四物湯を含む処方が精神症状を改善した6症例
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(2) 日東医誌 Kampo Med Vol.71 No.2, 2020. しば昼まで寝ており,ここ. 週間は学校に行ってい. ない。 入院時身体所見:身長 .,血圧. /. cm,体重. . kg,BMI. mmHg,脈拍 /分・整,体温. .. ℃,意識清明,呼吸音異常なし,心雑音なし,腹部 平坦・軟,四肢に浮腫なし。. ゾールは . μg/dL,ACTH は. . pg/mL と退院時. と比べて低下傾向であったが,さらに. ヵ月後には. コルチゾールは . μg/dL,ACTH は. . pg/mL と. 回復しており,通学再開に伴うストレスによる一時 的な低下であったと考えた。 症例. 漢方医学的自覚症状:寒い暑いは気にならない,. 95. 主. :. 歳. 女性. 訴:全身倦怠感. 痒み. 食欲良好(朝は不良) ,目が疲れる,頭痛・頭重あ. 現病歴:X 年. り,入眠困難,悪夢,寝起きが悪い,午前中の倦怠. 月,学校行事などで忙しく,蕁麻疹が出現した。. 感,口 乾,冷 水 を 好 む( L/日) ,尿 は. 月,全身倦怠感が増悪し,特に台風で増悪した。. 便通. 回/日,. 回/日,めまい,立ちくらみ,車酔い,鼻水,. 身重,こむら返り,肌荒れ(−) ,脱毛(−) ,爪割 れ(−) 。. 月,徐々に全身倦怠感が出現した。. 月末当科を初診し腹直筋緊張と台風で悪化したの を水毒と考え,四逆散合五苓散で加療を開始した。 月中旬,倦怠感増悪,起床困難,通学困難のため,. ). 漢方医学的他覚所見:顔色正常,電気温鍼 (入 院時) ch:. 分, ch:. 分。 (冷えはわずかか,. ほとんど無いと診断した。 )脈候:浮沈中間,細,. ". 入院加療となった。 cm,体 重. 入 院 時 身 体 所 見:身 長 .,血圧 /. mmHg,脈拍. kg,BMI. /分・整,体温. .. 緊,やや 。舌候:正常紅,湿潤した薄白苔,舌下. ℃,意識清明,呼吸音異常なし,心雑音なし,腹部. 静脈怒張(−) 。腹候:腹力中等度より充実,腹直. 平坦・軟,四肢に浮腫なし。. 筋攣急著明,臍上悸,心下悸,振水音,両臍傍圧痛。 臨床経過:立ちくらみ,振水音を水毒と考えて苓 桂朮甘湯エキス. 包を処方。. 週間後,午前中の倦. 漢方医学的自覚症状:手足が冷える,疲れやすい, 物忘れする,食欲良好(だがすぐに満腹になる) , 目が疲れる,入眠困難,熟眠感無し,寝起きが悪く. 怠感はやや軽減したが,朝起きられない,起きても. 起きてもボーっとしている,口渇,冷水を好む(. ボーっとしているとのこと。初診時のコルチゾール. ∼ .L/日),自 汗,尿 は. が . μg/dL(午前中の任意の時間に測定:当院の. 立ちくらみ,車酔い(−),こむら返り(±),肌荒. 標準値. −. μg/dl)と低値(ACTH は. pg/mL で. 正 常:当 院 の 標 準 値 .− .pg/ml)で あ り,ま た Selfrating Depression Scale(SDS). ,StateTrait. 回/日,便 通. 回/日,. れ(±),脱毛(±),爪割れ(−)。 漢方医学的他覚所見:顔色良好,電気温鍼(入院 時). ch:. 分,. ch:. 分(軽度の裏寒があると. Anxiety Inventory(STAI)(特性) 点,STAI(状. 診断した。),脈候:やや沈・細,緊。舌候:淡紫色,. 態). 湿潤した厚めの白苔,舌下静脈怒張軽度。腹候:腹. 点と抑うつ,不安ともに高値であったため,. 入院加療を勧めた。同時に入眠困難,ボーっとする. 力中等度より充実,心下痞. を集中力の低下,すなわち血虚と考えて四物湯エキ. 水音,左臍傍圧痛。. ス 前の. 包を併用した。. 日後に入院となったが,入院. 日間は午後から通学可能となるほど著明に元. !,腹直筋攣急著明,振. 臨床経過:初診時のコルチゾールは . μg/dL, ACTH は. . pg/mL(午前中の任意の時間)であっ. 気が出たとのことであった。入院後からは煎じ薬で. た。また入院時の SDS 点,STAI (特性) 点,STAI. 連珠飲(苓桂朮甘湯合四物湯)を処方した。入院翌. (状態). 日早朝のコルチゾールは . μg/dL,ACTH も. 果から,裏寒があるとみて振水音,心下痞. .. 点と若干の高値であった。電気温鍼の結. !などか. pg/mL と上昇し,起床も問題が無くなった。入院. ら真武湯合人参湯(附子 g)としたところ,. 中に小児科に依頼し,新起立試験を施行,体位性頻. 目から体が温まり,蕁麻疹も徐々に減少した。また. 脈症候群と診断された。なお腹部エコーでは副腎も. 同日より心理的背景に母親と. 含め特に異常所見を認めなかった。. を訴えるため,加味逍遥散エキスと,午前中のボーっ. 日間で退院し,. その後は朝から通学可能であり, ヵ月後には SDS 点,STAI(特 性) 点,STAI(状 態) 点 と 改 善していた。午前中の任意の時間に測定したコルチ. 日. 藤があり,イライラ. とする感じ,脱毛,肌荒れなどを目標に四物湯エキ スにそれぞれ ため,入院. 包/日併用した。熱感が増強してき. 日目からは真武湯合人参湯は中止し,.
