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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 工 学 ) 廣 本 祥 子

学 位 論 文 題 名

Pd 基および Zr 基アモ ルフんス 合金の 疑似体液中における腐食挙動に関する研究

学位論文内容の要旨

  高齢化社会を迎える今日、高齢者や障害を持つ人々の社会参加を助ける生体材料 の需要量の増加が見込まれる。それに伴い、生体材料の非毒性や生体適合性、耐久 性の向上が求められている。金属材料は、高分子およびセラミックス材料と比べて、

強度、靭性、パネ弾性、導電性に優れる。そこで、整形外科、歯科、心臓血管外科 等の広い医療分野で、人工関節、髄内釘、人工歯根等の荷重が加わる部材や、ペー スメーカのワイヤ等の導電性が求められる部材に用いられている。生体内には元々 異物を埋め込む空間がぬいので、材料強度を増加して部材を小型化する必要がある。

骨に固定する金属材料では、骨に適正な荷重を分担させるために、ヤング率を低下 させる必要がある。また、生体内は、塩化物イオン等の無機イオンおよびアミノ酸 やタ ンパク質等 の有機分 子が存在 し、溶存 酸素濃度が低く、炎症によりpHが低下 する等、金属には腐食性の環境である。そこで、金属材料の非毒性、耐I久性を向上 させるために、材料の耐食性の増加が必要である。

  アモルフんス合金は、類似組成の結晶性金属よりも強度が高く、ヤング率が低く、

また、耐食性が高い。これらの特性は生体用金属材料に求められる性質を満たして いる 。そこで、 アモルフ んス合金 の生体材 料への応用を目指した。Pd基およびZr 基アモルファス合金は、アモルファス形成能が高く、耐食性および強度が高いため、

生体材料に適していると考えられる。一方、生体材料では非毒性および生体適合性 が最 も重要な性 質であり 、これら は材料の 腐食挙動および表面組成に依存する。

  本論 文では、Pd基 およびZr基 アモルフ ァス合金の疑似体液中での腐食挙動およ び表 面組成にっ いて検討 した。そ して、Pd基およびZr基アモルフんス合金の生体 材料としての可能性について考察した。

  本論文は全8章から構成されている。

  第1章 は序論であり、生体用金属材料の種類、必要条件および問題点、およびこ れまでに明らかにされているアモルファス合金の化学的およびカ学的性質について 述べた。そして、本研究の背景と目的を明らかにした。

  第2章 は、第3〜7章 に共通の 実験方法 および試 作合金に ついて述 べた。液体急 冷 法に よ る アモ ル フ んス合金作 製手順、 およびX線 回折、X線 光電子分 光法など による試作合金の定性分析の結果をまとめた。また、試作合金の分極試験および表 面分析での試験溶液や試験条件等についてまとめた。

  第3章では、アモルファスPd78Si16Cu6̲xCrエ合金を、脱気リン酸緩衝生理食塩水   (PBS(‐))中でカソード・アノード分極した結果について述べた。また、急冷した ままのアモルフんス合金で現れた、アノード分極曲線上で負の電流を示すネガテイ ブループの発現機構および要素について考察した。合金の構造をアモルフんス化す るこ とおよびCr量 を増加す ることで 、本合金の耐食性が向上することを明らかに

(2)

し た 。ネ ガ テ ィブ ル ー プの 発 現 は、 次 の 機構 で 進 行 する こ と を提 案 した。 水素発 生 電 位 よ り 卑 な 電 位 で はPd‑Hが 生 成 し 、 よ り 貴 な 電 位 で はPd‑H解 離 で 生 成 す る 水 素 のH゛ へ の 酸 化 で ア ノ ー ド 電 流 が 流 れ る 。H゛は 合 金 近傍 のpHを 低 下 さ せて 水 素 発 生 電 位 を 貴 に し 、H゛還 元 反 応が 進 行 でき る よ うに す る 可能 性 が ある 。 水 素 がア ノ ー ド 酸 化 さ れ る 電 位 で は 、SiとCr酸 化 物 が急 激 に 表面 を 覆 い、 さ ら に 吸収 水 素 が 消 費 さ れ て ア ノ ー ド 反応 が 減 衰す る と 、生 成 し たH゛ の カソ ー ド 反応 が 優 勢 にな り 、 ネガ テ ィ ブル ー プ が発 現 す る。 し た がっ て 、 ネ ガテ ィ ブ ルー プ の発現 要素は 、 カ ソ ード 反 応 の活 性 化 エネ ル ギ ーが 低 く 、水 素 を 吸 収・ 放 出 し、 酸 化物を 急激に 生 成す る元素が 存在す る合金表 面であ ると考え られる。

