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理学療法50 年のあゆみと展望 ─新たなる可能性への挑戦─

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 625 ∼理学療法 627 頁(2015 50 年のあゆみと展望 ─新たなる可能性への挑戦─ 年). 625. 大会長基調講演. 理学療法 50 年のあゆみと展望 ─新たなる可能性への挑戦─* 内 山   靖**. 理学療法草創期のあゆみ  昭和 38(1963)年に,我が国ではじめてとなる理学療法士 養成課程が,国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院 で開始された。その後,昭和 40(1965)年に理学療法士及び 作業療法士法が公布され,昭和 41 年には第 1 回の理学療法士 国家試験が行われ 183 名の理学療法士が誕生した。同年,110 名で日本理学療法士協会(現在の公益社団法人日本理学療法士 協会)を設立した。  草創期の先達が掲げた目標は,(1)自立した理学療法の実. 図 1 医療に対する国民の期待. 現,(2)理学療法学の構築, (3)高等教育による理学療法教育 の実現,(4)国際標準への到達であったとされる。それぞれの 具体的課題は,医療類似職種との関係からみた理学療法の業務 独占や開業権,学術研究団体として日本学術会議への登録,4 年制大学による理学療法士の養成,世界理学療法連盟(World Confederation for Physical Therapy;WCPT)への加盟承認 であった。  現在(平成 27 年 4 月現在)では,理学療法士国家試験合格 者数は 129,942 人に及んでいる。この間,昭和 49(1974)年 に WCPT への加盟,平成 2(1990)年に日本学術会議への登 録,昭和 54(1979)年から短期大学での養成課程を経て平成 4 (1992)年には 4 年制大学での教育が実現している。草創期に. 図 2 専門職としての役割. 掲げられた目標の多くが着実に達成されてきた点は,先達のた ゆまぬ努力によってなし得たものである。草創期の理学療法を 取り巻く諸課題と活動ならびにリハビリテーション医療の状況. 祉の提供を,透明性と説明責任をもって実行することに集約で. については,10 年ごとに発行されている協会史に詳細が記さ. きる。特に重要な点として,予防,参加,地域・街づくり,臨. れている。. 床推論,プロフェッショナリズムが挙げられる。.  この 50 年のあゆみを真摯に振り返り,新たなる可能性へと. 2.専門職として求められる能力. 挑戦していくことは私たちに課せられた使命である。.  医療専門職は,かつて臨床,研究,教育が 3 本柱として重要. 今日の理学療法を取り巻く課題と展望. な要素であるといわれてきた。昨今の医療経済を取り巻く環境 から,直接的な臨床実践のうちルーティンワークに準ずる業務. 1.医療に求められる社会のニーズ. の配分が増加し,よりよい臨床実践を保証・継続するための教.  今日の医療に対する国民の期待は,図 1 に示す通り,健康寿. 育と研究に適切な時間を配分できない実情が指摘されている。. 命の延伸を目標にして,生活の場に応じた連続した保健医療福.  さらに,専門職が今日の多様性が高く絶えず変化する社会の. *. Physical Therapy in Japan: 50 years Progress and Vision for the Future ̶ Challenges for New Potentialities ** 名古屋大学大学院医学系研究科 (〒 461‒8673 愛知県名古屋市東区大幸南 1‒1‒20) Yasushi Uchiyama, PT, PhD: Nagoya University Graduate School of Medicine キーワード:理学療法 50 年のあゆみ,新たなる可能性への挑戦, 大会長基調講演. ニーズに的確に応えるためには,図 2 に示すように臨床,研 究,教育に加えて管理・創造,社会貢献を含めた 5 本の柱が重 要であるといわれるようになっている。専門職に求められる能 力は,広範囲かつ深化し,それぞれのキャリアアンカーに沿っ た適切な配分と融合に加えて,組織として総体的な発信を可能 にする機能分化・階層化が求められている。.

