原 著
マウスES細胞を用いた骨格筋細胞の発生モデル
鈴木三友1),水野陽太1),蜷川菜々1),八木 保1),鳥橋茂子1) キーワード:ES細胞・骨格筋分化・筋節構造・C2C12 1.緒 言 骨格筋は筋線維と呼ばれる細長い多核細胞の束から 構成されている。発生学的には中胚葉由来の細胞であ り、骨格筋発生は中胚葉性の多能性細胞から形成され た筋前駆細胞が集合することによって始まる。その後、 様々な転写因子の活性化により、一罪細胞に分化し、 これらが融合して多核の筋管細胞を形成する。そして 最終的に細胞内部のタンパク構造を変化させることに より、筋節構造を有する筋線維へと分化するD。 骨格筋細胞のin vivoにおける発生や分化は、多く の誘導現象や遺伝子の転写が連続して生じる2・3)。骨 格筋特異的転写因子としてMyf5、 Myogenin、 MyoD、 MRF4が知られているが、この他に骨格筋分化には様々 な因子が作用すると考えられている。しかしどのよう な遺伝子やシグナル系が関与しているかについて、未 だに不明の点が多い。 現在この骨格筋分化過程の研究には、in vitroで培 養できる株化した筋芽細胞(C2C12, L6)が多用されて いる。しかし、これらの筋芽細胞株は筋芽細胞が融合 して青縞形成の段階までは進むが、通常の培養条件下 ではここで止まり、収縮能を持つ筋線維の形成は非常 に稀である4“6)。従って、これらを用いた骨格筋発生 1)名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻 Mayu Suzuki, PT, Yota Mizuno, PT, Nana 1 inagawa, PT, Tamotsu Yagi, PT, Shigeko Torihashi, PhD Nagoya University School of Medicine, Department of Health Sciences Programs in Physical Therapy 投稿責任者 鳥橋茂子 〒461-8673 名古屋市東区大幸南1-1-20 TEL/FAX: 052-719-1344 E-mail: storiha@met.nagoya-u.ac,jp の研究は筋芽細胞から筋管細胞への分化過程に制限さ れる。 一方、ES細胞は胞胚期の内細胞塊から得られる多 分即事と自己複製能を持つ細胞であり、再生医学や発 生生物学の研究で使用されている7)。ES細胞由来の筋 芽細胞は、理学療法との関連も深い筋ジストロフィー の治療でも、再生医療の移植組織として期待されてい る。実際、in vitroでES細胞を骨格筋細胞に分化させ る研究も行われている。さらにマウスES細胞由来の 筋芽細胞を移植することによって、筋線維が正常に形 成されたという報告もある8}。マウスのES細胞から 細胞の集合体である胚葉体(Embryoid body;EB)を形 成し、その後培養皿に接着して培養を継続すると、誘 導因子や遺伝子操作なしに様々な組織や細胞が分化し てくることが知られている。さらにその分化過程は多 くの場合マウス胎児の発生段階を踏襲しているという 報告がある9)。従って胚葉体形成後に分化してくる骨 格筋細胞を用いれば、C2C12では観察できない未分化 細胞から筋線維形成までの全過程を含む発生モデルと なることが期待される。マウスES細胞から骨格筋を 形成する系が新たなin vitroでの骨格筋発生モデルと なることが実証されれば、これを用いた筋線維形成メ カニズムの解明や、筋分化促進法の進展につながる。 そしてこれらの研究成果は、健康の増進、筋萎縮や筋 肉が関わる病気の治療、筋移植法の開発に貢献するで あろう。 本研究の目的は、マウスES細胞から骨格筋を形成 する系がin vitroの骨格筋発生モデルとして有用であ るか否かを検討することである。ES細胞を骨格筋細 胞へと分化誘導し、これがin vivoでの骨格筋発生過程 を模しているかどうか、また骨格筋形成がどの段階まで進行するかについて、遺伝子発現および筋節形成に 着目してマウス筋芽細胞株C2C12と対比させて検討 した。 材料と方法 2-1.細胞 マウスES細胞(G4-2;理化学研究所 丹羽仁史博 士より分与)、およびマウス骨格筋由来の筋芽細胞株 C2C12を用いた。 