浸潤性膵管癌におけるCD109の造腫瘍性に関する研
究
著者
初沢 悠人
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19124号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129219
1
博士論文
浸潤性膵管癌における CD109 の造腫瘍性に関する研究
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻
外科病態学講座 消化器外科学分野
初沢悠人
2
略語
ATCC: American Type Culture Collection BSA: bovine serum albumin
cDNA: complementary DNA CSC: cancer stem cell
DMEM: Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium EGFR: epidermal growth factor receptor EMT: epithelial-mesenchymal transition ESA: epithelial-specific antigen
FACS: fluorescence activated cell sorting FBS: fetal bovine serum
GPI: glycosylphosphatidylinositol HCC: hepatocellular carcinoma
Hepes: 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid HRP: horseradish peroxidase
IHC: immunohistochemistry NAC: neoadjuvant chemotherapy NOG: NOD/SCID/IL-2Rγnull
3
OS: overall survival
PBS(-): Mg++, Ca++-free phosphate buffered saline
PCR: polymerase chain reaction
PDAC: pancreatic ductal adenocarcinoma PE/Cy7: phycoerythrin/cyanin 7
PVDF: polyvinylidene difluoride RFS: recurrence free survival RT-PCR: reverse transcription PCR SCC: squamous cell carcinoma SDS: sodium dodecyl sulfate shRNA: short hairpin RNA siRNA: small interfering RNA
STAT: signal transducers and activator of transcription TGF-β: transforming growth factor-β
4
Ⅰ.要約
目的:浸潤性膵管癌(Pancreatic ductal adenocarcinoma: PDAC)は膵癌における 最も一般的な組織型であり,早期診断が困難であることや化学療法への抵抗性,遠 隔転移を起こしやすいことなどから非常に予後不良な悪性腫瘍である.膵癌の発生 や進行を制御する分子機構に関して多くの報告があるものの,いまだ有効な治療標 的の同定には至っていない.GPI アンカー型糖タンパクである CD109 は,多くの臓器 における扁平上皮癌(squamous cell carcinoma: SCC)や肝細胞癌
(hepatocellular carcinoma: HCC),膵癌などにおける高発現が報告されており, SCC や HCC における悪性度との関連性が示されている.一方で,膵癌における機能や 悪性度との関連については解明が進んでいない.本研究では PDAC の悪性形質,造腫 瘍性や転移能に CD109 が関与しているか,明らかにすることを目的とした. 方法:膵癌細胞株である PANC-1 を用いて検証した.標的遺伝子である CD109 に対す る shRNA と siRNA を用いて,安定発現抑制株を作成した.安定発現抑制株を免疫不 全 NOG マウスの皮下に移植し,造腫瘍性の評価を行った.また,in vitro における 増殖能や遊走能などの機能解析を行った.CD109 は TGF-βシグナル抑制因子として 知られていることから,PANC-1 細胞株における TGF-βシグナルへの影響を下流のシ グナル構成分子である SMAD2 のリン酸化の評価により検証した.2006 年から 2015 年 までに東北大学病院で切除した PDAC 症例 145 例において,CD109 の発現を免疫組織 化学法(Immunohistochemistry: IHC)で確認し,実際の臨床検体における CD109 の
5 発現と予後やステージ,遠隔転移などの臨床病理学的な情報との関連性の検証を行 った. 結果:免疫不全 NOG マウスへの皮下移植では,コントロール株と比較して CD109 安 定発現抑制細胞株において有意に腫瘍形成能の低下を認めた(p<0.0001).in vitro における細胞増殖アッセイを行ったところ,コントロール株と安定発現抑制株の間 に有意差を認めなかった.続いて,細胞の遊走・移動能の評価のため創傷治癒アッ セイ,細胞遊走アッセイを行ったところ,安定発現抑制株においてコントロール株 と比較して遊走・移動能の低下を認めた(創傷治癒アッセイ:p=0.0005,細胞遊走 アッセイ:p=0.0244).PANC-1 細胞株における CD109 による TGF-βシグナルへの抑 制作用は認められなかった.PDAC 切除検体 145 例における CD109 の発現は,102 例 (70.3%)で陽性であった.陽性例と陰性例において術後の全生存期間や無再発生 存期間に差を認めなかったが,術後再発症例において CD109 陽性例では陰性例と比 較して有意に遠隔転移再発が多かった(陽性例:陰性例=85.5%:63.3%, p=0.0112). 考察:CD109 発現抑制細胞は,腫瘍形成能の低下を認め,また遊走・移動能の低下を 来たしていた.さらに PDAC の臨床検体において,CD109 陽性例は陰性例と比較して 多くの遠隔転移再発を来たしていた.これらの結果は,CD109 が PDAC における造腫 瘍性や遠隔転移に寄与しており,有効なバイオマーカーや治療標的となる可能性を 示している.
6
7
Ⅱ.研究背景
膵癌は,難治性で非常に予後不良な悪性腫瘍である.本邦における膵癌の年齢調 整罹患率は 2018 年で 9.7 人/100,000 人と全世界で 5 番目に高く[1,2],また,本邦 のがん死亡数では全癌腫のうち 4 番目に多く,その 5 年生存率は 10%未満にとどまる [3].浸潤性膵管癌(pancreatic ductal adenocarcinoma: PDAC)は膵癌の最も一般 的な組織型であり,早期診断が困難であることや化学療法への抵抗性,遠隔転移を 来たしやすいことなどが予後不良の主な原因となっている.これまでの分子生物学 的研究により,PDAC はKRAS,CDKN2A,TP53,および SMAD4 という4つの主要な遺伝 子変異と複数のその他のマイナーな遺伝子変異の蓄積により,腺管形成を伴う前癌 粘液性病変から発生し,これらの遺伝子変異は DNA 修復,細胞周期調節,TGF-βシ グナル伝達,クロマチン修復などの分子経路へと集約されていくことが知られてい る[4-6].このように,PDAC の遺伝子異常は広範に研究されているものの,早期診断 への指標や有効な治療標的分子の同定にはいまだ至っていないのが現状である[7]. PDAC が非常に高い悪性度を示すのは,腫瘍の亜集団であるがん幹細胞(cancer stem cells: CSCs)に起因するとの報告がある[8].PDAC における CSCs は,異種移 植モデルでの造腫瘍性を指標に検討され,細胞表面に CD44,CD24,および上皮特異 的抗原(epithelial-specific antigen: ESA)を特異的に発現する高腫瘍原性の細 胞亜集団が候補として最初に同定された[9].その他,PDAC の CSCs が腫瘍の転移に 不可欠な CD133 と C-X-C chemokine receptor type 4(CXCR-4)の両方を主に発現し
8 ていることも報告されている[10].これら CSCs の細胞表面マーカーは PDAC の潜在 的な治療標的となる可能性があるが,いまだ効果的な治療戦略の策定には至ってい ない. CD109 は,約 170kDa の GPI アンカー型糖タンパク質であり,膵臓,肺,食道,子 宮,陰茎,口腔,胆嚢などの様々な癌で発現していると報告されているが,それら の正常組織ではほとんど検出されていない[11-14].さらに CD109 の発現亢進は,肝 細胞癌(hepatocellular carcinoma: HCC)[15],glioma[16],口腔扁平上皮癌 [17],類上皮肉腫[18],粘液線維肉腫[19]の悪性度や進行度と有意に相関すると報 告されている.そして,CD109 がこれらの癌における CSCs の制御に関与するとされ ている[16,18].CD109 が癌の進行過程に関与する分子メカニズムに関して,古くか らは transforming growth factor-β(TGF-β)シグナル伝達経路に,近年では signal transducer and activator of transcription 3(STAT3),および epidermal growth factor receptor(EGFR)の各シグナル伝達経路に影響を及ぼすことが示さ れている[13].さらに最近では神経膠芽腫における yes-associated
protein/transcriptional coactivator with PDZ-binding motif(YAP/TAZ)シグナ ル伝達経路への関与が報告された[20].特に,TGF-βシグナル伝達制御に関して は,CD109 は TGF-β共受容体であり,TGF-β受容体の内在化と分解の促進[21,22], もしくは TGF-β受容体と CD109 の N 末端モチーフを形成して SMAD2 や SMAD3 のリン 酸化と核内移行・遺伝子転写を抑制することによって TGF-βシグナル伝達を阻害す
9
ることが知られている[23].TGF-βは上皮細胞増殖の抑制を誘導することが知られ ており,扁平上皮癌(squamous cell carcinoma: SCC)での CD109 過剰発現は TGF-βシグナル伝達の抑制を介して SCC の増殖促進に寄与すると考えられている[13]. しかしながら,TGF-βの腫瘍形成における役割は複雑であり,上皮性の癌における 早期と進行期の間では逆説的な役割を果たすとされている[24,25].TGF-βは,PDAC の初期はアポトーシスを誘導し,細胞周期の進行を阻害することによって腫瘍抑制 的な役割を果たすが,進行期においてはゲノム非安定性,血管新生,免疫回避,細 胞の運動性,および転移性に関与し,腫瘍促進因子としての機能を果たすと報告さ れている[26-28]. 以上の背景を踏まえ,私は,CD109 が PDAC の進行に関与し,PDAC のバイオマーカ ーや治療標的分子になりうる可能性に着目し,そのメカニズムとして TGF-βシグナ ルを中心としたシグナル伝達が関連するのではないかと仮説を立てた.
