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1章 研究の背景と方法 1. 研究の背景と問題意識

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第1章

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1章  研究の背景と方法

1. 研究の背景と問題意識

  日本経済の再生のためには、ベンチャー企業の輩出と成功が絶対的に必要である。その ためには、従来の経営学、中小企業論より、よりベンチャー企業に焦点を当てたベンチャ ー企業経営論の体系が必要となる。体系化のためには、今までの部分的に記述してきた理 論の欠落している部分や、不充分な部分をつけ加える必要がある。さらにベンチャー企業 をとりまく環境や状況も加速的に変化しており、最新の研究やケースも加えて精緻に構築 する必要がある。また理論的な体系化により、ベンチャー学会等への貢献の可能性も追求 したい。さらに何よりも、日々厳しい経営環境の中で苦労している多くの起業家に実践的 にも役立つ理論にしたいと考えた。

  別の角度から問題意識を述べると、ベンチャー企業は、非常に特異な特徴を数多くもっ ている。本質的にいえば、J.A.シュンペーターが言う「創造的破壊」注1−1を起こすアント レプレナー「Entrepreneur」注1−2(企業家または起業家と訳される。企業家という言葉に は経営者という意味で使われる場合もあるので、本論では起業家を用いることとする)が 新結合によるイノベーションで起業するのであるから当然特異性を持つ。別の言葉では新 規性(ユニーク性)であり、既存のものといかに違うかがベンチャー企業の生命であり、

発展の可能性がこの新規性にあるのは当然である。しかし、一方でベンチャー企業は、筆 者の定義によれば、社会性(社会の公器として株式公開志向を持つ)を持つ必要がある。

ということは、社会の中での受容性(アクセプタビリティ)がなくてはならず、これがな ければ大きく発展することも困難である。そこで、大江建早大教授の「成功する独立起業 家は違うけれど違いすぎない」注1−3という命題が重要な意味を持ってくる。この命題は、

オリジナルはドリオ教授であるが、大江教授が発展させ、「起業家度テスト」を開発してい る。この「違うけれど違いすぎない」という言葉には、ある意味での矛盾が含まれている。

さらにベンチャー企業論にとっては、企業が生まれる準備期からスタートアップ期、そし て急成長期へと短期間に急激に変化するという、ダイナミックな発展を理論化しなければ ならないという宿命がある。このエネルギーをどこに求め、どのように説明し実証するこ とができるのであろうか。そこで、物事の発展、変化を動態的に捉える弁証法的発想と、

内部や外部とのアンバランスや矛盾、不均衡をエネルギー化する「矛盾のマネジメント」

という仮説を設定し、これを検証することにしたい。すなわち問題意識としては、J.A.シュ ンペーターの「創造的破壊」というベンチャー企業の基本的本質をベースにして、そのベ ンチャー企業の経営の中にある特性には多様な矛盾が存在するため、ベンチャー企業論の 構築は、まさに「矛盾のマネジメント」を解明することにあるということになる。

  ベンチャー企業は、まさに創造的破壊という矛盾の中で生まれ、正(thesis)、反(antithesis)、

合(synthesis)を繰り返しながら、発展する存在として捉えれば、その本質が明らかになる と考えたのである。永年にわたり数えきれないほど起業家に会い、ベンチャー企業の発展

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過程を研究してきた経験や理論を集約すると、この「創造的破壊と矛盾のマネジメント」に 行きついたのである。このコンセプトそのものが、矛盾に満ちているかも知れないし、そ れを完全に検証することの困難性を予見できる。しかし、ベンチャー企業を研究する研究 者にも、アントレプレヌールシップ(起業家活動)が求められるべきと考えチャレンジし てみたい注 1 − 4

2. 研究の目的、対象、方法

  本研究の目的は、ベンチャー企業経営論を体系化し構築することにある。当然ベンチャ ー企業という概念の解明から始まらなければならないが、先行研究としては、企業家論(起 業家論)が先に展開されているため、そこからスタートしたい。また経済学、経営学及び 中小企業論の中で、表現は別にして、ベンチャー企業に近い分野での研究もあり、それを 基礎として整理する。これらの基礎の上に独立型ベンチャー企業のケースを可能な限り収 集分析するという帰納法的アプローチによって構築したい。なぜならベンチャー企業に関 する研究は、まだそれほど多くなく、現実を直視したベンチャー企業特有の経営論が必要 とされるからである。さらに、本研究は実際に経営しているベンチャー経営者や、これか ら起業する起業家にも貢献できることも目的と考えているからである。

  研究対象としては、日本における主として社歴30年以内の独立型ベンチャー企業とした い。理由は、数年前の新興市場への株式公開企業の平均社歴が30年であったことにあるが、

