1 研究の背景と意義
現在,ラグジュアリーブランドと呼ばれる企 業の多くは,主にヨーロッパを起源国として,
100 年以上の歴史と伝統を持つ。特定の富裕層 だけをターゲットにした家内制の特殊な手工業 から,戦後の大衆化に適応すべく,ライセンス ビジネスの手法によって,日本を始め新興市 場を開拓し,高付加価値を維持し続けてきた。
1990 年代以降の IT 革命とともに,LVMH や PPR(現 KERING
2))等グループ企業化によっ て,現在はグローバル化を推進し,急速にビジ ネスを拡張している。
ライセンスビジネスとは,一般的に企業(ラ
イセンサー)が新たな市場(地域や国,または カテゴリー)の開拓を行う際に,未開の市場に おける経営資源の不足を補う相手企業(ライセ ンシー)に技術やデザイン等を提供する手法で あるが,ラグジュアリーブランドビジネスにお いては,このライセンスビジネスの時代が,現 在では「もう終わった」と言われている
3)。ファ ストファッション企業とのコラボレーション や,ホテルの展開等,新たな方向性への転換を 標榜する試みが増えているこの時期に,過去,
日本において,世界に類を見ない規模で拡大し 成功したと言われる現象について,改めて検証 しておく必要がある。
ラグジュアリーブランドの歴史の中で,海外
ラグジュアリー・ファッション・ブランドにおける 日本型ライセンスビジネスの研究
A Study of The Japanese Lisence Business in Luxury Fashion Brand
大熊 美音子
OKUMA, Mineko
LVMH などの大規模な複合企業化を経て,グローバル産業として拡大を続けるラグジュアリー ブランドビジネスにおいて,中産階級層市場の開拓のきっかけとなった日本の市場の果たす役割 は大きい。
現在,ブランド拡張と国際化戦略に転換期が訪れているラグジュアリーブランドビジネスにお いて,かつて世界に類を見ない規模で拡大し成功したと言われる高度経済成長期の日本での,ラ イセンスビジネスについて検証をするべく,本稿では,当時のライセンシー企業である,日本の 百貨店,アパレル(apparel)産業および商社が担った,独自の発展のメカニズムについて考察 を試みた。
各ライセンシー企業の担当者へのヒヤリングにより,ラグジュアリーブランド企業と日本の百 貨店の関係性,ラグジュアリーブランドのライセンスビジネスを介したアパレル産業と百貨店の 関係性の変化,日本特有の企業間関係としてのライセンシングのスタイルが確立していった経 緯について説明した。さらにその巨大化するライセンシー企業群の組織間の裏側では,契約とは 別の組織,「ライセンシー会1)」が形成され,日本独特の企業間連携である ゆるい 繋がりが,
企業の経営基盤を安定させ,結果的にライセンスビジネス全体を拡大することに貢献した事実を 明らかにした。
キーワード: ラグジュアリーブランド(Luxury Brand),ライセンスビジネス(License Business),
日本的取引慣行(Japanese-style trade practice),中間組織(Intermediate Organi- zation)
におけるライセンスビジネスに着手したのは 20 世紀初頭のパリのオートクチュール(Haute Couture=最高級誂え服)メゾンであった。ア メリカを経由して上陸した日本では,欧米文化 憧憬の風潮と,既製服化とが相まって,戦後の 復興期から高度経済成長期を象徴する社会的な 現象となった。ヨーロッパの貴族制度のような 明確な階級のない日本では,多くの中産階級層 の豊かさの象徴となった。
しかし,1985 年以降,プラザ合意後の円高 により,ライセンス製品ではなく本国のオリジ ナル製品が輸入され,市場に流通する環境が整 い始める。この頃,IT 革命によるシステムの 効率化と同時に,LVMH に端を発するラグジュ アリーブランドのグループ企業化が興る。これ を契機に,ラグジュアリーブランド企業にとっ て,ライセンスビジネスの存在意義は急速に失 われていく。
1998 年 に は,LVMH 傘 下 と な っ た ク リ ス チャン・ディオール(Christian Dior 以下,ディ オール)
4)が,日本におけるライセンス契約を 打ち切るという事態が起きた。当時のディオー ル S. A. のロイヤルティ収入は,およそ 38%を 日本が担っていたと言われていたが,この決定 により,筆頭のライセンシー企業であった鐘紡 は,年間 500 億を超える売上を一挙に失った。
この後,2000 年には当時グッチ(GUCCI)傘 下に入ったイヴ・サンローラン(Yves Saint Lauren, 以 下 サ ン ロ ー ラ ン ),2002 年 に は LVMH 傘下のフェンディ(FENDI)など,同 様のニュースは相次ぎ,これらの現象によっ て,日本のファッションビジネス市場における ラグジュアリーブランドのライセンス製品が 次々に姿を消していった。
なぜラグジュアリーブランドのライセンスビ ジネスは,日本ではこれほどの成功をしたの か。これを解明するには,ライセンシー企業,
すなわち百貨店を舞台とした,主にアパレル企 業と商社を含む日本の繊維産業の川下部分の発 展の歴史について知る必要がある。日本市場が
ラグジュアリーブランドのアジアの試験場とし ての,重要なポジションに至った最初の功績と いうべきライセンスビジネスでの成功は,日本 市場のどのような機能によって導かれたのか。
本稿は,ラグジュアリーブランドの国際戦略で あるライセンスビジネスと,日本的取引慣行と いう一見相反する 2 つの事象に存在する必然的 な関係性を論じる。
2 先行研究
(1)ラグジュアリーブランドに関する先行研究 1990 年前後から 2000 年代,LVMH を筆頭に,