10
Ⅲ.研究目的
本研究は,PDAC の臨床検体と細胞株を用いて PDAC の進行と転移における CD109 の 関与を明らかにすることを目的とした.
11
Ⅳ.研究方法 細胞培養
ヒト膵癌由来の細胞株である AsPC-1,BxPC-3,MIA PaCa-2,PANC-1 を American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)より入手して使用した.AsPC-1 お よび BxPC-3 細胞は,10%FBS(Gibco, Grand Island, NY),
1%penicillin/streptomycin(ナカライテスク, 東京, 日本)を添加した RPMI-1640 培地を用いて,MIA PaCa-2 および PANC-1 細胞は,10%FBS(Gibco)および
1%penicillin/streptomycin(ナカライテスク)を添加した Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)培地をそれぞれ用いて,5%CO2,37℃,湿潤環境で培養し た. 臨床検体 東北大学病院で 2006 年から 2015 年までの間に切除術を施行した膵癌患者 323 例 のうち,術前治療を施行した症例を除外し,切除検体の病理組織診断で PDAC と診断 された 145 例を本研究の対象とした(図 1).すべての対象症例で,臨床病理学的情 報とホルマリン固定パラフィン包埋標本を収集した.病期に関しては,Union for the International Cancer Control(UICC)第 8 版に基づいた.臨床検体の使用に
ついては,東北大学倫理委員会の承認のもと(2017-1-240),東北大学および宮城県
12
NOG マウスの取り扱いおよび腫瘍形成アッセイ
週齢 6-8 の NOD/SCID/IL-2Rγnull(NOG)マウスは公益財団法人実験動物中央研究
所(川崎, 日本)より購入し,1 週間以上の馴化期間を経たのちに実験に使用した. 細胞を 1×106個ずつ,50μl の DMEM 培地に懸濁し,等量の Matrigel(BD
Biosciences, San Jose, CA)と混和し,NOG マウスの両側腰部皮下に移植した (n=8: shRNA 群, n=7: control 群・shCont 群).移植後のマウスは週 2 回の腫瘍径 測定と 1 日おきの体重測定を行い,腫瘍体積は次の式で算出した. 最大径×最小径2/2 実験動物の扱いや実験方法に関しては,宮城県立がんセンター実験動物倫理委員会 のガイドラインに沿って実施した. NOG マウス皮下腫瘍における間質量の測定 摘出したマウス皮下腫瘍を各細胞群毎に無作為に 3 個ずつ抽出し,それぞれの腫 瘍からホルマリン固定パラフィン包埋標本を作製した.3μm に薄切した組織切片を 剥離防止コートスライドグラス(PRO-04, 松浪硝子工業株式会社, 岸和田, 日本) に接着し,プレパラートを作製した.それぞれのプレパラートをヘマトキシリン・ エオジン染色し,100 倍の倍率で無作為に 3 視野を抽出してそれぞれの視野に占める 間質の面積を測定し(Image J software; National Institutes of Health,
13
Bethesda, MD),その割合の平均値を比較した.
レトロウイルスベクターによる遺伝子導入
CD109 の遺伝子発現ベクターを以下のように調製した。PANC-1 細胞の全 RNA を RNeasy Mini kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて抽出し,これを鋳型として PrimerScript II cDNA synthesis kit(タカラバイオ, 草津, 日本)を用いて cDNA を合成した.これに対して,ヒト CD109 の open reading frame(ORF)配列を KOD Fx polymerase(東洋紡, 大津, 日本)を用いた polymerase chain reaction(PCR) にて増幅した.PCR には以下の primer を使用した.
5’-CACCGCGGTGGCGGCCGCCATGCAGGGCCCACCGCTCCTGA-3’および 5’-TAGTTCTAGAGCGGCCGCTCACAGCCAAAGTTCCATAAAG-3’である.
PCR 反応は,最初の熱変性を 94℃,2 分で行い,その後 98℃,10 秒-65℃,30 秒- 68℃,90 秒を 35 サイクル行った.増幅産物はアガロースゲル電気泳動後,Wizard gel purification kit(Promega, Madison, WI)を用いて精製し,pBluescriptⅡ (Stratagene, La Jolla, CA)の制限酵素 NotⅠ切断部位にサブクローニングし, CD109_pBlue を作製した.シーケンスを確認後,CD109 配列を NotⅠで切り出し,こ れを pMXs-Puro(東京大学北村俊雄先生より供与)の NotⅠ切断部位に挿入し CD109_pMXs を作製した.また,CD109 に対する shRNA の発現ベクターを pSIREN-RetroQ vector(Clontech, Mountain View, CA)を元に作製した.ヒト CD109
14
(NM_133493)配列の 2298-2318(5’-GGAAATAACTATATTCAATTA-3’: shRNA#11)と 2995-3015(5’-GCCGATCCTTACATAGATATT-3’: shRNA#12)を標的とした shRNA 発現 ベクターを作製し,firefly luciferase に対する shRNA 発現ベクター(Clontech) をコントロールベクター(SIREN: shCont)として用いた.
CD109 発現ベクター(CD109_pMXs),shRNA 発現ベクター(shRNA#11, shRNA#12) 並びにコントロールベクター(pMXsΔEco, shCont)を導入したレトロウイルスを調 製するために、FuGENE HD Transfection Reagent(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いてベクターDNA を Plat A 細胞株に導入した.48 時間経過後に培養 上清を回収し,0.45μm シリンジフィルターで濾過してレトロウイルスベクターとし て使用した.このウイルス液に polybrene(終濃度 4μg/ml, ナカライテスク)を加 えた後に,CD109 発現ベクターは AsPC-1 細胞へ,shRNA 発現ベクターは PANC-1 細胞 へとそれぞれ添加してウイルスを感染させた.感染後 48 時間培養した後,
puromycin(終濃度 1μg/ml, Invitrogen, Carlsbad, CA)を培地に加えて 2 週間程 度細胞を継代培養し,puromycin 耐性株を選択した.
siRNA による遺伝子発現抑制
CD109 の発現を抑制させるため,siRNA を作製した.siRNA の設計は,siDirect (version 2, http://sidirect2.rnai.jp)を用いて行い,合成は FASMAC(厚木, 日 本)に委託した.それぞれの配列は,siRNA#64:5’-ACUAUUAGAGAAUAAAAUCUC-3’,
15
siRNA#65:5’-AUAUAAUACACAAUUACACAG-3’,siRNA#66:5’-UCUUUUUAGUCAGAUAAUCCA-3’である.CD109 を標的としないネガティブコントロールとして,siCont:5’-UAAGGCUAUGAAGAGAUACUU-3’を作製した.PANC-1 細胞への導入には Lipofectamine RNAiMAX(Thermo Fisher Science, MA)を使用した.
