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特集筋電図からわかること 臨床で筋電図をどう生かすか 関西理学 17: 33 40, 2017 基本動作における大殿筋上部線維と下部線維の筋活動について 伊藤陸 1, 2) 藤本将志 1) 鈴木俊明 2) Muscle activity of the upper and lower gluteus

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(1)

Muscle activity of the upper and lower gluteus maximus in basic movements

Riku ITO, RPT

1, 2)

, Masashi FUJIMOTO, RPT

1)

, Toshiaki SUZUKI, RPT, DMSc

2)

Abstract

The activity of the gluteus maximus is said to change with exercise, the hip joint position, and muscle fiber. Therefore, it is important for physical therapy to deepen the understanding of the muscle activities of the upper and lower gluteus maximus in basic movements. In this paper, we examined the muscle activity patterns of the upper and lower gluteus maximus in basic movements using electromyography. The activities of the upper and lower gluteus maximus were different in timing and size of muscle activity in each basic movement, and we describe them using electromyograms.

Key words: gluteus maximus, EMG, basic movement

J. Kansai Phys. Ther. 17: 33–40, 2017

はじめに

大殿筋は殿部表層に位置する筋肉で、単一筋としては 人体で最大の体積を有する1)。また大殿筋はヒトが進化 する過程において発達したとされ、歩く際に股関節を伸 展させることで体幹を直立位に保つことができるように なったといわれている2, 3)。さらに大殿筋は股関節の動き を通して、股関節屈曲による骨盤の前傾、股関節伸展に よる骨盤の後傾、股関節内転による骨盤の対側下制、股 関節外転による骨盤の下制、股関節内旋、外旋による骨 盤の回旋のように骨盤の肢位にも関わることから体幹の 運動、姿勢にも影響を及ぼすことが考えられる。そして、

骨盤 ・ 体幹の肢位へ影響することに加え、一側上肢を挙 上させる際には三角筋に先行して大殿筋が活動するとの 報告4)や、大殿筋の筋力および筋緊張の改善により上肢 機能が向上したとの症例報告5, 6)から、上肢の運動にも 影響を及ぼすことが考えられる。このことから中枢神経 疾患、運動器疾患と疾患に関係なく、様々な動作場面で 重要となる筋であると考える。実際に、過去10年間にお

ける関西理学療法学会症例学術大会にて発表された症例 報告の172演題中74例で大殿筋あるいは股関節伸展筋を 評価および治療対象の筋として挙げている(関西理学療

法vol.7~16抄録集より)。そこで大殿筋の機能につい

て知ることは理学療法をおこなううえで重要と考えるが、

大殿筋は股関節肢位の違いによって筋線維走行や筋線維 長が変化し、発揮される筋活動や、運動作用が変わる7–9) とされ、その筋機能は複雑である。また大殿筋は股関節 伸展、外旋の主動作筋であるが、筋線維走行から上部線 維と下部線維に分け、運動軸となる股関節中心よりも上 方を走行する上部線維は股関節外転運動に作用し、下方 を走行する下部線維は股関節内転運動に作用すること が報告されている10)。これらのことからも理学療法を実 施する際には、基本動作における大殿筋上部線維および 下部線維、それぞれの働きについて理解する必要がある。

そこで、普段我々が臨床で評価する機会の多い、歩行動 作、立ち上がり動作、着座動作、階段昇降動作、方向転換 動作、上肢挙上動作に加え、治療でも用いる機会の多い 片脚立位をおこなった際の大殿筋の筋電図を測定し、上 1)六地蔵総合病院 リハビリテーション科

2)関西医療大学大学院 保健医療学研究科 Department of Rehabilitation, Rokujizo General Hospital Graduate School of Health Sciences, Graduate School of Kansai

University of Health Sciences

(2)

部線維および下部線維それぞれの筋活動について検討し た。

本稿では上記した基本動作時の大殿筋上部線維および 下部線維の筋活動について、健常男性4名を対象に測定 した筋電図パターンの代表例を紹介し、そのデータを踏 まえて大殿筋上部線維と下部線維の機能の違いについて 考えたい。

