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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 農 学 ) 北 岡 学 位 論 文 題 名

カラマツ不成績造林地に浸入した 落葉広葉樹稚樹の環境応答に関する研究

学位論文内容の要旨

1.北海道にはカラマツ人工林に不成績造林地が散見され、そこには落葉広葉樹稚樹の侵入が見ら れる。多様な価値を持つ広葉樹資源の育成と高い公益的機能を持つ森林への期待の高まりから、

カラマツ林に侵入した落葉広葉樹稚樹の育成が求められている。カラマツのシュートと林分の構 造から、林床の光環境は多種の混交した落葉広葉樹林より均質である。そこで、本研究ではカラ マツ林に侵入した、落葉広葉樹稚樹の育成方法の基礎になる生理生態学的特性を解明することを 目的とした。そして、現在広く採用されている冬山造材法に伴う林床環境の急激な変化が、前生 稚樹の生理生態的機能に与える影響を、葉の形態と光合成機能を中心に調査し評価することで、

その造材法の意義付けを試みた。これらの研究結果から、カラマツ不成績造林地に侵入した貴重 な 有用樹資 源であ る落葉広 葉樹稚 樹の育成 技術を高 度化す るための 基礎的情報を提供した。

2.カラマツ林床に見られた主要樹種の中で葉の生物季節に特徴のある4樹種を研究対象にした。

上層木の出葉に先駆けて開葉するシウリザクラ、上層木の落葉後に開葉し霜害で枯死するまで緑 葉 を保持 するサワ シバ、 この2樹種に比ベ開葉が遅く落葉の早いホオノキ、前述の3種の中間的 特徴を示すミズナラである。これらの葉の生物季節の特徴は、光合成能カと正の相関を持っ窒素 の利用特性にも反映されると考えた。すなわち着葉期間の短いホオノキは高い光合成速度と窒素 利 用効率を示し、これに対してシウリザクラとサワシバは低いと予想した。これら4樹種につい て、光飽和の光合成速度(最大光合成速度;Psat)と比葉面積、クロロフイル量、窒素含有量の季節 変 化、そ して落葉 時の窒 素の再移 動率を1999年から2001年までの3年間追跡した。その結果、

Psatはサワシバとシウリザクラが生育期を通じてほば一定の低い値を維持したのに対し、ホオノ キは夏期に向かい急激に上昇した後、速やかに低下した。ミズナラは夏季以降も高い値を維持し た。窒素利用効率はホオノキ>ミズナラ>サワシバ>シウリザクラの順になった。窒素の再移動 量はホオノキ>ミズナラ>シウリザクラ冫サワシバの順であった。Psatと葉の窒素含有量には樹 種ごとに正の相関が見られたが、その年次間差が大きかった。Psatに年次間差が生じた原因を気 象データや比葉面積の季節変化、光. C02飽和時の光合成速度と窒素含有量の関係などから考察 し た 。 そ の 結 果 、年 次 間 での 葉 の 構 造の 変 化 が大 き く 影響 し て いる こ と が示 唆 さ れた 。

3.最大光合成速度の年次間差が生じる原因として、開葉時期の乾燥による葉の構造の変化が考え られた。そこで13リットル鉢に植えた、これら4樹種をガラス室内で降雨を遮断して栽培し、開 葉時 期から2週間 に一度ポット当たり約200ml潅水する乾燥処理を行い、その影響を評価した。

対照区は3日にー度約200mlの潅水を施した。乾燥処理区では葉の比葉面積が低下し、その結果、

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単位面積あたりの窒素含有量が増えPsatも高かった。これらの結果から、林内でのPsatの年次変 動を引き起こしたのは、開葉時期の乾燥により比葉面積の小さい葉が形成されたことが要因と推 察された。

4.苫小牧研究林の49年生カラマツ人工林において冬山造材を想定した伐採を行い、林内の気象環 境の変化と落葉広葉樹4樹種稚樹の葉の構造と機能面の 応答について2001〜2003年の3年間調査 した。相対光量子束密度は伐採前の林冠閉鎖時に約10%であったが、伐採後は約50%に好転した。

土壌の含水率は、対照区に 比べ伐採区で開葉時期には高かったが、6〜7月に低下した。この原因 は侵入した草本種の蒸散に よる持ち去りと推察された。C02濃度は日中、樹冠内で320ppm、林床 で は380ppm、夜間 林床では560ppm付近に達したが、伐採後、特に日中のC02濃度は林床付近ま で約340ppmに低下した。