2-2.ES細胞の培養方法 培養i液(ES-DMEM)として4500 mg/L glucoseを含 むDulbecco’s modified Eagle’smedium(Sigma)に10 % fetal bovine serum (Vitromex). O.1 mM non-essential amino acids (GIBCO/BRL). 1 mM sodium pyruvate (GIBCO/BRL). O.1 mM 2-mercaptethano) (Sigma). 0.5%antibiotic-antimycotic liquid(GIBCO/BRL)を添加 したものを用いた。ES細胞を未分化状態で増殖させ る場合に限り、培養液に103Unitのleukemia inhibitory factor(LIF;Chemicon)を加えた。 ES細胞の培養iには0.1%gelatin(Sigma)でコートし た径100mm培養皿(FALCON)を用いた。 ES細胞を 解凍後、培養皿に播種し、LIFを添加した培養液で培 養して未分化状態を維持しながら増殖させた。未分 化細胞が培養皿の7割程度に増殖したところで、0.IM Phosphate buffer saline pH 7.4(PBS)で3倍に希釈した 0.25%Trypsin/1mM EDTA(Nakalai)で細胞を剥離し、 細胞数が約5×105cells/dishの濃度になるように新し い培養皿に播種する継代(passage:P)を行った。 ES細 胞を分化させるためにTrypsinで剥離後、 LIFを除いた 培養i液に移し、15plの細胞混合液(1000 cells/drop)を 培養皿の蓋面に滴下するHanging Drop法を6日間行っ て、胚様体(Embryoid body;EB)を作成した。その後、 EBをgelatinでコー一・Fトした培養皿に接着させて、培養 を継続した。経過は位相差顕微鏡(OLYMPUS)を用い て観察した。 2-3.C2C12の培養方法 増殖用培養液には15%FBSを加えたES細胞の培養 液を用いた。分化用培養液として1000mg/L glucose を含むDMEM(Sigma)に5%horse serum(HS;GIBCO) を添加した。この他の組成は増殖用培養液と同様のも のを用いた。 C2C12の培養iには、 PBSで10倍希釈した(最終濃度 0.05%)collagen type I(KOKEN)でコートした60 mm の培養皿(FALCON)を使用した。細胞数が約2×105 cells/dishの濃度になるように細胞を播種し、増殖用 培養液を用いて、筋芽細胞を増殖させた。細胞が培養 皿の9割程度に増殖したところで、分化用培養液に替 えて培養を継続し、経過を位相差顕微鏡で観察した。 播種後7日目には多数の筋管細胞が確認できた。 実験期間中、細胞はすべて37℃、5%CO2の条件下 で培養した。CO2インキュベーターはMCO-18AIC(サ ンヨー)を指示どおりに使用した。また、培養液の交 換は2日に1回行った。 2-4.RT-PCR解析 細胞を骨格筋分化過程において未分化細胞、発芽 細胞、筋管細胞の各段階でそれぞれ収集し、RT-PCR によってmRNAの発現を調べた。 C2C12は、播種後 5日目の筋芽細胞と分化用培養液4日目の筋管細胞を 収集した。またES細胞は、 LIF含有培養液で培養し た未分化ES細胞と、 EBをi接着培養i後、筋芽細胞と筋 管細胞をそれぞれが最も多くなった時期に、培養皿 からできるだけ均一な部分を選んで切り出して収集 した。その後RNeasy Micro Kit 50(QIAGEN)のマニュ アル従って全RNAを採集した。逆転写によりcDNAを 作成し、PCRのテンプレートとした。 PCRのPrimer (表1)は、骨格筋特異的転写因子であるMyoD、 Myf5、 Myogenin、 MRF4、収縮タンパク質をZ板に結合して いるα一actininを使用した。 mRNAが等量となるよう にテンプレートの量を補正し、GAPDHにより確認し
た。PCR反応は94度30秒間、60度30秒間、72度60
Gene 表1.RT-PCRに使用したプライマーLeft Primer Right Primer
Product size (bp)MyoD 1
AGTGAATGAGGCCTTCGAGA
ACACAGAACAGGGAACCCAG
533Myf5
AGACGCCTGAAGAAGGTCAA
ACACAGCTTCCCTCTCTCCA