大殿筋の機能解剖

大殿筋は起始部である腸骨の恥骨翼外面で後殿筋線の 後方、仙骨の外側、尾骨の外側縁、胸腰筋膜、仙結節靭帯 から停止部である腸脛靭帯、大腿骨の殿筋粗面にかけて 幅広く走行している。支配神経は下殿神経(L4~S2)で ある。また、起始部では胸腰筋膜を介して広背筋や最長 筋、多裂筋、対側の大殿筋と筋連結しており、殿筋膜を 介して中殿筋と筋連結している。停止部では大腿二頭筋、

小内転筋、大内転筋、外側広筋と筋連結しており、また 腸脛靭帯を介して大腿筋膜張筋との筋連結が報告されて いる(図1)11, 12)。作用については股関節の伸展および外 旋運動に関与することが一般的であるが、筋線維走行か ら上部線維と下部線維に分け、運動の軸となる股関節の 中心よりも上方を走行する上部線維は股関節外転運動に 作用し、下方を走行する下部線維は股関節内転運動に作 用するといわれている。また解剖の書籍や先行研究では、

腸骨稜、上後腸骨棘、腰背筋膜、仙骨、尾骨から腸脛靭帯 に走行する浅層線維と腸骨外面で後殿筋線の後方、仙結 節靭帯、中殿筋筋膜から大腿骨の殿筋粗面にかけて走行 している深層線維と分けて報告しているものもある13, 14)。 浅層線維の特徴は深層線維に比べ筋長が長く、より大き

い。深層線維の特徴は浅層線維に比べ、より直線に縦方 向の筋線維走行をしていることから、股関節伸展に有利 な筋線維であると考えられる。なお、今回用いている表 面筋電図による計測で筋活動が多く反映される線維はよ り表層を走行する浅層線維である。深層の筋線維に対し ては、針筋電図を用いることで、測定が可能となるが、侵 襲的であることからも、筋電図測定の多くで用いられて いるのは表面筋電図である。

対象と方法

対象は、整形外科学、神経学的に問題のない健常男性

4名、平均年齢24.5 ± 1.5歳とした。計測にはテレメトリー

筋電計MQ8とその収録ソフトVital Recorder2(キッセイ コムテック社製)を用いて大殿筋上部線維と下部線維の 表面筋電図を測定した。電極は能動電極Lectrode(Ag/

Ag-cl、アドバンス社製)を用い、電極貼付位置について は鈴木ら15)の報告に基づいて大殿筋上部線維を上後腸 骨棘の2横指下と大腿骨大転子を結ぶ線上の筋腹上、大 殿筋下部線維は坐骨結節から5 cm上の筋腹上とし、電極 間距離2 cmで筋線維の走行に沿ってそれぞれ貼付した

(図2)。また、大殿筋上部線維については腸骨後殿筋線か

ら大転子を走行する中殿筋後部線維とのクロストークに 配慮し、中殿筋の後縁よりも後方で仙骨後面から起始す る筋線維に電極を貼付した。なお、測定は双極導出法と し、サンプリング周波数1 kHzにて取り込み、多用途生体 情報解析システムBimutas Video(キッセイコムテック社 製)を用いて解析した。

測定課題は、歩行動作、立ち上がり動作、着座動作、昇 段動作、降段動作、方向転換動作(クロスステップ、サイ 図1 大殿筋停止付近の形態(文献9より改変引用)

大殿筋は胸腰筋膜、腸脛靭帯、大腿筋膜を介して広背筋、多裂筋、最長筋、中殿筋、外側広筋、大腿筋膜張筋、大腿二頭筋と多く の筋と連結している。

(3)

