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博 士 ( 医 学 ) 菊 地 健

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 菊 地    健

学 位 論 文 題 名

ヒ ト 正 常 膵 組織 お よ び 膵癌 組 織 に おけ る

GDNF(Glial cell line‑derived nuerotrophic factor) お よ び Ret の 発 現

学 位 論 文 内 容 の要 旨

    緒言

  膵癌 は様 々な 治療 法の改善にもかかわらず予後不良な悪性腫瘍のひとつである.その理 由 とし て, 膵癌 では ,他臓器転移をはじめ,後腹膜,周囲臓器,主要血管,膵外神経叢へ の 癌進 展が 高度 であ ることが挙げられる,特に神経浸潤が特徴的であり,神経浸潤の先端 部 が腫 瘍の 外側 へ伸 びるため,原発腫瘍を除去しても癌が遺残し,局所再発にっながり予 後を不良にしている可能性が高い.

  膵癌が神経に沿って浸潤して.いく特徴を持つ理由はいまだ不明であるが申請者は,中脳 ド ー パ ミ ン 作 動 性 神 経 細 胞 を 培 養 し た 際 , 培 養 細 胞 を 死 滅 さ せ な い 神 経 栄 養 因 子 GDNF(Glial cell line−derived neurotrophic factor)に注目した,この因子はTGFB (′rrans− fon11ingGrowthFactorロ ) ス ー パ ー フ ァ ミ リ ーの ー つで ,そ のReceptorComponentRet

(proto‐0ncogcnec−retの遺伝子産物)を介してその効果を発揮する.申請者は,正常膵組織 と 膵 癌 組 織 に お け るGDNFおよ びRetの存 在お よび 局在 と分 布を 調ベ ,さ らに膵 癌に おい て 両者 が好 神経 浸潤 性に関与しているか否かを知るべく免疫組織化学的手法を用いて検討 を行った‐

    材料と方法

  正 常 膵 臓7例お よ び1996年か ら1998年 まで 手術 され た膵 癌33例を対 象と した .ま た,

比較検討対象として大腸癌7例,および胃癌3例を用いた.

  以上の材料を抗GDNF抗体,および抗Ret抗体(rabbit IgG polycronal antibody Santa Cruz社 製 )を 用い て免 疫組 織化 学的に 染色 した .大 腸10例お よび 胃癌10例 を比 較対 象群として 用いた.

  膵癌 組織 では 膵内 神経浸潤の程度,および膵外神経叢への浸潤の有無別に分類し,腫瘍 本 体( 非神 経浸 潤部 位) の癌細 胞, 神経 浸潤 部位 の癌細胞,および膵内神経のGDNF,Ret 発 現の 程度 を解 析し た. 各群の 陽性 率を 笂2検定 を用 いて検 索し ,pく0.05を 有意差あり とした.

(2)

    結 果

1正常 膵組織 の免 疫染 色結 果

  GDNFでは 全例 ,腺 房中 心細 胞, および すべ ての 導管 系の 上皮 細胞 ,すなわち介在部導 管 ,小 葉内 導管 ,小 薬間 導管 の上 皮細胞 が陽性反応を示した.膵内の神経は7例全てが陰 性 であ った .

  Retでは全 例, 腺房 中心 細胞 ,お よび すべての導管系の上皮細胞が陽性であった.膵内 の 神経 はす べて 陰性 であ った .

2.膵癌組織の免疫染色結果

  膵 癌 症 例 で は全 例 に 神経 浸潤 がみ られた .膵 内神 経浸 潤の 程度 は軽 度1例 ,中 等度14 例, 高度7例で あっ た. また ,膵 外神 経叢 への 浸潤は陽性例18例,陰性例15例であった.

  GDNF染 色: 腫瘍 本体 (非 神経浸 潤部 位) の癌 細胞では29例(880/0)で陽性を示した,神 経浸潤の認められた癌細胞も28例(85 010)で同様に陽性であった.神経線維束ではシュワン 細胞の胞体が陽性を示した,また,神経繊維|ま神経内の癌細胞の有無に関わらず28例(85 u/o) が陽 性で あっ た. これらの所見は,膵内神経浸潤の程度および膵外神経叢への浸潤の有無 に関わらず同様であった,

  Ret染色:腫瘍本体(非神経浸潤部位)の癌細胞でIま28例(85%)で陽性であった.神経 浸潤の認められた癌細胞は27例(82%)が陽性であった.神経繊維は25例(76%)が陽性であ った .ま たこ の所 見は,膵内神経浸潤の程度および膵外神経叢への浸潤の有無に関わらず 同様であった.

3.大腸癌・胃癌

  大 腸癌 およ び胃 癌組織では全症例で神経浸潤はみられなかった.癌細胞は全ての症例で GDNFお よ びRet陰 性 で あ っ た(0/10,0/10).ま た 神 経 束 も 全 例 陰 性 で あ っ た .