(3) 日東医誌 Kampo Med Vol.71 No.2, 2020. 96. 連珠飲と加味逍遥散エキス 包/日とした。朝は起. 睡眠障害を血虚とみて連珠飲とした。若干の冷えが. きられるようになり,コルチゾールは . μg/dL,. あると考えて附子を加えたが間もなく暑いとの訴え. ACTH は . pg/mL と改善した。過去の検査で起. があり,附子は中止。一方イライラして眠れないと. 立性調節障害と診断されたことがあるとのことで,. のことであり,. 再度の検査は希望しなかった。SDS は. 追加し,さらに臍傍圧痛を目標に桃仁を加えた。. 点,STAI. 点と SDS の若干の改. (特性) ,STAI(状態). 善を認め, 日目に退院した。その後,. ヵ月は内. 日目に抑肝散エキスを眠前に. 日目にはコルチゾールは . μg/dL,ACTH は. 包 .. pg/mL となり,熟眠感が得られ,朝も起きやすく. 服を続けたが自己中断した。母親の話では通学も受. なり,午前中ボーっとなる感じは軽減したため,. 験勉強も行えているとのことである。. 日目に退院となった。入院中に小児科に依頼して新. 症例 : 主. 歳. 女児(症例. 起立試験を施行したところ,体位性頻脈症候群と診. の妹). 断された。その後は週. 訴:起床困難. 現病歴:X−. 年,秋頃から起床困難,立ちくら. み,頭痛が出現し不登校がちとなった。X− はほとんど不登校となった。X 年. 年に. 月,当科を初診,. 腹直筋攣急と振水音などから小建中湯エキス+苓桂. 日は. 時間目くらいの. 授業から出席できている。さらに. ヵ月後のコルチ. ゾ ー ル は . μg/dL,ACTH は は. 点,STAI(特 性) 症例. +. 主. 月再診し主治医交代となったが,小建中湯. エキス+苓桂朮甘湯エキスを継続した。 月,治療. . pg/mL で,SDS. 点,STAI(状 態). 点で. 総合的に維持できていると考えた。. 朮甘湯エキスを処方したが通院は困難であった。X 年. ∼. :. 歳. 男性. 訴:職場の特定の女性が怖い. 現病歴:X−. 年,対人恐怖(職場)で初診,不. を強化するため煎じ薬で黄耆建中湯合苓桂朮甘湯と. 安感を煩躁と考え茯苓四逆湯の方意で真武湯エキス. したが通院困難が続き,入院加療となった。. +人参湯エキスで軽快し,職場復帰となった。X 年. 入院時身体所見:身長 .,血 圧. /. . cm,体重. mmHg,脈 拍. kg,BMI. 月,疎外感を感じ,悲しいと訴えるため,瘀血所. /分・整,体 温. 見,気うつを考慮して加味逍遥散エキス+半夏厚朴. . ℃,意識清明,呼吸音異常なし,心雑音なし, 腹部. 平坦・軟,手掌発汗。. 湯エキスとした。. 月,職場の特定の女性が怖い,. 厳しくされるように感じて,集中力が低下して仕事. 漢方医学的自覚症状:疲れやすい,集中力がない,. が手につかない,仕事の道具を落としてしまうとの. 目が疲れる,食欲やや不振,雨降り前に頭痛,入眠. ことで,恐れを目標に柴胡加竜骨牡蛎湯エキス+半. 困難,熟眠感無し,寝起きが悪くボーっとする,口. 夏厚朴湯エキスに八味丸 M 丸を兼用したが,. 渇なし(. ,尿は L/日未満),自汗(−). 日,便通. 回/日,立ちくらみ,車酔い,こむら返. ∼. 回/. り(−) ,皮膚の乾燥,脱毛(−) ,爪割れ(±)。 