ケリング,リシュモン(RICHMONT)グルー プ等によって,ラグジュアリーブランド企業の コングロマリット形成がなされた。これは,家 内工業の延長であったラグジュアリーブランド 企業に,莫大な資金力をもたらし,急速にグロー バル化を進行させた。従って,ラグジュアリー ブランド企業が経営学的に研究対象として目を 向けられ始めたのはこの出来事以降である。
そ れ 以 前 か ら, ヴ ェ ブ レ ン(T. Vebren
(1899))に代表される「贅沢について」の議 論がされ続けており,ラグジュアリーブランド は,世界のいつの時代にも,どの社会にもあり 続ける存在であるとされている。
コングロマリット形成以降は,大量消費を大 前提とするアメリカ発マーケティング戦略とは 一線を画すマネジメントの必要性が議論され,
主に欧米ではビジネススクールの正規コースが 設けられるなど,ラグジュアリーブランドビジ ネスへの注目度は高まっている
5)。
1) ラグジュアリーブランドビジネスにおける ライセンスビジネスの研究
サヴィオロ(S. Saviolo) (2009)は,ラグジュ アリーブランドビジネスにおけるライセンス 契約について定義し,その事業拡張の進化にお いて①ライン拡張=メイン事業(衣料)でのラ イセンス,②ブランド伸長(アイウェアや香水 等),③ブランド拡張(ライフスタイルの表現),
の 3 段階の変化を説明した。さらに,ライセン
サーとライセンシーは「独占感や希少性」と
「商業的な普及」の相反するベクトルの,巧妙 なバランスが非常に難しいと説明した。
ラグジュアリーブランドがアメリカでライセ ンスビジネスを展開した時代のことは,長沢
(2002),塚田(2008)の研究に見ることができ る。塚田(2008)は,当時 1 着 1,000 万円以上 して当たり前,というオートクチュールの値段 の付け方にこそ,ライセンスビジネスを成立さ せ続けた根拠があると言った。しかしその後,
カプフェレ(J. N. Kapferer)(2011)は,「ラ イセンスはラグジュアリーからの離脱を合図す る」とし,ラグジュアリーブランドが,資金の 獲得など,安易な理由でライセンスビジネスに 取り組むべきでないとする。
ラグジュアリーブランドの歴史の中では,こ のように,ライセンスビジネスが拡大戦略の一 策として発生し,依然必要不可欠な戦略と捉え られてはいるものの,コングロマリット形成以 降はその目的やプライオリティが変わっていっ たと理解できる。
2) ラグジュアリーブランドビジネスにおける 日本市場の研究
ラグジュアリーブランドビジネスの研究に は,日本市場が注目される 1980 年代よりも前 に「日本人」は登場している。1970 年代,豊 かになった日本人観光客が,パリのルイ・ヴィ ト ン(LouisVuitton 以 下, ヴ ィ ト ン ) の ブ ティック前に行列をなした現象である。当時,
直輸入品が本国の 3 倍ほどの価格で流通してい た日本国内では,購入が困難だったためであ る。これを,トーマス(D. Thomas)(2007),
カプフェレ(2011)は,日本市場が新興市場と して注目されるようになった契機であり,1980 年代以降の直接参入の成功へと繋がると述べる が,その時の,日本国内でのライセンスビジネ スの成功との関連性は見出されていない。
1980 年代の直接参入とは,秦郷次郎(当時 ヴィトン・ジャパン社社長)による百貨店との マネジメントサービス契約とディストリビュー
ション契約によって果たされている。日本国内 の中間卸業者を介さず,ヴィトン・ジャパン社 と百貨店による価格とブランドイメージの徹底 した管理により,これまでの流通上の障壁を打 開し,ラグジュアリー製品の流入の道筋を作っ たのである。事実,1985 年のプラザ合意後,
ラグジュアリー製品は日本市場に浸透を果たし たので,多くの文献は,秦がラグジュアリーブ ランドビジネスにおける日本市場の重要度を劇 的に向上させたとする。ラグジュアリーブラン ドの大衆化の功罪を論じたトーマス(2007)は,
高級ブランドの均質化は日本人によって成さ れ,それはグローバル化への最初の一歩だと述 べた。
このような先行研究の傾向から,ラグジュア リーブランドビジネスの今日までの成長には,
日本市場の貢献度の高さが指摘されながらも,
本稿が注目するライセンスビジネスの側面から は関連性が見いだされていないことは明らかで ある。
(2) 日本の繊維産業研究あるいはファッション ビジネスにおける先行研究
1)繊維産業衰退論
日本の繊維産業史としての研究は,伊丹
(2001)に詳しい。第二次世界大戦後の日本の 繊維産業が,自動車工業など他産業の発展に比 較してほぼ成長せず,内需依存的な斜陽産業に なった理由として,日米繊維交渉による対米輸 出規制への補償という政治的背景の犠牲となっ たことが言われている。
依然,国際競争力に耐えうる産業になり切れ
ない理由を,産業構造の難点に求める研究はあ
る。伊丹(2001),塚田(2012)は,戦前から
海外の技術導入によって大企業が発展した川上
産業(糸の生産・加工部門)に比べて,川中産
業(織物・染色など)は全国の 100 か所を超え
る「産地」を構成する零細企業の集積が,複雑
な分業構造によって閉鎖的に出来上がっている
ため,高付加価値な差別化製品を生み出しにく
い,非効率かつ低収益な体質を産んでいる,と 説明している。これは,小規模企業の集合体 である産地点在の点で共通するイタリアの繊 維産業の成功事例と比較し論じられる(岡本,
1995)。
2)アパレル産業の発展と百貨店
上記のような,社会的政治的事情を背景に
「内需依存」体質を形成してきた繊維産業の中 でも,川下産業においては,それ自身が小売の 局面を持つことで発展を続けてきたとする,鍜 島(2006),木下(2009)の研究がある。さら に戦後復興期の百貨店が編み出した「委託取 引」という内部資源の外部化を,取引先である アパレル企業が 逆手に 受け入れる手法に よって,この「小売化」がもたらされたことが 高岡(1997)によって説明されている。
