実施し、開発・建設段階 から市場販売段階に至る原価分析を行い、地方政府が獲得する利益の実態を推 計している。

第4章では、不動産デベロッパーとして地方政府に土地出譲金を支払い、不 動産価額高騰の牽引役となっている地方政府融資平台の現状と課題を検討し、

対応策として2015年1月1日から発債が認可されることとなった地方政府債券 が機能し定着するための条件を検討している。地方政府融資平台の実態につい ては、大連市の3企業グループの調査にもとづき、1990年代以降の展開をふま えてその実態を解明し、地方政府・地方政府融資平台・シャドーバンクの債務 リスクについて検討している。

第5章では、中央政府の不動産価額高騰抑制策の中核をなす、中低所得層に

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対する福祉的住宅供給対策である保障性住宅について、その展開過程を検討し ている。そして2011年以降、保障性住宅の建設推進方法の主流となった「配建 方式」に関して、その仕組みと課題を示し、今後の方向性について検討を行っ ている。更に、住房公積金や地方政府債券の自主発債等の資金を利用すること によって、賃貸型保障性住宅建設を促進する必要性を論じている。

第6章では、地方政府の安定財源確保と不動産価額高騰抑制のための政策で ある房産税について、現在試行的に実施されている上海市と重慶市における課 税の仕組みと、その問題点について説明している。そして、応益税としての房 産税の在り方、全国的に導入するための課題、土地出譲金の一括払いから年払 いへの移行について検討している。さらに、中国がモデルとした香港の土地基 金制度と不動産関連税制について説明し、房産税と土地出譲金の今後の政策に 示唆するものを考察している。

終章では、全体の総括を行い、本論文が明らかにした点と今後の展望につい て述べている。

III.論文の評価

本論文の評価点は、以下の諸点である。

第1は、分税制度による地方財政の財源不足と、経済発展に伴う都市部のイ ンフラ整備を中心とした財政需要に対応するため、土地出譲金に過度に依存す ることになった中国都市部の地方財政の展開過程を描き出したことである。同 時に、その過程で発生した、農地収用と失地農民、商品房建設と売却による地 方政府の巨額の収益構造、不動産価額の高騰、地方政府融資平台による債務リ スク等の問題について、その実態を調査し丁寧に描き出したことである。

第2は、こうした地方財政運営と不動産価額高騰への中央政府の政策の中で、

保障性住宅の建設・供給と房産税の導入が、地方政府レベルでどのように実施 されているのかについて描き出し、課題と政策を示したことである。この点で も、保障性住宅については大連市における実態が、房産税については上海市と 重慶市の実態が、現地調査をふまえて紹介され検討が加えられている。

第3は、著者の勤務地である大連市を調査対象として、課題毎に丁寧に現地 調査を行いその成果をふまえて分析が行われていることである。現地インタビ ューによる農地収用と失地農民の実態、都市部再開発による商品房の独自に入 手した資料による建設原価計算と地方政府の収益構造の分析、地方政府融資平

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台の実態については優れた調査となっていると評価できる。なお大連市は、改 革開放以降の中国都市財政を分析するには格好の対象である。

IV.結論

本論文は、分税制度下の中国都市部を中心とした地方政府が、土地出譲金に 過度に依存した財政運営を行うことによって、都市インフラの整備に成功した ものの、地方財政に様々なひずみを生み出し、不動産価額の高騰をもたらした 過程を、大連市を中心とした現地調査にもとづき的確に描き出したという点で 優れた成果を生みだしたと評価できる。確かに、地方政府の今後の政策につい ては、中国における地方政府の組織や税源配分と機能配分等をふまえて検討す べき点が多く、叙述がややエッセイ風で学術論文の作法という点で改善すべき 点もある等、いくつかの課題が残されている。しかし、そうした課題は、本論 文が成し遂げた成果をふまえて、今後検討し改善されるべきものであろう。

本論文は、中国都市部の財政運営とそれがもたらした問題を、現地調査をふ まえて分析した研究として優れており、博士論文として合格(良)と評価する ことができる。

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