ドステップ)、片脚立位、上肢挙上動作とした。また大殿 筋の筋活動の参考値として、徒手筋力検査における股関 節伸展(大殿筋)の段階3である腹臥位、膝関節屈曲、股 関節伸展位保持時の筋電図を測定し、図3に示す。いず れも測定側は右下肢とした。なお、今回測定した対象者 のすべてに類似した結果を認め、その代表的な筋活動パ ターンを示す。

歩行動作における大殿筋の筋活動パターン

歩行動作における大殿筋の筋活動パターンを図4に示 す。歩行動作時の大殿筋は下部線維が踵接地直前から先 行して活動しはじめ、足底接地前に筋活動のピークを迎 える。一方で大殿筋上部線維は踵接地後より活動しはじ め、立脚中期あたりで筋活動が最大となり、その後の踵 離地に向けて漸減していく。大殿筋の筋線維走行を考慮 すると、仙骨、尾骨後面から大腿骨殿筋粗面にかけて、よ り縦に走行する下部線維が効率よく股関節伸展運動に関 与すると考えられる。そこで、立脚初期では身体の前方 移動とともに股関節屈曲による体幹前傾が生じないよう 制動し、股関節を伸展するために大殿筋下部線維の働き が重要になると考える。しかし、歩行における大殿筋下 部線維の筋活動は小さく、最大振幅値を腹臥位での股関 節伸展位保持時と比較しても半分以下であった。鈴木16) は、歩行の立脚後期では股関節伸展運動のみでなく、見 かけ上の股関節伸展のために腰椎前弯による骨盤前傾が 生じる。このとき、対側下肢は立脚初期を迎え、骨盤前 傾位から腰椎前弯の減少により後傾していくことに伴っ

て股関節が伸展していくと述べている。このことからも 大殿筋下部線維は、立脚初期において腰椎前弯による骨 盤前傾に伴う股関節の屈曲を制動するために関与するが、

純粋な股関節伸展運動は少なく、積極的な筋活動は必要 なかったと考える。また、Perryら17)は歩行において、大 殿筋下部線維は立脚初期に股関節伸展作用にて股関節屈 曲の制動に関与し、大殿筋上部線維は立脚初期や立脚中 期に股関節外転作用にて股関節内転に伴う骨盤の遊脚側 への下制に対して制動に関与すると述べている。今回の 筋電図波形からも股関節伸展作用を有する大殿筋下部線 維は踵接地時の股関節屈曲の制動に関与し、股関節伸展、

外転作用を有する大殿筋上部線維は立脚初期から中期に かけて股関節内転の制動、および立脚中期で対側下肢を 振り出すために立脚側の股関節外転による骨盤の立脚側 への下制に関与したと考える。

図2 大殿筋上部線維、下部線維の電極貼付位置 電極貼付位置について、大殿筋上部線維は上後腸骨棘の 2横指下と大転子外側端を結ぶ線の筋腹上、大殿筋下部 線維は坐骨結節から5 cm上の筋腹上とし、それぞれの 筋線維走行に沿って電極間距離2 cmで配置した。

図3 腹臥位、股関節伸展位保持における筋活動 徒手筋力検査での股関節伸展(大殿筋)の段階3と同様の腹臥位、

膝関節屈曲、股関節伸展位保持における大殿筋上部線維、大殿 筋下部線維の筋活動を示す。

図4 歩行動作における筋活動パターン

図中の点線は左から右踵接地、右足底接地、右踵離地、右爪先離 地の順に示しており、2歩行周期中の筋電図波形である。

(4)

立ち上がり動作、着座動作における 大殿筋の筋活動パターン

立ち上がり動作、着座動作における大殿筋の筋活動パ ターンを図5に示す。立ち上がり動作においては、動作開 始から殿部離床までを屈曲相、殿部離床から終了肢位で ある立位までを伸展相とする。着座動作においては、動 作開始から殿部着床までを屈曲相、殿部着床から終了肢 位である座位までを伸展相とする。立ち上がり動作にお ける大殿筋は動作開始直後より下部線維が先行して活動 しはじめ、殿部離床にかけて筋活動が増大していく。一 方、大殿筋上部線維は屈曲相後半から活動しはじめ、殿 部離床後の伸展相において筋活動が最大となり、終了肢 位まで筋活動が続く。股関節伸展作用を有する大殿筋下 部線維は、遠心性収縮にて屈曲相における股関節屈曲に 伴う体幹前傾の制動に関与することが考えられる。また、