436Myogenin
ACCTTCCTGTCCACCTTCAG
CACTCCCTTACGTCCATCGT
579MRF4
CTACATTGAGCGTCTACAGGACC
CTGAAGACTGCTGGAGGCTG
235a-actlnln
GGCAAGATGAGAGTGCACAA
TGTCTTCAGCATCCAGCATC
433秒間で36サイクル行い、PCR産物を2%アガロース
ゲル上で電気泳動し、Cyber safe(Invitrogen)で30分 染色した。 2-5.免疫蛍光染色培養i細胞はPBSで2回洗浄したあと、4%
paraformaldehyde(Sigma)で15分間固定した。 PBSで 3回洗浄後、10%正常ヤギ血清(Sigma)で30分間非特 異反応をブロックし、200倍希釈した抗マウスMyosin heaVy chain(MHC)抗体(c1one A4.1025, Upstate)を 37℃で1時間反応させた。その後PBSで3回洗浄し、 400倍希釈したAlexa 594標識ヤギ抗マウスlgG抗体 (Molecular Probes)を37℃で1時間反応させた。 PBSで 3回洗浄後、蛍光退色防止封入剤PermaFluor(Thermo) で封入し、共焦点レーザー顕微鏡 LSM5および蛍光 顕微鏡Axio Observer A1(Carl Zeiss)で観察した。 3.結 果 3-1.培養に伴って観察された形態変化 C2C12は、播種後2日目には単核の筋芽細胞に増殖 がみられた。播種後5日目で一月細胞が培養皿の9割 程度になり、分化用培養液に替えた。分化用培養液で の培養2日目には多核である筋鞘細胞が観察され始め、 分化用培養液で培養4~6日目には多数の群薄細胞が 確認できた。その後筋管細胞は徐々に数が少なくなり、 分化用培養液で培養してから10日目に細胞は死滅した。 一方、ES細胞は継代数により骨格筋の分化傾向に 違いが見られた。骨格筋に分化しやすい時期を検討し たところ、P12からP14にかけて骨格筋の出現頻度が 最も高かった(図1)。この継代時期のES細胞は、 EB を培養皿に接着後6日目から単核の筋芽細胞が出現し 始め16日頃に最も数が多くなった。また12日目で紡 錘形の血管細胞の出現が認められ、以後増加した。20 日目からは太い筋線維束が形成され、骨格筋の収縮運 動が観察された。収縮運動は35~40日目まで観察が 可能であったが、それ以後、収縮は止まり、培養皿へ の接着も悪くなって細胞は死滅した。従って、ES細 胞では、C2C12で観察できた筋芽細胞から筋管細胞ま での分化過程に加え、未分化細胞から筋芽細胞までと、 筋管細胞から筋線維までの分化過程も観察することが できた。 3-2.RT-PCRにより観察されたmRNAの発現骨格筋発生において特異的に発現する転写因子
MyoD、 Myf5、 Myogenin、 MRF4、筋節に存在する α一actininのmRNA発現について調べた。 C2C12の筋 芽細胞では、MyoD、 Myf5のバンドがはっきりと認め られた。これに比べるとMyogenin、 MRF4のバンドは 薄かった。C2C12は選管細胞になるとMyoD、 Myf5、 Myogenin、 MRF4、α一actinin全てのバンドが明瞭に認 められた。 一方、ES細胞では、未分化細胞の時期ではGAPDH 以外のmRNAは認められなかった。接着培養16日目 で筋芽細胞が多くなると、MyoD、 Myf5、 Myogeninにもバンドが認められた。しかしMRF4のバンドは
他のバンドに比べると薄かった。培養24日になって (δ如扁e自自国雲揮細鯉累 100 80 60 40 20 o ●…▲…P5,7 一■一・P12,14 工凋 工層唱口 脚 一一・ 。・一・P15,17 ↓L=
虚.〆汗,
o■o、一4rl峯茎;・干一端
直 塵O 2 4 6 8 10 12 14 16
時間(日) 図1.筋芽細胞を形成したEmbryo i d body(EB)の割合 縦軸は骨格筋芽細胞を同定したEBの割合、横軸は接着培 養を開始してからの日数を示す。P12, P14で最も早く、そ して多くの骨格筋芽細胞が同定された。これらの継代群で は6日目から高い割合で筋分化を開始した。 a-actinin 撫sumPWteMRF4
㈱ 譲 ‘Myogenin
細 愈 齢 参 ww穣黙Myfs
MyoD
鹸 嚢 轡 轡 騨 鱒Pt’繍騨魚