3)日本におけるライセンスビジネスの先行研究
塚田(2012)は,「異常な事態をひきずった 市場拡大」として当時の日本のファッション・
繊維産業の実態を「ライセンスに頼りすぎた悲 劇」と述べた。三田村(2004)は,ライセンス ビジネスを「ブランド市場を拡大した立役者」
としながらも,「ブランドを一から作る手間や コストを惜しみ,手っ取り早く差別化ができて 売場も獲得できる」と揶揄する。
伊丹(2001)は,日本の繊維産業を弱体化さ せた要因としてライセンスビジネスを挙げる。
「日本のアパレル産業独自の力によって商品の 差別化をはかるのではなく,デザイン力,ブラ ンド力を海外から「借りる」こと」つまりライ センスビジネスの経験は,日本の繊維産業を短 期的に発展させたが,結果的には衰退を招いた とする考察が主流である。
(3)先行研究から導き出される課題
このように,ラグジュアリーブランド企業が 自国生産と直接参入によるグローバル化を基本 とする現在,参入先国の産業に生産と流通を依 拠するライセンスビジネスというスタイルが,
かつてなぜ日本市場だけで拡大することができ
たのか,先行研究においては充分に説明されて いない。本稿では,ラグジュアリーブランドが 日本企業によってどのようにライセンスビジネ スを拡大させることができたのか,そのしくみ について説明する。
(4)研究の方法
まず矢野経済研究所「ライセンスブランド全 調査」(1989 年〜 2010 年)を元に,成熟期か ら衰退期および現状に至るまでのブランド単位 の売上規模の推移から,カテゴリー毎の市場規 模の変化,またライセンシー企業の契約形態の 変遷に関する整理を行った。
この傾向値を元に,ライセンシー企業の組織 化と,特に「ライセンシー会」の実情について,
大手 A 百貨店のプライベート・ライセンスブ ランド(以下 PB)担当者,大手アパレルブラ ンドのマーチャンダイザー歴任者,およびラ イセンスハンカチ製造企業 B 社の営業担当者,
大手商社 C 商事のブランドマーケティング担 当者の計 5 名にインタビューを行った。
なお本稿においては,ラグジュアリーブラン ドの範疇を,装飾品(leather goods)とアパレ ル分野に絞り,オートクチュールや高級既製服
(Pret-à-Porter),また英国(調)の正統な伝統 を起源に持つブランドを対象とする。対象のラ イセンスブランドについては,ラグジュアリー ブランド企業による,ファッション関連分野に 焦点を絞る。アパレル産業という名称は,小 売企業化によって 1972 年以降に出現するとす る,木下(2009)を踏まえつつ,1950 年代か ら 1960 年代の「衣服製造卸」を含めた総称と して扱う。
3 日本市場におけるライセンスビジネス の変遷と組織化のメカニズム
(1) ラグジュアリーブランドと日本の百貨店 の出会い
貴族社会の崩壊と戦後の大衆化により,パ
リのオートクチュールメゾンは,本国のメゾ
ン存続の資金調達策として,イメージ維持に 影響の少ない新興国に活路を見出す。一方,敗 戦のダメージから復興する日本では,老舗の都 市型呉服系の百貨店が,世界でも最先端とされ たパリのモードを日本に紹介する,文化振興装 置となるべく,経営資金難に瀕しながらオート クチュールメゾン獲得に奔走する。この出会い は,両者が相互に信頼関係を築き,現在もラグ ジュアリーブランドビジネスが日本においては 百貨店を有効な流通チャネルとして捉えている 根拠として重要である。
(2) ライセンスブランドを介した百貨店と アパレル産業の関係
和装や誂え服文化から,洋装の浸透と既製服 化の進展により,ライセンシー企業は,製造機 能を持たない百貨店から,売場を百貨店に依存 する大手のアパレル産業へと引き継がれる。こ れは発展途上のアパレル産業にとっては,既製 服製造技術やファッションビジネスノウハウ取 得の目的も叶えた。1960 年代に,アパレル産業 は,拡大する百貨店の売場に迅速かつ多くのラ イセンスブランドを展開することで,巨大化,
組織化していく。これによりアパレル産業は,
百貨店との信頼関係を強固に確立し,戦後に強 要された「委託取引制度」を逆手にとることで,
徐々に百貨店が持っていた価格決定権やマー
チャンダイジングの実権を手中に納めていく。
(3)ライセンスビジネスの組織化
高度経済成長期にはライセンスブランドはさ らに巨大化する。当初の衣料品に加え,傘,ハ ンカチ,スリッパやポットまで,百貨店の売場 にライセンスブランド製品が蔓延ったのは,世 界において日本だけの現象である。企業がライ センスブランドを擁することは,消費者と百貨 店の信用を得ることであり,商社や大手のアパ レル企業などのライセンシー企業同士は,ブラ ンド名を媒介に強力な繋がりを形成し,売上の 拡大に成功した。この時期,ディオールやサン ローラン,ピエール・カルダンは,日本から得 るライセンスフィーがそれぞれ最高額を占める に至った。
(4) インポート製品との共存とライセンス ビジネスの翳り
1985 年のプラザ合意後,ライセンスビジネ スはインポート製品の脅威に晒される。しかし まだ高額で日本人に馴染みの薄いインポート製 品に比較すると,ライセンス製品は消費者に実 質的に支持されていたため,イメージを引き上 げてくれるインポート製品が,本当の意味での 脅威になることに気づくのは数年後のことで あった。IT 革命と同時に,ラグジュアリーブ
図 1 ライセンス契約「百貨店主導(PB 契約)型」
出所:矢野経済研究所(1990)「ライセンスブランド全調査」
契約 コントロール
例) ungaro(髙島屋)
GINENCHY(大丸)
ライセンサー
ライセンシー 百貨店
サブライ センシー
ライセンシー
ライセンシー
ランドのグループ企業化は,日本市場の主要ラ イセンスブランドの軒並み廃止と,直接参入へ の切り替えを強行した。ライセンシー企業は,