  第4章では 、アモ ルファス2r65A17.5NilOCu17.5合 金を、塩 化物イ オン、溶存酸素濃 度 、 お よ びpHが 異 な る り ン 酸 緩 衝 液 中 で ア ノ ード 分 極 した 結 果 にっ い て 述 べた 。 ま た 、 既 存 の 生 体 用 金 属 材 料 で あ る 純Tiお よ び316Lス テ ン レス 鋼 と の 耐食 性 の 比 較 を 行 っ た 。Zr基 ア モ ル フ ァ ス 合 金 の 耐 孔 食 性はpHの低 下 、 リン 酸 イ オ ンの 吸 着 お よ び 表 面Niの 存 在 に よ り 低 下 す る が 、 生 体 内と 同 濃 度の 溶 存 酸素 に よ ル リン 酸 イ オ ンの 吸 着 は抑 制 さ れ、 耐 孔 食性 は 向 上す る こ と を明 ら か にし た 。さら に、低pH か つ 低 溶 存 酸 素 濃 度 の 溶 液 中 で も 自 発 的 な 孔 食 は起 こ ら ない こ と 、お よ びZr基 ア モ ル フ ァ ス 合 金 は316Lス テ ン レ ス 鋼 よ り も 高く 、 純Tiに 匹 敵す る 高 い 耐食 性 を 示 す こ とか ら 、 本合 金 は 生体 材 料 とし て 十 分高 い 耐 食 性を 示 す こと を 明らか にした 。   第5章 で は、 ア モ ルフ ァ ス2r65Al7.sNiioCUl.s合 金 と 結晶 性 純Zrのり ポン状 試料 を 、 脱 気 し た 疑 似 体 液 で あ るHanks液 中 で 一 定 電 位 に 保 持 し 、 試 料 を 瞬 時に 折 り 割 り 、新 生 面 を露 出 さ せて か ら 不働 態 皮 膜の 再 生 が 完了 す る まで に 流れる 電流を 測 定 し 、以 下 の こと を 明 らか に し た。 ア モ ルフ ァ ス 合 金の 新 生 面は 原 子構造 が均質 で

  第6章 で は 、様 々 な 元 素(M)を添 加 し たア モ ル ファ ス2r60M5Al,.5Cu27.5合 金の 、 脱 気 し たPBS( う 中 に お け る 、 浸 漬 表 面 のX線 光 電 子 分 光 法 によ る 組 成 分析 、 お よ び ア ノ ー ド 分 極 の 結 果 に つ い て 述 べ た 。 酸 素 親 和 性 の 高 いMほ ど 酸 化 皮 膜 に 取 り 込 ま れ るこ と 、Mの 種 類 に よって酸 化皮膜中 のZrとAlの 相対濃 度比(【Zr]/[Zr+Al]) が 変 化 する こ と を明 ら か に した 。 そ して 、[Zrl/[Zr+AI]の 高い 方 が 通 常腐 食 に 対す る 耐 食 性が 高 く 、【Zr]/[Zr+Al】の低い 方が耐 孔食性の 高い傾 向にある ことを 明らか にした。

  第7章 で は 、 生 体 環 境 に 存在 す る 無機 イ オ ンや ア ミ ノ酸 お よ びタ ン パ ク 質を 含 む 溶液に浸漬したアモルファス2r65Al7.5Ni10CU17.s合金および2r65AI,,sCu27.s合金表面の、

X線 光 電 子 分 光 法 に よ る 組 成 分析 の 結 果に っ い て述 べ た 。オ ー ト クレ ー ブ 滅 菌処 理 し た 合 金 表 面 で は 、Alお よ びCuが 皮 膜 直 下 の 下 地 に 濃 縮 さ れ 、 皮 膜 中 で のZrと Alの 相対 濃 度 ([Al]/[Zr]) は 合 金組 成 よ りも 高 い 。こ れを無 機イオン のみを 含む溶 液 に 浸 漬 す る とCuお よ びNiが 溶 出 し 、 ア ミ ノ 酸 お よ び タ ン パ ク 質 を 含 む 細 胞 培 速さ