定量 RT-PCR
全 RNA を RNeasy Mini kit(Qiagen)にて抽出した.これを鋳型に PrimerScript II cDNA synthesis kit(タカラバイオ)を用いて cDNA を合成した.cDNA をプライ マー,Brilliant III Ultra-Fast SYBR Green QPCR Master mix(Agilent
Technologies, Santa Clara, CA)と混合して PCR 反応を行った.PCR 反応は, 95℃,3 分を 1 サイクル後,95℃,5 秒-60℃,10 秒を 40 サイクル行った.PCR 反 応,増幅産物の計測および解析は LC480Ⅱ(Roche Diagnostics)を用いて行った. 内部標識としてβ-actin を使用した.いずれの標的遺伝子に関しても,コントロー ル群(siCont,shCont)における発現量を 1.0 としたときの相対的な発現量で評価 を行った. PCR 反応には以下のプライマーを用いた.
β-actin: 5’-CCAACCGCGAGAGGTGA-3’, 5’-TCCATCACGATGCCAGTG-3’, CD109: 5’-ACTGTCTTGAAGCCATCTCTCA-3’, 5’-TTGCCATCAGCACGAGTTAC-3’, CD44: 5’-TCCCAGACGAAGACAGTCCCTGGAT-3’,
5’-CACTGGGGTGGAATGTGTCTTGGTC-16
3’,
Connective tissue growth factor(CTGF): AGGAGTGGGTGTGTGACGA-3’, 5’-CCAGGCAGTTGGCTCTAATC-3’,
cysteine-rich angiogenic inducer 61(CYR61): 5’-CCTTGTGGACAGCCAGTGTA-3’, 5’-ACTTGGGCCGGTATTTCTTC-3’,
ankyrin repeat domain-containing protein 1(ANKRD1): 5’-AGTAGAGGAACTGGTCACTGG-3’, 5’-TGGGCTAGAAGTGTCTTCAGAT-3’.
フローサイトメトリー
FACSCantoⅡ(Becton Dickinson Bioscience, CA)を用いてフローサイトメトリ ー分析を行った.細胞を 1%FBS 添加 PBS(-)で洗浄し,それぞれの 1 次抗体,蛍光標 識抗体と室温で 30 分間反応させ,再度 1%FBS 添加 PBS(-)で洗浄して解析した.結果 は FlowJo software V10(Tree Star, Ashland, OR)を用いて解析した.使用した抗 体は以下の通りである.1 次抗体としてマウスモノクローナル抗ヒト CD109 抗体 (MAB4385, clone: 496920, R&D Systems, Minneapolis, MN),二次抗体およびアイ ソタイプコントロールとして PE/Cy7 結合マウス IgG(405315, clone: Poly4053, BioLegend, San Diego, CA)を用いた.
17
細胞を PBS(-)で 2 回洗浄後,溶解バッファー(50mM Hepes ph7.5, 150mM NaCl, 1% Triton X-100, 2mM EDTA, 10mM NaF, 2mM phenylmethanesulfonylfluoride, 7.5 μg/ml aprotinin, 10μg/ml leupeptin)に溶解し,5 分間の超音波処理後に遠心 (12000 × g, 20min, 4℃)し,上清を回収した.TGF-βリガンド添加条件での検 討では,培養細胞を 3 時間無血清培地で培養した後に TGF-β1(1ng/ml, PEPROTECH, Rocky Hill, NJ)を添加し,10 分後,60 分後にそれぞれ溶解バッファーへ溶解し た.EGF リガンド添加条件での検討では,培養細胞を 3 時間無血清培地で培養した後 に EGF(10nM, PEPROTECH)を添加し,5 分後,20 分後にそれぞれ溶解バッファーへ 溶解した.上清中の蛋白濃度は Bio-Rad protein assay kit(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて測定した.等量のサンプルバッファー(100mM Tris-HCl ph6.8, 4% sodium dodecyl sulfate, 0.2% bromophenol blue, 20% glycerol, 2%
beta-mercaptoethanol)を加え,100℃で 5 分間加熱しサンプルとした.4%-20% SDS-ポリ アクリルアミドゲル(和光,大阪,日本)に各レーンあたり 10μg ずつサンプルを 添加し,電気泳動を行った.分離したゲル中の蛋白を転写バッファー(25mM Tris, 192mM glycine, 20% CH3OH)中で,polyvinylidene difluoride(PVDF)メンブレン
(Millipore, Billerica, MA)に転写した(通電条件: 100V, 350mA, 60 分, 氷 上).メンブレンは 5% BSA 添加 0.1% Tween 20-TBS(TBST)でブロッキング処理し た.ブロッキング処理したメンブレンは,ブロッキングバッファーで希釈した各 1 次抗体と 4℃で一晩,ゆるやかに振盪しながら反応させた.TBST で洗浄し,同様に
18
ブロッキングバッファーで希釈した 2 次抗体と室温で 1 時間反応させ,TBST で洗浄 後に SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific, Rockford, IL)と反応させた.検出には LAS-4000mini CCD Imager(富士フィルム, 東京,日本)を用いた.各レーンの蛋白が等量転写されていることを確認するた め,メンブレンからストリッピング溶液(アプロサイエンス, 徳島, 日本)を用い て結合した抗体を除去した後に,マウス抗ヒトα-tubulin モノクローナル抗体(医 学生物学研究所, 名古屋, 日本)を用いて同様に検出した.1 次抗体,2 次抗体には 以下のものを用いた.1 次抗体: ヒツジポリクローナル抗ヒト CD109 抗体(AF4385, R&D Systems, 1:2000 希釈),ウサギモノクローナル抗ヒト phospho-SMAD2 抗体 (#3108, Cell Signaling Technology, Danvers, MA, 1:1000 希釈),ウサギモノク ローナル抗ヒト phospho-p44/42 MAPK(Erk1/2)抗体(#4370, Cell Signaling Technology, 1:1000 希釈),ウサギモノクローナル抗ヒト p44/42 MAPK(Erk1/2)抗体 (#4695, Cell Signaling Technology, 1/1000 希釈)ウサギポリクローナル抗ヒト phospho-STAT3 抗体(#9134, Cell Signaling Technology, 1:1000 希釈),2 次抗体: 抗ヒツジ IgG ペルオキシダーゼ抗体(A3415, Sigma-Aldrich, St.Louis, MO,
1:10000 希釈),HRP 標識抗ウサギ IgG 抗体(#7074, Cell Signaling Technology, 1:1000 希釈).
19
PDAC 症例の腫瘍組織ホルマリン固定パラフィン包埋標本から 3μm に薄切した組織 切片を剥離防止コートスライドグラス(PRO-04, 松浪硝子工業株式会社)に接着 し,プレパラートを作製した.染色は自動染色機である VENTANA Discovery XT system(VENTANA Medical System; Roche Group, Tucson, AZ)を用いて行った.1 次抗体として 4μg/ml に調整したマウスモノクローナル抗ヒト CD109 抗体
(MAB4385, R&D Systems)を使用し,ネガティブコントロールとしてマウス IgG (Cell Signaling Technology)を用いた.DISCOVERY ChromoMap DAB Kit(VENTANA Medical Systems; Roche Group)で染色後,検鏡した.染色の評価は,病理医を含 む 2 名の観察者が独立して,事前に臨床病理学的な情報を知ることなく行った.染 色性に関して以下の基準を独自に設定し,全例を 3 群に分類した: 0, negative (basolateral side -, apical side -); 1+, 細胞の側底面は染色されているが頂 端面は染色されていない(basolateral side +, apical side -); 2+, 細胞の側底 面も頂端面も染色されている(basolateral side +, apical side +).
細胞増殖アッセイ
細胞増殖能は Cell Counting Kit-8(CCK-8, 同仁化学研究所, 熊本, 日本)を用 いて測定した.1 ウェルあたり 1×103
個の細胞を 100μl の DMEM 培地に懸濁し,そ れぞれ 96-ウェルプレートに播種した.4 枚のプレートを準備し,それぞれ 1-4 日目 の異なる時点で検証した.検証時点で,それぞれのウェルに 10μl の CCK-8 溶液を
20 加え,37℃,5%CO2インキュベーターで 4 時間培養した.4 時間経過した段階で,マ イクロプレートリーダー(SynergyH1, BioTek)で 450nm での吸光度を測定して生細 胞数の評価を行った. 低酸素チャンバーにおける細胞培養 低酸素チャンバー9000EX(和研薬,京都,日本)で低酸素環境下(1%O2-5%CO2, 37℃)に一晩暴露した培地(10%FBS 添加 DMEM)で,トリプシン処理後の細胞を懸濁 し,5×103細胞/well で 96-well プレートに播種し,低酸素チャンバーで培養した. 定期的にプレートを回収し,細胞数の増加を DNA 量の増加で検討した.DNA 測定は次 のように行った.培養プレートから培地を除き,100μl/well の蒸留水を加え,1 時 間室温で静置後,測定まで-80℃で保管した.室温で融解し,染色液(20μg/ml Hoechst33258, 10mM Tris-HCl, pH7.4, 1mM EDTA, 2M NaCl)を 100μl/well 加え, 攪拌後,混合物 100μl を測定用プレート(黒色プレート,Thermo437112)に移し, マイクロプレートリーダー(SynergyH1, BioTek)にて各ウェルの蛍光強度 (Ex350nm/Em460nm)を測定した. 創傷治癒アッセイ 1 ウェルあたり 5×104 個の細胞を 500μl の DMEM 培地に懸濁し,それぞれ 24-ウェ ルプレートに撒いた.95%の密度まで細胞が接着した段階で,5μg/ml のマイトマイ
21 シン C(Sigma-Aldrich)を添加し,3 時間培養することで細胞増殖を停止させた 後,ウェルの中心を滅菌済ピペットチップの先端で削り,剥がれた細胞を PBS(-)で 洗浄して除去した.37℃,5%CO2インキュベーターで 24 時間培養し,細胞が遊走し た範囲を顕微鏡下に観察した.スクラッチ直後の 0 時間経過時点での無細胞領域の 面積と,24 時間経過時点での細胞遊走範囲の面積を測定し(Image J software),両 者の比率を遊走能として評価した. 細胞遊走アッセイ
24-ウェルプレートと Cell Culture Insert(pore size: 8μm, Becton Dickinson Bioscience)を用いて,トランスウェル細胞遊走アッセイを行った.下部ウェルに それぞれ 750μl ずつ 10%FBS 添加 DMEM 培地を加えた後,インサートをプレートにセ ットした.インサート内に 2×104 個の細胞を懸濁した無血清 DMEM 培地 500μl を加 え,37℃,5%CO2インキュベーターで 1 晩培養した.移動していないインサート上面 の細胞をコットンスワブで除去し,インサート底面へ移動した細胞を 100%メタノー ルで固定し,0.5%クリスタルバイオレット染色を行った後に顕微鏡で観察した.各 インサートあたり無作為に 4 視野の細胞数を測定して評価した. マイクロアレイによる遺伝子発現の分析
22
mirVana miRNA Isolation kit(Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いて抽出 し,Low Input Quick Amp Labeling kit(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)にて蛍光標識した.標識されたプローブを Sure print G3 Human GE 8×60K microarray slide(Agilent Technologies)に滴下し,Agilent 社のプロトコールに 沿って操作を進めた.スライド洗浄後,ハイブリダイズしたプローブの蛍光を Agilent microarray scanner により計測した.データは Feature Extraction Software(Agilent Technologies)にて処理し,R packages を用いて解析を行い, 遺伝子発現の分析を行った.
リン酸化キナーゼアレイ
各細胞株における蛋白のリン酸化レベルを Proteome ProfilerTM
Array Human Phospho-Kinase Array Kit(R&D Systems)により検討した.キットの添付文書に沿 って操作を行い,付属のメンブレンへと各細胞抽出液を反応させ,結合したリン酸 化蛋白を LAS-4000mini CCD Imager(富士フィルム)を用いて検出した.
統計解析
統計解析には JMP software version 14.0(SAS Institute, NC)を用いた.各群 間の比較には Pearson’s χ2
-test を行い,連続変数の比較には Student’s t-test を用いた.生存曲線は Kaplan-Meier 法で算出し,全生存率と無再発生存率の比較に
23
は Log-rank test を行った.標準偏差をエラーバーで示した.統計学的有意差は, 各群間の p 値 < 0.05 を有意差ありと判定した.
24 Ⅴ.研究結果 膵癌細胞株における CD109 の発現の確認 膵癌細胞株における CD109 の発現を確認するため,4 種類の細胞株 AsPC-1,BxPC-3,MIA PaCa-2,PANC-1 を用いて,ウエスタンブロットを行い蛋白レベルでの発現の 有無を解析した.いずれの細胞株においても CD109 の発現を認めた.特に AsPC-1 で は発現量が低く,PANC-1 では発現量が高いことが明らかとなった(図 2). CD109 過剰発現株および発現抑制株の作成 次に,膵癌細胞株の造腫瘍性と CD109 との関連性を調べるために,低発現細胞株 である AsPC-1 への CD109 発現ベクターの導入と,高発現細胞株である PANC-1 への shRNA 発現ベクターの導入を行った.作製した CD109 発現ベクターを AsPC-1 に導入 し,フローサイトメトリーで発現の解析を行ったところ,コントロール細胞株と比 較して十分な発現上昇を得ることができなかった(図 3A).一方で,CD109 に対する
shRNA を 2 種類(shRNA#11,shRNA#12)作製し,PANC-1 に導入したところ,shCont
群と比較して CD109 の発現低下を認めた(図 3B).さらに蛋白質レベルと mRNA レベ
ルでの発現を評価するためウエスタンブロットと定量 RT-PCR を行ったところ,それ
ぞれ shCont 群と比較して発現抑制を得ることができた(図 4).
また,CD109 に対する siRNA を 3 種類(siRNA#64,siRNA#65,siRNA#66)作製し, それぞれをリポフェクション法で PANC-1 細胞に導入した.同様にウエスタンブロッ
25 トと定量 RT-PCR を行い,蛋白質レベルおよび mRNA レベルで CD109 の発現が抑制さ れていることを確認した(図 4). CD109 抑制による PDAC 細胞株の造腫瘍性低下 PDAC の悪性形質における CD109 の役割を明らかにするため,造腫瘍性への関与を 検討した.CD109 発現抑制細胞株 1_shRNA#11,1_shRNA#12,親株 PANC-1_Cont,およびコントロールベクター導入株 PANC-1_shCont をそれぞれ NOG マウス に皮下移植し,腫瘍形成能を比較した.腫瘍径を経時的に測定し,移植後 10 週で安 楽死後に腫瘍を摘出した.10 週時点での平均腫瘍体積は shCont 群が 429.0mm3であ ったのに対して,shRNA#11 群では 190.6mm3 (p<0.0001),shRNA#12 群では 162.5mm3 (p<0.0001)と有意に腫瘍形成能が低下していた(図 5).同様に,摘出した腫瘍の 平均重量においても,shCont 群(264.6mg)と比較して shRNA#11 群(156.1mg, p<0.0001),shRNA#12 群(132.2mg,p<0.0001)いずれも有意に低下していた(図 5). 摘出した腫瘍をヘマトキシリン・エオジン染色し,それぞれの腫瘍における間質 量の評価を行った.各細胞群間での腫瘍中の間質面積の割合は明らかな差を認めな かった(図 6).
また,PANC-1_shCont 細胞,PANC-1_shRNA#11 細胞,PANC-1_shRNA#12 細胞につい
てin vitro での細胞増殖速度を比較した.通常酸素濃度および低酸素濃度(1% O2
26 での増殖を検討したが,細胞間で明らかな差を認めず,CD109 の発現抑制はin vitro での増殖に影響しないことが示された(図 7). CD109 抑制による PDAC 細胞の移動・遊走能の低下 PDAC の悪性形質における CD109 の役割として,細胞移動・遊走能への関与を検討 した.in vitro での機能解析として,創傷治癒アッセイを行った.創傷形成後 24 時 間経過時点での平均細胞遊走範囲を測定すると,shCont 細胞では 93.2%の範囲で細 胞が遊走していたのに対して,shRNA#11 細胞では 74.7%(p=0.0008),shRNA#12 細胞 では 69.5%(p=0.0002)と創傷治癒幅が狭く,細胞の運動性が有意に低下しているこ とが分かった(図 8A,B).また,トランスウェル細胞遊走アッセイでは,コントロー ル細胞と比較して CD109 発現抑制細胞群で遊走能の低下を認めた(図 8C).以上よ り,CD109 の発現を抑制することにより細胞の移動・遊走能が低下することが明らか となった. PDAC 臨床検体における CD109 の発現と臨床病理学的因子との関連性 前節の機能解析で,CD109 が PDAC 細胞の移動・遊走能に関与することが示され た.そこで臨床病理学的因子と CD109 の発現の関連性を検討するため,PDAC 切除症 例の腫瘍組織ホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いて CD109 の発現を免疫組織 化学法で評価した(図 1).145 例中 102 例(70.3%)で CD109 の発現が陽性であり,
27 2+が 16 例(11.0%), 1+が 86 例(59.3%)であった(図 9A,B,C).また,いずれの症 例においても正常膵管での発現を認めなかった(図 9D).CD109 発現と,ステージや 腫瘍径,リンパ節転移や再発率といった臨床病理学的因子との間に相関性を認めな かった(表 1).一方で,106 例の再発症例に着目して再発形式を調べると,CD109 陽 性例のうち 85.5%で遠隔転移を来たしていたのに対し,陰性例では 63.3%と有意に少 なく(p=0.011),陽性例でより多くの遠隔転移を来たしていた(表 2).遠隔転移再 発部位に関しては,CD109 陽性例と陰性例の間で明らかな差を認めなかった(表 3).術後全生存期間,および無再発生存期間においては,CD109 陽性例と陰性例の間 で明らかな差を認めなかった(図 10). CD109 によるシグナル伝達制御の検討 CD109 発現抑制に伴う TGF-βシグナル伝達経路の活性化の変化を検討した.siRNA あるいは shRNA による CD109 発現抑制 PANC-1 細胞株とコントロール PANC-1 細胞株 に対してそれぞれ TGF-β1 リガンドを添加し,下流のシグナル分子である SMAD2 の リン酸化をウエスタンブロットで確認した.TGF-β1 リガンド添加に伴い,いずれの 細胞株においても SMAD2 のリン酸化が増強したが,コントロール細胞株と CD109 発 現抑制細胞株の間ではリン酸化のレベルに差を認めなかった(図 11A,B).TGF-βシ グナルとクロストークすることが知られている Ras シグナル伝達系の構成分子であ る Erk のリン酸化に関しても,コントロール細胞株と CD109 発現抑制細胞株の間で
28 差を認めなかった.これらの結果からは,CD109 は,TGF-βシグナル伝達とは異なる 経路を介して,PANC-1 細胞における移動・遊走能や造腫瘍性の促進に関与している 可能性が示唆された. さらに,CD109 の造腫瘍性や細胞の移動・遊走促進作用の分子機構を明らかにする ため,発現抑制細胞株を用いて下記の検討を行ったが,関連するシグナル伝達系の 同定には至らなかった. (1)CD109 の関与が報告されている Jak/Stat シグナル[29]の活性化の評価のため, pSTAT3 の発現をウエスタンブロットで解析したが,その発現量と CD109 発現の間に は関連を認めなかった(図 12A). (2)CD109 との関与が報告されている EGFR シグナル伝達系[30]の活性化を確認する ため,細胞に EGF リガンドを添加し,下流のシグナル分子である Erk のリン酸化を ウエスタンブロットで検討したが,違いは観察されなかった(図 12B). (3)神経膠芽腫において CD109 との関連性が示唆された YAP/TAZ シグナル[20]に関 して,その標的遺伝子の発現を定量 RT-PCR で検証したが,CD109 の発現とは一定の 相関関係を示すことはなかった(図 12C). (4)造腫瘍性に関わる遺伝子検索のため,各細胞から RNA を抽出し,マイクロアレ イを用いた遺伝子発現の比較を行った.コントロール株と比較して CD109 発現抑制 株ではわずかに CD24 遺伝子発現が増強していたものの,2 つの抑制株で共通して 2 倍以上あるいは 2 分の 1 以下の発現差を示した遺伝子は認めなかった(未掲載デー
29 タ). (5)各細胞株において活性化を来たしている蛋白を網羅的に観察するため,リン酸 化キナーゼアレイを用いて,shCont 細胞株と shRNA#12 細胞株の蛋白を抽出して検討 したが,p53 や Src 関連蛋白のリン酸化が shRNA#12 細胞株でわずかに減少している ものの,その後のウエスタンブロットによる確認では,明らかなシグナルの差とし て現れるものはなかった(未掲載データ).
