下顎骨骨折により発生した外傷性顎動脈瘤の1例
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(2) 2021 年 4 月 柴山尚大・他 下顎骨骨折により発生した外傷性顎動脈瘤の 1 例. 7. Figure 1 Intraoral views at the first visit Hemorrhagic spots on the left side of the palate and buccal mucosa.. Table 1 Laboratory tests at the first visit 血算 WBC RBC Hb Ht Plt. 生化学 9,350 /μl 360 万 /μl 11.2 g/dl 33.3 % 153 万 /μl. TP Alb T-Bil AST ALT ALP BUN CRE eGFR CRP. 凝固機能 6.6g/dl 3.7% 1 mg/dl 33IU/l 20IU/l 182IU/l 17mg/dl 2.11mg/dl 72.7ml/min 5.26μg/dl. PT PT-INR APTT FIB D ダイマー AT-Ⅲ FDP. 10.3 sec 0.86 < 23.0 sec 324 mg/dl 7.39μg/ml 112 % 18.7μg/ml. 識清明とは言えない状態であった。瞳孔径は両側ともに 3 mm で,対光反射は両側ともに延長した。その他,脳神 経,胸部,腹部,四肢に異常所見は認めなかった。 口腔外所見;左側顎下部から左側頰部かけて腫脹と皮下 出血斑を認めた。口は開口状態で閉口不能であった。 口腔内所見;左側軟口蓋と左側頰粘膜に粘膜下血腫を認 めた(Figure 1) 。 画像所見;両側関節突起骨折に骨折を認め,右側関節突 起骨折は関節包内で骨折し,左側関節突起骨折は関節突起 基底部で骨折していた。左側下顎骨から左咽頭部にかけて 軟組織の腫脹を認め,気道が右側へ偏位し狭窄していた。 臨床検査所見;白血球数が 9,350/μl,CRP が 5.26μg/dl と上昇を認めた。また,ヘモグロビン値が 11.2g/dl と軽度 低値を認めた。また,FDP が 18.7μg/ml,D ダイマーが 7.39μg/ml と上昇も認めた(Table 1) 。 処置および経過;11 月 X+1 日頸部において拍動性の腫 脹が増大し,頸部の出血斑が拡大した(Figure 2)。再度 血液検査したところ,ヘモグロビン値が 9.1g/dl へと急激. Figure 2 Facial view of the second day She developed swelling and enlarged subcutaneous hemorrhagic spots on the lower left jaw..
(3) 8. 日口外傷誌 20:6-10,2021. な低下を認めた(Table 2)ため,出血点の精査を行った。. 脈分岐部も含めて前後的にプラチナ製マイクロコイルで塞. 造影 CT 検査を行ったところ,左下顎枝内側の顎動脈と下. 栓した(Figure 4) 。. 歯槽動脈の分岐部に直径約 10mm の仮性動脈瘤を認め. 11 月 X+2 日全身麻酔下で気管切開,左側関節突起骨折. (Figure 3),その動脈瘤周囲および下顎骨内側に血腫の形. 観血的整復固定術を施行した。血腫が形成されていたた. 成を認めた。その他,全身に出血を示唆する所見がなかっ. め,視野を確保する目的で口腔外から手術を行った。皮膚. たことから,この動脈瘤からの出血が原因でヘモグロビン. 切開は下顎枝後方切開を行い,骨折線を明示し整復した. 値が低下したと考えられた。臨床診断を左外傷性顎動脈. 後,ライビンガー社製ミニプレートを用いて固定した. 瘤,両側関節突起骨折とした。治療方針は,両側関節突起. Table 2 Laboratory tests after hospitalization. 骨折のうち,右側は関節包内の骨折であるため保存的治療 を選択し,左側は当院放射線科で左顎動脈の塞栓術を施行. 血算. X日. X+1 日. X+2 日. X+3 日. X+4 日. した後に全身麻酔下での観血的整復固定術を予定した。. WBC RBC Hb Htc Plt. 9,350 360 11.2 33.3 153. 6,990 296 9.1 27.2 148. 5,160 324 9.9 29.5 137. 5,800 316 9.7 28.7 134. 5,830 344 10.7 31.7 155. X+1 日放射線科によるセルジンガー法で血管造影を行っ た。左外頸動脈造影で顎動脈の下歯槽動脈分岐部に仮性動 脈瘤を認めた。また,動脈瘤から血管造影剤の微小な漏出 も認めた。血管塞栓は,顎動脈内で仮性動脈瘤と下歯槽動. Figure 3 3D-CT images An aneurysm was found inside the fracture line.. Figure 4 Angiographic image of maxillary aneurysm A pseudo-aneurysm at the maxillary artery was embolized.. /μl 万 /μl g/dl % 万 /μl.