漢方医学的他覚所見:顔色良好,電気温鍼(入院 時). ch:. 分, ch:. 分(軽度の裏寒があると. 月には前より悪化するとの訴えで証を再考した。 証再考時身体所見:身長 .,血 圧. /. cm,体重. kg,BMI. mmHg,脈 拍 /分・整,体 温 未. 測定,意識清明,呼吸音異常なし,心雑音なし,腹 部平坦・軟,四肢に浮腫なし。. 診断した) 。脈候:やや沈,やや数,やや弱。舌候:. 漢方医学的自覚症状:疲れやすい,些細なことが. 正常紅,湿潤した白苔が中等度。腹候:腹力中等度. 気になる,集中力がない,過食の傾向,食後の眠気,. より充実,腹直筋攣急,両臍傍圧痛,振水音。. 中途覚醒,何かが起きそうな予期不安がある,口渇. 臨床経過:煎じ薬で黄耆建中湯合苓桂朮甘湯とし た時点でコルチゾールは . μg/dL,ACTH は. .. pg/mL(午前中の任意の時間)とコルチゾールは低 下していたため,精査加療目的で入院となった。入 院時早朝採血でコルチゾールは . μg/dL,ACTH. ( .∼. L/日),緊張すると上半身に発汗,尿は. 回/日,便通. 回/日,動悸,こむら返り,皮膚の. 乾燥,脱毛(−),爪割れ(−)。 漢方医学的他覚所見:顔色良好,電気温鍼未施行。 脈候:やや沈,大,弱,やや. !。舌候:暗赤色,湿. . pg/mL であり,また入院時の SDS 点,STAI. 潤した白黄苔が中等度,舌下静脈怒張。腹候:腹力. (特 性) 点,STAI(状 態) 点 で あ っ た。入 院. 中等度よりやや充実,両側胸脇苦満,腹直筋攣急,. は. 日目より水毒所見と,集中力がない,目の疲れ,. 小腹不仁。.
(4) 日東医誌 Kampo Med Vol.71 No.2, 2020. 臨床経過:柴胡加竜骨牡蛎湯エキス+半夏厚朴湯. し,腹部. 97. 膨隆・軟,下肢浮腫。. エキスに八味丸 M 丸を兼用とした時点でコルチ. 漢方医学的自覚症状:疲れやすい,気力がない,. . pg/mL(午 前 中. 症状が変動する,体が重い(特に雨の前) ,些細な. ゾール は . μg/dL,ACTH は. の任意の時間)であった。集中力がない,睡眠障害,. ことが気になる,目が疲れる,過食の傾向,寝付き. こむら返り,皮膚乾燥を血虚とみて,予期不安に関. ・寝起きが悪い,口渇軽度(. しては半夏厚朴湯を継続し,四物湯エキス+半夏厚. 自汗(++),口が粘る,雨・月経前に頭痛,めま. 朴湯エキス+八味丸兼用とした。. い・立ちくらみ,尿は. 「. 週間後に来院し,. 週間くらいして女性が怖い感じは軽減し,今は. ∼. ∼ .L/日未満),. 回/日,便通. 回/日だ. がすっきりしない,咳・痰が出る,動悸,嘔気,こ. 半分程度になっている。女性のことは気にならない. むら返り(−),皮膚の乾燥,脱毛(±),爪割れ(±),. が,他の周りの人が自分に気を遣っているように感. 月経はやや不順,経血塊。. じる。 」この時点(四物湯投与後 週間)でコルチ. 漢方医学的他覚所見:顔色. 暗赤色∼やや紅潮,. . pg/mL と 上 昇. 目の隈が著明。脈候:やや沈,大,やや弱。舌候:. していた。また SDS 点,STAI(特性) 点,STAI. 暗赤色,湿潤した白苔がやや厚め,舌下静脈怒張。. ゾ ー ル は . μg/dL,ACTH は. 