30 Ⅵ.考察 CD109 は,様々な悪性腫瘍において発現が認められるが,その機能的な役割に関し ては未だに解明されていないことが多い[13].本研究では,PDAC 由来の細胞株であ る PANC-1 細胞において,CD109 の発現を抑制することで NOG マウスにおける腫瘍形 成能が低下すること,in vitro の実験系で移動・遊走能が抑制されることが明らか となり,CD109 が PDAC の造腫瘍性と移動・遊走能に重要な役割を担っていることが 示唆された.また,PDAC 患者の腫瘍組織標本を用いて CD109 の発現と臨床病理学的 因子との関連性を検討した結果,術後再発症例において CD109 発現陽性症例で遠隔 転移再発率が高いことが明らかとなった.本研究の結果より,CD109 が PDAC の造腫 瘍性や転移能を増強させる可能性が示唆される. マウスを用いたin vivo での腫瘍形成能と CD109 の発現との関係性については, 過去に皮膚 SCC モデルを用いた検証がなされており,CD109 欠損マウスにおいて腫瘍 径や腫瘍形成個数が低下したことが示されている[31].私の実験系では移植する細 胞株自体で CD109 の発現を抑制しており,既報の実験系とは異なるが,CD109 の発現 と造腫瘍性の相関性において同様の結果が得られた.これまでの研究で,HCC 細胞に おいて CD109 の発現を抑制すると,細胞周期が制御され,細胞増殖を無効にし,ア ポトーシスを増加させることが報告されている[15].口腔 SCC 細胞においては, CD109 が細胞増殖能と相関することが示されている[17].しかし,今回の研究では PANC-1 細胞において CD109 の発現抑制による細胞の増殖能への影響は認められなか
31 った.この結果から,PANC-1 細胞における CD109 の造腫瘍性への関与は,細胞増殖 への影響とは異なる機序を介していると考えられる.過去に行われたマウス神経膠 腫モデルを用いた実験では,CD109 の発現が造腫瘍性に寄与しており,摘出された腫 瘍の中で CD109 は腫瘍原性が高い CSCs に特に局在していたこと,さらに CD109 の発 現が CSCs から分化した細胞の増殖に関与していることや,隣接した非幹細胞性腫瘍 細胞の増殖能を高める作用があることが示されている[16,32].こうした CD109 の CSCs との関連性を示す報告を踏まえると,PANC-1 細胞においても,CD109 の発現が CSCs 様性質へ影響し造腫瘍性が変化した可能性がある. これまで CD109 は様々な悪性腫瘍での発現が報告されているが,PDAC に関する報 告は少ない.本研究で PDAC 臨床検体における CD109 の発現を解析した結果,約 70% の症例で CD109 の発現を認めた.これは,PDAC 症例 18 例中 11 例(61%)で CD109 の 発現を認めたとする過去の報告と類似した結果であった[14].CD109 は,HCC や神経 膠芽腫,軟部組織肉腫において組織学的悪性度と相関し,それに伴い予後の悪化と 関連することが報告されている[15,18-20].さらに,乳癌ではトリプルネガティブ 症例において CD109 が高発現し,予後不良であることが示されている[33].一方 で,膵癌における CD109 の発現と臨床病理学的因子との関連については,これまで に報告がない.本研究では,CD109 の発現と腫瘍径,リンパ節転移,病期,予後など の臨床病理学的因子との関連は認められなかったが,術後再発症例において CD109 発現陽性例では陰性例に比較して遠隔転移率が高い結果であった.既報では,神経
32 膠芽腫細胞株において,CD109 を過剰発現させることで細胞遊走能が増強したことが 示されているが[30],私のin vitro での移動・遊走能の検討でも,CD109 の発現を 抑制することで PANC-1 細胞の移動・遊走能が低下することを認めており,CD109 発 現陽性例で遠隔転移率が高いという結果と同じ方向性を示すものであった.CD109 と 遠隔転移については,肺腺癌細胞株を用いたin vivo の実験で,CD109 安定発現抑制 株ではコントロール株と比較して経静脈投与後の肺転移が有意に減少したという報 告[29]や,粘液線維肉腫の臨床検体を用いた検証で,CD109 発現陽性例が陰性例より も有意に遠隔転移率が高かったという報告[19]がある.本研究でも PDAC において CD109 発現陽性例で術後遠隔転移再発率が高いことを認めたが,CD109 陽性例と陰性 例の OS,RFS には差を認めなかった.これは,局所再発を含めた全体の再発率では 陽性例 74.5%,陰性例 69.8%と差がなかったことなどが影響していると考えられる. また,今回の発現解析の対象は切除症例に限定されており,遠隔転移を有して切除 適応外とされた症例が含まれないことが limitation の一つと考えられる.これま で,PANC-1 を含め膵癌細胞株を用いて CD109 発現抑制による遠隔転移制御をマウス モデルで解析した報告はなく,同所移植や門脈あるいは脾臓などへの移植により適 切なモデル系を用いてin vivo で転移能を検証することが今後の検討課題と考えら れる. CD109 は TGF-β共受容体として作用することが知られている.細胞表面の CD109 は,furin によって 180kDa と 25kDa の 2 つの断片に切断され,このうち 180kDa の断
33 片が細胞表面から分泌されて TGF-β受容体 typeⅠと複合体を形成し,受容体を分解 することで,ヒト表皮角化細胞での TGF-βシグナル伝達を抑制的に制御している [21-23].実際に,口腔 SCC では CD109 の過剰発現により TGF-βに起因した細胞増殖 阻害作用が障害されたことや,CD109 の発現抑制により TGF-βリガンド刺激に伴う SMAD2 のリン酸化が亢進し,TGF-βシグナルの活性化が惹起されることが示されてい る[13].TGF-βは,PDAC の初期段階において腫瘍の進行を妨げるとされ,進行期に おいては腫瘍の進行を促進するとされている[26-28].これらの知見から,本研究に おいて,PANC-1 細胞の CD109 の発現抑制による TGF-βシグナルへの影響を検討した が,SMAD2 のリン酸化に影響がみられなかったことから,PANC-1 細胞においては CD109 が TGF-βシグナル調節には関与していないことが示唆された.また,これま でに CD109 により制御を受けることが報告されているシグナルとして,Jak/Stat シ グナル[29],EGFR シグナル[30],および YAP/TAZ シグナル[20]が報告されている. これらのシグナルの下流にある分子の発現やそのリン酸化を検討したが,CD109 の発 現との関連性は認められなかった.以上より,CD109 を介した PANC-1 細胞の造腫瘍 性や移動・遊走能促進のメカニズムは解明されなかったが,上記以外のシグナルが 関与しているものと推察される. PDAC 症例における CD109 の造腫瘍性,移動・遊走,転移に関与する機序の解明 は,さらなる研究を進める必要があり,また過剰発現の実験系での検討が行えなか ったことや単一の細胞株での実験であるという limitation はあるものの,本研究結
34
果は CD109 が PDAC 細胞における造腫瘍性や転移能に関係することを示唆し,CD109 が PDAC の有効なバイオマーカーや治療標的となりうる可能性を示すものである.
35 Ⅶ.結論 免疫不全 NOG マウスにおける腫瘍形成を指標として,CD109 が膵癌細胞株 PANC-1 の腫瘍形成に関わることを明らかにした.また,in vitro での機能解析の結果, CD109 が PANC-1 における細胞の移動・遊走能に関与し,PDAC 患者の遠隔転移に寄与 していることを明らかにした.以上の結果から,CD109 が膵癌の造腫瘍性や転移能を 増強させる可能性が示唆される.
36
Ⅷ.文献
[1]
https://www.wcrf.org/dietandcancer/cancer-trends/pancreatic-cancer-statistics
[2] https://www.uicc.org/news/new-global-cancer-data-globocan-2018
[3] Cancer Registry and Statics. Cancer Information Service, National Cancer Center, Japan.
[4] Biankin AV, Waddell N, Kassahn KS, et al: Pancreatic cancer genomes reveal aberrations in axon guidance pathway genes. Nature 2012; 491: 399-405.
[5] Makohon-Moore A, Iacobuzio-Donahue CA: Pancreatic cancer biology and genetics from an evolutionary perspective. Nat Rev Cancer 2016; 16: 553-65. [6] Kondo T, Kanai M, Kou T, et al: Association between homologous
recombination repair gene mutations and response to oxaliplatin in pancreatic cancer. Oncotarget 2018; 9: 19817-25.
[7] Singh RR, Goldberg J, Varghese AM, et al: Genomic profiling in pancreatic ductal adenocarcinoma and a pathway towards therapy
individualization: A scoping review. Cancer Treat Rev 2019; 75: 27-38. [8] Hermann PC, Sainz B: Pancreatic cancer stem cells: A state or an entity? Semin Cancer Biol 2018; 53: 223-31.
37
[9] Li C, Heidt DG, Dalerba P, et al: Identification of pancreatic cancer stem cells. Cancer Res 2007; 67: 1030-7.
[10] Hermann PC, Huber SL, Herrler T, et al: Distinct populations of cancer stem cells determine tumor growth and metastatic activity in human
pancreatic cancer. Cell Stem Cell 2007; 1: 313-23.
[11] Lin M, Sutherland DR, Horsfall W, et al: Cell surface antigen CD109 is a novel member of the alpha(2) macroglobulin/C3, C4, C5 family of
thioester-containing proteins. Blood 2002; 99: 1683-91.
[12] Hashimoto M, Ichihara M, Watanabe T, et al: Expression of CD109 in human cancer. Oncogene 2004; 23: 3716-20.
[13] Qi R, Dong F, Liu Q, et al: CD109 and squamous cell carcinoma. J Transl Med 2018; 16: 88.
[14] Haun RS, Fan CY, Mackintosh SG, et al: CD109 overexpression in pancreatic cancer identified by cell-surface glycoprotein capture. J Proteomics Bioinform 2014; Suppl 10: S10003.
[15] Zong G, Xu Z, Zhang S, et al: CD109 mediates cell survival in hepatocellular carcinoma cells. Dig Dis Sci 2016; 61: 2303-14. [16] Silver DJ, Lathia JD: Revealing the glioma cancer stem cell interactome, one niche at a time. J Pathol 2018; 244: 260-4.
38
[17] Hagiwara S, Murakumo Y, Sato T, et al: Up-regulation of CD109
expression is associated with carcinogenesis of the squamous epithelium of the oral cavity. Cancer Sci 2008; 99: 1916-1923.
[18] Emori M, Tsukahara T, Murase M, et al: High expression of CD109
antigen regulates the phenotype of cancer stem-like cells/cancer-initiating cells in the novel epithelioid sarcoma cell line ESX and is related to poor prognosis of soft tissue sarcoma. PLoS One 2013; 8: e84187.
[19] Emori M, Tsukahara T, Murata K, et al: Prognostic impact of CD109 expression in myxofibrosarcoma. J Surg Oncol 2015; 111: 975-9.
[20] Minata M, Audia A, Shi J, et al: Phenotypic plasticity of invasive edge glioma stem-like cells in response to ionizing radiation. Cell Rep 2019; 26: 1893-1905.e7.
[21] Finnson KW, Tam BY, Liu K, et al: Identification of CD109 as part of the TGF-beta receptor system in human keratinocytes. FASEB J 2006; 20: 1525-7.
[22] Bizet AA, Tran-Khanh N, Saksena A, et al: CD109-mediated degradation of TGF-β receptors and inhibition of TGF-β responses involve regulation of SMAD7 and smurf2 localization and function. J Cell Biochem 2012; 113: 238-46.
39
[23] Hagiwara S, Murakumo Y, Mii S, et al: Processing of CD109 by furin and its role in the regulation of TGF-beta signaling. Oncogene 2010; 29: 2181-91.
[24] Morrison CD, Parvani JG, Schiemann WP: The relevance of the TGF-β paradox to EMT-MET programs. Cancer Lett 2013; 341: 30-40.
[25] Yeh HW, Lee SS, Chang CY, et al: A new switch for TGFβ in cancer. Cancer Res 2019; 79: 3797-805.
[26] David CJ, Huang YH, Chen M, et al: TGF-β tumor suppression through a lethal EMT. Cell 2016; 164: 1015-30.
[27] Shen W, Tao GQ, Zhang Y, et al: TGF-β in pancreatic cancer initiation and progression: Two sides of the same coin. Cell Biosci 2017; 7: 39.
[28] Alvarez MA, Freitas JP, Mazher Hussain S, et al: TGF-β inhibitors in metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma. J Gastrointest Cancer 2019; 50: 207-13.
[29] Chuang CH, Greenside PG, Rogers ZN, et al: Molecular definition of a metastatic lung cancer state reveals a targetable cd109-janus kinase-stat axis. Nat Med 2017; 23: 291-300.
[30] Zhang JM, Murakumo Y, Hagiwara S, et al: CD109 attenuates TGF-β1 signaling and enhances EGF signaling in SK-MG-1 human glioblastoma cells.
40
Biochem Biophys Res Commun 2015; 459: 252-8.
[31] Sunagawa M, Mii S, Enomoto A, et al: Suppression of skin tumorigenesis in CD109-deficient mice. Oncotarget 2016; 7: 82836-82850.
[32] Shiraki Y, Mii S, Enomoto A, et al: Significance of perivascular tumor cells defined by CD109 expression in progression of glioma. J Pathol 2017; 243: 468-480.
[33] Tao J, Li H, Li Q, et al: CD109 is a potential target for triple-negative breast cancer. Tumour Biol 2014; 35: 12083-90.
41 Ⅸ.図および図の説明 図 1.患者選択のフローチャート 本研究では 2006 年から 2015 年までの間に東北大学病院で膵切除術を施行された連 続 323 例の膵癌患者症例を対象とした.術前治療を受けた症例は,化学・放射線治 療に伴う CD109 の発現への影響を与えうることを考慮して除外した.また,今回の 検討では PDAC に限定して行うため,それ以外の組織型の腫瘍に関しても除外した. 図 2.膵癌細胞株における CD109 の発現 4 種類の膵癌細胞株である AsPC-1,BsPC-3,MIA PaCa-2,PANC-1 における,抗 CD109 抗体を使用したウエスタンブロットでの発現解析の結果を示す.いずれの細胞 株においても CD109 のバンドを形成しているが,AsPC-1 と MIA PaCa-2 は比較的発現 量が低く,BxPC-2 と PANC-1 では高発現していた. 図 3.CD109 発現ベクター,shRNA 発現ベクターによる発現調整 (A)CD109 低発現細胞株である AsPC-1 に CD109 発現ベクターを導入し,フローサイ トメトリーで発現を確認した.コントロールベクター導入株と比較して十分な発現 上昇を得ることができなかった. (B)CD109 高発現細胞株である PANC-1 に CD109 に対する shRNA 発現ベクターを導入 し,フローサイトメトリーで発現を確認した.コントロールベクター導入株と比較
42
した発現抑制を認めた.
図 4.PANC-1 細胞における siRNA,shRNA による CD109 発現抑制
(A)CD109 に対する siRNA,shRNA を PANC-1 細胞に導入し,siCont,shCont におけ る発現量を 1 としたときのそれぞれ発現量を定量 RT-PCR で観察した.siRNA 群, shRNA 群はいずれも発現抑制を認めた.
(B)同様にウエスタンブロットで発現を観察した.siRNA 群,shRNA 群はそれぞれ コントロール群よりも発現抑制を得られた.
図 5.PANC-1 細胞による造腫瘍性の評価
CD109 に対する shRNA 発現ベクター導入 PANC-1 細胞を用いて NOG マウス皮下での腫 瘍形成を評価した.
(A)10 週間経過時点での腫瘍体積は,shCont と比較して shRNA#11,shRNA#12 とも に有意に縮小していた.*p<0.0001
(B)摘出した腫瘍の肉眼的な比較
(C)摘出した腫瘍の重量は,shCont と比較して shRNA#11,shRNA#12 ともに有意に 軽かった.*p<0.0001
43
NOG マウス皮下に形成された腫瘍を摘出し,ヘマトキシリン・エオジン染色で間質の 占める面積を評価した.
(A)摘出した腫瘍のヘマトキシリン・エオジン染色像(倍率:100 倍).a: shCont,
b: shRNA#11, c: shRNA#12
(B)それぞれの腫瘍中に占める間質の面積は,shCont, shRNA#11, shRNA#12 いずれ も同程度の割合を示した.(p=0.8841)
図 7.PANC-1 細胞のin vitro での細胞増殖能
それぞれの生細胞数を吸光度で評価し,1 日目の値を 1.0 としたときの相対吸光度の 推移を示したものである.
