原 著
〔書女医蕪,鶉63巻平滑覇〕
脳血管障害患者の血圧および脈拍の日内変墨
東京女子医科大学 神経内科学教室(主任:丸山勝一教授)三 蒲 蕾 手
(受付平成5年2月13日) Diunlal Variation of Blood Pressure and Pulse Rate in Patients with Cerebrovascular Disease Yoko MIURA Department of Neurology(Director:Prof. Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute, Tokyo Women’s Medical College Twenty・four hour variations in blood pressure(BP)and pulse rate(PR)were recorded by ambulatory BP monitoring in 161 patients with cerebrovascular disease(CVD), including 124 cerebral infarction and 37 cerebral hemorrhage cases and 50 controls. The average 24・hour systolic BP(SBP), diastolic BP(DBP),PR and variable index(VI)of SBP, DBP, PR and average differences in SBP, DBP, PR between diurnal(6:00∼22:00)and noctual(22:00∼6:00)(A−S)values were calculated. CVD were compared with controls, in terms of phases after onset and CVD foci. VI and A・S of BP and PR in CVD were significantly lower than those of controls。 In terms of phase differences,BP in the acute phase was higher than that in the chronic phase and parts of VI and A−S in the acute phase were significantly lower than in the chronic phase. As to the difference in foci, some VI and A・S in brain stem infarction, and thalamic and pontine hemorrhage were lower than those in other foci of CVD. These results suggest that abnormalities in diurnal blood pressure variations are common in patients with CVD, especially in thalamic and brainstem regions deeply involved in the abnormality. Careful attention is thus necessary for control of blood pressure in CVD patients, because of the difference in diurnal variation between CVD patients and healthy subjects. はじめに 脳血管障害患者に,各種自律神経症状が出現す ることは,周知の事実である1).なかでも血圧の異 常は日常臨床上しぼしぽ経験し,脳血管障害患者 の血圧を如何にcontrolすべきかは治療,発症予 防の見地から重要な問題である.近年血圧の非観 血的携帯型血圧計が開発され,血圧および脈拍の 連続測定が可能となり,各種疾患の血圧日内変動 の観察がさかんに行われ,サ一生ディアンリズム の考えを取り入れた病態の理解,治療が行われよ うとしている.しかし,血圧は多様な因子の関与 を受けている2)ことが,血圧日内変動の研究をよ り複雑にしている. 本研究の目的は脳血管障害患者の血圧日内変動 を検討することにより,血圧日内変動の発現機序 の理解および今後の脳血管障害患者の血圧管理の 一助とすることにある. 対 象 当科入院の脳血管障害患者161例で,その内訳は 脳梗塞患者124例(男性98例,女性26例,平均年齢: 64.0±12.9歳),脳出血患者37例(男性26例,女性 11例,平均年齢:58.9±8.7歳)である.心房細動 など不整脈を有する症例は,血圧,脈拍の変動が 大きく,測定結果の解析が複雑になることから除外した.さらに,脳梗塞患者は降圧薬を服用して いない者(n=70)と服用している者(n=54)に 分けて検討した.脳出血患者は全例,噛降圧薬服用 中である.各患者のADL(activities of daily Iiving)には特に制限を設けなかった. 対照として健常者25例(男性10例,女性15例, 平均年齢:62.4±10.9歳)と,さらに脳血管障害 患者のうち降圧薬を服用中の者との比較のため, 高血圧のみを有し,降圧薬服用中の対照25例(男 性10例,女性15例,平均年齢:64.1±7.2歳)を加 えて検討した. 方 法 各人に,非観血的携帯型血圧計(日本コーリン 社則ABPM630)を装着し,血圧,脈拍を30分間 隔24時間連続で1回測定記録し,解析装置AA200 で解析した.なお測定時期が発症1週間以内を急 性期,1ヵ月以内を亜急性;期,1ヵ月以上経過し ているものを慢性期とした.降圧薬非服用脳梗塞 群では70例中,急性期14例,亜急性;期20例,慢性 期36例,降圧薬服用脳梗塞群では54例中,急性期 8例,亜急性期17例,慢性期29例,脳出門群では 37例中,急性期10例,亜急性期14例,慢性期13例 となった.病巣部位は臨床症状に加えてCT, MRI で確認した. 検討項目 1.24時間平均の収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍 (以下24hr SBP,24hr DBP,24hr PR). 2.24時間の収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍の標 準偏差を平均値で除して求めたそれぞれの変動係 数(以下24hr SBPVI,24hr DBPVI,24hr PRVI). 3.昼の時間帯(6:00∼22:00)の収縮期i血圧, 拡張期血圧,脈拍の平均値から夜の時間帯(22: 00∼6:00)のそれぞれを差し引いた値(昼夜差) (以下SBPA−S, DBPA−S, PRA・S) 以下の統計学的手法として2群間の比較にはt一 検定,多群間の比較には一元配置分散分析法を用 いた. 結 果 1.脳血管障害患者と対照との比較 はじめに,脳血管障害患者全般の傾向を把握す るため,急性期,亜急性期,慢性期すべてを含め, 対照との比較を行った. 1)降圧薬非服用脳梗塞群における検討 まず健常者群と降圧薬非服用脳梗塞群全体の比 較では24hr SBP,24hr DBP,24hr PRには有意 差は認められなかったが,24hr SBPVI,24hr DBPVI,24hr PRVIは脳梗塞群のほうが有意に 低値を示した(それぞれp<0.01,p〈0.01, p< 0.05).さらにSBPA−S, DBPA−S, PRA−Sは脳梗 塞群が有意に低値を示した(それぞれp<0.05, p〈0.05, p〈0.01) (表1). 2)降圧薬服用脳梗塞群における検討 降圧薬服用の対照群と降圧薬服用脳梗塞群全体 の比較を行った.24hr SBPは脳梗塞群が対照群 に比べ高く,24hr PRにおいては,脳梗塞群が対 照群に比べ低値を示した(いずれもp<0.05).24 hr SBPVIおよび24hr DBPVIは対照群に比べ脳 梗塞群が有意に低値であった(それぞれp<0.01, p〈0.05).SBPA−S, DBPA−S, PRA・Sについて はいずれも脳梗塞群は対照群に比べ,有意(p〈 0.01)に低値を示した(表2). 3)脳出血群における検討 24hr SBP,24hr DBPを全脳出血群と降圧薬服 用対照群とで比較すると,脳出血群が有意(p< 0.05)に高値を示した.24hr SBPVI,24hr PRVI, 24hr DBPVIについては脳出血群が有意に四割を 表1 降圧薬非服用脳梗塞群と健常者群の血圧および 脈拍の比較 健常者群 脳梗塞群i降圧薬非服用) 症例数 25例 70例 24hr SBP 127.0±15.6 132.5±18.5 24hr DBP. 72.8±9.9 75.5±11.4 24hr PR 73.2±7.8 72.5±11.4 24hr SBPVI 12,9±2.9 11.0=ヒ3.0林 24hr DBPVI 15.0±3.6 12.8±3.6績 24hr PRVI 18.7±6.7 14.7±7.1零 SBP A。S 13.0±10.1 7.0±10,9准
DBP
A,S 9.9±6.2 5.7±7.7串 PR A,S 14.5±5.3 10,1±6.2串犠 SBP:収縮期血圧, DBP:拡張期血圧, PR:脈拍 皐p〈0.05, 幽*p<0.01.表2 降圧薬服用脳梗塞群と対照群の血圧および脈拍 の比較 対照群 i降圧薬服用) 脳梗塞群 i降圧薬服用) 症例数 25例 54例 24hr SBP 131.4±11.6 140.3±18,5* 24hr DBP 77.0±8,0 76,1±11.9 24hr PR 74.1±9,2 69,7±9.2* 24hr SBPVI 12,3±3.0 10.4±2.9承堵 24hr DBPVI 14.5±3,6 12,2±3.5串 24hr PRVI 17.4±4.3 15.6±8.7 SBP A.S 11.6±11,9 1,2±12.9串* DBP A.S 8,4±6.9 3.6±7.0綿 PR A−S 13,8±6.9 8.5±6.9傘皐 SBP:収縮期血圧, DBP:拡張期血圧, PR:脈拍 皐pく0.05, *寧p<0.01. 表3 脳出血群と対照群の血圧および脈拍の比較 対照群 i降圧薬服用) 脳出血群 i降圧薬服用) 症例数 25例 37例 24hr SBP 131.4±11.6 139.6±17.0串 24hr DBP 77.0±8.0 82.0±9.7串 24hr PR 74.1±9.2 74.1±9.8 24hr SBPVI 123士3,0 9.8±2.9卓* 24hr DBPVI 14.5±3.6 11.9±4.3串 24hr PRVI 17.4±4,3 13.5±4.7皐* SBP A・S 11.6±11.9 8.0±9.5 DBP A−S 8.4±6.9 5.4±6.9 PR A−S 13.8±6,9 8.9±8.5ホ SBP:収縮期血圧, DBP:拡張期血圧, ホpく0.05, 皐車p〈0.01. PR:脈拍 示した(それぞれp<0.01,p<0.01, p<0.05). 昼夜差のなかではPRA・Sが脳出血群が対照群に 比べ,有意(p<0.05)に闇値を示した(表3). 2.病期別の検討 1)降圧薬非服用脳梗塞群における検討 次に降圧薬非服用脳梗塞群を急性期,亜急性期, 慢性期に分け比較した.24hr SBP,24hr DBPは 3平手で有意差を認め,急性期と慢性期の間で有 意差を認めた(p<0.05).24hr PRにおいては有 意差は認められなかった(図1a).24hr SBPVI, 24hr DBPVIには病期による差は認められなかっ たが,24hr PRVIにおいては3早早に有意差があ り,急性期と亜急性期に有意差(p<0.05)を認め た(図1b). SBPA・S, DBPA・Sにおける有意差は 病期による差は認められなかったが,PRA−Sは3 群間に有意差があり,急性期は亜急性期,慢性期 に比べ,有意(p<0.01)に低値を示した(図1c). 2)降圧薬服用脳梗塞群における検討 SBP,DBP PR mmHg, ’min l50 100 50 a b Vl STDねverage 30 20 10 0 i歪 難 蕪.
門
難 iii;i 叢 A−S mmHg, !min 20 10 0 24hrSBP 24hrDBP 24hrPR 24時間平均値 a124時間平均値, 24hrSYSVI 24hrDIAVI 24hrPRVl 変動係数(VI) C 図1 降圧薬非服用脳梗塞群の血圧,脈拍の経時的変化 b 変動係数(VI), c:昼夜差(A−S). SBPA−S 嚢 灘 DBPA−S ■■■1急性期 囮翅亜急性期 躍璽國慢性期 「隊α㎜1P
くむ[
昼夜差(A−S) 曇 上 士 嚢 PRA−S降圧薬服用脳梗塞群を急性期,亜急性期,慢性 期に分け比較した.24hr SBPは有意ではないが 急性期は慢性期に比べ高値を示す傾向にあり,24 hr DBPは急性期は慢性期に比べ有意(p<0.05) に高値を示した.24hr PRでは病期による差は認 めなかった(図2a).変動係数および昼夜差におい ては,いずれの値も病期による差は認めなかった (図2b, c). 3)脳出血群における検討 脳出血群を急性期,亜急性期,慢性期に分け, 病期による違いを脳梗塞群におけると同様に比較 した.24hr SBP,24hr DBPで急性期は亜急性期, 慢性期に比べ有意(p<0.05)に高値であった(図 3a).変動係数では24hr SBVI,24hr PRVIが有 意ではないが急性期は慢性期に比べ即値を示す傾 向にあり,24hr DBPVIにおいて急性期は慢性期 に比べ有意(p<0.05)に低下していた(図3b). 昼夜の差についてはPRA−Sが有意ではないが急 性期は慢性期に比べ低下を示す傾向にあった(図 3c). 3.病巣部位別の検討 1)脳梗塞群について SBPρBP PR mmHg 200 1min 100 Vl STD’ave旧ge 24hrSBP 24hrDBP 24hrPR 24時間平均値 30 20 10 0 AS mmHg 24hrSBPVI 24hrDBPVI 24hrPRVl 変動係数(VD 1mln 20 10 0 一10 一20 C SBPA−S DBPA−S PRA−S
一急性期
一二急性田
野醗醗1慢性期 昼夜差(A−S) 図2 降圧薬服用脳梗塞群の血圧,脈拍の経時的変化 a:24時間平均値,b:変動係数(VI), c:昼夜差(A−S). SBP,DBP mmHg ’min 200 100 0 a Vl STD/average b 24hrSBP 24hrDBP 24hrPR 24時間平均値 20 10 A−S mmHg lmin 20 10 0 C 嚢 24hrSBPVI 24hrDBPV124hrPRVl 変動係数(VI) 図3 脳出血群の血圧,脈拍の経時的変化 a:24時間平均値,b:変動係数(VI), c:昼夜差(A−S).一急性期
尾盟亜急性期 匿盤醗翻慢性期 SBPA−S DBPA−S PRA−S 昼夜差(A−S)SBPIDBP PR
2
mmHg lmh 1 a rPく。雪 rkαo『「齢。11 Vl STD!averagβ 30 20 10 24hrSBP 24hrDBP 24hrPR 0 b mmHgA.S !min 20 16 12 8 4 24hrSBPVI 24hrDBPV【 24hrPRVI 0 C 24時間平均値 変動係数(VI) 図4 降圧薬非服用脳梗塞群の血圧,脈拍の病巣部位別比較 a:24時間平均値,b:変動係数(VI), c:昼夜差(A−S). ■大脳半球部 盟面隠幹部 SBPA−S DBPA−S PRA−S 昼夜差(A−S) SBP、DBP PR mmHg ’min l50 1oo 50 0 24hrSBP 24hrDBP 24hrPR 24時間平均値 a:24時間平均値,b: VI STDlaverage 20 15 10 5 0 .論 24hrSBPVI 24hrDBPV124hrPRVl mm 20 10 0 C 変動係数(VI) 図5 脳出血群の血圧,脈拍の病巣部位別比較 変動係数(VI), c:昼夜差(A・S).響1 ■獄
胃講瓢,