(4) 2021 年 4 月 柴山尚大・他 下顎骨骨折により発生した外傷性顎動脈瘤の 1 例. 9. Figure 5 Intraoperative view Open reduction and internal fixation for the mandibular fractures.. (Figure 5)。術中所見では,骨片の整復は容易で出血も. いて大骨片の骨鋭縁が顎動脈と開口するたびに接触し動脈. 12ml と少量であった。術後は顎間固定を 2 週間行い,良. 瘤を形成したものと考えられる。. 好な咬合関係を得た。気道狭窄は術後 3 日目には改善し,. 外傷性動脈瘤は遅発性に出血を来しやすく,早期の根治. 気管カニューレを抜去した。術後 5 か月経過し,顔面神経. 的治療が必要な疾患であるが,その診断はしばしば困難. 麻痺も認めず最大開口量は 45mm であり,開口時の下顎. で,外傷後一定期間を経てから動脈瘤の破裂により,初め. の偏位は認めず咬合状態も安定し経過良好である。. て発見されることがある18)。外傷性動脈瘤が顕在化する際 に認められる一般的な臨床症状は,疼痛,拍動性腫瘤,血. 考 察. 管雑音3)のほかに,顎動脈では拍動性頰部腫脹,顔面痛,. 動脈瘤は,動脈の管腔が限局性に拡張して瘤状を呈して. 鼻閉,大量鼻出血・口腔内出血,気道閉塞,顔面神経麻. いるものであり,動脈壁が 3 層構造を保って拡張したもの. 痺,Frey 症候群などが出現する11-17)。自験例の場合,拍. を真性動脈瘤といい,動脈壁の損傷により周囲組織に被覆. 動性頰部腫脹のほかに,気道狭窄を認めたため,術中の骨. された血腫が形成され,動脈内腔と交通した壁構造を欠く. 片を動かすことによる更なる出血や破裂の予防を目的とし. ものを仮性動脈瘤 という。また,急激で鈍的な外傷後に. て,事前に塞栓術を施行した。. 続発的に発生するものを外傷性動脈瘤4)という。. 一般に外頸動脈の動脈瘤が表在性に存在する場合は,皮. Karus ら は頸部外傷後の 0.27%に頸動脈に問題があり,. 膚切開を行い外頸動脈や当該動脈を結紮するといった動脈. その 1/4 に仮性動脈瘤があったと報告している。本症は発. 結紮法などの観血的直達術が適応となる14,19,20)。本症例の. 生自体まれであるが,破裂した際の死亡率は 30%になる. ように深在性に存在する外頸動脈の分枝の場合は,外科的. と報告されており6),早期の診断と治療が重要とされる。. アプローチが困難なことが多いため,侵襲が少なく超選択. 3). 5). ,顎. 的に塞栓が可能で,効率的に止血を図ることができるカ. 動脈は解剖学的に深部に存在するため,外傷性顎動脈瘤の. テーテルによる血管塞栓術が多用される13,16,18,21,22)。本症. 報告例は稀である11-17)。外傷性顎動脈瘤の原因は,医原性. 例において血管塞栓術は大腿動脈からのセルジンガー法で. のものもあり,下顎矢状分割手術後や顎関節強直症の術後. 行われた。この方法は 1 回の挿入ですべての脳血管を造影. 顔面では浅側頭動脈や顔面動脈の報告例が多く. 7-10). などの顎顔面領域の手術後に発生した報告例がある. 。. 13, 14). でき,対側の造影や内頸・外頸動脈の選択的造影を追加す. それぞれの原因は,いずれも手術操作中の出血であり,術. ることが容易であることが最大の利点である。本症例は動. 後数日経過した後にカテーテルによる血管塞栓術を行って. 脈壁が菲薄化した仮性動脈瘤であり,動脈瘤内部へのコイ. いた。顔面骨骨折に外傷性顎動脈瘤を伴う場合は,上顎骨. ル塞栓によって動脈瘤が破裂する可能性もあったため,動. 骨折(Le Fort 型骨折)や下顎骨骨折が多いが,特に下顎. 脈瘤を前後的に挟むように塞栓が行われた。. 骨の両側関節突起骨折が多い11,15,17)。自験例の場合も,下. 塞栓術の効果を決定するのは塞栓材料である。塞栓材料. 顎骨の両側関節突起部に骨折を認めた。解剖学的に顎動脈. は固体と液体に分けられ,固体材料はさらに吸収性と非吸. は下顎骨関節突起部の内側に存在しているため,関節突起. 収性の材料に分けられる。これらの選択の基準はどの程度. 部骨折の骨片による血管の損傷によって動脈瘤が発生する. の径の血管を塞栓するのか,永久に塞栓するのか,一時的. と考えられる。自験例においては,左側関節突起骨折にお. な塞栓なのかなどによって異なる23)。今回は永久塞栓によ.