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性の観点では、Pd基およびZr基アモルフんス合金は生体材料として有望であるこ とを結論した。

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学 位論文審査の要旨

主査   教授   瀬尾眞浩 副査   教授   成田敏夫 副査   教授   高橋英明 副査   教授   大塚俊明

副査   教授   亘理文夫(大学院歯学研究科)

学 位 論 文 題 名

Pd 基 お よ び Zr 基 ア モ ル フ ァ ス 合 金 の 疑似 体液中に おける 腐食挙動 に関する研究

  高齢 化社 会を 迎え る今 日、 高齢 者や 障害 を持 つ人 々の社会参加を助ける生体材料 の需要量の 増 加が 見込 まれ る。 それ に伴 い、 生体 材料 の非 毒性 や生体適合性、耐久性の向上が 求められて い る。 金属 材料 強、 高分 子お よび セラ ミッ クス 材料 と比ぺて、強度、靭性、パネ弾 性、導電性 に 優れ てお り、 人工 関節 、髄 内釘 、人 工歯 根等 の荷 重が加わる部材や、ペースメー カのワイヤ 等の導電性が求められる部材 に用しゝられている。骨に固定する金属材料では、骨に 適正な荷重 を 分担 させ るた めに 、ヤ ング 率を 低下 させ る必 要が ある。また、生体内は、塩化物 イオン等の 無 機イ オン およ びア ミノ 酸や タン パク 質等 の有 機分 子が存在し、溶存酸素濃度が低 く、炎症に よ りpHが 低 下 する 等、 金属 には 腐食 性の 環 境で ある 。ア モル ファ ス合 金は 、結 晶性 合金 より も ヤン グ率 が低 く、 強度 と耐 食性 が高 いた め、 生体 用金属材料に求められる性質を 満たしてい る 。ま た、 生体 材料 とし て最 も重 要な 性質 は非 毒性 および生体適合性あり、これら の性質は材 料 の 腐 食 挙 動 およ び表 面の 化学 組成 に依 存 する と考 えら れる 。と ころ で、Pd基 およ びZr基ア モ ルフ ァス 合金 はア モル ファ ス形 成能 が高 く、 強度 と耐食性が高いところから生体 材料として の可能性を秘めている。

  本 論 文 は 、Pd基 およ びな 基ア モル ファ ス 合金 の各 種疑 似体 液中 での 腐食 挙動 を電 気化 学的 お よび 表面 化学 的に 調ベ 、耐 食性 の観 点か ら生 体材 料として使用する際の基礎的知 見を得るこ とを目的としたものであり、 全8章から構成されている。

  第1章は 序論 であ り、 生体 用 金属 材料 の種 類、 必要 条件 、問 題点 、ア モル ファス 合金の化学 的 お よ び カ 学 的 性 質 に つ い て 述 ペ 、 本 研 究 の 背 景 と 目 的 を 明 ら か に し た 。

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電 位 を 貴に す る とと も に 、表 面 にSiお よ びCrの 酸化 物 が急 激に生成 し、再 び水素発 生による カソード電流が流れることでネガテイプループを説明した。

  第4章では、アモルファス2r65Al7 SNilOCU1715合金を、塩化物イオン、溶存酸素濃度、およびpH が 異なる りン酸緩 衝液中 でアノー ド分極 し、耐孔 食性と表 面組成 を調べた 。Zr基ア モルファ ス 合 金 の 耐孔 食 性 はpHの 低下 、 リ ン酸 イ オ ンの 吸 着 およ び 表面Niの存 在によ り低下す るが、生 体 内と同 濃度の溶 存酸素 によルリ ン酸イ オンの吸 着は抑制 され、 耐孔食性 は向上 すること を示 し た 。 また 、 既 存の 生 体 用金 属 材 料で あ る 純Tiお よび316Lス テンレス 鋼との 耐食性の 比較を 行 っ た 。Zr基 アモ ル フ ァス 合 金 は、 低pHか つ 低 溶存 酸 素濃 度の溶液 中にお いても自 発的な孔 食 は 起 こら 顔 い こと 、 お よび316Lス テ ンレ ス 鋼 より も 高く 、純Tiに匹 敵する 高い耐食 性を示 すことを見出した。

