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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

中学校数学におけるICT利用による授業実践 ―比 例のグラフを題材として―

著者 大室 敦志, 西仲 則博, 竹村 景生

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 20

ページ 301‑305

発行年 2011‑03‑31

その他のタイトル Mathematics class practice by the ICT use in the junior high school ―A graph of the

proportion as a subject―

URL http://hdl.handle.net/10105/5905

(2)

―比例のグラフを題材として―

大室敦志・西仲則博・竹村景生

(附属中学校)

Mathematics class practice by the ICT use in the junior high school

―A graph of the proportion as a subject―

Atsushi OMURO・Norihiro NISHINAKA・Kageki TAKEMURA

(Nara University of Education Junior High School)

要旨:平成20年に告示された新学習指導要領において、中学校数学では、ICT機器を適切に活用し、学習の効果を高

めるようにしていくことが、より一層求められている。ところが、普段の授業においては、それほどICT活用は進ん でいないように思われる。その理由として、準備時間がかかることが挙げられている。そこで、準備時間を多く必要 としない方法で、ICT機器を活用した授業を、「比例のグラフ」の単元で計画し、実践を行った。既存のプレゼンテー ションソフトと関数グラフソフト「GRAPES」を組み合わせることで、短時間で教材を作成することができ、また、

生徒にとっても、視覚的にわかりやすい授業を行うことができた。

キーワード:ICT活用 ICT practical use, GRAPES,  比例のグラフ A graph of proportion

1

.はじめに

 平成20年に告示された新学習指導要領において、中 学校数学では、「コンピュータや情報通信ネットワー クなどを適切に活用し、学習の効果を高めるよう配慮 するものとする」と明記されているように、学校現場 では、コンピュータ等のICT機器を活用した授業を行 っていくことが求められている。また、教具としての 活用の形態については、「普通教室にノートパソコン と液晶プロジェクタを持ち込んで提示器具として用い るなど、指導内容との関係で柔軟に対応できるように することも考えられる」と明記されている(文部科学 省[ 1 ])。コンピュータ等によって画像や動画を提示 することにより、生徒の学習効果を高めることが期待 できるからである。

 一方で、普段の授業では、ICTを活用することが難 しいと感じている教師も少なくはない。ICT活用が進 まないのは、「準備に時間がかかりすぎる」ことが理 由だと、 8 割以上の教員が答えたアンケート結果も公 表されている(日本教育工学振興会[ 2 ])。

 そこで、中学校第 1 学年「比例のグラフ」の単元に おいて、教材作成の準備に時間を多く必要としない方 法でICTを活用する授業を計画し、実践を行った。

2

.既存のソフトウェアを使う

 今回の実践では、プレゼンテーションソフトと、イ ンターネットから無料で自由にダウンロード可能な関 数グラフソフト「GRAPES」の 2 種類のソフトウェア を使用した。

2

1

.プレゼンテーションソフト

 PowerPointなどに代表されるプレゼンテーション ソフトは、容易な操作で文字やイラスト、写真などを 取り込んだスライドを作成することができる。アニメ ーション機能などを使用すれば、文字やイラストなど に動きを付けることができ、強調するなどの効果を容 易に加えることができる。このようにして作成したス ライドは、プロジェクタ等を使用して大きく映すこと で、生徒にとってわかりやすい説明をすることが可能 となる。また、生徒に提示する時間の短縮も可能であ る。たとえば、水槽に水を入れる様子を実験するので あれば、水槽や蛇口から水が出る環境が必要であるが、

プレゼンテーションソフトを使えば、水槽に水が入る 様子のシミュレーションを提示することができる。さ らに、画面を 1 つ戻すだけで繰り返し提示することが 可能となるのも、プレゼンテーションソフトの長所の

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1 つである。

 一方で、黒板での板書であれば授業の記録が残って いくが、スライドでは、次のスライドへ行くと前のス ライドの画面を見ることができなくなる。そのため、

たとえば、授業のタイトルや目標など、常に意識して 欲しいことや残しておきたいことは、黒板と併用する などの工夫をしていくことが求められる。

 また、アニメーションによって「動き」をつけるこ とができるのは、プレゼンテーションソフトの大きな 特長であるが、今回のような関数のグラフの表示を行 うのには、作成時間等が掛かることから、他のソフト との併用を考えた。

