Nonspecific esterase染色およびmyxovirus
resistance protein A免疫組織化学染色の皮膚筋炎
における診断的有用性
著者
鈴木 理恵
号
81
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
医博第3016号
URL
http://hdl.handle.net/10097/62343
すずき り
氏
名鈴木理恵
学位の種類博士(医学)
学位授与年月日
平成 24 年 3 月 27 日
学位授与の条件
学位規則第 4 条第 1 項
研究科専攻東北大学大学院医学系研究科(博士課程)医科学専攻
学位論文題目
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esterase 染色および myxovirus
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A 免疫組織化学染色の皮膚筋炎における診断的有用性
論文審査委員主査教授呉
繁夫
教授青木正志
教授相場節也
論文内容要旨
【背景】皮膚筋炎は、小児期から高齢期まで全年齢に発症する、最も多い特発性炎症性筋疾患の一 病型である。 臨床的には、近位筋優位の筋力低下に特有の皮膚症状を伴う。筋病理学的には、p
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(筋束周辺筋萎縮)と、血管周囲の単核細胞浸潤や血管壁の肥厚などの血 管の異常所見が特徴的である。また膜侵襲複合体 (membranea
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:
MAC) の筋内鞘の毛 細血管への沈着は、感度も特異度も高い皮膚筋炎の診断的指標であると報告されている。 本研究では、皮膚筋炎において非特異的エステラーゼ (nonspecifice
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:
NSE) 染色により 筋内血管の内皮細胞が染色される fNSE 陽性血管」に初めて着目した。通常の筋内血管は NSE 染色で は染色されず、 NSE 陽性血管についての報告はない。またインターフエロン・・・誘導蛋白質のひと つである myxovirusr
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(MxA) は、皮膚筋炎において筋線維や筋内血管に高率に 発現していることが報告されているが、皮膚筋炎における MxA の感度や特異度については報告がな いことから、検討を行った。 【目的】第一に、 NSE 陽性血管が、皮膚筋炎に特有の所見ではなし、かと仮説を立て、検証した。また、NSE
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MAC の感度、特異度、並びに精度を比較した。第二に、 perifascicular atrophy を伴わない皮膚筋炎例では、筋病理学的な診断的指標は知られていないことから、 perifascicular
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を伴わない例に NSE ・ MxA•
MAC の陽性例が存在するのかを検討した。【方法】(独)国立精神・神経医療研究センターの骨格筋レポジトリーから、典型的な臨床症状およ び、筋病理所見を呈する小児皮膚筋炎群 30 例、成人皮膚筋炎群 10 例、多発筋炎群 10 例、封入体筋炎 群 10 例、非炎症性筋疾患の対照群 (NSE には 530 例、 MxA ・ MAC には 124 例)を抽出した。各群にお ける NSE ・ MxA ・ MAC の陽性率を調べ、感度、特異度、精度を算出した。 NSE 陽性血管については、「単 核細胞浸潤を伴う NSE 陽性血管 j と「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管」、両者を含む「全ての NSE 陽性血管」を区別して評価した。また perifascicular atrophy を伴わなし \/J、児・成人皮膚筋炎 26 例についても NSE ・ MxA ・ MAC の陽性率を調べた。
【結果】「単核細胞浸潤を伴う NSE 陽性血管」は、小児・成人皮膚筋炎群のみではなく、多発筋炎群、 封入体筋炎群、対象群にも観察された。一方、「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管 J は、小児皮 膚筋炎群の 80.0弘および成人皮膚筋炎群の 70.0犯のみに認められた。また MxA および MAC の陽性例は、 小児・成人皮膚筋炎群のみで観察された。感度は、 MxA (75.0弘)や MAC (32.5弘)に比して、「全て の NSE 陽性血管」が 92.5怖と最も高かったD 特異度は、小児・成人皮膚筋炎群を多発筋炎群・封入体 筋炎群と比較すると MxA および MAC では 100.0% だ、ったが、「全ての NSE 陽性血管」では 75.0% であ った。しかし、「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管」の特異度は 100.0怖と、 MxA および MAC と同 等で、あった。 Perifascicular atrophy を伴わなし、小児・成人皮膚筋炎 26 例の検討では、「全ての NSE
可 4 F O O A
陽性血管」のある例は 38. 5弘、 MxA 陽性例は 19.2弘、 MAC 陽性例は 26. 仰を占めた。 Perifascicular atrophy を伴わない例で観察された NSE 陽性血管は、全て単核細胞浸潤を伴うもので、あった。 【考察】単核細胞浸潤を伴う血管は、非皮膚筋炎群においても NSE 陽性を示すため、「全ての NSE 陽 性血管」の特異度は低かった。一方、「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管」は、小児・成人皮膚 筋炎群に特異的で、あった。 NSE 陽性血管は、血管変性に伴う何らかのエステラーゼ活性の充進を反映 していると推察されるが、今後さらなる研究が必要である。 MxA と MAC は、両者ともに特異度は高か ったが、感度は NSE 陽性血管に比して低かった。 MxA と MAC の感度は、おそらく皮膚筋炎の病勢や病 期によっても異なると考えられた。また perifascicularatrophy を伴わなし、小児・成人皮膚筋炎例 にも、 NSE
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MxA
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MAC の陽性例が存在することから、これらの指標は筋病理診断の補助になる可能性が示唆された。さらに対象数を増やして NSE