大殿筋は股関節の伸展に作用し、体幹を前傾位から後傾 させるとともに重心を上方へと押し上げ、姿勢を直立位 に調整しようとする姿勢保持の役割を果たすと言われて いる18)。さらに、大殿筋の筋線維走行は骨盤に対して水 平方向のベクトルも有しており、仙骨外側縁を起始部と することから仙骨を関節面に押し付け、仙腸関節の安定 化にも作用すると言われている19)。そこで殿部での支持 がなくなり、仙骨、腸骨間に剪断しようとする働きが大 きくなると考えられる殿部離床から伸展相にかけて、解 剖学的に仙腸関節の後方を横断している大殿筋上部線維 が、仙腸関節の適合性 ・ 安定性に関与するとともに、求 心性収縮にて股関節伸展に伴う、体幹前傾位からの後傾 に関与すると考える。着座動作における大殿筋は動作開 始後より上部線維の活動がわずかに増大し、殿部着床後 より伸展相にて下部線維の活動が増大する。立ち上がり 動作、着座動作ともに、股関節伸展作用にていずれも股 関節屈曲に伴う体幹前傾の制動に関与することが考えら

れるが、筋活動の大きさは立ち上がりに比べ着座動作で 小さい。立ち上がり動作と着座動作について、鈴木20)は 以下のように述べている。立ち上がり動作では屈曲相か ら殿部離床後にかけて股関節屈曲に伴う体幹の前傾によ り身体を前下方へと移動させていくことが重要である。

これに対し、着座動作では足関節背屈、膝関節屈曲によ る下腿の前傾を伴い、身体重心を足底の支持基底面内に 留めながら身体を下方へと移動させていく必要があり、

足関節背屈の動きが重要である。これらのことから、屈 曲相での股関節屈曲による体幹前傾を伴った前下方への 動きが重要となる立ち上がり動作で大殿筋の筋活動がよ り大きくなると考える。

方向転換動作における大殿筋の筋活動パターン

方向転換動作における大殿筋の筋活動パターンを図6 に示す。課題は右下肢を支持側とし、右下肢を越えて右 側へ左下肢を振り出すクロスステップと、左下肢を左側 に振り出すサイドステップの 2種類を測定した。いずれ も進行方向に対して約45°斜めに左下肢をステップさせ た。クロスステップにおける大殿筋は上部線維、下部線 維ともに直進歩行と同様の筋活動パターンであった。一 方でサイドステップにおける大殿筋は、筋活動パターン は類似しているものの、踵接地後から立脚中期にかけて 上部線維の筋活動が直進歩行、クロスステップと比較し て高値を示していた。方向転換におけるサイドステップ は、支持側の股関節伸展、外転、外旋の複合運動により 遊脚側下肢を外側へと振り出していく動作である。先行 研究において、我々は立位でのステップ肢位における支 持側股関節外旋角度変化が支持側大殿筋の筋電図積分値 に及ぼす影響について検討した21)。このとき、股関節外 旋角度の増加に伴い、ステップ側下肢は開始肢位におけ る前額面に対して外側方に位置する肢位となることから、

図5 立ち上がり、着座動作における筋活動パターン

立ち上がり動作の筋電図波形に挿入した3本の点線は左から動作開始時、殿部離床時、動作終了時を示す。着座動作の筋電図波 形に挿入した3本の点線は左から動作開始時、殿部着床時、動作終了時を示す。

(5)