ラグジュアリーブランド企業の直接参入を阻止 するために,商社を主体にさらに組織化を進め ていく。
4 「日本型ライセンスビジネス」の成立
(1)繊維政策「新繊維法」 (1974 年〜)の施行 日本の繊維産業が,長年他の産業に比較し て,政府依存体質つまり政府に保護されてきた という経緯は,伊丹(2001)によって明らかだ が,その 保護策 とは,「繊維工業設備臨時 措置法(繊維旧法)」のことである。
図 2 ライセンス契約「アパレル企業(商社)主導契約型」
出所:矢野経済研究所(1990)「ライセンスブランド全調査」
ライセンサー
契約 コントロール
例) Ralph Lauren(百貨店)
Bill Bras(商社)
J.P.Gortier(アパレル)
ライセンシー
サブライセンシー
サブライセンシー
サブライセンシー
表 1 ライセンスビジネスの変遷と契約形態の推移
黎明期 導入期 成長拡大期 成熟期 衰退期
オートクチュール プレタポルテ アイテム拡大 インポートとの共存 直接参入回避
百貨店 百貨店
大手アパレル企業 大手アパレル企業
商社 商社
大手アパレル企業 商社 洋装化への
文化振興役
①自社売場の差別化
(百貨店 PB)
②海外技術の獲得
(アパレル企業)
百貨店主導型
管理企業主導型 商社主導型
アパレル企業主導型
百貨店 アパレル企業直接 個別契約型
日本法人設立型
採算度外視 必ずしも収益性は高くない 収益性高い 収益性低下 収益性低下 契約
スタイル 主導型
個別型
収益性
ライセンシー会 ライセンシー会の発展
目 的
①マスターライセンシーとして,ライセンシー企業の 効果的なコントロールによる最適規模での成長
②売場の差別化対策
③日本法人による直接ブランド管理によるイメージ向上 発展段階
特 徴 主導企業
1955 1965 1970 1980 1990
年 代
出所:矢野経済研究所(1990)「ライセンスブランド全調査」をもとに筆者作成
この政策の特徴は,一貫して川中産業である 織物や紡績,染色などの 工業的 側面をター ゲットに,企業の 水平的 集約化に改善策を 見出してきたが,見落とされてきた川下産業は この間,樫山などの大手企業の牽引力によっ て,百貨店の懐内で「小売企業化」し,国内市 場での支配力を強め,アパレル産業として生き 残りを図った。この生き残り策に不可欠なアイ テムとして,ラグジュアリーブランドのライセ ンスビジネスは,海外の技術とファッション文 化をもたらし,組織的に「最適規模」での産業 の成長に有効に機能したのである。
これに注目した政策は,1974 年の「新繊維 法」をもって,工業の枠から逸脱し,繊維産業 内の異業種間での知識集約化と,産業内の垂直 連携への方針の転換を打ち出す。
通商産業省が,アパレル企業の成功に倣い,
繊維産業を「工業から産業へ」「輸出から内需 重視へ」と,「水平から垂直へ」の舵を切った のである(高橋)(2013)。これは,巨大化し続 けるラグジュアリーブランドのライセンスビジ ネスが注目されたことも意味する。
当時の日本において,海外のラグジュアリー ブランドのファッションビジネスを直接学び,
ライセンサーと百貨店という,両側からのリス クを逆手に,市場の成長をもたらし続けたライ センシー企業間組織は,経済合理性を持ち,歴 史的な意味を持って機能したと考えることがで きる。
(2)第 2 の組織化「ライセンシー会」の発足 この,日本における組織的なライセンスビジ ネスの拡大の中で,もうひとつの重要な組織
「ライセンシー会」が発生した。
今回,A 百貨店,アパレル B 社,大手商社 C 商事の全対象者のヒヤリングで,主要なライ センスブランドにはほぼすべてにおいて,この ライセンシー会が存在したことがわかった。ラ イセンスビジネスの「成長拡大期」にあって,
組織の巨大化によるブランドイメージの低下,
ビジネスの収益性に対する危機意識等が生まれ た結果,ライセンシー企業が至ったこの会は,
言わばライセンシー企業同士の「交流会」であ る。
1978 年,ピエール・カルダンの「カルダン・
アソシエーション」は,当時の会長を川辺産業 の川辺俊夫として発足した。川辺産業は,戦後 復興期からハンカチ・スカーフ業界を牽引して きた代表的リーダー企業であるが,川辺を中心 に,年に数回の定期的な会合,カルダンショウ ルームの開設,コレクション視察やデザイナー 本人との直接の交流を目的とした,フランスへ の「カルダン・ツアー」の企画などを行ってい る。続くピエール・バルマンの「ムッシュクラ ブ」「レディスクラブ」,ジバンシィの「ジバン シィ会」等のこのトレンドは,その後,国内の 日本人有名デザイナーのライセンスブランドに も派生する
6)。
(3)中間組織の概念
コース(R. Coase)(1937)の「取引コスト の経済学」を発展させたウィリアムソン(1975)
は,市場と企業は資源配分をコーディネートす る 2 つの形態であり,社会経済活動において必 ず発生する費用(取引コスト)を合理的にコン トロールするために,企業は市場か内部組織か の二者択一をして最適規模を図る,と説明し た。取引コストを回避するには,企業は取引先 を自社資本に内部化し(内部組織化),逆に内 部化コストが取引コストを上回ると判断される 場合は,市場取引形態へ移行する。しかし,市 場か内部かの純粋な二分法ではなく,その中間 的形態として,グレーな形態(中間組織)が発 生することがある。
この中間組織においては,市場取引と内部組
織の双方の失敗のリスクを回避し,逆に双方の
メリットを享受できるとする。つまり,市場取
引の難点を内部組織的な側面において克服する
が,内部組織化(子会社化)のような支配関係
はなく,各メンバー企業には市場における自律
性が尊重されるため,リーダー企業は,メン バー企業間の対立や競合を認めながら調整をす ることによって,最適規模のメリットを享受す るという仕組みが成り立つ。