年初診時 SDS 点,. (状態) 点であった。 (X−. STAI(特性) 点,STAI(状態). 点。 )そこで若. 干の興奮状態を鎮める目的で四物湯エキスを釣藤鈎,. 腹候:腹力中等度より充実,胸脇苦満,心下痞. !,. 腹直筋攣急,臍傍圧痛。 臨床経過:この時点でコルチゾールは . μg/dL,. 黄柏などが追加された七物降下湯エキスに変更した. ACTH は. ところ,さらに. た。集中力がなく,判断力を失って多愁訴をめぐる. 週間後には周りの人が気を遣って. ように繰り返すことを血虚と考えて,女神散エキス. いると感じることも軽減した。 症例 : 主. 歳. 女性(症例. 訴:倦怠感. ,. . pg/mL(午前中の任意の時間)であっ. +自家製五苓散末に四物湯エキスを併用したが,. の母). ホットフラッシュ (など多愁訴). 週間後には顕著な変化はなく,胸脇苦満を目標に煎. 年,全身倦怠感,ホットフラッシュ. じ薬で大柴胡湯合四物湯加小麦+自家製五苓散末,. が出現, 娘が不登校となり, また夫と別居状態となっ. さらに女神散合四物湯加小麦+自家製五苓散末とし. た。. て「だるい,きつい,悲しい,何も考えられない。」. 現病歴:X−. 月抑うつ状態の診断で休職,復帰後翌年. 再び休職。X−. 月. 年 月当科初診となりホットフ. と訴えていたものが,. 週間後には「体が動く,頭. "五苓散エキスを処方されたが予約時間に来られな. が回る,テレビが面白いと思って見られるように. い,キャンセルを繰り返すなど通院は不定期であっ. 善した。一方子供のことや,経済的な問題に対して. た。X 年. の不安はむしろ強く訴えるようになったかもしれな. ラッシュ,浮腫などを目標に加味逍遥散エキス+茵. 月主治医を交代した。瘀血所見が強かっ. ". なった。メールが開けられるようになった。 」と改. ヵ月後のコルチゾールは . μg/dL,ACTH. たため女神散エキス+茵 五苓散エキス,その後女. い。. 神散エキス+越婢加朮湯エキスで全体に調子がよ. は. く,. 月には復職し,離婚も成立したとのことだっ. 施行。. た。水毒徴候が顕著なため,女神散エキス+自家製. 症例. 五苓散末としたが, 月に子供の学校でトラブルに. 主. 遭い,そのことを繰り返し思い出す,きつい,だる. 現病歴:X−. . pg/mL と上昇しているが,心理テストは未 :. 歳. 女性. 訴:気力がない. 物忘れ(など多愁訴). 年,耳鳴を主訴に初診したが,ま. い,眠れない,悲しい,テレビやメールが見られな. もなく中断した。X 年. い,決済書類を先送りにして手をつけられないなど. 見えにくいなど多愁訴で再受診。補中益気湯,香蘇. 多愁訴を繰り返し訴えた。電話でも症状を訴えるが,. 散は無効で加味逍遥散合半夏厚朴湯でやや小康を得. 受診は不定期となり,予約を変更することを繰り返. た。X+. した。. 湯エキス+半夏厚朴湯エキスに転方。しかし. 月時点での身体所見:身長 BMI .,血 圧. /. cm,体重. mmHg,脈 拍. . kg,. /分・整,体. 温 . ℃,意識清明,呼吸音異常なし,心雑音な. 年. 月気力低下,物忘れ,目が. 月抑うつ傾向を訴えたため加味帰脾 月に. なっても多くの症状を次から次へと訴えるため,証 を再考した。 証再考時身体所見:身長. cm,体重. kg,BMI.
