理学療法50 年のあゆみと展望 ─新たなる可能性への挑戦─
3
0
0
全文
(2) 626. 理学療法学 第 42 巻第 8 号 表 1 予防に資する理学療法. 1 .産業保健 企業等において,労働環境の評価・改善,姿勢・筋 骨格系障害(WMSD)の評価と改善の指導 労災の減少と生産性の向上(presenteeism への対応) 2 .学校保健 小児の生活習慣病,姿勢の不良,発達の遅延ならびに 過度な負荷によるスポーツ傷害等の検診と早期の介入 特別支援教育・通常学級における個別ニーズへの対応 3 .地域保健 地域包括ケアシステムでの互助・街づくり 母子保健(定期検診,育児相談). 図 3 臨床での気づきとエビデンスの生成・活用. 転倒予防,非感染性疾患(NCDs)ヘの取り組み クエスチョンをリサーチクエスチョンに高めて臨床・疫学研究 を進め,エビデンスをつくる必要がある。併せて,我が国の研 3.予防に資する理学療法. 究全体の特徴でもある基礎研究が盛んである点を生かし,臨床. 健康増進・障害予防のための 1 次予防,急性期での 2 次予防,. 研究との融合を図るなかで,エビデンスを知る,つくる,伝え. 再発予防としての 3 次予防を理学療法の文脈で体系化すること. る,使う,広めるという循環を促す。. が求められる。特に,1 次,3 次予防では,表 1 に示したように,. また,実践理学療法の基盤として,基本的動作能力の障害を. 産業保健,学校保健,地域保健の枠組みで多様な役割が期待さ. 鑑別する疫学統計に基づく臨床推論チャートを標準化し,学. れている。. 会・協会としての理学療法ガイドラインの改版と普及・啓発を. 諸外国では,理学療法士に産業保健領域での健康行動の啓 発 や 労 作 関 連 性 筋 骨 格 障 害(Work Related Muscloskeletal. 図り,併せて,臨床の最前線での柔軟性と個別性を言語化した “指針”の 3 つを相互に成熟させていくことが不可欠である。. Disorder;WMSD)に対する集団的,個別的な理学療法が推. 5.高等教育による理学療法学教育. 進されている。ここでは,理学療法の中核である基本的動作能. 現状において,我が国の理学療法教育体制には根幹的な課題. 力を基軸とした症候障害学的な臨床思考過程を基盤とし,運動. を抱えているといわざるを得ない。WCPT では,4 年制大学以. 病理学モデルに基づく評価と段階的な介入が重要となる。運. 上での理学療法士養成課程を世界標準とすることが 2007 年の. 動病理学モデルとは,「様々な習慣(癖)や運動・労作は,姿. 総会で議決され,教育内容の指針を公開している。米国では,. 勢や筋活動の不均衡ならびに自律神経活動や代謝の変化を生. すでに大学院博士課程での教育が標準化されている。理学療法. じ,それらの刺激や負荷が誘因となって筋骨格系,神経,血. 学教育の先進的な国や地域では,学校の適正数,国家試験・機. 管などに病理学的変化を惹起して様々な症状や機能低下が発. 関認証などについて行政関係者を含めた協議会で自律的に運営. 生する」とする概念である。あわせて,非感染性疾患(Non. している。. Communicable Diseases;NCDs)に対する段階的・多角的な. 一般社団法人全国大学理学療法学教育学会では,平成 26 年. 取り組みが求められる。. 度に大学への全数調査を行い,学部教育(95 校),大学院教育. また,予防領域では,対象者の意識,実施形態,実施上の留. (修士 53,博士 34)についての現状と課題を整理している。大. 意点などで医療保険下での理学療法とは異なる側面があり,機. 学院学生に占める社会人の割合が高く臨床実践研究への関心が. 能的トリアージ,生活能力のアセスメントが重要な能力とな. 強いことから,高度専門職業人の育成に資する多職種連携教育. る。機能的トリアージとは,対象者の疼痛,ふらつき,倦怠・. や課題実践研究(コースワーク)の充実など,多様な取り組み. 疲労感などの一般的な愁訴から,器質的疾患(Red flag)や心. が期待される。. 理社会的な要因(Yellow flag)の存在を見極め,医師への受診. また,教員の教育活動としての業績評価,臨床指導能力の専. を勧めるなど適切な対応を行う能力を含む鑑別である。そのう. 門性を踏まえた認定基準など,教育課程の特性に見合う教員の. えで,非特異的な症状(Green light)を有する対象者に,適切. 適正配置を含めた教育の質保証を推進する必要がある。. な理学療法を実施していく。併せて,地域で安心した生活を送. 6.国際的視野に立った我が国の理学療法の展望. るために重要な移動手段,バランス,プロセススキルなどの能. 教育水準ならびに予防・訪問理学療法における国際標準への. 力を見極め,病態を考慮した機能予後,行動変容と持続可能性,. 到達,我が国の理学療法士免許取得者数を生かした海外への技. 環境への適応,地域資源の活用と参加を踏まえた生活能力のア. 術移転,災害医療・保健領域での国際貢献,諸外国では広く国. センスメントが求められる。. 民に浸透している理学療法とリハビリテーションの明確な違い. 4.根拠に基づく理学療法学の体系化と臨床実践. を啓発する必要もある。. 根拠に基づいた個別性を考慮した理学療法を推進するために は,図 3 に示すように,臨床の経験と気づきによるクリニカル.