今井,伊丹,小池(1982)は,この「中間組 織」は,特に日本の産業組織内に多様に発生し,
機能していて,それが日本経済の適応力の一つ の源泉となっている,と述べている。
今井,伊丹,小池(1982)によると,この「中 間組織」の特徴は,企業間の協調,連合,業務 提携,系列,集団化等といった,企業の内部で もあって外部でもあるような,文字通り中間的 でゆるやかな結合である。そして特に業界内の 垂直的な経済関係,すなわち製造から流通に至 るタテのつながりにおいては,技術や情報の交 換という面においてのメリットが大きい,とす る。さらに,この効果は単純な低付加価値商品 よりも,高付加価値市場に対応する商品の生産 流通ラインにおいて,高い効果を発揮する。
この中間組織形成は,1970 年代半ば頃に多 様に発生したとされ,トヨタの部品サプライ ヤー企業による任意団体である協豊会などの存 在によって広く知られ,1980 年代には,日本 の経済成長とともに国内外にて注目を浴びると ころとなったものである。
もともと自動車産業としては世界の後発で あった日本では,大手企業に部品の内製システ ムを構築する資金的余裕がなく,中小企業にそ の資源の補完を委託して,技術支援,人材派遣,
資金援助といった方法によって育成せざるを得 なかった事情を発生の背景に持つ。
名和(1996)は,当時の日本の自動車工業や 電気機械工業における国際競争力の「強さ」の 根拠にこの重層的生産構造の効用性を挙げる が,本当に日本が強いことの根拠は,この生産 構造を支配・従属関係ではなくて,企業内のよ うな協力関係,すなわち「中間組織」の効用で あると指摘している。具体的にこの中間組織化 の特徴は大きく以下の 5 項を抽出できる。
① 長期的・継続的取引の実現
② 技術・資金の援助 ③ 人材の交流
④ 情報共有 ⑤ 信頼関係の重視
⑥ 契約のあいまいさ
通常,市場取引においては,取引は 1 度また は短期的であるのに対し,中間組織内において は,安定した取引を交わすことが約束され,取 引に伴う不確実性を軽減することができる。さ らに,双方の業務の質の向上や生産・供給効率 の向上などに向けて,技術の共有,人材の交流,
図 3 市場構造と企業組織
出所:今井賢一・伊丹敬之・小池和男『内部組織の経済学』東洋経済新報社,(1982)より筆者作成
● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
内部組織化 中間組織化
アメリカ型 日本型
【市場】 【市場】
水平的
垂 多角的 直的
中間組織化
(資本提携ではない)融資など,相互依存的にメ リットを享受することが可能である。また,商 品開発のための共同プロジェクトに,相互に経 営資源を供給し合うこともできるなど,子会社 化などの内部組織化にかかるコストをかけずと も,内部組織的な利点を得ることができる。そ して,基本的には市場取引と組織内取引の中間 であるので,メンバー企業には自律性が尊重さ れており,いつでも退出できる取引なのである。
(4)中間組織化としての「ライセンシー会」
本稿のフィールドである,ラグジュアリーブ ランドの日本でのライセンスビジネスにおける
「ライセンシー会」は,この「中間組織化」の 理論によってそのメカニズムを説明することが できる。
ライセンスビジネスの導入期には,海外技術 の取得のために,リスクを張って個別契約とい う「市場取引」を選択して市場に参入したライ センシー企業は,軌道に乗り,事業拡大ととも に,同じブランド傘下のライセンシー同士で,
マスターライセンシーとサブライセンシーとい う序列化,組織化を図り,効率的にさらなる拡 大を図ってきた。
しかし,ブランドが巨大化によってイメージ
の統制に困難を来たし,事業拡大の継続の危機 的状況に直面したとき,日本のライセンシー組 織は「ライセンシー会」という中間組織化に よって,その危機を乗り越えようとしたのであ る。
大手商社 C 商事,都市型呉服系 A 百貨店,
ハンカチ製造業 B 社各担当者へのインタビュー による,「ライセンシー会」がもたらした効用 の具体的事例が以下である。
1)長期的・継続的取引の実現
事例)業界内を競合する大手アパレル B 社 とアパレル D 社には,大手のマスターライセ ンシー C 商事によって,同等規模の新規ブラ ンドの契約案件を交互に振り分けられている。
これにより,業界内は競合 2 社のどちらかに売 上が偏重することなく,最適規模の業績が見 込める。さらに,C 商事は B 社に,有力ブラ ンド X の契約とともに,小規模ブランド Y を
「セット売り」する。B 社には A 百貨店におけ る多ブランド制に対応できるメリットがある。
C 商事は,ライセンサー企業 X ブランド本社 と,Y ブランド本社にライセンスフィーを支払 う際に,B 社から 2 ブランドのフィーを合算し て受け取っているため,仮に Y ブランドの売 上が契約レベルに達していなくても,X ブラン
図 4 ライセンス契約「アパレル企業(商社)主導契約型」の中間組織化 出所:矢野経済研究所(1990)より筆者作成
契約 コントロール
例)Ralph Lauren(百貨店)
Bill Bras (商社)
J.P.Gortier(アパレル)
コミュニケーション ライセンシー会
ライセンサー ライセンシー
サブライ センシー
サブライ センシー
サブライセンシー
ド分で相殺し,両本社に支払うことが可能とな る。従って,X,Y 両ブランドとの契約は良好 に維持でき,結果的にサブライセンシー企業の 長期安定取引に繋がっていく。
2)技術・資金の援助,人材の交流
これに関しては,今回のインタビューからは 具体的な事例を聞くことはできなかったが,以 前より大手商社 C 商事は,繊維産業界内で金 融業的側面を持つことは周知の事実であり,業 績不振に陥った繊維企業に資本参入し,人材を 送り込んで再起のチャンスを与える事例を数多 く挙げることができる。