油
A GAPDH igefivva ssemp rw wt筋芽 筋管 禾分化
通口 禽 獣下灘
三管C2C12
ES細胞
図2.R丁一PCRによるmRNAの発現 RT-PCR法を用いて骨格筋特異的転写因子である、 MyoD、 Myf5、 Myogenin、 MRF4、そして筋節を構成するα一actinin のmRNAを検出した。未分化ES細胞ではこれらの転写因 子やα一actininは発現していなかった。しかし、他はC2C12 とES細胞との間に大きな違いは見られなかった。筋管細胞が多くなると、C2C12の筋管細胞と同様に MyoD、 Myf5、 Myogenin、 MRF4、α一actininの全てに バンドが観察された。要約すると、C2C12とES細胞
は骨格筋特異的転写因子のmRNAに関して発現傾向
に大きな差は無かった。また、筋節構造に関わる構 造タンパクのmRNAも両者で発現することが確認さ れた(図2)。 3-3.免疫蛍光染色により観察された筋節構造 Myosin heavy chain(MHC)の蛍光染色により、筋節 構造を比較した。C2C12を分化用培養液で4日間培養 すると、多核の筋管細胞まで分化が進んだ。そしてわ ずかなMHC陽性の筋節が観察された(図3A)。 一方、ES細胞も接着培養12日に細胞融合をし始 めるとMHC陽性のバンドが形成されたがこの時期、 その数はごく少数であった(図3B)。しかしES細胞は EBを24日間接着培養したところ、 C2C12とは異なり、C2C12
wma・’き》無難が\鴨齢’_…嚇、
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一雲∵N”’_譲麟 、.、 撫瀞、
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翫ES細胞
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一
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由
礎撫
騰φ
、㌔噸
唄、鯛
織
聲 、脚
、あ ●9 図3.C2C12およびES細胞由来筋管細胞のMHC免疫蛍光染色 (A)C2C12細胞は多核の導管細胞まで分化していたが、観 察された筋節はわずかであった。矢頭は核の存在部位 を、矢印はわずかに見られた筋節構造を示している。 (B)ES細胞も筋芽細胞が細胞融合し、筋管細胞へと分化した。 矢頭は核の存在部位を、矢印は融合間もない筋管細胞で わずかに見られた筋節構造を示している。Scale・bar=5ym 図4 ES細胞由来骨格筋細胞のMHC免疫蛍光染色 (A)線維走行は一定で規則正しく、またシート状に広がり、 MHC陽性の筋節構造が規貝1」的なバンドとして広範囲に 観察された。矢頭は核の存在部位を示し、多核の骨格 筋細胞に分化していたことを確認した。 (B)高倍率写真では筋原線維の走行がそろい、MHC陽性 部位が規則的に配列していることが明らかであった。 Scale bar = 5pm 細胞はシート状に広がり、規則正しい線維走行とバン ド状の筋節構造が確認できた。しかもこのような筋節 構造は大方の骨格筋細胞に存在していた(図4)。従って、ES細胞から形成された骨格筋細胞は
C2C12の筋管細胞では観察されない筋線維束の形成ま で分化が進行した。 4.考 察 4-1.骨格筋分化に関わるmRNAの発現 骨格筋の分化過程において、MyoD、 Myf5は初期に 発現し筋前駆細胞を筋芽細胞へ分化させる機能をも つ10)。その後、筋管細胞に分化する頃にMyogeninが 出現し、MRF4は筋の初期分化、最終分化の両時期で 発現する11)。今回C2C12、およびES細胞の筋芽細胞はともに骨格筋への分化に必要な骨格筋分化特異的転 写因子が発現していた。さらに筋節構造に関係する α一actininのmRNAは未分化なES細胞や筋芽細胞では 認められなかったが、浮管細胞になると確認された。 従って、ES細胞もC2C12と同様に転写因子の発現に ついては骨格筋への分化が進行し、in vivoの過程を模 倣しているであろうと推測された。今回未分化ES細 胞では全く認められなかったこれらの骨格筋特異的転 写因子が、いつ発現し始めるのかを同定することはで きなかったが、未分化ES細胞から筋芽細胞が出現す る過程で、初期に発現する転写因子の解析を行なえば、 骨格筋の初期発生について新たな知見が得られるであ ろう。 4-2.筋節構造の形成 形態学的観察により、ES細胞から分化した骨格筋 細胞は、C2C12では少ししか認められなかった筋節構 造が多く観察され、また収縮運動が見られた。ES細 胞はC2C12よりも成熟した段階まで分化することが 示された。これはES細胞を用いれば、未分化細胞か ら筋斗細胞までの発生過程と、筋管細胞から成熟した 筋線維までの分化過程もin vitroで観察することがで きることを意味する。 従って遺伝子発現も含めて、ES細胞を用いた骨格 筋形成はC2C12と比較すると骨格筋発生過程をより 長期にわたり観察可能である点で、骨格筋発生モデル として一段と有用であろう。 今回示されたES細胞の継代回数により分化効率が 異なる要因として、長期培養を続けると、発生におけ る多分玉響が制限されるという報告があるが、骨格筋 への分化との関連は示されていない12)。本研究では、 骨格筋が多く分化した時期に心筋特有の規則的な拍動 を伴った心筋細胞と思われる細胞も多く出現してい た。哺乳類の心筋と骨格筋は、いくつか共通の筋フィ ラメントタンパクを発現しているが、心筋細胞は骨格 筋細胞が必要とするMyoD、 Myf5、 Myogenin、 MRF4 といった4種類のMyogenic regulatory factors(MRFs) 転写因子を発現しておらず、MRFsが欠失していても 心筋の発生に問題は生じないといわれている13)。実 際、本研究でも心筋様の細胞はMyoD1の免疫活性を 示さなかった(未発表)。しかし、もし骨格筋と同じ く中胚葉由来である心筋細胞が多く形成されていたの であれば、P12からP14にかけてLIF存在下でも中胚 葉系への分化がすでに誘導されていたという可能性も ある。 4-3.筋節構造を形成するメカニズムについての考察 C2C12由来の年男細胞は筋節構造に関係するタンパ クであるα一actininのmRNAを発現していたが、 ES細 胞から形成された骨格筋細胞と異なり、形態学的観察 によると筋節構造はほとんど形成されなかった。一般 的にC2C12から形成された筋目細胞は未成熟である との報告は多い。しかし、通常の培養条件に更にある 特定の刺激を加えることで、C2C12が筋節構造を形成 したという報告がいくつかある。ES細胞からの骨格 筋細胞の形成過程にはC2C12では不足していた培養 条件が満たされていた可能性もある。 Fujitaらは、 C2C12の筋管細胞に電気刺激を加える ことによって、筋節構造が形成されたと報告してい る4)。これは、細胞外からの刺激によって細胞中に ある小胞体に蓄積されていたカルシウムイオンが放 出され、細胞内濃度が上昇し、その後、緩やかに元 のレベルに戻るといった、カルシウムイオン濃度の 周期的変化が繰り返し引き起こされること(カルシウ ム振動)が要因であるとした。このカルシウム振動に より、カルパインを介したタンパク質分解が起こり、 筋節構造を形成し、収縮運動を開始すると推測して いる。この報告では電気刺激によりカルシウム振動 を誘発しているが、本研究でもES細胞が筋節構造を 多く形成している部位に規則的に拍動する心筋様の 細胞も分化する傾向が見られた。従って、近傍の心 筋様細胞が示す規則的な収縮がES細胞へ伝播し、収 縮によるカルシウム振動が筋節構造を形成させた可 能性もある。 またNakanishiらは、 in vivoでの正常な筋発生にお いて分化初期に細胞内ストレスの一種である小胞体ス トレスを生じることを発見している14)。小胞体ストレ スが強いとタンパク質分解酵素カスパーゼ12が活性 化してアポトーシスが起こる。この小胞体ストレスを C2C12の筋芽細胞に誘導することにより、従来よりも 効率よく筋節構造が形成されたと報告している6)。こ れは、不要な細胞がストレスによりアポトーシスを起 こし、ストレス耐性のある細胞だけが選別されたため だと推測している。In vivoにおいて生じる小胞体スト レスは発生初期の一時的現象で、発生後期には見られ なくなる。本研究で、ES細胞は骨格筋発生を筋芽細 胞より前の段階から開始しているので、この発生初期 に小胞体ストレスの蓄積によるアポトーシスの過程を 経て、細胞の選別が生じていた可能性もある。 Cooperらは、線維芽細胞をフィーダー細胞として 用い、その上でC2C12を培養することで、腸管細胞 の収縮と筋節構造が長期にわたって観察できたと報告