(3) 理学療法 50 年のあゆみと展望 ─新たなる可能性への挑戦─. まとめ ─これからの理療法士と理学療法. 627. 表 2 これからの理学療法 ・健康寿命の延伸に資する予防と参加の具現化. これまでの記述を踏まえ,これからの理学療法に求められる 諸点を表 2 に示した。 専門職として広く社会に貢献するためには,社会のニーズを 的確に捉え,さらなる理学療法の開発・創造と社会への発信な らびに政策提言を行い,それらに必要な能力を学び続ける姿勢 をもつことが不可欠である。このことが,よりよい社会を実現 し,併せて理学療法士としての魅力的なキャリアパスや職域の 拡大につながるものと考えらえる。 冒頭で示した 50 年前に先達が掲げられた 4 つの目標を受け 継ぎ, (1)高い倫理観と専門的な判断能力に基づいた「自律し た理学療法」の推進, (2)「理学療法学の体系」による関連学 会との連携,基礎・トランスレーショナル研究を含む臨床研究 による根拠に基づく理学療法の進展,(3)「大学・大学院教育」 を基盤としたリカレント教育を含んだ継続学習(Continuing Professional Development;CPD)の実質化,(4)技術移転, 災害時支援,共同学位(Joint Degree)を含めた国際的視野に 立った理学療法を模索し,新たなる可能性へ挑戦してくことを 大会長としての提言としたい。. ・臨床,研究,教育,管理・創造,社会貢献の適正配分 ・予防に資する理学療法モデル(臨床推論,実践)の構築 ・機能的トリアージ,生活能力のアセンスメントの確立 ・疫学統計に基づく臨床推論の標準化 ・理学療法ガイドラインの成熟 ・臨床の柔軟性と個別性を言語化した指針 ・4 年制大学・大学院教育を基盤とした CPD の実質化 ・国際的な視野に立った技術移転,国際貢献の模索 ・理学療法とリハビリテーションの相違の浸透 ・社会のニーズを捉えた理学療法の開発と創造 ・多様なキャリパスの構築 ・先達が掲げた 4 つの目標を受け継ぎ, (1)自律した理学療 法の推進,(2)理学療法学の体系化,(3)大学・大学院教 育の実質化,(4)国際的視野に立った理学療法の模索 ・新たなる可能性への挑戦(姿勢,能力,組織).
(4)
関連したドキュメント
期に治療されたものである.これらの場合には
cin,newquinoloneなどの多剤併用療法がまず 選択されることが多い6,7).しかし化学療法は1
スルファミン剤や種々の抗生物質の治療界へ の出現は化学療法の分野に著しい発達を促して
これは基礎論的研究に端を発しつつ、計算機科学寄りの論理学の中で発展してきたもので ある。広義の構成主義者は、哲学思想や基礎論的な立場に縛られず、それどころかいわゆ
それゆえ、この条件下では光学的性質はもっぱら媒質の誘電率で決まる。ここではこのよ
これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,
次に、第 2 部は、スキーマ療法による認知の修正を目指したプログラムとな
このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた