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内側領域乳癌に対する内視鏡補助下乳房温存

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Academic year: 2021

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序 文 乳房温存手術は,乳癌の根治と乳房の整容性のバラ ンスにより成り立っている。しかしながら病変の占拠 部位および切除量によっては,整容性の担保が困難な 場合もある1)。特に内側および尾側の乳癌症例は,切 除が小範囲であっても乳房部分切除後に欠損部の充填 を補うに十分な組織が周囲になく,変形をきたしやす い2-4) これまでに比較的大きな欠損に対して,広範囲に乳 腺組織を授動する volumedisplacement の手技は多く の報告がある。しかし授動のために乳腺と一緒に直上 の皮膚も切開する方法では,大きな瘢痕が残る欠点が あった5-8)。そこでわれわれは,内視鏡を使用して乳 房下溝線と腋窩の切開創から,回転皮弁の要領で皮下 脂肪と乳腺組織のみを flap として(以下「乳腺組織弁」 と呼ぶ)授動し,欠損部に充填する方法を試みた。腋 窩と乳房下溝の短い瘢痕は目立たず,整容面において も良好な結果が得られた。内視鏡下に行う本法の手技 の詳細について報告する。 適応と方法 ①適応:腫瘤直上皮膚に癌の進展がなく,乳腺切除量 が乳房の 25%をこえない乳房温存治療が可能な症 例とする。 ②術前マーキング:前日,エコー下に腫瘤辺縁より 2cm 断端を確保しマジックでマーキング後,さら にマーキングを取り囲むような三角形をイメージし た範囲を切除範囲とする(図 1a,b,f,g)。次に, こ の 三 角 形 の 頂 点 の 一 つ を 回 転 の 中 心(pivot point)として弧状に乳腺組織弁を描く。回転の中 心は乳頭部または乳房下溝に置いて,乳腺組織弁を 頭側から,または外側から回転するデザインとする と授動が容易になる場合が多い(図 1d,i)。 ③手術手技:全身麻酔後,切除範囲に沿って,ピオク タニン含ゼリーにてマーキング(図 2a)。術中の出 血コントロールおよび剪刀での皮下剥離を容易にす る目的で,乳腺組織弁作成範囲の皮下にボスミン生 理食塩水(100 万倍希釈)を注入しておく。 ⅰ)前腋窩線に約 3cm の皮膚切開を行い,創保護用 ラッププロテクター(八光株式会社)を装着後, RI/ 色素法併用によるセンチネルリンパ節生検を 施行する(図 2b)。センチネルリンパ節に転移を 認めた場合,腋窩リンパ節郭清レベル I および II を追加する。 ⅱ)皮下および乳腺後面の剥離:腋窩創部より直視で 見える範囲をメッツェンバウム剪刃により剥離し (図 1c,h),ある程度まで進んだところでエンド スコピックベインレトラクター(カールストルツ 社)を使用した内視鏡下での剥離に切り替える。 皮下剥離に続いて内視鏡下に乳腺後面の剥離に移 り,マークしておいた乳腺組織弁の範囲まで大胸 筋筋膜を取り残さないように剥離する(図 2c,d)。 ⅲ)乳腺組織弁の作成:内視鏡下に,腋窩創から乳腺 切離上縁に向かい,皮下脂肪および乳腺組織を切 離する(図 2e,f)。 ⅳ)乳腺部分切除:乳房下溝線に沿って約 4cm 皮膚 切開し,乳腺部分切除を行う(図 2g,h)。断端

越田佳朋

1)*

,梨本実花

1)

,玄 安理

1)

,春山優理恵

1)

中川梨恵

1)

,坂本尚美

1)

,淺野裕子

1)

,福間英祐

1) Key words:オンコプラスティックサージャリー,内側乳癌,volumedisplacement 1)亀田総合病院乳腺科 2020 年 2 月 13 日受領 2020 年 12 月 10 日掲載決定

(2)

4 方向を迅速病理診断に提出し,陰性であること を確認する。 ⅴ)乳腺組織弁の授動:作成した乳腺組織弁を授動, 回転して,緊張の強い部分があれば剥離の追加を 行い,乳房全体の形状を見ながら,乳腺組織弁を 周囲乳腺・脂肪組織と 2-0 吸収糸にて縫合固定す る(図 1e,j) ⅵ)創閉鎖:15Fr の吸引ドレナージチューブを腋窩 および乳腺切除部に二本挿入し,閉創する(図 2i)。ブレストバンドにて乳房全体を圧迫固定す る。 症例提示 代表な症例を提示する。 症例 1:44 歳,女性(図 3)。 主訴:左乳房腫瘤を自覚。 家族歴,既往歴:特記すべきことなし。 現病歴:1ヵ月前に左乳房腫瘤を自覚し,当院受診。 初診時,左 AB 区域に 1cm の腫瘤を触知。皮膚所見 は認めなかった。 マンモグラフィー所見:明らかな悪性所見は認めな かった(カテゴリー1,図 3a)。 超音波所見:左乳腺 AB 区域に 10.0 × 9.1 × 4.7mm の不整形な低エコー腫瘤を認めた(図 3b)。 造影 MRI 所見:左乳腺 AB 区域の胸壁側に 8 × 6 × 6mm の腫瘤を認め,その乳頭側には小結節状増強 域の密な部分があり,乳頭下 10mm 程度まで乳管内 進展が疑われた(図 3c)。 針生検病理結果:浸潤性乳管癌(腺管形成型),核 グレード 1。免疫組織学的検査はエストロゲンレセプ ター陽性,プロゲステロンレセプター陽性,HER2陰 性,Ki-67:24%であった。 術前病期は左乳癌 cT1N0M0,StageI と診断した。 前述の手術手技に従って本術式を施行した。術中出 血量は 20ml,手術時間は 108 分であった。 術後経過:合併症はなく経過良好で,術後 4 日目に ドレーンを抜去し,術後 5 日目に退院となった。術後 病理組織検査は DCIS/ADH を広範に伴う浸潤性乳管 癌(腺管形成型),pT1N1(1/16), 断端陰性の所見 であった。術後補助療法は,TC 療法(T:ドセタキ セル,C:シクロフォスファミド)を 4 クール後,放 射線照射(50Gy)を施行した。現在ホルモン療法(抗 図 1 rotationflap 手技 :a ~ e は症例 1(AB 区域),f ~ j は症例 2(B 区域) (a,f) 腋窩に 3cm および乳房下溝線に 4cm の皮膚切開を置く( )。AB 区域症例の下溝線切開 は内側寄りに置く。 (b,g) 腫瘤辺縁( )より 2cm にマーキング後,さらにそのマーキングを取り囲むように三角形 をイメージした乳腺切除予定ライン( )および乳腺脂肪弁作成ライン( )をマーキン グする。乳腺切除は厳密な三角形の必要はなく,過度な切除にならないように注意する。 (c,h) 腋窩創から行う皮弁および大胸筋筋膜剥離の操作範囲( )。 (c) AB 区域症例は,乳房下溝線から追加で皮弁および大胸筋筋膜剥離を行う。下溝線からの操作 範囲( )。 (d,e,i,j) 皮膚を取り除いたイメージ。 (d) 乳頭直下を中心( )として乳腺組織弁を rotation し,欠損部( )を充填する。 (i) 乳房下溝線を中心( )として乳腺組織弁を rotation し,欠損部( )を充填する。 (e,j) 充填した flap と周囲結合組織を 4~5 針縫合固定する。 (g) (h) (i) (j) (f)

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エストロゲン剤)を継続している。術後 12ヵ月時点 の整容性は,左右の対称性もあり良好であった(図 3f,g)。 症例 2:41 歳,女性(図 4)。 主訴:右乳房検診異常。 家族歴,既往歴:特記すべきことなし。 現病歴:検診のマンモグラフィーにて右乳房集簇性 石灰化を指摘され,当院での精査目的に紹介受診と なった。初診時,触診上明らかな腫瘤は認めなかった。 マンモグラフィー所見:右 B 区域に多形集簇性石 灰化を認めた(カテゴリー5,図 4a)。 超音波所見:右乳腺 B 区域に 11.8 × 5.7mm の低エ コー腫瘤を認め,内部にマンモグラフィの石灰化と一 致する高輝度エコーを認めた(図 4b)。 造影 MRI 所見:右乳腺 B 区域深部辺縁に 6 × 5 × 5mm 大の,浸潤癌を疑う腫瘤を認めた。上記腫瘤よ り内側・やや尾側の 6 時方向に 37 × 15 × 7mm の線 状 nonmass enhancement を認め,乳管内進展が疑わ れた(図 4c)。 針生検病理結果:浸潤性乳管癌(硬癌),核グレー ド 3。免疫組織学的検査はエストロゲンレセプター陽 図 2 手術所見:左 AB 区域症例 (a) 左 AB 区域に 10mm の腫瘤。乳頭側に乳管内進展を認めた。三角形をイメージした乳腺切除予 定範囲(矢頭大,小)にピオクタニンにてマーキングした。乳腺脂肪弁作成ライン(矢印①) および乳房下溝線に沿った 3cm の切開線(矢印②)を決定し,マジックにてマーキングした。 (b) 3cm の腋窩創部に創保護目的にプロテクターを装着し,センチネルリンパ節生検を行った。 (c,d) 腋窩創よりエンドスコピックベインレトラクターを挿入し,大胸筋前面より乳腺を剥離した。 (e,f) 腋窩創部より乳腺切除予定範囲(矢頭小)のマーキングを確認した。腋窩創より矢頭大に向 かい,乳腺脂肪弁を作成した。 (g,h) 乳房下溝線に沿った約 4cm の創部より,乳腺部分切除を行った。 (i) 乳腺脂肪弁を欠損部に充填し,周囲結合組織と縫合固定後,腋窩および前胸部に 15Fr シリコン ドレナージチューブを 2 本挿入した。閉創は 4-0 吸収糸にて埋没縫合閉創した。 (b) (c) (a) (g) (h) (i) (d) (e) (f)

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性,プロゲステロンレセプター陽性,HER2 陰性, Ki67:50%であった。術前病期は右乳癌 cT1N0M0, StageI と診断した。 手術手技に準じて本術式を施行した。 出血量は 30ml,手術時間は 83 分であった。 術後経過:合併症はなく経過良好で,術後 4 日目に ドレーンを抜去し退院となった。術後病理組織検査は 広範 DCIS を伴う浸潤性乳管癌,pT1N0M0,断端陰 性の所見であった。術後は放射線照射および抗エスト ロゲン剤の内服にて経過観察中である。術後 10ヵ月 時点の整容性は良好であった(図 4f,g)。 考 察 乳房温存術後の整容性は,腫瘤占拠部位と乳房の大 きさに比する切除量に大きく依存する1)。特に内側お よび下方の乳癌で,切除量が乳房容積の 20%をこえ る症例では術後の整容性の保持がむずかしいとされて いる9)。この問題に対処するため,形成外科領域の皮 膚欠損に対して行われている回転皮弁を内側乳癌症例 に応用した rotation mammoplasty が報告された5-8) これは,皮膚と乳腺を大きく回転することで比較的大 きな欠損に対しても充填することが可能で,Volume displacement の技術の一つとされる。しかし,腫瘤 占拠部位が内側の場合,胸骨近傍にかけての長い手術 図 3 臨床所見 症例 1 (a) マンモグラフィ所見。有意な所見なく,カテゴリー1。 (b) 超音波所見。左乳腺 AB 区域に不整形な低エコー腫瘤を認めた。 (c) 造影 MRI 所見。左乳腺 AB 区域胸壁側に,増強効果を伴う腫瘤を認めた(矢印)。 (d,e) 術前立位像。マーキングは臥位にて行った。 (f,g) 術後 12ヵ月の外観。 (b) (c) (a) (d) (e) (g) (f)

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瘢痕が残るため,ケロイドに対する注意が必要となる。 そこでわれわれは皮弁の回転は行わずに,内視鏡を用 いて皮下で乳腺組織弁だけを授動,回転して欠損部に 充填する方法を考案した。腋窩および乳房下溝などの 目立たない部位 2ヵ所 3~4cm の皮膚切開創から手術 を行った。内視鏡を使用することにより,乳腺表面の 剥離(皮下剥離)と裏面の剥離(大胸筋筋膜剥離)は, ほぼ乳房全域に可能となる。 乳腺組織弁のデザインのポイントは,腫瘍切除部を 三角形に見立てて,どの方向から回転すると無理なく 充填することが可能かを見きわめることである。腫瘤 占拠部位別に乳腺組織弁の大きさと回転の中心を変え ることにより,乳腺組織弁の過緊張を防ぎ,欠損部を 充填する十分な組織量の確保が可能になる。その際, 乳腺組織弁の基部に栄養血管が含まれるようにするこ とが重要である。われわれの提示した症例では,内側 区域の欠損に対しては頭側方向から乳腺組織弁を回転 し,また尾側領域の欠損には外側方向から乳腺組織弁 を回転しているが,どちらも主な血流は外側肋間動静 脈穿通枝から栄養されている。基部に近い部位での大 胸筋筋膜の剥離は必要最小限の範囲にとどめて,注意 深く行う必要がある。 本法は volume displacement の技術の一つであり, 下垂の強くない中程度までの大きさの乳房で,内側区 図 4 臨床所見 症例 2 (a) マンモグラフィ所見。右下方に多形集簇性石灰化を認めた。カテゴリー5。 (b) 超音波所見。右乳腺 B 区域の内部に点状の,高エコーを伴う低エコー領域を認めた(矢印)。 (c) 造影 MRI 所見。右 6 時方向に nonmass enhancement を認め,マンモグラフィで認めた石灰化

の範囲とおおむね一致した(矢印)。 (d,e) 術前立位像。マーキングは臥位にて行った。 (f,g) 術後 10ヵ月の外観。 (b) (c) (a) (d) (e) (g) (f)

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われわれは内側領域の乳癌に対して,内視鏡を使用 して乳腺組織を授動する Volume displacement の手 技による乳房温存術を行い,整容的に良好な結果を得 られたので,その手技の詳細を報告した。 本論文の要旨は,第 7 回日本乳房オンコプラスティッ クサージャーリー学会総会(2019 年 10 月 10 日,於大宮) で報告した。 本文について他者との利益相反はない。 文 献

1 )Clough KB, Kaufman GJ, Nos C:Breast displace-ment techniques to increase resection volumes for breast-conserving surgery. Breast Surgery(4th Ed.),editedbyDixonJM,Edinburgh:SaundersEl-sevier;2009.86-101. 2 )CochraneRA,ValasiadouP,WilsonARM,etal:Cos- mesisandSatisfactionAfterBreast-ConservingSur-cosmeticresultsafterbreast-conservingtherapyin theEORTC‘boostvs.noboost’trial. EORTCRadio-therapyandBreastCancerCooperativeGroups.Ra︲ diother Oncol,2000;55:219-32.

5 )Lin J, Chen DR, Wang YF, et al:Oncoplastic Sur- geryforUpper/UpperInnerQuadrantBreastCan-cer.PLoS One,201628;11:e0168434.

6 )AlmasadJK,SalahB:BreastReconstructionbyLo-cal flaps after Conserving Surgery for Breast Can-cer:An Added Asset to Oncoplastic Techniques. Breast J,2008;14:340-4.

7 )KimJ,YooJ,LeeJ,etal:Oncoplasticreconstruction withsuperiorbasedlateralbreastrotationflapafter lower quadrant tumor resection. J Breast Cancer, 2012;15:350-5.

8 )MasseyEJD,GouveiaPF,NosC,etal:Anewlevel 1 oncoplastic technique for breast conserving sur- gery:Rotationglandularflap.Breast,2013;22:186-9.

9 )Bulstrode NW, Shrotria S:Prediction of cosmetic outcomfollowingconservativebreastsurgeryusing breastvolumemeasurement.Breast,2001;10:124-6.

参照

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