Newsletter of The National Museum of Modern Art, Tokyo [Apr.-May 2015] │ 12
こ
のたびコレクションにセザンヌの大作が加わりました︒主に二〇世
紀以降の日本の美術を扱う
MO MA Tに
どうしてセザンヌなの?と思われる方も
いらっしゃるかも知れません︒理由は︑①
セザンヌは一九世紀後半から二〇
世紀初
頭にかけて
活動
した
画家
︵
生没 年
がちょう
ど
両方
にまたがっていますよね
︶ ︒ 一九世紀
フランス美術の流れに属するだけでなく︑
二〇世紀美術の出発点を作ったという点
でもっとも
重要
な
画家
のひとりだから︒
②特に
日本
においては︑
明治
の末から今
日に至るまで︑あまりに多くのアーティス
トに影響を与え続けているから︒したがっ
て
MO MA Tとしては
︑この
作品
を︑明
治・
大正
・昭和
の
美術家
たちへの
影響
を
明らかにするのみならず︑現在のアーティ
ストたちとのコラボレーションも視野に入
れ︑展示・活用していくつもりです︒
この作品はかつて︑セザンヌの大
コレ
ク
ターだったオーギュスト・ペルラン︵一八五
三│一九二九︶という富豪の持ち物でした︒
その
邸宅
は
当時
一種
の
私設
セザンヌ
美術
館になっていて︑画家の安井曽太郎︑小説
家の島崎藤村ら︑日本人が訪れた記録も
あります︒作品の
木枠
には
︑ ﹁ 配膳室のド
アの右側﹂と︑邸内に飾る位置を示すフラ
ンス
語の書き込みが残っています︒
︽大きな
花束
︾には謎めいたところがい
くつかあります︒そのひとつが︑セザンヌ の静物画としては最大クラスのサイズ︒実
はこの
作品
︑松の木を描いた二点の
大作
︽大きな松の木と赤い
大地
︵ベルヴュ
︶ ︾ ︵
一
八八五年頃︑八一
・〇
×
一〇〇・〇㎝︑個人蔵︶
および︽大きな松の木と赤い大地
︾ ︵
一八九
〇│九五年︑七二
・〇
×
九一
・〇
㎝︑
エル
ミタ
ー
ジュ美術館蔵︶に︑構図やサイズがとてもよ
く似ているのです︒ということは︑セザン
ヌは︑室内で描く静物画を︑あたかも広々
とした
風景
を描くような
意識
で扱ったこ
とになります︒そう思うと︑背後の青い壁
がまるで空か湖に︑
花瓶
の花が枝を広げ
る樹木のように見えますね︒
また︑もうひとつの謎は︑画面周辺に見
られる﹁塗り残し﹂です︒セザンヌにおける
﹁塗り残し﹂は︑単なる未完成ではなく︑か
つてこのテーマで展覧会がひとつ作られた
ぐらい重要な手法なのですが︑ではこの作
品における﹁塗り残し﹂は一体どんな意味
を持つのでしょう︒私の
仮説
はこうです︒
花瓶から花が広がるその根元︑画面のちょ
うど
中心
の
部分
は︑
非常
に細かく描きこ
まれています︒セザンヌは︑この中心点に
視線を集中させ︑そのことによって周辺が
ぼやけて見える︑この
視覚現象自体
を描
き表そうとしたのではないでしょうか︒
いかがでしょう︒こんな
解釈
ではもの
足りない!というみなさん︒どうぞギャ
ラリーでじっくりと謎に挑んでみてくだ
さい︒︵美術課長 蔵屋美香︶ 新
し い コ レ ク シ ョ ン
ポー ル ・
セザ ン ヌ
︽ 大 きな
花束
︾
ポール・セザンヌ(1839-1906)
《大きな花束》
1892-95年頃 油彩・キャンバス 81.0×100.0cm 平成26年度購入