3)情報の共有
事例)サブライセンシー同士は,ブランド組 織内においては担当のアイテムを分けられてい るため基本的に競合しないが,ブランドの枠を 取り払えばライバル企業である。B 社と D 社 は,2 社ともハンカチとスカーフの競合する製 造卸であるが,X ブランドでは B 社がハンカ チを,D 社がスカーフを担当するサブライセ ンシー同士であり,情報の共有ができている。
X ブランドの競合の Y ブランドにおいてはス カーフ担当企業である B 社は,D 社の X ブラ ンドにおける商品企画内容をある程度把握して いるため,競合しない商品企画を製造ラインに 乗せることができる。相互の契約内容における 守秘義務は存在するが,百貨店や商圏に関する マーケット情報の詳細な交換は通常活発に行わ れ,マーケットの重複を避ける等の調整が,企 業間で自発的に成されるケースもある。本来こ ういった百貨店内または商圏内におけるブラン ド間の品揃えの調整機能は,百貨店によって果 たされるべき領域であるが,中間組織内環境で ライセンシー企業同士が行うほうがより効果的 となる。
4)信頼関係の重視
事例)X ブランドにおいて,サブライセン シー同士である大手商社 C 商事とアパレル B 社があり,Y ブランドにおいては C 商事がマ スターライセンシーで,B 社の競合である D
社がそのサブライセンシーである場合,X ブラ ンドが大成し,C 商事と B 社の信頼関係が強 固なものに育成されれば,Y ブランドの次の契 約更新時には,競合の D 社に代わって B 社が C 商事のサブライセンシーとして選ばれること が生じる。しかし,その場合 C 商事は,D 社 に直ちに新たな Z ブランドのライセンスを供 与し,D 社の経営を保護する方策がとられる。
5)契約のあいまいさ
マスターライセンシーとサブライセンシー間 には,契約書は存在しないことのほうが一般的 である。ライセンシー会の繋がりがあれば,支 払いの遅延は契約違反とはみなさない。
6)まとめ
ピエール・バルマンにおけるライセンシー会
「バルマン・ムッシュクラブ」(メンズ衣料製 品)は,伊藤忠をマスターライセンシーとした サブライセンシー 13 社がメンバーだが,13 社 ほぼすべてが,伊藤忠の本拠地である大阪に本 社がある。同様に「レディスクラブ」(レディ ス衣料製品)は,マスターライセンシーの吉田 ブラウス株式会社が,東京に本社のある企業を サブライセンシーとして選び,取りまとめて成 立している。つまり商社は,産業の川上から川 下までの流通の情報と実権を握る立場から,産 地の点在する非効率な産業構造の流通ルートを 効率的にコントロールし,最適な組織規模を目 指してサブライセンシー企業を編成した。ライ センスビジネスが成熟期に進むにつれ商社主導 型契約スタイルが増えていった事実からも,中 間組織化がライセンスビジネスにおいて有効に 機能したことが説明できる。
通常契約期間は 5 年程度とされており,契約
更新の権限がサブライセンシー側にはないこと
が不安要素となる。しかしこの契約期間こそ
が,内製化とは大きく異なり,ライセンシー企
業に自律性を与えている。マスターライセン
シーが,契約更新の都度,パートナーのアレン
ジをするという条件は,適度な競争と適度な安
定を環境にもたらす。途中退出して単独で市場
に出ていく自由もある。つまりライセンシー企 業は,「ライセンシー会」によって,自律性を 保ちながら協力関係を構築できる。そしてライ センサーの一方的な指示に従う 下請 的な役 回りではなく,ライセンシー同士がその信頼関 係に基づいた,情報共有や柔軟な取引によって リスクヘッジを実行し,日本の市場の実情を商 品企画や販売戦略に反映させることができる。
このようにして複雑なしくみを造りあげたと考 えることができる。
アパレル企業は,百貨店との通常の取引にお いて,同じエリアの複数の百貨店との取引を獲 得するため,もしくは 1 店舗の百貨店に,でき るだけ広い売場面積を確保するために,複数の ブランドを保有する。これにより,自ずとそれ ぞれのブランドのライセンシー会に属すること ができる。ライセンシー企業はブランドの垣根 を越え,垂直方向にも水平方向にも交流が可能 となる。
サブライセンシー企業には,マスターライセ ンシーに支払うロイヤルティとは別に,この組 織の運営のための手数料というコストは生じる が,これによって長期的契約や安定的取引の約 束や,新しいビジネスチャンスの創出機会の獲 得,それに伴う企業価値の向上等といった,絶 大なメリットを享受できるしくみになっている。
(5)アメリカとの比較
ライセンスビジネスにおいての「中間組織 化」は,日本独自に形成されたと考えられる。
1985 年,ランバンの日本のライセンシーとサ ブライセンシーの全社 17 社「ランバン会」は,
パリへの勉強会ツアーを行い,パリのファッ ション業界を驚かせた。ランバン本社はこの 後,日本を見習って欧米のライセンシーへと波 及させようとしたことからも,このように資本 的関連性のない企業同士が, 仲良く 旅行ま でするような組織文化が,本国ブランド側にも アメリカにも存在しないと考えられる。
今井・伊丹・小池(1982)によって,アメリ カは,純粋な内部組織以外の領域では純粋な市 場取引となる二極分化型であると説明され,理 論上においても中間組織は形成されない。ライ センスビジネスは,アメリカから日本へ伝播し たが,ファッション市場においては,アメリカ では市場規模の巨大さに比較し,日本ほどは 成功していないことは,消費者と産業の構造 の,両側面から説明できる。アメリカはもとも と巨大な市場であり,ラグジュアリーブランド のライセンス製品は,消費者にとってはいくつ かの選択肢のひとつにすぎなかったと考えられ る