    考 察と まと め

  今回 の研 究で はま ず正 常膵組 織に おい てGDNFおよびRetの局在と分布を明らかにした,

膵 癌 細 胞 の 胞 体に はGDNFお よびRetが存 在した が, 発生 母地 が膵 管上 皮で ある こと を考 え ると ,膵 管上皮が癌化しても,癌細胞がこれらニつの物質を発現させる形質を残してい る もの と考 えら れた .

  ま た 正 常 膵 組 織 の 神 経 内 にGDNFお よ びRetは 発 現 し て い な か っ た が ,神 経 浸潤 陽性 膵 癌 症 例 の 膵 内 神 経 に は 発 現 し て い る こ とが 判明 した ,さ らに シュ ワン 細胞 がGDNF陽 性 であ りそ の陽 性率 は癌 細胞に よる 神経 浸潤 の程 度に よら ず約85% であった.膵内の神 経 は , 癌 細 胞 浸 潤 に よ る 損 傷 を 受 け た た めGDNFが 発現 した のか ,あ るい は何 らか の他 の 因子 の存 在下で発現したのかは不明である.しかし,胃癌,大腸癌症例のように神経浸 潤 が な い 症 例 で は , 神 経 内 にGDNFを 発 現 して いな いこ とか ら, 膵癌 の好 神経 浸潤 性と GDNFの 発 現 の 特 異 的 関 連 性 が 示 唆 さ れ た 。 本 来,GDNFは 神 経 栄 養 因 子 と し て の 効 果 を 持つ ので ,膵癌症例においては障害を受けた神経を機能的に保っため,あるいは修復す る ため に膵 内神 経にGDNFが発現 した 可能 性が ある ,

  Tomacら は 末梢 の シ ュ ワ ン 細 胞 で 産 生 さ れ たGDNFが 軸 索 突 起 に 取 り 込ま れ ,逆 行性

(3)

の神経軸索流によって中枢側に運ばれていくと報告しているが膵癌組織中においていずれ かの部位で神経が浸潤され,神経内に

GDNF

が発現すると軸索流により中枢方向へ運ば れる可能性がある.このことは浸潤を受けている膵癌組織で神経内の癌細胞の有無にかか わらず

GDNF

が陽性であったことを説明するかもしれない.また,膵癌の神経浸潤は神 経周膜腔内で神経束に沿って連続的に進展するのが特徴であり,GDNF が膵内神経の中 枢である膵頭神経叢,および腹腔神経叢へ向かって運ばれていくとすれば,神経内のGDNF に栄養されながら増殖する膵癌細胞が腹腔神経叢へ向かって浸潤していく機序のーつと考 えることができるものと思われた.

  

今後GDNF のより詳細な検索により膵癌神経叢浸潤の機序がさらに明確になり,治療

への展望をも開くことが期待される.

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨

学 位 論 文 題 名

ヒ ト 正 常 膵 組 織 お よ び 膵 癌 組 織 にお ける

GDNF(Glial cell line‑derived nuerotrophic factor) お よ び Ret の 発 現

  膵 癌 は 予 後 不 良 な 悪 性 腫 瘍 の ひ と つ で あ る . そ の 理 由 の ー っ と し て , 膵 癌 で は , 特 に 神 経 浸 潤 が 特 徴 的 で あ り , 神 経 浸 潤 の 先 端 部 が 腫 瘍 の 外 側 へ 伸 び る た め , 原 発 腫 瘍 を 除 去 し て も 癌 が 遺 残 し , 局 所 再 発 に っ な が り 予 後 を 不 良 に し て い る 可 能 性 が 高い ,

  膵 癌 が 神 経 に 沿 っ て 浸 潤 し て い く 特 徴 を 持 つ 理 由 は い ま だ 不 明 で あ る が 申 請 者 は , 神経栄養因子GDNF(Glial cell line‑derived neurotrophic factor)に注目した,この因子は TGFB (Trans‑forming Growth Factor口) スー ノヾ ーフ ァミ リー のー つで ,そ のReceptor Component RET (proto−oncogene c‑retの 遺伝 子産 物) を介 して その 効 果を 発揮する,申 請 者 は , 正 常 膵 組 織 と 膵 癌 組 織 に お け るGDNFお よ びRETの 存 在 お よ び 局 在 と 分 布 を 調 べ , さ ら に 膵 癌 に お い て 両 者 が 好 神 経 浸 潤 性 に 関 与 し て い る か 否 か を 知 る べ く 免疫 組織 化学 的 手法 を用 いて 検討 を行 った ,

  正 常 膵 臓7例 お よ び1996年 か ら1998年 ま で 手 術 さ れ た 膵 癌33例 を 対 象 と し た . また ,比 較検 討 対象 とし て大 腸癌7例 ,お よ び胃 癌3例を 用い た.