  伐採と併せ、落葉落枝と窒素酸化物による林内への窒素流入量を想定した窒素付加実験を行い、

4樹種 の環 境応答能を検討した。ホオノキとミ ズナラの2樹種で伐採後2年目に、伐採区と伐採 十施肥区では、Psatの有意な増加が見られた。しかし、サワシバとシウリザクラでは伐採区でPsat が増加したが、処理後1年目と2年目で有意差はなかった。葉の窒素含有量の増加はシウリザク ラとサワシバの林床十施肥 区を除いて、伐採後1年目に は明瞭な傾向は無かった。伐採後2年目 には、ホオノキとミズナラ の伐採十施肥区で窒素含有量の増加が見られた。強光の利用に有効な 柵状組織の伸長は、伐採後1年目からホオノキとミズナラで見られ、伐採区と伐採十施肥区で有 意な伸長が見られた。シウ リザクラとサワシパでは柵状組織の有意な伸長は見られなかった。こ れらに対して、比葉面積の 低下は1年目から4樹種ともに伐採区で見られた。ホオノキとミズナ ラでは伐採十施肥区で1年目から柵状組織の伸長が見ら れ、2年目以降には葉の窒素含有量も増 加した。このことから窒素 付加は伐採後の環境への応答を促進する働きがあると考えられた。ま た、ホオノキとミズナラの 高いPsatは柵状組織の伸長と対応していたことから、葉の構造変化に よる単位面積当たりの光合 成系器官の増加や、C02の拡散効率増加がPsatの増加に有効であるこ とがわかった。一方、シウ リザクラやサワシバでは、個葉レベルの変化が小さく伐採後の環境に 対する応答能の小さいことが示唆された。

5. 林内における高C02環境への 順化を検討するため高80日間のC02処理をした材料では、カルボ キシレーション効率とRuBP再生 産速度の低下が見られたが、その程度はホオノキとミズナラで 大きくシウリザクラとサワシバで小さかった。気孔制限(stomata.llimitation)は高C02に長期間順 化させた材料で大きく、特に、ホオノキとミズナラで顕著であった。また、林床区と伐採区に生 育する材料についても同様の測 定を行なったところ、4樹種とも伐採区の材料でカルボキシレー ション効率とRuBP再生産速度は 高くなり、特にホオノキとミズナラで差は大きかった。また気 孔制限は伐採区のサワシバで最 も高くなった。高C02環境に順化した材料では光合成能カが低下 する負の制御が見られた。また、サワシバでは伐採後の環境への応答能カが小さかったが、一因 として大きな気孔制限が考えられる。

6.以上の結果から、カラマツ不成績造林地に侵入した落葉広葉樹稚樹の育成を考える際には、樹 種の遷移上の特徴や開葉パターンの特徴に配慮する必要があると示唆された。すなわち、ギャツ プに生育するホオノキやミズナラの育成には、一定以上の養分が土壌中に存在すれば、上層木の 冬山造材を行なうことで、遅くとも伐採2年目以降には光合成速度が増加して成長が改善される。

これに対して遷移後期種のシウリザクラやサワシバでは、上層木の開葉前と落葉後の光環境を効 率よく利用していた。また、伐採後2年目でもPsatの明瞭な増加は見られなかった。従って、伐

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採後1年目から特に機能面からの順化が見られた侵入落葉広葉樹稚樹の育成を効率よく行うには、

開葉前の光環境を改善できる現行の冬山造材が、積雪地では稚樹の保護にもっながることから一 定の成果を期待できる方法と結論付けた。

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学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授 助教授

小 池 孝 良 笹   賀一郎 佐 藤 冬 樹 平 野 高 司 日 浦    勉

学 位 論 文 題 名

カ ラ マ ツ 不 成 績 造 林 地 に浸 入 し た 落 葉 広 葉 樹 稚 樹 の 環 境 応 答 に 関 する 研 究

  本 研 究 は105ベ ー ジ の 和 文 論 文 で 、 引 用 文 献122編 を 含 み 、6章 で 構 成 さ れ て い る 。 他 に 参 考 論 文17編 が 添 え ら れ て い る 。

  北 海 道 に は カ ラ マ ツ 人 工 林 に 不 成 績 造 林 地 が 散 見 さ れ 、 そ こ に は 落 葉 広 葉 樹 稚 樹 の 侵 入 が 見 ら れ る 。 多 様 な 価 値 を 持 つ 広 葉 樹 資 源 の 育 成 と 高 い 公 益 的 機 能 を 持 つ 森 林 へ の 期 待 の 高 ま り か ら 、 侵 入 し た 落 葉 広 葉 樹 稚 樹 の 育 成 が 求 め ら れ て い る 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 こ れ ら の 稚 樹 の 光 と 窒 素 利 用 特 性 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し た 。 ま ず 、 稚 樹 の 季 節 的 な 光 利 用 特 性 に つ い て 評 価 し 、 つ い で カ ラ マ ツ の 伐 採 に よ る 林 床 環 境 の 急 激 な 変 化 に 対 す る 落 葉 広 葉 樹 稚 樹 の 環 境 応 答 能 カ を 、 葉 の 形 態 と 光 合 成 機 能 を 中 心 に 評 価 し た 。

  カ ラ マ ツ 林 床 に 見 ら れ た 稚 樹 の 中 で 葉 の 生 物 季 節 に 特 徴 の あ る4樹 種 を 研 究 対 象 と し た 。 上 層 木 の 出 葉 に 先 駆 け て 開 葉 す る シ ウ リ ザ ク ラ 、 上 層 木の 落葉 後、