(5) 10. 日口外傷誌 20:6-10,2021. Figure 6 Panoramic view after operation. る止血を目的としたため塞栓物質としてプラチナ製マイク ロコイルを使用し,良好な結果を得ることができた。 外頸動脈領域に生じた動脈瘤の塞栓術における合併症は, 疼痛,痙攣,一時的な脳神経麻痺といった予測可能なもの と,皮膚壊死,永続的な脳神経麻痺,失明,死亡など予期 せぬものがある14)。Peoples ら14) によると,永続的脳神経 麻痺の発生率は 1%であると報告されている。これらの重 篤な合併症もあることから,顔面外傷を扱う口腔外科医と して,深部の外傷性動脈瘤の診断と治療法の知識をきちん と持った上で,適切な連携が必要であると考えられた。 結 語 今回われわれは,下顎骨骨折による外傷性顎動脈瘤の 1 例を経験したので報告した。受傷後,急速な腫脹をきたす 顔面外傷症例は,外傷性動脈瘤など血管損傷を疑って初期 治療を開始すべきであると考えられた。 謝 辞 稿を終えるにあたり,旭川医科大学放射線科の藤本弥臣先生, 八巻利弘先生に深謝申し上げます。 本論文の要旨は第 42 回(公社)日本口腔外科学会北日本地方 会(2016 年 6 月,山形)において発表した。 本論文に関して,開示すべき利益相反状態はない。 文 献 1)平岩卓根,長坂裕二,他:右鎖骨下動脈瘤の一例.外科, 47:770-773,1985. 2)吉岡 薫,生田義和,他:前脛骨動脈に発生した外傷性仮性. 動脈瘤の 1 例.整形・災害外科,30:23-26,1981. 3)大森俊行,田中孝昭,他:下腿骨骨折後に発症した仮性動脈 瘤の 1 例.栃木県整形外科医会会誌,18:7-11,2004. 4)Schechtr, D.C. : Cervical carotid aneurysms. NY State J Med, 79:892-901, 1979. 5)Karus, R.R., Bergstein, J.M., et al : Diagnosis, treatment and outcome of blunt carotid arterial injuries. Ann L Sueg, 178: 190-193, 1999. 6)Cogbil, T.H., Moore, E.E., et al : The spectrum of blunt injury to the carotid artery : a multicenter perspective. J Trauma, 37:473-379, 1994. 7)葉狩良孝,木村秀一郎,他:浅側頭動脈外傷性動脈瘤の 1 例. 皮膚臨床,30:1482-1483,1988. 8)Howell, E., Bernard, K., et al : Traumatic false aneurysm of the facial artery : report of case. J Oral Surg, 32:309-311, 1974. 9)Inoue, Y., Iwamoto, T., et al : Traumatic aneurysm of the temporal artery ; A report of five cases. J Dermtol, 24:246248, 1997. 10)Paul, L., Richard, G., et al : False aneurysm of the facial artery. J Oral Surgery, 34:642-645, 1976. 11)Fagan, J.J., Gallow, B.I. : View from within : Radiology in focus ; A destructive false aneurysm of the maxillary sinus. J Laryngol Otol, 106:1103-1104, 1992. 12)Gerbino, G., Roccia, F., et al : Pseudoaneurysm of the internal maxillary artery and freyʼs syndrome after blunt facial trauma. J Oral Maxillofac Surg, 55:1485-1490, 1997. 13)岡本圭一郎,森田展雄,他:下顎枝矢状分割後,顎動脈領域 に発展した動脈瘤の 1 例.日口外誌,42:1221-1223, 1996. 14)Peoples, J.R., Herbosa, E.G., et al : Management of internal maxillary artery hemorrhage from temporomandibular joint surgery via selective embolization. J Oral Maxillofac Surg, 46:1005-1007, 1998. 15)Schwartz, H.C., Kendrick, R.W., et al : False aneurysm of the maxillary artery. Arch Otolaryngol, 109:616-618, 1983. 16)鈴木慎二,木村有一,他:上顎洞にみられた顎動脈外傷性動 脈瘤.耳鼻臨床,92:1107-1110,1999. 17)Walker, A.T., Chaloupka, J.H., et al : Sentinal transoral hemorrhage from a pseudoneurysm of the internal maxillary artery : A complication of CT-guided biopsy of the masticator space. AJNR, 17:376-381, 1996. 18)斎野 真,赤坂雅弘,他:血管内手術にて根治治療し得た破 裂舌動脈瘤の 1 例.脳神経外科,25:835-839,1997. 19)Distefano, J.F., Maimon, W., et al : False aneurysm of the lingual artery. J Oral Surg, 35:918-920, 1977. 20)Gomori, J.M., Demer, R., et al : Aneurysm of the lingual artery. Neuradiology, 25:111-112, 1983. 21)坂本春生,唐木田一成,他:口腔領域における選択的動脈塞 栓術第 1 報 上顎智歯抜歯時に生じた後上歯槽動脈損傷の止 血への応用.日口外誌,37:2000-2005,1991. 22)松本光治郎,橋本 温,他:顎顔面領域の血管性病変に対す る血管造影術と塞栓療法の検討.日口外誌,38:1832-1838, 1992. 23)滝 和郎,半田 肇:頭頸部領域の人工塞栓術.脳神経外 科,11:7-15,1983..
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