ステップ側下肢の重みは外側方へ落ちようとする働きが 増すことで、支持側股関節では内転しようとする働きが 増大すると述べた。これに対し股関節外転作用を有する 大殿筋上部線維が肢位保持に関与すると報告した。今回 実施したサイドステップにおいても、股関節伸展、外転、

外旋作用を有する大殿筋上部線維は、遊脚側下肢、骨盤 が遊脚側へ下制しようとする働きを制動するとともに、

遊脚側へと骨盤を回旋させる駆動力として関与したと考 える。

段差昇降動作における大殿筋の筋活動パターン

段差昇降動作における大殿筋の筋活動パターンを図 7に示す。課題は高さ25 cmの台上に右下肢を乗せ昇段 する動作と、右下肢を支持側とし台上から左下肢を降段 する動作の2種類を測定した。昇段動作における大殿筋

は、足底接地後より下部線維が活動しはじめ、その後に 上部線維の活動が続く。筋活動のピークは下部線維が早 く、上部線維は立脚相を通して大きな筋活動が継続する。

昇段時における大殿筋は股関節伸展作用にて、台上にス テップした下肢の股関節、膝関節の伸展で身体を上方へ と移動させるための駆動力として働くと考えられる。ま た、大殿筋上部線維は対側下肢を段上へと上げるため、

股関節外転作用にて骨盤の立脚側への下制に関与し、相 対的に骨盤を対側に引き挙げる作用として、立脚相を通 して大きな筋活動が必要になると考える。降段動作にお ける大殿筋は、対側下肢を下ろす直前から上部線維が活 動しはじめ、下段に足底接地するまで活動が持続する。

下部線維は対側下肢が下段に爪先接地する直前に活動が 増大する。また昇段、降段動作ともに大殿筋の活動を認 めたが、最大振幅値は降段動作に比べ、昇段動作で2倍 以上の値を認めた。昇段動作において、股関節屈曲位か

図6 方向転換動作における筋活動パターン

図中の点線は左から踵接地、足底接地、踵離地、爪先離地の順に示しており、2歩行周期中の筋電図波形である。なお、クロスステッ プ、サイドステップの波形ともに2つめの波形で方向転換時における立脚相の筋電図パターンを示す。

図7 段差昇降動作における筋活動パターン

昇段動作の波形に挿入した3本の点線は左から動作開始時、右足底接地時、動作終了時を示す。降段動作の波形に挿 入した5本の点線は左から左踵離地、左爪先離地、左爪先接地、左踵接地、動作終了時を示す。

(6)

ら身体を上方へ移動させるために大きな股関節伸展筋力 が必要になるが、降段動作においては膝関節屈曲により、

ゆっくりと制動しながら身体を下方へと移動させる必要 があると考える。また、黒後ら22)は昇段では先に振り出 した下肢の股関節伸展と膝関節伸展力が駆動として働き、

降段では後ろから振り出す下肢の膝関節伸展力が制動と して働くと述べている。そこで従重力に股関節が屈曲し ていく降段動作に比べ、抗重力に股関節を伸展させてい く昇段動作でより大きな大殿筋の筋活動が必要になると 考える。

片脚立位における大殿筋の筋活動パターン

片脚立位における大殿筋の筋活動パターンを図8に 示す。課題は右下肢を支持側とし、挙上側の左下肢を股 関節屈曲 ・ 伸展中間位にて膝関節を90°屈曲する片脚立 位(以下、膝関節屈曲課題)、股関節屈曲90°、膝関節屈曲 90°で大腿を前方に挙上する片脚立位(以下、股関節屈曲 課題)、左下肢を股関節外転にて外側へと挙げる片脚立 位(以下、股関節外転課題)の3種類を測定した。片脚立 位における大殿筋の筋活動について、下部線維はいずれ の課題においても片脚支持になるとともに、筋活動のわ ずかな増大を認めたが立位保持時と同程度であった。渡 邊ら23)は、片脚立位における大殿筋の作用ついて、挙上 側骨盤の下制に対する制動および支持側股関節の軽度伸 展位保持としての作用が求められると述べている。今回 の結果からも、片脚立位では挙上側下肢の重みに対して、