できるだけ平均値としては若い起業にウェイトを置きたい。国際比較の研究は、日本にお けるベンチャー企業論の確立の後に行なうのが順当であるという考え方に立っている。ま た最近では、NPOなど非営利組織の中にも、新規性のあるベンチャー的組織があるが、こ れらについては本研究では直接的対象とはしない。同様に企業革新型ベンチャー(社内外 ベンチャー)については、10章での記述にとどめ、中心的な研究の対象にはしない。

  研究の対象としては、ベンチャー企業の準備期からスタートアップ(会社設立)、急成長 期、経営基盤確立期というように、大変ダイナミックに成長、発展する姿を、動態論の立 場から把握したい。既存の経営学の中にはスタートアップから成熟期までの成長発展論は 存在するが、準備期を含めたものはなく、かつ短期間に急成長するベンチャー企業を研究 対象としているものは少ない。このため先行研究については、理論的背景と枠組み構築を 行なうことに用い、中心的経営論は具体的な多数のケースから組み立てるという方法論を 取りたい。すなわち、具体的現実こそが新しい理論の発見の突破口となり、その理論がま た新しい具体的現実をリードするというメカニズムが、ベンチャー企業経営論構築の方法 論にふさわしいからである。なぜならば、ベンチャー企業(元はベンチャー・ビジネスと いう和製英語)というコンセプトそのものが、実態調査の中から発見された新しい現実か ら生まれたからである。

  1969 年〜71 年の時点で、清成忠男(当時国民金融公庫調査課長、現法政大学総長)、中 村秀一郎(当時専修大学教授、現多摩大学名誉学長)、平尾光司(当時日本長期信用銀行調

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査役、現専修大学教授)の3名は、「小零細企業新規開業調査」と「都市型新規開業調査」

を行った。この調査の結果、通説とは大きく違った結果が発見された。すなわち「新規開 業の多数派は25−35歳、職歴10年前後の層に集中しており、主体的に独立を選択し、そ の動機も所得水準の向上よりも、仕事を通じる能力発揮に求める傾向が強い。その独立の よりどころは資本所有でなく、専門能力によるものが圧倒的に多く、これら新規開業の業 績はバラつきが大きいが、好業績を収めているものも少なくない。中略  さらにこの調査 では、これらの企業の中から、独自の製品サービスを開発し、固有の市場範囲を確保して いるイノベーターの検出を行い、そのほぼ50%を「ベンチャー・ビジネス」−ここでVenture とはリスクのある新事業の意味−と名付けたのである」注 1 − 5

  上記引用に明らかなように、ベンチャー・ビジネス(企業)というコンセプトは、当時 の通説であった中小企業を低生産性、長時間労働を特徴とする「二重構造」における弱者 として捉えていた通説に対する、具体的な現実の調査データから生み出された通説とは異 なるコンセプトである。

  本論文も、ベンチャー企業特有の特性を明らかにし、その特性に焦点を当てた「体系的 ベンチャー企業経営論」の構築が目的であり、具体的事実発見のために今まで直接接触し た起業家を始め、多数のケーススタディ、著書、雑誌記事、アンケート調査等、累計で約 500社をベースに構築したい。

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注1-1  「資本主義・社会主義・民主主義」東洋経済新報社

1962 年  J.A.シュンペーター著(原著1942 年)  中山伊知郎/東畑精一訳  上巻P83〜

84

「資本主義のエンジンを起動せしめ、その運動を継続せしめる基本的衝動は、資本主義的 企業の創造にかかる新消費財、新生産方法ないし新輸送方法、新市場、新産業組織形態か らもたらされるものである。中略  この「創造的破壊(Creative  Destruction)の過程こ そ資本主義についての本質的事実である」

注1-2  「企業家とは何か」  東洋経済新報社

1998年12月  J.A.シュンペーター  清成忠男編訳  まえがき

「なお、本書ではUntermehmerおよびEntrepreneurに「企業家」という訳語をあてた。

これまでわが国において訳語としては「企業者」が用いられ、最近では「起業家」がしば しば用いられるようになっている。本書では、比較的多く用いられてきた「企業家」を採 用した。

注1-3  「起業戦略」  講談社現代新書 

2002年7月  大江建著  P43〜44

「ベンチャー・キャピタルを最初に事業化した人は、ハーバード・ビジネス・スクールの 教授で、アメリカン・リサーチ・ディベロップメント社を創設した故ドクター・ドリオ氏 です。「成功する起業家はどんな人か」と質問されて、ドリオ教授は自分自身の投資の成功 と失敗の経験則から「成功する起業家は、違うけれど違いすぎない人」と答えています。」

注1-4  「企業家とは何か」  東洋経済新報社

1998年12月  J.A.シュンペーター  清成忠男編訳  まえがき

「また、Entrepreneurshipはしばしば「企業家精神」と訳されているが、正確には精神を も含めた企業家の全体的な行動を指しているので、本書では「企業家活動」と訳した。」

注1-5  「挑戦する中小企業」  岩波新書 

1985年4月  中村秀一郎  P156〜158

参照

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