7)。さらに,大衆と合理主義の国アメリカで は,機械生産や量産の技術が発達していたた
図 5 ライセンスビジネスにおける中間組織化の概念図出所:今井賢一・伊丹敬之・小池和男『内部組織の経済学』東洋経済新報社,(1982)より筆者作成
● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ●
マスターライセンシー 中間組織化(ブランド)
【ライセンス市場】
め,既製服産業はラグジュアリーブランドとは 対極にある大衆をターゲットにしたスポーツ ウェアの分野で支持され,1960 年代にはすで に SPA 等の垂直統合が進み,寡占化が進展し ている
8)。また,アメリカの百貨店では現在で も買取制が基本であり,日本の百貨店に見られ る,いざとなったら返品できる「委託取引」の ようなビジネスは存在しない。つまりアメリカ におけるリスクヘッジの方法は,内部化か市場 取引かが明確であり,少なくとも「中間組織」
は発生しないのである。
(6) 日本的取引慣行のラグジュアリーブランド への貢献
日本の企業の取引関係の特徴は,欧米諸国に よって,一種の婚姻関係のようだと表現される ことがある。しかしこの,企業間といえども人 間的で緊密な信頼関係は,本稿が着目したラグ ジュアリーブランドの日本におけるライセンス ビジネスを丸ごと成長させてきた。
2015 年春夏シーズンでの完全撤退が決まっ たバーバリー(Burberry)は,1970 年に三陽 商会が個別契約型でライセンス契約を開始し,
1985 年には三井物産とともに,マスターライ センシーとして主導権を持って組織的に拡大し た。1988 年にはライセンシー企業を 12 社体制 とし,トータルアイテム展開によって,ピーク の 2006 年の年間売上 1,090 億円まで飛躍的に 拡大を続け,ライセンスビジネス市場を牽引し てきた。その成功要因は,国内におけるトップ レベルのライセンシーメンバーが集結したこと であると言われる。
このような成功が,本国のライセンサー企業 すなわちラグジュアリーブランド企業にとっ て,日本市場には直接参入の可能性が充分に存 在することを気付かせる事態を招いた。これに よってラグジュアリーブランドは続々と直接参 入という現在のスタイルへ,すなわちグローバ ル企業としての新たな戦略へと舵を切ったので ある。
5 結 論
パリのオートクチュールメゾンが着手した
「ライセンスビジネス」という国際化戦略は,
日本で大きく成長を遂げた。その要因を追求し た本稿において明らかになったのは,ライセン シー企業の中間組織化という,極めて日本的な 取引慣行であり,それが結果的に本国企業の直 接参入を誘引したという現象である。百貨店か らの委託取引制を組織的に受け入れる,つまり 百貨店の内部的な資源不足の外部補完先として 機能することによって成長してきた大半のアパ レル企業にとっては,ライセンスブランドはそ の命綱であった。貿易摩擦により内需産業とし て活動領域を限定されたアパレル企業には,ラ イセンスビジネスを拡大し続けることは,百貨 店の売場での取引条件に耐え,存続の約束を意 味した。つまり,日本で発達した取引慣行は,
内部資源を企業間で補完する「中間組織化」の 仕組みの中で多様に生まれ,結果的に産業を発 展させてきた。ラグジュアリーブランドのライ センスビジネスにおいては,その過程におい て,アパレル産業の発展とともに,委託取引に 依存する百貨店や,商社という日本的な業態の 発生を巻き込みながら,日本のファッションの ライセンスビジネス業界全体を発展させること になった。この現象の重要な要因が「ライセン シー会」という,人間的で緊密な企業間の繋が りであったのだ。
これが,ライセンサーである本国企業にも,
ライセンスビジネス大国アメリカのファッショ ン産業界にも存在しない,ラグジュアリーブラ ンドの「日本型ライセンスビジネス」の実像で あり,その後のラグジュアリーブランドビジネ スの新たな可能性をもたらしたのである。
【注】
1) 「サブライセンシー会」とも呼ばれるが同義。
2) 2013 年 9 月に KERING に改称
3) FT Business of Luxury: Licensing vs Collabo- ration-Luxury Society-Features (10 Jun 2011)
.
4) 正式には,ディオールクチュールブランドは LVMH SAの約50%の株式と議決権を有するディ オール SA に属する(LVMH website, http://www.
lvmh.co.jp/group/organization.html,(2013 年 1 月照会))。
5) MBA のラグジュアリーブランドに関するコー スの初講は 1991 年 ESSEC(LVMH 寄付講座で ある(Giacalone, 2006))。
6) 1983 年,三宅一生が 9 社で「アイムグループ」,
コシノジュンコが 20 社で「コシノジュンコ会」
を結成している(日経産業新聞 1983/07/29「日 本人デザイナーもグループ作りー提携企業を組 織化」)。
7) ラルフ・ローレン,リズ・クレイボーン,ロー ラ・アシュレイ,アン・クライン,オスカー・
デ・ラ・レンタのような自国のデザイナーたち が,ファッション市場において独自の地位を築 いた(Raugust, 1995, p.5)。
8)http://www.eurbanista.com/fashion-history-the- american-way-2-sportswear-to-total-living/The American model for the fashion business began with sportswear, moved through licensing giants, and now includes the behemoth category
total living.