 そこで、まず、黒板の右側でプロジェクタを投影し、

左側で板書を行える形をとった。プロジェクタによる 黒板への投影は、さらに、その投影画像上にチョーク で自由に書き込みができ、また簡単に消すことができ るため、指導者と学習者が共通のイメージを持つこと が可能となるといった報告がされている(たとえば、

神奈川県立総合教育センター[ 3 ])。

 本実践では、プレゼンテーションソフトと関数グラ フソフトのGRAPESを使用した。GRAPESとプレゼ ンテーションソフトを併用した実践例として友田勝久 氏の実践[ 4 ]がある。友田氏の報告では、GRAPES を補完するためにプレゼンテーションソフトが使用さ れていた。本実践では、プレゼンテーションソフトの 機能を補うためにGRAPESを用いた。

2

2

.GRAPESの特徴

 GRAPESは、友田勝久氏(大阪教育大学附属高等 学校池田校舎)が作成したフリーの関数グラフソフト で、インターネット上で無料で自由にダウンロード することが可能である。(http://www.osaka-kyoiku.

ac.jp/~tomodak/grapes/)このソフトでは、式を入 力するだけで、コンピュータの画面上にさまざまな関 数のグラフを描画することができる。

 今回の比例のグラフの単元では、y=axのグラフを 描写することだけでなく、y=axについて、対応する 変数x,yの値の組を座標とする点(x,ax)をとり、

xの値を変化させていったときの点の残像を記録して いくことも可能である。たとえば、y= 5 xについて、

xの値を0.1ずつ増やしていくときにとる点の残像は、

図 1 のようにGRAPESの画面上に表示される。

 このように、GRAPESを使用すれば、使用する教材 に合うような式を入力するだけでグラフを生徒に提示 することができる。また、プレゼンテーションソフト では、動きをつけたり数値を変えたりする際には、 1 つ 1 つの動作を設定する必要があるが、GRAPESにお いては、その操作が、式を書き換えたり変数を動かし たりするだけで容易にできる。このようなGRAPESの 特徴を組み合わせることによって、プレゼンテーショ

ンソフトのみで教材を作成するときと比較すると、授 業の準備に要する時間の短縮を図ることが可能となる。

3

.授業までの準備

 比例のグラフの指導にあたり、まず、教科書分析を 実施し、比例の定義とそのグラフの扱い方の小中比較 を行った。その結果、比例の定義の違いとグラフをか くときの変数の扱いの違いに着目し、グラフを「点の 集合」と意識できるようにプレゼンテーションソフト とGRAPESを併用して教材を作成した。

3

1

「比例のグラフ」の小中比較

 中学校第 1 学年で学習する「比例のグラフ」は、小 学校第 6 学年でも扱われている単元である。その扱い 方の違いから、次の 2 つに着目した。

  1 つ目は、比例の定義に違いである。小学校第 6 学 年の教科書では、

 「 2 つの量があって、 1 つの量が 2 倍、 3 倍、…

になると、それに対応するもう 1 つの量も 2 倍、 3 倍、…になるとき、 2 つの量は比例する」[ 5 ] と表での見方をもとに定義されている。これに対し、

中学校第 1 学年の教科書では、以下のような定義とな っている。

 「xにともなってyが変化し、その関係が次のよう な式で表されるとき、yはxに比例するという。

y=ax」[ 6 ]

 小学校では、比例の関係を、具体的な数量で 2 倍、

3 倍、…と捉えていたが、中学校では、文字を使った 式で表すことによって、変域を、分数、小数や負の数 といった実数全体に拡張していくことが可能となる。

  2 つ目は、比例のグラフが直線になることの扱い方 である。小学校第 6 学年では、水槽に水を入れる事象 を扱うなかで、

( 1 )水を入れる時間と水の深さの関係を表に整理 し、その点をグラフにかき入れる。

( 2 )水を入れた時間と水の深さの関係を表すグラフ は、下のような直線になる。(教科書では、グ ラフを図示している)

と、比例のグラフが直線になることを扱っている。こ こでは、「比例する 2 つの数量について、そのグラフ

図 1  GRAPESの画面

大室 敦志・西仲 則博・竹村 景生 中学校数学におけるICT利用による授業実践

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が直線になることを、具体的な数量に即して理解でき るように指導することが必要である」[ 7 ]とされてい る。具体的に数値を何点かとり、その点を結んだ原点 を通る直線が、比例のグラフであると指導されている。