馨 SBPA−S DBPA−S PRA−S 昼夜差(A−S) 1脳梗塞群については,慢性期のものは多発性の 病巣を持つ者が多く,直接,責任病巣が血圧に与 える影響を検討するにはあいまいになるため,今 回は発症1ヵ月以内のものに限って検討を加え た.また症例数が比較的に多い降圧薬非服用群に ついて,大脳半球と脳幹部に分け比較を行った. その結果,24hr SBP,24hr DBP,24hr PRにお いては脳幹部が大脳半球部に比べ有意に高値を示 した(それぞれp〈0.05,p<0.05, p〈0.01)(図 4a).変動係数に関しては有意ではなかったが,24 hr SBPVI,24hr PRVIにおいては脳幹部が大脳 半球に比べ低値を示す傾向があった(図4b).昼夜 の差については脳幹部と大脳半球部で有意な差は 認められなかった(図4c). 2)脳出血群について 脳出血群については病巣部位を自律神経,血管 運動中枢と関連が深いとされる視床,橋,および その他(これには被殻,皮質下が含まれる)の3 群に分け比較検討した.24hr SBP,24hr DBP, 24hr PRでは病巣部位による差は認められなかっ た(図5a).変動係数については,橋出血患者の24 hr SBPVIは有意ではなかったが,被殻・皮質下 出血患者に比べ低回を示す傾向にあった.視床出 血患者,橋出血患者は24hr DBPVIにおいて被殼・皮質下出血患者に比べ有意(p<0.05)に低値 を示した.24hr PRVIでは病巣部位による差は認 めなかった(図5b).昼夜の差についてはSBPA− S,DBPA−S, PRA−Sのいずれにおいても3平間 に有意差(p<0.05)を認め,.視床出血患者は SBPA−S, DBPA・S,において被殼・皮質下出血患 者に比べ有意ではなかったが,低値を示す傾向に あった.橋出血患者のPRA−Sは,視床,被殼・皮 質下出血患者に比べ,有意(p<0.05)に低下して いた(図5c). 考 察 人の体温,各種ホルモン,睡眠一覚醒リズムに は日内変動あるいは概見リズム(サーカディアン リズム)があることが古くから知られている.近 年,サーカディアンリズムの研究が進み,その発 現機序についても次第に明らかになってきてい る.臨床の面でもサーカディアンリズムに対する 興味が高まり,臨床応用上もサーカディアンリズ ムの考えを取り入れた治療が行われようとしてい る. 一方,人の血圧,脈拍にも,日中は高く,夜間 睡眠時は低くなるという日内変動があることが古 くから知られていたが,近年血圧の連続測定が可 能になり,Miliar・Craigら3)を始めとし血圧日内 変動の観察がさかんに行われるようになった.し かし,血圧日内変動の研究は血圧自体が多様な因 子(体液性あるいは自律神経系など)の影響を受 けていること,および人を恒常条件下に置くこと が困難であること,などからその解析を複雑なも のにしている.ゆえに,血圧に異常が生ずると予 想される各種疾患における血圧日内変動を観察す ることは人の血圧日内変動の発現機序の解明に有 用であると考えられる. 本研究において脳血管障害患者における血圧日 内変動を検討することにより,主に自律神経系の 中枢の血圧日内変動への関与を検討すること,ま た脳血管障害患者の血圧日内変動の実際を観察す ることにより,今後の脳血管障害患者の一血圧管理 に役立つと考えられる. 1.24時間血圧,脈拍の絶対値について 24時間平均の血圧,脈拍については降圧薬非服 用脳梗塞群全体では対照と有意差はなかったが, 病期別にみると急性期は慢性期に比べ有意に高 かった.降圧薬服用脳梗塞群の24hr SBPは対照 に比べ有意に高く,24hr DBPは急性;期は亜急性 期,慢性期に比べ有意に高かった.また脳出血患 者の24hr SBP,24hr DBPは対照に比べ有意に高 く,また急性期は亜急性期,慢性期に比べ有意に 高値であった. 脳血管障害患者の発症後の血圧絶対値の経時的 推移は従来からの報告4)にあるが,今回著者の24 時間血圧による結果からも脳血管障害患者の1血圧 は経時的に降圧薬を投与しなくても自然の降圧を みることは明らかであり,Meyerら5)の報告と一 致している.脳血管障害時の脳血流の自動調節能 の障害も考慮すると,急性期の血圧のみで判断し た降圧薬の安易な投与は戒むべきと考えられた. またもともと高血圧を有する患者は脳循環の自動 調節域が血圧が高い方に移動している6)ことか .ら,より慎重な降圧が必要と考えられる.病巣部 位別には脳梗塞患者では脳幹部に病変を持つ者 が,大脳半球に病変があるものに比べ有意に血圧, 脈拍ともに高かった. 脳出血患者に関しては有意差は認めないが,平 均値においては橋出血患者の血圧,脈拍が他部位 のそれらを上回っていた.延髄門門核,延髄から 橋にかけての網様体には心血管ニュー・ロンが分布 し,循環調節中枢と考えられている7).Dobaら8)に よるとラットの弧東野の電気的切除により,著し い血圧上昇を来し,これは圧受容体反射の中枢性 の求心路遮断による交感神経のdischargeの増大 により,1血管収縮が強くなることによるとしてい る.またこれは中脳の完全な機能が必要であると 結論している.著者の結果から脳血管障害患者で も同様な機序が起こっていることが推察された. 2.変動係数について 変動係数については降圧薬非服用脳梗塞群,脳 出血群で血圧,脈拍のすべてで,降圧薬服用脳梗 塞群では脈拍を除き,それぞれの対照に比べ有意 に小であった.病期別には脳梗塞患者では降圧薬 投与群の脈拍変動係数において急性期は亜急性期 に比べ有意に低値を示し,脳出血患者では拡張期
血圧の変動係数において急性期は慢性期に比べ有 意に低下していた.脳血管障害患者は全般的に対 照に比べ血圧,脈拍の変動係数は有意に低下して おり,経過中,一部回復してくるものもある.部 位別にみると脳梗塞患者では,脳幹部病変を持つ 者は大脳半球に病変を持つ者と比べ,脳出血患者 においては視床および橋に病巣を持つ者がその他 の病巣に比べ低値を示す項目が多かった.これま での脳血管障害患者の血圧,脈拍の変動係数に関 する報告では島津ら9),千保10),秋口11)のものがあ り,島津は急性期に三値を示した変動係数が経過 とともに改善を見たとしている.秋口らも脳血管 障害患者のCVR−R(心電図のR−R間隔変動率)が 対照に比し低値であったことを報告している.千 保の報告では対照と脳血管障害患者では24時間平 均の収縮期血圧,拡張期血圧において標準偏差で は有意差を認めたものの変動係数では有意な差は 認めなかったとしている.絶対値の大小がはっき りしているデータを比較する場合は変動係数で比 較した方がより正確にぼらつきを反映すると考え られる.しかし彼らのデータを検討すると変動係 数の平均値は対照の方が大となっており,著者の 結果との違いは一つには症例の選び方に差がある こと(千保は対照を独歩可能な症例に限っている が,本研究はADLには特に制限を設けていない ため,比較的重症例も含まれている),および,症 例数が若干,本研究の方が大(千保は80例,本研 究は161例)であることなどから差が生じたものと 思われる. 血圧,脈拍は本来,健常者ではある程度の幅の 自然の変動を有している.特に近年,脈拍の変動 についてはR・R間隔変動12)についての研究が進 み,自律神経機能検査の一つとして広く普及する ようになった.各種自律神経障害でR−R間隔変動 率の三値が報告されている.血圧に関しても日中 覚醒時血圧.ヒ昇・夜間睡眠時の血圧下降の長期変 動以外に一拍一拍ごとの第1級血圧動揺から呼吸 性動揺の第2級血圧動揺,10秒から60秒ごとの周 期をもった第3級動揺の短期変動があることが知 られている13).これら変動の起源については未だ 定論がないようであるが,この変動は生体がその ときどぎの内的,外的環境に対応するためのもの であるとも考えられる.服薬の有無を問わず,脳 血管障害患者では有意にその変動が減少している と考えられ,そのなかでも特に視床,脳幹部に病 巣を持つ者が有意に変動係数が低唱であることか ら,この本来あるべき自然の変動の発現には視床, 脳幹部の機能が重要であると考えられた. 3.昼夜の差について 昼夜の差については脳梗塞患者については収縮 期,拡張期血圧,および脈拍のいずれでも対照に 比べ有意に小であり,脳出血患者においては脈拍 の昼夜差が有意に小であった.血圧日内変動のな かでもその昼夜差に関する報告で夜間降圧が認め られない,あるいは正常とは逆に夜間に血圧が上 昇するというものにautonomic failure14), scD15),脊髄損傷および糖尿病16), cushing症候 群17),アルツハイマー病18)などがある.さらに脳血 管障害患者についての報告は山本ら19),小田島 ら20),著者ら21)のものがあり,これらの報告者は脳 血管障害患者では血圧の夜間低下が対照に比べ明 瞭でないかあるいは夜間の方がかえって高値を示 す者が多いと報告している.今回著者の結果から も脳血管障害患者全体の傾向として血圧,脈拍の 昼夜差が対照に比べ小であり,これらの報告に一 致する.さらに本研究では降圧薬服用群を別にと りあげ検討したが,これでも昼夜の差が減少して いた.今後このような傾向があることを念頭に置 き脳血管障害患者の血圧調整を検討すべきであろ う. 脳血管障害患者の血圧,脈拍の昼夜差の経時的 変化について注目した報告は未だないようであ る.今回の著者の検討においていくつかの項目で 経時的に改善の傾向が見られたが,有意に変化が 見られたのは降圧薬非服用脳梗塞群の脈拍におい てのみであった,従来の報告において血圧の昼夜 リズムに異常を来す種々の疾患においても脈拍の リズムは保たれていることが多く16)18)20),血圧リ ズムと脈拍リズムは別の系統の関与を受けている 可能性が考えられているが,今回の結果からも脈 拍リズムの恒常性がうかがわれる.また降圧薬非 服用脳梗塞群は降圧薬服用群に比べ,脳卒中の危
険因子である高血圧を有さないだけに,自律神経 障害が少ないとも考えられた. 血圧,脈拍の昼夜差の病巣部位別の検討にはい ずれも慢性期に限った報告であるが,前述の小田 島ら20),山本ら19),のものがあり,小田島らは視床 障害の有無とは無関係で,多発性の病巣を持つ老 が昼夜リズムの障害が多かったとしている.一方, 山本らは穿通枝多発梗塞,視床,橋出血で昼夜差 が有意に低下していたと報告している.今回の結 果においても脳梗塞患者は脳幹部,大脳半球部の 別では有意差は認めなかった.しかし脳出血患者 の病巣部位別には視床出血患者は他の部位の出血 の症例に比べ有意に血圧の昼夜差は呼値を示し, 橋出血では脈拍の昼夜差が有意に低値であり,山 本らの結果を支持する結果となった. 現在までの知見ではラットなどでは視床下部視 索上等にサーカディアンリズムの発振子(生体時 計,刻時装置)があることが確認されており22),循 環器系に関する報告では,Otsukaら23)がラットの 視索上核の破壊実験により,bradyarrhythmiaの 日内変動が不明瞭になったとしている.しかし, ヒトの生体時計は単一のものでなく,複数時計 説22)が提唱されていることから,当然,血圧日内変 動の発現も複数の因子の関与,更にヒトでは社会 生活がリズムの同調因子として特に大きな役割を 占めていることから認知機能などさらに高位の中 枢の関与も予想される.著者らも過去に慢性期多 発性脳梗塞患者に限って検討し,多発脳梗塞患者 の中では痴呆の程度が強く,皮質萎縮度が強いも のに昼夜の血圧平均値が逆転しているものが多い ことを報告している21).あるいは通常は複数の生 体時計のうち,ある一つが血圧昼夜リズムの発現 について首座を占めていて,障害がこの部位に起 こると他の部位がこれを補うように働き出す可能 性も考えられる.このように多様な因子がヒトの 血圧昼夜リズムの発現に関与しているが,そのな かでも特に視床,あるいはその近傍が重要な役割 を担っていることが今回の結果から推察された. 体温,ホルモン等の生体リズムを形成するため には外界の環境の変化を受信する感覚器から,求 心性伝導系をへて発振子に情報が入力され,そこ から遠心性伝導系を経て効果器(末梢血管,内分 泌腺)に至り,体温の変化,ホルモン量の変動等 として表現されるが,これらの機構のどこに異常 があるかによりリズム異常の種類が異なってく る.発振子の障害ではリズムの振幅の平坦化が, 遠心性伝導系,あるいは効果器の障害では平低回 が起こるとされている24).本研究でみられた脳血 管障害患者の昼夜差の狭小化,変動係数の低下等 の血圧日内変動異常はリズムの振幅の平坦化に相 当するものと考えられた. 結 語 血圧日内変動の異常は脳血管障害患者に広く認 められ,そのなかでも視床,脳幹部障害が強く関 与していると考えられた.また今後脳血管障害患 者の血圧調整の際には正常とは異なる血圧日内変 動を持つ例が多い点に十分な配慮が必要と考えら れた. 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 神経内科主任丸山勝一教授ならびに竹宮敏子教授に 深謝申し上げます. 