している5)。これによると筋節構造の形成には一時的 な収縮刺激が必要だが、収縮による培養皿との摩擦に より骨格筋の筋鞘が破壊され通常の培養法では長期培 養は不可能であった。しかし、弾性ある線維芽細胞を フィーダー細胞として用いることで、培養皿との摩擦 が軽減して筋鞘の破壊を防ぎ、長期にわたり筋子の収 縮、筋節構造が維持されたのではないかと推測してい る。また、線維芽細胞が筋管細胞の分化を促進する成 長因子や細胞外基質タンパク質を供給している可能性 も考えられるが、彼らはその物質の同定には至ってい ない。本研究において、骨格筋細胞はC2C12のよう に単層の細胞として培養皿に直接接着するよりも、重 層構造をとり、走行の異なる骨格筋細胞同士が重なり あい、またはその他の細胞の上に覆いかぶさって増殖 することが多かった。従って、下層の細胞が骨格筋の 収縮による培養皿との摩擦を軽減したことも考えられ る。 一方、MusaらはES細胞を心筋細胞へ分化させたと きの筋節構造形成のメカニズムを調べているユ5)。それ によると正常のES細胞を心筋細胞に分化させると筋 節構造が形成されるが、タイチン遺伝子のM帯領域 を欠損させたES細胞を用いると筋節構造は形成され なかった。従ってMusaらは、タイチンのM帯での作 用が、ミオシンフィラメントの集合、M帯の形成、そ してZ帯の成熟に必要であると主張した。骨格筋細胞 の筋節構造内にもタイチンは存在しているので、骨格 筋細胞の筋節構造形成にも同様のことが言えるのかも しれない。C2C12やES細胞から形成された骨格筋細 胞においてもタイチンの発現や筋節構造形成における 役割について今後検討していく必要があるだろう。 本研究では、ES細胞由来の筋線維が筋節構造を多 く形成したメカニズムについて明らかにできなかった が、マウスES細胞がin vitroの骨格筋発生モデルとし て有用であることが示唆された。今後ES細胞を用い ることで、これまで培養系では手が付けられなかった 骨格筋の初期発生、および骨格筋の成熟段階の研究が 可能であると考えられた。 5.まとめ マウスES細胞による骨格筋形成は、 in vitroにおい て骨格筋発生の初期から成熟した筋線維形成までの一 連の変化を観察することができた。この点で、本実験 系はこれまで常用されてきた丁令細胞C2C12に比べ て骨格筋発生のモデルとして一段と有用であることが 示唆された。 謝辞=マウスES細胞G4-2を分与いただいた、理化 学研究所の丹羽仁史博士、C2C12株細胞の培養法をご 指導くださった、名古屋大学大学院医学系研究科前期 課程リハビリテーション療法学専攻四期生・西浜かす り氏、名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻六期 生・服部真理氏に深謝致します。 【引用文献】 1)Schiaffino S, Regglani C: Molecular diversity of myofibrillar proteins: gene regulation and functional significance. Physiol Rev 76: 371-423, 1996 2) Bailey P, Holowacz T, Lasser AB: The origin of skeletal muscle stem cells in the embryo and the adult. Curr Opin Cell Biol 13: 679-689, 2001 3) Sartorelli V, Caretti G: Mechanisms underlying the transcriptional regulation of skeletal myogenesis. Curr Opin Genet Dev 15: 528-535, 2005 4) Fujita H, Nedachi T, Kanzaki M: Accelerated de novo sarcomere assembly by electric pulse stimulation in C2C12 myotubes. Exp Cell Res 313: 1853-1865,
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