  以 上 の 材 料 を 抗GDNF抗 体 , お よ び 抗RET抗 体 を 用 い て 免 疫 組 織 化 学 的 に 染 色 し た , 膵 癌 組 織 で は 膵 内 神 経 浸 潤 の 程 度 , お よ び 膵 外 神 経 叢 へ の 浸 潤 の 有 無 別 に 分 類 し , 腫 瘍 本 体 ( 非 神 経 浸 潤 部 位 ) の 癌 細 胞 , 神 経 浸 潤 部 位 の 癌 細 胞 , お よ び 膵 内 神 経 のGDNF,RET発 現 の 程 度 を 解 析 し た . 各 群 の 陽 性 率 を 笂2検 定 を 用 い て 検 索 し , pく0.05を 有意 差水 準と した .

正 常 膵 組 織 の 免 疫 染 色 結 果 で は 全 例 , 腺 房 中 心 細 胞 , お よ び す べ て の 導 管 系 の 上 皮 細 胞 , す な わ ち 介 在 部 導 管 , 小 葉 内 導 管 , 小 葉 問 導 管 の 上 皮 細 胞 が そ れ ぞ れGDNF お よ びRETに 陽 性 反 応 を 示 し た . 膵 内 の 神 経iま7例 全 て が 両 者 に 陰 性 で あ っ た .   膵 癌 症 例 で は 全 例 に 神 経 浸 潤 が み ら れ た . 膵 内 神 経 浸 潤 の 程 度 は 軽 度12例 , 中 等 度14例 , 高 度7例 で あ っ た , ま た , 膵 外 神 経 叢 へ の 浸 潤 は 陽 性 例18例 , 陰 性 例15

郎 彦

和 敏

藤 嶋

加 長

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

例であった.

  GDNF染色:腫瘍本体(非神経浸潤部位)の癌細胞では29例(88u/0)で陽性を示し た.神経浸潤してる癌細胞も28例(85 u/o)で同様に陽性であった.神経繊維は神経内 の癌細胞の有無に関わらず28例(85 010)が陽性であった,これらの所見は,膵内神経 浸 潤 の 程 度 お よ び 膵 外 神 経 叢 へ の 浸 潤 の 有 無 に 関 わ ら ず 同 様 で あ っ た ,   RET染色:腫瘍本体(非神経浸潤部位)の癌細胞では28例(85%)で陽性であった.

神経浸潤している癌細胞は27例(82u/o)が陽性であった.神経繊維は25例(76%)が陽 性であった.またこの所見は,膵内神経浸潤の程度および膵外神経叢への浸潤の有 無に関わらず同様であった.

  大腸癌および胃癌組織では全症例で神経浸潤はみられなかった.癌細胞fま全ての 症例でGDNFおよびRET陰性であった(0/10,0/10).また神経束も全例陰性であった.

  今回 の研究では まず正常膵 組織においてGDNFおよびRETの局在と分布を明らか にし た.膵癌細 胞の胞体に はGDNFおよびRETが存在したが,発生母地が膵管上皮 であることを考えると,膵管上皮が癌化しても,癌細胞がこれらニつの物質を発現 させる形質を残しているものと考えられた.

  また 正 常膵 組織の 神経内にGDNFお よびRETは 発現してい なかったが ,神経浸 潤陽性膵癌症例の膵内神経には発現していることが判明した.さらにシュワン細胞 がGDNF陽 性でありそ の陽性率は 癌細胞によ る神経浸潤 の程度によらず約85%で あった.胃癌,大腸癌症例のように神経浸潤がない症例では,神経内にGDNFを発 現していないことから,膵癌の好神経浸潤性とGDNFの発現の特異的関連性が示唆 された。GDNFは逆行性の神経軸索流によって中枢側に運ばれていくという報告も あり,膵癌組織中においていずれかの部位で神経が浸潤され,神経内にGDNFが発 現すると軸索流により中枢方向へ運ぱれる可能性がある,膵癌の神経浸潤は神経周 膜腔内で神経束に沿って連続的に進展するのが特徴であり,GDNFが膵内神経の中 枢である膵頭神経叢,および腹腔神経叢へ向かって運ばれていくとすれぱ,神経内 のGDNFに栄養されながら増殖する膵癌細胞が腹腔神経叢ヘ向かって浸潤していく 機序のーつと考えることができるものと思われた.

    今後GDNFのより詳細な検索により膵癌神経叢浸潤の機序がさらに明確になり,

治療への展望をも開くことが期待される.

  口頭 発表におい て、岩永教 授より、ヒト膵臓におけるGDNF、RETの発現を他の 検索方法で調べてみてはどうか、両者の発現はautocrine的であるのかなどの質問が あり、また神経浸潤の組織像の解釈についての質問があった。次に長嶋教授よりRET のmutationについて、胆管癌の神経浸潤との違いについて、また神経内のGDNFの 発現の機序について質問があった。さらに膵管由来以外の膵癌についての質問があ った。最後に加藤教授より、胃癌と膵癌の腫瘍悪性度の違いはどこに求めるかの質 問があった。

  いずれの質問に対しても、申請者は妥当な回答をした。正常膵組織、目萃管癌、神 経組 織におけるGDNF、RETの発 現を明らかにし、治療への応用の可能性を示唆し た本研究の意義は大きく、審査員一同協議の結果、本論文は博士(医学)の学位授 与に値するものと判定した,

参照

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