文 献 1)島津邦男,後藤文夫,小林本館:脳血管障害と自 律神経機能.自律神経 15:193−199,1978 2)川崎晃一,上園慶子:血圧に関連ある諸因子の サーカディアソリズム.神経進歩 29:95−107, 1985 3)Millar・Craig MW, Bisbop CN, Raftery EB: Circadian variation of blood・pressure. Lancet 15:795−797, 1978 4)Wallace JD, Levy LL BIood pressure after stroke. JAMA 246:2177−2180,1981 5)Meyer JS, Skimazu K, Fuk瞳ucbi Y et al: Inpaired neurogenic cerebrovascular control and dysautoregulation after stroke, Stroke 4: 169−186, 1973 6)Strandgaard S:Autoregulation of cerebral blood How in hypertensive patients. Circulation 53:720−727, 1976 7)熊田 衛,照井直人,佐伯由香:中枢神経による 循環調節,病態生理 5:936−941,1986 8)Doba N, Reis DJ:Acute fuluminating neur− ogenic hypertension produced by brainstem lesions in the rat. Circ Res 32:584−593,1973 9)島津邦男:血圧日内変動と疾患 脳卒中,Ther Res 11:40−46,1990
10)千保 誠:脳血管障害例における非観血的携帯型 自動血圧計を用いた血圧日内変動の検討.日臨生 誌20:491−497,1990 11)秋ロー郎,亀山正邦:脳血管障害と自律神経症候. 脳卒中 6:68−71,1984 12)持尾聰一朗:心電図R−R間隔の変動と自律神経 系.神経内科 19:127−132,1983 13)栃久保修:血圧の測定法と臨床評価.メディカル トリビューン社,東京(1988) 14)Man鶏S, A1重man DG, Raftery E et al:Cir− cadian variation of blood pressure in auto− nomic failure. Circulation 68:477−483,1983 15)麦島真理:脊髄小脳変性症における自律神経障 害.東女医大誌 59:660−671,1989 16)小田嶋奈津,松永高志,古川哲雄ほか:脊髄損傷 および末梢神経障害における血圧と脈拍の日内変 動.自律神経 26:134−140,1989 17)Imai Y, Abe K, Sasaki S et al:Altered cir− cadian blood pressure rhythm in patients w童th Cushing’s syndrome. Hypertension 12:11−19, 1988 18)大塚篤志,三上 洋,片平克俊:アルツハイマー 型痴呆老年者における血圧日内変動の検討.日老 医誌 27:570−572,1990 19)山本康正,秋ロー郎:脳血管障害と血圧日内変動. 神経内科 34:246−254,1991 20)小田嶋奈津,市川 忠,古川哲雄ほか:脳血管障 害患者の血圧と脈拍数の日内変動.自律神経 28:44−50, 1991 21)三浦庸子,山内照夫,杉山裕子ほか:慢性期多発 脳梗塞患者の血圧日内変動.自律神経28: 287−290, 1991 22)千葉喜彦,高橋清久:時間生物学ハンドブック. 朝倉書店,東京(1991) 23)Otska K, Sato T, Saito H et al:Role of suprachiasmatic nuclei of hypothalamus on diumal rhythm in cardiac arrhythmias. Heart Vessels 2:15−22,1986 24)佐々木日出男:中枢神経障害におけるサーカディ アンリズムの異常.神経進歩 29:130−139,1985