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MxA ・ MAC の診断的有用性を検討することが、今後の課題である口 【結論}本研究では、 NSE 陽性血管が、小児・成人皮膚筋炎群で高率に観察される感度の高い所見で あることを初めて明らかにした D また「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管」および MxA の筋線 維と筋内血管への発現は、小児・成人皮膚筋炎群に特異的であることを示した。 Q U 9 “
[所定様式⑬No.l) 大学院の課程による者(課程博・医学)
審査結果の要
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日博士論文題目 ...NQg:印何迫~.~.$.t~x.~~~.染色およ.V.my':?ÇQyir~~.r~足前~.D:ç~.P切除民A免-疫
組織化主染.色り皮膚筋炎 i三おは.9診断的在思健一一一
所属専攻・分野名 医科学専攻・小児病態学 分野学籍番号一一一一一一一一一一一一一一一一一一一---一 氏名一一一一鈴本一一一理恵一一一
皮膚筋炎は、小児期から高齢期まで全年齢に発症する、最も多い特発性炎症性筋疾患の一病型である。 臨床的には、近位筋優位の筋力低下に特有の皮膚症状を伴う。筋病理学的には、 perifasciculara
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(筋束周辺筋萎縮)と、血管周囲の単核細胞浸潤や血管壁の肥厚などの血管の異常所見が特徴的である。 また膜侵襲複合体 (membranea
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(MxA) は、皮膚筋炎において筋線維や筋肉血管に高率に発現している ことが報告されているが、皮膚筋炎における MxA の感度や特異度については報告がないことから、検討 を行った。第一に、 NSE 陽性血管が、皮膚筋炎に特有の所見ではないかと仮説を立て、検証した。また、 NSE
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MAC の感度、特異度、並びに精度を比較した。第二に、 perifascicular atrophy を伴わない皮膚筋炎例 では、筋病理学的な診断的指標は知られていないことから、 perifascicular atrophy を伴わない例に NSE ・ MxA
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MAC の陽性例が存在するのかを検討した。(独)国立精神・神経医療研究センターの骨格筋レポジトリーから、典型的な臨床症状および筋病理 所見を呈する小児皮膚筋炎群 30 例、成人皮膚筋炎群 10 例、多発筋炎群 10 例、封入体筋炎群 10 例、非
炎症性筋疾患の対照群 (NSE には 530 例、 MxA
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MAC には 124 例)を抽出した。各群における NSE•
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MAC の陽性率を調べ、感度、特異度、精度を算出した。 NSE 陽性血管については、「単核細胞浸潤を伴う NSE 陽性血管」と「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管j 、両者を含む「全ての NSE 陽'性血管J を区別
して評価した。また peri
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atrophy を伴わない小児・成人皮膚筋炎 26 例についても NSE•
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MAC の陽性率を調べた。
「単核細胞浸潤を伴う NSE 陽性血管」は、小児・成人皮膚筋炎群のみではなく、多発筋炎群、封入体 筋炎群、対象群にも観察された。一方、「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管」は、小児皮膚筋炎群の 80.0先および成人皮膚筋炎群の 70.0% のみに認められた。また MxA および MAC の陽性例は、小児・成人皮 膚筋炎群のみで観察された。感度は、 MxA (75.0%) や MAC (32.5%) に比して、「全ての NSE 陽性血管」 が 92.5おと最も高かった。特異度は、小児・成人皮膚筋炎群を多発筋炎群・封入体筋炎群と比較すると MxA および MAC では 100.0% だったが、「全ての NSE 陽性血管」では 75.0% であった。しかし、「単核細胞 浸潤を伴わない NSE 陽性血管j の特異度は 100.0% と、 MxA および MAC と同等であった。 Perifascicular atrophy を伴わない小児・成人皮膚筋炎 26 例の検討では、「全ての NSE 陽性血管J のある例は 38. 問、 MxA 陽性例は 19. 2%、 MAC 陽性例は 26. 9% を占めた。 Perifascicular atrophy を伴わない例で観察された NSE 陽性血管は、全て単核細胞浸潤を伴うものであった。
単核細胞浸潤を伴う血管は、非皮膚筋炎群においても NSE 陽性を示すため、「全ての NSE 陽性血管」の 特異度は低かった。一方、「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管」は、小児・成人皮膚筋炎群に特異的 であった。 NSE 陽性血管は、血管変性に伴う何らかのエステラーゼ活性の克進を反映していると推察され るが、今後さらなる研究が必要である。 MxA と MAC は、両者ともに特異度は高かったが、感度は NSE 陽性 血管に比して低かった。 MxA と MAC の感度は、おそらく皮膚筋炎の病勢や病期によっても異なると考えら れた。また perifascicular atrophy を伴わない小児・成人皮膚筋炎例にも、 NSE
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MAC の陽性例がハ切
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存在することから、これらの指標は筋病理診断の補助になる可能性が示唆された。さらに対象数を増や して NSE ・ MxA. MAC の診断的有用性を検討することが、今後の課題である。
以上は、 NSE 陽性血管が、小児・成人皮膚筋炎群で高率に観察される感度の高い所見であることを初め て明らかにし、更に「単核細胞浸潤を伴わない NSE 陽性血管 J および MxA の筋線維と筋内血管への発現 は、小児・成人皮膚筋炎群に特異的であることを示した画期的な研究であり、学位論文としてのふさわ
しい内容である事を認める。