(5) 日東医誌 Kampo Med Vol.71 No.2, 2020. 98. 表. (. .,血圧. /. 各症例のコルチゾール,ACTH,SDS,STAI の変化. )内は観察期間,期間の短いものは投与日数を併記. mmHg,脈拍 /分・整,体温. .. ℃,意識清明,呼吸音異常なし,心雑音なし,腹部. 湯とした。その り,SDS. 週間後には,話し方が穏やかにな. 点,STAI(特性) 点,STAI(状態). 点と改善。しかし,コルチゾールは . μg/dL,. 平坦・軟,浮腫なし。 漢方医学的自覚症状:疲れやすい,気分が沈む,. ACTH は. . pg/mL と微増もしくは変化がなかっ. 集中力がない,物忘れする,気持ちが落ち着かない,. た。訴え方の変化は以下のようである。 「口の中が. 些細なことが気になる,目が疲れる,食欲普通,食. ベタベタして,顔の右半分に違和感があります。右. 後の眠気,早朝覚醒,口渇軽度( 自 汗(±) ,尿 は. ∼. ∼ .L/日未満),. 回/日,便 通. 回/日,咽 の. 胸がツーンと痛んで,体はすぐ疲れます。髪が抜け やすくて,口の苦味が気になりますし,体が急に震. つかえ感,動悸,こむら返り (−) ,皮膚の乾燥 (±),. えて,. 脱毛,爪割れ(−) 。. 息子の仕事のことが心配です。それから記憶が悪く. ,. 日前から下の歯に違和感があります。. 漢方医学的他覚所見:顔色やや不良,電気温鍼. て人の名前やどこにものを置いたかわからなくなり. 未施行。脈候:やや沈,やや大,やや弱。舌候:暗. ます。集中しきれないし,母親の介護のストレスを. 赤色,湿潤した白苔が中等度,舌下静脈怒張,歯痕。. 感じています。 」以上の訴えが約. 腹候:腹力中等度より軟弱,心下痞 ,腹直筋攣急,. が痛む事はありますが前より軽くなってきています。. 振水音,小腹不仁。. 母親と義理姉には少し距離を置くようにしたら気分. !. ヵ月後には「歯. 臨床経過:多くの症状を関連なく,思いつくまま. 的に落ち着いてきました。波はあるけど記憶力も改. 訴えるようであった。この時点で測定したコルチ. 善してきていると思います。息子とも良い関係がと. ゾール は . μg/dL,ACTH は. . pg/mL(午 前 中. れてきたように思います。」と語るようになった。. の任意の時間) ,SDS 点,STAI(特性) 点,STAI. 考察. (状態). 寺澤の提唱する血虚スコアは. 点であった。予期不安とこだわり,混乱. 状態に半夏厚朴湯合四物湯とし,. 週間後には物忘. れが改善してきたとのことだったが,間もなく友人. の項目を上げてい. る。主に他覚的身体所見であり,精神症状と思われ るのは,集中力低下と,不眠・睡眠障害の. つであ. ). と金銭的なトラブルがあり,症状は再燃。めまいを. る 。山本は「“血虚”とは,むしろ内分泌,自律神. 訴えたため,沢瀉湯を合方し,さらに. 週間後には. 経の失調の状態を示すものであろう。 」)また「現代. 鎮静作用を期待して半夏厚朴湯合七物降下湯合沢瀉. 医学では,脳下垂体をはじめ,卵巣,その他種々の.
(6) 日東医誌 Kampo Med Vol.71 No.2, 2020. 99. 内分泌系および自律神経系の失調である。 」)と述べ. コルチゾールの上昇は一般的に朝の覚醒に良い影響. ているが,四物湯を精神症状に用いた報告は少ない。. を与えていると考えられるが,症例. 我々が検索しえた四物湯加減を精神症状に用いた報. では四物湯投与後に ACTH も上昇しており,下垂. 告は. 体,あるいはその上流に当たる視床下部にも良い影. つであった。矢数は産後の多愁訴の 歳女性. に四物湯脚気加減(木瓜 g 蒼朮 g 薏苡仁. g)を. ). ,. ,. 響を与えている可能性がある。しかし,症例. ,. は症. 用いている 。山田は流産後の 歳女性の不安,睡. 状が改善後にコルチゾールが再び低下傾向にあった. 眠障害(浅眠・多夢)に当帰芍薬散加升麻・地黄・. が,さらに経過を観察すると再上昇傾向にある。実. ). 大黄を用いている 。