 一方、中学校第 1 学年では、y= 2 xを成り立たせ るx、yの値の組を座標とする点を多くとっていくと、

これらの点の集まりは一直線上に並び、さらに、xの 変域がすべての数であるとき、原点を通る直線になる、

と説明されている。

 中学校第 1 学年では、座標を用いることによって、

グラフを点の集合として表すことができるようにする ことが求められている。そこで、ICTを活用した比例 のグラフの指導を行うとき、グラフが「点の集合」だ ということを意識できるような指導の流れとして、次 の(場面 1 )~(場面 4 )を計画した。

(場面 1 )水槽に水が入っていく様子を観察し、時間 と水が入った高さを秒ごとに記録し、座標平面 上に点で表す。

(場面 2 )時間を細かく見ていくと、そのときの水の 高さはどうなっているのか、0.1秒刻みで観察 していき、座標平面上に点で表す。

(場面 3 )さらに時間を細かくしていくと、点の集ま りはどうなるかを考える。

(場面 4 )点の集まりが直線になることを、水槽に水 が入っていく様子と並べて確認する。

3

2

.ICT機器の利用

 今回の授業実践では、(場面 1 )~(場面 4 )におい てICT機器の利用を計画した。(場面 1 )、(場面 2 )、

(場面 4 )では、水が入る様子のシミュレーションと 座標平面を提示するために、プレゼンテーションソフ トを使用し、(場面 3 )では、点を多くとっていく様 子を示すためにGRAPESを使用した。 

 (場面 1 )水槽に水が入る様子と、座標平面上に点 をとる様子を結びつけるために、プレゼンテーション ソフトでスライドを作成した。アニメーションをつけ ることで、時間の経過と水が増えていく様子を提示す ることができる。また、座標平面と水槽を 1 枚のスラ イドに並べることで、水槽に水が入る事象と座標を結 びつけて考える事が可能となっている。(図 2 )

 図 2 は、 1 分ずつ時間を止めていき、 5 分になった ときの様子である。座標平面は、GRAPESの画面を コピーしたものを使用した。

 (場面 2 ) 1 分と 2 分の間に着目し(図 3 )、グラフ を拡大したものと水槽を拡大したものを同時に示し、

0.1分刻みで点をとっていくスライドを作成した。(図 4 )

 (場面 3 )さらに時間を細かく見ていくときには、

GRAPESの画面を生徒に提示する。GRAPESで点の 残像を表示することで、y=axを満たす点の集合が、

どのような形になっていくかを見ることができる。た とえば、xの値を0.01ずつ大きくした点をとっていく と、図 5 のように点の集まりが描かれる。

 図 5 では、点が重なりあって直線を描いているよう に見えるが、GRAPESでは、図 6 のように座標の一 部分を拡大表示することが可能である。

図 2 (横軸が時間、縦軸が水の高さ)

図 3

図 4

図 5

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 さらに細かく値をとっていくと、この隙間に点が並 んでいく様子を見ることができる。比例のグラフで描 く直線が、「点の集合」だということを意識すること ができる。

 (場面 4 )もう一度スライドに戻り、図 7 のように 水が連続的に入っていくのに合わせてグラフを描いて いく。そうすると、描かれるグラフが直線になること をより意識することができる。

 また、図 8 のようなワークシートを作成し、グラフ の作成や気付いたことをメモできるようにした。

4

.実践報告

 ICTを使った授業の実践として、「比例のグラフ」

の単元で授業を行った。その概要と、授業を行った際

の生徒の反応を記載する。

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1

.実践授業「比例のグラフ」

実施月:2010年10月

対 象:国立大学法人附属中学校 1 年  4 学級 場 所:数学教室

準備物:ノートパソコン、プロジェクタ 本時の目標:

・比例を動的なイメージとしてとらえることができ るようになる。

・比例のグラフを点の集まりとしてとらえることが できるようになる。

 図 9 のように、黒板の右側にプロジェクタでパソコ ンの画面を投影し、左側で、板書を行えるように設定 した。

4

2

.授業の展開

 次の①~⑥の流れで授業を行った。それぞれの場面 で用いたICT機器や問いかけや生徒の反応などについ ても記す。

① 課題を提示する。 

・プレゼンテーションソフトで作成したアニメーシ ョンを見ながら、水が入る様子を観察する。

② 「時間をx分、高さをycmとして、xとyの値の組 を表にまとめましょう。」

・ワークシートへ記入していく。

③ 表でまとめたx、yの組を座標平面上に点をとる。

・生徒が、ワークシートの座標平面に点をとってい った後、(場面 1 )のスライドを見せながら確認 する。

・この時点で、小学校で習ってきたように定規を使 って点と点を直線で結んでいる生徒が数名いた。

④ 「この間はどうなっているのだろう」

図 6

図 7

図 8

図 9   教室の配置

高さ50cmの水槽に水を入れていくとき、時間 と高さの関係を調べよう。

大室 敦志・西仲 則博・竹村 景生 中学校数学におけるICT利用による授業実践

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・ 1 分の点と 2 分の点の間に着目させ、その間を

「直線で結んでいいのだろうか?」問いかけた。

・生徒が考える時間をとった後、(場面 2 )のスラ イドで0.1分刻みに点をとった結果を確認する。

⑤ 「さらに細かく点をとるとどうなるのだろう」

・生徒からは、「0.01分刻みやもっと細かく点をと る」といった反応があり、それを確認するために

(場面 3 )のようにGRAPESを用いた。授業開始 までに、プレゼンテーションソフトとGRAPES を同時に起動しておき、すぐにGRAPESを使え るようにしておいた。

・細かく点をとっていくと線になっていく様子を観 察し、だんだん「直線で結ぶ」理由が見えてきた ようである。

⑥ 「比例のグラフを点で結ぶのは、細かく点をとっ ていった集合であるグラフが直線になるからです」

・(場面 4 )のスライドを提示し、水の高さとグラ フとの関係を確認する。

4

3

.授業の感想

 

4

2

.で示した展開で授業を行い、授業終了後にワ

ークシートを回収した。そこに書かれた生徒の授業の 反応の一部を、表 1 と図10に示した。

5

.まとめと今後の課題

 今回の授業実践では、中学校第 1 学年「比例のグラ フ」の単元において、教材作成の準備に時間を多く必 要としない方法でICTを活用する授業を計画し、実践 を行った。教材作成の方法として、既存のICT機器を 組み合わせることで、準備時間の短縮を図ることがで きた。

 最後に、この教材を使用した授業実践を生徒の授業 の反応から考察を行う。まず、スライドでのアニメー ションを用いた説明では、黒板では表現することが難 しい比例の動的なイメージを想像しやすく理解しやす いものとなったようである。また、GRAPESを用い ることで、点と点をとるその間の点やさらにその間の 点の存在に生徒が気づくことができる授業となったこ とが伺える反応もあった。このように、ICTを活用し た授業によって、通常の黒板での授業よりも緻密でか つ簡単に生徒に提示することができたのではないだろ うか。

 今後の課題として、「比例のグラフ」の単元におい てのICTのよりよい活用法を探っていくとともに、こ の単元以外の授業においても、効果的でかつ準備が容 易なICTの活用法を考えていくことが必要である。

6

.参考文献

[ 1 ].文部科学省,『中学校学習指導要領解説 数学 編』,教育出版,2008年.

[ 2 ].日本教育工学振興会,「地域・学校の特色等を 活かしたICT環境 活用先進事例に関する調査 研究 報告書」,2009年.

[ 3 ].神奈川県立総合教育センター ,「ITを活用した 授業づくりハンドブック」,2007年.

[ 4 ].友田勝久,「 2 次関数の係数とグラフ」,2004年.

http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/

grapes/resource/quad/quad01.html

[ 5 ].中原忠男ほか,『小学算数 6 年下』,日本文教 出版,2009年.

[ 6 ].重松敬一ほか,『中学数学 1 』,日本文教出版,

2009年.

[ 7 ].文部科学省,『小学校学習指導要領解説 算数 編』,東洋館出版社,2008年.

図10 生徒が記入したワークシート

・比例のグラフでなぜ直線を引くのかがわかった。

・点と点の間に何があるのかがわかった。

・今まで比例のグラフをかく時は深く考えずにか いていたけれど、今回の授業で意味が分かりま した。定数が分数になってもグラフの点をとれ ばちゃんとかけるんだなと思いました。

・私は小学校のグラフとまったく一緒だと思って いたけど、違うということがわかった。小学校 のときは、ひとつひとつの数字をつなげたもの。

中学校はすべての数字をならべたもの。

・動画だったので想像しやすく、理解しやすかった。

・パワーポイントの説明だったので、イメージし やすかった。

表 1  生徒の授業の反応(下線は筆者)

参照

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