(2) 626. 理学療法学 第 42 巻第 8 号 表 1 予防に資する理学療法. 1 .産業保健    企業等において,労働環境の評価・改善,姿勢・筋   骨格系障害(WMSD)の評価と改善の指導    労災の減少と生産性の向上(presenteeism への対応) 2 .学校保健    小児の生活習慣病,姿勢の不良,発達の遅延ならびに   過度な負荷によるスポーツ傷害等の検診と早期の介入    特別支援教育・通常学級における個別ニーズへの対応 3 .地域保健    地域包括ケアシステムでの互助・街づくり    母子保健(定期検診,育児相談). 図 3 臨床での気づきとエビデンスの生成・活用.    転倒予防,非感染性疾患(NCDs)ヘの取り組み クエスチョンをリサーチクエスチョンに高めて臨床・疫学研究 を進め,エビデンスをつくる必要がある。併せて,我が国の研 3.予防に資する理学療法. 究全体の特徴でもある基礎研究が盛んである点を生かし,臨床.  健康増進・障害予防のための 1 次予防,急性期での 2 次予防,. 研究との融合を図るなかで,エビデンスを知る,つくる,伝え. 再発予防としての 3 次予防を理学療法の文脈で体系化すること. る,使う,広めるという循環を促す。. が求められる。特に,1 次,3 次予防では,表 1 に示したように,.  また,実践理学療法の基盤として,基本的動作能力の障害を. 産業保健,学校保健,地域保健の枠組みで多様な役割が期待さ. 鑑別する疫学統計に基づく臨床推論チャートを標準化し,学. れている。. 会・協会としての理学療法ガイドラインの改版と普及・啓発を.  諸外国では,理学療法士に産業保健領域での健康行動の啓 発 や 労 作 関 連 性 筋 骨 格 障 害(Work Related Muscloskeletal. 図り,併せて,臨床の最前線での柔軟性と個別性を言語化した “指針”の 3 つを相互に成熟させていくことが不可欠である。. Disorder;WMSD)に対する集団的,個別的な理学療法が推. 5.高等教育による理学療法学教育. 進されている。ここでは,理学療法の中核である基本的動作能.  現状において,我が国の理学療法教育体制には根幹的な課題. 力を基軸とした症候障害学的な臨床思考過程を基盤とし,運動. を抱えているといわざるを得ない。WCPT では,4 年制大学以. 病理学モデルに基づく評価と段階的な介入が重要となる。運. 上での理学療法士養成課程を世界標準とすることが 2007 年の. 動病理学モデルとは,「様々な習慣(癖)や運動・労作は,姿. 総会で議決され,教育内容の指針を公開している。米国では,. 勢や筋活動の不均衡ならびに自律神経活動や代謝の変化を生. すでに大学院博士課程での教育が標準化されている。理学療法. じ,それらの刺激や負荷が誘因となって筋骨格系,神経,血. 学教育の先進的な国や地域では,学校の適正数,国家試験・機. 管などに病理学的変化を惹起して様々な症状や機能低下が発. 関認証などについて行政関係者を含めた協議会で自律的に運営. 生する」とする概念である。あわせて,非感染性疾患(Non. している。. Communicable Diseases;NCDs)に対する段階的・多角的な.  一般社団法人全国大学理学療法学教育学会では,平成 26 年. 取り組みが求められる。. 度に大学への全数調査を行い,学部教育(95 校),大学院教育.  また,予防領域では,対象者の意識,実施形態,実施上の留. (修士 53,博士 34)についての現状と課題を整理している。大. 意点などで医療保険下での理学療法とは異なる側面があり,機. 学院学生に占める社会人の割合が高く臨床実践研究への関心が. 能的トリアージ,生活能力のアセスメントが重要な能力とな. 強いことから,高度専門職業人の育成に資する多職種連携教育. る。機能的トリアージとは,対象者の疼痛,ふらつき,倦怠・. や課題実践研究(コースワーク)の充実など,多様な取り組み. 疲労感などの一般的な愁訴から,器質的疾患(Red flag)や心. が期待される。. 理社会的な要因(Yellow flag)の存在を見極め,医師への受診.  また,教員の教育活動としての業績評価,臨床指導能力の専. を勧めるなど適切な対応を行う能力を含む鑑別である。そのう. 門性を踏まえた認定基準など,教育課程の特性に見合う教員の. えで,非特異的な症状(Green light)を有する対象者に,適切. 適正配置を含めた教育の質保証を推進する必要がある。. な理学療法を実施していく。併せて,地域で安心した生活を送. 6.国際的視野に立った我が国の理学療法の展望. るために重要な移動手段,バランス,プロセススキルなどの能.  教育水準ならびに予防・訪問理学療法における国際標準への. 力を見極め,病態を考慮した機能予後,行動変容と持続可能性,. 到達,我が国の理学療法士免許取得者数を生かした海外への技. 環境への適応,地域資源の活用と参加を踏まえた生活能力のア. 術移転,災害医療・保健領域での国際貢献,諸外国では広く国. センスメントが求められる。. 民に浸透している理学療法とリハビリテーションの明確な違い. 4.根拠に基づく理学療法学の体系化と臨床実践. を啓発する必要もある。.  根拠に基づいた個別性を考慮した理学療法を推進するために は,図 3 に示すように,臨床の経験と気づきによるクリニカル.

(3) 理学療法 50 年のあゆみと展望 ─新たなる可能性への挑戦─. まとめ ─これからの理療法士と理学療法. 627. 表 2 これからの理学療法 ・健康寿命の延伸に資する予防と参加の具現化.  これまでの記述を踏まえ,これからの理学療法に求められる 諸点を表 2 に示した。  専門職として広く社会に貢献するためには,社会のニーズを 的確に捉え,さらなる理学療法の開発・創造と社会への発信な らびに政策提言を行い,それらに必要な能力を学び続ける姿勢 をもつことが不可欠である。このことが,よりよい社会を実現 し,併せて理学療法士としての魅力的なキャリアパスや職域の 拡大につながるものと考えらえる。  冒頭で示した 50 年前に先達が掲げられた 4 つの目標を受け 継ぎ, (1)高い倫理観と専門的な判断能力に基づいた「自律し た理学療法」の推進, (2)「理学療法学の体系」による関連学 会との連携,基礎・トランスレーショナル研究を含む臨床研究 による根拠に基づく理学療法の進展,(3)「大学・大学院教育」 を基盤としたリカレント教育を含んだ継続学習(Continuing Professional Development;CPD)の実質化,(4)技術移転, 災害時支援,共同学位(Joint Degree)を含めた国際的視野に 立った理学療法を模索し,新たなる可能性へ挑戦してくことを 大会長としての提言としたい。. ・臨床,研究,教育,管理・創造,社会貢献の適正配分 ・予防に資する理学療法モデル(臨床推論,実践)の構築 ・機能的トリアージ,生活能力のアセンスメントの確立 ・疫学統計に基づく臨床推論の標準化 ・理学療法ガイドラインの成熟 ・臨床の柔軟性と個別性を言語化した指針 ・4 年制大学・大学院教育を基盤とした CPD の実質化 ・国際的な視野に立った技術移転,国際貢献の模索 ・理学療法とリハビリテーションの相違の浸透 ・社会のニーズを捉えた理学療法の開発と創造 ・多様なキャリパスの構築 ・先達が掲げた 4 つの目標を受け継ぎ, (1)自律した理学療 法の推進,(2)理学療法学の体系化,(3)大学・大学院教 育の実質化,(4)国際的視野に立った理学療法の模索 ・新たなる可能性への挑戦(姿勢,能力,組織).

(4)

参照

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