霜 害 で 枯 死 す る ま で 緑 葉 を 保 持 す る サ ワ シ バ 、 こ の2樹 種 に 比 ベ 開 葉 が 遅 く 落 葉 の 早 い ホ オ ノ キ 、 前 述 の3種 の 中 間 的 特 徴 を 示 す ミ ズ ナ ラ で あ る 。 こ れ ら4 樹 種 に つ い て 、 光 飽 和 の 光 合 成 速 度(Psat) と 比 葉 面 積(SLA)、 ク 口 口フ ィル 量、

窒 素 含 有 量 の 季 節 変 化 、 そ し て 落 葉 時 の 窒 素 の 再 移 動 率 を1999年 か ら2001年 ま で の3年 間 追 跡 し た 。 そ の 結 果 、 ホ オ ノ キ は 高 いPsatと 窒 素 利 用 効 率 で 着 葉 期 間 を 補 償 す る の に 対 し て 、 シ ウ リ ザ ク ラ 、 サ ワ シ バ のPsatは 低 く 、 長 い 着 葉 期 間 が 成 長 に 重 要 で あ っ た 。 ミ ズ ナ ラ は こ れ ら の 中 間 的 な 性 質 を 示 し た 。Psat に は 年 次 間 差 が 見 ら れ 、 そ の 原 因 と し て 開 葉 時 の 乾 燥 に よ る 葉 の 形 態 と 窒 素 含 量 の 違 い が 大 き く 影 響 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。

  Psatの 年 次 間 差 が 生 じ る 原 因 に つ い て 、4樹 種 の 鉢 植 え 材 料 を 用 い て ガ ラ ス 室 内 で 灌 水 量 を 調 節 し 、 開 葉 時 の 乾 燥 が 葉 の 形 態 と 光 合 成 能 カ に 与 え る 影 響 を

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評価した。乾燥処理を行った個体では葉のSLA が低下し、その結果、単位面積 当たりの窒素含有量が増えPsat も高くなった。これらの結果から、稚樹のPsat の年次変動を引き起こしたのは、開葉時期の乾燥により比葉面積の小さい葉が 形成されたことが主な要因と推察された。

   カラマツ林に侵入した落葉広葉樹稚樹の環境応答能カを、冬山造材を想定し た伐採による光環境の改変と窒素降下物を想定した施肥を組み合わせた操作実 験から明らかにした。伐採十施肥区、伐採区、林床十施肥区、対照として林床 区の4 処理区を設け、2002 から2003 年の2 年間調査した。伐採後 1 年目からホ オノキを除いた3 樹種で伐採の効果が見られ、伐採区、伐採十施肥区でPsat が 増加した。さらに、伐採後2 年目には、ホオノキとミズナラの2 樹種で、1 年目 に比べてPsat の有意な増加が見られた。しかし、サワシパとシウリザクラでは、

1 年目と2 年目でのPsat 有意な増加は見られなかった。Psat は葉の窒素含有量 よりも SLA とよく対応していた。そこで葉の解剖特性に注目し、強光の利用に 有効な柵状組織の伸長について観察した。ホオノキとミズナラにおいて伐採区 で伐採後2 年目に大きな伸長が見られたが、シウリザクラとサワシパは伐採区 の材料では柵状組織の有意な伸長はなかった。これらのことから、ホオノキと ミズナラの高いPsat は、葉の構造変化による単位面積当たりの光合成系器官の 増加や、C02 の拡散効率の増加が主因であることがわかった。一方、シウリザク ラやサワシノヾでは、個葉の変化が小さく、伐採後の環境変化に対する応答能が 小さいことが示唆された。

   林内におけるC02 環境への順化を検討するため、林床区と伐採区に生育する材 料と高C02 (720ppm) に80 日間順化させた材料でC02 濃度と光合成特性の関係を調 べた。 4 樹種とも伐採区の材料でカルポキシレーション効率とRuBP 再生産速度 は高くなり、特にホオノキとミズナラで差が大きかった。゛また、気孔制限率は 伐採区のサワシバで最高であった。高 C02 環境に順化した材料では、C02 .光飽 和時の光合成速度が低下する負の制御が見られた。

   以上の結果から、カラマツ不成績造林地に侵入した落葉広葉樹稚樹の育成に は、樹種の開葉パターンの特徴に配慮する必要があること示唆された。すなわ ち、ギャップ依存種のホオノキや遷移中後期種のミズナラの育成には、冬山造 材を行うことで伐採 2 年目以降にはPsat が増加し成長が改善される。これに対 して、遷移後期種のシウリザクラやサワシパでは、伐採後2 年目にもPsat の明 瞭な増加はないが、伐採に対する環境応答は小さかった。以上のことから、侵 入した落葉広葉樹稚樹の開葉前から光環境を大きく改善できる現行の冬山造材 は、一定の成果を期待できる方法と考えられる。

   これらの成果は、不成績造林地を改良するための基礎情報を提供する内容で

ある。よって審査員一同は、北岡哲が博士(農学)の学位を受けるに充分な

資格を有するものと認めた。

参照

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