  第5章では、アモルファス2f 65触7.5Niユ0Cu1715合金と結晶性純zrのりボン状試料を、脱気した Hanks液 中 、定 電 位 にア ノ ー ド分極し た状態 でャ試料 を瞬時 に折り割 り、新 生面を露 出させて か ら再不 働態化す るまで に流れる 電流の 経時変化 を調ぺた 。アモ ルファス 合金の 新生面は 結晶 性 金属の 新生面よ りも溶 解速度と 皮膜再 生速度が 小さく、 再不働 態化する までに 溶出する 金属 イ オン量 が少なく なる結 果を得た 。これ は、粒界 や構造欠 陥によ り構造が 不均質 な結晶性 金属 に 比 べ て ア モ ル フ ァ ス 合 金 の 原 子 構 造 が 均 質 で あ る た め で あ る と 結 論 し た 。   第6章 で は 、様 々 な 元素 (M) を添加 したアモ ルファスZr60M5甜粥Cu27.5合 金の、脱 気リン 酸 緩 衝 生理 食 塩 水中 に お ける 、アノ ード分 極挙動を 調ベ、X線光 電子分光 法によ る浸漬表 面の 組 成 分 析を 行 っ た。 酸 素 親和 性 の 高いMほ ど酸 化 皮 膜に 取り 込まれる こと、Mの種 類によっ て 酸 化皮膜中 のZrと心゜の相対濃度比([Zr]/[Zr十心])が変化することを見出した。さらに、

[ Zr] /[ Zr十 心 ] の 低 い 方 が 耐 孔 食 性 の 高 い 傾 向 に あ る こ と を 示 し た 。   第7章では、アモルファスzr6〆u75Ni10Cu1715合金およびzr617.5Cu27.5合金を、生体環境に存在 す る 無 機イ オ ン やア ミ ノ 酸お よびタ ンパク 質を含む 溶液に 浸漬し、X線光 電子分 光法によ る表 面 の 組 成分 析 を 行っ た 。 オー ト ク レー プ 滅 菌処 理 し た合 金では 、心およ びCuが皮 膜直下の 下 地に濃縮し、皮膜中のzrと心の相対濃度([触]/[zr])は合金パルクよりも高くなった。これを 無 機 イ オン の み を含 む 溶 液に 浸 漬 する とCuお よ びNiが 溶出 するが、 アミノ 酸および タンパク 質 を含む 細胞培養 液に浸 漬するとzrが優先 的に溶出 するこ とを明ら かにした 。さら に、同様 の 溶液中におけるアモルファスzr6〆1バiユ。Cu1エ合金のカソードおよびアノード分極挙動を調べた。

溶 液にア ミノ酸お よびタ ンパク質 が含ま れると、 カソード 反応が 抑制され ること 、および 合金 の 耐孔食性 が向上す ること を見出し た。こ のことか ら、溶 液からのH゛や塩化物イオン等の物質 移 動 が タ ン パ ク 質 な ど の 吸 着 層 で 阻 害 さ れ る 可 能 性 の あ る こ と を 指 摘 し た 。   第8章 は 、 本論 文 の 総括 で ある。 生体環 境におい ても、 合金構造 のアモル ファス 化は合金 の 耐 食 性 の向 上 に 有効 で あ り、 ま た 、耐 食 性 の観 点 か ら、Pd基およ びzr基ア モルファ ス合金は 生体材料として有望であることを結論した。

  こ れを 要 す るに , 著 者は 、 リン酸緩 衝生理 食塩水、Hanks液 および細 胞培養 液などの 各種疑 似 体 液 中に お け るPd基 およ びzr基 ア モ ルフ ァ ス 合金 の 耐食 性と表面 組成を 調ぺ、耐 食性の観 点 からこ れらアモ ルファ ス合金は 生体材 料として 使用可能 である ことを示 レてお り、腐食 防食 工 学およ び生体材 料工学 の発展に 貢献す るところ 大なるも のがあ る。よっ て、著 者は北海 道大 学博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認める。

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