(A)正常環境での PANC-1 細胞の増殖は,shCont,shRNA#11,shRNA#12 いずれも同 程度の増殖を示した.(p=0.9973) (B)低酸素環境下での PANC-1 細胞の増殖も,shCont,shRNA#11,shRNA#12 いずれ も同程度の増殖を示した.(p=0.8936) 図 8.PANC-1 細胞の in vitro での機能評価 (A)創傷治癒アッセイでの,それぞれの細胞における 0 時間,24 時間経過時点での 細胞遊走の程度を示したものである. (B)創傷治癒アッセイにおいて,それぞれの細胞毎に,創傷形成時点での無細胞領
44 域面積を 100%として,24 時間経過時点で何%の領域に細胞が遊走したのかを表した ものである.shCont と比較して,shRNA#11,shRNA#12 では有意に細胞遊走面積が狭 かった.**p<0.005 (C)トランスウェル細胞遊走アッセイを行い,各細胞毎に移動した細胞数を計測し たものである.siCont と比較して,siRNA#64,siRNA#65 では有意に遊走能の低下 を認め,siRNA#66 でも同様の傾向(p=0.0568)を認めた.***p<0.05,**p<0.005 図 9.PDAC 症例検体における CD109 発現の評価 145 例の PDAC 症例(図 1)における CD109 の発現を評価するため免疫染色を行っ た.染色性により(A)2+,(B)1+,(C)0 の 3 段階に分類した.同一組織中の正常 膵管(D)はいずれも染色されておらず,CD109 の発現を認めなかった. ※スケールバー: 200μm 図 10.PDAC 症例の CD109 陽性例と陰性例における全生存期間と無再発生存期間 PDAC 症例を CD109 発現陽性例(2+,1+)と陰性例(0)の 2 群に分け,予後を調査し た.(A)OS(p=0.740)と(B)RFS(p=0.613)はいずれも CD109 発現と関連しなか った. 図 11.CD109 発現と TGF-βシグナルの関連性
45
PANC-1 細胞から抽出した蛋白を用いて,TGF-βリガンドを添加した際の下流のシグ
ナル分子 SMAD2 のリン酸化をウエスタンブロットで評価した.(A)siRNA 導入細胞
株,(B)shRNA 導入細胞株ともに SMAD2 のリン酸化促進は認められず,これまでに報
告されているような CD109 による TGF-βシグナル抑制性は確認できなかった.
図 12.CD109 発現と JAK/STAT シグナル,EGFR シグナル,YAP/TAZ シグナルの関連性 (A)PANC-1 細胞から抽出した蛋白を用いて STAT3 のリン酸化をウエスタンブロット で評価した.CD109 発現抑制に伴うシグナル活性化への影響は認めなかった. (B)PANC-1 細胞に EGF リガンドを添加し,EGFR シグナル下流の分子である Erk の リン酸化をウエスタンブロットで評価した.CD109 発現抑制に伴うシグナル活性化へ の影響は認めなかった.
(C)PANC-1 細胞における YAP/TAZ シグナル関連遺伝子の発現を定量 RT-PCR で評価 し,CD109 発現との関連性を調べた.siCont における発現量を 1.0 とし,相対発現 量を比較した.4 種類の遺伝子(A)CD44,(B)CTGF,(C)CYR61,(D)ANKRD1 にお いて,CD109 発現抑制による明確な発現の変化を認めることはできなかった.
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58 Ⅹ.表と表の説明 表 1.CD109 発現による膵癌患者の臨床病理学的特徴 PDAC 症例における CD109 発現* 2+ (n = 16) 1+ (n = 86) 0 (n = 43) p 値 年齢(中央値) 49-81 (70) 27-85 (68) 33-88 (66) 0.895 性別(男性:女性) 11:5 55:31 23:20 0.420 切除可能性 (R:BR-PV:BR-A) 10:2:4 58:11:17 38:2:3 0.124 術式**(PD:DP:TP) 9:4:3 54:24:8 25:16:2 0.440 R status(R0:R1:R2) 15:1:0 74:11:1 37:4:2 0.584 UICC8th Stage (ⅠA:ⅠB:ⅡA:ⅡB:Ⅲ:Ⅳ) 2:1:0:9:1:3 5:8:4:38:12:19 5:3:1:21:7:6 0.877 腫瘍径(中央値; mm) 12-45 (22) 8-60 (30) 9-55 (25) 0.087 リンパ節転移陽性例に お け る 転 移 リ ン パ 節 数 (median) 1-19 (2) 1-16 (3) 1-10 (2.5) 0.900 組織学的悪性度 (well:mod:por) 3:12:1 16:64:6 11:27:5 0.800 cy 陽性例 1 (6.3 %) 6 (7.0 %) 1 (2.3 %) 0.537 術後補助化学療法施行例 14 (87.5 %) 70 (81.4 %) 35 (81.4 %) 0.728 術後再発症例 12 (75.0 %) 64 (74.4 %) 30 (69.8 %) 0.840 *計 145 例の PDAC 症例を CD109 発現により 3 群に分類した(2+,1+,0). **PD; pancreaticoduodenectomy, DP; distal pancreatectomy,
59 表 2.CD109 陽性例(2+,1+)と陰性例(0)での遠隔転移 *CD109 陽性例は陰性例よりも有意に遠隔転移を来たす症例が多かった (p = 0.011). 遠隔転移 CD109 陽性例 (76 例) CD109 陰性例 (30 例) p 値 あり 65 (85.5 %) 19 (63.3 %) 0.011* なし 11 (14.5 %) 11 (36.7 %)
60 表 3.遠隔転移再発症例における遠隔転移部位 *CD109 陽性例と陰性例の間で遠隔転移再発部位に有意差を認めなかった (p = 0.743). 遠隔転移部位 CD109 陽性例 CD109 陰性例 肝 21 (32.3 %) 5 (26.3 %) 肝 + 肺 4 (6.2 %) 1 (5.3 %) 肝 + 腹膜 4 (6.2 %) 3 (15.8 %) 肺 15 (23.1 %) 5 (26.3 %) 腹膜 11 (16.9 %) 3 (15.8 %) 遠隔リンパ節 5 (7.7 %) 2 (10.5 %) その他 5 (7.7 %) 0 (0 %)
61
Ⅺ.基礎論文
Yuuri Hatsuzawa, Kazunori Yamaguchi, Tomoka Takanashi, Ikuro Sato, Keiichi Tamai, Mai Mochizuki, Wataru Iwai, Yuta Wakui, Makoto Abue, Kuniharu
Yamamoto, Jun Yasuda, Masamichi Mizuma, Michiaki Unno, Kazuo Sugamura
CD109 promotes the tumorigenic ability and metastatic motility of pancreatic ductal adenocarcinoma cells(投稿中)
62 Ⅻ.謝辞 本論文の提出にあたり,本研究の機会を与えていただき,ご指導を賜りました海野 倫明先生(東北大学大学院医学系研究科消化器外科学分野教授)に厚く御礼申し上 げます.また,今回の研究を遂行するにあたり,宮城県立がんセンター研究所に温 かく迎え入れてくださり,実験の原則から目的、方向性、方法、得られた結果の考 察や統合,そして論文作成に至るまで明示いただき,大変丁寧なご指導を賜りまし た山口壹範,菅村和夫両先生(宮城県立がんセンター研究所/発がん制御研究部)に 心より感謝申し上げます。また,研究に関して多くのご助言をいただいた東北大学 消化器外科学の水間正道先生,青木豪先生,高舘達之先生,川口桂先生,伊関雅裕 先生,畠達夫先生,青木修一先生に感謝致します.今回の実験に要した臨床検体の 収集や取り扱いにご助力いただいた東北大学病理部の方々,宮城県立がんセンター 病理部の方々に感謝致します.そして,宮城県立がんセンター研究所の諸先生方, スタッフの方々にも,多大なるご支援をいただき研究を行う素晴らしい環境を提供 いただけたことに感謝致します.特に,多くの研究を手伝っていただいた高梨友花 さん,病理所見についてご教授いただいた宮城県立がんセンター病理部の佐藤郁郎 先生,マイクロアレイの解析や多くの実験上の諸問題につきご教示くださり,アド バイザー教員としてもたくさんのご助言をいただいた宮城県立がんセンターの玉井 恵一先生に感謝致します.多くの先生方のご指導の下,恵まれた環境で本研究に取 り組むことができ,本当に多くのことを学ばせていただきました.深謝致します.