論文内容要旨
論文題名
Inhibitory effects of eugenol on putative nociceptive response in spinal cord preparation isolated from neonatal rats
和文名
新生ラットの脊髄標本を用いた痛み応答に対するオイゲノールの抑制 効果
掲載雑誌名
Experimental Brain Research
Vol.236 No.6 P.1767-1774 2018 年
専攻名 生理系 生理学(生体調節機能学分野) 矢倉 沙貴
内容要旨
【背景】オイゲノールは丁字などの植物に含まれる成分で,鎮痛作用があ ると考えられている。新生ラットの脊髄標本(主に腰髄)における背側根 刺激による反射電位(slow ventral root potential)が痛み応答を反映 すると報告されており,これを用いた in vitro 実験モデルは鎮痛作用の 評価に有用である。今回オイゲノールの鎮痛作用の機序を解明するため 我々は,新生ラットの胸腰髄の脊髄標本を用いて脊髄反射に対するオイゲ ノールの抑制効果を調べた。
【方法】0〜3 日齢の Wistar ラットをイソフルレンで麻酔し,第 10 胸髄 から第 5 腰髄までを一塊にして摘出し,人工脳脊髄液で灌流した。第 5 腰 髄背側根にガラス吸引電極を介して電気刺激を与え,誘発される脊髄反射 を同側の第 12 胸髄および第 5 腰髄腹側神経根から記録した。反射電位
(slow ventral root potential)のピーク値と波形の面積を計測した。
オイゲノールは人工脳脊髄液に溶かして 20 分間灌流投与した。いくつか の実験では,光学的測定により,脊髄反射を計測し,オイゲノールの影響 を調べた。脊髄標本を膜電位感受性色素(Di-2 ANEPEQ)で染色し,反射 電位を蛍光強度の変化としてとらえた。
【結果】オイゲノール(0.25 mM〜1.0 mM)投与により,第 12 胸髄神経根,
第 5 腰髄神経根ともに用量依存性に反射電位の減衰を認めた。またオイゲ ノールは腹側神経根での自発活動の発生を抑制した。
反射電位は初期電位と遅発性電位の2つに区別され、低濃度(0.25 mM)
のオイゲノールは遅発性電位を選択的に抑制した。1.0 mM オイゲノール による抑制効果は TRPV1 アンタゴニストのカプサゼピン(10μM)や TRPA1 アンタゴニストの HC-030031(40μM)によってブロックされなかった。ま た、脊髄反射に対するオイゲノールの抑制効果は電位感受性色素を用いた 光学的記録でも確認できた。
【結論】オイゲノールによる反射電位の抑制は,この物質が有効な鎮痛作 用を示したと解釈できる。またこの作用は TRPV1 および TRPA1 チャネルに 関与せず、電位依存性ナトリウムチャネルや高電位活動性のカルシウムチ ャネル電流の阻害によるものと考えられる。我々は最近、延髄呼吸中枢に おいてオイゲノールが抑制性シナプス伝達よりも興奮性シナプス伝達を 選択的に抑制している可能性について報告した。オイゲノールによる反射 電位の抑制にこのようなシナプス活動に対する作用が関与している可能 性もある。作用機序に関しては,今後更なる研究が必要であるが,オイゲ ノールが臨床的に痛みの治療薬の一つとなりうる可能性を支持する結果 である。