また高橋は何の理由もなくし. 際に低下していたのか,早朝採血でないためか,学. て泣いたり笑ったり,不眠,過食の 歳女性を四物. 校などのストレスにより再び低下していたのか,臨. ). 湯加桂枝,乾姜,大黄,紅花で治療している 。細. 床的には長期に経過観察が必要であると考えている。. 野は. 歳の皮膚疾患の女性が「心の中のイライラを. 食欲は朝以外は良好で,むしろ過食の傾向(症例. 剝き出しに近頃の夫の過酷な仕打ちを訴え,シクシ. , , , )があるように思われる。コルチゾー. クと泣きながら,最近は気分が非常に憂鬱になり耐. ルが上がりにくいという傾向は,血糖上昇が起こり. えがたいものがある」と訴えた症例に逍遥散合四物. にくくなり,過食となっている可能性もあるが,視. ). 湯加香附子,地骨皮,荊芥として治療している 。. 床下部の食欲中枢そのものが失調状態である可能性. 近年では宮崎らが月経不順,全身の冷え,無気力の. も否定できない。この点を考慮すると症例. 歳女性に四物湯エキス+小建中湯エキスで治療し ). た報告がある 。全例が女性であり,男性に対する 四物湯の精神症状治療例は症例. が初めてかもしれ. ない。. の意識. 消失は低血糖であった可能性もある。 武原らは発達障害患者の漢方治療を通じて「精神 の安定には充分な「血」が必要と考えられ,逆に「血」 が不足していると不安定となり,些細な刺激に過敏. 各症例のコルチゾール,ACTH,SDS,STAI の変. で容易に不安,焦燥,興奮,緊張,あるいは睡眠障. は近年ふくろう症候群と. 害など様々な状態に陥る」と考察し ),抑肝散や四. も称され,起立性調節障害を背景とし,不登校の原. 逆散などで治療している。森下らは起立性調節障害. 因となっている。ふくろう症候群にはしばしば苓桂. の漢方医学的背景に「背景にある心理的ストレス因. 化を表に示す。症例. ∼. ). 朮甘湯が用いられるが ,不登校児は気虚が多く補 ). 気薬その他が重要との報告もある 。. 子などにより肝気の疏泄の失調を生じ,それが肝と. 症例に特徴. 関係の深い脾胃の失調をもたらすという病態」であ. 的なのは朝起きられない,午前中はボーっとしてい. り,健脾,利水のみでは倦怠感や抑うつなどは改善. る(集中力低下)であり,身体所見である脱毛,皮. しない )と考察し,治療方剤は黄耆建中湯を用いて. 膚乾燥はあまり顕著ではない。患児たちと会話をす. いる。小児科診療でも思春期の診察ポイントとして,. ると会話に詰まることがある。理由を聞くと話し相. 「ぼーとしているようにみえる。忘れた,覚えてな. 手が話した内容を忘れている,すなわち今聞いたは. い,わからない,という言葉が多い。話を聴いてい. ずの言葉を集中力がないため,覚えていないので会. ないようにみえる。知っているはずのことを忘れて. 話に詰まる。その結果,家族,友人から「話を聞い. しまったり混乱する。 」)と紹介されているが,これ. てないでしょう。 」とよく言われているという。同. は漢方医学的には血虚の症状と理解できる。霊枢に. 時にコルチゾールの低下とうつ状態,不安の亢進が. は「嬰児者其肉脆,血少氣弱」)とあり,小児が血. 心理テストから推測される。コルチゾールの低下の. 虚に陥りやすいことを想定している。症例. 原因は詳細には検討できていないが,器質的なもの. いずれも水毒徴候が明らかであり,いずれも食欲の. は考えにくく, 治療により全例が上昇 (. 低下などは顕著では無く,強い気虚はないと考えた。. 例は微増). ∼. は. したことから二次性の副腎不全であったと考えてい. 苓桂朮甘湯と四物湯を組み合わせた連珠飲は理想的. る。入院によりストレスが軽減して症状, コルチゾー. であったと考えられる。. ルの分泌が改善したようにも見えるが,症例. では. 小児は脾虚(小建中湯),水毒(苓桂朮甘湯など),. 入院前の四物湯追加後に改善傾向があり,四物湯の. 腎虚(六味丸)などを背景に自身の成長や学校など. 効果と入院安静の相加的な作用であったと考える。. の環境の変化に伴うストレスにより消耗し(四逆散.
