シクロスポリンAの下垂体細胞におけるプロラクチ ン産生抑制効果についての研究: 培養GH[3]細胞を 用いた検討
著者 永井 幸広
著者別名 Nagai, Yukihiro
雑誌名 博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査
結果の要旨/金沢大学大学院医学研究科
巻 平成7年7月
ページ 60
発行年 1995‑07‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/15310
医博乙第1312号 平成6年9月21日 永井幸広
シクロスポリンAの下垂体細胞におけるプロラクチン産生抑制効果についての 研究
一培養GH3細胞を用いた検討一 主査教授小林健一 高I査教授馬渕宏 教授松田保 学位授与番号
学位授与年月日 氏名 学位論文題目
論文審査委員
内容の要旨及び審査の結果の要旨
シクロスポリンA(CSA)は,免疫抑制作用のみならず,種々の内分泌器官にも作用し,それらの機能 に影響を及ぼすことが知られている。しかし,これまでの報告はすべて,生体内での検討結果であり,
CSAの内分泌細胞に対する直接作用を検討した報告は少ない。そこで本研究では,CSAの下垂体細胞にお けるプロラクチン(PRL)放出および産生に及ぼす影響を知る目的で,培養ラット下垂体腫寝細胞株 GH3細胞に対する同薬剤の直接作用につき以下の検討を行った。飽和状態のGH3細胞を種々の濃度の CSAにて24時間培養したところ,培地内PRL含量はCSA非存在下に比して,100,9/mlCsAでは715%,
2000,9/mlCsAでは54.2%と用量依存性に抑制された。一方,CSAにより細胞内PRL含量には有意な変
化は認められなかった。CSAのPRL分泌抑制作用は100,9/mlCsA添加後12時間以降で有意であった。また,100,9/mlCsA存在下で24時間培養後にCSAを除去し,さらに培養した細胞では,PRL分泌能は
CSA非添加対照と同程度まで回復したことより,CSAのPRL分泌抑制作用は可逆性の変化であると考え られた。次に,種々のPRL分泌刺激,すなわち甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH),血管作動性腸 ペプチド(VIP),ホルポールエステル(TPA),ジプチリルサイクリックAMP(Bt2cAMP),カルシウ ムイオノフォア(A23187)等を加えた場合のGH3細胞のPRL放出あるいは生合成に対して,CSAがいか なる影響を及ぼすかについて検討した。TRH,VIP,TPA,Bt2cAMP,A23187のPRL放出促進効果に 対しては,CSAは特に影響を及ぼさなかった。一方,TRH,VIP,TPA,Bt2cAMPにより誘導される PRL生合成は,明らかにCSAにより抑制された。ノーザンプロットハイプリダイゼイションでは,CSA によりPRLmRNAの発現量は減少することが示された。以上より,CSAはPRL遺伝子の発現を抑制す ることによりPRLの生合成を低下させ,その結果としてGHs細胞のPRL分泌を低下させるものと考えられた。
以上,本研究はCSAの下垂体の細胞におけるPRL分泌抑制効果とその作用機序について検討したもの であり,PRL遺伝子の発現抑制を介した機序を初めて明らかにした意味において内分泌学上価値ある労 作と認められた。
-60-