【参考文献】
Batzer, E./H. Laumer (1986)
β
, Ifo-Institut fur Wirtschaftsforschung(鈴木武監訳(1987)『日 本の流通システムと輸入障壁』東洋経済新報社)
Coase, R. H. (1988)
, The University of Chicago Press.(宮沢賢 一・後藤見・藤垣芳文訳(1992)『企業・市場・
法』東洋経済新報社)
Corbeliini, E. and S. Saviolo (2009)
, RCS Libri S. p. A., Milan, pp.306-316.
Kapferer, J. N. and V. Bastien (2011)
, Kogan Page, London.(長沢伸也訳(2011)
『ラグジュアリー戦略』東洋経済新聞社)
Thomas, Dana (2009)
, New York: Penguin Press.(実川元子訳
(2009)『堕落する高級ブランド』講談社)
Veblen, Thorstein B. (1899)
, Macmillan. (高哲男訳(1998)『有閑 階級の理論』筑摩書房)
Williamson, O. E. (1975) Market and Hierarchies,
The Free Press.(浅沼萬里・岩崎晃訳(1980)
『市場と企業組織』日本評論社)
伊丹敬之・伊丹研究室(2001)『日本の繊維産業,
なぜこれほどまでに弱くなってしまったのか』
NTT 出版.
今井賢一・伊丹敬之・小池和男(1982)『内部組織の 経済学』東洋経済新報社.
岡本義行(1995)「イタリアの中小企業戦略」『日伊 文化研究』第 33 巻,pp.108-110.
鍜島康子(2006)『アパレル産業の成立―その要因と 企業経営の分析』東京図書出版会.
木下明浩(2011)『アパレル産業のマーケティング史
―ブランド構築と小売機能の包摂』同文舘出版.
砂山七郎(2008)『日本における繊維・アパレル産業 再生の道』全繊維産業労働組合・繊維産業労働 組合協議会・センイ労働運動研究会・繊維産業 政策懇談会.
高岡美佳(1997)「戦後復興期の日本の百貨店と委託 仕入―日本的取引慣行の形成過程―」『経営史 学』第 32 巻第 1 号,pp.1-35.
高橋啓(2013)「繊維産業政策の変遷―繊維工業から 繊維・ファッション産業へ」『大原社会問題研究 所雑誌 No.652』,pp.3-14.
中小企業基盤整備機構(2009)『「繊維産業(川上・
川中・川下各段階)におけるマーケティングの 在り方に関する検討・調査分析事業に係る調査 事業報告書』.
塚田朋子(2008)「ファッション・マーケティングに 関する一試論」『三田商学研究』第 51 巻 4 号,
慶応義塾大学,pp.157-169.
寺崎新一郎(2013)「ラグジュアリー戦略の誕生とラ グジュアリー・ブランドの概念規定の再検討」
『商学研究科紀要』,pp.139-161.
長沢伸也(2002)論説「LVMH モエ ヘネシー・ル イ ヴィトンの草創期とビジネスモデルの発展」
『立命館経営学』第 41 巻第 1 号,pp.1-27.
名和隆央(1996)「日本型産業組織の効率性について」
『立教経済学研究』第 50 巻第 1 号,pp.29-55.
秦郷次郎(2003)『私的ブランド論ルイ・ヴィトンと 出会って』日本経済新聞社.
三田村蕗子(2004)『ブランドビジネス』平凡社新書.
【資料】
産業学会編(1995)『戦後日本産業史』東洋経済.
大丸二百五十年史編集委員会編(1967)『大丸二百五 拾年史』大丸.
通商産業省生活産業局編(1999)『繊維ビジョン』通 商産業調査会出版部.
通商産業省産業政策局編集(昭和 52 年度版,昭和 55 年度,昭和 59 年度版)『世界の企業の経営分
析―国際経営比較』大蔵省.
通商産業省生活産業局編(1984)『先進国型産業をめ ざして:新しい時代の繊維産業ビジョン:繊維 工業審議会・産業構造審議会答申・解説』東洋 法規出版.
日経産業新聞 1983/07/29「日本人デザイナーもグ ループ作りー提携企業を組織化」.
日経産業新聞 1985/12/13「ライセンシーのお知恵 拝借―転換期の海外ブランド」.
日経流通新聞 1997/02/01「ディオールとの婦人服 提携解消,鐘紡再建ほつれる縦糸」.
日本経済新聞 1995/04/17「大企業体制の再検討(3)
学習院大学教授新宅純二郎氏」.
日本経済新聞 2013/02/08「オンワードホールディ ングス名誉顧問馬場彰氏」『私の履歴書』.
日本経済新聞 2014/05/20「三陽商会「バーバリー」
失う,来年 6 月契約打ち切り」.
矢野経済研究所(1984)『海外ライセンスブランドの 限界と今後の課題〜ライセンスブランドの事業
展開と収益化戦略〜』矢野経済研究所大阪支社.
矢野経済研究所(1989 年度版,1990 年度版,1991 年度版,2006 年度版)『ライセンスブランド全 調査』.
【インターネット資料】
Christian Dior
http://www.fashion-st.net/link/dior.html
(Reference Octber 28, 2013)
FashionHistory The American Way (Aortswear to Total Living)
http://www.eurbanista.com/fashion-history- the-american-way-2-sportswear-to-total-living/
(Reference November27, 2013)
FT Business of Luxury: Licensing vs Collaboration- Luxury Society-Features (10 Jun 2011),
http://luxurysociety.com/articles/2011/6/ft- business-of luxury-licensing vs-collaboration
(Reference December19, 2013)