(7) 日東医誌 Kampo Med Vol.71 No.2, 2020. 100. や半夏厚朴湯など) ,その結果として血虚の病態に. 気逆,瘀血,水毒などを介し,消耗した結果,血虚. 陥る。重症例は身体的には二次性副腎不全の状態で. の病態を呈していると考えられる。従って,血虚の. あり,精神的にはうつ,不安が著明で,朝が起きら. みを治療することは稀であり,四物湯は多くの処方. れない,したがって午前中には受診できない,通院. の中に含有され,あるいは併用することで効果を発. 不能∼不定期となり十分に治療もままならない。こ. する。コルチゾールの基準値は. の場合,我々は積極的に入院治療を勧めている。症. を下回り,コルチゾールがある程度保たれている症. 状の悪化の背景にスマートフォンの多用が存在する. 例. が,この件に関してはこれ以上ここでは述べない。. が一見増悪するように見えることもある。成人例は. 入院中は :. 背景が複雑で,コルチゾールの低下は必ずしも著明. から. :. 以降の使用を制限してい. る。入院治療を通じて比較的短い(. 週間以内)経. 過で症状の改善,コルチゾールの上昇が期待できる。 症例. ∼. は成人例で,症例. ,. 以上であるが,. の方が症状を強く訴え,治療の過程で症状. ではないので,入院治療に応諾することは少ない。 治療への反応もまちまちで他のストレスで容易に増. は社交不安症とも. 悪する。睡眠障害と目の疲れはほぼ必発で,脱毛,. とれる状態であるが,コルチゾールも 以下の必ず. 皮膚乾燥も認めるが,こむら返りは比較的少ない印. しも高くない状態で,四物湯と関連処方である七物. 象である。. 降下湯投与により,判断力の低下と思われる一種の. 四物湯を包含する処方はエキス剤では芎帰膠艾湯,. 混乱状態(社交不安)が改善し,同時にコルチゾー. 当帰飲子,七物降下湯,温清飲,猪苓湯合四物湯,. ルと ACTH も上昇している。また直近の前値はな. 十全大補湯,大防風湯,疎経活血湯,荊芥連翹湯,. いが,治療後に SDS や STAI は安定した数字を示. 柴胡清肝湯,竜胆瀉肝湯(一貫堂)がある。エキス. している。先行して八味丸を併用して大きな変化は. 剤にないものでは清熱補血湯,滋腎明目湯,滋腎通. なかったが,八味丸については,意欲の低下,焦燥. 耳湯,十味剉散,加味四物湯,独活寄生湯,洗肝明. ). 感を改善するという報告がある 。症例. は症状の. 目湯なども挙げられる。他には川芎は含有しないが,. 改善が不安定なところがあるが,四物湯投与後,集. 五淋散,人参養栄湯,滋陰降火湯,また芍薬を含有. 中力が回復し,頭が回転する感じで落ち着いてテレ. しない芎帰調血飲も四物湯関連処方に挙げられる。. ビを見ることができるようになった。しかし一方で. 下肢異常感覚(レストレスレッグ)と不眠に滋陰降. 冷静に自己の環境,生活などを分析できるようにな. 火湯が有効であった報告 )や全身倦怠感,月経不順,. り,回復の過程で新たな不安や興奮,悲しみなどを. 頭痛に不眠やイライラを訴えた症例に芎帰調血飲を. 生じている可能性がある。小麦を加味しているのは. 用いた報告 )があり,四物湯の作用を反映している. 悲しい気持ちに対して甘麦大棗湯の方意を入れてい. 可能性がある。. は多彩な. 四物湯は視床下部や下垂体に作用して集中力や判. 訴えを判断力の低下と考え,これを血虚によるもの. 断力を回復させ,精神症状を改善している可能性が. と推定し,もともとの半夏厚朴湯に四物湯を合わせ. 示唆されるが,有効な生薬は何であろうか。山本は. たところ,冷静に自己を分析できるようになった。. 熟地黄の作用として「自律神経,内分泌の調整」を. そのことで,まとまりのなかった会話が重要なもの. 掲げている )。金匱要略の防已地黄湯は「治病如狂. るが,効果については不明である。症例. だけが選択され,経過を順序立って述べることがで. !. きるようになった。このことを本人に説明しても本. 草と生地黄が構成生薬である )。細野は「大塚先生. 人は前の状態を覚えていないのか,自覚には変化な. の症例で,腎,膀胱結核で猪苓湯合四物湯を投与し. いと訴える。ただ,治療者側から見ると別人のよう. ているテンカン患者。服薬中は発作がおこらない。. に変化したと感じられる。しかし,新たなストレス. しかし地黄を抜くと必ず発作がおこる。 」)と記載し. (友人との金銭的ストレス)により容易に不安定に. ており,地黄が中枢神経に対していかに作用してい. なり,回復直後では SDS や STAI は改善していた. るかについて,今後も慎重に検討する必要がある。. にも関わらず,コルチゾールなどは変化が少なく, 今後の経過観察が必要である。成人例である症例 ∼. から考えると,何らかのストレスによって気鬱,. 妄行獨語不休」とあり,防已,桂皮,防風,甘. 結語 .朝起きられないあるいは睡眠障害があり,日 中ボーっとして「話を聞いてない」と言われる,あ.