支持側の股関節屈曲により体幹が前傾しないよう股関節 伸展位を保持するための大殿筋下部線維の関与も必要に なると考えるが、立位保持時と同程度の筋活動で肢位保 持が可能であったと解釈する。大殿筋上部線維は、開始 肢位の立位から片脚立位へと肢位を変えるなかで筋活 動の増大を認め、股関節外転課題が最も大きく、続いて

股関節屈曲課題、膝関節屈曲課題の順で大きな筋活動を 認めた。片脚立位においては、支持側股関節内転により 骨盤、体幹が挙上側へと傾斜しないよう保持するために、

股関節外転作用を有する大殿筋上部線維が肢位保持に関 与すると考える。また會田ら24)は片脚立位時の非支持側 下肢挙上方向の股関節角度の相違が支持側下肢の筋活動 に与える影響について報告しており、外転方向に挙上し た際に支持側股関節外転筋の活動が増大すると述べてい る。さらに渡邊ら23)は、片脚立位にて一側下肢を側方挙 上する際に、支持側大殿筋上部線維は挙上側骨盤の下制 に対する制動作用として、より積極的に関与すると述べ ている。今回の課題においても挙上側下肢、骨盤の重み により、支持側股関節には内転しようとする働きが生じ ることから、前額面上で挙上側下肢を外側へ挙げるよう な課題で、大殿筋上部線維は股関節外転作用にてより大 きな筋活動が必要になると考える。

上肢挙上動作における大殿筋の筋活動パターン

上肢挙上動作における大殿筋の筋活動パターンを図

9に示す。課題は右手に2 kgの重りを持ち、右上肢を肩

関節屈曲運動にて前方に挙上させる動作を測定した。上 肢挙上動作における大殿筋は、動作開始から上肢の挙上 角度が増加するに伴い、上部線維の筋活動増大を認めた。

下部線維は動作を通して、立位保持時と同程度の筋活動 を認めた。早田ら25)は座位での一側肩関節屈曲角度変化 が最長筋、多裂筋、腸肋筋の筋電図積分値に及ぼす影響 について報告しており、上肢挙上時に上肢質量中心の前 方への移動に対して、釣り合いをとるための胸腰部伸展 が必要であると述べている。今回測定した立位での上肢 挙上動作においては、2 kgの重りを持った上肢の質量に 対して、胸腰部伸展に加えて股関節伸展が必要になると 考える。また胸腰部を伸展させるための多裂筋の収縮に

図8 片脚立位における筋活動パターン

各波形に挿入した点線は挙上側下肢の爪先離地を示す。

(7)

より、腰椎の前弯に伴い骨盤には前傾しようとする働き が生じると考えられる。そこで、立位での上肢挙上動作 では、多裂筋の収縮に伴う骨盤前傾の制動と、上肢質量 中心の前方移動に対して釣り合いをとるための股関節伸 展作用として大殿筋の活動が必要であり、とくに多裂筋 との筋連結が報告されている大殿筋上部線維の肢位保持 への関与が大きかったと考える。

まとめ

本稿では、基本動作における大殿筋上部線維と下部 線維の筋活動パターンについて、筋電図データを用いて 紹介した。大殿筋は股関節肢位や筋線維の違いで筋活動、

作用が変化すると言われており、基本動作における上部 線維、下部線維の筋活動について理解を深めることは、

理学療法をおこなううえで重要であると考える。本稿が、

股関節の運動や筋活動に関する理学療法評価および治療 の一助になれば幸いである。

文 献

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21) 伊藤 陸・他:立位でのステップ肢位保持における支持側 股関節外旋角度変化が支持側大殿筋上部線維と下部線維の

図9 上肢挙上動作における筋活動パターン

図中の点線は左から上肢挙上動作開始時、動作終了時を示す。

(8)

参照

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