(8) 日東医誌 Kampo Med Vol.71 No.2, 2020. るいは会話にまとまりがない,は血虚を疑う精神症 状になりうる。身体症状としては脱毛,皮膚乾燥, 目の疲れを伴う。 .思春期の急速な成長あるいは学校などの環境 ストレスを契機に血の不足が生じており,起立性調 節障害などが背景にある不登校は受診の契機になる。 .血虚は精神医学的にはうつ,不安と認識され, 内分泌学的には二次性副腎不全が背景にある可能性 がある。 .地黄を中心とした四物湯含有処方は早ければ ∼. 週目くらいから症状の改善を認めるが,成人. 例では背景が複雑で,血虚を単独で治療することは 稀と考えられる。 .四物湯は既に様々な処方に包含されており, 現代のストレス社会において四物湯の精神症状に対 する作用を意識する必要がある。 附記. 本論文で使用した四物湯の構成生薬,集散地. は以下の通りである。 熟地黄:中国山西省,川芎:北海道,芍薬:中国四 川省,当帰:中国浙江省。 症例 ,. ,. は各生薬. は各生薬. g,症例. は各生薬. g,症例. g を使用した。また使用した医療用. 漢方エキス製剤は八味丸 M のみウチダ社で,その他 はツムラ社を使用し,特に記載の無いものは各. 包/. 日である。 本論文に関連し,開示すべき利益相反(COI)状態 にある企業・組織や団体 田原英一,吉永亮:講演料等(株式会社ツムラ). 文献 )寺澤捷年.症例から学ぶ和漢診療学.第 版,医学書 院,東京 . ‐ . )高田任康,永井寛,大熊一朝,他.地黄を主成分とす る漢方製剤―四物湯―の乾燥性皮膚疾患に対する皮膚 保湿能への影響.皮膚 ; : ‐ . )伊藤隆,木村容子,大田静香,他.こむら返りに対す る四物湯エキスの有用性.日東医誌 ; : ‐ . )田原英一,犬塚央,岩永淳,他.芍薬甘草湯が無効で. 101. 疎経活血湯が奏効したこむら返りの 例.日東医誌 ; : ‐ . )貝沼茂三郎,伊藤隆,津田昌樹,他.面状発熱体を使 用した電気温鍼器と豆電球方式の電気温鍼器の比較に ついて.日東医誌 ; : ‐ . )山本巌.東医雑録( )四物湯の変遷と展開.燎原書 店,東京 . . )山本巌.東医雑録( )四物湯の変遷と展開.燎原書 店,東京 . . )矢数道明.漢方処方解説増補改訂版.創元社,大阪 . ‐ . )山田光胤.神経症の東洋医学的研究 其の三 血の道 の治験と考察.日東医誌 ; : ‐ . )高橋道史.婦人科疾患の人々/竜胆瀉肝湯/四物湯の 加味の薬方/折衝飲/烏苓通気.漢方の臨床 ; : ‐ . )細野史郎.漢方医学十講.創元社,大阪 . ‐ . )宮崎瑞明,盛克己.慢性疾患に対する四物湯合小建中 湯の治療効果.漢方の臨床 ; : ‐ . )後藤雄輔,溝口孝輔,吉永亮,他.苓桂朮甘湯の 症 例.漢方の臨床 ; : ‐ . )地野充時, 正徳,奥雄介,他.身体的愁訴を呈する 登校困難児に対する漢方治療.日東医誌 ; : ‐ . )武原弘典,松川義純,田中裕,他.発達障害に合併す る睡眠障害に対して漢方治療が有効であった 症例. 日東医誌 ; : ‐ . )森下克也.起立性調節障害の病態に対する黄耆建中湯 の効果.漢方の臨床 ; : ‐ . )田中恭子.思春期を診る!.小児科.金原出版,東京 . ‐ . )家本誠一.黄帝内経霊枢訳注.逆順肥痩第三十八.医 道の日本社,神奈川 . . )尾崎哲,下村泰樹.八味地黄丸の意欲賦活作用と抗焦 燥作用について―相反する向精神作用の五行論による 把握―.日東医誌 ; : ‐ . )大前隆仁,松川義純,山本修平,他.レストレスレッ グ症候群に滋陰清熱の治療が奏功した二症例.日東医 誌 ; : ‐ . )山本修平,西森 (佐藤) 婦美子,大前隆仁,他.婦人科 症状に芎帰調血飲と補気剤の併用が有効であった 症 例.日東医誌 ; : ‐ . )山本巌.東医雑録( )四物湯の変遷と展開.燎原書 店,東京 . . )大塚敬節主講.金匱要略講話.創元社,大阪 . ‐ . )細野史郎口述.西荻医談.テンカン発作と地黄.現代 出版プランニング,東京 . ‐ ..
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